説明

シュウ酸エステルの製造法

【課題】 シュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とから、エステル交換触媒の存在下にて、シュウ酸ジアリールあるいはシュウ酸アルキルアリールを製造する方法であって、エステル交換触媒の活性低下や失活を引き起こすことのない方法を提供する。
【解決手段】 シュウ酸ジアルキルとして、酸価が0.5mgKOH/g以下に調整したものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュウ酸エステルの製造法に関し、さらに詳しくは、シュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とから、シュウ酸アルキルアリールあるいはシュウ酸ジアリールなどのシュウ酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シュウ酸ジアリールは、例えば、ポリカーボネートの製造原料として用いることが知られている。
【0003】
シュウ酸アルキルアリールは、シュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とをエステル交換触媒の存在下にてエステル交換反応させることによって得られることが知られている(特許文献1)。そして、生成したシュウ酸アルキルアリールからは、これを同触媒の存在下にて不均化反応させることによりシュウ酸ジアリールに変換できることも知られている(特許文献2)。
【0004】
さらに、前記の方法を改良したものとして、水分含量を0.2重量%以下(好ましくは0.05重量%以下)に制御したシュウ酸ジアルキルとフェノール化合物を用いて反応させる方法(特許文献3)が知られている。
【特許文献1】特開平9−143123号公報
【特許文献2】特開平9−221451号公報
【特許文献3】特開平11−222459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上述のような既知のシュウ酸エステルの製造方法を検討した結果、これらの方法では、エステル交換触媒の活性低下や失活が徐々に発生し、反応速度の低下やシュウ酸アリールエステルの生産性の低下が起きるという問題があることを見出した。このため、製造コストの低減のために、触媒使用量を低減することが困難となり、また、特に連続製造プロセスにおいては低触媒濃度での連続運転が困難であるなどの問題が発生する。
【0006】
本発明は、シュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とから、エステル交換触媒の存在下にて、シュウ酸ジアリールあるいはシュウ酸アルキルアリールなどのシュウ酸エステルを製造する方法において、前記のような問題を解決した、即ち、エステル交換触媒の活性低下や失活を引き起こすことなく、反応速度や生産性が優れ、かつ触媒使用量を低減しての低触媒濃度での運転が可能な、工業的に好適なシュウ酸エステルの製造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とをエステル交換触媒の存在下にてエステル交換反応させることによりシュウ酸アルキルアリールを製造する方法において、シュウ酸ジアルキルとして、酸価が0.5mgKOH/g以下のものを用いることを特徴とするシュウ酸アルキルアリールの製造法にある。
【0008】
本発明はまた、シュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とをエステル交換触媒の存在下にてエステル交換反応させてシュウ酸アルキルアリールを生成させ、次いでそのシュウ酸アルキルアリールを同触媒の存在下で不均化反応させることによりシュウ酸ジアリールを製造する方法において、シュウ酸ジアルキルとして、酸価が0.5mgKOH/g以下のものを用いることを特徴とするシュウ酸ジアリールの製造法にもある。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、シュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とから、エステル交換触媒の活性低下や失活を引き起こすことなく、優れた反応速度や生産性を維持しながら、シュウ酸アルキルアリールあるいはシュウ酸ジアリールなどのシュウ酸エステルを製造することができる。また、本発明を利用することにより、触媒使用量を低減できるため、連続製造プロセスにおける低触媒濃度での運転が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明が利用する反応では、シュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とから、シュウ酸アルキルアリールあるいはシュウ酸ジアリールなどのシュウ酸エステルを製造する方法において、次式(1)及び(2)に従って、エステル交換触媒の存在下、シュウ酸ジアルキル(a)とフェノール化合物(b)とから、エステル交換反応によって、シュウ酸アルキルアリール(c−1)、シュウ酸ジアリール(c−2)及び低級アルコール(d)が生成する。また、式(2)以外に、式(3)に従って、前記触媒の存在下、シュウ酸アルキルアリール(c−1)から、不均化反応によって、シュウ酸ジアリール(c−2)及びシュウ酸ジアルキル(a)が生成する。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明の製造法では、式(1)〜(3)の反応が全て起こるが、まず、式(1)の反応によってシュウ酸アルキルアリール(c−1)と低級アルコール(d)が生成する。そして、式(2)の反応により、シュウ酸アルキルアリール(c−1)とフェノール化合物(b)との反応が進行し、シュウ酸ジアリール(c−2)と低級アルコール(d)が生成することになる。あるいは、式(3)の反応により、シュウ酸アルキルアリール(c−1)が不均化反応を起こし、シュウ酸ジアリール(c−2)とシュウ酸ジアルキル(a)とが生成する。
【0013】
本発明の製造法では、前記式(1)の反応において、シュウ酸ジアルキルとして、酸価を0.5mgKOH/g以下、好ましくは0.1mgKOH/g以下としたシュウ酸ジアルキルが用いられる。なお、シュウ酸ジアルキルの酸価は、電位差滴定法(KOH・アルコール溶液を用いる滴定)により求められる。
【0014】
前記のような低い酸価を有するシュウ酸ジアルキルは、更に、その水分含量(電量滴定(カールフィッシャー法)による)が0.2重量%以下、特に0.05重量%以下であることが好ましい。即ち、本発明では、シュウ酸ジアルキルとして、酸価を0.5mgKOH/g以下とし、かつ水分含量を0.2重量%以下としたシュウ酸ジアルキル、特に、酸価を0.1mgKOH/g以下とし、かつ水分含量を0.05重量%以下としたシュウ酸ジアルキルを用いることが好ましい。
【0015】
前記のような酸価及び水分含量を有するシュウ酸ジアルキルは、シュウ酸ジアルキルを加熱処理した後に蒸留精製する方法、或いは、シュウ酸ジアルキルを蒸留精製した後に、更に加熱処理する方法により得ることができる。この加熱処理は、シュウ酸ジアルキルを130〜200℃、好ましくは150〜180℃で0.2〜10時間、好ましくは0.5〜3時間加熱することにより行われる。加熱処理時の圧力は特に制限されないが、雰囲気は乾燥雰囲気であることが好ましい。シュウ酸ジアルキルの蒸留は、公知の水分含量を制御する方法(特開平11−222459号公報)と同様に行うことができる。なお、シュウ酸ジアルキルを単に蒸留精製する方法のみでは、前記のような低い酸価を有するシュウ酸ジアルキルを得ることは困難である。
【0016】
前記式(1)〜(3)において、Rは、メチル基、エチル基、n−(又はi−)プロピル基、n−(又はi−)ブチル基等の炭素原子数1〜6の低級アルキル基を表し、Arは、フェニル基、ナフチル基等の炭素原子数6〜12の置換基を有していてもよいアリール基を表す。この置換基としては、炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素原子数1〜6の低級アルコキシ基、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子等)、ニトロ基などが挙げられる。
【0017】
シュウ酸ジアルキル(a)としては、例えば、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸n−(又はi−)プロピル、シュウ酸n−(又はi−)ブチルなどが挙げられる。シュウ酸ジアルキルの中では、シュウ酸ジメチルが好ましい。なお、シュウ酸ジアルキル(a)は、シュウ酸を前記低級アルコール(d)で公知の方法によりエステル化して得られるものが好ましく、その場合、前記式(1)及び(2)の反応で生成する低級アルコールを分離して、このエステル化に用いることがさらに好ましい。
【0018】
フェノール化合物(b)としては、例えば、フェノール、ナフトールや、クレゾール、エチルフェノール、キシレノール等のアルキルフェノールや、メトキシフェノール、エトキシフェノール等のアルコキシフェノールや、クロロフェノール、ブロモフェノール等のハロフェノールや、ニトロフェノールなどが挙げられる。これらフェノール化合物の中では、フェノールが好ましい。
【0019】
本発明では、シュウ酸アルキルアリールを製造する場合、前記のように非常に低い酸価及び水分含量を有するシュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とを、エステル交換触媒の存在下、生成する低級アルコールを抜き出しながら、液相でエステル交換反応させて、シュウ酸アルキルアリールを生成させることが好ましい。この場合の好ましい態様としては、例えば、多段蒸留塔からなる反応蒸留塔を備えた反応装置を用いる方法が挙げられる。例えば、該シュウ酸ジアルキル、フェノール化合物、エステル交換触媒を該反応蒸留塔へ供給して、低級アルコールを主成分とする蒸気を塔頂から抜き出しながらエステル交換反応させ、塔底からシュウ酸アルキルアリールを主成分とする反応液を抜き出す方法が挙げられる。
【0020】
シュウ酸ジアリールを製造する場合には、前記のように非常に低い酸価及び水分含量を有するシュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とを、エステル交換触媒の存在下、生成する低級アルコールを抜き出しながら、液相でエステル交換反応させて、シュウ酸アルキルアリールを生成させ、次いで、そのシュウ酸アルキルアリールを、同触媒の存在下、生成するシュウ酸ジアルキルを抜き出しながら、液相で不均化反応させて、シュウ酸ジアリールを生成させることが好ましい。
【0021】
上記の方法の場合の好ましい態様としては、例えば、多段蒸留塔からなる第1反応蒸留塔及び第2反応蒸留塔を備えている反応装置を用いる方法が挙げられる。たとえば、上記のシュウ酸ジアルキル、フェノール化合物、エステル交換触媒を第1反応蒸留塔へ供給して、低級アルコールを主成分とする第1蒸気を塔頂から抜き出しながらエステル交換反応させ、塔底からはシュウ酸アルキルアリールを主成分とする第1反応液を抜き出し、次いで、その第1反応液を第2反応蒸留塔へ供給して、シュウ酸ジアルキルを主成分とする第2蒸気を塔頂から抜き出しながら不均化反応させ、塔底からシュウ酸ジアリールを主成分とする第2反応液を抜き出す方法を挙げることができる。
【0022】
以下、シュウ酸ジアリールを製造する場合について更に詳しく説明する。なお、シュウ酸アルキルアリールを製造する場合は、シュウ酸ジアリールを製造する場合の前半の工程(第1反応蒸留塔におけるエステル交換反応の工程)と同様に実施することができる。
【0023】
シュウ酸ジアリールの製造における前半の工程(第1反応蒸留塔におけるエステル交換反応の工程)では、例えば、連続多段蒸留塔からなる第1反応蒸留塔の内部(特に、棚段の設置された部分或いは充填材の充填された部分)で、エステル交換触媒の存在下に、生成する低級アルコールを主成分として含む第1蒸気を蒸発させて第1反応蒸留塔の頂部から抜き出しながら、前記式(1)で表されるエステル交換反応を主として行わせることが好ましい。そして、その第1蒸気を凝縮させて、主として低級アルコールを含む凝縮液を系外に除去する。その際、必要であれば、凝縮液を第1反応蒸留塔の棚段部分の上部へ還流させることもできる。
【0024】
上記の工程で、シュウ酸ジアルキル、フェノール化合物、エステル交換触媒は、原料混合液として、第1反応蒸留塔の棚段部分又は充填材部分へ液相状態で供給することが好ましい。すなわち、この工程では、第1反応蒸留塔の上部に原料混合液を供給して、その原料混合液を塔の下方へ流下させながら各段で主として前記エステル交換反応を行わせることによって、第1反応蒸留塔の底部でシュウ酸アルキルアリールを高濃度で含有する(シュウ酸ジアリールを一部含有する)反応液を得ることが好ましい。この反応液は第1反応蒸留塔の底部から抜き出されて、次の第2反応蒸留塔に導かれる。また、生成する低級アルコールは、各段で蒸発させて、蒸気相として塔の上方に導かれ、上方にいくに従って低級アルコールを高濃度で含有する第1蒸気となるように分留されて抜き出される。
【0025】
上記の工程で用いられるシュウ酸ジアルキルとフェノール化合物との割合は、エステル交換触媒の種類や量、反応条件により異なるが、フェノール化合物が、シュウ酸ジアルキルに対して0.01〜1000倍モル、更には0.1〜100倍モル、特に0.5〜20倍モル程度であることが好ましい。
【0026】
上記工程の反応温度は、原料及び生成物を含有している反応液が溶融する温度以上であって、かつ生成物であるシュウ酸アルキルアリール(及びシュウ酸ジアリール)が熱分解しないような温度であることが好ましい。従って、前記エステル交換反応における反応温度は50〜350℃、更には100〜300℃、特に120〜280℃程度であることが好ましい。反応液の加熱は、反応蒸留塔の底部に存在する反応液を循環させながら循環ラインに設置した加熱器で加熱するか、または反応蒸留塔の底部内に設置した加熱器で加熱することにより行われる。
【0027】
上記の工程における反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでもよいが、低級アルコールを蒸発させることができる圧力であることが好ましい。例えば、反応温度が50〜350℃であれば、反応圧力は0.01mmHg〜100kg/cm2、特に0.1mmHg〜50kg/cm2程度であることが好ましい。
【0028】
上記の工程における反応時間(第1反応蒸留塔内及びその底部での反応液の滞留時間)は、反応蒸留塔の形式や反応条件及び操作条件などによって異なるが、反応温度が50〜350℃であれば、約0.01〜50時間、更には0.02〜10時間、特に0.03〜5時間程度であることが好ましい。
【0029】
第1反応蒸留塔としては、低級アルコールを反応液から速やかに蒸発させて除去しながら、液相状態の反応液中でシュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とのエステル交換反応を行うことができるものであれば特に制限されないが、例えば、連続多段蒸留塔からなる反応蒸留塔が好適に挙げられる。即ち、第1反応蒸留塔は、理論段数が少なくとも2段以上、更には5〜100段、特に7〜50段程度である多段蒸留塔型の反応蒸留塔であることが好ましい。多段蒸留塔型の反応蒸留塔としては、例えば、泡鐘トレイ、多孔板トレイ、バルブトレイ等を用いた棚段式蒸留塔形式のもの、或いは、ラシヒリング、リッシングリング、ポールリング等の充填物を充填した充填式蒸留等塔形式のものが挙げられ、更に棚段式及び充填式を併せもつ形式のものも挙げられる。
【0030】
シュウ酸ジアリールの製造における後半の工程(第2反応蒸留塔における不均化反応の工程)では、例えば、連続多段蒸留塔からなる第2反応蒸留塔の内部(特に、棚段の設置された部分或いは充填材の充填された部分)で、前記エステル交換触媒の存在下に、生成するシュウ酸ジアルキルを主成分として含む第2蒸気を蒸発させて第2反応蒸留塔の頂部から抜き出しながら、前記式(3)で表される不均化反応を主として行わせる。そして、その第2蒸気を凝縮させて、主としてシュウ酸ジアルキルを含む凝縮液を系外に除去する。その際、必要であれば、凝縮液を第2反応蒸留塔の棚段部分の上部へ還流させることもできる。
【0031】
上記工程で、第1反応蒸留塔の底部から抜き出された反応液は、第2反応蒸留塔の棚段部分または充填材部分へ液相状態で供給することが好ましい。このように第1反応蒸留塔の底部からの反応液を液相状態で第2反応蒸留塔の上部へ供給することにより、その反応液が塔内を流下する際にシュウ酸アルキルアリールの不均化反応を充分に効果的に行なわせることができる。
【0032】
上記工程では、前述のように第2反応蒸留塔の上部に第1反応蒸留塔の底部からの反応液を供給して、その反応液を塔の下方へ流下させながら各段で前記不均化反応を行わせることによって、第2反応蒸留塔の底部でシュウ酸ジアリールを高濃度で含有する反応液を蓄積させる。この反応液は第2反応蒸留塔の底部から抜き出される。生成するシュウ酸ジアルキルは、各段で蒸発させて蒸気相として塔の上方に導かれ、上方にいくに従ってシュウ酸ジアルキルを高濃度で含有する第2蒸気となるように分留されて抜き出される。シュウ酸ジアルキルを含有する第2蒸気は、第1反応蒸留塔の上部へ循環供給して再使用することが好ましい。
【0033】
上記工程における反応温度は、原料及び生成物を含有している反応液が溶融する温度以上であって、かつシュウ酸アルキルアリール及びシュウ酸ジアリールが熱分解しないような温度であることが好ましい。従って、不均化反応における反応温度は50〜350℃、更には100〜300℃、特に140〜280℃程度であることが好ましい。反応液の加熱は、反応蒸留塔の底部に存在する反応液を循環させながら循環ラインに設置した加熱器で加熱するか、または反応蒸留塔の底部内に設置した加熱器で加熱することにより行なわれる。
【0034】
上記工程における反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでもよいが、シュウ酸ジアルキルを蒸発させることができる圧力であることが好ましい。従って、反応温度が50〜350℃であれば、反応圧力は0.01mmHg〜100kg/cm2、特に10mmHg〜10kg/cm2程度であることが好ましい。
【0035】
上記工程における反応時間(第2反応蒸留塔内及びその底部での反応液の滞留時間)は、反応蒸留塔の形式や反応条件及び操作条件などによって異なるが、反応温度が50〜350℃であれば、約0.01〜50時間、更には0.02〜10時間、特に0.03〜5時間程度であることが好ましい。
【0036】
第2反応蒸留塔としては、シュウ酸ジアルキルを反応液から蒸発させて除去しながら、液相状態の反応液中でシュウ酸アルキルアリールの不均化反応を行うことができるものであれば特に制限されないが、連続多段蒸留塔からなる反応蒸留塔が好適に挙げられる。すなわち、第2反応蒸留塔は、理論段数が少なくとも2段以上、更には3〜100段、特に5〜50段程度である多段蒸留塔型の反応蒸留塔であることが好ましい。多段蒸留塔型の反応蒸留塔としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0037】
第2反応蒸留塔の底部から抜き出されたシュウ酸ジアリールを含有する反応液は、例えば、多段蒸留塔へ供給して蒸留精製することによって、高純度のシュウ酸ジアリールを得ることができる。また、例えば、多段蒸留塔の塔底から抜き出されるエステル交換触媒を含有する塔底液は、第1反応蒸留塔へ循環供給することにより、連続反応に使用できる。
【0038】
エステル交換触媒としては、式(1)〜(3)の反応を触媒するものであれば、どのような触媒でも用いることができる。例えば、カルボン酸エステルとアルコール類とのエステル交換反応に用いられる公知のエステル交換触媒であって、原料のシュウ酸ジアルキルとフェノール化合物の溶融液や、原料及び生成物を含む反応液に対して可溶性であるエステル交換触媒が好ましく用いられる。
【0039】
エステル交換触媒の具体例としては、例えば、チタン化合物、スズ化合物、鉛化合物、ジルコニウム化合物、モリブデン化合物、及びイッテルビウム化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物が挙げられる。
【0040】
チタン化合物の例としては、TiX3、Ti(OAc)3、Ti(OMe)3、Ti(OEt)3、Ti(OBu)3、Ti(OPh)3、TiX4、Ti(OAc)4、Ti(OMe)4、Ti(OEt)4、Ti(OBu)4、Ti(OPh)4などが挙げられる。但し、Acはアセチル基、Meはメチル基、Etはエチル基、Buはブチル基、Phはフェニル基、Xはハロゲン原子を表す(以下、同様)。
【0041】
スズ化合物の例としては、Ph4Sn、Sn(OAc)4、Bu2Sn(OAc)2、Me3SnOAc、Et3SnOAc、Bu3SnOAc、Ph3SnOAc等のスズのアセトキシ錯体、Sn(OMe)4、Sn(OEt)4、Sn(OPh)4、Bu2Sn(OMe)2、Ph2Sn(OMe)2、Bu2Sn(OEt)2、Ph2Sn(OPh)2、Et3SnOMe、Ph3SnOMe等のスズのアルコキシ又はアリールオキシ錯体、Me3Sn(OCOPh)、Bu2SnO、BuSnO(OH)、Et3SnOH、Ph3SnOH、Bu2SnCl2などが挙げられる。
【0042】
鉛化合物の例としては、硫化鉛、水酸化鉛、亜なまり酸塩、鉛酸塩、鉛の炭酸塩(又はその塩基性塩)、鉛の有機酸塩(又はその炭酸塩、塩基性塩)などが挙げられ、更に、テトラブチル鉛、テトラフェニル鉛、トリブチル鉛ハロゲン、トリフェニル鉛ブロム、トリフェニル鉛等のアルキルまたはアリール鉛化合物、ジメトキシ鉛、メトキシフェノキシ鉛、ジフェノキシ鉛等のアルコキシまたはアリールオキシ鉛化合物などが挙げられる。
【0043】
ジルコニウム化合物の例としては、テトラキスアセチルアセトナトジルコニウム、ジルコノセンなどが挙げられる。
【0044】
モリブデン化合物の例としては、酸化モリブデン、塩化モリブデン、酸化モリブデンアセチルアセトナトなどが挙げられる。
【0045】
イッテルビウム化合物の例としては、塩化イッテルビウム、酸化イッテルビウム、炭酸イッテルビウムなどが挙げられる。
【0046】
これらエステル交換触媒の中では、前記のチタン化合物、ジルコニウム化合物,スズ化合物が好ましいが、なかでもチタン化合物、スズ化合物が更に好ましく、チタン化合物が最も好ましい。
【実施例】
【0047】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。酸価は電位差滴定(KOH・アルコール溶液による滴定)、水分含量(重量基準で示す)は電量滴定(カールフィッシャー法)、その他はガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0048】
[実施例1]
シュウ酸ジメチル(酸価:1.3mgKOH/g)を、常圧下、150℃で1時間加熱処理した後、100トールで減圧蒸留して、酸価が0.08mgKOH/gで、水分含量が80ppmの高純度シュウ酸ジメチルを得た。
1L(リットル)容のボトムフラスコを備えた、内径32mm、段数50段のオールダーショー型蒸留装置(第1反応蒸留塔)の上から12段目に、高純度シュウ酸ジメチル40.9重量%、フェノール(水分含量:110ppm)58.7重量%、テトラフェノキシチタン0.3重量%の組成の混合液(混合液の水分含量は100ppm)を300mL/時で供給すると共に、ボトムフラスコをマントルヒーターで190℃に加熱し、塔頂部からの蒸気を冷却器で凝縮して還流比2で抜き出しながら、反応(エステル交換反応)を開始した。そして、塔底液は液量が500mLを維持できるように連続的に抜き出した。
【0049】
第1反応蒸留塔の状態が安定した時点で(供給を開始して3時間後)、塔底液の組成は、シュウ酸メチルフェニル34.38重量%、シュウ酸ジフェニル7.03重量%、シュウ酸ジメチル18.22重量%、フェノール40.01重量%であって、高い反応率を示していた。その抜き出し量は約304g/時であった。また、塔頂からは、メタノール99.7重量%、シュウ酸ジメチル0.3重量%の組成の凝縮液を約26g/時で抜き出した。
【0050】
次に、第1反応蒸留塔の塔底液を、前記と同様のオールダーショー型蒸留装置(第2反応蒸留塔)の上から12段目に300mL/時で供給すると共に、ボトムフラスコをマントルヒーターで200℃に加熱し、塔頂部からの蒸気を冷却器で凝縮して還流することなく抜き出しながら、200mmHgの減圧下、反応(不均化反応)を行った。
第2応蒸留塔の状態が安定した時点で(供給を開始して5時間後)、塔底液の組成は、シュウ酸メチルフェニル14.11重量%、シュウ酸ジフェニル65.40重量%、シュウ酸ジメチル1.46重量%、フェノール18.10重量%であり、その抜き出し量は約116g/時であった。また、塔頂からは、メタノール1.52重量%、シュウ酸ジメチル42.37重量%、シュウ酸メチルフェニル1.60重量%、シュウ酸ジフェニル0.06重量%、フェノール54.45重量%の組成の凝縮液を約225g/時で抜き出した。
【0051】
[比較例1]
酸価が1.3mgKOH/gのシュウ酸ジメチルを用いた以外は、実施例1と同様に反応(エステル交換反応)を行った。
第1反応蒸留塔の状態が安定した時点で(供給を開始して4時間後)、塔底液の組成は、シュウ酸メチルフェニル10.06重量%、シュウ酸ジフェニル0.68重量%、シュウ酸ジメチル39.42重量%、フェノール49.57重量%であって、変換率は低かった。その抜き出し量は約323g/時であった。また、塔頂からは、メタノール99.5重量%、シュウ酸ジメチル0.5重量%の組成の凝縮液を約7g/時で抜き出した。
【0052】
[比較例2]
シュウ酸ジメチルとして、酸価が0.6mgKOH/gのシュウ酸ジメチルを得て、実施例1と同様に反応を行った。
原料の供給を開始して5時間後に第1反応蒸留塔の状態が安定し、塔底液の組成は、シュウ酸メチルフェニル33.86重量%、シュウ酸ジフェニル6.57重量%、シュウ酸ジメチル18.71重量%、フェノール40.53重量%であった。そして、その抜き出し量は約306g/時であった。また、塔頂からは、メタノール99.7重量%、シュウ酸ジメチル0.3重量%の組成の凝縮液を約24g/時で抜き出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とをエステル交換触媒の存在下にてエステル交換反応させることによりシュウ酸アルキルアリールを製造する方法において、シュウ酸ジアルキルとして、酸価が0.5mgKOH/g以下のものを用いることを特徴とするシュウ酸アルキルアリールの製造法。
【請求項2】
酸価が0.5mgKOH/g以下のシュウ酸ジアルキルが、酸価が0.5mgKOH/g以下を超えるシュウ酸ジアルキルを精製することにより得たものであることを特徴とする請求項1に記載のシュウ酸アルキルアリールの製造法。
【請求項3】
酸価が0.5mgKOH/g以下のシュウ酸ジアルキルの水分含量が0.2重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のシュウ酸アルキルアリールの製造法。
【請求項4】
シュウ酸ジアルキルとフェノール化合物とをエステル交換触媒の存在下にてエステル交換反応させてシュウ酸アルキルアリールを生成させ、次いでそのシュウ酸アルキルアリールを同触媒の存在下で不均化反応させることによりシュウ酸ジアリールを製造する方法において、シュウ酸ジアルキルとして、酸価が0.5mgKOH/g以下のものを用いることを特徴とするシュウ酸ジアリールの製造法。
【請求項5】
酸価が0.5mgKOH/g以下のシュウ酸ジアルキルが、酸価が0.5mgKOH/g以下を超えるシュウ酸ジアルキルを精製することにより得たものであることを特徴とする請求項3に記載のシュウ酸ジアリールの製造法。
【請求項6】
酸価が0.5mgKOH/g以下のシュウ酸ジアルキルの水分含量が0.2重量%以下であることを特徴とする請求項3に記載のシュウ酸ジアリールの製造法。

【公開番号】特開2006−89417(P2006−89417A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277906(P2004−277906)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】