シュープレス用ベルト
【課題】クラックがシュープレス用ベルトにたとえ発生したとしても、発生したクラックが進展することを抑制することができるシュープレス用ベルトを提供する。
【解決手段】補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、補強基材がポリウレタン中に埋設され、外周面および内周面がポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルト2において、外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤と、を含む組成物から形成され、組成物は、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が、1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されたものである、シュープレス用ベルト2である。
【解決手段】補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、補強基材がポリウレタン中に埋設され、外周面および内周面がポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルト2において、外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤と、を含む組成物から形成され、組成物は、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が、1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されたものである、シュープレス用ベルト2である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙工業に使用されるシュープレス用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抄紙工程のプレスパートにおいて、湿紙の脱水効果を高めるために、高速で走行するフェルトに載置された湿紙の一方の面をプレスロールで押さえ、他方の面をエンドレスベルトを介して加圧シューで加圧して湿紙の脱水を行なう、いわゆるシュープレスが普及している。シュープレスにおいては、補強基材と熱硬化性ポリウレタンとを一体化し、エンドレスに形成したベルトが従来から使用されている。また、近年、紙の表面を平滑化し、光沢を付与するカレンダー工程でも、上述したような弾性ベルトを使用することが検討されている。さらには、特に高速で抄紙する場合、紙切れを防止し、安定して湿紙を搬送するためのシートトランスファー用としても、上述したような弾性ベルトを使用することが検討されている。このような製紙用ベルトの典型的な構造としては、基布の両面を弾性材料で被覆したものが、実開昭59−54598号、特許第2889341号、特許第3045975号などに開示されている。また、もう一つの典型的な構造としては、補強糸を弾性材料中に埋設したものが特許第2542250号などに開示されている。
【0003】
製紙用ベルトの弾性材料としては、ウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合し、硬化させてなる熱硬化性ポリウレタンが、特許第2889341号、特開平6−287885号、特許第3045975号、特許第3053374号、特開平11−247086号などに開示されているように一般的に使用されており、製紙用ベルトに使用されていた熱硬化性ポリウレタンは、いずれも硬化剤として、4,4’−メチレン−ビス−(2−クロロアニリン)(以下、「MOCA」という。)を用いたものであった。
【0004】
従来、シュープレスにおいては、プレスロールと加圧シューとの間でベルトに対して苛酷な屈曲および加圧が繰り返されるため、ベルトを構成するポリウレタンにクラックが発生することが大きな問題となっていた。このクラックは、フェルトあるいは紙と接するベルトの外周面に主として発生する。また、プレスパートで使用される脱水プレス用ベルトにおいては、脱水効率を上げるために、一般にその外周面に排水溝が形成されるが、前記クラックは、特にこの排水溝の底部エッジおよび上部エッジから発生しやすかった。一端発生したクラックは、ベルトの使用とともに大きなクラックへと進展していく傾向がある。クラックが進展した場合にあっては、ベルトの内周面と加圧シューとの間の潤滑油が外部へ漏れて紙に悪影響を与えたり、ベルトの層間剥離を引き起こしたりする原因となる。このように、クラックの発生および進展は、ベルトの寿命低下の原因となる。このため、シュープレスなどで使用される製紙用ベルトにおいては、クラックの発生およびクラックの進展を抑えることが強く要望されていた。
【特許文献1】実開昭59−54598号公報
【特許文献2】特許第2889341号公報
【特許文献3】特許第3045975号公報
【特許文献4】特許第2542250号公報
【特許文献5】特開平6−287885号公報
【特許文献6】特許第3053374号公報
【特許文献7】特開平11−247086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した問題を解決するものであり、本発明の課題は、クラックがシュープレス用ベルトにたとえ発生したとしても、発生したクラックが進展することを抑制することができるシュープレス用ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシュープレス用ベルトは、請求項1に記載のように、補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され、外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトにおいて、外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤と、を含む組成物から形成され、前記組成物は、前記硬化剤の活性水素基(H)と前記ウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が、1<H/NCO<1.15となる割合で前記ウレタンプレポリマーと前記硬化剤とが混合されたものである、シュープレス用ベルトである。なお、本発明において、当量比というのは化学量論的な当量比のことである。
【0007】
また、本発明に係るシュープレス用ベルトは、請求項2に記載のように、請求項1に記載の発明において、前記ポリウレタンは、120℃〜140℃の温度で硬化されたものであるシュープレス用ベルトである。
【0008】
また、本発明に係るシュープレス用ベルトは、請求項3に記載のように、請求項1または2に記載の発明において、外周表面に排水溝が形成されている製紙用ベルトである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るシュープレス用ベルトは、外周面を構成するポリウレタンにおいて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤と、を含む組成物から形成され、前記組成物は、前記硬化剤の活性水素基(H)と前記ウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が、1<H/NCO<1.15となる割合で前記ウレタンプレポリマーと前記硬化剤とが混合されたものであるから、クラックが製紙用ベルトにたとえ発生したとしても、発生したクラックが進展することを抑制することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に、抄紙工程のプレスパートに使用されるシュープレス装置の一例を示す。図1において、プレスロール1の下方には、可撓性のある円筒状のシュープレス用ベルト2が設けられている。ベルト2とプレスロール1との間には、フェルト3および湿紙4が通されている。ベルト2の外周面とフェルト3とは直接接触している。ベルト2の内周面には、プレスロール側に向けて加圧シュー5が押し付けられている。加圧シュー5とベルト2との間には、ベルト2を滑らかに走行させるために潤滑油が供給されている。ベルト2は、フェルト3との摩擦によって加圧シュー5の上を滑りながら走行する。加圧シュー5の表面は、プレスロール1の表面に対応した凹状となっている。プレスロール1と加圧シュー5との間には、広い幅の加圧脱水部Pが形成されている。この加圧脱水部で、湿紙4が脱水される。
【0011】
図2は、ベルト2の一例を示す部分断面図である。このベルトは、エンドレスであり、補強基材となる基布6と熱硬化性ポリウレタン7とが一体化してなる。基布6は、ポリアミド、ポリエステルなどの有機繊維で構成されている。基布6は、単一層からなるポリウレタン7によって含浸および被覆されている。ベルトの外周面および内周面は、ポリウレタン7で構成されている。
【0012】
図2に示したベルトを製造するには、補強基材として、液状のポリウレタンが通過しうるような比較的に目の粗いエンドレスの基布6を使用する。ここで、目の粗い基布としては、10〜100メッシュの平織り基布を使用することができる。なお、メッシュとは1インチ幅あたりの糸本数である。そして、マンドレル上にマンドレルとの間に隙間を持たせて前記基布6を配置し、上からポリウレタン7を流し込むことによって、基布6とポリウレタン7とが一体化してなり、基布6がポリウレタン7中に埋設された製紙用ベルトを製造することができる。
【0013】
図3は、図2に示したベルトの基布6に代えて、補強基材として補強糸8、9を用いた例を示す。図3に示したベルトでは、補強糸8、9が単一層からなる熱硬化性ポリウレタン7中に埋設されている。補強基材は、ベルト走行方向(以下、「MD方向」という)の糸8とこれに直角な方向(以下、「CMD方向」という)の糸9とから構成されている。MD方向の糸8およびCMD方向の糸9は、それぞれ多数本、ほぼ等間隔に配置されている。糸の材質としては、たとえばポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステルなどを使用することができる。図3に示したベルトは、マンドレル上にマンドレルとの間に隙間を持たせて糸8、9を縦および横方向に張り巡らしておき、上からポリウレタン7を流し込むことによって製造することができる。すなわち、補強糸8、9を用いた補強基材とポリウレタン7とが一体化してなり、補強糸8、9を用いた補強基材がポリウレタン7中に埋設された製紙用ベルトを製造することができる。
【0014】
図4〜図6は、図2に示したベルトのポリウレタン7を、2層で構成した構造を示すものである。
【0015】
図4は、内周面を構成するポリウレタン層10の中に基布6が埋設され、さらにその上に、外周面を構成するポリウレタン層11が被覆されて、一体化している。図4に示したベルトを製造するには、図2のベルトの製造方法に倣ってマンドレル上にマンドレルとの間に隙間を持たせて比較的に目の粗い基布6を配置し、上からポリウレタン10を流し込む。上からポリウレタン10を流し込むことによって、基布6とポリウレタン10とが一体化してなり、基布6がポリウレタン10中に埋設されたポリウレタン層が形成される。そして、さらにその上から外周面を構成するポリウレタン層11をコーティングすることによって製造することができる。
【0016】
図5に示したベルトは、基布6の両面から2層のポリウレタン12、13を含浸および被覆することにより、基布6とポリウレタン12、13とが一体化してなり、基布6がポリウレタン12、13中に埋設された製紙用ベルトが得られる。このベルトを製造する場合、裏表を反転しておいた基布6の上から内周面を構成するポリウレタン層12をコーティングし、次いで基布の裏表を反転させ、さらに外周面を構成するポリウレタン層13をコーティングする。この場合、補強基材としての基布6は、液状のポリウレタンが通過してしまわない程度に目の細かいものを使用する。なお、目の細かい基布は、多重織り基布にて通気度が200〜20cm3/sec/cm2のものを使用することができる。
【0017】
別の製造方法として、マンドレルの上に内周面を構成するポリウレタン層12を成形した後、表面に基布6を巻き付け、さらにその上から外周面を構成するポリウレタン層13をコーティングすることにより、基布6とポリウレタン12、13とが一体化してなり、基布6がポリウレタン12、13中に埋設された製紙用ベルトが得られる。
【0018】
図6は、基布6を埋設した、外周面を構成するポリウレタン層15の下に、内周面を構成するポリウレタン層14が被覆され、一体化している。このベルトを製造するには、図2のベルトの製造方法に倣って基布を埋設した外周面を構成するポリウレタン層15を成形し、その内周面上に、後から内周面を構成するポリウレタン層14をコーティングする。別の方法としては、予めマンドレルの上に内周面を構成するポリウレタン層14を成形し、その上から図2のベルトの製造方法に倣って基布を埋設した外周面を構成するポリウレタン層15を成形する。
【0019】
図7〜図9は、それぞれ図4〜図6に示した例に対応し、基布6に代えて、補強基材として補強糸8、9を用いた例を示している。
【0020】
図7に示したベルトを製造するには、図3のベルトの製造方法に倣って補強糸8、9を埋設した内周面を構成するポリウレタン層16を成形し、さらにその上から外周面を構成するポリウレタン層17をコーティングすればよい。
【0021】
図8に示したベルトを製造するには、マンドレルの上に内周面を構成するポリウレタン層18を成形した後、表面に糸8、9を縦および横方向に巻き付け、さらにその上から外周面を構成するポリウレタン層19をコーティングすればよい。
【0022】
図9に示したベルトを製造するには、図3のベルトの製造方法に倣って補強糸8、9を埋設した外周面を構成するポリウレタン層21を成形し、さらにその内周面上に、後から内周面を構成するポリウレタン層20をコーティングする。別の方法としては、予めマンドレルの上に内周面を構成するポリウレタン層20を成形した後、その上から、図3のベルトの製造方法に倣って補強糸8、9を埋設した外周面を構成するポリウレタン層21を成形する。
【0023】
図2〜図9に示した各ベルトの外周面は、ポリウレタンで形成されている。外周面を構成するポリウレタン層7、11、13、15、17、19、21は、末端にイソシアネート基(NCO)を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基(H)を有する硬化剤とを含む組成物から形成される。ウレタンプレポリマーは、ポリオールとフェニレンイソシアネート誘導体とを反応させることによって得られる。
【0024】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21のウレタンプレポリマーを得るためのポリオールは、ポリエーテルポリオールおよびポリエステルポリオールの中から選択される。ポリエーテルポリオールとしては、たとえばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、ポリカプロラクトンエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキセンアジペートなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合もしくは重合させて用いることができ、さらにこれらの変性体も用いることができる。
【0025】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21のウレタンプレポリマーを得るためのフェニレンイソシアネート誘導体としては、たとえばトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、m−キシレンジイソシアネート(m−XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21の硬化剤としては、一般的にはポリオール系、芳香族ジオール系、芳香族ジアミン系などの硬化剤が使用される。ポリオール系の硬化剤としては、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)などを使用することが可能である。また、芳香族ジオール系の硬化剤としては、ヒドロキノンジ(ベーターヒドロキシエチル)エーテル(HQEE)などを使用することができる。また、芳香族ジアミン系の硬化剤としては、4,4’−メチレン−ビス−(2−クロロアニリン)(MOCA)、トリメチレン−ビス(4−アミノベンゾアート)(CUA−4)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)などを使用することができる。中でも、本発明の一つの特徴として、芳香族ジアミン系硬化剤の一種であるジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を使用するのが好ましい。ジメチルチオトルエンジアミンは、式1で表される3,5−ジメチルチオ−2,4−トルエンジアミンを使用することができる。
【0027】
【化1】
【0028】
また、ジメチルチオトルエンジアミンは、式2で表される3,5−ジメチルチオ−2,6−トルエンジアミンを使用することができる。
【0029】
【化2】
【0030】
また、3,5−ジメチルチオ−2,4−トルエンジアミンもしくは3,5−ジメチルチオ−2,6−トルエンジアミンは、それぞれ単独でまたは混合物として用いることができる。特に好ましい硬化材として、アルベマール社より「ETHACURE 300」として市販されている、3,5−ジメチルチオ−2,4−トルエンジアミンと3,5−ジメチルチオ−2,6−トルエンジアミンとの混合物が挙げられる。
【0031】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21の硬化剤は、上記ジメチルチオトルエンジアミンを含有する場合、これにポリオール系、芳香族ジオール系、芳香族ジアミン系などの1種類または2種類以上の硬化剤を混合しても構わない。外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21の硬化剤における、上記ジメチルチオトルエンジアミンの含有量は、硬化剤の活性水素基(H)の数の50%以上を占めることが好適である。外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21の硬化剤がジメチルチオトルエンジアミンを含有することにより、ベルトの外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21にクラックが発生するのを抑えることができる。
【0032】
また、別の観点から、外周面を構成するポリウレタン層7、11、13、15、17、19、21は、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合される。このような構成とすることで、ベルトの外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21に小さなクラックが発生したとしても、発生したクラックが大きなクラックに進展するのを抑えることができる。なお、外周面を構成するポリウレタン層7、11、13、15、17、19、21は、当量比(H/NCO)の値が1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されることも可能であり、係る場合においては、小さなクラックが発生したとしても、より的確に発生したクラックが大きなクラックに進展するのを抑えることができるのである。外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21のH/NCOの値が1以下であると、クラックが発生した場合に大きなクラックに進展しやすい。一方、外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21のH/NCOの値が1.15以上であると、ポリウレタンが脆くなり、クラックが発生しやすくなる。
【0033】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21は、硬化剤としてジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用い、なおかつ硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合することにより、ベルトの外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21にクラックが発生するのを抑えることができ、もし小さなクラックが発生したとしても、発生したクラックが大きなクラックに進展するのを抑えることができる。なお、硬化剤におけるジメチルチオトルエンジアミンの含有量は、硬化剤の活性水素基(H)の数の50%以上を占めることが好適である。また、当量比(H/NCO)の値は、1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されることが好適である。
【0034】
図2〜図9に示したベルトは、脱水効率を上げるためには、図10に示すように、外周面にベルトの走行方向に沿って多数の排水溝22が形成される事が好ましい。本発明によれば、上記構成によって製紙用ベルトへのクラックの発生およびクラックの進展を抑えることができるので、ベルトの外周表面に排水溝22を形成したとしても、排水溝22の底部エッジおよび上部エッジからクラックが発生するの抑えることができる。なお、排水溝22に代えて、あるいは排水溝22とともに多数の盲孔をベルトの外周面に設けても良い。
【0035】
なお、図4〜図9において、外周面を構成するポリウレタン層7、11、13、15、17、19、21を除くポリウレタン層は、1層のみとなっているが、この外周面を構成するポリウレタン層を除くポリウレタン層10、12、14、16、18、20は、複数の層に分割しても構わない。
【0036】
また、各ベルトは全体としてエンドレスな形状であるが、各個別の層は、必ずしも層の形をとる必要はない。たとえば、あるポリウレタンは、ベルトの幅方向の一部分にのみ存在しても構わない。
【0037】
補強基材6、8、9の位置は、いずれかの単一のポリウレタン層に埋設される形でもよいし、任意の複数のポリウレタン層にまたがる形でもよい。
【0038】
図4〜図9に示したベルトは、内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20と外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21とを含んでいる。
【0039】
内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20は、外側のポリウレタン層(前記外周面を構成するポリウレタン層)11、13、15、17、19、21と同様、末端にイソシアネート基(NCO)を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基(H)を有する硬化剤とを含む組成物から形成されている。ウレタンプレポリマーは、ポリオールとフェニレンイソシアネート誘導体とを反応させることによって得られる。
【0040】
内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20のウレタンプレポリマーを得るためのポリオールおよびフェニレンイソシアネート誘導体は、外側のポリウレタン層(前記外周面を構成するポリウレタン層)11、13、15、17、19、21の場合に説明したのと同様である。内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20の硬化剤は、ポリウレタンの硬化剤として一般的に使用しうるポリオール系、芳香族ジオール系、芳香族ジアミン系などの硬化剤の中から、1種類または2種類以上の混合物として用いることができる。
【0041】
内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20を形成する組成物は、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO<1となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されている。なお、内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20を形成する組成物は、当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO≦0.99となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されていることも可能である。
【0042】
一方、外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21を形成する組成物は、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されている。なお、当量比(H/NCO)の値は、1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されることが好適である。
【0043】
硬化剤とウレタンプレポリマーとの混合割合を、内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20は0.85≦H/NCO<1とし、外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21は1<H/NCO<1.15とすることにより、内側のポリウレタン10、12、14、16、18、20と外側のポリウレタン11、13、15、17、19、21との接着力が向上し、層間剥離の発生を抑えることができる。その理由は、内側のポリウレタン10、12、14、16、18、20は、0.85≦H/NCO<1としているために科学量論的にNCO基が残存する配合であり、この残存するイソシアネート基(NCO)が、1<H/NCO<1.15とした外側のポリウレタン11、13、15、17、19、21の余剰の活性水素基(H)と反応して強固に接着一体化していると考えられる。なお、硬化剤とウレタンプレポリマーとの混合割合を、内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20は0.85≦H/NCO≦0.99とし、外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21は1.01≦H/NCO≦1.14とした場合にあっては、より好適に層間剥離の発生を抑えることができる。
【0044】
図5に示したベルトは、基布6の両面から2層のポリウレタンが含浸および被覆され、一体化している。内側のポリウレタン層12と外側のポリウレタン層13との接着面は、基布6の内部にある。このため、接着力に加えて、基布6と両ポリウレタン層12、13との間でアンカー効果が得られるため、強固な接着力が得られ、ベルトに層間剥離が発生するのを防ぐことができる。
【0045】
図5に示したベルトの好ましい態様として、内側のポリウレタン12のウレタンプレポリマーは、ポリオールとジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを反応させて得られたMDI系のウレタンプレポリマーを含有するとともに、外側のポリウレタン13のウレタンプレポリマーは、ポリオールとトリレンジイソシアネート(TDI)とを反応させて得られたTDI系のウレタンプレポリマーを含有することが挙げられる。
【0046】
MDI系のプレポリマーを使用したポリウレタンは、比較的に反応が速く進み、硬化時間が短い。このため、内側のポリウレタン12のプレポリマーとして、MDI系のプレポリマーを主成分とすることにより、ベルトを製造する段階で、まず、基布6に対して内側のポリウレタン12をコーティングしたとき、ポリウレタン12が基布6の反対側の面まで通りぬけてしまうのを防ぐことができ、含浸の位置を基布6の内部で止めることができる。一方、TDI系のプレポリマーを使用したポリウレタンは、比較的に反応が遅く進み、硬化時間が長い。このため、外側のポリウレタン13のプレポリマーとして、TDI系のプレポリマーを主成分とすることにより、内側のポリウレタン12が含浸された位置まで、外側のポリウレタン13を十分に浸透させることができる。したがって、内側のポリウレタン層12と外側のポリウレタン層13との接着面を基布6の内部に形成することができる。
【0047】
さらに、内側のポリウレタン12は、MDI系のウレタンプレポリマーに対して、硬化剤の50wt%以上をポリオールとすることが好ましい。このようにすることで、ポリウレタンの硬化時間を調節しやすくなり、基布6への含浸位置を調整できる。ポリオール系の硬化剤は、ポリエーテルポリオールおよびポリエステルポリオールの中から選択される。ポリエーテルポリオールとしては、たとえばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、ポリカプロラクトンエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキセンアジペートなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合もしくは重合させて用いることができ、さらにこれらの変性体も用いることができる。内側のポリウレタン12の硬化剤は、硬化剤の50wt%以上をポリオールとし、これに芳香族ジオール系もしくは芳香族ジアミン系の1種類または2種類以上の硬化剤を混合しても構わない。
【0048】
図5に示したベルトのさらに好ましい態様を、図11に示す。図11に示すベルトは、図5に示したベルトにおいて、多重織された織布からなる基布23を用いている。この基布23は、ポリウレタンの含浸度合を高めるために、空隙を多く含んでいる方が好ましい。多重織された基布23を用いることは、基布23自体の強度が優れているだけでなく、次のような効果を得ることができる。すなわち、多重織された織布からなる基布23を使用することにより、基布23の内部にポリウレタンを十分に浸透させることができ、内側のポリウレタン層24と外側のポリウレタン層25との接着面を基布23の内部に形成することができる。また、両方のポリウレタン層24、25と基布23との間で十分なアンカー効果が得られる。したがって、内側のポリウレタン層24と外側のポリウレタン層25との間で強固な接着力が得られ、ベルトに層間剥離が発生するのを防ぐことができる。多重織の例としては、たて4重織、たて3重織りなどが挙げられる。図11に示したベルトに使用するポリウレタンは、図5に示したものと同様である。図11に示したベルトの外周表面には、脱水効率を上げるために、走行方向に沿って多数の排水溝26が形成されている。
【0049】
図4〜図9および図11に示したベルトは、いずれも、外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21、25は、内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20、24の外周面に接着し、かつ製紙用ベルトの外周面を構成している。これらのベルトにおいて、外側のポリウレタン11、13、15、17、19、21、25は、前述のように末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ジメチルチオトルエンジアミンを主成分とする硬化剤とを含む組成物から形成されていることが好ましい。外周面を含む外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21、25の硬化剤の主成分をジメチルチオトルエンジアミンとすることにより、前述のとおり、ベルトの外周面にクラックが発生するのを抑えることができる。
【0050】
また、前述のとおり、図4〜図9および図11に示したベルトは、いずれも、外周面を含む外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21、25を形成する組成物が、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されたものとしている。このため、ベルトの外周面を構成するポリウレタン11、13、15、17、19、21、25に小さなクラックが発生したとしても、発生したクラックが大きなクラックに進展するのを抑えることができる。なお、当量比(H/NCO)の値が1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されたものとすることにより、小さなクラックが発生したとしても、より的確に、発生したクラックが大きなクラックに進展するのを防止可能である。
【0051】
さらに、他の実施形態を図12に示す。図12に示したベルトは、多重織された織布からなる基布の両面から、内側のポリウレタン層27および外側のポリウレタン層28が含浸および被覆され、外側のポリウレタン層28のさらに外側に、外周面を構成するポリウレタン層29が被覆一体化されている。内側のポリウレタン層27と外側のポリウレタン層28との接着面は、基布23の内部にある。外側のポリウレタン層28と外周面を構成するポリウレタン層29との間に、さらに1層または複数層のポリウレタン層を形成しても構わない。図12の例では、外側のポリウレタン層28と外周面を構成するポリウレタン層29との界面の位置は、基布23の表面と一致している。しかし、外側のポリウレタン層28と外周面を構成するポリウレタン層29との界面の位置は、これに限定されず、基布23の表面から上下にずれていても構わない。図12に示したベルトの外周表面にも、脱水効率を上げるために、走行方向に沿って多数の排水溝26が形成されている。
【0052】
図12に示したベルトにおいて、外周面を構成するポリウレタン層29は、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ジメチルチオトルエンジアミンを主成分とする硬化剤とを含む組成物から形成されている。この例においても、外周面を構成するポリウレタン層29の硬化剤の主成分をジメチルチオトルエンジアミンとすることにより、前述のとおり、ベルトの外周面にクラックが発生するのを抑えることができる。
【0053】
図12に示したベルトにおいて、外周面を構成するポリウレタン29は、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合したものとするのが好ましい。このような構成とすることで、ベルトの外周面を構成するポリウレタン29に小さなクラックが発生したとしても、発生したクラックが大きなクラックに進展するのを抑えることができる。なお、当量比(H/NCO)の値が1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合したものとするのがより好適である。
【0054】
図12に示したベルトは、内側のポリウレタン層27と外周面を構成するポリウレタン層29との間に外側のポリウレタン層28が存在するため、破損や層間剥離の原因となる気泡を含まないベルトとすることができる。
【0055】
ベルトを製造する際、まず基布23の裏表を反転させておく。そして、基布23の裏面となる面から内側のポリウレタン層27をコーティングして基布23の途中までポリウレタンを浸透させる。次いで基布23を反転させ、表面から基布23の残りの部分を満たすように外側のポリウレタン層28をコーティングする。さらにその上から外周面を構成するポリウレタン層29をコーティングする。このようにすれば、外側のポリウレタン28をコーティングした際に基布23の内部に残っている空気を追い出すことが出来る。したがって、内部に気泡を含まないベルトを得ることができる。
【0056】
図12に示したベルトの場合、外側のポリウレタン28は、内側のポリウレタン27または外周面を構成するポリウレタン29と同じ組成物で形成してもよいし、別の組成物で形成してもよい。
【0057】
図12の例では、ポリウレタンが内側のポリウレタン層27、外側のポリウレタン層28および外周面を構成するポリウレタン層29の3層であったが、ポリウレタンの層数は、1層のみ、2層あるいは4層以上であっても構わない。たとえば、外側のポリウレタン層28を薄い複数の層に分けてコーティングすれば、基布23内部の空気をより効果的に追い出すことができる。また、内側のポリウレタン層27も、複数回に分けてコーティングすることができる。
【0058】
この発明全体を通じて、ポリウレタンの硬化温度は、120℃〜140℃の温度で行なうのが好ましい。このようにすることで、ベルトの耐亀裂性、耐亀裂進展性ともに向上する。
【0059】
次に、図11に示したベルトの製造方法を説明する。第1工程として、多重織されたエンドレスの織布からなる基布23の裏表を反転させておく。そして、基布の裏面となる面から内側のポリウレタン層24をコーティングして基布23の途中までポリウレタンを浸透させる。このポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤とを含み、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO<1となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液である。なお、当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO≦0.99となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液とすることが好適である。コーティングしたポリウレタンは、70℃〜100℃の温度で硬化させる。
【0060】
次いで、第2工程として、基布23を反転させ、表面側から基布23の残りの部分を満たすように外側のポリウレタン層25をコーティングする。このポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤とを含み、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液である。なお、当量比(H/NCO)の値が1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液とすることが好適である。
【0061】
次いで、第3工程として、全体を120℃〜140℃の温度に加熱して、内側のポリウレタン層24の外周面上に適用した混合液を硬化させて外側のポリウレタン層25を成形するとともに内側のポリウレタン層24と外側のポリウレタン層25とを接着一体化する。
【0062】
その後、ベルトの外周表面に、走行方向に沿って多数の排水溝26を形成することにより、図11に示すベルトを得ることができる。
【0063】
この方法によれば、第1工程で、0.85≦H/NCO<1という化学量論的にNCO基が残存する配合のポリウレタンを70℃〜100℃という比較的低い温度で半硬化状態にする。そして、第2工程で、半硬化状態の内側のポリウレタン24の上から、1<H/NCO<1.15という硬化剤を多く含んだ配合の外側のポリウレタン25をコーティングする。そして、第3工程で、120℃〜140℃という比較的高い温度に加熱して全体を硬化させる。このため、内側のポリウレタン層24と外側のポリウレタン層25との接着力が向上し、層間剥離の発生を抑えることができる。
【0064】
さらに、補強基材が多重織された織布からなる基布23であるため、内側のポリウレタン層24と外側のポリウレタン層25との接着面を、基布23の内部に位置させることが容易となる。接着面が基布23の内部にあることにより、接着力に加えて、基布23と両ポリウレタン層24、25との間でアンカー効果が得られる。したがって、強固な接着力が得られ、ベルトに層間剥離が発生するのを防ぐことができる。
【0065】
上記製造方法の変形例として、補強基材に、多重織された基布23に代えて液状のポリウレタンを十分に通過させうる目の粗い基布や、図8に示したような糸8、9を用いる場合は、次のようにして製造することができる。図8に示したベルトを例にとって製造方法を説明すると、第1工程として、マンドレルの上に、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤とを含み、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO<1となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液をコーティングし、70℃〜100℃の温度で硬化させて内側のポリウレタン層18を形成する。なお、当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO≦0.99となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合すればより好適である。次いで、内側のポリウレタンの外周面上に補強基材としてCMD方向の糸9およびMD方向の糸8を巻き付ける。第2工程として、補強基材8、9の上から、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤とを含み、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液をコーティングする。なお、当量比(H/NCO)の値が1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液を用いればより好ましい。次いで、第3工程として、全体を120℃〜140℃の温度に加熱して、内側のポリウレタン層18の外周面上に適用した混合液を硬化させて外側のポリウレタン層19を成形するとともに内側のポリウレタン層18と外側のポリウレタン層19とを接着一体化する。
【0066】
図12に示したベルトを製造する場合には、上記図11に示したベルトの製造方法における第2工程と第3工程との間に、外側のポリウレタン層28の上からさらに外周面を構成するポリウレタン層29をコーティングする工程を追加すればよい。
【0067】
以上、シュープレス用のベルトを例にとって説明したが、本発明は、カレンダー用ベルト、シートトランスファー用ベルトにも適用することができる。なお、カレンダー用ベルトおよびシートトランスファー用ベルトの場合は、一般的に表面に排水溝は形成されない。
【実施例】
【0068】
実施例として、図12に示した製紙用ベルトを以下の手順で製造した。補強基材として、たて4重織の織布からなるエンドレスの基布23を準備する。この基布は、厚みが2.3mmであり、内部に空隙を有している。基布の構造は、図13に示すように、MD方向のたて糸が、表面側から順に直径0.35mmのポリエステルモノフィラメント30、3000dのポリエステルマルチフィラメント31、直径0.35mmのポリエステルモノフィラメント32、直径0.35mmのナイロンモノフィラメント33の4層からなり、CMD方向のよこ糸が、直径0.40mmのポリエステルモノフィラメント34からなっている。たて糸の本数は68本/インチであり、よこ糸の本数は56本/インチである。
【0069】
内側のポリウレタン層27となる材料として、ウレタンプレポリマー(PTMG系MDIプレポリマー:NCO%=5%)100重量部と硬化剤(PTMGとETHACURE 300とを65/35の割合でブレンド:当量値=250)27.4重量部とを個別に脱泡した後、混合した(H/NCO=0.92)。なお、NCO%とは、ウレタンプレポリマー中に含まれるイソシアネート基の重量含有率である。これを表裏を反転させておいた基布23の表面にコーティングし、80℃の温度条件下で10時間の加熱を行なった。内側のポリウレタン層27は、基布23の厚みの50%まで含浸していた。
【0070】
次いで、基布23にコーティングしたポリウレタン27を、基布23の表面からの厚みが1.0mmになるように切削・研磨を行なった。その後、コーティングした面が内側となるように基布23の表裏を反転させた。
【0071】
次に、外側のポリウレタン層28となる材料として、ウレタンプレポリマー(PTMG系TDIプレポリマー:NCO%=5%)100重量部と硬化剤(ETHACURE 300:当量値=107)13.8重量部とを個別に脱泡した後、混合(H/NCO=1.08)し、これを基布23のもう一方の面から、内側のポリウレタン層27の含浸面まで含浸させながらコーティングした。コーティングした表面は、ドクターブレードを使用して基布23の表面の位置とほぼ一致するように平滑にした。
【0072】
さらに、外周面を構成するポリウレタン層29として、前記外側のポリウレタン層28と同じ材料を外側のポリウレタン層28の上にコーティングした。その後、内側のポリウレタン層27、外側のポリウレタン層28、外周面を構成するポリウレタン層29および基布23が接着一体化するように、120℃の温度条件下にて16時間の加熱を行なった。
【0073】
さらに、外周面を構成するポリウレタン層29の厚みが1.5mmとなるように、ベルトの表面を切削・研磨した。さらに、ベルトの外表面に、走行方向に沿って溝幅0.8mm、深さ0.8mm、ピッチ2.54mmで多数の排水溝26を形成した。得られたベルトは、全体の厚みが4.8mm、表面の硬さが90°(JIS A)であった。
【0074】
次に、下記に示すように、図14に示す構造のサンプル1〜6を作成した。すなわち、補強基材として、上述の基布に用いたのと同じたて4重織の織布からなる基布23を準備する。内面を構成するポリウレタン層35として、ウレタンプレポリマー(PTMG系MDIプレポリマー:NCO%=5%)100重量部と硬化剤(PTMGとETHACURE 300とを65/35の割合でブレンド:当量値=250)27.4重量部とを個別に脱泡した後、混合した(H/NCO=0.92)。これを基布23の裏面側にコーティングし、80℃の温度条件下にて10時間の加熱を行なった。内面を構成するポリウレタン35は、基布23の厚みの50%まで含浸していた。次いで、基布23にコーティングしたポリウレタン35を、基布23の表面からの厚みが1.0mmになるように切削・研磨を行なった。
【0075】
次に、外面を構成するポリウレタン層36を形成する材料として、ウレタンプレポリマーは、ハイプレンL−100およびL−167(いずれもPTMG系TDIプレポリマー:三井化学社製)を使用し、硬化剤は、ETHACURE 300およびMOCAを使用した。これらの材料を使用し、表1に示す各配合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを個別に脱泡した後混合し、これを基布23の外側となる面から、内面を構成するポリウレタン層35の含浸面まで含浸させながらコーティングした。
【0076】
その後、120℃の温度条件下にて16時間の加熱を行ない、内面を構成するポリウレタン層35、外面を構成するポリウレタン層36、および基布23を接着一体化させた。さらに、外面を構成するポリウレタン層36の、基布23の表面からの厚みが1.5mmとなるように、ベルトの表面を切削・研磨し、サンプル1〜サンプル6を得た。
【0077】
各サンプル1〜6につき、幅20mm、長さ420mmの試験片をとる。図15に示すように、試験片37の長さ方向両端部を把持部材38で把持しながら、中間部内側に直径25mmの表面が滑らかな金属製丸棒39を当てて張力Tをかける。張力Tは9.8kN/mとした。張力Tを保ったままで、試験片37の内面と丸棒39との間にノズル40から潤滑油を供給しながら、試験片37を10cmの幅で繰り返し往復運動させる。このような方法で、試験片37に張力Tをかけながら、内面と丸棒39との間で摺動を繰り返した。試験片37の表面にクラックが発生するまでの往復回数を測定し、耐久回数とした。結果を、表1に示す。また、各サンプル1〜6についての硬さも表1に示す。なお、表中における硬化剤の配合量とは、プレポリマー100重量部に対する硬化剤の重量部数である。
【0078】
【表1】
【0079】
次に下記に示すように、サンプル7〜30を作成した。補強基材23および内面を構成するポリウレタン層35は、上述したサンプル1〜6と同様とする。外面を構成するポリウレタン層36を形成する材料として、ウレタンプレポリマーは、L−100およびL−167を使用し、硬化剤は、ETHACURE 300を使用した。これらの材料を使用し、表2に示すようなH/NCO当量比を変化させた各配合で、ウレタンプレポリマーと硬化剤とを個別に脱泡した後混合し、これを基布23の外側となる面から、内面を構成するポリウレタン層35の含浸面まで含浸させながらコーティングした。
【0080】
その後、120℃の温度条件下にて16時間の加熱を行ない、内面を構成するポリウレタン層35、外面を構成するポリウレタン層36、および基布23を接着一体化させた。さらに、外面を構成するポリウレタン層36の、基布23の表面からの厚みが1.5mmとなるように、ベルトの表面を切削・研磨し、サンプル7〜サンプル30を得た。
【0081】
各サンプル7〜30につき、JIS K6260に定義されるデマッチャ式屈曲試験機を用いて、次の条件でクラック進展性の試験を行なった。試験片のサイズは、幅20mm、長さ150mmとした。往復運動は、最大距離80.5mm、最小距離38.5mm、運動距離42.0mmとした。切り込みは、試験片の長さ方向中央、幅方向一端部外面に、長さ3mm、深さ1.5mmとして入れた。この条件で、1000回屈曲させた後、亀裂の大きさを測定した。結果を、表2中の亀裂進展長さの項目に示す。さらに、各7〜30サンプルについて、図15に示す試験装置を用い、100万回往復運動させた後、試験片にクラックが発生しているかどうかをその目視により確認した。その結果を、表2中のクラック有無の項目に示す。なお、表中における硬化剤の配合量とは、プレポリマー100重量部に対する硬化剤の重量部数である。
【0082】
【表2】
【0083】
表2からわかるように、外面を構成するポリウレタンの(H/NCO)当量比が1より大きいサンプルでは、亀裂進展長さが1mmよりも小さく抑えることができている。(H/NCO)当量比が大きい程、亀裂進展長さは小さく抑えることができる。ただし、(H/NCO)当量比を1.15まで大きくすると、100万回往復試験でクラックの発生が見られた。
【0084】
次に、内面を構成するポリウレタンの(H/NCO)当量比を変化させて、下記に示すとおり図14に示す構造のサンプル31〜36を作成した。補強基材23は、サンプル1〜30と同じものを用いた。外面を構成するポリウレタン層36は、ウレタンプレポリマーとしてL−167を、硬化剤としてETHACURE 300を用い、上記サンプル27と同じ配合割合のものとした。内面を構成するポリウレタン層35は、上記サンプル27で用いたのと同じ材料、すなわちウレタンプレポリマー(PTMG系MDIプレポリマー:NCO%=5%)と、硬化剤(PTMGとETHACURE 300とを65/35の割合でブレンド:当量値=250)とを用いた。ただし、内面を構成するポリウレタン層35は、ウレタンプレポリマーと硬化剤との配合割合を変化させて、サンプル31〜36とした。その他の製造条件および各層の厚みは、サンプル1〜30と同じとした。
【0085】
サンプル31〜36について、幅20mm、長さ420mmの試験片をとり、サンプル1〜6に対して行ったと同様に、図15に示す試験装置を用いて耐久性の試験を行った。なお、評価は、各サンプルにつき、250万回往復運動させた後の状態を確認することにより行った。この結果を表3に示す。なお、表3において、プレポリマーおよび硬化剤の数値は、重量部数を示している。
【0086】
【表3】
【0087】
内面を構成するポリウレタンのH/NCOが0.85よりも小さいと、内面を構成するポリウレタンの強度が低下し、微クラックとなって現れた。内面を構成するポリウレタンのH/NCOが1以上になると、層間剥離が発生した。
【0088】
一方、外面を構成するポリウレタンのH/NCOは、1<H/NCO<1.15であることが好ましい。表2に示されるサンプル7〜30によれば、外面を構成するポリウレタンのH/NCOが、1以下であるとクラックが広がり易くなり、1.15以上であるとクラックが発生し易くなるからである。
【0089】
なお、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】シュープレス装置を示す説明図である。
【図2】本発明による製紙用ベルトの一例を示す部分断面図である。
【図3】本発明による製紙用ベルトの他の例を示す部分断面図である。
【図4】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図5】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図6】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図7】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図8】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図9】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図10】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図11】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図12】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図13】本発明の実施例に使用した基布の構造を示す部分断面図である。
【図14】本発明の比較実験に使用したサンプルの構造を示す部分断面図である。
【図15】耐クラック性の試験装置を説明する図である。
【符号の説明】
【0091】
2 ベルト、6、23 基布、7 ポリウレタン、8 MD方向の糸、9 CMD方向の糸、10、12、14、16、18、20、24 内周面を構成する(内側の)ポリウレタン層、11、13、15、17、19、21、25 外周面を構成する(外側の)ポリウレタン層、22、26 排水溝、27 内側のポリウレタン層、28 外側のポリウレタン層、29 外周面を構成するポリウレタン層、35 内面を構成するポリウレタン層、36 外面を構成するポリウレタン層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙工業に使用されるシュープレス用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抄紙工程のプレスパートにおいて、湿紙の脱水効果を高めるために、高速で走行するフェルトに載置された湿紙の一方の面をプレスロールで押さえ、他方の面をエンドレスベルトを介して加圧シューで加圧して湿紙の脱水を行なう、いわゆるシュープレスが普及している。シュープレスにおいては、補強基材と熱硬化性ポリウレタンとを一体化し、エンドレスに形成したベルトが従来から使用されている。また、近年、紙の表面を平滑化し、光沢を付与するカレンダー工程でも、上述したような弾性ベルトを使用することが検討されている。さらには、特に高速で抄紙する場合、紙切れを防止し、安定して湿紙を搬送するためのシートトランスファー用としても、上述したような弾性ベルトを使用することが検討されている。このような製紙用ベルトの典型的な構造としては、基布の両面を弾性材料で被覆したものが、実開昭59−54598号、特許第2889341号、特許第3045975号などに開示されている。また、もう一つの典型的な構造としては、補強糸を弾性材料中に埋設したものが特許第2542250号などに開示されている。
【0003】
製紙用ベルトの弾性材料としては、ウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合し、硬化させてなる熱硬化性ポリウレタンが、特許第2889341号、特開平6−287885号、特許第3045975号、特許第3053374号、特開平11−247086号などに開示されているように一般的に使用されており、製紙用ベルトに使用されていた熱硬化性ポリウレタンは、いずれも硬化剤として、4,4’−メチレン−ビス−(2−クロロアニリン)(以下、「MOCA」という。)を用いたものであった。
【0004】
従来、シュープレスにおいては、プレスロールと加圧シューとの間でベルトに対して苛酷な屈曲および加圧が繰り返されるため、ベルトを構成するポリウレタンにクラックが発生することが大きな問題となっていた。このクラックは、フェルトあるいは紙と接するベルトの外周面に主として発生する。また、プレスパートで使用される脱水プレス用ベルトにおいては、脱水効率を上げるために、一般にその外周面に排水溝が形成されるが、前記クラックは、特にこの排水溝の底部エッジおよび上部エッジから発生しやすかった。一端発生したクラックは、ベルトの使用とともに大きなクラックへと進展していく傾向がある。クラックが進展した場合にあっては、ベルトの内周面と加圧シューとの間の潤滑油が外部へ漏れて紙に悪影響を与えたり、ベルトの層間剥離を引き起こしたりする原因となる。このように、クラックの発生および進展は、ベルトの寿命低下の原因となる。このため、シュープレスなどで使用される製紙用ベルトにおいては、クラックの発生およびクラックの進展を抑えることが強く要望されていた。
【特許文献1】実開昭59−54598号公報
【特許文献2】特許第2889341号公報
【特許文献3】特許第3045975号公報
【特許文献4】特許第2542250号公報
【特許文献5】特開平6−287885号公報
【特許文献6】特許第3053374号公報
【特許文献7】特開平11−247086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した問題を解決するものであり、本発明の課題は、クラックがシュープレス用ベルトにたとえ発生したとしても、発生したクラックが進展することを抑制することができるシュープレス用ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るシュープレス用ベルトは、請求項1に記載のように、補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され、外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成されたシュープレス用ベルトにおいて、外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤と、を含む組成物から形成され、前記組成物は、前記硬化剤の活性水素基(H)と前記ウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が、1<H/NCO<1.15となる割合で前記ウレタンプレポリマーと前記硬化剤とが混合されたものである、シュープレス用ベルトである。なお、本発明において、当量比というのは化学量論的な当量比のことである。
【0007】
また、本発明に係るシュープレス用ベルトは、請求項2に記載のように、請求項1に記載の発明において、前記ポリウレタンは、120℃〜140℃の温度で硬化されたものであるシュープレス用ベルトである。
【0008】
また、本発明に係るシュープレス用ベルトは、請求項3に記載のように、請求項1または2に記載の発明において、外周表面に排水溝が形成されている製紙用ベルトである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るシュープレス用ベルトは、外周面を構成するポリウレタンにおいて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤と、を含む組成物から形成され、前記組成物は、前記硬化剤の活性水素基(H)と前記ウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が、1<H/NCO<1.15となる割合で前記ウレタンプレポリマーと前記硬化剤とが混合されたものであるから、クラックが製紙用ベルトにたとえ発生したとしても、発生したクラックが進展することを抑制することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1に、抄紙工程のプレスパートに使用されるシュープレス装置の一例を示す。図1において、プレスロール1の下方には、可撓性のある円筒状のシュープレス用ベルト2が設けられている。ベルト2とプレスロール1との間には、フェルト3および湿紙4が通されている。ベルト2の外周面とフェルト3とは直接接触している。ベルト2の内周面には、プレスロール側に向けて加圧シュー5が押し付けられている。加圧シュー5とベルト2との間には、ベルト2を滑らかに走行させるために潤滑油が供給されている。ベルト2は、フェルト3との摩擦によって加圧シュー5の上を滑りながら走行する。加圧シュー5の表面は、プレスロール1の表面に対応した凹状となっている。プレスロール1と加圧シュー5との間には、広い幅の加圧脱水部Pが形成されている。この加圧脱水部で、湿紙4が脱水される。
【0011】
図2は、ベルト2の一例を示す部分断面図である。このベルトは、エンドレスであり、補強基材となる基布6と熱硬化性ポリウレタン7とが一体化してなる。基布6は、ポリアミド、ポリエステルなどの有機繊維で構成されている。基布6は、単一層からなるポリウレタン7によって含浸および被覆されている。ベルトの外周面および内周面は、ポリウレタン7で構成されている。
【0012】
図2に示したベルトを製造するには、補強基材として、液状のポリウレタンが通過しうるような比較的に目の粗いエンドレスの基布6を使用する。ここで、目の粗い基布としては、10〜100メッシュの平織り基布を使用することができる。なお、メッシュとは1インチ幅あたりの糸本数である。そして、マンドレル上にマンドレルとの間に隙間を持たせて前記基布6を配置し、上からポリウレタン7を流し込むことによって、基布6とポリウレタン7とが一体化してなり、基布6がポリウレタン7中に埋設された製紙用ベルトを製造することができる。
【0013】
図3は、図2に示したベルトの基布6に代えて、補強基材として補強糸8、9を用いた例を示す。図3に示したベルトでは、補強糸8、9が単一層からなる熱硬化性ポリウレタン7中に埋設されている。補強基材は、ベルト走行方向(以下、「MD方向」という)の糸8とこれに直角な方向(以下、「CMD方向」という)の糸9とから構成されている。MD方向の糸8およびCMD方向の糸9は、それぞれ多数本、ほぼ等間隔に配置されている。糸の材質としては、たとえばポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステルなどを使用することができる。図3に示したベルトは、マンドレル上にマンドレルとの間に隙間を持たせて糸8、9を縦および横方向に張り巡らしておき、上からポリウレタン7を流し込むことによって製造することができる。すなわち、補強糸8、9を用いた補強基材とポリウレタン7とが一体化してなり、補強糸8、9を用いた補強基材がポリウレタン7中に埋設された製紙用ベルトを製造することができる。
【0014】
図4〜図6は、図2に示したベルトのポリウレタン7を、2層で構成した構造を示すものである。
【0015】
図4は、内周面を構成するポリウレタン層10の中に基布6が埋設され、さらにその上に、外周面を構成するポリウレタン層11が被覆されて、一体化している。図4に示したベルトを製造するには、図2のベルトの製造方法に倣ってマンドレル上にマンドレルとの間に隙間を持たせて比較的に目の粗い基布6を配置し、上からポリウレタン10を流し込む。上からポリウレタン10を流し込むことによって、基布6とポリウレタン10とが一体化してなり、基布6がポリウレタン10中に埋設されたポリウレタン層が形成される。そして、さらにその上から外周面を構成するポリウレタン層11をコーティングすることによって製造することができる。
【0016】
図5に示したベルトは、基布6の両面から2層のポリウレタン12、13を含浸および被覆することにより、基布6とポリウレタン12、13とが一体化してなり、基布6がポリウレタン12、13中に埋設された製紙用ベルトが得られる。このベルトを製造する場合、裏表を反転しておいた基布6の上から内周面を構成するポリウレタン層12をコーティングし、次いで基布の裏表を反転させ、さらに外周面を構成するポリウレタン層13をコーティングする。この場合、補強基材としての基布6は、液状のポリウレタンが通過してしまわない程度に目の細かいものを使用する。なお、目の細かい基布は、多重織り基布にて通気度が200〜20cm3/sec/cm2のものを使用することができる。
【0017】
別の製造方法として、マンドレルの上に内周面を構成するポリウレタン層12を成形した後、表面に基布6を巻き付け、さらにその上から外周面を構成するポリウレタン層13をコーティングすることにより、基布6とポリウレタン12、13とが一体化してなり、基布6がポリウレタン12、13中に埋設された製紙用ベルトが得られる。
【0018】
図6は、基布6を埋設した、外周面を構成するポリウレタン層15の下に、内周面を構成するポリウレタン層14が被覆され、一体化している。このベルトを製造するには、図2のベルトの製造方法に倣って基布を埋設した外周面を構成するポリウレタン層15を成形し、その内周面上に、後から内周面を構成するポリウレタン層14をコーティングする。別の方法としては、予めマンドレルの上に内周面を構成するポリウレタン層14を成形し、その上から図2のベルトの製造方法に倣って基布を埋設した外周面を構成するポリウレタン層15を成形する。
【0019】
図7〜図9は、それぞれ図4〜図6に示した例に対応し、基布6に代えて、補強基材として補強糸8、9を用いた例を示している。
【0020】
図7に示したベルトを製造するには、図3のベルトの製造方法に倣って補強糸8、9を埋設した内周面を構成するポリウレタン層16を成形し、さらにその上から外周面を構成するポリウレタン層17をコーティングすればよい。
【0021】
図8に示したベルトを製造するには、マンドレルの上に内周面を構成するポリウレタン層18を成形した後、表面に糸8、9を縦および横方向に巻き付け、さらにその上から外周面を構成するポリウレタン層19をコーティングすればよい。
【0022】
図9に示したベルトを製造するには、図3のベルトの製造方法に倣って補強糸8、9を埋設した外周面を構成するポリウレタン層21を成形し、さらにその内周面上に、後から内周面を構成するポリウレタン層20をコーティングする。別の方法としては、予めマンドレルの上に内周面を構成するポリウレタン層20を成形した後、その上から、図3のベルトの製造方法に倣って補強糸8、9を埋設した外周面を構成するポリウレタン層21を成形する。
【0023】
図2〜図9に示した各ベルトの外周面は、ポリウレタンで形成されている。外周面を構成するポリウレタン層7、11、13、15、17、19、21は、末端にイソシアネート基(NCO)を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基(H)を有する硬化剤とを含む組成物から形成される。ウレタンプレポリマーは、ポリオールとフェニレンイソシアネート誘導体とを反応させることによって得られる。
【0024】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21のウレタンプレポリマーを得るためのポリオールは、ポリエーテルポリオールおよびポリエステルポリオールの中から選択される。ポリエーテルポリオールとしては、たとえばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、ポリカプロラクトンエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキセンアジペートなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合もしくは重合させて用いることができ、さらにこれらの変性体も用いることができる。
【0025】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21のウレタンプレポリマーを得るためのフェニレンイソシアネート誘導体としては、たとえばトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、m−キシレンジイソシアネート(m−XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21の硬化剤としては、一般的にはポリオール系、芳香族ジオール系、芳香族ジアミン系などの硬化剤が使用される。ポリオール系の硬化剤としては、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)などを使用することが可能である。また、芳香族ジオール系の硬化剤としては、ヒドロキノンジ(ベーターヒドロキシエチル)エーテル(HQEE)などを使用することができる。また、芳香族ジアミン系の硬化剤としては、4,4’−メチレン−ビス−(2−クロロアニリン)(MOCA)、トリメチレン−ビス(4−アミノベンゾアート)(CUA−4)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)などを使用することができる。中でも、本発明の一つの特徴として、芳香族ジアミン系硬化剤の一種であるジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を使用するのが好ましい。ジメチルチオトルエンジアミンは、式1で表される3,5−ジメチルチオ−2,4−トルエンジアミンを使用することができる。
【0027】
【化1】
【0028】
また、ジメチルチオトルエンジアミンは、式2で表される3,5−ジメチルチオ−2,6−トルエンジアミンを使用することができる。
【0029】
【化2】
【0030】
また、3,5−ジメチルチオ−2,4−トルエンジアミンもしくは3,5−ジメチルチオ−2,6−トルエンジアミンは、それぞれ単独でまたは混合物として用いることができる。特に好ましい硬化材として、アルベマール社より「ETHACURE 300」として市販されている、3,5−ジメチルチオ−2,4−トルエンジアミンと3,5−ジメチルチオ−2,6−トルエンジアミンとの混合物が挙げられる。
【0031】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21の硬化剤は、上記ジメチルチオトルエンジアミンを含有する場合、これにポリオール系、芳香族ジオール系、芳香族ジアミン系などの1種類または2種類以上の硬化剤を混合しても構わない。外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21の硬化剤における、上記ジメチルチオトルエンジアミンの含有量は、硬化剤の活性水素基(H)の数の50%以上を占めることが好適である。外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21の硬化剤がジメチルチオトルエンジアミンを含有することにより、ベルトの外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21にクラックが発生するのを抑えることができる。
【0032】
また、別の観点から、外周面を構成するポリウレタン層7、11、13、15、17、19、21は、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合される。このような構成とすることで、ベルトの外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21に小さなクラックが発生したとしても、発生したクラックが大きなクラックに進展するのを抑えることができる。なお、外周面を構成するポリウレタン層7、11、13、15、17、19、21は、当量比(H/NCO)の値が1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されることも可能であり、係る場合においては、小さなクラックが発生したとしても、より的確に発生したクラックが大きなクラックに進展するのを抑えることができるのである。外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21のH/NCOの値が1以下であると、クラックが発生した場合に大きなクラックに進展しやすい。一方、外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21のH/NCOの値が1.15以上であると、ポリウレタンが脆くなり、クラックが発生しやすくなる。
【0033】
外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21は、硬化剤としてジメチルチオトルエンジアミンを含有する硬化剤を用い、なおかつ硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合することにより、ベルトの外周面を構成するポリウレタン7、11、13、15、17、19、21にクラックが発生するのを抑えることができ、もし小さなクラックが発生したとしても、発生したクラックが大きなクラックに進展するのを抑えることができる。なお、硬化剤におけるジメチルチオトルエンジアミンの含有量は、硬化剤の活性水素基(H)の数の50%以上を占めることが好適である。また、当量比(H/NCO)の値は、1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されることが好適である。
【0034】
図2〜図9に示したベルトは、脱水効率を上げるためには、図10に示すように、外周面にベルトの走行方向に沿って多数の排水溝22が形成される事が好ましい。本発明によれば、上記構成によって製紙用ベルトへのクラックの発生およびクラックの進展を抑えることができるので、ベルトの外周表面に排水溝22を形成したとしても、排水溝22の底部エッジおよび上部エッジからクラックが発生するの抑えることができる。なお、排水溝22に代えて、あるいは排水溝22とともに多数の盲孔をベルトの外周面に設けても良い。
【0035】
なお、図4〜図9において、外周面を構成するポリウレタン層7、11、13、15、17、19、21を除くポリウレタン層は、1層のみとなっているが、この外周面を構成するポリウレタン層を除くポリウレタン層10、12、14、16、18、20は、複数の層に分割しても構わない。
【0036】
また、各ベルトは全体としてエンドレスな形状であるが、各個別の層は、必ずしも層の形をとる必要はない。たとえば、あるポリウレタンは、ベルトの幅方向の一部分にのみ存在しても構わない。
【0037】
補強基材6、8、9の位置は、いずれかの単一のポリウレタン層に埋設される形でもよいし、任意の複数のポリウレタン層にまたがる形でもよい。
【0038】
図4〜図9に示したベルトは、内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20と外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21とを含んでいる。
【0039】
内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20は、外側のポリウレタン層(前記外周面を構成するポリウレタン層)11、13、15、17、19、21と同様、末端にイソシアネート基(NCO)を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基(H)を有する硬化剤とを含む組成物から形成されている。ウレタンプレポリマーは、ポリオールとフェニレンイソシアネート誘導体とを反応させることによって得られる。
【0040】
内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20のウレタンプレポリマーを得るためのポリオールおよびフェニレンイソシアネート誘導体は、外側のポリウレタン層(前記外周面を構成するポリウレタン層)11、13、15、17、19、21の場合に説明したのと同様である。内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20の硬化剤は、ポリウレタンの硬化剤として一般的に使用しうるポリオール系、芳香族ジオール系、芳香族ジアミン系などの硬化剤の中から、1種類または2種類以上の混合物として用いることができる。
【0041】
内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20を形成する組成物は、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO<1となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されている。なお、内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20を形成する組成物は、当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO≦0.99となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されていることも可能である。
【0042】
一方、外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21を形成する組成物は、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されている。なお、当量比(H/NCO)の値は、1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されることが好適である。
【0043】
硬化剤とウレタンプレポリマーとの混合割合を、内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20は0.85≦H/NCO<1とし、外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21は1<H/NCO<1.15とすることにより、内側のポリウレタン10、12、14、16、18、20と外側のポリウレタン11、13、15、17、19、21との接着力が向上し、層間剥離の発生を抑えることができる。その理由は、内側のポリウレタン10、12、14、16、18、20は、0.85≦H/NCO<1としているために科学量論的にNCO基が残存する配合であり、この残存するイソシアネート基(NCO)が、1<H/NCO<1.15とした外側のポリウレタン11、13、15、17、19、21の余剰の活性水素基(H)と反応して強固に接着一体化していると考えられる。なお、硬化剤とウレタンプレポリマーとの混合割合を、内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20は0.85≦H/NCO≦0.99とし、外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21は1.01≦H/NCO≦1.14とした場合にあっては、より好適に層間剥離の発生を抑えることができる。
【0044】
図5に示したベルトは、基布6の両面から2層のポリウレタンが含浸および被覆され、一体化している。内側のポリウレタン層12と外側のポリウレタン層13との接着面は、基布6の内部にある。このため、接着力に加えて、基布6と両ポリウレタン層12、13との間でアンカー効果が得られるため、強固な接着力が得られ、ベルトに層間剥離が発生するのを防ぐことができる。
【0045】
図5に示したベルトの好ましい態様として、内側のポリウレタン12のウレタンプレポリマーは、ポリオールとジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを反応させて得られたMDI系のウレタンプレポリマーを含有するとともに、外側のポリウレタン13のウレタンプレポリマーは、ポリオールとトリレンジイソシアネート(TDI)とを反応させて得られたTDI系のウレタンプレポリマーを含有することが挙げられる。
【0046】
MDI系のプレポリマーを使用したポリウレタンは、比較的に反応が速く進み、硬化時間が短い。このため、内側のポリウレタン12のプレポリマーとして、MDI系のプレポリマーを主成分とすることにより、ベルトを製造する段階で、まず、基布6に対して内側のポリウレタン12をコーティングしたとき、ポリウレタン12が基布6の反対側の面まで通りぬけてしまうのを防ぐことができ、含浸の位置を基布6の内部で止めることができる。一方、TDI系のプレポリマーを使用したポリウレタンは、比較的に反応が遅く進み、硬化時間が長い。このため、外側のポリウレタン13のプレポリマーとして、TDI系のプレポリマーを主成分とすることにより、内側のポリウレタン12が含浸された位置まで、外側のポリウレタン13を十分に浸透させることができる。したがって、内側のポリウレタン層12と外側のポリウレタン層13との接着面を基布6の内部に形成することができる。
【0047】
さらに、内側のポリウレタン12は、MDI系のウレタンプレポリマーに対して、硬化剤の50wt%以上をポリオールとすることが好ましい。このようにすることで、ポリウレタンの硬化時間を調節しやすくなり、基布6への含浸位置を調整できる。ポリオール系の硬化剤は、ポリエーテルポリオールおよびポリエステルポリオールの中から選択される。ポリエーテルポリオールとしては、たとえばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、ポリカプロラクトンエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキセンアジペートなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を混合もしくは重合させて用いることができ、さらにこれらの変性体も用いることができる。内側のポリウレタン12の硬化剤は、硬化剤の50wt%以上をポリオールとし、これに芳香族ジオール系もしくは芳香族ジアミン系の1種類または2種類以上の硬化剤を混合しても構わない。
【0048】
図5に示したベルトのさらに好ましい態様を、図11に示す。図11に示すベルトは、図5に示したベルトにおいて、多重織された織布からなる基布23を用いている。この基布23は、ポリウレタンの含浸度合を高めるために、空隙を多く含んでいる方が好ましい。多重織された基布23を用いることは、基布23自体の強度が優れているだけでなく、次のような効果を得ることができる。すなわち、多重織された織布からなる基布23を使用することにより、基布23の内部にポリウレタンを十分に浸透させることができ、内側のポリウレタン層24と外側のポリウレタン層25との接着面を基布23の内部に形成することができる。また、両方のポリウレタン層24、25と基布23との間で十分なアンカー効果が得られる。したがって、内側のポリウレタン層24と外側のポリウレタン層25との間で強固な接着力が得られ、ベルトに層間剥離が発生するのを防ぐことができる。多重織の例としては、たて4重織、たて3重織りなどが挙げられる。図11に示したベルトに使用するポリウレタンは、図5に示したものと同様である。図11に示したベルトの外周表面には、脱水効率を上げるために、走行方向に沿って多数の排水溝26が形成されている。
【0049】
図4〜図9および図11に示したベルトは、いずれも、外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21、25は、内側のポリウレタン層10、12、14、16、18、20、24の外周面に接着し、かつ製紙用ベルトの外周面を構成している。これらのベルトにおいて、外側のポリウレタン11、13、15、17、19、21、25は、前述のように末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ジメチルチオトルエンジアミンを主成分とする硬化剤とを含む組成物から形成されていることが好ましい。外周面を含む外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21、25の硬化剤の主成分をジメチルチオトルエンジアミンとすることにより、前述のとおり、ベルトの外周面にクラックが発生するのを抑えることができる。
【0050】
また、前述のとおり、図4〜図9および図11に示したベルトは、いずれも、外周面を含む外側のポリウレタン層11、13、15、17、19、21、25を形成する組成物が、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されたものとしている。このため、ベルトの外周面を構成するポリウレタン11、13、15、17、19、21、25に小さなクラックが発生したとしても、発生したクラックが大きなクラックに進展するのを抑えることができる。なお、当量比(H/NCO)の値が1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とが混合されたものとすることにより、小さなクラックが発生したとしても、より的確に、発生したクラックが大きなクラックに進展するのを防止可能である。
【0051】
さらに、他の実施形態を図12に示す。図12に示したベルトは、多重織された織布からなる基布の両面から、内側のポリウレタン層27および外側のポリウレタン層28が含浸および被覆され、外側のポリウレタン層28のさらに外側に、外周面を構成するポリウレタン層29が被覆一体化されている。内側のポリウレタン層27と外側のポリウレタン層28との接着面は、基布23の内部にある。外側のポリウレタン層28と外周面を構成するポリウレタン層29との間に、さらに1層または複数層のポリウレタン層を形成しても構わない。図12の例では、外側のポリウレタン層28と外周面を構成するポリウレタン層29との界面の位置は、基布23の表面と一致している。しかし、外側のポリウレタン層28と外周面を構成するポリウレタン層29との界面の位置は、これに限定されず、基布23の表面から上下にずれていても構わない。図12に示したベルトの外周表面にも、脱水効率を上げるために、走行方向に沿って多数の排水溝26が形成されている。
【0052】
図12に示したベルトにおいて、外周面を構成するポリウレタン層29は、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ジメチルチオトルエンジアミンを主成分とする硬化剤とを含む組成物から形成されている。この例においても、外周面を構成するポリウレタン層29の硬化剤の主成分をジメチルチオトルエンジアミンとすることにより、前述のとおり、ベルトの外周面にクラックが発生するのを抑えることができる。
【0053】
図12に示したベルトにおいて、外周面を構成するポリウレタン29は、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合したものとするのが好ましい。このような構成とすることで、ベルトの外周面を構成するポリウレタン29に小さなクラックが発生したとしても、発生したクラックが大きなクラックに進展するのを抑えることができる。なお、当量比(H/NCO)の値が1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合したものとするのがより好適である。
【0054】
図12に示したベルトは、内側のポリウレタン層27と外周面を構成するポリウレタン層29との間に外側のポリウレタン層28が存在するため、破損や層間剥離の原因となる気泡を含まないベルトとすることができる。
【0055】
ベルトを製造する際、まず基布23の裏表を反転させておく。そして、基布23の裏面となる面から内側のポリウレタン層27をコーティングして基布23の途中までポリウレタンを浸透させる。次いで基布23を反転させ、表面から基布23の残りの部分を満たすように外側のポリウレタン層28をコーティングする。さらにその上から外周面を構成するポリウレタン層29をコーティングする。このようにすれば、外側のポリウレタン28をコーティングした際に基布23の内部に残っている空気を追い出すことが出来る。したがって、内部に気泡を含まないベルトを得ることができる。
【0056】
図12に示したベルトの場合、外側のポリウレタン28は、内側のポリウレタン27または外周面を構成するポリウレタン29と同じ組成物で形成してもよいし、別の組成物で形成してもよい。
【0057】
図12の例では、ポリウレタンが内側のポリウレタン層27、外側のポリウレタン層28および外周面を構成するポリウレタン層29の3層であったが、ポリウレタンの層数は、1層のみ、2層あるいは4層以上であっても構わない。たとえば、外側のポリウレタン層28を薄い複数の層に分けてコーティングすれば、基布23内部の空気をより効果的に追い出すことができる。また、内側のポリウレタン層27も、複数回に分けてコーティングすることができる。
【0058】
この発明全体を通じて、ポリウレタンの硬化温度は、120℃〜140℃の温度で行なうのが好ましい。このようにすることで、ベルトの耐亀裂性、耐亀裂進展性ともに向上する。
【0059】
次に、図11に示したベルトの製造方法を説明する。第1工程として、多重織されたエンドレスの織布からなる基布23の裏表を反転させておく。そして、基布の裏面となる面から内側のポリウレタン層24をコーティングして基布23の途中までポリウレタンを浸透させる。このポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤とを含み、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO<1となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液である。なお、当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO≦0.99となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液とすることが好適である。コーティングしたポリウレタンは、70℃〜100℃の温度で硬化させる。
【0060】
次いで、第2工程として、基布23を反転させ、表面側から基布23の残りの部分を満たすように外側のポリウレタン層25をコーティングする。このポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤とを含み、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液である。なお、当量比(H/NCO)の値が1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液とすることが好適である。
【0061】
次いで、第3工程として、全体を120℃〜140℃の温度に加熱して、内側のポリウレタン層24の外周面上に適用した混合液を硬化させて外側のポリウレタン層25を成形するとともに内側のポリウレタン層24と外側のポリウレタン層25とを接着一体化する。
【0062】
その後、ベルトの外周表面に、走行方向に沿って多数の排水溝26を形成することにより、図11に示すベルトを得ることができる。
【0063】
この方法によれば、第1工程で、0.85≦H/NCO<1という化学量論的にNCO基が残存する配合のポリウレタンを70℃〜100℃という比較的低い温度で半硬化状態にする。そして、第2工程で、半硬化状態の内側のポリウレタン24の上から、1<H/NCO<1.15という硬化剤を多く含んだ配合の外側のポリウレタン25をコーティングする。そして、第3工程で、120℃〜140℃という比較的高い温度に加熱して全体を硬化させる。このため、内側のポリウレタン層24と外側のポリウレタン層25との接着力が向上し、層間剥離の発生を抑えることができる。
【0064】
さらに、補強基材が多重織された織布からなる基布23であるため、内側のポリウレタン層24と外側のポリウレタン層25との接着面を、基布23の内部に位置させることが容易となる。接着面が基布23の内部にあることにより、接着力に加えて、基布23と両ポリウレタン層24、25との間でアンカー効果が得られる。したがって、強固な接着力が得られ、ベルトに層間剥離が発生するのを防ぐことができる。
【0065】
上記製造方法の変形例として、補強基材に、多重織された基布23に代えて液状のポリウレタンを十分に通過させうる目の粗い基布や、図8に示したような糸8、9を用いる場合は、次のようにして製造することができる。図8に示したベルトを例にとって製造方法を説明すると、第1工程として、マンドレルの上に、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤とを含み、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO<1となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液をコーティングし、70℃〜100℃の温度で硬化させて内側のポリウレタン層18を形成する。なお、当量比(H/NCO)の値が0.85≦H/NCO≦0.99となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合すればより好適である。次いで、内側のポリウレタンの外周面上に補強基材としてCMD方向の糸9およびMD方向の糸8を巻き付ける。第2工程として、補強基材8、9の上から、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤とを含み、硬化剤の活性水素基(H)とウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が1<H/NCO<1.15となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液をコーティングする。なお、当量比(H/NCO)の値が1.01≦H/NCO≦1.14となる割合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを混合した混合液を用いればより好ましい。次いで、第3工程として、全体を120℃〜140℃の温度に加熱して、内側のポリウレタン層18の外周面上に適用した混合液を硬化させて外側のポリウレタン層19を成形するとともに内側のポリウレタン層18と外側のポリウレタン層19とを接着一体化する。
【0066】
図12に示したベルトを製造する場合には、上記図11に示したベルトの製造方法における第2工程と第3工程との間に、外側のポリウレタン層28の上からさらに外周面を構成するポリウレタン層29をコーティングする工程を追加すればよい。
【0067】
以上、シュープレス用のベルトを例にとって説明したが、本発明は、カレンダー用ベルト、シートトランスファー用ベルトにも適用することができる。なお、カレンダー用ベルトおよびシートトランスファー用ベルトの場合は、一般的に表面に排水溝は形成されない。
【実施例】
【0068】
実施例として、図12に示した製紙用ベルトを以下の手順で製造した。補強基材として、たて4重織の織布からなるエンドレスの基布23を準備する。この基布は、厚みが2.3mmであり、内部に空隙を有している。基布の構造は、図13に示すように、MD方向のたて糸が、表面側から順に直径0.35mmのポリエステルモノフィラメント30、3000dのポリエステルマルチフィラメント31、直径0.35mmのポリエステルモノフィラメント32、直径0.35mmのナイロンモノフィラメント33の4層からなり、CMD方向のよこ糸が、直径0.40mmのポリエステルモノフィラメント34からなっている。たて糸の本数は68本/インチであり、よこ糸の本数は56本/インチである。
【0069】
内側のポリウレタン層27となる材料として、ウレタンプレポリマー(PTMG系MDIプレポリマー:NCO%=5%)100重量部と硬化剤(PTMGとETHACURE 300とを65/35の割合でブレンド:当量値=250)27.4重量部とを個別に脱泡した後、混合した(H/NCO=0.92)。なお、NCO%とは、ウレタンプレポリマー中に含まれるイソシアネート基の重量含有率である。これを表裏を反転させておいた基布23の表面にコーティングし、80℃の温度条件下で10時間の加熱を行なった。内側のポリウレタン層27は、基布23の厚みの50%まで含浸していた。
【0070】
次いで、基布23にコーティングしたポリウレタン27を、基布23の表面からの厚みが1.0mmになるように切削・研磨を行なった。その後、コーティングした面が内側となるように基布23の表裏を反転させた。
【0071】
次に、外側のポリウレタン層28となる材料として、ウレタンプレポリマー(PTMG系TDIプレポリマー:NCO%=5%)100重量部と硬化剤(ETHACURE 300:当量値=107)13.8重量部とを個別に脱泡した後、混合(H/NCO=1.08)し、これを基布23のもう一方の面から、内側のポリウレタン層27の含浸面まで含浸させながらコーティングした。コーティングした表面は、ドクターブレードを使用して基布23の表面の位置とほぼ一致するように平滑にした。
【0072】
さらに、外周面を構成するポリウレタン層29として、前記外側のポリウレタン層28と同じ材料を外側のポリウレタン層28の上にコーティングした。その後、内側のポリウレタン層27、外側のポリウレタン層28、外周面を構成するポリウレタン層29および基布23が接着一体化するように、120℃の温度条件下にて16時間の加熱を行なった。
【0073】
さらに、外周面を構成するポリウレタン層29の厚みが1.5mmとなるように、ベルトの表面を切削・研磨した。さらに、ベルトの外表面に、走行方向に沿って溝幅0.8mm、深さ0.8mm、ピッチ2.54mmで多数の排水溝26を形成した。得られたベルトは、全体の厚みが4.8mm、表面の硬さが90°(JIS A)であった。
【0074】
次に、下記に示すように、図14に示す構造のサンプル1〜6を作成した。すなわち、補強基材として、上述の基布に用いたのと同じたて4重織の織布からなる基布23を準備する。内面を構成するポリウレタン層35として、ウレタンプレポリマー(PTMG系MDIプレポリマー:NCO%=5%)100重量部と硬化剤(PTMGとETHACURE 300とを65/35の割合でブレンド:当量値=250)27.4重量部とを個別に脱泡した後、混合した(H/NCO=0.92)。これを基布23の裏面側にコーティングし、80℃の温度条件下にて10時間の加熱を行なった。内面を構成するポリウレタン35は、基布23の厚みの50%まで含浸していた。次いで、基布23にコーティングしたポリウレタン35を、基布23の表面からの厚みが1.0mmになるように切削・研磨を行なった。
【0075】
次に、外面を構成するポリウレタン層36を形成する材料として、ウレタンプレポリマーは、ハイプレンL−100およびL−167(いずれもPTMG系TDIプレポリマー:三井化学社製)を使用し、硬化剤は、ETHACURE 300およびMOCAを使用した。これらの材料を使用し、表1に示す各配合でウレタンプレポリマーと硬化剤とを個別に脱泡した後混合し、これを基布23の外側となる面から、内面を構成するポリウレタン層35の含浸面まで含浸させながらコーティングした。
【0076】
その後、120℃の温度条件下にて16時間の加熱を行ない、内面を構成するポリウレタン層35、外面を構成するポリウレタン層36、および基布23を接着一体化させた。さらに、外面を構成するポリウレタン層36の、基布23の表面からの厚みが1.5mmとなるように、ベルトの表面を切削・研磨し、サンプル1〜サンプル6を得た。
【0077】
各サンプル1〜6につき、幅20mm、長さ420mmの試験片をとる。図15に示すように、試験片37の長さ方向両端部を把持部材38で把持しながら、中間部内側に直径25mmの表面が滑らかな金属製丸棒39を当てて張力Tをかける。張力Tは9.8kN/mとした。張力Tを保ったままで、試験片37の内面と丸棒39との間にノズル40から潤滑油を供給しながら、試験片37を10cmの幅で繰り返し往復運動させる。このような方法で、試験片37に張力Tをかけながら、内面と丸棒39との間で摺動を繰り返した。試験片37の表面にクラックが発生するまでの往復回数を測定し、耐久回数とした。結果を、表1に示す。また、各サンプル1〜6についての硬さも表1に示す。なお、表中における硬化剤の配合量とは、プレポリマー100重量部に対する硬化剤の重量部数である。
【0078】
【表1】
【0079】
次に下記に示すように、サンプル7〜30を作成した。補強基材23および内面を構成するポリウレタン層35は、上述したサンプル1〜6と同様とする。外面を構成するポリウレタン層36を形成する材料として、ウレタンプレポリマーは、L−100およびL−167を使用し、硬化剤は、ETHACURE 300を使用した。これらの材料を使用し、表2に示すようなH/NCO当量比を変化させた各配合で、ウレタンプレポリマーと硬化剤とを個別に脱泡した後混合し、これを基布23の外側となる面から、内面を構成するポリウレタン層35の含浸面まで含浸させながらコーティングした。
【0080】
その後、120℃の温度条件下にて16時間の加熱を行ない、内面を構成するポリウレタン層35、外面を構成するポリウレタン層36、および基布23を接着一体化させた。さらに、外面を構成するポリウレタン層36の、基布23の表面からの厚みが1.5mmとなるように、ベルトの表面を切削・研磨し、サンプル7〜サンプル30を得た。
【0081】
各サンプル7〜30につき、JIS K6260に定義されるデマッチャ式屈曲試験機を用いて、次の条件でクラック進展性の試験を行なった。試験片のサイズは、幅20mm、長さ150mmとした。往復運動は、最大距離80.5mm、最小距離38.5mm、運動距離42.0mmとした。切り込みは、試験片の長さ方向中央、幅方向一端部外面に、長さ3mm、深さ1.5mmとして入れた。この条件で、1000回屈曲させた後、亀裂の大きさを測定した。結果を、表2中の亀裂進展長さの項目に示す。さらに、各7〜30サンプルについて、図15に示す試験装置を用い、100万回往復運動させた後、試験片にクラックが発生しているかどうかをその目視により確認した。その結果を、表2中のクラック有無の項目に示す。なお、表中における硬化剤の配合量とは、プレポリマー100重量部に対する硬化剤の重量部数である。
【0082】
【表2】
【0083】
表2からわかるように、外面を構成するポリウレタンの(H/NCO)当量比が1より大きいサンプルでは、亀裂進展長さが1mmよりも小さく抑えることができている。(H/NCO)当量比が大きい程、亀裂進展長さは小さく抑えることができる。ただし、(H/NCO)当量比を1.15まで大きくすると、100万回往復試験でクラックの発生が見られた。
【0084】
次に、内面を構成するポリウレタンの(H/NCO)当量比を変化させて、下記に示すとおり図14に示す構造のサンプル31〜36を作成した。補強基材23は、サンプル1〜30と同じものを用いた。外面を構成するポリウレタン層36は、ウレタンプレポリマーとしてL−167を、硬化剤としてETHACURE 300を用い、上記サンプル27と同じ配合割合のものとした。内面を構成するポリウレタン層35は、上記サンプル27で用いたのと同じ材料、すなわちウレタンプレポリマー(PTMG系MDIプレポリマー:NCO%=5%)と、硬化剤(PTMGとETHACURE 300とを65/35の割合でブレンド:当量値=250)とを用いた。ただし、内面を構成するポリウレタン層35は、ウレタンプレポリマーと硬化剤との配合割合を変化させて、サンプル31〜36とした。その他の製造条件および各層の厚みは、サンプル1〜30と同じとした。
【0085】
サンプル31〜36について、幅20mm、長さ420mmの試験片をとり、サンプル1〜6に対して行ったと同様に、図15に示す試験装置を用いて耐久性の試験を行った。なお、評価は、各サンプルにつき、250万回往復運動させた後の状態を確認することにより行った。この結果を表3に示す。なお、表3において、プレポリマーおよび硬化剤の数値は、重量部数を示している。
【0086】
【表3】
【0087】
内面を構成するポリウレタンのH/NCOが0.85よりも小さいと、内面を構成するポリウレタンの強度が低下し、微クラックとなって現れた。内面を構成するポリウレタンのH/NCOが1以上になると、層間剥離が発生した。
【0088】
一方、外面を構成するポリウレタンのH/NCOは、1<H/NCO<1.15であることが好ましい。表2に示されるサンプル7〜30によれば、外面を構成するポリウレタンのH/NCOが、1以下であるとクラックが広がり易くなり、1.15以上であるとクラックが発生し易くなるからである。
【0089】
なお、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】シュープレス装置を示す説明図である。
【図2】本発明による製紙用ベルトの一例を示す部分断面図である。
【図3】本発明による製紙用ベルトの他の例を示す部分断面図である。
【図4】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図5】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図6】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図7】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図8】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図9】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図10】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図11】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図12】本発明による製紙用ベルトのさらに他の例を示す部分断面図である。
【図13】本発明の実施例に使用した基布の構造を示す部分断面図である。
【図14】本発明の比較実験に使用したサンプルの構造を示す部分断面図である。
【図15】耐クラック性の試験装置を説明する図である。
【符号の説明】
【0091】
2 ベルト、6、23 基布、7 ポリウレタン、8 MD方向の糸、9 CMD方向の糸、10、12、14、16、18、20、24 内周面を構成する(内側の)ポリウレタン層、11、13、15、17、19、21、25 外周面を構成する(外側の)ポリウレタン層、22、26 排水溝、27 内側のポリウレタン層、28 外側のポリウレタン層、29 外周面を構成するポリウレタン層、35 内面を構成するポリウレタン層、36 外面を構成するポリウレタン層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され、
外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成された製紙用ベルトにおいて、
外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤と、を含む組成物から形成され、
前記組成物は、前記硬化剤の活性水素基(H)と前記ウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が、1<H/NCO<1.15となる割合で前記ウレタンプレポリマーと前記硬化剤とが混合されたものである、
シュープレス用ベルト。
【請求項2】
前記ポリウレタンは、120℃〜140℃の温度で硬化されたものである請求項1に記載のシュープレス用ベルト。
【請求項3】
外周表面に排水溝が形成されている請求項1または2に記載のシュープレス用ベルト。
【請求項1】
補強基材と熱硬化性ポリウレタンとが一体化してなり、前記補強基材が前記ポリウレタン中に埋設され、
外周面および内周面が前記ポリウレタンで構成された製紙用ベルトにおいて、
外周面を構成するポリウレタンは、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、末端に活性水素基を有する硬化剤と、を含む組成物から形成され、
前記組成物は、前記硬化剤の活性水素基(H)と前記ウレタンプレポリマーのイソシアネート基(NCO)との当量比(H/NCO)の値が、1<H/NCO<1.15となる割合で前記ウレタンプレポリマーと前記硬化剤とが混合されたものである、
シュープレス用ベルト。
【請求項2】
前記ポリウレタンは、120℃〜140℃の温度で硬化されたものである請求項1に記載のシュープレス用ベルト。
【請求項3】
外周表面に排水溝が形成されている請求項1または2に記載のシュープレス用ベルト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−225839(P2006−225839A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102223(P2006−102223)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【分割の表示】特願2004−341688(P2004−341688)の分割
【原出願日】平成12年11月10日(2000.11.10)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【分割の表示】特願2004−341688(P2004−341688)の分割
【原出願日】平成12年11月10日(2000.11.10)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】
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