説明

シリカ含有ゴムマスターバッチ及びその製造方法

【課題】ウェットマスターバッチ化に際してゴム成分へのシリカの取り込み性を改善する。
【解決手段】シリカを400〜1000℃で熱処理してシリカ表面のシラノール基量を減少させ、該熱処理したシリカを水中に分散させてシリカスラリーを作製し、該シリカスラリーとゴム溶液とを混合してシリカ含有ゴムマスターバッチを製造する。前記熱処理したシリカは、BET比表面積(m/g)に対するシアーズ滴定量(ml)の比である(シアーズ滴定量/BET比表面積)×100が9以下であることが好ましい。また、該熱処理によりシリカのシアーズ滴定量(ml)を熱処理前の70%以下に減少させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカを含有するゴムマスターバッチ及びその製造方法、並びに該シリカ含有ゴムマスターバッチを含むゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ等に用いられるゴム組成物においては、補強材としてカーボンブラックやシリカ等の充填剤が配合されている。かかる充填剤は、一般に、ゴム組成物の混練時に、他の添加剤とともにゴム成分に添加されて混合されている(このような方法は、ドライ混練ないし乾式混練と称されている)。しかしながら、ドライ混練において、充填剤をゴム成分中に均一に分散させることは必ずしも容易ではないことから、ゴム成分への分散性の改良のため、あるいはまた、ゴム組成物の混練工程の簡素化のために、充填剤のスラリーと、ラテックス等のゴム溶液とを混合して、充填剤含有マスターバッチ(いわゆるウェットマスターバッチ)を調製する場合がある。
【0003】
上記充填剤の中でもシリカは、ゴム組成物のヒステリシスロスを低減して低発熱性にできることから、近年、例えばタイヤにおいて低燃費化を図るため、その使用が進められている。しかしながら、シリカは、粒子表面にシラノール基(Si−OH)を有し親水性であることから、上記のように工程簡略化のためにウェットマスターバッチ化するに際し、ゴムへの取り込み性が非常に悪いという問題がある。この問題は、例えばシリカスラリーに界面活性剤等を添加することで改善することが考えられるものの、それらの添加剤がゴム組成物の物性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
下記特許文献1には、ゴム分子とシリカとの親和性を向上するために、特定のポリシロキサン化合物で表面処理したシリカを用いてウェットマスターバッチを製造することが提案されているが、この場合にも、シリカ表面に付与されたポリシロキサン化合物によってゴム組成物の物性に影響を与える可能性があることから、このような化合物を用いることなく、ゴムへの取り込み性を改善することが求められる。
【0005】
なお、下記特許文献2,3には、180〜1000℃の温度範囲内で熱処理した沈降性シリカを配合したゴム組成物が開示されており、上記熱処理により沈降性シリカの表面の細孔を減少させ、これにより耐摩耗性を改善しつつ、低ヒステリシスロス性を示すことが記載されている。また、下記特許文献4には、シリカを250〜500℃の熱で処理することにより、シラノール基等のOH含有成分を低減し、シリカの凝集を抑制することが開示されている。しかしながら、これらの文献は、熱処理による細孔の減少やOH含有成分の減少が、ドライ混練時におけるシリカのゴム成分に対する分散性や、耐摩耗性等の物性向上につながることを開示したにすぎないものであり、ウェットマスターバッチを製造する際のシリカのゴム成分への取り込み性を示すものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−213858号公報
【特許文献2】特開平9−156307号公報
【特許文献3】特開平9−157441号公報
【特許文献4】特開平10−251455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、ウェットマスターバッチ化に際し、ゴム成分へのシリカの取り込み性を改善することができるシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法は、シリカを400〜1000℃で熱処理してシリカ表面のシラノール基量を減少させ、該熱処理したシリカを水中に分散させてシリカスラリーを作製し、該シリカスラリーとゴム溶液とを混合してシリカ含有ゴムマスターバッチを製造するものである。
【0009】
本発明に係るシリカ含有ゴムマスターバッチは、上記方法により製造されたものである。また、本発明に係るゴム組成物は、該シリカ含有ゴムマスターバッチを配合してなるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱処理によりシリカのシラノール基量を制御することによりシリカとゴム成分との相溶性が向上し、これによりウェットマスターバッチ化に際し、ゴム成分に対するシリカの取り込み性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態では、まず、シリカを高温で処理することにより粒子表面のシラノール基量を制御する。すなわち、シリカを熱処理することにより表面のシラノール基量を減少させて疎水化を図ることができ、後工程でウェットマスターバッチ化する際にゴム成分へのシリカの取り込み性を改善することができる。
【0013】
処理対象となるシリカとしては、湿式シリカ(含水ケイ酸)でも乾式シリカ(無水ケイ酸)でもよいが、好ましくは破壊特性の改良効果並びに低発熱性の改良効果が良好である湿式シリカである。湿式シリカは、粒子表面のシラノール基量が大きいので、上記熱処理によるシラノール基量の制御効果が高く、より優れた改善効果が得られる。処理対象となるシリカの窒素吸着比表面積(BET比表面積)は、特に限定されないが、80〜300m/gであることが好ましく、より好ましくは100〜250m/gであり、更に好ましくは100〜200m/gである。なお、シリカのBET比表面積はISO 5794に記載のBET法の一点値により測定される。
【0014】
シリカを熱処理する際の熱処理温度は400〜1000℃の範囲内で設定される。一般に、シリカは、400℃程度までで結合水が放出され、それ以上に加熱することでシラノール基が放出され、800℃程度でシラノール基を効率的に放出することができる。そのため、熱処理によりシリカ表面のシラノール基量を減少させるためには、400℃以上で熱処理する必要があり、より好ましくは600℃以上で熱処理することであり、更に好ましくは800℃以上で熱処理することである。一方で、熱処理温度が1000℃を超えると、結晶化のために粒径が大きくなって本来の性能が損なわれるおそれがあるので、熱処理温度は1000℃以下に設定され、より好ましくは900℃以下である。
【0015】
熱処理時間は、熱処理温度に応じて異なるので、特に限定されない。すなわち、熱処理の目的はシリカ表面のシラノール基量を減少させることであるところ、シラノール基量は、熱処理温度が高いほどより短時間で減少し、また熱処理温度が低いほど減少のためにより長時間を要する。そのため、熱処理時間は、温度に応じて適宜に設定すればよい。
【0016】
好ましくは、熱処理により、シリカのシアーズ滴定量を熱処理前の70%以下に減少させることである。シアーズ滴定量は、シリカ表面にシラノール基がどれだけ存在するかという指標であり、シアーズ滴定量が大きいほど、シリカ表面のシラノール基量が多いことを意味する。そのため、熱処理後のシリカのシアーズ滴定量が熱処理前のシアーズ滴定量に対して70%以下となるように、熱処理によりシラノール基量を減少させることにより、シリカを効果的に疎水化して、ゴム成分に対する取り込み性を顕著に改善することができる。熱処理後のシアーズ滴定量の熱処理前に対する比率は65%以下であることが好ましく、より好ましくは50%以下である。一方、この比率が低すぎると、ゴム組成物に配合したときにシランカップリング剤との反応が減少し、物性を損なうおそれがあるので、該比率は20%以上であることが好ましく、より好ましくは25%以上である。ここで、シアーズ滴定量は、G. W. Sears, Analytical Chemistry, Vol. 28, No. 12, 1982-83 (1956) により測定される値である。
【0017】
本実施形態において、熱処理後のシリカは、BET比表面積(m/g)に対するシアーズ滴定量(ml)の比である(シアーズ滴定量/BET比表面積)×100が9以下であることが好ましい。一般に、シリカは、比表面積が大きいほど(即ち、小粒径のシリカほど)、シアーズ滴定量の値が大きく、また、比表面積が小さいほど(即ち、大粒径のシリカほど)、シアーズ滴定量の値が小さい。そのため、表面積当たりのシラノール基量の指標としてシアーズ滴定量とBET比表面積の比率を設定することにより、粒径によらずに熱処理により疎水化されたシリカを規定することができる。すなわち、該比率が9以下となるように熱処理を行うことにより、ゴム成分に対するシリカの取り込み性を改善することができ、更に6以下となるように熱処理することで、該取り込み性を顕著に改善することができる。該比率の下限は、特に限定されないが、2以上であることが好ましい。
【0018】
本実施形態では、このようにして熱処理したシリカを水中に分散させてシリカスラリーを調製する。シリカスラリーの調製は、公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されない。例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ハイシアーミキサー、コロイドミルなどの公知の分散機を用いて、熱処理シリカを水中に分散させることができる。シリカスラリー中におけるシリカの濃度は特に限定されず、例えば1〜20質量%とすることができる。
【0019】
本実施形態では、次いで、上記シリカスラリーとゴム溶液とを混合してシリカ含有ゴムマスターバッチを製造する。該ゴム溶液としては、天然ゴムラテックスや合成ゴムラテックスが好ましく用いられるが、溶液重合による合成ゴムの有機溶媒溶液であってもよい。
【0020】
天然ゴムラテックスとしては、フィールドラテックスでもよく、あるいはまた、フィールドラテックスを遠心分離などの公知の濃縮法により蛋白質を除去するなどして濃縮した濃縮ラテックスでもよい。また、合成ゴムラテックスとしては、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)などのジエン系ゴムの他、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴムなどの各種ゴムポリマーが、水などの水系溶媒や炭化水素溶剤などに分散してなるラテックスが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらのうち、好ましくはジエン系ゴムラテックスを用いることである。ゴム溶液中におけるゴム成分(ゴムポリマー)の含有率は、特に限定されないが、一般には10〜70質量%である。
【0021】
シリカスラリーとゴム溶液との混合は、公知の混合機を用いて行うことができ、特に限定されない。例えば、ホモミキサー中でシリカスラリーを攪拌しながらゴム溶液を滴下する方法、ホモミキサー中でゴム溶液を攪拌しながらシリカスラリーを滴下する方法、所定の流速を持つシリカスラリー流とゴム溶液流とを合流させて混合する方法などを用いることができる。
【0022】
このようにして混合した後、ゴムをシリカとともに凝固(共凝固)させ、脱水乾燥することで、シリカ含有ゴムマスターバッチが得られる。凝固は公知の方法を用いて行うことができ、例えば、ギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩の凝固剤を用いて凝固させてもよく、あるいはまた凝固剤を添加せずに凝固がなされるものであってもよい。凝固後、固液分離して凝固物を回収した後、凝固物を洗浄し、脱水してから乾燥を行う。乾燥は公知の方法を用いて行うことができ、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤーなどの通常の乾燥機を用いて行うことができ、また混練機を用いて機械的せん断力をかけながら乾燥させてもよい。
【0023】
シリカ含有ゴムマスターバッチ中におけるシリカとゴム成分との比率は特に限定されないが、例えば、ゴム成分100質量部に対して、シリカを5〜150質量部とすることができ、より好ましくは30〜100質量部である。
【0024】
本実施形態に係るゴム組成物は、上記で得られたシリカ含有ゴムマスターバッチ(すなわち、ウェットマスターバッチ)を含むものである。該ゴム組成物において、ゴム成分は、上記シリカ含有ゴムマスターバッチ由来のゴムポリマーのみからなるものであってもよいが、該シリカ含有ゴムマスターバッチから配合されるものとは別に、通常の天然ゴムやジエン系合成ゴム(例えば、上記のIR、BR、SBR、CR、NBR等)などの各種ゴムポリマーを含むものであってもよい。ゴム組成物中のゴム成分全体に対する上記シリカ含有ゴムマスターバッチ由来のゴム成分は30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上である。
【0025】
該ゴム組成物には、更にシランカップリング剤が配合されることが好ましい。シランカップリング剤としては、公知の種々のシランカップリング剤を用いることができ、特に限定するものではないが、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエキトシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィドシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランなどが挙げられ、これらはいずれか1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して2〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは4〜15質量部である。
【0026】
該ゴム組成物には、上記の他、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、活性剤、滑剤、加硫剤、加硫促進剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、該ゴム組成物には、カーボンブラック等の他の充填剤を添加してもよく、また、ウェットマスターバッチ化したシリカを用いるという本実施形態の上記効果を損なわない範囲内で、追加的にシリカを添加してもよい。
【0027】
該ゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。このようにして得られるゴム組成物の用途は、特に限定されず、トレッドやサイドウォール等のタイヤ、コンベアベルト、防振ゴムなどの各種用途に用いることができる。好ましくは、タイヤに用いることであり、常法に従い、例えば140〜200℃で加硫成形することにより、各種空気入りタイヤのゴム部分(トレッドゴムやサイドウォールゴムなど)を構成することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
[シリカ含有ゴムマスターバッチの調製]
・実施例1〜8:
BET比表面積=168m/gかつシアーズ滴定量=15.2mlである小粒径の湿式シリカ(デグサ社製「VN3」)をるつぼに入れ、電気炉内において、下記表1に示す処理温度及び処理時間で加熱処理した。加熱処理後、電気炉より取り出し、デシケータ中で放冷した。得られた熱処理シリカについて、BET比表面積とシアーズ滴定量を測定し、その測定結果を、両者の比「(シアーズ/BET)×100」、及び、熱処理前のシアーズ滴定量に対する比率(シラノール基量変化)とともに表1に示した。
【0030】
上記熱処理シリカを5質量%のシリカスラリーとなるように水を加え、コロイドミルを用いて、8000回転×30分という条件で処理して、均一なシリカスラリーを得た。スチレンブタジエンゴムラテックス(JSR株式会社製「0561」)を、ゴム濃度が20質量%となるように希釈し、そのラテックス2000gを、上記シリカスラリー5600gに対して添加し、混合した(ゴムポリマー100質量部に対してシリカ70質量部)。
【0031】
混合後、凝固剤としてギ酸を加えて凝固させ、固液分離して凝固物を回収した後、凝固物を洗浄し脱水した。更に、オーブンにて100℃×60分間乾燥してシリカ含有ゴムマスターバッチを得た。得られたシリカ含有ゴムマスターバッチについて、該マスターバッチ中に含まれるシリカの量を測定し、混合時に投入したシリカ量(A[phr])に対して実際にマスターバッチに取り込まれたシリカ量(B[phr])の比率(B/A×100)を取込み率として求め、表1に示した。ここで、マスターバッチ中に含まれるシリカ量は、TGA(熱重量測定)により測定した。
【0032】
・比較例1:
上記小粒径の湿式シリカ(デグサ社製「VN3」)を熱処理せずに用い、その他は実施例1〜8と同様にしてシリカ含有ゴムマスターバッチを調製した。
【0033】
・実施例9:
シリカとして、BET比表面積=106m/gかつシアーズ滴定量=10.5mlである大粒径の湿式シリカ(デグサ社製「VN2」)を用い、その他は実施例1〜8と同様にしてシリカ含有ゴムマスターバッチを調製した。
【0034】
・比較例2:
上記大粒径の湿式シリカ(デグサ社製「VN2」)を熱処理せずに用い、その他は実施例9と同様にしてシリカ含有ゴムマスターバッチを調製した。
【0035】
・比較例3:
シリカとして、BET比表面積=134m/gかつシアーズ滴定量=4.2mlである乾式シリカ(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL 130」)を、熱処理せずに用いて、その他は実施例1〜8と同様にしてシリカ含有ゴムマスターバッチを調製した。
【0036】
【表1】

【0037】
[ゴム組成物の調製]
下記表2に示す配合(質量部)に従って、常法に従い、バンバリーミキサーを使用してゴム組成物を調製した。詳細には、まず、第1混合段階で硫黄及び加硫促進剤を除く成分を混練し、次いで、得られた混合物に、第2混合段階で硫黄及び加硫促進剤を添加し混練してゴム組成物を調製した。なお、表2中の各マスターバッチの配合量についての括弧内の数値はシリカの量であり、残部がゴム成分の量となる。なお、上記表1に示すように、各シリカ含有ゴムマスターバッチのシリカ取込み率が異なることから、各ゴム組成物では、ゴム成分100質量部に対するシリカの配合量が50質量部で一定となるように、シリカ含有ゴムマスターバッチに対して、ゴム成分及びシリカを別途添加した。表2中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0038】
・マスターバッチE3、5〜8及び9:それぞれ実施例3、5〜8及び9で得られたシリカ含有ゴムマスターバッチ
・マスターバッチC3:比較例3で得られたシリカ含有ゴムマスターバッチ
・SBR:上記スチレンブタジエンゴムラテックス(JSR株式会社製「0561」)をシリカスラリーと混合することなく、その他は実施例1と同様に凝固乾燥させて得られたゴム。
【0039】
・小粒径シリカ:実施例1で用いた小粒径の湿式シリカ(デグサ社製「VN3」)の未熱処理品
・小粒径熱処理シリカ:該小粒径シリカを実施例5の熱処理条件で熱処理したシリカ
・大粒径シリカ:実施例9で用いた大粒径の湿式シリカ(デグサ社製「VN2」)の未熱処理品
・大粒径熱処理シリカ:該大粒径シリカを実施例9の熱処理条件で熱処理したシリカ
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック・デグサ社製「Si69」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストKH」
・オイル:ジャパンエナジー株式会社製「プロセスX140」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・老化防止剤:大内新興化学工業株式会社製「ノクラック6C」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油入微粉末硫黄」
・加硫促進剤:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
【0040】
得られた各ゴム組成物について、160℃×30分間で加硫して所定形状の試験サンプルを作製し、該サンプルを用いて低発熱性、引張特性、耐摩耗性を測定・評価した。結果を表2に示す。なお、各測定方法は以下の通りである。
【0041】
・低発熱性:UBM社製レオスペクトロメーターE4000を使用し、50Hz、60℃、動的歪2%の状態で損失正接tanδを測定し、比較例4の値を100とした指数で表示した。指数値が小さいほど、発熱しにくく(低発熱性に優れ)、従って、タイヤにしたときに転がり抵抗が低く、低燃費性に優れることを示す。
【0042】
・引張特性:JIS K6251に準拠した引張試験により引張強さ(ダンベル状3号形)を測定し、比較例4の値を100とした指数で表示した。指数値が大きいほど、引張強さが大きく、補強性に優れることを示す。
【0043】
・耐摩耗性:ランボーン摩耗試験機を用いて、温度23℃、スリップ率50%の条件で摩耗損失体積を測定し、その測定値の逆数について、比較例4の値を100とした指数で表示した。指数値が大きいほど、耐摩耗性が良好であることを示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表1に示すように、小粒径シリカを熱処理することなくウェットマスターバッチ化した比較例1では、マスターバッチにシリカが5%程度しか取り込まれていなかった。実施例1及び2のように熱処理温度が400℃では、シリカの取込み率は低いものの、比較例1に対しては改善効果が認められた。なお、熱処理温度が400℃の場合、処理時間を延ばしても更なるシラノール基量の減少は見られなかった。熱処理温度が600℃である実施例3では、シラノール基量の減少が顕著であり、ウェットマスターバッチ化に際し、シリカの取り込みが大幅に改善された。また、熱処理温度が800℃である実施例4〜7でも、ウェットマスターバッチ化に際してのシリカの取り込みが大幅に改善されており、熱処理時間が長いほど、シリカの取込み率が高くなった。熱処理温度が1000℃である実施例8では、シラノール基量が減少することによるシリカの取り込み性改善は、800℃の場合と同様に優れていた。但し、シリカの粒径が大きくなっており、これはおそらく高温による結晶化の影響と考えられる。
【0046】
表2に示すように、これらのシリカ取込み率が改善された実施例のゴムマスターバッチを用いた実施例10〜14であると、ドライ混練による比較例4及び5に対し、シリカの分散性に優れているためか、低発熱性、引張特性及び耐摩耗性において改善効果が認められた。
【0047】
大粒径シリカを用いた場合でも、熱処理することなくウェットマスターバッチ化した比較例2では、表1に示すように、シリカの取り込み性に劣っていた。大粒径シリカの場合、シアーズ滴定量は一見少ないが、表面積あたりの滴定量でみると、シアーズ/BET×100=9.91と大きく、そのため、取り込み性に劣っている。これに対し、大粒径シリカを熱処理した実施例9であると、小粒径シリカの場合と同様、ウェットマスターバッチ化に際してシリカの取り込み性が大幅に改善されていた。また、該ゴムマスターバッチを用いたゴム組成物の評価でも、表2に示すように、実施例15では、ドライ混練による比較例6及び7に対して、低発熱性、引張特性及び耐摩耗性において改善効果が認められた。
【0048】
一方、比較例3では、もともとシラノール基量の少ない乾式シリカであるため、ウェットマスターバッチ化に際してのシリカの取り込み性については問題なかったが、表2に示すように、粒子構造(細孔が無い)の違いから、ゴム組成物の評価において、実施例に比べて物性悪化が顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物等、各種ゴム組成物に配合して用いられるゴムマスターバッチを製造するのに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを400〜1000℃で熱処理してシリカ表面のシラノール基量を減少させ、該熱処理したシリカを水中に分散させてシリカスラリーを作製し、該シリカスラリーとゴム溶液とを混合してシリカ含有ゴムマスターバッチを製造することを特徴とするシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記シリカの熱処理温度が600〜1000℃であることを特徴とする請求項1記載のシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理したシリカは、BET比表面積(m/g)に対するシアーズ滴定量(ml)の比である(シアーズ滴定量/BET比表面積)×100が9以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項4】
前記(シアーズ滴定量/BET比表面積)×100が6以下であることを特徴とする請求項3記載のシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理によりシリカのシアーズ滴定量(ml)を熱処理前の70%以下に減少させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理するシリカが湿式シリカであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項7】
前記ゴム溶液がジエン系ゴムラテックスであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシリカ含有ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により製造されたシリカ含有ゴムマスターバッチ。
【請求項9】
請求項8に記載のシリカ含有ゴムマスターバッチを配合してなるゴム組成物。

【公開番号】特開2012−246331(P2012−246331A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116802(P2011−116802)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】