説明

シリカ粉末の製造方法

【課題】 平均粒子径が100nm程度のシリカ粉末は付着性が強く、製造装置内へ容易に付着堆積してしまうため、連続的な合成運転が困難となる。従って、付着性が強く連続的な製造運転が困難なシリカ粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】 ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の含ケイ素化合物を火炎中で燃焼させて熱分解し、ついで生じたシリカ粒子を捕集して燃焼排ガスから分離する際に、燃焼排ガス温が300〜600℃の範囲で分離することで、シリカ粒子の製造装置内への付着が低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含ケイ素化合物を火炎中で燃焼させて熱分解し、ついで生じたシリカ粒子を捕集して燃焼排ガスから分離するシリカ粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化、小型軽量化に伴い、搭載される半導体素子及び半導体パッケージの高集積化、小型化、薄型化が進んでいる。このため、半導体封止用樹脂に添加する充填材の粒子径が段々と小さくなっていく傾向にあり、平均粒子径が100nm程度のシリカ粉末が用いられることもある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような平均粒子径を有するシリカ粒子の製造方法としては、含ケイ素化合物からなる気体又は噴霧した液体を気相中高温で燃焼(熱分解)して製造する熱分解法シリカや、金属ケイ素を火炎中や高温の電気炉中で酸化させて製造されるシリカ、あるいは粉砕石英等のシリカ質粉末を火炎中で一旦溶融させ、これを再凝固させることにより製造するシリカなどが挙げられる。
【0004】
なかでも原料が気体や液体である熱分解法は、原料精製が容易なためより高純度の原料を入手しやすく、また高温雰囲気へ原料を供給する際の各種制御もしやすく、平均粒子径の小さなシリカを製造する方法としては優れた方法である。
【0005】
通常、熱分解法で製造されたシリカはバグフィルター等のフィルターにより捕集、燃焼排ガスより分離される。従来、不純物の混入の可能性の少ない樹脂製のフィルターが汎用されており、そのためガス温度が200℃以下の領域で捕集が行われていた。
【0006】
【特許文献1】特開2008−19157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような平均粒子径が100nm程度のシリカ粉末は、より粒子径の大きなシリカ粒子よりも付着性が強く、捕集前に気送配管などの製造装置内へ容易に付着堆積してしまうことが多く、連続的な製造運転が困難となる。また捕集装置(集塵装置)における捕集性も悪く、さらには捕集装置への付着も強固な傾向があり、捕集装置からの回収の手間も多い。
【0008】
従って、本発明の目的は、付着性が強く従来の方法では連続的に製造することが困難であったシリカ粉末の製造方法を改良し、工業的に低コストで製造可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記技術課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、含ケイ素化合物を火炎中で燃焼させて熱分解し、ついで生じたシリカ粒子を捕集して燃焼排ガスから分離する際に、燃焼排ガス温が300〜600℃の範囲で分離することで、シリカ粒子の装置への付着が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明のシリカ粉末の製造方法は、含ケイ素化合物を火炎中で燃焼させて熱分解し、ついで生じたシリカ粒子を捕集して燃焼排ガスから分離する工程を含むシリカ粉末の製造方法において、該シリカ粒子の捕集を、燃焼排ガス温が300〜600℃の範囲で行うことを特徴とするシリカ粉末の製造方法である。
【0011】
また、BET法比表面積が20〜55m/gのシリカの製造方法として特に好適である。更にはシリカ粒子の捕集をフィルターにより行うことが好適であり、フィルターが焼結金属フィルターであることがより好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、平均粒子径が100nm程度(概ね50〜150nm)のシリカ粒子を安定的に連続生産することが可能となる。そのためこのような平均粒子径を有するシリカ粒子を相対的に安価に製造することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、含ケイ素化合物を燃焼させて熱分解するシリカの製造方法に係る。当該含ケイ素化合物としては、熱分解法によるシリカの製造原料として使用可能な公知の含ケイ素化合物であれば特に限定されない。
【0014】
当該含ケイ素化合物を具体的に例示すると、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン等のハロゲン化ケイ素類、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン等のシロキサン類が挙げられる。これらのなかでも平均粒子径が100nm程度の粒子を製造しやすく、また得られたシリカ中に不純物としてハロゲン含まれない点で、シロキサン類であることがこのましい。
【0015】
特に、シロキサンが含む炭素原子数と珪素原子数の比、即ち、シロキサンが含む炭素原子数をシロキサンが含む珪素原子数で割った値が、2以下のシロキサンが好ましい。この値が2を超えると、珪素原子に対する炭素原子の数が多すぎるため、二酸化炭素の生成等のシリカ微粒子の生成以外に必要な酸素の量が増え、シリカ微粒子の生成量のわりには、多量の酸素が必要で、なおかつ燃焼熱が大きいため燃焼ガスを冷却する工程が大規模になり工業的生産には不向きである。
【0016】
このような原料を用いた熱分解法シリカの製造方法は知られており、例えば、特開2008−19157号公報には、シロキサン類を原料とした熱分解法シリカの製造例が具体的に記載されている。
【0017】
より具体的には、含ケイ素化合物と酸素等の支燃性ガスとの混合ガスに、さらに必要に応じて窒素等の希釈ガスや水素等の補助燃焼ガスをバーナーから噴出させつつ燃焼させる。用いる各ガスの種類やその使用比は、製造を目的とするシリカの各種物性に応じて公知の条件を適宜採用すればよい。例えば純酸素に代えて空気を支燃性ガスとして用いることもできる。バーナーについても同様である。
【0018】
燃焼により含ケイ素化合物は熱分解しシリカ粒子が生じる。生じたシリカ粒子は燃焼により生じた排ガス等のガス混合物(燃焼排ガス)との固気混相状態であるため、シリカ粒子を回収するために集塵器を用いて固気分離する必要がある。本発明のシリカ粉末の製造方法においては、当該固気分離、即ちシリカ粒子の捕集を燃焼排ガス温が300〜600℃の範囲で行うことが重要である。
【0019】
即ち、製造されたシリカ粒子と燃焼排ガスとは固気混相流として捕集装置まで移送されるが、燃焼排ガス温(=シリカ粒子の温度)が300℃より低下すると、シリカ粒子の付着性が急激に増大して、気送配管などの製造装置内への付着堆積が進行し、極端な場合には配管の閉塞を起こしてしまうこともある。そのため連続的な製造運転が困難となる。
【0020】
一方、燃焼排ガス温が600℃より高温であると、付着の問題はほとんど生じないが、捕集したシリカ粒子が強固に固結してしまうおそれがある。また合成装置の耐熱温度を確保するために高価な特殊鋼材を使用する必要があり経済的でない。
【0021】
本発明はシリカ粒子のBET比表面積が20〜55m/gの乾式シリカ微粒子である場合に、よりその効果が大きい。即ち、BET比表面積が20〜55m/gの範囲にある乾式シリカ微粒子は、付着性が強く、製造装置内へ容易に付着堆積してしまうため、上記理由により連続的な製造運転が困難となるためである。このような比表面積の範囲を有する乾式シリカとしては、上記特開2008−19157号公報に記載されたシリカが挙げられる。
【0022】
シリカ粒子の捕集方法は通常、乾式で行われる。乾式捕集の方法は公知の捕集(集塵)方法が何ら制限無く採用でき、重力式、慣性式、遠心式、濾過式などが挙げられるが、捕集温度を300〜600℃の範囲に制御しやすく、また捕集効率の点で濾過式を採用すること好ましい。
【0023】
濾過式でシリカ粒子の捕集を行う場合、濾過材としては300〜600℃の温度範囲で使用できるものであれば特に制限されず、例えば焼結金属フィルター、セラミックスフィルター、耐熱樹脂フィルターが挙げられるが、耐熱性、耐サーマルショック性の点で、焼結金属フィルターが好ましい。
【0024】
フィルターの形状としては、円筒型、コップ型、フランジ付コップ型、円板型、角板型、ワッフル型、リーフ型、プリーツ型やこれらの折衷/複合型など公知の如何なる形状でもよい。
【0025】
焼結金属フィルターを採用する場合には、粉末焼結型でもよいし、積層金網焼結型やあるいはそれ以外のタイプのものでも特に限定されないが、平均粒子径が100nm前後のシリカ粒子を捕集する際には、濾過孔径を小さく制御しやすい点で粉末焼結型のフィルターが好ましい。また材質も一般的なステンレスやブロンズでよい。
【0026】
フィルターの濾過孔径は、捕集(製造)されるシリカ粒子径に応じて適宜選択すればよい。例えば前記特開2008−19157号公報に記載された方法で製造される平均粒子径が100nm程度のシリカ粒子である場合には、濾過孔径1〜20μm程度のものを採用することができる。フィルターで捕集されたシリカ粒子の回収方法も、用いた捕集装置に応じて公知の回収方法を採用すればよい。
【0027】
本発明の製造方法の代表的な例を図面を参照して説明すると以下の通りである。図1は本発明の製造方法を実施する製造装置の一例であり、捕集方式としては濾過式を採用している。図1においては、バーナー部を含む反応器で生成したシリカ粒子は、固気混相流として捕集装置へと送られる。通常、反応器から捕集装置へは気送配管を通じて送られるが、この気送配管の耐熱性を考慮すると、捕集装置への到達時に300℃を下回らない程度に冷却した状態で送ることが好ましく、例えば、気送配管入り口から冷却エアーを吹き込むことも好適である。適度な圧力で吹き込まれた冷却エアーは、シリカ粒子を捕集装置へと運ぶ推進力にもなる。
【0028】
捕集(集塵)装置にはフィルターが設置されており、シリカ粒子はこのフィルターで捕集される。なお本発明においてはこの捕集時に燃焼排ガス温度を300〜600℃の範囲としておく必要があるため、必要に応じて気送配管や捕集装置を保温し、温度が下がり過ぎないようにしておく。
【0029】
製造装置を連続的に運転していくと、フィルターに徐々にシリカ粒子が堆積してゆき、そのまま放置すると閉塞してしまうため、シリカ粒子の堆積量が一定値に達したらフィルターから除去、回収する必要がある。例えば、フィルターの逆方向から瞬間的に高圧ガス流を吹き付けることによりフィルターからシリカ粒子を剥離させることができる。図1に示すようにガス流れ方向を下方から上方へとしておくことにより、フィルターから剥離したシリカ粒子は重力によりホッパーへと落下し容易に回収可能である。この高圧ガス流を吹き付けるタイミングは、例えば圧力損失をモニターしておくことにより把握できる。
【0030】
回収されたシリカ粒子は必要に応じてシリル化剤、シリコーンオイル、各種のシロキサン類、各種脂肪酸等の表面処理剤で表面処理をおこなってもよい。
【実施例】
【0031】
本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
なお、以下の実施例及び比較例における各種の物性測定等は以下の方法による。
【0033】
(1)BET比表面積測定:
柴田理化学社製比表面積測定装置(SA−1000)を用い、窒素吸着BET1点法により測定した。
【0034】
実施例1
図1に模式図を示す装置を用い、特開2008−19157号公報の実施例1に記載の方法でオクタメチルシクロテトラシロキサンを3重管バーナで燃焼させ、BET比表面積が30m/gのシリカ粒子を製造した。即ち、加熱気化させたオクタメチルシクロテトラシロキサンと酸素と窒素を混合した後、該混合ガスをバーナ中心管に導入した。また、中心管に隣接する第1環状管には補助燃料ガスとして水素を導入し、更にその外側に隣接する第2環状管には、支燃性ガスとして酸素を導入した。各々以下に定義される酸素比は0.5、補助燃料比は0.2、支燃性酸素比は0.8とした。
【0035】
酸素比=A/B
(式中、Aは、中心管に供給される混合ガス中の酸素量であり、Bは、該混合ガス中のオクタメチルシクロテトラシロキサンが完全燃焼するのに必要な酸素の量である)
補助燃料比=C/B’
(式中、Cは、第1環状管から吐出される水素ガスを完全燃焼するのに必要な酸素量であり、B’は、中心管から吐出されるオクタメチルシクロテトラシロキサンを完全燃焼するのに必要な酸素の量である)
支燃性酸素比=D/B’
(式中、Dは、第2環状管から吐出される酸素量であり、B’は上記の通りである)
この際、冷却エアー量を調整しシリカ粒子の捕集を、捕集装置部分での燃焼排ガス温が450℃で実施した。シリカの捕集には濾過孔径8μmの焼結金属フィルターを用いた。
【0036】
5時間の連続運転・製造後、製造装置を分解点検したがシリカの付着は殆ど見られなかった。
【0037】
比較例1
実施例1と同様にBET比表面積が30m/gのシリカ粒子を製造した。その際、冷却エアー量を調整しシリカ粒子の捕集を燃焼排ガス温が200℃で実施した。シリカの捕集には焼結金属フィルターを用いた。
【0038】
実施例と同じく5時間の連続運転後、製造装置を分解点検した結果、気送配管内にシリカが付着しており、捕集装置直前部では堆積厚さが約2cmにも及んでいた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の製造方法を実施する装置の代表例を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含ケイ素化合物を火炎中で燃焼させて熱分解し、ついで生じたシリカ粒子を捕集して燃焼排ガスから分離する工程を有するシリカ粉末の製造方法において、該シリカ粒子の捕集を、燃焼排ガス温が300〜600℃の範囲で行うことを特徴とするシリカ粉末の製造方法。
【請求項2】
BET法による比表面積が20〜55m/gのシリカの製造方法である請求項1記載のシリカ粉末の製造方法。
【請求項3】
シリカ粒子の捕集を濾過式により行う請求項1又は2記載のシリカ粉末の製造方法。
【請求項4】
濾過材が焼結金属フィルターである請求項3記載のシリカ粉末の製造方法。

【図1】
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