説明

シャント抵抗器の実装構造

【課題】シャント抵抗器を金属基板に実装し、ワイヤボンディングによる電圧検出配線の引出をするに際して、シャント抵抗器の有するインダクタンス成分による誤差電圧の発生をキャンセルできる実装構造を提供する。
【解決手段】シャント抵抗器1を搭載するための基板2と、該基板に形成され抵抗器1に電流を流すための一対のランド10a,10bと、基板に形成され抵抗器1とワイヤにより接続される一対のワイヤ接続部5a,5bとから構成される抵抗器を実装した構造であって、一対のワイヤ接続部5a,5bは、それぞれが一対のランド間における抵抗器1の側方に配置され、一のワイヤ6a(6b)は、他のワイヤ6b(6a)が接続される電圧検出配線4a(4b)またはその延長線(4e)を跨いで、前記抵抗器の電圧検出位置7a(7b)と電圧検出配線先端のワイヤ接続部5b(5a)との間に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抵抗体に流れる電流を検出するシャント抵抗器に係り、特にその基板への実装構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シャント抵抗器は検出電流の大電流化に伴い製品によっては抵抗値が1mΩ程度に低くなる傾向にあり、また検出電流のスイッチング速度が上がり、検出電流が高周波化する傾向にある。シャント抵抗器の抵抗体には例えば1nH程度とごく少量ではあるが必然的にインダクタンス成分が存在する。このため、抵抗値が低く、検出電流が高周波化している場合には、シャント抵抗器両端には抵抗成分による検出対象の電圧に加え、インダクタンス成分による電圧が重畳し、誤差電圧が発生する。
【0003】
この誤差電圧の発生を防止するため、シャント抵抗器を実装する基板に、両ランドの中心軸に沿ってそれぞれ内方に延び、両ランド間の中心軸に沿ってそれぞれ垂直方向に折れ曲がり、一方の配線がビアを介して基板裏面側に配置され、他方の配線が平行に基板表面側に配置される、一対の電圧検出配線を備えた実装基板が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、シャント抵抗器の大電流化に伴い、より放熱性に優れたアルミ等の金属基板が採用される場合など、ビア等を用いて基板の裏面に配線を形成できないことがある。また、電圧検出配線のランドからの引出に代えて、ワイヤボンディングによる電圧検出配線の引出が採用される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−121477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたもので、シャント抵抗器を金属基板に実装し、ワイヤボンディングによる電圧検出配線の引出をするに際して、シャント抵抗器の有するインダクタンス成分による誤差電圧の発生をキャンセルできる実装構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシャント抵抗器の実装構造は、シャント抵抗器を搭載するための基板と、該基板に形成され前記抵抗器に電流を流すための一対のランドと、前記基板に形成され前記抵抗器とワイヤにより接続される一対のワイヤ接続部とから構成される前記抵抗器を実装した構造であって、前記一対のワイヤ接続部は、それぞれが前記一対のランド間における前記抵抗器の側方に配置され、一のワイヤは、他のワイヤが接続される電圧検出配線またはその延長線を跨いで、前記抵抗器の電圧検出位置と電圧検出配線先端の前記ワイヤ接続部との間に接続されている、ことを特徴とする。
【0008】
前記一対のワイヤ接続部は、それぞれが前記抵抗器の両側の側方に配置される、ことが好ましい。また、前記一対のワイヤ接続部のそれぞれから前記電圧検出配線が導出され、一対の電圧検出配線の一方が、抵抗器の一方の側方から他方の側方に導出されている、ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例のシャント抵抗器実装構造の斜視図である。
【図2】上記構造における配線パターンの斜視図である。
【図3】本発明の変形実施例のシャント抵抗器実装構造の斜視図である。
【図4】上記構造における配線パターンの斜視図である。
【図5】従来例のシャント抵抗器実装構造の平面の説明図である。
【図6】上記構造の側面の説明図である。
【図7】(a)は電流パターン例を示すチャートであり、(b)は検出電圧のパターン例を示すチャートである。
【図8】図1に示すシャント抵抗器実装構造の平面の説明図である。
【図9】上記構造の側面の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至図9を参照して説明する。なお、各図中、同一または相当する部材または要素には、同一の符号を付して説明する。
【0011】
図1は本発明の一実施例のシャント抵抗器の実装構造を示し、図2はその配線パターンを示す。シャント抵抗器1を搭載するためのアルミ等の金属基板2には、該基板に形成され抵抗器1に電流を流すための配線パターン3a,3bと、配線パターン3a,3bにおけるシャント抵抗器1の実装部位である一対のランド10a,10bと、該基板に形成されシャント抵抗器1の両端に生じる電圧を検出する一対の電圧検出配線4a,4bを備える。シャント抵抗器1は、Cu−Mn系、Ni−Cr系などの金属材料を抵抗体とするものが一例としてあげられる。電圧検出配線4a,4bの先端にはパッド状のワイヤ接続部5a,5bを備え、ワイヤ接続部5a,5bとシャント抵抗器1の両端の電圧検出位置とがワイヤ6a,6bにより接続される。
【0012】
一対のワイヤ接続部5a,5bは、それぞれが一対のランド10a,10b間における抵抗器1の両側の側方に配置される。そして、一対のワイヤ接続部5a,5bのそれぞれから電圧検出配線4a,4bが導出され、一対の電圧検出配線の一方(4a)が、シャント抵抗器1の下面をくぐり、シャント抵抗器1の一方の側方から他方の側方に導出している。
【0013】
ワイヤ6aはシャント抵抗器の電圧検出位置7aから電圧検出配線4aを跨いでワイヤ接続部5bに接続され、ワイヤ6bは抵抗器の電圧検出位置7bから電圧検出配線4bの延長線4eを跨いでワイヤ接続部5aに接続される。すなわち、一のワイヤが他のワイヤが接続される電圧検出配線またはその延長線を跨いで、シャント抵抗器の電圧検出位置と電圧検出配線先端のワイヤ接続部との間に接続される。
【0014】
図3および図4は本発明の変形実施例の実装構造とその配線パターン例を示す。この実施例では、ワイヤ接続部5a,5bはシャント抵抗器1の片側の側方にのみ配置される。従って、ワイヤ6aはシャント抵抗器の電圧検出位置7aから電圧検出配線4aの延長線4eを跨いでワイヤ接続部5bに接続され、ワイヤ6bは抵抗器の電圧検出位置7bから電圧検出配線4bの延長線4fを跨いでワイヤ接続部5aに接続される。従って、この実施例においても、一のワイヤが他のワイヤが接続される電圧検出配線またはその延長線を跨いで、抵抗器の電圧検出位置と電圧検出配線先端のワイヤ接続部との間に接続されている。
【0015】
図1および図2に示す実施例と図3および図4に示す変形実施例では、一のワイヤが他のワイヤが接続される電圧検出配線またはその延長線を跨いで接続するという点で共通するが、ワイヤ接続部がシャント抵抗器1の両側に配置されるか、片側にのみ配置されるかという点で相違する。ワイヤ接続部がシャント抵抗器1の片側にのみ配置される場合には、両ワイヤが空間でクロスするため、それぞれのワイヤの高さを異ならせるように調整したり、絶縁被覆されたワイヤを使用したり、ワイヤがクロスする部分に絶縁材を介在させる等、両ワイヤが接触もしくはショートしないようにする必要がある。これに対して、ワイヤ接続部がシャント抵抗器1の両側に配置される場合には、両ワイヤがクロスすることが無く、ワイヤの高さ等ワイヤボンディングの自由度を高められる。
【0016】
次に、上記構造によるインダクタンス成分が発生する誤差電圧のキャンセルについて説明する。図5および図6は従来から一般的に採用されているシャント抵抗器の実装構造である。係る構造ではワイヤ6a,6bはそれぞれのシャント抵抗器の電圧検出位置7a,7bから直近のワイヤ接続部5a,5bに接続される。シャント抵抗器1には検出電流Iが流れ、電流Iに時間変化が無いと仮定すると、シャント抵抗器の抵抗値Rを乗じた電圧Vが電圧検出配線4a,4bから図示しない電圧検出回路に取り出される。
【0017】
しかしながら、図7(a)に示すように検出電流Iは一般にパルス状の電流であり、図5に示すように電流路の周りに磁束Φが形成され、この電流Iが時間変化すると、シャント抵抗器の有する自己インダクタンスLに基づく電圧VLが電圧検出位置7a,7b間に発生する。ワイヤ6a,6bには、ワイヤが磁束Φと鎖交することで、相互インダクタンスMに基づく電圧VMがシャント抵抗器の電圧検出位置とワイヤ接続部の間に発生する。
【0018】
ここで、電圧VLと電圧VMは同一の磁束Φに基づき形成されるが、回路接続としての電圧の向きが異なり互いにキャンセルする方向に作用する。従って、電圧検出配線4a,4b間には、電流Iの時間変化に基づき、
V=VL−2VM
の大きさの誤差電圧が重畳する(図5参照)。
【0019】
ところで、自己インダクタンスLに基づく電圧VLと相互インダクタンスMに基づく電圧VMは、それぞれの磁束鎖交量によって決まってくる。仮に、ワイヤ6a,6bが抵抗器1の軸線に平行に密着して配置されているとすると、単位長さあたりの磁束鎖交量は等しいため、単位長さあたりの発生電圧は等しくなる。しかしながら、ワイヤは抵抗器軸線から離れて張られるため、単位長さあたりの磁束鎖交量が減り、単位長さあたりの発生電圧が減少する。さらにワイヤの抵抗器軸線方向長さLMも抵抗器の電圧検出位置間長さLLと比較して短いため、相互インダクタンスMに基づく電圧VMは、自己インダクタンスLに基づく電圧VLに対して小さなものとなる。
【0020】
その結果、電圧検出配線4a,4b間に現れる磁束Φに基づく電圧Vは、
VL≫VMとなり、V=VL−2VM≫0となり、図7(b)に実線で示すように、電流が時間変化する部分で誤差電圧Vが発生する。なお、破線は誤差電圧が発生しないと仮定した時の抵抗器の抵抗成分Rのみに基づく電圧である。
【0021】
これに対して本発明の実施例では、一のワイヤが他のワイヤが接続される電圧検出配線またはその延長線を跨いで、抵抗器の電圧検出位置と電圧検出配線先端のワイヤ接続部との間に接続されていることで、2LM>LLの関係を実現できる。すなわち、図8および図9は本発明の図1および図2に示す実施例を図5および図6に示す従来例と対比した図である。図示するように、ワイヤの軸線方向実効長である抵抗器の電圧検出位置7a(7b)とワイヤ接続部5b(5a)との間の距離LMがそれぞれ自己インダクタンスLの実効長である電圧検出位置7a,7b間の距離LLの1/2を超えている(図8−9参照)。
【0022】
ワイヤは抵抗器軸線から離れて張られるため、その分鎖交磁束が減少し、単位長あたりの相互インダクタンスMは単位長あたりの自己インダクタンスLよりも小さくなる。しかしながら、上述のように2LM>LLの関係を実現できるので、ワイヤの軸線方向実効長で補うことができ、自己インダクタンスに基づく電圧VLを相互インダクタンスに基づく電圧2VMでキャンセルすることができる。これにより、電圧検出配線4a,4b間に現れる誤差電圧V(=VL−2VM)を、ゼロに近づけるか、或いはゼロを超して過補償にすることも可能である。すなわち、図7(b)における誤差電圧Vが減少し、誤差電圧Vがゼロとなる破線の位置近傍に調整することが可能となる。
【0023】
なお、図3および図4に示す変形実施例においても同様に2LM>LLの関係を実現できるので、同様に自己インダクタンスLに基づく電圧VLを相互インダクタンスMに基づく電圧2VMでキャンセルすることができる。但し、この場合、2本のワイヤをクロスさせる必要があるので、高さの調整をした場合は、その分単位長あたりの相互インダクタンスMが小さくなる。
【0024】
これに対し、図1および図2に示す実施例では、一対のワイヤ接続部5a,5bはそれぞれがシャント抵抗器1の両側の側方に配置される構造および一対のワイヤ接続部のそれぞれから電圧検出配線4a,4bが導出され、一対の電圧検出配線の一方(4a)が、シャント抵抗器1の一方の側方から他方の側方に導出されている構造を採用することで、上記ワイヤのクロスという問題を生ぜずワイヤボンディングの自由度を高めることができる。
【0025】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、シャント抵抗器の金属基板への実装に好適に利用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャント抵抗器を搭載するための基板と、該基板に形成され前記抵抗器に電流を流すための一対のランドと、前記基板に形成され前記抵抗器とワイヤにより接続される一対のワイヤ接続部と、該ワイヤ接続部に接続された電圧検出配線とから構成される前記抵抗器を実装した構造であって、
前記一対のワイヤ接続部は、それぞれが前記一対のランド間における前記抵抗器の側方に配置され、
一のワイヤは、他のワイヤのワイヤ接続部と接続された電圧検出配線またはその延長線を跨いで、前記抵抗器の電圧検出位置と電圧検出配線先端の前記ワイヤ接続部との間に接続されている、シャント抵抗器の実装構造。
【請求項2】
前記一対のワイヤ接続部は、それぞれが前記抵抗器の両側の側方に配置される、請求項1に記載のシャント抵抗器の実装構造。
【請求項3】
前記一対のワイヤ接続部のそれぞれから前記電圧検出配線が導出され、一対の電圧検出配線の一方が、抵抗器の一方の側方から他方の側方に導出されている、請求項1または2に記載のシャント抵抗器の実装構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−233706(P2012−233706A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100343(P2011−100343)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000105350)コーア株式会社 (201)
【Fターム(参考)】