説明

シリカ粒子の製造方法及びシリカ粒子

【課題】 粒径が比較的大きく、且つ粒度分布のばらつきが小さい真球状のシリカ粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】 水系溶媒に、非加水分解基を有するアルコキシシランとアルコールの混合溶液を添加して反応液を用意する準備工程と、反応液にアンモニア水を添加してポリオルガノシロキサン粒子を析出、成長させる析出・成長工程と、反応液にアンモニア水を添加してポリオルガノシロキサン粒子を熟成させる熟成工程と、ポリオルガノシロキサン粒子を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真球状のシリカ粒子は、半導体の樹脂封止材のフィラーとして使用されているが、近年その用途が広がりつつある。新規な用途として、例えば液晶ディスプレイパネルのシール部に使用されるスペーサーがある。
【0003】
液晶ディスプレイパネルのシール部用スペーサー用途の場合、粒径が比較的大きく、且つ粒度分布のばらつきが小さいことが求められる。
【特許文献1】特開平5−139717号公報
【特許文献2】特開2002−37620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリカ粒子は、原料であるアルコキシシランを加水分解、重縮合反応させることによって作製される。原料としてはテトラアルコキシシラン(Si原子の4つの基が全て加水分解基。TEOS:テトラエトキシシラン等)が最も一般的である。ところがTEOSは水との反応性が低く、高濃度の塩基性触媒(pH12程度)を添加しないと粒子成長させることができないため、一度の反応(1回の原料添加による反応)では1μm未満の小さな粒子しか得ることができない。それゆえ1回目の反応で粒子を成長させた後に、この粒子をシード粒子として、更に複数回に分けて原料を添加して繰り返し反応させて、粒子を徐々に成長させていくという手法が採られている。このため所望の粒径に成長させるまでに時間がかかる。またこの方法では、粒径が大きくなるほど、原料添加に対する粒子の成長効率が悪くなることから、粒径の大きなシリカ粒子(例えば7μm以上の粒子)を得ることは困難である。
【0005】
そこでTEOSの代わりに、メチルトリメトキシシラン(MTMS)等の非加水分解基を有するアルコキシシランを用いる方法が提案されている。MTMSは、TEOSに比べて水との反応性が高いために、粒子成長が容易であり、短時間で所望の大きさの粒子を得ることができるという特徴がある。ところがMTMSを使用する従来の方法では、均一な粒径のシリカ粒子を得ることが難しいという問題がある。
【0006】
特許文献1には、水と有機溶媒からなる溶媒中に、塩基性触媒(アンモニア水等)と有機珪素化合物(MTMS等のアルコキシシラン)とを交互に添加する方法が記載されている。
【0007】
特許文献2には、水と有機溶媒からなる溶媒中に有機珪素化合物(MTMS等のアルコキシシラン)を溶解させ、次にアンモニアを添加して加水分解、縮合させ、粒子成長が止まった後にさらにアンモニアを添加する方法が記載されている。
【0008】
しかし上記各特許文献には、溶媒に、MTMSとアルコールの混合物を添加することについて記載がない。
【0009】
本発明は、粒径が比較的大きく、且つ粒度分布のばらつきが小さい真球状のシリカ粒子を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は種々検討した結果、以下の知見を得た。
【0011】
非加水分解基を有するアルコキシシランは、反応相手である水への溶解性が良くない。それゆえこの種のアルコキシシランを単独で水系溶媒(水を主体とする溶媒)に添加すると、均一に混ざるまでに時間がかかってしまう。その一方で、非加水分解基を有するアルコキシシランは水との反応性が非常に高い。その結果、アルコキシシランと水系溶媒の混合が不均一な段階(即ち、反応液中でのアルコキシシランの濃度分布が不均一な状態)で、加水分解反応が始まってしまう。そしてアルコキシシラン濃度が高い領域では大きな核が形成され、濃度が低い領域では小さな核が形成される。これがシリカ粒子の粒径がばらつく原因と考えられる。
【0012】
そこで本発明者は、予め非加水分解基を有するアルコキシシランにアルコールを添加して混合溶液を作製し、これを水系溶媒に添加することにより、上記課題を達成できることを見いだし、本発明として提案するものである。
【0013】
即ち、本発明のシリカ粒子の製造方法は、水系溶媒に、非加水分解基を有するアルコキシシランとアルコールの混合溶液を添加して反応液を用意する準備工程と、反応液にアンモニア水を添加してポリオルガノシロキサン粒子を析出、成長させる析出・成長工程と、反応液にアンモニア水を添加してポリオルガノシロキサン粒子を熟成させる熟成工程と、ポリオルガノシロキサン粒子を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明において、水系溶媒は純水とnブタノールからなることが好ましい。
【0015】
本発明において、非加水分解基を有するアルコキシシランは、メチルトリメトキシシランであることが好ましい。
【0016】
本発明において、非加水分解基を有するアルコキシシランと混合するアルコールはエタノールであることが好ましい。
【0017】
本発明において、析出・成長工程におけるアンモニア水添加後の反応液中のアンモニア濃度は、0.0015〜0.015質量%であることが好ましい。
【0018】
本発明において、熟成工程におけるアンモニア水添加後の反応液中のアンモニア濃度は、0.05〜0.2質量%であることが好ましい。
【0019】
本発明において、熟成工程におけるアンモニア水添加後に、1〜15分間攪拌を行うことが好ましい。
【0020】
本発明において、熟成工程における攪拌後に、8〜24時間静置することが好ましい。
【0021】
本発明のシリカ粒子は、上記の方法で製造されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法によれば、予め非加水分解基を有するアルコキシシランにアルコールを添加して混合溶液を作製しておくことにより、混合溶液の水系溶媒に対する溶解性が改善され、短時間でアルコキシシランが水系溶媒中に均一に混合される。その結果、粒子が均一に成長し易くなり、粒度分布のばらつきが小さいシリカ粒子を作製することが可能になる。
【0023】
またこのような方法で作製されたシリカ粒子は、粒径が大きく、且つ粒度分布のばらつきが小さいため、液晶ディスプレイパネルのシール部用スペーサーとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明のシリカ粒子の製造方法を詳述する。
【0025】
本発明の方法は、
(1)水系溶媒に、非加水分解基を有するアルコキシシランとアルコールの混合溶液を添加して反応液を用意する準備工程と、
(2)反応液にアンモニア水を添加してポリオルガノシロキサン粒子を析出、成長させる析出・成長工程と、
(3)反応液にアンモニア水を添加してポリオルガノシロキサン粒子を熟成させる熟成工程と、
(4)ポリオルガノシロキサン粒子を焼成する焼成工程と、
を含む。
【0026】
まず準備工程について説明する。
【0027】
準備工程は、水系溶媒にアルコキシシランとアルコールの混合溶液を添加して反応液を調製する工程である。
【0028】
水系溶媒としては水とアルコールの混合溶媒を使用することが好ましい。ここでアルコールを水に添加しておく理由は、MTMS等のアルコキシシランと水系溶媒との混合性を良くし、径が均一に揃った粒子を成長させるためである。
【0029】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール類が使用可能である。これらの中でも、nブタノールを使用することが特に好ましい。その理由は、nブタノール以外のアルコール類を使用した場合、大径(例えば5μm以上)の粒子が成長し難い傾向がある。これはメタノールやエタノール、プロパノールに比べて、ブタノールは分子のサイズが大きく、この点が大径粒子の成長に寄与していると考えられる。また、ブタノール以上に分子サイズの大きい(炭素原子の多い)アルコールでは水との溶解性が非常に悪く、アルコキシシラン(MTMS等)と水との混合性を悪化させ、結果としてシリカ粒子の径がばらついてしまうと考えられる。nブタノールの添加割合は、水に対して3〜7質量%程度であることが望ましい。これよりもnブタノール濃度が低いと、水系溶媒とアルコキシシランとの混合性が悪くなり、成長する粒子の径がばらつき易い。また、これよりもnブタノール濃度が高いと、nブタノールの水への溶解度である7.7%を超えてしまうため、nブタノールと水を完全に混合することができず、水系溶媒の均質性が損なわれ、アルコキシシラン添加後に反応液中で成長する粒子の径がばらついてしまう。
【0030】
混合溶液は、非加水分解基を有するアルコキシシランとアルコールを含む。
【0031】
非加水分解基を有するアルコキシシランを用いる理由は、この材料の水との反応性が高いために、低い塩基性触媒濃度(pH9程度)の条件下で加水分解、重縮合反応によるポリオルガノシロキサン粒子の成長を進めることができるためである。それゆえ一度の反応(一回の原料添加による反応)で径の大きいポリオルガノシロキサン粒子を得ることができる。この種のアルコキシシランを使用すれば、直径15μm程度のシリカ粒子を得ることも可能になる。
【0032】
非加水分解基を有するアルコキシシランは、下記の式で表される。
【0033】
R1nSi(OR2)4−n (式中、nは1〜3の整数である。)
【0034】
上記式中、R1は、置換または非置換の炭化水素基から選ばれる炭素数1〜10の有機基を表す。このうち、非置換炭化水素としては、アルキル基(鎖状アルキル基または環状アルキル基)、アルケニル基、アラルキル基、アリール基等が挙げられ、置換炭化水素としては、炭化水素の水素原子の一部または全部が非炭化水素基または水素以外の原子で置換された基で、具体的にはクロロアルキル基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、アミノプロピル基、3,4−エポキシシクロへキシルエチル基、γ−メルカプトロプロピル基、トリフルオロプロピル基、フルオロカーボン基などが挙げられる。
【0035】
上記式中、R2は、水素原子またはアルキル基、アルコキシアルキル基およびアシル基から選ばれる炭素数1〜10の有機基である。このような、有機ケイ素化合物として具体的に、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリス(メトキシエトキシ)シラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン等(上記式中n=1の有機ケイ素化合物)、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシ−3−グリシドキシプロピルメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジアセトキシジメチルシラン、ジフェニルシランジオール等(上記式中n=2の有機ケイ素化合物)、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、アセトキシトリメチルシラン、トリメチルシラノール等(上記式中n=3の有機ケイ素化合物)が挙げられる。
【0036】
これらの中でもメチルトリメトキシシラン(MTMS)及びビニルトリメトキシシランが好ましく、特にメチルトリメトキシシランが好適である。その理由は、ポリオルガノシロキサン粒子を得た後、焼成によってシリカ化する工程において、その粒子収縮が少ないことや有機分除去によるシリカ化の際の効率などから、有機成分の少ないものが好ましいためである。
【0037】
アルコキシシランに混合するアルコールの量は、混合液添加後の反応液に対して1〜5質量%程度が望ましい。これよりもアルコール濃度が低いと、水系溶媒との混合性が悪くなり、成長する粒子の径がばらつき易い。また、これよりもアルコール濃度が高いと、相対的に反応液中でのアルコキシシランと水の濃度が薄くなり、ポリオルガノシロキサン粒子の成長速度が遅くなる、あるいはポリオルガノシロキサン粒子が成長し難くなるといった問題が発生し易くなる。
【0038】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールなどの水への溶解性に優れる低級アルコール類が使用可能であるが、メタノールは安全面での問題があるため、エタノールやプロパノールが特に好ましい。
【0039】
予め非加水分解基を有するアルコキシシランにアルコールを添加して混合溶液を作製しておく理由は、アルコキシシランにアルコールを添加しておくと、混合溶液の水系溶媒に対する溶解性が改善され、短時間でアルコキシシランが水系溶媒中に均一に混合されるためである。アルコキシシランが水系溶媒中に均一に存在していると、ポリオルガノシロキサン粒子が均一に成長し易くなり、粒度分布のばらつきが小さいシリカ粒子を作製することが可能になる。
【0040】
次に析出・成長工程について説明する。
【0041】
この工程は、塩基性触媒であるアンモニア水を反応液に添加して、アルコキシシランを加水分解、重縮合させてポリオルガノシロキサン粒子を成長させる工程である。この工程で得られるポリオルガノシロキサン粒子は、ほぼ真球状の形状を有している。
【0042】
塩基性触媒としては、アンモニア以外にアミン類等が考えられるが、毒性が少なく、除去が容易で、かつ安価なことから、本発明ではアンモニアを選択している。
【0043】
添加するアンモニア水のアンモニア濃度が濃すぎる場合、アンモニア水が反応液全体に均一に混合される前に、アンモニア水が添加された領域のアンモニア濃度が非常に高くなるため、局所的にアルコキシシランと水との反応が促進されてしまい、反応液中のポリオルガノシロキサン粒子の成長スピードが均一でなくなり、結果として得られるシリカ粒子の径がばらついてしまう。一方、添加するアンモニア水のアンモニア濃度が薄すぎる場合には、アンモニア水の添加量を多くする必要があり、作業性の上で不利である。以上の点を考慮すると、添加するアンモニア水のアンモニア濃度は概ね0.1〜0.5質量%が好ましい。
【0044】
アンモニア水添加後の反応液のアンモニア濃度は、0.0015〜0.015質量%であることが好ましい。この濃度を調節することにより、得られるシリカ粒子の径を調節することができる。反応液のアンモニア濃度が濃すぎると、得られるシリカ粒子が1μm未満にしか成長しない。それゆえ液晶ディスプレイパネルのシール部用スペーサーとして好適な直径2〜10μmの粒子を作製することができなくなる。一方、アンモニア濃度が薄すぎると、アルコキシシランの加水分解、重縮合反応の速度が遅くなり、シリカ粒子の径のばらつきが大きくなる。
【0045】
次に熟成工程を説明する。
【0046】
この工程は、成長させたポリオルガノシロキサン粒子を硬化、安定させる工程である。析出・成長工程で得られたポリオルガノシロキサン粒子は、そのままの状態では表面が非常に柔らかく、粒子を回収するために自然沈降させたり、遠心分離機によって粒子を沈殿させたりすると、粒子同士の押し合いによって粒子が容易に潰れて真球形状を維持できなくなる。それゆえ本発明においては、アンモニア水を再度添加して、反応液の塩基性触媒濃度を上昇させ、ポリオルガノシロキサン粒子を硬化させ、形状を安定させる。
【0047】
塩基性触媒としては、アミン類等が考えられるが、毒性が少なく、除去が容易で、かつ安価なことから、本発明ではアンモニアを選択している。
【0048】
添加するアンモニア水のアンモニア濃度が高すぎる場合、アンモニア水が反応液全体に均一に混合される前に、アンモニア水が添加された領域のアンモニア濃度が非常に高くなるため、ポリオルガノシロキサン粒子の凝集を促進させてしまう。一方、添加するアンモニア水のアンモニア濃度が低すぎる場合には、アンモニア水の添加割合を多くする必要があり、作業性の上で不利である。以上の点を考慮すると、添加するアンモニア水のアンモニア濃度は概ね1〜5質量%が好ましい。
【0049】
アンモニア水添加後の反応液のアンモニア濃度は、0.05〜0.2質量%であることが好ましい。反応液のアンモニア濃度が濃すぎると、アンモニア水添加直後にポリオルガノシロキサン粒子が凝集してしまう。一方、アンモニア濃度が薄すぎると、ポリオルガノシロキサン粒子を十分に硬化させることができず、粒子が容易に潰れてしまう。
【0050】
アンモニア水を添加するタイミング、即ち、ポリオルガノシロキサン粒子の成長停止の判断方法は、例えば次のようにして行うことができる。まずポリオルガノシロキサン粒子成長中の反応液をサンプル採取し、顕微鏡観察する。次に顕微鏡画像を画像処理し、ポリオルガノシロキサン粒子の径を測定する。この作業を10分毎に繰り返し、ポリオルガノシロキサン粒子の径の変化がなくなった時点で成長停止と判断し、硬化のためのアンモニア水添加を実施すればよい。
【0051】
なお粒子成長が止まるまでの時間は、反応液のアンモニア濃度によって異なり、30分間(アンモニア濃度が濃い場合)〜70分間(アンモニア濃度が薄い場合)程度である。
【0052】
熟成工程においては、アンモニア水添加後に攪拌を行うことが好ましい。これは反応液とアンモニア水の混合を速やかに行うためである。また攪拌時間は短時間であることが好ましく、1〜15分間、特に5〜10分間であることが望ましい。アンモニア水を添加すると、ポリオルガノシロキサン粒子の表面が粘着性を帯びて粒子同士が凝集し易くなる。この状態で長時間攪拌を続けると、反応液中で粒子同士がぶつかり合って巨大な凝集体を形成し、単分散したシリカ粒子を得ることが困難になる。そこで攪拌を速やかに停止させて、反応液を流れのない状態にして凝集を防ぎつつ、ポリオルガノシロキサン粒子を熟成させる。この状態で熟成が進むと、ポリオルガノシロキサン粒子表面の粘着性はやがてなくなるため、沈殿した粒子が凝集することはない。
【0053】
攪拌終了後、そのまま反応液を静置し、ポリオルガノシロキサン粒子を熟成させる。熟成時間は、8〜24時間、特に12〜16時間であることが好ましい。熟成が完了したポリオルガノシロキサン粒子は、表面が安定化しており、傷、欠け、凝集等のない状態で回収することが可能になる。
【0054】
次に焼成工程を説明する。
【0055】
焼成工程は、熟成が完了したポリオルガノシロキサン粒子を回収し、焼成してシリカ粒子を得る工程である。ポリオルガノシロキサン粒子を回収するには、例えばポリオルガノシロキサン粒子を自然沈降、沈殿させた後、或いは遠心分離機により粒子を沈殿させた後、反応液の上澄み液を除去し、その後、容器内に残っているポリオルガノシロキサン粒子を乾燥させる方法を採用することができる。
【0056】
このようにして回収したポリオルガノシロキサン粒子を焼成する。
【0057】
焼成は、例えば400〜1000℃、特に450〜900℃の温度で、6〜20時間、特に8〜14時間行うことが好ましい。焼成温度が低すぎると十分な強度(圧縮強度)が得られない場合がある。一方、焼成温度が高すぎるとシリカ粒子が硬くなりすぎて、液晶ディスプレイ用スペーサーとして使用した場合に、液晶基板上の薄膜を傷つける可能性があることから好ましくない。また焼成時間が短すぎる場合、焼成温度に応じた粒子の収縮が完了しておらず、焼成位置によって粒子の収縮の進行具合が異なり、焼成後のシリカ粒子の径がばらついてしまう場合がある。そのため、少なくとも、最も熱の伝わりが遅い位置のシリカ粒子が完全に収縮するまでの間、焼成温度を保持する必要がある。また焼成時間が長すぎる場合、リードタイムが長くなるため好ましくない。
【0058】
焼成雰囲気は、酸素濃度が1〜10%の雰囲気を維持しながら行うことが好ましい。酸素濃度が高い雰囲気(例えば空気中)で焼成すると、有機基の分解反応が活発に起こり、その反応熱によって粒子温度が700℃程度まで急激に上昇してしまうおそれがある。粒子温度が急激に上昇すると、粒子が急激に収縮してクラックが入ったり、割れたりする。それゆえ酸素濃度の低い雰囲気で焼成することが好ましい。酸素濃度の低い雰囲気で焼成すると、有機基の分解反応が緩やかに進み、粒子温度の急激な上昇を抑えることが容易になる。酸素濃度が低い程、クラックや割れの発生が少なくなる。ただし酸素濃度が低すぎる、或いは酸素が全く存在しない雰囲気で焼成すると、有機基の分解が抑制されて炭素原子がシリカ粒子中に残留し、粒子が黒化する場合がある。このため焼成中の雰囲気が酸素欠乏にならないように、雰囲気中の酸素濃度を一定に保つことが望ましい。
【0059】
酸素濃度を維持するには、例えば所定の酸素濃度に調整したガスを、焼成雰囲気中に供給し続ければよい。酸素濃度を調整する方法としては、例えば空気と不活性ガス(窒素、ヘリウム、アルゴン等)を混合して、酸素濃度を低下させる方法を採用することができる。不活性ガスを空気に混合すれば、酸素濃度を空気以下の値に容易に調節することが可能である。不活性ガスとしては、安価な窒素を使用することが好ましい。
【0060】
このようにして、シリカ粒子を得ることができる。得られるシリカ粒子は、平均粒径が2.0〜10.0μm程度、CV値が0.5〜1.5%程度である。またクラックの入った粒子、割れた粒子、及び黒化した粒子を殆ど含んでおらず、望ましくは、クラックの入った粒子及び割れた粒子の合計が、粒子全体の0.1体積%未満であり、また黒化した粒子が、粒子全体の0.01体積%未満である。
【0061】
なお「クラックの入った粒子」とは、顕微鏡観察した際に、粒子の直径方向に線(クラック)が確認できる粒子を意味する(図1参照)。「割れた粒子」とは、顕微鏡観察した際に半球状に見える粒子を意味する(図2参照)。「黒化した粒子」とは、顕微鏡観察した際に、光を通さず、黒い球に見える粒子を意味する。(図3参照)
【0062】
また平均粒径の測定方法は、以下の方法(イメージシェアリング法)で求めた値である。まず乾燥させたシリカ粒子の顕微鏡画像をCCDカメラで取り込み、画像処理によってシリカ粒子の径を測定する。具体的には、モニタ上で粒子の像を上下二つの像に分け、上の像の下端と下の像の上端が接する座標Aを記録する。次に、上下の像を上下逆にし、再度上の像の下端と下の像の上端が接する座標Bを記録する。A−Bはモニタ上のシリカ粒子の直径を表す値であり、この値(A−B)を実際のサイズに補正して対象のシリカ粒子の直径を算出する(図4参照)。この方法で60粒子分の直径を測定し、平均粒径及び標準偏差を算出する。さらに下記の式からCV値を求める。
【0063】
CV値=標準偏差値/平均粒径×100(%)
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づいて本発明を詳述する。
【0065】
(準備工程)
まず水系溶媒として、純水34373.8gとnブタノール1865.2gを均一に混合したものを用意した。また混合溶液として、MTMS1418.0とエタノール736.7gを均一に混合したものを用意した。
【0066】
次に、混合溶液の調製から15分後に、水系溶媒に混合溶液を添加して反応液とした。なお混合溶液添加後も攪拌(100rpm)を継続した。
【0067】
(析出・成長工程)
まず0.3%アンモニア水825.6gを用意し、これを、混合溶液の添加から5分後の反応液に添加した。これにより、MTMSと水を加水分解、重縮合させ、ポリオルガノシロキサン粒子を析出、成長させた。なお0.3%アンモニア水の添加後も、攪拌(100rpm)を継続した。
【0068】
(熟成工程)
まず3.1%アンモニア水621.5gを用意した。次に反応液中のポリオルガノシロキサン粒子の成長が止まったことを確認した後、用意した3.1%アンモニア水を添加した。5分後に攪拌を停止し、反応容器を直ちに60℃に保温した恒温機内に静置し、16時間保持した。これにより、ポリオルガノシロキサン粒子を熟成させるとともに、自然沈降させた。
【0069】
なおアンモニア水添加のタイミングは、以下の方法で決定した。まずポリオルガノシロキサン粒子成長中の反応液をスポイトでサンプル採取し、プレパラートに滴下してカバーガラスを被せ、顕微鏡観察した。次に顕微鏡画像をCCDカメラで取り込み、画像処理によってポリオルガノシロキサン粒子の径を測定した。この作業を10分毎に繰り返し、ポリオルガノシロキサン粒子の径の変化がなくなった時点で成長停止と判断した。本実施例においては、0.3%アンモニア水添加してから90分後であった。
【0070】
(焼成工程)
ポリオルガノシロキサン粒子が沈殿した反応容器を恒温機から取り出し、上澄み液を除去した。次いで反応容器を60℃に保温した恒温機内に静置し、12時間保持してポリオルガノシロキサン粒子を乾燥させた。
【0071】
このようにして作製、回収されたポリオルガノシロキサン粒子は587gであり、平均粒径は8.993μm、標準偏差は0.067μm、CV値は0.75%であった。
【0072】
次に、回収したポリオルガノシロキサン粒子を焼成皿に載せて電気炉に入れ、450℃で12時間焼成し、シリカ粒子を得た。なお焼成中は、空気(2.5リットル/分)と窒素(17.5リットル/分)の混合ガス(酸素濃度2.5%、20リットル/分)を電気炉内に絶えず供給した。
【0073】
このようにして475gのシリカ粒子が得られた。その平均粒径は7.338μm、標準偏差は0.066μm、CV値は0.90%であった。また得られた粒子の外観を観察したところ無色透明な真球状であり、クラックの入った粒子、割れた粒子及び黒化した粒子は何れも粒子全体の0体積%であった。
【0074】
なお、平均粒径、標準偏差、CV値は、前述のイメージシェアリング法で求めた値から算出した。またクラックの入った粒子、割れた粒子、及び黒化した粒子の割合は顕微鏡により粒子1000個を観察して求めた。
【比較例】
【0075】
MTMSをエタノールと混合せず、単独で水系溶媒に添加すること以外は、実施例と同様にしてシリカ粒子を作製した。
【0076】
その結果、得られたポリオルガノシロキサン粒子は570gであり、その平均粒径は6.090μm、標準偏差は1.084μm、CV値は17.80%であった。このポリオルガノシロキサン粒子を焼成することにより得られたシリカ粒子は、465gであった。得られた粒子は無色透明な真球状であり、クラックの入った粒子、割れた粒子及び黒化した粒子は何れも粒子全体の0体積%であった。しかしシリカ粒子の平均粒径は4.966μm、標準偏差は1.025μm、CV値は20.64%であり、粒径のばらつきが大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の方法により得られるシリカ粒子は、液晶ディスプレイパネルのシール部用スペーサーとして好適であるが、これ以外にも例えば液晶ディスプレイパネルの表示部用スペーサー、半導体の樹脂封止材のフィラー等として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】クラックの入ったシリカ粒子の顕微鏡写真である。
【図2】割れたシリカ粒子の顕微鏡写真である。
【図3】黒化したシリカ粒子の顕微鏡写真である。
【図4】イメージシェアリング法の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系溶媒に、非加水分解基を有するアルコキシシランとアルコールの混合溶液を添加して反応液を用意する準備工程と、反応液にアンモニア水を添加してポリオルガノシロキサン粒子を析出、成長させる析出・成長工程と、反応液にアンモニア水を添加してポリオルガノシロキサン粒子を熟成させる熟成工程と、ポリオルガノシロキサン粒子を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とするシリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
水系溶媒が、純水とnブタノールからなることを特徴とする請求項1のシリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
非加水分解基を有するアルコキシシランが、メチルトリメトキシシランであることを特徴とする請求項1又は2のシリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
アルコールがエタノールであることを特徴とする請求項1〜3の何れかのシリカ粒子の製造方法。
【請求項5】
析出・成長工程において、アンモニア水添加後の反応液中のアンモニア濃度が0.0015〜0.015質量%であることを特徴とする請求項1〜4の何れかのシリカ粒子の製造方法。
【請求項6】
熟成工程において、アンモニア水添加後の反応液中のアンモニア濃度が0.05〜0.2質量%であることを特徴とする請求項1〜5の何れかのシリカ粒子の製造方法。
【請求項7】
熟成工程において、アンモニア水添加後に1〜15分間攪拌を行うことを特徴とする請求項1〜6の何れかのシリカ粒子の製造方法。
【請求項8】
熟成工程において、攪拌後に8〜24時間静置することを特徴とする請求項7のシリカ粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかの方法で製造されてなることを特徴とするシリカ粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−102189(P2009−102189A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274703(P2007−274703)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】