説明

ショートアーク型高圧放電ランプ

【課題】それぞれが電極頭部と電極軸部とからなる一対の電極が対向位置され、前記一対の電極のうち少なくとも陰極動作する電極は、前記頭部の後端に軸方向の深さを有する環状のスリットを有していて、該頭部の後端側に前記スリットにより円筒部が形成されてなるショートアーク型高圧放電ランプにおいて、前記スリットでのホロー効果を確実なものとし、円筒部の変形を防止した構造を提供することにある。
【解決手段】前記環状スリットの外円周面が頭部先端側に漸次縮径されていて、当該スリットの幅員が頭部先端側に向かうにつれて減少していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プロジェクター装置のバックライトとして仕様されるショートアーク型高圧放電ランプに関するものであり、特に、電極頭部後端に管状スリットを有するショートアーク型高圧放電ランプに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
例えばDMD(デジタルマイクロミラーデバイス:登録商標)を使用したDLP(デジタルライトプロセッシング:登録商標)などのプロジェクター装置においては、矩形状のスクリーンに対して、均一に十分な演色性をもって画像を照明させることが要求されるため、光源には水銀を封入させたショートアーク型高圧放電ランプが使用されている。最近では、このような高圧水銀ランプも、より一層の小型化、点光源化が進められ、電極間距離の極めて小さいものが実用化されている。
【0003】
例えば特開2010−165661号公報(特許文献1)には、液晶プロジェクター装置の光源として用いられるショートアーク型高圧放電ランプが記載されている。図3にその全体図、図4に電極の拡大図を示す。
図3において、高圧放電ランプ10は内部に放電空間Sを有する発光部12と、この発光部12の両側に設けられた封止部13、13とから構成される発光管11と、放電空間Sの内部で対向するように配置された電極20、20とを備えている。
放電空間Sには、発光物質として水銀、その他の始動補助用希ガス等が所定量封入されている。電極20、20の基端部は封止部13、13内で金属箔14、14に溶接等によって接続され、金属箔14、14は封止部13の外部に突出する外部リード15、15に溶接等によって接続されており、この外部リード15、15より給電される。
【0004】
上記高圧放電ランプ10における電極構造が図4に示されていて、電極20は電極頭部21と、電極軸部22とを備えている。そして、電極頭部21の先端には、比較的小径の円錐台形状の突起部21aが先端に配置され、この突起部21aの大径側の端部から後方に向かうに従って径が大きく拡大するよう構成され、頭部21全体としては略円錐体形状となっている。
この頭部21の大きさは、放電アークによる熱的負荷によっても溶融、蒸発が容易に発生しないようある程度の熱容量を備える必要があり、そのための体積を確保する必要がある。一方で、放電ランプのアークで発生した光が電極によって遮られないようにする必要がある。
【0005】
そして、前記電極20は、その頭部21の後端21bには、軸方向に深さをもって該後端面21bに開口する一定幅の環状のスリット23が形成されていて、これにより電極頭部21の後方部には環状の円筒部24が形成される。
この円筒部24は、タングステンからなる電極頭部21と一体構造であるので、長期間の使用により電極20に損耗が生じたとしても、当該円筒部24は自己保持力を備えていて、落下などの不具合が生じにくい構造である。
例えば、比較対象として、電極頭部にコイルを巻き付けたものにおいては、外観は同じ筒状であるものの、軸方向においては不連続であり、コイルの素線が切れた場合には落下する可能性があるが、この従来技術によれば、円筒部24は一体化した円筒状のタングステンから構成されることでそのような不具合が生じることがなく、長時間の使用に十分耐える構造を備えている。
【0006】
かかる環状スリットを有する電極構造によって、ランプ始動時に加熱される電極頭部の円筒部の熱が前記スリットの存在により電極軸部に直接伝わることがなく、当該軸部の加熱が防止されるので、該軸部により封止部が過熱されることがなくなり、発光管を構成する石英ガラスの変質が防止されて、電極軸部の変形を防止できるものと期待されている。
ところで、前記特許文献1には積極的乃至明示的な記載はないが、前記スリットによって、始動時にホロー効果を発揮することも期待されていて、点灯始動が円滑に行われれば、電極の損耗が減少し、発光管の黒化を抑制することができるものである。
【0007】
しかしながら、ホロー効果を得るためには、放電空間内のイオン密度(≒圧力)と、スリットの幅員の関係が適正なものとなっていることが必要であるが、該従来技術においては、その幅員がほぼ一定であり、点灯時に温度上昇に伴って圧力が上昇していくと、前記幅員との関係が適正になるまでホロー効果を期待できないという不具合がある。
しかも、稀に定常点灯時のアークからの熱の流入によって、円筒部と頭部の境界領域の温度が上昇しすぎた場合、この境界領域で変形が生じて円筒部が傾き・曲がり、ひいては折れるに至り、ランプ機能の低下を生じるという不具合もあった。
このような電極の変形や折れは映像装置として求められる機能を満足することが出来ず、製品としては重大な欠陥事象となる。
この不具合を避けるために単純に円筒部や境界領域の肉厚を単純に厚くして強度を得ようとすると、円筒部の体積が増加してこの電極の本来の機能が阻害されてしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−165661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、それぞれが電極頭部と電極軸部とからなる一対の電極が対向位置され、前記一対の電極のうち少なくとも陰極動作する電極は、前記頭部の後端に軸方向の深さを有する環状のスリットを有していて、該頭部の後端側に前記スリットにより円筒部が形成されてなるショートアーク型高圧放電ランプにおいて、スリットにより円筒部から電極軸部への伝熱が防止されるという効果を維持しつつ、当該スリットによるホロー効果が十分に得られ、かつ、前記円筒部と頭部の境界領域の温度が上昇しすぎないように熱容量の確保を行うことができるようにした構造を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明に係るショートアーク型高圧放電ランプは、
前記電極頭部に形成される環状スリットは、その外円周面が頭部先端側に漸次縮径されていて、当該スリットの幅員が頭部先端側に向かうにつれて減少していることを特徴とする。
また、前記環状スリットが断面V字状であることを特徴とする。
また、前記スリットの外円周面と電極の軸心とのなす角度が、5°〜45°であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極頭部の後端に形成したスリットの幅員が、頭部先端側に行くほど小さくなるように変化しているので、点灯により放電空間内の圧力が変動してホロー効果が得られる適正な離間距離が変化したとしても、離間距離が変化する幅員中のいずれかの位置で適正な離間距離がもたらされて、的確なホロー効果を得ることができる。
換言すれば、ホロー効果が発生する圧力の範囲が広がって、点灯始動時にホロー効果が発生するための温度上昇による圧力の変化を待つ時間が短くなる。つまり、点灯時に、より速やかにホロー効果が発生し、点灯始動時の陰極の損耗が低減される。
加えて、スリットの外円周面が頭部先端側に漸次縮径されていて、当該スリットの幅員が頭部先端側に向かうにつれて減少していることにより、円筒部と頭部との境界領域の肉厚が増えて、その熱容量が十分に確保され、当該部位での熱変形が生じにくくなるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るショートアーク型高圧放電ランプの電極の断面図。
【図2】本発明の効果を示す表。
【図3】従来のショートアーク型高圧放電ランプの全体断面図。
【図4】図3の電極の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1において、電極1は、電極頭部2と電極軸部3とからなり、前記頭部2には、該頭部2の後端には、該後端面2aに開口し、軸方向の深さを有する環状のスリット4が形成され、該スリット4により、頭部2の後端側には円筒部5が形成されている。
この環状スリット3は、その外円周面3aが頭部2の先端側にいくほど縮径されており、一方、前記スリット4の内周表面4bは電極軸心Oと平行になっている。これによりスリット3の断面はV字状をなしていて、その幅員は頭部先端側ほど漸次小さなものとなっている。このスリット3の先細形状により、円筒部5は、その後端5b(頭部2後端側)での肉厚Xbから先端5a(頭部2先端側)での肉厚Xaに向かって徐々に厚くなっていて、先端5aでの肉厚Xaが最大となる。
上記において、スリット4の内円周面4bは必ずしも軸心Oと平行である必要はなく、頭部先端側ほど拡径されているものであってもよく、要はスリット4の幅が頭部先端側ほど小さくなっていればよい。
なお、かかる間隙の形成は、例えばレーザ加工により容易に形成できる。
【0014】
なお、上記構成とする電極は、陰極動作する電極であって、直流点灯する放電ランプにおいては、陰極であり、交流点灯する放電ランプにおいては、両電極であり、更には交流点灯するランプにおいて、始動時に直流点灯するものでは、該直流点灯時に陰極として動作する電極である。
【0015】
以下、本発明の効果を実証するための実験を行った。その具体的なランプ仕様および電極の仕様は下記のとおりである。
ランプ:
水銀封入量:0.15mg/mm以上
希ガス(アルゴンガス):10〜26kPa
ハロゲン封入量:10−6〜10−2mol/mm
発光管最大外径:12mm
電極間距離:1.2mm
発光管内容積:120mm
定格電圧:85V
定格電力:300W
ランプの管壁負荷値:2.1W/mm

電極の寸法
軸部の径D2:φ0.5mm
頭部の(最大)外径部の直径D1:3mm
頭部の全長L1:3mm
円筒部の後端の肉厚Xb:2mm
スリットの全長L2:0.6mm
【0016】
このランプの電極に形成した環状スリットの外円周面の角度αを種々変化させて、始動時のグロー放電からアーク放電への遷移時間を測定してその始動性を確認した。
各仕様のランプを作製し、点灯点滅試験を100回繰り返した。
この実験結果を図2に示す。図において、ランプ1は比較対照となる従来例ランプ(図4)である。
なお、併せて円筒部の先端部と後端部の肉厚比を算出して表記してある。
【0017】
<始動性評価>
○:グロー・アーク遷移が速やかにおこなわれ、全く問題なし(1秒以内)
△:グロー・アーク遷移に多少時間がかかるが、特に問題なし(1〜3秒)
×:グロー・アーク遷移が遅い(3秒以上)

この結果、スリットの外円周面の角度αが5°〜45°が○の評価で、好ましいことが分かる。
【0018】
以上のように本発明のショートアーク型高圧放電ランプでは、電極頭部に設けた環状スリットの幅員の大きさ、つまり、スリットにより形成される円筒部と電極本体との離間距離が電極先端側に向かうにつれて小さなものとなり、放電空間内の圧力に対応してホロー効果を生じる適正な距離が、そのスリット幅員のいずれかでもたらされるので、的確なホロー効果を得られるという効果を奏するものである。
また、円筒部はその先端で大きな肉厚となり、十分な熱容量が確保され、当該部位での熱変形が生じることがない。
【符号の説明】
【0019】
1 電極
2 電極頭部
3 電極軸部
4 スリット
4a 外円周面
4b 内円周面
5 円筒部
5a 先端
5b 後端
Xa 先端肉厚
Xb 後端肉厚
α スリット外円周面と軸心との角度




【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが電極頭部と電極軸部とからなる一対の電極が対向位置され、前記一対の電極のうち少なくとも陰極動作する電極は、前記頭部の後端に軸方向の深さを有する環状のスリットを有していて、該頭部の後端側に前記スリットにより円筒部が形成されてなるショートアーク型高圧放電ランプにおいて、
前記環状スリットの外円周面が頭部先端側に漸次縮径されていて、当該スリットの幅員が頭部先端側に向かうにつれて減少していることを特徴とするショートアーク型高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記環状スリットが断面V字状であることを特徴とする請求項1のショートアーク型高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記スリットの外円周面と電極の軸心とのなす角度が、5°〜45°であることを特徴とする請求項1または2に記載のショートアーク型高圧放電ランプ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−98145(P2013−98145A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243078(P2011−243078)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】