説明

シリカ粒子の製造方法

【課題】粗粉の発生が少ないシリカ粒子が得られるシリカ粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】シリカ粒子とアルコール及び水を含む溶媒とを含有するシリカ粒子分散液を準備する工程と、超臨界二酸化炭素を前記シリカ粒子分散液に接触させて、前記溶媒を除去する工程と、を有するシリカ粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
湿式シリカゾルを乾燥してシリカ粒子を得る方法としては、例えば、特許文献1には、シリカ粒子分散液に、トリメチルシリル化剤を加えてシリカ表面をトリメチルシリル化し余剰の処理剤を除去した後、乾燥する方法が提案されている。
また、特許文献2には、親水性シリカ粒子分散液に、シラザン化合物あるいは1官能シラン化合物を加えてシリカ粒子表面をトリオルガノシリル化した後に乾燥し、シリカ粒子を得る方法が提案されている。
また、特許文献3においては、4官能シラン化合物を加水分解、縮合して親水性シリカ粒子分散液を得た後、親水性有機溶媒を水に置換して、次いで3官能シラン化合物で疎水化した後、更に分散媒をケトン系溶媒に置換し、シラザン化合物あるいは1官能シラン化合物でシリカ粒子表面に残存する反応性基をトリオルガノシリル化して疎水化処理した後に乾燥する方法が提案されている。
また、特許文献4には、親水性シリカ粒子を含む水性コロイドシリカ分散液に、シリルアミン処理剤を混合し分散液を乾燥するシリカの製造方法が提案されている。
また、特許文献5には、水性シリカゾルにジシラザン化合物を添加し、50〜100℃の範囲で加温してシリカ粒子を得る方法が提案されている。
また、特許文献6には、水性シリカゾルに親水性有機溶媒を混合して得られる混合溶媒シリカゾルに、ジシラザン化合物を添加してシリカ粒子を得る方法が提案されている。
また、特許文献7には、親水性シリカ粒子分散液に3官能シラン化合物を加えて疎水化した後、1官能シラン化合物を加えてシリカ粒子を得る方法が提案されている。
これらは何れも疎水化処理剤により処理した後、乾燥してシリカ粒子を得る方法である。
【0003】
一方、コロイダルシリカを乾燥して粒子を得る方法としては、例えば、特許文献8には、コロイダルシリカに対して5倍量のメタノールを加えてメタノールで置換した後に、超臨界二酸化炭素を流通し、溶媒を除去する方法が提案されているが、シリカ粒子を得る為には多量のメタノールを使用する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−187913号公報
【特許文献2】特開2001−194824号公報
【特許文献3】特開2000−044226号公報
【特許文献4】特表2008−516889号公報
【特許文献5】特開2006−169096号公報
【特許文献6】特開2007−039323号公報
【特許文献7】特開2008−174430号公報
【特許文献8】特開2009−160518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、超臨界二酸化炭素によりシリカ粒子分散液の溶媒除去を行わない場合に比べ、粗粉の発生が少ないシリカ粒子が得られるシリカ粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
シリカ粒子とアルコール及び水を含む溶媒とを含有するシリカ粒子分散液を準備する工程と、
超臨界二酸化炭素を前記シリカ粒子分散液に接触させて、前記溶媒を除去する工程と、
を有するシリカ粒子の製造方法。
【0007】
請求項2に係る発明は、
前記シリカ粒子分散液を準備する工程において、前記シリカ粒子分散液中の前記アルコールに対する前記水の質量比が0.03以上、0.3以下である請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【0008】
請求項3に係る発明は、
前記シリカ粒子分散液を準備する工程において、前記シリカ粒子分散液中の前記シリカ粒子に対する前記水の質量比が0.02以上、3以下である請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【0009】
請求項4に係る発明は、
前記溶媒を除去する工程において、下記式(1)で表されるyが下記式(2)の範囲内で、超臨界二酸化炭素を前記シリカ粒子分散液に接触させて、溶媒を除去する請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
・式(1):y=((シリカ粒子分散液の水質量比/シリカ粒子分散液のアルコール質量比)/温度)
・式(2):0.0001≦y≦0.0016
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、超臨界二酸化炭素によりシリカ粒子分散液の溶媒除去を行わない場合に比べ、粗粉の発生が少ないシリカ粒子が得られるシリカ粒子の製造方法を提供することができる。
請求項2に係る発明によれば、シリカ粒子分散液中のアルコールに対する水の質量比が上記範囲外である場合に比べ、シリカ粒子の粗粉の発生が少なく、良好な電気抵抗を有するシリカ粒子が得られるシリカ粒子の製造方法を提供することができる。
請求項3に係る発明によれば、シリカ粒子分散液中のシリカ粒子に対する水の質量比が上記範囲外である場合に比べ、シリカ粒子の粗粉の発生が少なく、良好な電気抵抗を有するシリカ粒子が得られるシリカ粒子の製造方法を提供することができる。
請求項4に係る発明によれば、溶媒を除去する工程において、式(1)で表されるyが式(2)の範囲外である場合に比べ、シリカ粒子の粗粉の発生が少なく、良好な電気抵抗を有するシリカ粒子が得られるシリカ粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係るシリカ粒子の製造方法は、シリカ粒子と溶媒(アルコール及び水を含む溶媒)とを含有するシリカ粒子分散液を準備する工程と、超臨界二酸化炭素をシリカ粒子分散液に接触させて、前記溶媒を除去する工程を有する。
【0012】
本実施形態に係るシリカ粒子の製造方法では、超臨界二酸化炭素をシリカ粒子分散液に接触させて、シリカ粒子分散液の溶媒除去、つまり乾燥を行うことで、粗粉の発生が少ないシリカ粒子が得られる。この理由は、定かではないが以下に示す理由によるものと考えられる。
【0013】
シリカ粒子分散液の溶媒を除去する一般的な方法としては、濾過、遠心分離、蒸留などにより溶媒を除去した後、真空乾燥機、棚段乾燥機などにより乾燥する方法、流動層乾燥機、スプレードライヤーなどによりスラリーを直接乾燥する方法などが挙げられるが、溶媒を除去する際の液架橋力により粒子同士が凝集し易く、また比較的高温(例えば250℃を超える温度)にする必要がある為、温度が高くなると、シリカ粒子の表面に存在するシラノール基の縮合により2次凝集体等の粗粉が生じることが多い。特に、ゾルゲル法等の湿式法により得られるシリカ粒子(その分散液)は、気相法により得られるフェームドシリカ粒子や、溶融シリカ粒子に比べ、その表面や孔内部にシラノール基を多く有するため、この現象が顕著に生じる。そのため、シリカ粒子に表面処理を施していないシリカ粒子分散液は溶媒除去し難いと言える。
【0014】
一方、超臨界二酸化炭素により、シリカ粒子分散液の溶媒を除去する場合、超臨界二酸化炭素が「界面張力が働かない」という性質から、溶媒を除去する際の液架橋力による粒子同士の凝集もなく溶媒を除去できるものと考えられる。また超臨界二酸化炭素の「臨界点以上の温度・圧力下においた状態の二酸化炭素であり、気体の拡散性と液体の溶解性との双方を持つ」といった性質により、比較的低温(例えば250℃以下)で、超臨界二酸化炭素に効率良く接触し、溶媒を溶解することから、この溶媒を溶解した超臨界二酸化炭素を除去することで、シラノール基の縮合による2次凝集体等の粗粉を生じることなくシリカ粒子分散液中の溶媒を除去できるものと考えられる。
このため、本実施形態に係るシリカ粒子の製造方法では、粗粉の発生が少ないシリカ粒子が得られると考えられる。
【0015】
−シリカ粒子分散液を準備する工程−
本工程は、例えば、湿式(例えば、ゾルゲル法等)によりシリカ粒子分散液を作製して、これを準備する。特に、シリカ粒子分散液は、湿式としてゾルゲル法、具体的には、テトラアルコキシランを、アルコール及び水の溶媒にアルカリ溶媒を添加したアルカリ溶媒存在下で、反応(加水分解反応、縮合反応)を生じさせてシリカ粒子を生成し、シリカ粒子分散液を作製することがよい。
なお、シリカ粒子の形成は、球形状、異型状のいずれであってもよい。
【0016】
ゾルゲル法によるシリカ粒子の生成は、周知の方法により行えばよいが、例えば、以下に示す方法(以下、本シリカ粒子の製造方法と称して説明する)が挙げられる。
【0017】
本シリカ粒子の製造方法は、アルコールを含む溶媒中に、0.6mol/L以上0.85mol/L以下の濃度でアルカリ触媒が含まれるアルカリ触媒溶液を準備する工程(以下、「アルカリ触媒溶液準備工程」と称することがある)と、前記アルカリ触媒溶液中に、テトラアルコキシシランを供給すると共に、テトラアルコキシシランの1分間当たりに供給される総供給量の1mol当たりに対して0.1mol以上0.4mol以下でアルカリ触媒を供給する工程(以下、「粒子生成工程」と称することがある)と、を有する。
【0018】
つまり、本シリカ粒子の製造方法では、上記濃度のアルカリ触媒が含まれるアルコールの存在下に、原料であるテトラアルコキシシランと、別途、触媒であるアルカリ触媒と、をそれぞれ上記関係で供給しつつ、テトラアルコキシシランを反応させて、シラン粒子を生成する方法である。
本シリカ粒子の製造方法では、上記手法により、粗粉の発生が少なく、異型状のシリカ粒子が得られる。この理由は、定かではないが以下の理由によるものと考えられる。
【0019】
まず、アルコールを含む溶媒中に、アルカリ触媒が含まれるアルカリ触媒溶液を準備し、この溶液中にテトラアルコキシシランとアルカリ触媒とをそれぞれ供給すると、アルカリ触媒溶液中に供給されたテトラアルコキシシランが反応して、核粒子が生成されやすくなる。このとき、アルカリ触媒溶液中のアルカリ触媒濃度が上記範囲にあると、2次凝集物等の粗粉の生成を抑制しつつ、異型状の核粒子が生成すると考えられる。これは、アルカリ触媒は、触媒作用の他に、生成される核粒子の表面に配位し、核粒子の形状、分散安定性に寄与するが、その量が上記範囲内であると、アルカリ触媒が核粒子の表面を均一に覆わないため(つまりアルカリ触媒が核粒子の表面に偏在して付着するため)、核粒子の分散安定性は保持するものの、核粒子の表面張力及び化学的親和性に部分的な偏りが生じ、異型状の核粒子が生成されると考えられるためである。
そして、テトラアルコキシシランとアルカリ触媒との供給をそれぞれ続けていくと、テトラアルコキシシランの反応により、生成した核粒子が成長し、シリカ粒子が得られる。ここで、このテトラアルコキシシランとアルカリ触媒との供給を、その供給量を上記関係で維持しつつ行うことで、2次凝集物等の粗粉の生成を抑制しつつ、異型状の核粒子がその異型状を保ったまま粒子成長し、結果、異型状のシリカ粒子が生成されると考えられる。これは、このテトラアルコキシシランとアルカリ触媒との供給量を上記関係とすることで、核粒子の分散を保持しつつも、核粒子表面における張力と化学的親和性の部分的な偏りが保持されることから、異型状を保ちながらの核粒子の粒子成長が生じると考えられるためである。
【0020】
以上から、本シリカ粒子の製造方法では、粗粉の発生が少なく、異型状のシリカ粒子が得られると考えられる。
なお、異型状のシリカ粒子とは、例えば、平均円形度が0.5以上0.85以下のシリカ粒子である。
【0021】
また、本シリカ粒子の製造方法では、異型状の核粒子を生成させ、この異型状を保ったまま核粒子を成長させてシリカ粒子が生成されると考えられることから、機械的負荷に対する形状安定性が高く、また形状分布にバラツキが少ない異型状のシリカ粒子が得られると考えられる。
また、本シリカ粒子の製造方法では、生成した異型状の核粒子が異型状を保ったまま粒子成長され、シリカ粒子が得られると考えられることから、機械的付加に強く、壊れ難いシリカ粒子が得られると考えられる。
また、本シリカ粒子の製造方法では、アルカリ触媒溶液中に、テトラアルコキシシランとアルカリ触媒とをそれぞれ供給することで、テトラアルコキシシランの反応を生じさせることにより、粒子生成を行っていることから、従来のゾルゲル法により異型状のシリカ粒子を製造する場合に比べ、総使用アルカリ触媒量が少なくなり、その結果、アルカリ触媒の除去工程の省略も実現される。これは、特に、高純度が求められる製品にシリカ粒子を適用する場合に有利である。
【0022】
以下、各工程について説明する。
【0023】
まず、アルカリ触媒溶液準備工程について説明する。
アルカリ触媒溶液準備工程は、アルコールを含む溶媒を準備し、これにアルカリ触媒を添加して、アルカリ触媒溶液を準備する。
【0024】
アルコールを含む溶媒は、アルコール単独の溶媒であってもよいし、必要に応じて水、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、セロソルブ類(例えばメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸セロソルブ等)、エーテル類(例えばジオキサン、テトラヒドロフラン等)等の他の溶媒との混合溶媒であってもよい。混合溶媒の場合、アルコールの他の溶媒に対する量は80質量%以上(望ましくは90質量%以上)であることがよい。
なお、アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられる。
【0025】
一方、アルカリ触媒としては、テトラアルコキシシランの反応(加水分解反応、縮合反応)を促進させるための触媒であり、例えば、アンモニア、尿素、モノアミン、四級アンモニウム塩等の塩基性触媒が挙げられ、特にアンモニアが望ましい。
【0026】
アルカリ触媒の濃度(含有量)は、0.6mol/L以上0.85mol/Lであり、望ましくは0.63mol/L以上0.78mol/Lであり、より望ましくは0.66mol/L以上0.75mol/Lである。
アルカリ触媒の濃度が、0.6mol/Lより少ないと、生成した核粒子の成長過程の核粒子の分散性が不安定となり、2次凝集物等の粗粉が生成されたり、ゲル化状となったりして、粒度分布が悪化することがある。
一方、アルカリ触媒の濃度が、0.85mol/Lより多いと、生成した核粒子の安定性が過大となり、真球状の核粒子が生成され、異型状の核粒子が得られず、その結果、異型状のシリカ粒子が得られない。
なお、アルカリ触媒の濃度は、アルコール触媒溶液(アルカリ触媒+アルコールを含む溶媒)に対する濃度である。
【0027】
次に、粒子生成工程について説明する。
粒子生成工程は、アルカリ触媒溶液中に、テトラアルコキシシランと、アルカリ触媒と、をそれぞれ供給し、当該アルカリ触媒溶液中で、テトラアルコキシシランを反応(加水分解反応、縮合反応)させて、シリカ粒子を生成する工程である。
この粒子生成工程では、テトラアルコキシシランの供給初期に、テトラアルコキシシランの反応により、核粒子が生成した後(核粒子生成段階)、この核粒子の成長を経て(核粒子成長段階)、シリカ粒子が生成する。
【0028】
アルカリ触媒溶液中に供給するテトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられるが、反応速度の制御性や得られるシリカ粒子の形状、粒径、粒度分布等の点から、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランがよい。
【0029】
テトラアルコキシシランの供給量は、例えば、アルカリ触媒溶液におけるアルコールのモル数に対して、0.001mol/(mol・min)以上0.01mol/(mol・min)以下がよく、望ましくは、0.002mol/(mol・min)以上0.009mol/(mol・min)以下であり、より望ましくは、0.003mol/(mol・min)以上0.008mol/(mol・min)以下である。
このテトラアルコキシシランの供給量を上記範囲とすることで、粗粉の発生が少なく、異型状のシリカ粒子が生成され易くなる。
なお、このテトラアルコキシシランの供給量は、アルカリ触媒溶液におけるアルコール1mol当たりに対する、1分間当たりにテトラアルコキシシランを供給するmol数を示している。
【0030】
一方、アルカリ触媒溶液中に供給するアルカリ触媒は、上記例示したものが挙げられる。この供給するアルカリ触媒は、アルカリ触媒溶液中に予め含まれるアルカリ触媒と同じ種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよいが、同じ種類のものであることがよい。
【0031】
アルカリ触媒の供給量は、テトラアルコキシシランの1分間当たりに供給される総供給量の1mol当たりに対して0.1mol以上0.4mol以下とし、望ましくは0.14mol以上0.35mol以下であり、より望ましくは0.18mol以上0.3mol以下である。
アルカリ触媒の供給量が、0.1molより少ないと、生成した核粒子の成長過程の核粒子の分散性が不安定となり、2次凝集物等の粗粉が生成さたり、ゲル化状となったりして、粒度分布が悪化することがある。
一方、アルカリ触媒の供給量が、0.4molより多いと、生成した核粒子の安定性が過大となり、核粒子生成段階で異型状の核粒子が生成されても、その核粒子成長段階で核粒子が球状に成長し、異型状のシリカ粒子が得られない。
【0032】
ここで、粒子生成工程において、アルカリ触媒溶液中に、テトラアルコキシシランと、アルカリ触媒と、をそれぞれ供給するが、この供給方法は、連続的に供給する方式であってもよいし、間欠的に供給する方式であってもよい。
【0033】
また、粒子生成工程において、アルカリ触媒溶液中の温度(供給時の温度)は、例えば、5℃以上50℃以下であることがよく、望ましくは15℃以上40℃以下の範囲である。
【0034】
上記工程を経て、本シリカ粒子の製造方法では、シリカ粒子が得られる。
【0035】
以上説明したシリカ粒子を準備する工程において、例えば、シリカ粒子を湿式により得る場合、シリカ粒子が溶媒に分散された分散液(シリカ粒子分散液)の状態で得られる。
【0036】
ここで、後述する超臨界二酸化炭素による溶媒を除去する工程に移行する際、準備するシリカ粒子分散液は、そのアルコールに対する水の質量比が例えば0.03以上0.3以下であることがよく、望ましくは0.05以上0.2以下、より望ましくは、0.1以上0.15以下である。
シリカ粒子分散液において、そのアルコールに対する水の質量比を上記範囲とすると、シリカ粒子の粗粉の発生が少なく、良好な電気抵抗を有するシリカ粒子が得られ易くなる。
アルコールに対する水の質量比が0.03を下回ると、超臨界二酸化炭素による溶媒を除去する工程において、溶媒を除去する際のシリカ粒子表面のシラノール基の縮合が極端に少なくなることから、溶媒除去後のシリカ粒子表面への吸着水分が多くなることで、シリカ粒子の電気抵抗が低くなり過ぎることがある。また、水の質量比が0.3を超えると、超臨界二酸化炭素による溶媒を除去する工程において、シリカ粒子分散液中の溶媒除去の終点付近で水が多く残留し、液架橋力によるシリカ粒子同士の凝集が生じ易くなることがある。
【0037】
また、後述する超臨界二酸化炭素による溶媒を除去する工程に移行する際、準備するシリカ粒子分散液は、そのシリカ粒子に対する水の質量比が例えば0.02以上3以下であることがよく、望ましくは0.05以上1以下、より望ましくは0.1以上0.5以下である。
シリカ粒子分散液において、そのシリカ粒子に対する水の質量比を上記範囲とすると、シリカ粒子の粗粉の発生が少なく、良好な電気抵抗を有するシリカ粒子が得られ易くなる。
シリカ粒子に対する水の質量比が0.02を下回ると、超臨界二酸化炭素による溶媒を除去する工程において、溶媒を除去する際のシリカ粒子表面のシラノール基の縮合が極端に少なくなることから、溶媒除去後のシリカ粒子表面への吸着水分が多くなることで、シリカ粒子の電気抵抗が低くなり過ぎることがある。また、水の質量比が3を超えると、超臨界二酸化炭素による溶媒を除去する工程において、シリカ粒子分散液中の溶媒除去の終点付近で水が多く残留し、液架橋力によるシリカ粒子同士の凝集が生じ易くなることがある。
【0038】
また、後述する超臨界二酸化炭素による溶媒を除去する工程に移行する際、準備するシリカ粒子分散液は、当該シリカ粒子分散液に対するシリカ粒子の質量比が例えば0.05以上0.7以下がよく、望ましくは0.2以上0.65以下、より望ましくは、0.3以上0.6以下である。
シリカ粒子分散液に対するシリカ粒子の質量比が0.05を下回ると、超臨界二酸化炭素による溶媒を除去する工程において、使用する超臨界二酸化炭素の量が多くなり、生産性が悪くなってしまうことがある。また、シリカ粒子分散液に対するシリカ粒子の質量比が0.7を超えると、シリカ粒子分散液中においてシリカ粒子間距離が近くなり、シリカ粒子の凝集やゲル化による粗粉が発生し易くなることがある。
【0039】
−溶媒を除去する工程−
溶媒を除去する工程は、超臨界二酸化炭素をシリカ粒子分散液に接触させて、前記溶媒を除去する工程である。
本工程では、具合的には、例えば、密閉反応器内に、シリカ粒子分散液を投入する。その後、密閉反応器内に、液化二酸化炭素を加えて加熱し、高圧ポンプにより反応器内を昇圧させ、二酸化炭素を超臨界状態とする。そして、密閉反応器内に超臨界二酸化炭素を導入すると共に、排出し、密閉反応器内、つまりシリカ粒子分散液に流通させる。
これにより、超臨界二酸化炭素が溶媒(アルコール及び水)を溶解しつつ、これを同伴してシリカ粒子分散液の外部(密閉反応器内の外部)へと排出され、溶媒が除去される。
【0040】
ここで、超臨界二酸化炭素とは、臨界点以上の温度・圧力下においた状態の二酸化炭素であり、気体の拡散性と液体の溶解性との双方を持つものである。
【0041】
溶媒除去の温度条件、つまり超臨界二酸化炭素の温度は、例えば、31℃以上350℃以下がよく、望ましくは60℃以上300℃以下、より望ましくは、80℃以上250℃以下である。
この温度が上記範囲未満であると、溶媒が超臨界二酸化炭素に溶解し難くなるため、溶媒の除去がし難くなることがある。また溶媒や超臨界二酸化炭素の液架橋力により粗粉が生じ易くなることがあると考える。一方、この温度が上記範囲を超えると、シリカ粒子表面のシラノール基の縮合により2次凝集体等の粗粉が生じやすくなることがあると考える。
【0042】
また、溶媒除去の温度条件は、シリカ粒子分散液中のアルコールに対する水の質量比により適温が異なる。水はアルコールに比べて超臨界二酸化炭素に溶け込み難い傾向があるが、超臨界二酸化炭素の温度を高くする事で溶解度は高くなる傾向がある。
このため、下記式(1)で表されるyが下記式(2)の範囲内(望ましくは下記式(2−1)の範囲内、より望ましくは式(2−2)の範囲内)で、超臨界二酸化炭素を前記シリカ粒子分散液に接触させて、溶媒を除去することがよい。
・式(1):y=((シリカ粒子分散液の水質量比/シリカ粒子分散液のアルコール質量比)/温度(℃))「なお、本温度とは、溶媒除去における温度である」
・式(2):0.0001≦y≦0.0016
・式(2−1):0.0003≦y≦0.0012
・式(2−2):0.0005≦y≦0.001
【0043】
上記式(1)で表されるyが、上記範囲未満であると、溶媒を除去する際のシリカ粒子表面のシラノール基の縮合が極端に少なくなることから、溶媒除去後のシリカ粒子表面への吸着水分が多くなることで、シリカ粒子の電気抵抗が低くなり過ぎることがある。一方、上記式(1)で表されるyが上記範囲を超えると、溶媒除去の終点付近で水が多く残留し、液架橋力によるシリカ粒子同士の凝集が生じ易くなることがある。
【0044】
一方、溶媒除去の圧力条件、つまり超臨界二酸化炭素の圧力は、例えば、7.38MPa以上40MPa以下がよく、望ましくは10MPa以上35MPa以下、より望ましく15MPa以上25MPa以下である。
この圧力が上記範囲未満であると、超臨界二酸化炭素に溶媒が溶解し難くなる傾向にあり、一方、圧力が上記範囲を超えると、設備が高額となる傾向となる。
【0045】
また、密閉反応器内への超臨界二酸化炭素の導入・排出量は、例えば、15.4L/分/m以上1540L/分/m以下であることがよく、望ましくは77L/分/m以上770L/分/m以下である。
導入・排出量が15.4L/分/m未満であると、溶媒除去に時間がかかるため生産性が悪くなる傾向となる。
一方、導入・排出量が1540L/分/m以上であると、超臨界二酸化炭素がショートパスし、シリカ粒子分散液の接触時間が短くなってしまい、効率的に溶媒除去する事ができない傾向となる。
【0046】
溶媒を除去する工程を経て得られたシリカ粒子は、1μm以上の粗大粒子の割合が少ないほどよいが、20体積%以下、好ましく5体積%以下、より好ましくは1体積%以下であることがよい。1μm以上の粗大粒子の割合が20体積%を上回ると、解砕や篩分・分級が必要となるため生産性が悪くなる傾向となる。
【0047】
また、溶媒を除去する工程を経て得られたシリカ粒子の電気抵抗値は、9(logΩ・cm)以上13(logΩ・cm)以下が好ましい。9(logΩ・cm)を下回ると、後述する疎水化処理を施してもシリカ粒子の電気抵抗が低すぎる。また、13(logΩ・cm)を上回ると疎水化処理後の電気抵抗が高くなりすぎることがある。
【0048】
また、溶媒を除去して得られたシリカ粒子を疎水化処理して用いてもよい。疎水化処理剤としては、例えば、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)を持つ公知の有機珪素化合物が挙げられ、具体例には、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシランなどのシラン化合物、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジシラザンなどのシラザン化合物が挙げられる。疎水化処理剤は、1種で用いてもよいし、複数種用いてもよい。これら疎水化処理剤の中でも、トリメチルメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどのトリメチル基を有する有機珪素化合物が好適である。
【0049】
シリカ粒子を疎水化処理する方法としては、ヘンシェルミキサーや流動床などの処理槽内でシリカ粒子を攪拌し、そこに疎水化処理剤を加え、処理槽内を高温で加熱することで処理剤をガス化してシリカ微粒子表面のシラノール基と反応させる方法など、公知の方法が上げられる。処理温度は特に限定されないが、80℃〜200℃の範囲が好ましい。疎水化処理された後のシリカ粒子の電気抵抗値は、13(logΩ・cm)以上17(logΩ・cm)以下が好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本実施形態をより具体的に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。また、「部」は特に断りがない限り「質量部」を示す。
【0051】
[実施例1]
(シリカ粒子分散液の作製)
−シリカ粒子分散液1−
金属製撹拌棒、滴下ノズル(テフロン(登録商標)製マイクロチューブポンプ)、及び、温度計を有した容積3Lのガラス製反応容器にメタノール600部、10%アンモニア水100部を入れ、攪拌混合して、アルカリ触媒溶液を得た。こときのアルカリ触媒溶液のアンモニア触媒量:NH量(NHmol/(アンモニア水+メタノール)L)は、0.68mol/Lであった。次に、アルカリ触媒溶液の温度を25℃に調整し、アルカリ触媒溶液を窒素置換した。その後、アルカリ触媒溶液を撹拌しながら、テトラメトキシシラン(TMOS)450部を15.0g/minの供給量で、触媒(NH)濃度が4.4%のアンモニア水270部を9.0g/minの供給量で、同時に滴下を開始し、30分かけて滴下を行い、シリカ粒子分散液1を得た。
【0052】
−シリカ粒子分散液2〜25
表1に従って、シリカ粒子分散液のメタノールに対する水の質量比、シリカ粒子に対する水の質量比を調整し、シリカ粒子分散液2〜25をそれぞれ得た。シリカ粒子分散液の調整は、造粒時に制御、シリカ粒子分散液の濃縮、水及びメタノールの添加にて行った。また、濃縮方法は、遠心分離機、加圧ろ過機を用いて行った。
【0053】
上記得られた、シリカ粒子分散液の特性を表1に一覧にして示す。
【0054】
(実施例1−1)
まず、0.65Lのオートクレーブへ、得られたシリカ粒子分散液1を200部投入した。その後、オートクレーブ内を液化二酸化炭素で満たした。ヒーターにより180℃まで昇温後、二酸化炭素ポンプにより20MPaまで昇圧し、撹拌機を200rpmで運転させ、超臨界二酸化炭素をオートクレープへ導入・排出して流通させた。なお、超臨界二酸化炭素の導入・排出量は、0.1L/分とした。また、温度条件は180℃とした。
溶媒が除去されるまで行った後、背圧弁によりオートクレープ内を大気圧まで開放し、室温(25℃)まで冷却した。
そして、攪拌機を停止させ、オートクレープ内から、乾燥したシリカ粒子の粉体を取り出し、得た。
【0055】
(実施例1−2〜1−25)
実施例1−1において、表1に従って、オートクレーブ内に投入するシリカ粒子分散液と溶媒を除去する条件を変更し、実施例1−1と同様にして、乾燥したシリカ粒子の粉体を得た。
【0056】
(比較例1−1)
シリカ粒子分散液1をスプレードライヤーにて噴霧乾燥(乾燥条件250℃)し、シリカ粒子の粉体を得た。
なお、本比較例では、篩分けをせずに評価を行なった。シリカ粒子分散液を噴霧乾燥にて乾燥する場合、多量の粗粉が発生するものであった。
【0057】
(比較例1−2)
シリカ粒子分散液1に対して、メタノールを400g加えて撹拌した後、遠心分離機にて1時間遠心分離(回転数11000rpm)を行い、固液分離した後、上澄みを除去した。ここに、全量が600gになるようメタノールを加えて撹拌して、シリカ粒子分散液26を得た。
シリカ粒子分散液26を用い、表1に従って、オートクレーブ内に投入するシリカ粒子分散液と溶媒を除去する条件を変更した以外は、実施例1−1と同様にして、乾燥したシリカ粒子の粉体を得た。
なお、本比較例では、粗粉の発生は見られなかったが、実施例に比べ電気抵抗が低いものであった。
【0058】
(評価)
各例で得られたシリカ粒子の特性を評価した。各特性は以下の通りである。結果を表1に示す。
【0059】
−粗粉(粗大粒子)割合−
粗粉割合は、LSコールター(ベックマン−コールター社製)より測定し、1μm以上の粒子の割合として求めた。粗大粒子は少ないほど良いが、1μm以上の粗大粒子の割合が、20体積%以下、好ましく5体積%以下、より好ましくは1体積%以下であることが良い。
【0060】
−体積抵抗値−
体積抵抗率(Ω・cm)は以下のように測定した。なお、測定環境は、温度20℃、湿度50%RHとする。そして、求めた体積抵抗率(Ω・cm)のlog値を「体積抵抗値」とする。
20cmの電極板を配した円形の治具の表面に、測定対象となるシリカ粒子を1mm以上以下3mm程度の厚さになるように載せ、シリカ粒子層を形成する。この上に前記同様の20cmの電極板を載せシリカ粒子層を挟み込む。シリカ粒子間の空隙をなくすため、シリカ粒子層上に載置した電極板の上に4kgの荷重をかけてからシリカ粒子層の厚み(cm)を測定する。疎水性シリカ粒子層上下の両電極には、エレクトロメーターおよび高圧電源発生装置に接続されている。両電極に電界が所定の値となるように高電圧を印加し、このとき流れた電流値(A)を読み取ることにより、疎水性シリカ粒子の体積抵抗率(Ω・cm)を計算する。シリカ粒子の体積抵抗率(Ω・cm)の計算式は、下式に示す通りである。
なお、式中、ρは疎水性シリカ粒子の体積抵抗率(Ω・cm)、Eは印加電圧(V)、
Iは電流値(A)、Iは印加電圧0Vにおける電流値(A)、Lは疎水性シリカ粒子層
の厚み(cm)をそれぞれ表す。本評価では印加電圧が1000Vの時の体積抵抗率を用いた。
・式:ρ=E×20/(I−I)/L
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子とアルコール及び水を含む溶媒とを含有するシリカ粒子分散液を準備する工程と、
超臨界二酸化炭素を前記シリカ粒子分散液に接触させて、前記溶媒を除去する工程と、
を有するシリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記シリカ粒子分散液を準備する工程において、前記シリカ粒子分散液中の前記アルコールに対する前記水の質量比が0.03以上、0.3以下である請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記シリカ粒子分散液を準備する工程において、前記シリカ粒子分散液中の前記シリカ粒子に対する前記水の質量比が0.02以上、3以下である請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒を除去する工程において、下記式(1)で表されるyが下記式(2)の範囲内で、超臨界二酸化炭素を前記シリカ粒子分散液に接触させて、溶媒を除去する請求項1に記載のシリカ粒子の製造方法。
・式(1):y=((シリカ粒子分散液の水質量比/シリカ粒子分散液のアルコール質量比)/温度(℃))
・式(2):0.0001≦y≦0.0016