説明

シュウ酸塩関連疾患を子防するためのシュウ酸塩分解微生物またはシュウ酸塩分解酵素

【課題】ヒトのシュウ酸塩関連疾患を治療する医薬の提供。
【解決手段】シュウ酸塩関連疾患の危険性が高い人の腸管に、選択された菌株および/またはシュウ酸分解酵素を輸送するための材料および方法。前述の菌および/または関連する酵素を投与することにより、腸管からシュウ酸塩が除去され、従って、吸収されるシュウ酸塩の量が低下し、シュウ酸塩関連疾患の危険性が低下する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、1997年5月23日に提出された米国特許仮出願第60/047,473号の優先権を主張するものである。
【0002】
腎尿路結石疾患(尿石症)は世界の主要な健康問題である。尿石症に関連する結石のほとんどは、シュウ酸カルシウム単独またはシュウ酸カルシウムとリン酸カルシウムを含む。他の疾患状態も過剰なシュウ酸塩に関連すると報告されている。これらには、会陰部痛、末期腎疾患並びにクローン病および他の腸疾患状態に関連するシュウ酸症が含まれる。
【0003】
シュウ酸(および/またはその塩であるシュウ酸塩)は多種多様の食物中に見いだされるので、人間の食事の多数の成分中の一構成要素である。高濃度のシュウ酸を含有する食物を摂取するとシュウ酸塩の吸収増加が生じることがある。ほうれん草および大黄などの食物は大量のシュウ酸塩を含有することが知られているが、多数の他の食物や飲料水もシュウ酸塩を含有する。シュウ酸塩はこのように多種多様な食物中に見いだされるので、シュウ酸塩含量が低く、味もよい食事は調製することが困難である。
【0004】
シュウ酸塩はまた正常な組織の酵素によって代謝過程により産生される。シュウ酸塩(吸収される食事中のシュウ酸塩および代謝過程により産生されるシュウ酸塩)は組織の酵素によってそれ以上代謝されないので、排泄されなければならない。この排泄は主に腎臓を経由する。腎液中のシュウ酸塩濃度は重大であり、シュウ酸塩濃度が上昇するとシュウ酸塩カルシウム結晶が形成される危険性が増し、従って腎結石が形成される危険性が増す。
【0005】
腎結石形成の危険性は、まだ完全に理解されていない数多くの要因による。腎尿路結石疾患は欧米国家人口の約2%に生じ、これらの結石の約70%はシュウ酸カルシウムまたはシュウ酸カルシウムとリン酸カルシウムを含む。人によっては、他の人よりも食事からより多くのシュウ酸塩を吸収する人(例えば、クローン病、炎症性脳疾患または脂肪便などの腸疾患患者、および空回腸バイパス手術を受けた患者)もいる。このような人はシュウ酸塩尿石症の発現頻度が顕著に高い。疾患発現頻度の増加は腎臓および尿中のシュウ酸塩濃度の増加により、この、人では最も多く見られる過シュウ酸症は腸性過シュウ酸症として知られる。シュウ酸塩はまた末期腎疾患患者での一問題でもあり、最近、尿中シュウ酸塩の上昇が外陰の前庭炎(会陰部痛)にも関係するという証拠が示されている(ソロモンズ(Solomons)ら[1991]「外陰の前庭炎に関するシュウ酸カルシウム(Calcium citrate for vulvar vestibulitis)Journal of Reproductive Medicine36:879-882)。
【0006】
シュウ酸塩を分解する細菌はヒトの糞から単離されている(アリソン(Allison)ら[1986]「ヒトの消化管細菌によるシュウ酸塩の分解(Oxalate degradation by gastrointestinal bacteria from humans)J.Nutr.116:455-460)。これらの細菌は、数多くの動物種の脳内容物から単離されているシュウ酸塩分解細菌と似ていることが見いだされている(ダウソン(Dawson)ら[1980]「反芻動物の第一胃の嫌気性シュウ酸塩分解細菌の単離といくつかの特徴(Isolation and some characteristics of anaerobic oxalate-degrading bacteria the rumen)Appl.Environ.Microbiol.40:833〜839;アリソン(Allison)およびクック(Cook)[1981]「草食動物の大腸の微生物によるシュウ酸塩の分解:食餌中のシュウ酸塩の影響(Oxalte degradation by microbes of the large bowel of herbivores:the effects of dietary oxalte)」Science 212:675〜676:ダニエル(Daniel)ら[1987]「ラットの消化管内での微生物によるシュウ酸塩の分解(Microbial degradation of oxalate in thegastrointestinal tracts of rats)」Appl.Environ.Microbiol.53:1793〜1797)。これらの細菌はこれまでに記載されているいかなる生物とも異なり、新規の種で新規の属名が与えられている(アリソン(Allison)[1985]「オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)gen.nov.,sp.nov.:胃腸管に生息するシュウ酸塩分解嫌気性菌(oxalate-degrading anaerobes that inhabit the gastointestinal tract)Arch.Microbiol.141:1〜7)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
全てのヒトが腸管にオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)を保有しているわけではない(アリソン(Allison)[1995]「カン(Khan,S.R.)(編)、生物系におけるシュウ酸カルシウム(Calcium Oxalate in Biological Systems)CRC出版(CRC Press)に収載のシュウ酸塩分解細菌(Oxalate-degrading bacteria);ドアン(Doane)ら[1989]「微生物によるシュウ酸塩の分解(Microbial oxalate degradation):ヒトにおけるシュウ酸塩とカルシウムバランスに対する影響(effects on oxalate and calsiumu balance in humans)」Nutrition Research9:957〜964)。空回腸バイパス手術を受けている人の糞試料中にはシュウ酸塩分解細菌が非常に低濃度であるか、全く存在しない(アリソン(Allison)[1986]「ヒトの消化管細菌によるシュウ酸塩の分解(oxalate degradation by gastrointestinal bacteria from humans)」J.Nutr.116:455〜460)。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、胃腸管から吸収される食事中のシュウ酸塩の量を制限することによって、尿石症を発症する危険性を低下させる材料と方法とに関する。本発明の一態様において、シュウ酸塩吸収の低下は、胃腸管にシュウ酸塩分解細菌を供給することによって達成される。好ましい態様において、これらの細菌はオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)である。これらの細菌は増殖基質としてシュウ酸塩だけを使用する。このように利用されることによって、腸内の可溶性シュウ酸塩の濃度は低下し、従って吸収されるシュウ酸塩の量も低下する。
【0009】
具体的な態様において、本発明は、シュウ酸塩関連疾患の危険性が高い人の腸管にオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)を輸送するための材料および方法を提供する。これらの細菌およびそれらの子孫は腸内で複製し、腸管からシュウ酸塩を除去することによって、吸収されるシュウ酸塩の量を低下させ、従ってシュウ酸塩関連疾患の危険性を低下させる。
【0010】
本発明のさらに別の態様において、シュウ酸塩吸収の低下は、シュウ酸塩を分解する作用を有する酵素を投与することによって達成される。これらの酵素は単離および精製することができ、またはそれらはオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)の細胞溶菌液として投与することができる。具体的な態様において、投与される酵素はホルミル-CoAトランスフェラーゼおよびオキサリル-CoAデカルボキシラーゼである。好ましい態様において、酵素活性を改善する追加の因子が投与されてもよい。これらの追加の因子は、例えば、オキサリル-CoA、MgCl2およびTPP(チアミンニリン酸、ビタミンB1の活性型)であってもよい。
【0011】
本発明のさらに別の局面は経口投与のための薬学的組成物に関する。これらの組成物は、ヒトの小腸内でシュウ酸塩分解細菌またはシュウ酸塩分解酵素を放出する。好ましくは、微生物および/または酵素は、ヒトの胃内に材料を放出する可能性を低くし、小腸内での放出の可能性を高くする用量輸送系として封入される。本発明の微生物および/または酵素はまた、ミルク、肉およびヨーグルトなどの食物の一構成成分として投与されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1a】オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞を食事に加えた場合の、食事中のシュウ酸塩の動態を評価する試験の結果を示す。
【図1b】オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞を食事に加えた場合の、食事中のシュウ酸塩の動態を評価する試験の結果を示す。
【図2a】オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞を食事に加えた場合の、食事中のシュウ酸塩の動態を評価する試験の結果を示す。
【図2b】オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞を食事に加えた場合の、食事中のシュウ酸塩の動態を評価する試験の結果を示す。
【図2c】オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞を食事に加えた場合の、食事中のシュウ酸塩の動態を評価する試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
木発明は、ヒトの腸管にシュウ酸塩分解細菌および/または酵素を導入することであって、これらの材料の活性がシュウ酸塩の吸収を低下させ、シュウ酸塩による疾患の危険性を低下させることに関する。
【0014】
具体的な態様において、本発明はシュウ酸塩分解細菌種オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)の細胞を調製することと、ヒトの腸管に投与することとに関し、該腸管では、それら細胞の代謝活性が、腸から吸収され得るシュウ酸塩の量を低下させ、従って腎臓および他の細胞液中のシュウ酸塩濃度を低下させる。導入した細胞は腸内の生育場所でシュウ酸塩を分解して複製するので、初代細胞の子孫も腸にコロニーを形成し、シュウ酸塩を除去し続ける。この活性は腎結石形成の危険性を低下させ、シュウ酸によって生じる他の合併症の危険性を低下させる。好ましい態様において、使用するオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)の具体的な菌株はヒトの腸試料から単離した菌株である。従って、この菌株は正常なヒト腸内細菌叢の一部である。しかし、それらは全ての人に存在するわけではないので、これらの生物の導入は一部の人に存在する欠損症を矯正する。
【0015】
小腸の内容物に1種以上のシュウ酸塩分解細菌を多量含有させることによって、腸の内容物中のシュウ酸塩が減少する。細菌の一部は吸収部位または吸収部位付近でシュウ酸塩を分解する。この細菌の活性は食事中のシュウ酸塩の吸収量を低下させる。
【0016】
小腸にシュウ酸塩分解細菌および/または酵素を導入するための薬学的組成物は、液体もしくはペースト形態で凍結乾燥もしくは凍結およびゲルカプセルへ封入された細菌および/または酵素を含む。ゲルキャップ材料は、好ましくは、胃酸の酸性および胃のペプシンによって分解されないが、近位小腸の高pHおよび胆汁酸内容物によって分解されると同時にシュウ酸塩分解材料を放出する投与ピルまたはカプセルを形成するポリマー材料である。次いで、放出された材料は小腸に存在するシュウ酸塩を無害の産物に変換する。本発明の細菌または酵素に薬学的担体が組み合わされてもよい。これらは生理食塩液-リン酸塩緩衝液を含んでもよい。
【0017】
投与される細菌および/または酵素は、胃酸の有害な影響から材料を保護するように設計されたカプセルまたはマイクロカプセルとして輸送できる。数種の腸溶保護コーティング方法の一つまたは複数を使用することができる。このような腸溶コーティングの記載にはセルロースアセテートフタレート(CAP)の使用が含まれる(ヤコビ(Yacobi,A.)、ワレガ(E.H.Walega)1988年、経口徐放性製剤(Oral sustained release formulations):投与と評価(Dosing and evaluation)、パーガモン出版(Pergammon Press))。封入技術の他の記載は、参照として本明細書に組み入れられている米国特許第5,286,495号を含む。
【0018】
小腸へのこれらの微生物および/または酵素を投与する他の方法は材料を直接食物材料に添加することを含む。細菌は、新たに採取された細胞、凍結乾燥された細胞またはその他の保護処理された細胞として添加することができる。食物の風味または外観を損ねることなく、食物にシュウ酸塩分解生物を補給することができる。これらの食物は、例えば、ヨーグルト、ミルク、ピーナッツバターまたはチョコレートであってもよい。摂取時に、食物製品が消化されて、小腸から吸収されると、本発明の微生物および/または酵素は小腸に存在するシュウ酸塩を分解し、それによって血流中にシュウ酸塩が吸収されるのを防ぐ。
【0019】
食物にシュウ酸塩分解微生物を補給することができる。微生物は培地中で増殖することができ、遠心分離によって培地からペースト形態で分離される。任意の市販の乳製品から得られた従来のヨーグルト培養物にシュウ酸塩分解微生物培養物を混合してもよい。次いで、この培養物の混合物を、風味または粘稠性に影響を与えることなく、基本的な乳製品であるヨーグルトプレミックスに添加することができる。次いで、従来の市販の方法を使用することによってヨーグルトを生成し、包装することができる。別の例では、シュウ酸塩分解細菌をすでに生成されているヨーグルトに添加することができる。
【0020】
別の例は、均質化および滅菌後のミルクに微生物を添加することである。このような方法は、現在では、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)生物をミルクに添加するために乳製品業界によって使用されている。加工処理中に選択された微生物が添加されたチーズまたは肉製品などの、細菌を含有する任意の食物材料を、シュウ酸塩分解細菌を補給することによって使用してもよい。
【0021】
本発明により使用される菌株(オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes))は、好ましくは、正常な人の腸内容物の希釈液を接種した嫌気性培養物から単離された純粋な培養物である。シュウ酸塩分解コロニーの検出を可能にする特殊なシュウ酸カルシウム含有培地を使用することができる。各菌株の純度は、少なくとも2回のその後の繰り返しクローニング段階を使用して確かめることができる。
【0022】
本発明に係る有用なオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)株はいくつかの試験に基づいて特徴づけされている:これらには、細胞の脂肪酸パターン、細胞のタンパク質、DNAおよびRNAのパターン(ジェンセン(Jensen)およびアリソン(Allison)1995年)、並びにオリゴヌクレオチドプローブに対する応答(シズ(Sidhu)ら、1996年)が含まれる。これらの細菌中2つの群(I群およびII群、共に本発明の種の記載中に存在する)について記載されている。使用した株はシュウ酸塩分解能力および人の腸管にコロニーを形成する能力に基づいて選択している。選択した株はI群およびII群の両方の種の代表を含む。
【0023】
本発明の一態様は適当なシュウ酸塩分解細菌を選択する方法、調製する方法および種々の被験者に投与する方法を含む。必ずではないが、主にこれらの者は腸内にこのような細菌を持たない人である。腸内容物に見られるものなどのように、生物が、細菌が混在する集団の中で比較的低濃度で存在するときでも、オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)を迅速且つ確定的に検出できる試験を使用して、このようなコロニーを形成していない人を同定する。本発明の方法はまた、例えば抗生物質による治療により、または術後であることによりシュウ酸塩分解細菌を欠失している個体を治療するためにも使用することができる。本発明により使用することができる細菌は少なくとも2つの方法で同定することができる: 1)これらの細菌に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを使用することができ;および/または 2)10mMシュウ酸塩を添加した嫌気性培地に接種し、37℃において1〜7日間インキュベーションした後、シュウ酸塩の損失を測定する培養試験。
【0024】
オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)株の純粋培養物は大規模な発酵バッチ培養で増殖させることができ、当業者に周知の技法を使用して細胞を回収することができる。選択された1つの菌株または既知の菌株の混合物の細胞を適宜処理して(例えば、トレハロースまたはグリセロールで凍結乾燥する)、生存性を保持し、次いで酸性の胃を通過しても細胞が保護されるように設計されたカプセルに入れる(腸溶コーティングカプセル)。
【0025】
細胞は個人の必要性に応じて決定された量および間隔で摂取される。ある場合には、1回または定期的な使用が必要とされることもあれば、規則的な摂取(例えば、食事と共に)が必要な場合もある。
【0026】
本発明はさらに、ヒトの腸管にオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細菌から調製したシュウ酸塩分解産物または酵素を投与することに関する。一態様において、シュウ酸塩分解酵素は経口消費されるための薬学的組成物として精製されて、調製されてもよい。好ましい態様において、これらの酵素は組換え的に産生される。これらの酵素をコードするDNA配列は当業者に周知であり、例えば国際公開公報第98/16632号に記載されている。これらの配列またはシュウ酸塩分解タンパク質をコードする他の配列が好適な宿主中で発現されてもよい。宿主は例えば大腸菌(E.coli)であってもよい。発現されたタンパク質は、本明細書に記載されるように、単離、精製および投与することができる。または、望ましいシュウ酸塩分解タンパク質を発現する組換え宿主を投与してもよい。組換え宿主は生菌形態または非生菌形態で投与してもよい。別の好ましい態様において、本酵素は、コーティングまたは他の方法で酵素を保護するよう処方もしくは改変され、その結果、胃においては不活性であり小腸においてはシュウ酸塩分解活性を発揮する。このような製剤の例は当業者に公知で、例えば米国特許第5,286,495号に記載されている。
【0027】
以下は、本発明を実施するための方法を例示する実施例である。これらの実施例は限定的なものとして解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0028】
実施例1−危険性が高い患者の治療
腸溶コーティングオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞を、シュウ酸塩関連疾患の危険性が高い患者集団に摂取させることができる。これらには: 1. 特発性結石疾患の多数の発作を伴う尿石症歴を有する人。
2. 腸疾患(腸−高シュウ酸尿症)による尿中シュウ酸塩濃度が高い尿石症の危険性のある人。
3. 末期腎疾患による血清シュウ酸塩濃度が高い人。
4. 外陰前庭炎を有する人。
5. インドおよびサウジアラビアのある種の地域および季節に見られるようなシュウ酸塩濃度が高い食事を取る人。
【実施例2】
【0029】
実施例2−危険性が低い患者の治療
腸溶コーティングオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞を、シュウ酸塩関連疾患の危険性が低い集団の個体に摂取させることもできる。これらには: 1. 経口抗生物質による治療または下痢疾患の発生のために正常なシュウ酸塩分解細菌集団を欠失した人。
2. 競争排除則が作動する人生の後半よりも、オクサロバクター(Oxalobacter)の正常な保護集団がより容易に確立されるように、幼児に摂取する。
3. 利益を得ることがまだ明確化されていない他の人。
【実施例3】
【0030】
実施例3−高シュウ酸尿症の抑制を目的とする、オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)由来のシュウ酸塩分解酵素の使用
高シュウ酸尿症を抑制するための、オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)由来のシュウ酸塩分解酵素の効果を評価するための試験を実施した。
使用した動物: 雄スプラーグドーリーラット(Sprague Dawley Rats):BW250 〜300g使用した食餌: 通常の食餌(N.D.):ハーランテクラッド(Harlan Teklad)T D 89222;0.5%Ca、0.4%P
使用した薬物: オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigen es)溶菌液(酵素の原料)とオキサリル-CoA、MgCl2およびTPPとの凍結乾燥混合物。
薬物投与系(カプセル):前臨床ラット試験用サイズ9カプセル(Capsu Gel)腸溶コーティングユードラジット(Eudragit)L-100-55(Hulls America,Inc.)。基底状態の24時間尿採取。
オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)についての糞分析−ラットはオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)のコロニーを形成しなかった。
【0031】
実験プロトコール:
A. 長期試験:
動物プロトコール:I群(n=4):シュウ酸塩飼料と溶菌液で飼育した。ラットには毎日午後4時に2個のカプセルを投与し、一晩シュウ酸塩飼料を与えた。飼料は日中(午前8時〜午後4時)は与えなかった。
II群(n=4):I群について記載するようにシュウ酸塩飼料で飼育した(高シュウ酸尿症対照)。
上記処置の7日目と9日目に24時間尿試料を採取した。
上記に示した2つの群のラットの平均尿中シュウ酸塩濃度に関するデータは、オクサロバクター(Oxalobacter)溶菌液の摂取により、高シュウ酸尿症の対照(II群)と比較して、I群ラットの尿中シュウ酸塩濃度が低下したことを示した。酵素は消化管内で長期にわたって活性を示すことができない;従って、短期試験を以下に記載するように実施した。
【0032】
B. 短期試験:
動物プロトコール:I群(n=4):午前8時に1カプセルを摂取させた;2時間シュウ酸塩試料を摂取させ(この間に動物がよく食べるように、ラットは一晩絶食させた)、午前10時に1カプセルを摂取させた。
II群(n=4):I群のように2時間シュウ酸塩試料を摂取させた。
次の5時間全動物から尿を採取し、シュウ酸塩濃度について分析した。
これを、この試験の11日目、12日目、および15日目に実施した。
この試験の結果は、高シュウ酸尿症対照群(II群)と比較して、オクサロバクター(Oxalobacter)溶菌液の摂取により、I群のラットにシュウ酸塩と薬物を投与した後の5時間の尿中シュウ酸塩濃度が有意に低下することを示す。この時点で、両群のラット間の交差試験を実施した。
【0033】
C. 交差試験:
動物プロトコール:I群:午前8時〜午前10時と午後3時〜午後5時の1日1回シュウ酸塩試料を摂取させた。
II群:I群と同様にシュウ酸塩試料を摂取させる前に、1日2回1カプセルを摂取させた。
尿中シュウ酸塩濃度に対するオクサロバクター(Oxalobacter)溶菌液の影響の短期試験を、交差試験の2日後および5日後に上記のセクションBで記載したように実施した。
交差試験により、以前は高シュウ酸尿症であり、今回はオクサロバクター(Oxalobacter)溶菌液を摂取させられたII群のラットは、尿中シュウ酸塩濃度が低下することが示される。一方、I群のラットは、薬物中止の結果高シュウ酸尿症に再び転じる。
【実施例4】
【0034】
実施例4−ラットに対するオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞による治療
オキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞を飼料に混ぜたときの、飼料中のシュウ酸塩がどのようになるかを評価するための試験を実施した。
2つの別の実験において、雄のウィスター(Wistar)ラットを通常のカルシウム(1%)、高シュウ酸塩(0.5%)飼料または低カルシウム(0.02%)、高シュウ酸塩(0.5%)飼料で飼育した。14C-シュウ酸塩(2.0uCi)を試験の1日目に与え、試験の7日目に再度与えた。5〜11日目にラットの飲料水にオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞(380mg/d)を入れて投与した。糞、尿および呼気中の14Cの分析に基づいて、シュウ酸塩の14Cの動態を測定した。ラットは自己対照として働き、(オクサロバクター(Oxalobacter)細胞を摂取させる前の)対照期間中の測定を1〜4日目に実施した;(細菌細胞を摂取させた)実験期間中は、7〜11日目に測定を実施した。
【0035】
結果:
1. ラットに通常の(1%)カルシウム飼料を摂取させたとき、投与したシュウ酸塩の14Cの1%未満が(腸内の14Cシュウ酸塩から生成され、血中に吸収され、次いで呼気中に排出された二酸化炭素として)呼気中に回収されたが、全ての場合において、ラットにオクサロバクター(Oxalobacter)細胞を摂取させた期間中は、さらに多くの14Cが回収された(図1a)。これは、飼料が低カルシウム(0.02%)である場合に得られる結果と対照的であり、低カルシウムの場合は、ラットにオクサロバクター(Oxalobacter)細胞を摂取させた実験期間中に、シュウ酸塩に由来する50%より多くの14Cが呼気中の二酸化炭素として回収された(図1b)。これらの結果は、(オクサロバクター(Oxalobacter)細胞を摂取させる前の)対照期間中に回収される非常に少量の14C(5%未満)とは顕著に異なる。このように、ラットにオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)細胞を摂取させると、腸管で分解された飼料中のシュウ酸塩の量が顕著に増加した。
【0036】
2. オクサロバクター(Oxalobacter)細胞を摂取させると、尿中に排泄される14C-シュウ酸塩の量も低下した。対照および実験期間の4日間の回収物並びにこれらの期間の各々の1日の回収物の値を図2aおよび図2bにそれぞれ示す。ラット糞中に回収されたシュウ酸塩の量も、対照期間に見られたものと比較すると、実験期間(オクサロバクター(Oxalobacter)細胞を摂取させた)では低かった。
【0037】
ほとんどの実験ラットは腸管にオクサロバクター(Oxalobacter)を保有していない(それらはコロニーを形成していない)。本発明の結果は、これらのシュウ酸塩分解細菌をラットに意図的に投与することによって、飼料中の大部分のシュウ酸塩を分解し、その結果飼料から少量のシュウ酸塩しか尿中に排泄されないことを示す。
【0038】
シュウ酸塩の分解に対する飼料中のカルシウムの影響は顕著である。カルシウムはシュウ酸塩と錯体を形成するので、その溶解度およびオクサロバクター(Oxalobacter)による分解は制限され、ラットに高カルシウム飼料を摂取させたときに分解される量は、飼料中のカルシウムが低いときに分解される量よりはるかに少ない。
本明細書に記載した実施例および態様は例示のみを目的とするものであり、それらを鑑みて様々な改変または変更が当業者には示唆されると考えられるが、それらは本出願の精神および範囲ならびに添付の請求の範囲に含まれるものであることを理解されたい。


【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図2C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品中のシュウ酸塩の吸収を低下させるための方法であって、シュウ酸塩分解微生物およびシュウ酸塩分解酵素からなる群より選択される材料を含む組成物を投与する段階を含む方法。
【請求項2】
シュウ酸塩分解酵素を投与する段階を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ホルミル-CoAトランスフェラーゼおよびオキサリル-CoAデカルボキシラーゼを投与する段階を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
酵素が組換えにより製造される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
オキサリル-CoA、MgCl2、およびTPPからなる群より選択される別の因子を投与する段階をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
完全なシュウ酸塩分解生菌を投与する段階を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
微生物がオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
微生物が腸内でコロニーを形成する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
腸内にシュウ酸塩分解細菌が不十分な数しか存在しない患者を治療するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
抗生物質による治療によって自然状態の腸内細菌が欠失している患者を治療するために使用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
微生物または酵素が、胃における不活性化が低減するよう処方される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
製剤が、胃に比べて小腸で選択的に溶解されるコーティングを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
食品中のシュウ酸塩の腸からの吸収を低下させるための組成物であって、シュウ酸塩分解微生物およびシュウ酸塩分解酵素からなる群より選択される材料を含む組成物。
【請求項14】
完全なシュウ酸塩分解生菌を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
シュウ酸塩分解細菌の細胞溶菌液を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
細菌がオキサロバクター・フォルミジェネス(Oxalobacter formigenes)である、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
シュウ酸塩分解酵素を含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項18】
酵素がホルミル-CoAトランスフェラーゼおよびオキサリル-CoAデカルボキシラーゼである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
オキサリル-CoA、MgCl2、およびTPPからなる群より選択される化合物をさらに含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
胃における失活が低減するよう処方される、請求項13に記載の組成物。
【請求項21】
小腸で選択的に分解される材料でコーティングされる、請求項20に記載の組成物。


【公開番号】特開2011−63597(P2011−63597A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−237464(P2010−237464)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【分割の表示】特願平10−550675の分割
【原出願日】平成10年5月22日(1998.5.22)
【出願人】(508178191)オクセラ インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】