説明

シャープペンシル

【課題】筆記圧による筆記芯の後退および前進動作(クッション動作)を利用して前記筆記芯を徐々に回転させる回転駆動機構を備えたものにおいて、前記クッション動作に伴って発生する筆記の違和感を緩和させること。
【解決手段】筆記芯を把持するチャック4と共に、軸筒1内において回転方向および軸方向に移動可能に構成された回転子6が具備されている。回転子の軸方向の一端面および他端面に第1と第2のカム面6a,6bがそれぞれ形成されると共に、前記第1と第2のカム面にそれぞれ対峙するように前記軸筒側に配置された第1と第2の固定カム面13a,14aが具備されて筆記芯の回転駆動機構が形成されている。筆記圧による前記クッション動作に対して、ストッパー16とトルクキャンセラー17との間に介在された粘着性グリース19によりダンピング効果が与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筆記圧を利用して筆記芯(替え芯)を回転させることができるシャープペンシルに関する。
【背景技術】
【0002】
シャープペンシルによって筆記を行う場合には、一般的には軸筒を筆記面(紙面)に対して直交状態で使用することなく、筆記面に対して若干傾けた状態で使用される場合が多い。この様に軸筒を傾けた状態で筆記した場合においては、書き進むにしたがって筆記芯が偏摩耗(片減り)するために、描線が書き始めに比較して太くなるという現象が発生する。また描線の太さが変るだけでなく、筆記面に対する筆記芯の接触面積が変るために、書き進むにしたがって描線の濃さも変化する(描線が薄くなる)現象が発生する。
【0003】
前記した問題を回避するには、軸筒を回転させつつ筆記するようにすれば、筆記芯の尖っている側が順次紙面に接して筆記されるので、前記したように描線が筆記にしたがって太くなるなどの問題を避けることができる。しかしながら、軸筒を回転させつつ筆記しようとすれば、筆記の進行にしたがって軸筒を持ち直す操作が必要であるという煩わしさが発生し、筆記の能率を著しく落とすとことになる。
【0004】
この場合、軸筒の外装が円筒状に形成されている場合においては、軸筒を持ち直して順次回転させつつ筆記をすることは不可能ではないものの、その外装が円筒状ではなく中腹に突起の付いたデザインであったり、またサイドノック式のシャープペンシルである場合、前記したように軸筒を順次回転させるように持ち直して筆記することも困難となる。
【0005】
そこで、前記したような問題を解消するために、筆記芯を把持するチャックが筆記圧を受けて後退するように構成し、この後退動作を利用して前記チャックと共に前記筆記芯を回転させる回転駆動機構を備えたシャープペンシルが特許文献1および2などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3882272号公報
【特許文献2】特許第3885315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記した特許文献1および2に開示されたシャープペンシルによると、軸筒内に縦突起と縦溝とが交互に配置され、これらに跨がるように傾斜面を備えたカム部が環状に形成されている。また軸筒内にはその周方向に間欠的に突起を形成した回転子が収容されている。そして、筆記芯を大きく後退させることにより前記回転子を押し上げ、回転子の突起が軸筒内の前記カム部に形成された縦突起を乗り上げ、前記傾斜面を経て隣の縦溝に落ち込むのを利用して回転子を回転せしめ、前記回転子の回転に連動して筆記芯を回転駆動させるように構成されている。
【0008】
前記したシャープペンシルによると、回転子を回転させるにあたって、軸筒内に形成された縦突起を回転子側の突起が乗り越えるに必要な筆記芯の大きな後退ストロークが必要である。このために、筆記により芯が片減りした場合には、通常の筆記圧以上の圧力を筆記芯に加えて回転子を軸筒内で後退させることで、回転子側の突起が軸筒内に形成された前記縦突起を乗り越えるようにさせる特別の操作が必要となる。この操作は芯が片減りする度に比較的頻繁に行う必要があるため、筆記の能率を落とすという問題が残される。
【0009】
そこで、本件出願人は前記した特許文献1および2に開示されたシャープペンシルの問題点を解消するために、筆記に伴う筆記芯のわずかな後退および前進動作(これを以下において、クッション動作ともいう。)を利用して、筆記芯を回転駆動させるシャープペンシルを、特願2006−156252として出願している。
【0010】
前記出願にかかるシャープペンシルにおいては、円筒状に形成された回転子の各端面に第1と第2のカム面が形成され、筆記圧による前記回転子の後退動作によって、前記第1のカム面が、第1の固定カム面に当接して噛み合わされるようになされる。また筆記圧の解除による回転子の前進動作によって、前記第2のカム面が、第2の固定カム面に当接して噛み合わされるようになされる。
【0011】
そして、前記各カムの往復の噛み合わせにより、回転子が一方向に順次回転させるようになされ、この回転動作が筆記芯を把持するチャックを介して筆記芯に伝達されるように構成されている。
【0012】
前記した構成によると、筆記に伴う芯の後退量(クッション動作量)を0.05〜0.5mm程度に設定することで、筆記芯を順次回転駆動させることが可能であり、これにより筆記の能率を低下させることのない実用性に優れたシャープペンシルを提供することができる。
【0013】
ところで、前記した構成によるシャープペンシルにおいては、筆記に伴い芯が前記したクッション動作を伴うために、独特の違和感が発生することが発明者らの試作および検証結果において確認されている。特に筆記圧の解除により前記回転子を前進動作させるコイル状のバネ部材を用いた場合には、筆記芯のクッション動作に「ヘコヘコ」した感じがつきまとい、また前記バネ部材による戻り動作において「カチャカチャ」する感触も発生する。
【0014】
その原因としては、筆記芯に一定の加重(筆記圧)が加わった時に、突然クッション動作することが挙げられる。また、筆記圧が解除された時における前記バネ部材による戻り動作のスピードが速く、このためにペンを浮かせた瞬間において、紙面をペン先(筆記芯)が追従するという動作が発生する。したがって、いわゆるハネやハライなどの筆記操作を行った時に、ペン先を浮かせたつもりでも思ったところで筆記が終わらないという挙動が発生し、これらが相乗して前記した独特の違和感になるものと考えられる。
【0015】
前記した独特の違和感を緩和させるために、バネ定数を適宜選定したり、セット荷重を変化させるなどの工夫を施すことで多少の改善効果が得られることは確認できたものの、このような工夫の範疇においては前記違和感の緩和について満足する結果を得ることは困難である。
【0016】
この発明はクッション動作を利用して筆記芯を回転駆動させるシャープペンシルの前記した問題点に着目してなされたものであり、前記したクッション動作に伴って発生する前記違和感を効果的に緩和させることができるシャープペンシルを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記した課題を解決するためになされたこの発明にかかるシャープペンシルは、軸筒内に配設されたチャックの前後動により筆記芯の解除と把持を行うことで、前記筆記芯を前方に繰り出すことができるように構成され、前記チャックが前記筆記芯を把持した状態で軸芯を中心にして回転可能となるように前記軸筒内に保持されると共に、前記筆記芯が受ける筆記圧により回転子を回転駆動させる回転駆動機構が具備され、前記回転子の回転運動を前記筆記芯に伝達するように構成したシャープペンシルであって、前記筆記芯の筆記圧を受けて、当該筆記芯と共に軸方向に移動動作する可動部材と、前記可動部材の移動面に対峙した固定部材との間に粘着性媒体が介在され、前記粘着性媒体により、前記可動部材と前記固定部材との間にダンパー機能を持たせた点に特徴を有する。
【0018】
この場合、前記粘着性媒体として、好ましくは粘着性グリースを用いた構成にされる。
【0019】
そして、前記回転駆動機構の好ましい形態は、これを構成する回転子が円環状に形成されて、その軸方向の一端面および他端面に第1と第2のカム面がそれぞれ形成されると共に、前記第1と第2のカム面にそれぞれ対峙するように前記軸筒側に配置された第1と第2の固定カム面が具備され、前記筆記圧による前記チャックの後退動作によって、前記円環状回転子における第1のカム面が、前記第1の固定カム面に当接して噛み合わされ、前記筆記圧の解除により前記円環状回転子における第2のカム面が、前記第2の固定カム面に当接して噛み合わされるように構成され、前記回転子側の第1カム面が、前記第1の固定カム面に噛み合わされた状態において、前記回転子側の第2カム面と前記第2の固定カム面が、軸方向においてカムの一歯に対して半位相ずれた関係に設定され、前記回転子側の第2カム面が、前記第2の固定カム面に噛み合わされた状態において、前記回転子側の第1カム面と前記第1の固定カム面が、軸方向においてカムの一歯に対して半位相ずれた関係に設定される。
【0020】
この場合、前記筆記圧が解除された状態において、前記円環状回転子における第2のカム面を、前記第2の固定カム面に当接させて噛み合わせ状態に付勢するバネ部材が具備されていることが望ましい。
【0021】
さらに前記した構成に加えて、前記回転子の後端部と前記バネ部材との間に、円筒状に形成されて前記回転子の後端部との間において滑りを発生させるトルクキャンセラーが介在され、前記回転子の回転運動が前記バネ部材に伝達されるのを阻止するように構成されていることが望ましい。
【0022】
この場合、一つの好ましい形態においては、前記トルクキャンセラーを、筆記芯と共に軸方向に移動動作する前記可動部材として利用することで、トルクキャンセラーを前記ダンパー機能の一部を兼ねた構成にすることができる。
【発明の効果】
【0023】
前記したこの発明にかかるシャープペンシルによると、筆記圧を受けることにより回転子が軸方向に往復移動して回転駆動され、前記回転子の回転運動はチャックを介して筆記芯に伝達される。したがって、書き進むにしたがって筆記芯が偏摩耗するのを防止させることができ、描線の太さや描線の濃さが大きく変化するという問題を解消させることができる。
【0024】
加えて、粘着性グリースに代表される粘着性媒体を利用して、前記筆記芯の後退および前進動作にダンパー機能を付与した構成にされているので、筆記芯の急激な軸方向への移動動作には大きな粘性抵抗が発生し、比較的緩慢に動く静的な荷重に対しては粘性抵抗は非常に小さくなる。これにより、ペン先と紙面との接触時の衝撃を筆圧、筆記速度に応じて効果的に緩和させることが可能となる。
【0025】
それ故、すでに説明したように筆記芯のクッション動作に「ヘコヘコ」した感じが生ずる点、およびバネ部材による戻り動作において「カチャカチャ」する感触が生ずる点などの問題を解消することができ、筆記に伴う前記した独特の違和感の発生を効果的に抑制したシャープペンシルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明にかかるシャープペンシルの前半部の一部を破断して示した斜視図である。
【図2】同じく一部を断面状態で示した側面図である。
【図3】同じシャープペンシルについてさらに後部寄りまで示した一部を断面状態で示した側面図である。
【図4】図1〜図3に示す実施の形態に搭載された回転子の回転駆動作用を順を追って説明する模式図である。
【図5】図4に続く回転子の回転駆動作用を説明する模式図である。
【図6】図1〜図3に示す実施の形態における全体構成を一部を断面状態で示した側面図である。
【図7】同じく後半部を拡大して示した断面図である。
【図8】図3におけるA部分に形成されたダンパー機能部を拡大して示した断面図である。
【図9】同じくダンパー機能部の構成要素を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明にかかるシャープペンシルについて図に示す実施の形態に基づいて説明する。図1および図2はこの発明の主要部を占めるシャープペンシルの前半部を示したものであり、図1はその主要部を破断して示した斜視図であり、また図2は左半部を断面状態で示した側面図である。
【0028】
符号1はその外郭を構成する軸筒を示しており、符号2は前記軸筒1の先端部に取り付けられた口先部を示している。前記軸筒1内の中心部には筒状の芯ケース3が同軸状に収容されており、この芯ケース3の先端部にはチャック4が連結されている。このチャック4は、その軸芯に沿って通孔4aが形成され、また先端部が三方向に分割されて、分割された先端部がリング状に形成された締め具5内に遊嵌されるようにして装着されている。そして、リング状の前記締め具5は前記チャック4の周囲を覆うようにして配置された円筒状に形成された回転子6の先端部内面に装着されている。
【0029】
前記口先部2より突出するようにして先端パイプ7が配置されており、この先端パイプ7の基端部は前記口先部2内に位置する中間部材としての支持部材8の先端部内面に嵌合されている。前記支持部材8は、その基端部(後端部)側が大径となるように円筒部が連続した階段状に形成されており、その基端部内面は前記した回転子6の先端部における周側面に嵌合されている。そして、前記先端パイプ7を支持する支持部材8における内周面には、軸芯部分に通孔9aを形成したゴム製の保持チャック9が収容されている。
【0030】
前記した構成により、芯ケース3よりチャック4内に形成された通孔4a、前記保持チャック9の軸芯に形成された通孔9aを介して、前記先端パイプ7に至る直線状の芯挿通孔が形成されており、この直線状の芯挿通孔内に図示せぬ筆記芯(替え芯)が挿通される。そして、前記した回転子6とチャック4との間の空間部には、コイル状のリターンバネ10が配置されている。なお前記リターンバネ10の一端部(後端部)は前記芯ケース3の端面に、また前記リターンバネ10の他端部(前端部)は回転子6内に形成された環状の端面に当接した状態で収容されている。したがって前記リターンバネ10の作用により、回転子6内のチャック4は後退する方向に付勢されている。
【0031】
図に示すシャープペンシルにおいては、軸筒1の後端部に配置された後述するノック部をノック操作することで、前記芯ケース3が軸筒1内において前進し、チャック4の先端部が締め具5から突出することで筆記芯の把持状態が解除される。そして、前記ノック操作の解除により、リターンバネ10の作用により芯ケース3およびチャック4は軸筒1内において後退する。
【0032】
この時、筆記芯は保持チャック9に形成された通孔9aにおいて保持される。この状態でチャック4は後退してその先端部が前記締め具5内に収容されることで、筆記芯を再び把持状態にする。すなわち、前記したノック部のノック操作の繰り返しによるチャック4の前後動により筆記芯の解除と把持が行われ、これにより筆記芯はチャック4から順次前方に繰り出されるように作用する。
【0033】
図1に示す前記した回転子6は、その軸方向の中央部が径を太くした太径部になされ、その太径部の一端面(後端面)には第1のカム面6aが形成されており、太径部の他端面(前端面)には第2のカム面6bが形成されている。一方、前記回転子6の後端部には、円筒状の上カム形成部材13が回転子6の後端部を覆うようにして軸筒1内に取り付けられており、前記上カム形成部材13の前端部には、前記回転子6における第1のカム面6aに対峙するようにして固定カム面(第1の固定カム面ともいう。)13aが形成されている。
【0034】
さらに、図1においては図示が省略され、図2に示されているが、前記回転子6における第2のカム面6bに対峙するようにして軸筒1側に円筒状の下カム形成部材14が取り付けられ、その軸方向の後端部には固定カム面(第2の固定カム面ともいう。)14aが形成されている。なお、前記回転子6に形成されている第1と第2のカム面6a,6bと、前記第1の固定カム面13a、第2の固定カム面14aとの関係および相互の作用については、図4および図5に基づいて後で詳細に説明する。
【0035】
図3は、図1および図2に示したシャープペンシルについて、さらに後部寄りまで示したものであり、図1および図2に示した代表的な部分を同一符号で示している。図3に示すように円筒状に形成された上カム形成部材13の後端部内面には、円筒状のストッパー16が嵌合されており、このストッパー16の前端部と、円筒状に形成され軸方向に移動可能なトルクキャンセラー17との間にはコイル状のバネ部材18が装着されている。
【0036】
前記バネ部材18は、前記トルクキャンセラー17を前方に付勢するように作用し、この付勢力を受けた前記トルクキャンセラー17に押されて前記回転子6は前方に向かうように構成されている。
【0037】
前記した構成によると、チャック4が筆記芯を把持した状態で、前記回転子6はチャック4と共に軸芯を中心にして回転可能となるように前記軸筒1内に収容されている。そして、シャープペンシルが不使用の状態(筆記状態以外の場合)においては、前記バネ部材18の作用により前記トルクキャンセラー17を介して回転子6は前方に付勢されていて、図1〜図3に示す状態になされる。
【0038】
一方、シャープペンシルを使用した場合、すなわち先端パイプ7から突出している図示せぬ筆記芯に筆記圧が加わった場合には、前記チャック4はバネ部材18の付勢力に抗して後退し、これに伴って回転子6も軸方向に後退する。したがって、図1および図2に示す回転子6に形成されている第1のカム面6aは前記第1の固定カム面13aに接合して噛み合い状態になされる。
【0039】
図4の(A)〜(C)および図5の(D),(E)は、前記した動作により回転子6を回転駆動させる回転駆動機構の基本動作を順を追って説明するものである。図4および図5において、符号6は前記した回転子を模式的に示したものであり、その一端面(図の上側の面)には、周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1のカム面6aが円環状に形成されている。また回転子6の他端面(図の下側の面)にも、同様に周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2のカム面6bが円環状に形成されている。
【0040】
一方、図4および図5に示すように、上カム形成部材13の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1の固定カム面13aが形成されており、下カム形成部材14の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2の固定カム面14aが形成されている。
【0041】
そして、回転子に形成された第1のカム面6a、第2のカム面6b、上カム形成部材13に形成された第1の固定カム面13a、下カム形成部材14に形成された第2の固定カム面14aの周方向に沿って鋸歯状に形成された各カム面は、そのピッチが互いにほぼ同一となるように形成されている。なお、図4および図5における回転子6の中央部に描いた○印は、回転子6の回転移動量を示している。
【0042】
図4(A)は、シャープペンシルが不使用の状態(筆記状態以外の場合)における上カム形成部材13、回転子6、下カム形成部材14の関係を示したものである。この状態においては、回転子6に形成された第2のカム面6bは軸筒1に取り付けられた下カム形成部材14の第2の固定カム面14a側に、図3に示したバネ部材18の付勢力により当接されている。この時、前記回転子6側の第1カム面6aと前記第1の固定カム面13aが、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0043】
図4(B)は、シャープペンシルの使用により筆記芯に筆記圧が加わった初期の状態を示しており、この場合においては、前記したとおり回転子6はチャック4の後退に伴って、前記バネ部材18を収縮させて軸方向に後退する。これにより、回転子6は軸筒1に取り付けられた上カム形成部材13側に移動する。
【0044】
図4(C)は、シャープペンシルの使用により筆記芯に筆記圧が加わり、回転子6が上カム形成部材13側に当接して後退した状態を示しており、この場合においては回転子6に形成された第1カム面6aが、上カム形成部材13側の第1の固定カム面13aに噛み合う。これにより回転子6は第1カム面6aの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を受ける。そして図4(C)に示す状態においては、前記回転子6側の第2カム面6bと前記第2の固定カム面14aが、軸方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
【0045】
次に図5(D)は、シャープペンシルによる筆記が終わり、筆記芯に対する筆記圧が解かれた初期の状態を示しており、この場合においては、前記したバネ部材18の作用により回転子6は軸方向に前進する。これにより、回転子6は軸筒1に取り付けられた下カム形成部材14側に移動する。
【0046】
さらに図5(E)は、前記したバネ部材18の作用により、回転子6が下カム形成部材14側に当接して前進した状態を示しており、この場合においては回転子6に形成された第2カム面6bが、下カム形成部材14側の第2の固定カム面14aに噛み合う。これにより回転子6は第2カム面6bの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を再び受ける。
【0047】
したがって、回転子6の中央部に描いた○印で示すように、筆記圧を受けた回転子6の軸方向への往復運動に伴って回転子6は、第1および第2カム面6a,6bの一歯(1ピッチ)に相当する回転駆動を受け、チャック4を介して、これに把持された筆記芯10も同様に回転駆動される。
【0048】
前記した構成のシャープペンシルによると、筆記による回転子6の軸方向への往復動により、回転子はその都度カムの一歯に対応する回転運動を受け、この繰り返しにより筆記芯は順次回転駆動される。それ故、書き進むにしたがって筆記芯が偏摩耗するのを防止させることができ、描線の太さや描線の濃さが大きく変化するという問題を解消することができる。
【0049】
さらに、前記した構成のシャープペンシルによると、口先部2より突出して配置された筆記芯を案内する先端パイプ7は、中間部材として機能する支持部材8を介して前記回転子6の先端部に嵌合されているので、筆記動作に伴う前記したチャック4の後退および前進動作に伴い、先端パイプ7は支持部材8を介して同方向に移動する。したがって筆記動作に伴い、筆記芯がわずかに前後動(クッション動作)しても、筆記芯を案内する先端パイプも同方向に移動するので、先端パイプと筆記芯との間において軸方向の相対移動が生ずることはなく、先端パイプからの筆記芯の出寸法を一定に保つことができる。
【0050】
また、先端パイプ7は支持部材8を介して前記回転子6に結合されているので、筆記芯が回転運動を受けた場合に、先端パイプも同様に回転運動を受けることになり、先端パイプ7と筆記芯は一体となって回転することになる。
【0051】
したがって、前記した構成のシャープペンシルによると、筆記中において口金部材もしくは先端パイプからの筆記芯の出寸法がその都度変化して使用者に対して違和感を与えるという問題を解消させることができる。さらに先端パイプからの筆記芯の出寸法の変化により先端パイプにおいて芯を切削することによる芯折れの発生を防止させることができ、また芯の削りかすにより筆記面を汚染させるという問題も解消することができる。
【0052】
なお、前記したコイル状のバネ部材18の付勢力を受けて回転子6を前方に押し出す円筒状のトルクキャンセラー17は、このトルクキャンセラー17の前端面と前記回転子6の後端面との間ですべりを発生させて、筆記作用の繰り返しにより生ずる前記回転子6の回転運動を、バネ部材18に伝達させるのを防止させるように作用する。
【0053】
換言すれば、前記回転子6とバネ部材18との間に、円筒状に形成されたトルクキャンセラー17が介在されることにより、前記回転子の回転運動が前記バネ部材に伝達されるのを阻止するように作用し、バネ部材18の捩じれ戻り(バネトルク)が発生することで、回転子6の回転動作に障害を与えるという問題を解消させることができる。
【0054】
図6および図7は、前記した機能を備えたシャープペンシルの全体構成およびその後半部を拡大して示したものであり、図6は左半部を断面状態で示した側面図で示し、また図7は全体断面図で示している。なお、図6および図7においては、すでに説明した各図に示された代表的な部分を同一符号で示している。
【0055】
図6および図7に示すように、軸筒1の後端部側内面における軸筒1と芯ケース3との間には円筒状に形成されたノック棒21が収容されている。このノック棒21は、その前端部において、前記したストッパー16の後端部との間に配置されたコイル状のバネ部材22によって後方に付勢されるように構成されている。また軸筒1の後端部においてクリップ23を一体に形成した筒体部23aが軸筒1内に嵌め込まれており、この筒体部23a内に形成された図7に示す段部23bによって、前記ノック棒21が軸筒1の後端部側に抜け出るのを阻止するように構成されている。
【0056】
前記ノック棒21の後端部は、前記筒体部23aの後端部よりも若干後方に突出した構成にされており、前記ノック棒21の後端部内面空間には消しゴム24が収容されている。そして前記消しゴム24を覆うようにしてノック部を構成するノックカバー26がノック棒21の後端部外周面を覆うようにして着脱可能に取り付けられている。
【0057】
一方、ノック棒21における後端部の直前には、図7に示すようにノック棒21の内径よりも小径となる筆記芯の補給口27が形成されており、図6に示すように前記補給口27の前端部が前記芯タンク3の後端部にわずかなギャップGをもって対峙した構成にされている。すなわち、この実施の形態においては、芯タンク3は前記ノック棒21に機械的に連結されることなく、前記ギャップGの位置において分離されている。
【0058】
以上の構成において、前記ノックカバー26のノック操作を行うと、ノック棒21を介して前記補給口27の前端部が芯タンク3の後端部に当たり、そのまま芯タンク3を前方に押し出すように作用する。これにより、前記したとおりチャック4が前進して筆記芯を先端パイプ7より繰り出させるように作用する。そして前記したノック操作の解除によりノック棒21は、バネ部材22の作用により後退し、ノック棒21はクリップ23を支持する筒体部23aの内面に形成された段部23bによって係止される。
【0059】
前記した構成によると、ノック棒21の後端部側に形成された筆記芯補給口27の前端部と、前記芯タンク3の後端部との間にギャップGが形成されているので、筆記によるチャック4および芯ケース3の後退動作においても、芯ケース3の後端部が前記補給口27の前端部に衝突することはない。そして、前記ギャップGの存在により、前記した回転駆動機構による芯ケース3の回転動作がノックカバー26側に伝達されることはない。
【0060】
換言すれば、たとえノックカバー26を指先等により回転させても、芯ケース3を介して回転動作が前記した回転駆動機構に伝達されることはなく、無闇にノックカバー26を回転させるなどして回転駆動機構に障害を与えるという問題を解消することができる。
【0061】
さらに前記したギャップGを形成することにより、軸筒の後端部に突出している前記ノックカバー26が何かに接触しているような場合においても、筆記芯を回転駆動させる前記回転駆動機構の機能を停止させるという問題を解消することができる。
【0062】
ところで、前記した構成によるシャープペンシルにおいては、筆記圧を受けた筆記芯のクッション動作を利用して回転子を回転せしめ、これにより筆記芯を一方向に回転駆動させるものである。このために、すでに説明したとおりクッション動作に伴つて「ヘコヘコ」または「カチャカチャ」した感じが付きまとい、感触が悪いという問題が残される。
【0063】
図8および図9は、前記した問題を解消させるための一つの対策例を示すものであり、すでに説明したストッパー16とトルクキャンセラー17との間においてダンパー機能を形成する例を示したものである。すなわち、図8は図3に示すA部分について拡大断面図で示したものであり、同一部分をそれぞれ同一符号で示している。なお、図8においては外郭を構成する軸筒1の記載は省略している。また図9は、図8に示されたトルクキャンセラー17、バネ部材18、およびストッパー16を含む部分構成を斜視図で示したものである。
【0064】
図8に示すように円筒状に形成されたストッパー16は、上カム形成部材13の後端部に嵌合されており、円筒状に形成されたトルクキャンセラー17は、前記ストッパー16の内周面において軸方向に摺動するように配置されている。そして、ストッパー16とトルクキャンセラー17との間にはバネ部材18が介在されて、バネ部材18によってトルクキャンセラー17を回転子6側に付勢するように構成されている。
【0065】
したがって、前記構成においてはトルクキャンセラー17は、筆記芯の筆記圧を受けて、当該筆記芯と共に軸方向に移動動作する可動部材として機能し、ストッパー16は、前記可動部材(トルクキャンセラー17)の移動面に対峙した固定部材として機能する。
【0066】
そして、図8および図9に示したように前記可動部材の移動面、すなわちトルクキャンセラー17の周側面17aと、これに対峙した前記固定部材、すなわちストッパー16との間には符号19で示した粘着性媒体が介在され、これによりダンパー機能を構成している。
【0067】
前記粘着性媒体19としては、好ましくは粘着性グリースが用いられる。これはシャープペンシルの組み立て工程時において図9(A)に示すようにトルクキャンセラー17の周側面17aに沿って塗布し、この状態でトルクキャンセラー17を図9(B)に示すようにストッパー16の内周面に装着することで、粘着性グリースをトルクキャンセラー17とストッパー16との間に介在させることができる。
【0068】
前記した構成によると、筆記動作に伴う前記筆記芯の後退および前進動作にダンパー機能を持たせることができる。この場合、前記した実施の形態において用いる前記粘着性グリースとしては、そのちょう度が100〜400の範囲のものを用いることが望ましく、前記粘着性グリースとしては、例えば信越化学工業社製の商品名「信越シリコーングリース」品番:G330〜334,G340〜342,G351〜353,G631〜633を好適に利用することができる。
【0069】
これにより、発明の効果の欄においてすでに説明しているとおり、筆記芯の急激な軸方向への移動動作には大きな粘性抵抗が付与され、比較的緩慢に動く静的な荷重に対しては粘性抵抗が非常に小さくなるダンパー機能を与えることができる。
【0070】
したがって、ペン先と紙面との接触時の衝撃を筆圧、筆記速度に応じて効果的に緩和させることが可能となり、筆記芯のクッション動作に「ヘコヘコ」した感じが生ずる点、およびバネ部材による戻り動作において「カチャカチャ」する感触が生ずる点などの問題を解消することができ、筆記に伴う独特の違和感の発生を効果的に抑制したシャープペンシルを提供することが可能となる。
【0071】
なお、以上説明した実施の形態においては、筆記芯の筆記圧を受けて、筆記芯と共に軸方向に移動動作する可動部材として、トルクキャンセラー17を利用し、前記可動部材の移動面に対峙した固定部材として、ストッパー16を利用して、両者間に粘着性グリースを介在させた構成にしているが、前記可動部材として例えば前記した回転子6を利用し、固定部材として前記した上カム形成部材13もしくは下カム形成部材14を利用して、両者間に粘着性グリースを介在させた構成としても同様の作用効果を得ることができる。
【0072】
また、以上の説明においてはダンパー機能を付与する粘着性媒体として粘着性グリースを用いた例を示しているが、これに代えて、ひまし油等の高粘度油、液状ゴム、低分子量樹脂、粘土等の粘着性媒体を用いることもできる。
【符号の説明】
【0073】
1 軸筒
2 口先部
3 芯ケース
4 チャック
5 締め具
6 回転子
6a 第1カム面
6b 第2カム面
6c 表示部
7 先端パイプ
8 支持部材
9 保持チャック
10 リターンバネ
13 上カム形成部材
13a 第1固定カム面
14 下カム形成部材
14a 第2固定カム面
16 ストッパー(固定部材)
17 トルクキャンセラー(可動部材)
17a 周側面(可動部材の移動面)
18 バネ部材
19 粘着性グリース(粘着性媒体)
21 ノック棒
22 バネ部材
23 クリップ
26 ノックカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に配設されたチャックの前後動により筆記芯の解除と把持を行うことで、前記筆記芯を前方に繰り出すことができるように構成され、前記チャックが前記筆記芯を把持した状態で軸芯を中心にして回転可能となるように前記軸筒内に保持されると共に、前記筆記芯が受ける筆記圧により回転子を回転駆動させる回転駆動機構が具備され、前記回転子の回転運動を前記筆記芯に伝達するように構成したシャープペンシルであって、
前記筆記芯の筆記圧を受けて、当該筆記芯と共に軸方向に移動動作する可動部材と、前記可動部材の移動面に対峙した固定部材との間に粘着性媒体が介在され、前記粘着性媒体により、前記可動部材と前記固定部材との間にダンパー機能を持たせたことを特徴とするシャープペンシル。
【請求項2】
前記粘着性媒体が、粘着性グリースであることを特徴とする請求項1に記載されたシャープペンシル。
【請求項3】
前記回転駆動機構を構成する回転子が円環状に形成されて、その軸方向の一端面および他端面に第1と第2のカム面がそれぞれ形成されると共に、前記第1と第2のカム面にそれぞれ対峙するように前記軸筒側に配置された第1と第2の固定カム面が具備され、
前記筆記圧による前記チャックの後退動作によって、前記円環状回転子における第1のカム面が、前記第1の固定カム面に当接して噛み合わされ、前記筆記圧の解除により前記円環状回転子における第2のカム面が、前記第2の固定カム面に当接して噛み合わされるように構成され、
前記回転子側の第1カム面が、前記第1の固定カム面に噛み合わされた状態において、前記回転子側の第2カム面と前記第2の固定カム面が、軸方向においてカムの一歯に対して半位相ずれた関係に設定され、前記回転子側の第2カム面が、前記第2の固定カム面に噛み合わされた状態において、前記回転子側の第1カム面と前記第1の固定カム面が、軸方向においてカムの一歯に対して半位相ずれた関係に設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたシャープペンシル。
【請求項4】
前記筆記圧が解除された状態において、前記円環状回転子における第2のカム面を、前記第2の固定カム面に当接させて噛み合わせ状態に付勢するバネ部材が具備されていることを特徴とする請求項3に記載されたシャープペンシル。
【請求項5】
前記回転子の後端部と前記バネ部材との間に、円筒状に形成されて前記回転子の後端部との間において滑りを発生させるトルクキャンセラーが介在され、前記回転子の回転運動が前記バネ部材に伝達されるのを阻止するように構成したことを特徴とする請求項4に記載されたシャープペンシル。
【請求項6】
前記トルクキャンセラーを、筆記芯と共に軸方向に移動動作する前記可動部材として利用し、前記トルクキャンセラーを前記ダンパー機能の一部を兼ねた構成にしたことを特徴とする請求項5に記載されたシャープペンシル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−6408(P2012−6408A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226091(P2011−226091)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【分割の表示】特願2007−339075(P2007−339075)の分割
【原出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】