説明

シュウ酸含有溶液からのインジウムの回収方法

【課題】 エッチング廃液に代表されるシュウ酸を主成分とする酸溶液からの効率のよいインジウム回収方法を提供する。
【解決手段】 インジウム及びシュウ酸を含有する溶液をキトサンに接触させて、インジウムをキトサンに吸着させる吸着工程、及びインジウムを吸着させたキトサンを、塩酸、硫酸又は硝酸を含有する酸性水溶液に接触させて、インジウムを脱離させる脱離工程を含む、インジウムの回収方法である。本発明のインジウムの回収方法は、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液からインジウムを高い効率で回収することができる。それ故、本発明のインジウムの回収方法は、ITO透明電極製造時に排出されるエッチング廃液のようなシュウ酸溶液から、インジウムを効率よく吸着することができる。特に、脱離工程の前にアルカリ処理工程を実施することにより、エッチング廃液中に共存しているスズ等の他の金属イオンとインジウムを分離し、インジウムのみを回収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウムの回収方法に関する。さらに詳しくは、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液から、インジウムを効率よく回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム−酸化スズ(Indium Tin Oxide; ITO)膜を所定のパターンにエッチング処理して形成されたITO透明電極は、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置等の透明電極として使用されている。液晶表示装置、EL表示装置等の生産台数増加に伴い、当該装置の製造工程からは、インジウム、スズ等の金属イオンを含んだエッチング廃液が大量に排出されている。
【0003】
ITO膜をエッチング処理する際に使用されるエッチング液は、通常シュウ酸と界面活性剤を混合した溶液からなる。当該エッチング液は、液晶表示装置、EL表示装置等の製造工程において、ITO基板のエッチング処理に使用されるが、通常はエッチング能力が低下するまで循環使用される。そして、能力が低下したエッチング液は、エッチング廃液として廃棄される。
【0004】
ITO透明電極に含有されるインジウムは稀少金属であり、その需要も増加傾向にあることから、近年、資源の枯渇が問題視されている。このため、インジウムの有効利用の観点から、ITO透明電極製造時に生じる廃ターゲット材の回収、再利用が進められている。
【0005】
また、前記エッチング廃液からのインジウムリサイクルに関しても、例えば、陰イオン交換樹脂を用いた回収方法(特許文献1)や、セメンテーション法を用いた方法(特許文献2)がこれまでに提案されている。インジウムやスズ等の金属イオン自体はカチオンであるが、シュウ酸を含有するエッチング廃液中では、金属イオンがシュウ酸と錯体を形成してアニオンの状態で存在している。このため、例えば特許文献3には、イオン交換樹脂を用いてシュウ酸含有エッチング廃液から金属成分を分離する場合、陽イオン交換樹脂では金属成分は殆ど吸着されず、陰イオン交換樹脂にて分離しうることが記載されている。
【0006】
金属イオンがシュウ酸と錯体を形成する際の錯体生成定数は金属イオンによって異なり、錯体生成定数の小さいインジウムは一部インジウムイオンとなるのに対して、スズは殆ど解離せず、錯体として存在する。特許文献4には、この錯体生成定数の違いを利用して、インジウム及びスズ、並びにシュウ酸のような金属錯体を形成する化合物を含有する溶液中から、陽イオン交換樹脂を用いてインジウムを選択的に分離回収する方法が記載されている。しかしながら、当該文献に記載の方法では、スズが殆ど吸着されないためインジウムの吸着選択性は高いものの、インジウムの吸着量自体が低いという問題点がある。
【0007】
以上のように、低濃度のインジウムや他の金属成分に加えてシュウ酸を含むエッチング廃液から、インジウムを効率よく分離回収する方法として、十分に満足しうる方法は提供されていないのが実情である。
【0008】
ところで、天然多糖類であるキトサンは、金属イオンに対して吸着能を有することが以前から知られており、その金属イオン吸着能を利用した吸着剤の開発が進められている。例えば、特許文献5には、キトサンに基づく材料の使用による液体流出物中に含まれる重金属の固定に関する発明が記載されている。また、特許文献6には、キトサンのアミノ基に4-(アルキルチオ)ベンジル基を導入したキトサン誘導体からなる、金イオンを選択的に分離可能な吸着剤が提案されている。
【0009】
しかしながら、キトサンは第一級アミノ基を有するカチオン性多糖であることから、有機酸や塩酸等の無機酸を含有する酸性溶液中では、解離性の塩を形成して溶解する性質を有している。このため、上記の文献に記載されているようなキトサン又はキトサン誘導体を酸性溶液中において工業的に用いた場合、キトサン又はキトサン誘導体が解離・溶解することが考えられる。このような問題点を解決するため、本発明者は、化学的に安定な分子間架橋構造を有する架橋キトサンを含む金属イオンの吸着剤を開発した。例えば、分子間架橋構造を有する架橋キトサンであって、C-2位アミノ基にピリジン環を含む置換基及び/又はチオフェンを含む置換基を有し、金、パラジウム、白金等を選択的に吸着する、貴金属イオンの捕集剤及びその製法(特許文献7)、エピクロロヒドリン等によって形成された架橋キトサンを用いる金属イオンの選択的回収方法であって、該キトサンのC-2位アミノ基にピリジルメチル基を導入することにより、亜鉛イオンに対する選択性を高めた回収方法(特許文献8)、分子間架橋構造及び金属イオン配位子を有する架橋キトサンであって、配位子を有する架橋基を用いることによって製造工程を簡略化し、かつ金、パラジウム及び白金に対する吸着選択性を高めた、架橋キトサンの製造方法(特許文献9)等である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-13795号公報
【特許文献2】特開2007-270342号公報
【特許文献3】特開2005-325082号公報
【特許文献4】特開2009-84673号公報
【特許文献5】特表2004-535298号公報
【特許文献6】特開2004-255302号公報
【特許文献7】特開平6-227813号公報
【特許文献8】特開2007-224333号公報
【特許文献9】特開2008-95072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、ITO透明電極製造時に排出されるエッチング廃液から、インジウムを効率よく分離、回収しうる方法は未だ提供されていない。エッチング廃液からインジウムを回収する場合、エッチング廃液中のインジウムは低濃度であることに加えて、当該エッチング廃液はスズ等の他の金属イオン及びシュウ酸を含有する酸性溶液であることから、かかる用途に適用される回収方法は、シュウ酸酸性条件下であってもインジウムを吸着できるとともに、吸着手段からインジウムを選択的に脱離できることが求められる。また、当該用途に適用される吸着手段は、酸性条件下であっても性能が低下することなく低ランニングコストで使用できることが不可欠となる。それ故本発明は、エッチング廃液のように低濃度のインジウムや他の金属成分に加えてシュウ酸を含有する溶液から、インジウムを選択的に回収することができる、キトサンを用いたインジウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、金属吸着能を有するキトサンをインジウムの吸着手段に用いることによって、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液からインジウムを選択的に回収できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) インジウム及びシュウ酸を含有する溶液をキトサンに接触させて、インジウムをキトサンに吸着させる吸着工程;及び
インジウムを吸着させたキトサンを、塩酸、硫酸又は硝酸を含有する水溶液に接触させて、インジウムを脱離させる脱離工程;
を含む、インジウムの回収方法。
(2) シュウ酸濃度が1〜8重量%である、前記(1)の回収方法。
(3) 酸性水溶液が0.1 M以上の塩酸を含有する、前記(1)又は(2)の回収方法。
(4) 前記吸着工程が、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液をキトサンに接触させ、接触後の溶液を該キトサンに循環させる循環工程によってインジウムをキトサンに吸着させる工程である、前記(1)〜(3)のいずれか1の回収方法。
(5) 前記脱離工程の前に、インジウムを吸着させたキトサンをアルカリ性水溶液に接触させるアルカリ処理工程をさらに含む、前記(1)〜(4)のいずれか1の回収方法。
(6) アルカリ性水溶液が0.5 M以上の水酸化ナトリウムを含有する、前記(5)の回収方法。
(7) キトサンが不溶化処理されている、前記(1)〜(6)のいずれか1の回収方法。
(8) キトサンがカートリッジフィルターの濾過材に保持されている、前記(1)〜(7)のいずれか1の回収方法。
(9) カートリッジフィルターの濾過材が、コットン、レーヨン、パルプ、アセチルセルロース及びニトロセルロースからなる群より選択されるセルロース系繊維によって形成されている、前記(8)の回収方法。
(10) セルロース系繊維の繊維密度が0.1〜1.0 g/cm3である、前記(9)の回収方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、エッチング廃液のように低濃度のインジウムや他の金属成分に加えてシュウ酸を含有する溶液から、インジウムを選択的に回収することができる、キトサンを用いたインジウムの回収方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の回収方法において、循環工程の処理時間に対するインジウム吸着率の経時変化を示す図である。
【図2】本発明の回収方法において、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液中にスズが共存することにより、インジウム吸着率の経時変化に生じる影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
1.インジウム及びシュウ酸を含有する溶液
通常、インジウムは水溶液中でカチオン性のインジウムイオンとして存在するが、例えばエッチング廃液のように、インジウムを含有する水溶液にシュウ酸が存在すると、インジウムはシュウ酸とアニオン性の錯体を形成する。この場合、シュウ酸とアニオン性の錯体を形成したインジウムは、アニオンとイオン結合しうるアミノ基を分子内に有するキトサンに対して強く吸着される。一方、インジウムを含有する溶液中にシュウ酸が含まれていなければ、インジウムはアニオン性の錯体を形成し得ないため、キトサンに吸着されない。それ故、本明細書において、「インジウム及びシュウ酸を含有する溶液」は、錯体を形成する化合物としてシュウ酸を含む、インジウムを含有する溶液を意味する。インジウム及びシュウ酸を含有する溶液に対して本発明のインジウムの回収方法を適用することにより、シュウ酸とアニオン性の錯体を形成したインジウムを、以下において詳述するキトサンにより効率的に吸着することが可能となる。
【0017】
本発明の回収方法において、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液中のインジウムの濃度は、使用されるキトサンの重量にも依存するが、通常10〜400 ppmであることが好ましい。上記の濃度でインジウムを含有する溶液に本発明の回収方法を適用することにより、高い吸着率でキトサンにインジウムを吸着させることが可能となる。
【0018】
本発明の回収方法において、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液中のシュウ酸濃度は、1〜8重量%であることが好ましく、3〜5重量%であることがより好ましい。インジウム及びシュウ酸を含有する溶液中のシュウ酸濃度が1重量%未満である場合、インジウムとの錯体形成が不十分となり、インジウムの回収率が低下するため好ましくない。また、シュウ酸濃度が8重量%を超える場合、シュウ酸が飽和し析出するため好ましくない。それ故、上記の濃度でシュウ酸を含有することにより、高い割合でインジウムイオンをアニオン性の錯体に導き、キトサンに対する吸着率を向上させることが可能となる。
【0019】
上記で説明したように、本発明の回収方法は、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液中においてアニオン性の錯体を形成しているインジウムを、キトサンのアミノ基により吸着する。当該溶液において、シュウ酸は遊離酸の形態と解離したシュウ酸イオンの形態の平衡混合物として存在する。このため、シュウ酸濃度を適宜設定することで解離したシュウ酸イオン濃度を調整することにより、本発明の回収方法による回収率を向上させることができる。それ故、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液のシュウ酸濃度は、通常2重量%以上であり、2〜8重量%であることが好ましい。より好ましくは、3〜5重量%である。上記の濃度でシュウ酸を含有することにより、インジウムをアニオン性の錯体の状態で維持し、キトサンに対する吸着率を向上させることが可能となる。
【0020】
また、本発明の回収方法に用いられるインジウム及びシュウ酸を含有する溶液は、例えば、スズ、アルミニウム、亜鉛、鉛、シリカ等の他の金属成分、並びに/又は界面活性剤等の一種以上の他の成分をさらに含んでいてもよい。前記一種以上の他の金属イオンの濃度は、それぞれについてインジウム濃度の1/10以下であることが好ましい。上記のような金属成分及び/又は他の成分が共存しているインジウム及びシュウ酸を含有する溶液であっても、本発明の回収方法を適用することにより、インジウムのみを選択的に回収することが可能となる。
【0021】
インジウム及びシュウ酸を含有する溶液の具体例としては、ITO透明電極製造時に排出されるエッチング廃液を挙げることができる。ITO膜をエッチング処理する際には、インジウム、スズ等の金属成分がエッチング液中に溶出するため、排出時のエッチング廃液にはこれらの金属成分が含まれている。それ故、当該エッチング廃液に対して本発明の回収方法を適用することにより、稀少金属であるインジウムを廃液中から回収・再資源化することが可能となる。
【0022】
2.キトサン
本発明のインジウムの回収方法は、アニオンとイオン結合しうるアミノ基を分子内に有するキトサンを、インジウムの吸着手段として使用する。本明細書において、「キトサン」は、1,4’-β-グリコシド結合によって結合したN-アセチルグルコサミンの重合体であるキチンを、脱アセチル化することによって得られるグルコサミンの重合体、又はその誘導体を意味する。
【0023】
本発明の回収方法に使用されるキトサンは、カニ及びエビ等の甲殻類の殻から分離・精製されたキチンを脱アセチル化して得てもよく、あらかじめ工業的に精製されたキチンを脱アセチル化して得てもよい。なお、本明細書において、「脱アセチル化」は、架橋キチンの構成糖であるグルコサミン単位に含まれるC-2位アセチルアミノ基を加水分解して、アミノ基へと導く処理を意味する。当該脱アセチル化は、水酸化ナトリウム等の濃アルカリ条件でキチンを処理することにより行うことができる。本発明の回収方法に使用されるキトサンは、75〜100%の脱アセチル化度を有することが好ましい。なお、脱アセチル化度は、赤外吸収スペクトル法により測定することができる。具体的には、脱アセチル化する前のキチン及びキトサンの赤外吸収スペクトルをそれぞれ測定し、該スペクトルに観測される1655 cm-1のバンドと3450 cm-1のバンドとの吸収比を比較することにより、算出することができる。
【0024】
本発明の回収方法に使用されるキトサンの分子量については特に限定されない。上記の方法により得られるキトサンをそのまま用いてもよく、所望により部分的に加水分解処理を行い、より低分子量のキトサンを分離・精製して用いてもよい。
【0025】
また、キトサンに含まれる末端グルコサミン単位のC-1位及びC-4位水酸基は、それぞれ独立して、未置換の水酸基として存在していてもよく、又はメチル基のようなアルキル基等の置換基によってさらに置換されていてもよい。
【0026】
本発明の回収方法において、上記で説明したキトサンをそのまま、又は不溶性の樹脂に保持された形態で使用してもよい。しかしながら、キトサンは中性溶液に対しては不溶性であるものの、塩酸その他の酸による酸性溶液中では、構成糖であるグルコサミン単位に含まれるC-2位アミノ基が解離性の塩を形成するため溶解する。それ故、本発明の回収方法に使用されるキトサンは、酸性溶液中でも溶解しないように不溶化処理されていることが好ましい。
【0027】
前記不溶化処理としては、例えば、複数のキトサン分子に含有されるグルコサミン単位のC-3位又はC-6位水酸基に架橋基を導入することにより、複数のキトサン分子を分子内又は分子間架橋する方法を挙げることができる。キトサンの分子内又は分子間に強固な架橋構造を形成した架橋キトサンは、酸性溶液中で解離性の塩を形成しても、重合体分子全体が溶解することはない。特に、以下において説明するエーテル結合を介した架橋基は化学的に安定であり、耐アルカリ性も高い。それ故、架橋キトサンの形成によるキトサンの不溶化処理によって、酸性及びアルカリ性溶液中でも実質的に溶解することのない、化学的に安定な吸着手段を得ることが可能となる。
【0028】
上記の架橋キトサンは、例えば、本発明者によって完成された特開2007-224333号公報に記載の方法によって製造することができる。まず、架橋剤を用いて、出発物質であるキチンの水酸基に架橋基を導入して架橋キチンを得る。前記架橋剤としては、限定するものではないが、例えば、エピクロロヒドリン、ジエポキシアルカン、ジエポキシアルケン、ジアルデヒド類(グルタルアルデヒド等)、ジイソシアネート類(トルエンジイソシアネート等)、又はメチレンビスアクリルアミド等の二官能基を有する架橋剤を用いることができる。エピクロロヒドリンを架橋剤として用いることが好ましい。エピクロロヒドリンを用いてキチン分子内又は分子間を架橋することにより、エーテル結合を介した化学的に安定な架橋基を形成することができる。次いで、上記で説明した条件で脱アセチル化して、架橋キトサンを得ることができる。上記の方法で架橋キトサンを製造することにより、低コストかつ高収率で、本発明の回収方法に使用される架橋キトサンを得ることが可能となる。
【0029】
本発明の回収方法において、上記で説明したキトサン又は不溶化処理されたキトサンをそのまま、又は不溶性の樹脂に保持された形態で使用してもよい。しかしながら、より操作性を向上させるために、カートリッジフィルターの濾過材に保持された形態で使用することが好ましい。なお、本明細書において、「カートリッジフィルター」は、当業界で慣用されている、適宜交換可能なカートリッジ形状に濾過材を成形したフィルター部材を意味する。
【0030】
本発明の回収方法に使用されるカートリッジフィルターの濾過材は、例えば、コットン、レーヨン、パルプ、アセチルセルロース及びニトロセルロースからなる群より選択されるセルロース系繊維によって形成されていることが好ましい。セルロース系繊維によって濾過材が形成されたカートリッジフィルターを用いることにより、親水性高分子であるキトサンを高い親和性で保持することが可能となる。
【0031】
本発明の回収方法に使用されるカートリッジフィルターの形状は、上記のセルロース系繊維を筒状有孔コアに巻き付けたカートリッジ形状であることが好ましい。また、当該カートリッジフィルターの濾過材を形成しているセルロース系繊維の繊維密度は、0.1〜1.0 g/cm3であることが好ましい。前記繊維密度が0.3 g/cm3である場合、カートリッジフィルターの厚さ方向におけるキトサン保持量の変動が小さくなることからより好ましい。
【0032】
上記のカートリッジフィルターを本発明の回収方法に使用することにより、以下で説明する各工程の操作をより簡便に実施することが可能となる。
【0033】
上記で説明したキトサンが濾過材に保持されたカートリッジフィルターは、限定するものではないが、例えば、カートリッジフィルターをキトサン含有溶液に浸漬することにより作製することができる。
【0034】
カートリッジフィルターを浸漬するキトサン含有溶液としては、溶解した状態のキトサンを含有する酸性水溶液を用いることができる。前記酸性水溶液に含まれる酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸、酢酸、乳酸、グルタミン酸、ギ酸、アジピン酸等の有機酸を用いることが好ましい。酸の濃度は、0.05〜0.5 Mであることが好ましい。また、キトサンの濃度は、1〜5重量%であることが好ましい。キトサン濃度が1重量%未満である場合、カートリッジフィルターの濾過材に保持されるキトサン量が少なくなり、結果としてインジウムの回収量が低下することから好ましくない。また、キトサン濃度が10重量%を超える場合、当該溶液の粘性が高くなり、結果として濾過材への浸透率が低下することから好ましくない。
【0035】
上記のキトサンを含有する酸性水溶液中にカートリッジフィルターを浸漬することにより、濾過材にキトサンを浸透させることができる。浸漬温度は20〜30℃であることが好ましく、浸漬時間は0.5〜5時間であることが好ましい。その後、酸性水溶液から取り出したカートリッジフィルターをアルカリ性水溶液に浸漬し、適宜水洗、乾燥処理を行うことにより、キトサンが濾過材に保持されたカートリッジフィルターを作製することができる。アルカリ性水溶液に含まれるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることが好ましい。アルカリの濃度は、0.1〜1.0 Mであることが好ましい。浸漬温度は20〜30℃であることが好ましく、浸漬時間は6〜12時間であることが好ましい。なお、濾過材に保持されたキトサンの保持量は、浸漬処理前後でのカートリッジフィルターの乾燥重量を秤量し、その差分を当該キトサンの保持量とすることにより算出される。
【0036】
以上の方法により、複雑な工程を経ることなくキトサンが濾過材に保持されたカートリッジフィルターを作製することが可能となる。当該カートリッジフィルターを本発明の回収方法に用いることにより、各工程における流速を高めることができ、処理時間を短縮することが可能となる。
【0037】
上記の方法により作製されたカートリッジフィルターを本発明の回収方法に使用してもよいが、当該カートリッジフィルターの濾過材に保持されているキトサンは不溶化処理されていないため、酸性溶液に可溶である。それ故、当該カートリッジフィルターの濾過材に保持されているキトサンを不溶化処理することにより、カートリッジフィルターの濾過材に保持されているキトサンを、酸性溶液においても溶解しない、不溶化処理されたキトサンへと導くことがより好ましい。
【0038】
カートリッジフィルターの濾過材に保持されているキトサンの不溶化処理は、限定するものではないが、例えば、上記で詳述したキトサンの架橋方法によって実施することができる。まず、上記の方法によってキトサンを濾過材に保持させたカートリッジフィルターを、予め加温した水混和性溶媒を含有する水溶液に浸漬させる。水混和性溶媒は、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、DMF、DMSOが好ましく、当該水混和性溶媒を30〜100重量%含有することが好ましい。30重量%エタノール水溶液を用いることがより好ましい。また、水混和性溶媒を含有する水溶液は室温〜80℃に予め加温することが好ましく、より好ましくは60℃である。
【0039】
次に、上記の水溶液中に架橋剤を加えた後、塩基を加える。そして、カートリッジフィルターを当該水溶液中に引き続き浸漬させる。架橋剤は、上記で述べた架橋剤から選択されることが好ましく、エピクロロヒドリンを用いることがより好ましい。架橋剤の添加量は、カートリッジフィルターの濾過材に保持されているキトサンの構成単位であるグルコサミン(分子量161)単位に対してモル比で3〜15当量とすることが好ましく、10当量とすることがより好ましい。塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ピリジン、トリエチルアミン等が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。塩基の添加量は、カートリッジフィルターの濾過材に保持されているキトサンの構成単位であるグルコサミン(分子量161)単位に対してモル比で1〜10当量とすることが好ましく、4当量とすることがより好ましい。浸漬温度は室温〜80℃であることが好ましく、浸漬時間は2〜24時間であることが好ましい。
【0040】
その後、カートリッジフィルターを取り出し、適宜水洗、乾燥処理を行うことにより、不溶化処理されたキトサンが濾過材に保持されたカートリッジフィルターを作製することができる。
【0041】
以上の方法によってカートリッジフィルターの濾過材に保持されているキトサンを不溶化処理することにより、エッチング廃液のようなシュウ酸を含有する酸性溶液からインジウムを効率よく回収することが可能となる。
【0042】
3.インジウムの回収方法
本発明のインジウムの回収方法は、シュウ酸とアニオン性の錯体を形成したインジウムを、キトサンにより吸着・回収することを特徴とする。本発明のインジウムの回収方法を構成する各工程について、以下に詳しく説明する。
【0043】
3−1.吸着工程
本工程は、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液をキトサンに接触させて、インジウムをキトサンに吸着させることを目的とする。本工程で使用されるインジウム及びシュウ酸を含有する溶液は、上記で説明した特徴を有する溶液である。また、本工程で使用されるキトサンは、上記で説明した特徴を有するキトサンであって、不溶化処理されたキトサンであることが好ましく、カートリッジフィルターの濾過材に保持されたキトサンであることが特に好ましい。この場合において、使用されるキトサンの重量は、吸着すべきインジウムの濃度に依存して適宜設定される。例えば、以下に説明する好適な条件の場合、使用されるキトサンの重量は、インジウム1 mmolに対して0.5〜10 gであることが好ましい。
【0044】
本工程において、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液をキトサンに接触させる態様は、使用されるキトサンの実施形態に依存して適宜選択される。例えば、キトサン又は不溶化処理されたキトサンを使用する場合、(1)インジウム及びシュウ酸を含有する溶液に、キトサン若しくは不溶化処理されたキトサンを加えて浸漬し、混合する(バッチ法);又は(2)カラムにキトサン若しくは不溶化処理されたキトサンを充填し、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液をカラム端部の一方から通液する(カラム法);のいずれか1つ又はそれらを組み合わせることにより、本工程を実施することができる。インジウム及びシュウ酸を含有する溶液が少量の場合には、高い吸着率を達成できることからカラム法を用いることが好ましい。しかしながら、処理すべきインジウム及びシュウ酸を含有する溶液が大量の場合には、溶液の体積に比例してカラム作製に要するコスト及び労力が上昇する。それ故、大量の溶液を処理する場合には、バッチ法を用いることがより好ましい。
【0045】
カートリッジフィルターの濾過材に保持されたキトサンを使用する場合、カートリッジフィルターの形状に適合したフィルターハウジング内に該カートリッジフィルターを装着し、液導入部からインジウム及びシュウ酸を含有する溶液を通液することにより、本工程を実施することができる。ここで、使用されるカートリッジフィルターは、上記で説明した好適な特徴を有するカートリッジフィルターである。また、使用されるフィルターハウジングは、上記で説明した方法により作製されたカートリッジフィルターを装着できるものであれば、その材質、形状については特に限定されない。当業界で慣用される様々な種類のフィルターハウジングを使用することができる。使用される溶液の性状を考慮した場合、耐酸性の高いポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、フッ素系等の樹脂製フィルターハウジングを使用することが好ましい。カートリッジフィルターをフィルターハウジング内に装着した形態で本工程を実施することにより、吸着処理が終了したカートリッジフィルターをフィルターハウジングから取り出すだけで当該処理溶液と分離することができるため、各工程間の移行を簡便かつ迅速に行うことが可能となる。
【0046】
カートリッジフィルターの濾過材に保持されたキトサンを使用する場合、カートリッジフィルターのサイズ及び/又は本数を増減させることにより、簡便にキトサンの量を調節することが可能となる。
【0047】
上記で説明したカートリッジフィルターに、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液を通液する際の流速は、該溶液の体積やカートリッジフィルターのサイズ及び/又は本数に依存して適宜設定することができるが、通常、130〜520(h-1)の空間速度(SV)であることが好ましい。かかる流速は、イオン交換樹脂等を用いる従来技術の回収方法と比較してより高流速であることから、従来技術と比較して短時間でインジウムをキトサンに吸着させることが可能となる。
【0048】
以上のような態様で本工程を実施することにより、処理に要する労力を削減し、かつ処理時間を短縮することが可能となる。
【0049】
3−2.循環工程
上記で説明した吸着工程は、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液をキトサンに接触させ、接触後の溶液を該キトサンに循環させる循環工程によって実施してもよい。
【0050】
本工程において、キトサン又は不溶化処理されたキトサンを使用する場合、上記で説明した態様でインジウム及びシュウ酸を含有する溶液をキトサンに接触させた後、接触後の溶液をキトサンと分離する。例えば、バッチ法であれば濾過等の方法によって、カラム法であればカラムから溶出液を回収することによって、接触後の溶液を分離することができる。その後、キトサンと分離された接触後の溶液をそのままの状態で、又は所望によりpH調整、濃縮等の追加の処理を行った後に、該キトサンに循環させる。例えば、バッチ法であれば分離されたキトサンを接触後の溶液に再び加えて浸漬し、混合することによって、カラム法であれば接触後の溶液をカラム端部の一方から再び通液することによって循環させることができる。
【0051】
また、カートリッジフィルターの濾過材に保持されたキトサンを使用する場合、上記で説明した態様で、キトサンが濾過材に保持されたカートリッジフィルターにインジウム及びシュウ酸を含有する溶液を通液する。ここで、カートリッジフィルターを通過した溶液を該カートリッジフィルターの液導入部に再び導くことにより、極めて容易に接触後の溶液をキトサンに循環させることができる。かかる実施形態の場合、溶液を循環させる流速は、上記の吸着工程と同じ流速であることが好ましい。
【0052】
本工程において、キトサンに接触後の溶液を該キトサンに循環させる回数は任意に設定しうる。キトサンに対するインジウム吸着量に基づき、該インジウム吸着量が飽和値に達するまで本工程を実施することが好ましい。なお、キトサンに対するインジウム吸着量は、溶液中に残存するインジウムを定量し、該定量値を吸着工程に供する前のインジウム量から差し引くことによって算出することができる。この場合において、インジウムの定量は、例えば原子吸光光度計又はICP発光分光分析装置によって実施することが好ましい。
【0053】
以上のような態様で循環工程を実施することにより、キトサンに対するインジウムの吸着率を向上させることが可能となる。
【0054】
3−3.アルカリ処理工程
本発明の回収方法は、以下で説明する脱離工程の前に、インジウムを吸着させたキトサンをアルカリ性水溶液に接触させるアルカリ処理工程を実施してもよい。インジウム及びシュウ酸を含有する溶液中に、例えばスズ、アルミニウム、亜鉛、鉛、シリカ等の一種以上の他の金属イオンが共存していた場合、これらの金属イオンは吸着工程においてインジウムとともにキトサンに吸着されうる。かかる状態で脱離工程を実施すると、インジウムとともに当該他の金属イオンも脱離することとなる。それ故、本工程は、脱離工程においてインジウムと他の金属イオンとの分離を高めることを目的とする。
【0055】
本工程において使用されるアルカリ性水溶液は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、ピリジン等のアルカリを含有することが好ましい。また、アルカリの濃度としては、0.5 M以上であることが好ましく、1.0 M以上であることがより好ましい。上記の濃度で好適なアルカリを含有するアルカリ性水溶液を用いることにより、以下で説明する脱離工程において、例えばスズ、アルミニウム、亜鉛、鉛、シリカ等の共存する他の金属イオンとインジウムとの分離を高め、インジウムのみを選択的に回収することが可能となる。
【0056】
本工程は、上記で説明した吸着工程の態様に依存して、様々な態様で実施しうる。例えば、吸着工程においてキトサン又は不溶化処理されたキトサンを使用する場合、バッチ法であれば、濾過等の方法によってインジウムを吸着させたキトサンを分離し、次いで該キトサンを上記のアルカリ性水溶液に浸漬し、混合することが好ましい。カラム法であれば、上記のアルカリ性水溶液をカラム端部の一方から通液することによって、カラム内の溶液をアルカリ性にすることが好ましい。
【0057】
吸着工程においてカートリッジフィルターの濾過材に保持されたキトサンを使用する場合、該カートリッジフィルターを装着したフィルターハウジングの液導入部からアルカリ性水溶液を通液することによって、カートリッジフィルター内の溶液をアルカリ性にしてもよい。しかしながら、キトサンが濾過材に保持されたカートリッジフィルターをフィルターハウジングから取り出し、該カートリッジフィルターを上記のアルカリ性水溶液に浸漬することがより好ましい。
【0058】
以上のような態様でアルカリ処理工程を実施することにより、以下で説明する脱離工程におけるインジウムと他の金属イオンとの分離を高めることが可能となる。
【0059】
3−4.脱離工程
本工程は、インジウムを吸着させたキトサンを酸性水溶液に接触させて、インジウムを脱離させることを目的とする。上記で説明したように、インジウムは、シュウ酸とアニオン性の錯体を形成した状態でキトサンのアミノ基に吸着されている。ここでインジウムを吸着させたキトサンを、シュウ酸よりも酸性度の高い酸を含有する酸性水溶液に接触させると、pH変化によりシュウ酸イオンから遊離酸の形態にシュウ酸の解離平衡が遷移する。この平衡状態の遷移により、シュウ酸とアニオン性の錯体を形成していたインジウムは、カチオン性のインジウムイオンの状態となり、キトサンから脱離することとなる。
【0060】
それ故、本工程において使用される酸性水溶液は、シュウ酸よりも酸性度の高い酸を含有する水溶液であって、例えば、塩酸、硫酸又は硝酸等の酸を含有することが好ましい。また、酸の濃度としては、0.1 M以上であることが好ましく、0.5 M以上であることがより好ましい。上記の濃度で好適な酸を含有する酸性水溶液を用いることにより、インジウムの脱離率を高めることが可能となる。
【0061】
本工程は、上記で説明した吸着工程の態様に依存して、様々な態様で実施しうる。例えば、吸着工程においてキトサン又は不溶化処理されたキトサンを使用する場合、バッチ法であれば、濾過等の方法によってインジウムを吸着させたキトサンを分離し、次いで該キトサンを上記の酸性水溶液に浸漬し、混合することによってインジウムを脱離させることが好ましい。カラム法であれば、上記の酸性水溶液をカラム端部の一方から通液することによって、カラムからの溶出液中にインジウムを脱離させることが好ましい。
【0062】
吸着工程においてカートリッジフィルターの濾過材に保持されたキトサンを使用する場合、該カートリッジフィルターを装着したフィルターハウジングの液導入部から酸性水溶液を通液することによって、カートリッジフィルターからの溶出液中にインジウムを脱離させてもよい。しかしながら、キトサンが濾過材に保持されたカートリッジフィルターをフィルターハウジングから取り出し、該カートリッジフィルターを上記の酸性水溶液に浸漬することによってインジウムを脱離させることがより好ましい。カートリッジフィルターを酸性水溶液に浸漬する場合、カートリッジフィルターを装着したフィルターハウジングの液導入部から酸性水溶液を通液する場合に比べて、より少量の酸性水溶液でインジウムを回収することができる。それ故、カートリッジフィルターを酸性水溶液に浸漬することにより、インジウムを濃縮しつつ回収することが可能となる。また、脱離工程後のカートリッジフィルターは、特別な前処理を必要とせずに適宜水洗を行うことにより、本発明の回収方法に再度使用できるので、処理コストの削減を図ることが可能となる。
【0063】
以上のような態様で脱離工程を実施することにより、アニオン性の錯体を形成した状態でキトサンに吸着されているインジウムを、該キトサンから完全又は略完全に脱離させることが可能となる。
【0064】
以上説明したように、本発明のインジウムの回収方法は、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液からインジウムを高い効率で回収することができる。それ故、本発明のインジウムの回収方法は、ITO透明電極製造時に排出されるエッチング廃液のようなシュウ酸溶液から、インジウムを効率よく吸着することができる。特に、脱離工程の前にアルカリ処理工程を実施することにより、エッチング廃液中に共存しているスズ等の他の金属イオンとインジウムを分離し、インジウムのみを回収することができる。また、本発明のインジウムの回収方法に使用されるキトサンは、様々な実施形態で用いることが可能であり、キトサンが不溶化処理された形態や、キトサンがカートリッジフィルターの濾過材に保持された形態で用いることにより、工業的な規模で長期にわたって使用することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例1:通液時の流速とインジウムの吸着速度との関係
(1)キトサンコーティングカートリッジフィルターの作製
キトサン濃度が3重量%となるように、0.15 Mの酢酸水溶液に市販のキトサン粉末(キミカキトサンF、(株)キミカ製、脱アセチル化度:80〜90%)を溶解し、キトサン溶液を調製した。この溶液に、密度0.3 g/cm3となるようにコットン糸を筒状有孔コアに巻き付けたカートリッジフィルター(筒状部長さ58 mm、外径φ61 mm)を3時間浸漬させた。
【0067】
前記カートリッジフィルターをキトサン溶液から取り出した後、0.3 Mの水酸化ナトリウム水溶液に6時間浸漬させた。その後、カートリッジフィルターを取り出して純水を用いて浸漬洗浄した後、該カートリッジフィルターを60℃で12時間乾燥させることにより、カートリッジフィルター上にキトサンを固着させた。
【0068】
次に、架橋処理にてキトサンを不溶化すべく、あらかじめ60℃に加温した30体積%のエタノール水溶液中に、上記の工程によりキトサンを固着させたカートリッジフィルターを2時間浸漬させた。次いで、当該エタノール水溶液中に、キトサン保持量に対して10当量のエピクロロヒドリンを加え、カートリッジフィルターをさらに10分間浸漬させた。その後、キトサン保持量に対して4当量の水酸化ナトリウム水溶液を加え、該カートリッジフィルターを引き続き60℃で2時間浸漬させた。
【0069】
反応後、カートリッジフィルターを取り出して純水を用いて浸漬洗浄した後、カートリッジフィルターを60℃で12時間乾燥させることにより、不溶化処理されたキトサンが濾過材に保持されたカートリッジフィルターを得た。以下、本実施例では当該カートリッジフィルターを「キトサンコーティングカートリッジフィルター」と表記する。
【0070】
上記の方法で作製されたキトサンコーティングカートリッジフィルターをポリプロピレン製ハウジングに装着し、以下の試験に用いた。
【0071】
(2)循環通液による吸着試験
5重量%シュウ酸水溶液中にインジウムを150 ppmの濃度で含有する試験液1 Lを3組調製した。各試験液を、250 mL/min(SV=130)、500 mL/min(SV=260)、1000 mL/min(SV=520)の流速にて、(1)で作製したキトサンコーティングカートリッジフィルターにそれぞれ通液して循環させた。
【0072】
循環開始後、各流速における試験液中のインジウム濃度を経時的に定量した結果を図1に示す。図1において、横軸は処理時間(時間)であり、縦軸はキトサンコーティングカートリッジフィルターのインジウム吸着率(%)を示す。
【0073】
なお、試験液中のインジウム濃度は、循環中の試験液から測定試料を一定量採取し、原子吸光光度計又はICP発光分光分析装置によって測定した。循環開始時及び各測定時のインジウム濃度の測定値から、以下の式を用いてインジウム吸着率を算出した。
インジウム吸着率(%)={(開始時試験液のインジウム濃度―経時試験液のインジウム濃度)/開始時試験液のインジウム濃度}×100
【0074】
図1に示すように、キトサンコーティングカートリッジフィルター中を循環させる流速が向上するに従い、インジウム吸着率はより短時間で上昇し、それぞれ一定の飽和値に達することが明らかとなった。より具体的には、例えば500 mL/min(SV=260)での通液時におけるインジウム吸着率は、循環開始後1時間の時点で50%以上に達し、4時間の時点で70%以上に達した。
【0075】
比較例1:バッチ処理による吸着試験
実施例1の(1)と同様の方法により作製したキトサンコーティングカートリッジフィルターを、実施例1の(2)と同様の方法により調製した試験液に浸漬させて、バッチ処理による吸着試験を行った。結果を併せて図1に示す。
【0076】
図1に示すように、浸漬開始後8時間が経過した時点においても、インジウム吸着率は50%に満たない結果であった。
【0077】
比較例2:強塩基性陰イオン交換樹脂充填カラムとのインジウム吸着特性の比較試験
実施例1のキトサンコーティングカートリッジフィルターの代わりに、強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムを用いて、実施例1(2)と同様の方法により循環通液による吸着試験を行った。
【0078】
なお、強塩基性陰イオン交換樹脂は、4級アンモニウム基を陰イオン交換基として有する市販の樹脂(アンバーライトIRA402BL、ローム・アンド・ハース製)をOH型の状態にて使用した。また、カラムへの充填量としては、実施例1のキトサンコーティングカートリッジフィルターに保持されたキトサン重量と同様の3 gとし、流速をSV=260にて同じく8時間処理した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、実施例1のキトサンコーティングカートリッジフィルターと比較例2の強塩基性陰イオン交換樹脂カラムについて、各吸着剤(キトサン又はイオン交換樹脂)1 g当りのインジウム吸着量に基づいて比較した場合、実施例1のキトサンコーティングカートリッジフィルターによる吸着量に対して比較例2の強塩基性陰イオン交換樹脂による吸着量は67%となり、実施例1のキトサンコーティングカートリッジフィルターのインジウム吸着能の方がより優位となる結果であった。
【0081】
実施例2:キトサンコーティングカートリッジフィルターからのインジウムの脱離性
実施例1の方法によりインジウムを吸着させたキトサンコーティングカートリッジフィルターを、ポリプロピレン製ハウジングから取り出した。0.5 M 塩酸 250 mLに、前記キトサンコーティングカートリッジフィルターを24時間浸漬させ、キトサンコーティングカートリッジフィルターに吸着されたインジウムを溶出させた。吸着前後の試験液中のインジウム量及び脱離液中のインジウム量を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
表2に示すように、キトサンコーティングカートリッジフィルターに吸着されたインジウム総量のうち98%が、0.5 M 塩酸による脱離処理で溶出することが明らかとなった。少量の脱離液(本実施例では250 mL)でほぼ全量の吸着済インジウムが溶出されたことから、この工程により、インジウムを濃縮することができると考えられる。
【0084】
実施例3:共存金属存在下での吸着挙動
エッチング廃液には、インジウムとともにスズ等の他の金属イオンが共存している。そこで、実施例1(2)の方法において、インジウムを150 ppm、スズを15 ppmの濃度で含有する試験液をエッチング廃液擬似液として調製し、キトサンコーティングカートリッジフィルターを用いた循環通液による吸着試験を行った。対照区の試験液としては、実施例1と同様に、インジウムを単独で含有する試験液(150 ppm インジウム)を用いた。なお、いずれの試験液も500 mL/min(SV=260)のみの流速で循環通液した。結果を図2に示す。
【0085】
図2に示すように、上記の濃度でスズが共存する試験液を用いた場合においても、インジウムを単独で含有する実施例1の試験液を用いた場合と同様に、キトサンコーティングカートリッジフィルターにインジウムが吸着されることが明らかとなった。また、この際、インジウムと共存するスズも、キトサンコーティングカートリッジフィルターに吸着されることが示された。なお、試験開始時と終了時でのシュウ酸濃度は共に0.4 mol/Lであり、今回の処理による変化はなかった。
【0086】
実施例4:インジウム成分とスズ成分の分離回収
実施例3と同様の試験液(インジウムを150 ppm、スズを15 ppmの濃度で含有する試験液)を用いて、キトサンコーティングカートリッジフィルターにインジウムとスズを吸着させた。吸着処理後、キトサンコーティングカートリッジフィルターをポリプロピレン製ハウジングから取り出し、アルカリ水溶液に浸漬させた後、酸性水溶液に浸漬させて脱離液を得た。対照区の試料としては、実施例2と同様に、アルカリ水溶液に浸漬させずに酸性水溶液にのみ浸漬させて得られた脱離液を用いた。
【0087】
なお、酸性水溶液として0.5 M 塩酸、アルカリ水溶液として1.0 M 水酸化ナトリウムをそれぞれ用い、浸漬時間はそれぞれ24時間とした。結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
表3に示すように、インジウムに関しては、アルカリ浸漬処理の有無にかかわらず酸性水溶液中への脱離量は略同程度であったのに対し、スズに関しては、アルカリ浸漬処理を行った場合には酸性溶液中に殆ど脱離しなかった。それ故、酸性溶液への浸漬による脱離処理前にアルカリ浸漬処理を組み合せることにより、スズ共存下でもインジウム成分の選択的な分離、濃縮ができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液からのインジウム回収に適用できる。特に、ITO透明電極製造時に排出されるエッチング廃液のようなシュウ酸溶液から、他の金属イオンと分離してインジウムのみを回収することが可能である。エッチング廃液に本発明の回収方法を適用した場合、インジウム回収後の溶液中におけるシュウ酸濃度は吸着工程に供する前と特に変化しない。このため、インジウムをはじめとする金属イオンが除去された当該溶液は、ITO透明電極製造時のエッチング液として再利用することが可能である。
【0091】
本発明のインジウムの回収方法に使用されるキトサンとして、キトサンがカートリッジフィルターの濾過材に保持された形態で用いた場合、吸着工程の流速を高めることができる。さらに、カートリッジフィルターを酸性水溶液に浸漬することで脱離工程を実施することにより、少量の酸性水溶液中にインジウムを濃縮しつつ回収することができる。このため、従来技術に比べて処理時間及び処理工数を削減することが可能である。
【0092】
また、本発明のインジウムの回収方法に使用されるキトサンは、カニ及びエビ等の甲殻類の殻から安価に製造することができるため、インジウムの回収コストを低廉に抑えることが可能となるとともに、バイオマス廃棄物の有効活用を図ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム及びシュウ酸を含有する溶液をキトサンに接触させて、インジウムをキトサンに吸着させる吸着工程;及び
インジウムを吸着させたキトサンを、塩酸、硫酸又は硝酸を含有する酸性水溶液に接触させて、インジウムを脱離させる脱離工程;
を含む、インジウムの回収方法。
【請求項2】
インジウム及びシュウ酸を含有する溶液中のシュウ酸濃度が1〜8重量%である、請求項1の回収方法。
【請求項3】
酸性水溶液が0.1 M以上の塩酸を含有する、請求項1又は2の回収方法。
【請求項4】
前記吸着工程が、インジウム及びシュウ酸を含有する溶液をキトサンに接触させ、接触後の溶液を該キトサンに循環させる循環工程によってインジウムをキトサンに吸着させる工程である、請求項1〜3のいずれか1項の回収方法。
【請求項5】
前記脱離工程の前に、インジウムを吸着させたキトサンをアルカリ性水溶液に接触させるアルカリ処理工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項の回収方法。
【請求項6】
アルカリ性水溶液が0.5 M以上の水酸化ナトリウムを含有する、請求項5の回収方法。
【請求項7】
キトサンが不溶化処理されている、請求項1〜6のいずれか1項の回収方法。
【請求項8】
キトサンがカートリッジフィルターの濾過材に保持されている、請求項1〜7のいずれか1項の回収方法。
【請求項9】
カートリッジフィルターの濾過材が、コットン、レーヨン、パルプ、アセチルセルロース及びニトロセルロースからなる群より選択されるセルロース系繊維によって形成されている、請求項8の回収方法。
【請求項10】
セルロース系繊維の繊維密度が0.1〜1.0 g/cm3である、請求項9の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−47016(P2011−47016A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197768(P2009−197768)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(000232885)株式会社ロキテクノ (18)
【Fターム(参考)】