説明

シリカ系充填剤の製造方法

【課題】シリカの持つ高い吸着・脱着能力を維持しつつ、しかも通液又は通気時にかかる圧力を比較的低く抑えることを可能としたシリカ系充填剤の製造方法を提供する。
【解決手段】
酸性水溶液にテンプレート化合物を加えて溶解させた後に、水ガラスを加えて溶液をゲル化し、シリカゲルを形成する工程と、シリカゲルを粉砕してから塩基性溶液で処理する、又は、シリカゲルを塩基性溶液で処理してから粉砕する工程と、粉砕したシリカゲルを焼成する工程とを経ることによって、水ガラスを原料としたシリカ材質に高性能分析が可能な細孔(メソポア)に加えて、高速分離が可能な細孔(スルーポア)を導入した2重細孔構造を有する粒子状のシリカ系充填剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系充填剤の製造方法、そのような製造方法により製造されたシリカ系充填剤、そのようなシリカ系充填剤が充填された分析用前処理カラム、並びに、そのような分析用前処理カラムを用いた分取対象物質の分取方法、試料の浄化方法、回収対象物質の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境雰囲気中の微量化学物質が人間の健康に与える影響が重要視されてきており、これらの化学物質を測定する需要が増えてきている。環境雰囲気から採取された試料中には、数多くの夾雑物(共存物質)が大過剰に存在している。このため、正確な分析を行うには、予め分析試料を前処理して、夾雑物(共存物質)の含有量を低減させる処理が必要である。
【0003】
ところで、種々の夾雑物(共存物質)を低減させるためには、抽出と精製工程を必要とし、これらの工程に長時間を要するという問題がある。また、これらの前処理工程によって、分析対象となる化学物質の一部が除かれてしまうこともあり、夾雑物のみを選択的に除去する方法が求められている。さらに、分析対象の化学物質に対して選択吸着性を有する吸着剤を用いて、分析対象物を選択的に吸着させ、その後、抽出力の強い溶剤で分析対象物を溶離させる方法も提案されているが、この方法では、特に分析対象物の濃度が低い場合に、多量の試料が必要であり、また処理に長時間を要するという問題がある。
【0004】
ここで、分析対象の化学物質としては、例えばPOPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)がある。このPOPsとは、有害性を持ち環境や人間の健康に悪影響を与える有機物質と定義されている。また、代表的なPOPsのひとつであるPCB(ポリ塩化ビフェニル類)は、安定した化学的・物理的性質及び有用な特性を持つために数々の用途があった。しかしながら、その毒性のために1972年に製造が中止され、保管が義務付けられたが、その時点で使用中のものは耐用年数に達するまで使用されてきた。現在、法律に従って本格的なPCB処理が始まっており、PCB処理施設においてはトランスやコンデンサーなどの解体現場や保管場所の室内環境、また建築物内ではPCB含有シーラントや蛍光灯安定器の破損や漏洩による室内環境汚染が懸念されている。このため、環境中のPCB測定の必要性は高まってきている。
【0005】
下記非特許文献1には、環境大気中のPOPsであるダイオキシン類及びコプラナーPCB類の測定マニュアルが開示されている。この非特許文献1に記載の測定方法は、いわゆるハイボリュームエアーサンプラー法と呼ばれ、ハイボリュームエアーサンプラー(例えば、柴田化学株式会社製HV−500F、HV−1000F(ダイオキシン用))に試料採取用具(石英繊維ろ紙及びポリウレタンフォーム)を取り付け、ここに700L/分の流量で24時間連続、若しくは、100L/分の流量で7日間連続で大気を採取し、その総吸引大気量を約1000mとするものである。この方法では、サンプリング時間が24時間、若しくは7日間必要であること、さらに装置類が高価且つ大きく複雑であり、複数の測定点において同時に測定する場合又は他のPOPsを含めた複数の物質を同時に測定するといった場合への応用には、装置も複数必要になるなどの問題点が多い。
【0006】
一方、下記非特許文献2には、比較的簡易な装置を用いてPOPsをモニタリングする手法として、固相抽出カラム(ウォーターズ社製 商品名 Sep−Pak(登録商標) PS Air)を用いたローボリュームエアーサンプラー法(PSAir−Low−Vol法)が提案されている。この方法は、ローボリュームエアーサンプラー(例えば、ジーエルサイエンス株式社製大気サンプリングポンプSP204−20L)に先の固相抽出カラム(Sep−Pak(登録商標) PS Air)を接続し、このカラムに対して大気を2〜5L/分の流速で24時間かけて採取する方法である。また、この方法は、室内大気中のPCBのモニタリング法としても有用であるとされている(例えば、非特許文献3を参照。)。
【0007】
しかしながら、上記の室内大気中のPCBのモニタリング手法により提案されている、PS Air−Low−Vol法では、4m程度の環境又は室内大気を採取するのに24時間かけて行うと規定されていることから、固相抽出カラムにおける大気流速は3L/min程度となる。このように、上記の方法では大気流速が遅いためにサンプリングの時間が長くなるという欠点がある。すなわち、簡易な装置を用いて液体又は気体中のPOPsなどの有害物質を迅速にサンプリングする方法について開示されている例はない。
【0008】
このPS Air−Low−Vol法はカラムを用いた固相抽出法であり、この種の固相抽出法は近年盛んに用いられるようになってきた方法である。従来、気体中からの試料の抽出には液体吸収法、液体中からの試料の抽出には液−液抽出法が多く用いられてきたが、作業が繁雑で時間と経験を要すること、溶媒を多量に使用することなどの問題があった。これに対して、固相抽出法は、作業が簡単な上に短時間で済み、しかも溶媒の使用量が少ないという特長を持っている。そのため、多数の検体を短期間に処理しなければならない場合に非常に有利であり、自動化も容易である。固相抽出法が近年急速に浸透したことの背景には、吸脱着性能のよい多孔性粒子が開発され、それらが固相抽出用吸着剤として複数のメーカーから市場に提供されるようになったことが挙げられる。固相抽出に用いられる充填剤は、無機系基材としては、シリカゲル又はシリカゲルの表面を化学修飾した化学結合型シリカゲル、有機系基材としては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体に代表される合成高分子系及びこれらの表面を化学修飾させたものが用いられている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0009】
ところで、上記の吸着剤を充填したディスクやカラムを用いて、大過剰の大気に存在する超微量の残留性有機汚染物質を効率よく吸着するためには、吸着剤粒子の粒径をできるだけ小さくするか(例えば、ジーエルサイエンス株式社製商品名GL−Pak PLSシリーズ、又はバリアン株式会社製商品名ボンドエルートシリーズ(登録商標)等を挙げることができる。なお、これらの固相抽出カラムには、吸着剤として約40〜300μmの粒子径のものが充填されている。)、或いは粒子を圧縮するなどして(例えば、ウォーターズ社製商品名 Sep−Pak(登録商標) PS Air等のプラスタイプのカートリッジに充填されているものを挙げることができる。)、その充填密度を上げて粒子間の隙間をできるだけ小さくすることが好ましい。しかしながら、この場合、通気時にかかる圧力が大きくなるため流速を上げられず、大量の大気を通じるのに長時間を要してしまう。
【0010】
一方、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCという。)は、充填剤にシリカゲルやポリマーゲルなどを用いて、液体の流れの中で各々の物質の移動速度の差によって、混合物を分離する手法である。このHPLCの高性能化として、高分離・高速分離が研究されている。高分離を達成するには充填剤の粒子径を小さくし、カラム内のデッドボリュームを小さくするとよい。しかしながら、カラムに負荷する圧力が上昇することによる装置における限界、充填における困難などが存在するため、現状では高分離と高速分離の妥協点として充填剤粒子の多くは約5μmの粒径が限界となっている。例えば1.5μmや2μmの小さな粒径の充填剤も作製されているが、高負荷圧のため、カラムの長さを短くするか、液体の流速を遅くして用いなければならず、真の高性能化が達成されているとはいい難い。
【0011】
そこで、上述した微粒子充填型HPLCカラムの限界を打ち破るものとして、マイクロメートルサイズのスルーポアと、ナノメートルサイズのメソポアを有する2重細孔シリカゲルが開発されている。この2重細孔シリカゲルは、スルーポア径及びメソポア径を独立してコントロールすることが可能であり、スルーポアを大きくすることで負荷圧を小さくすることができる。このシリカゲルをロッド形状(カラムサイズの一つの円柱状の塊のシリカゲル)でHPLCに適用することで、高性能分離と高速分離の両立化が図られている(例えば、特許文献3,4を参照。)。
【0012】
しかしながら、この2重細孔シリカゲルに上述した微量の対象物質を選択的に吸着させたり、逆に微量の対象物質だけを吸着せずに、系外へ除くという試みはいまだなされていない。
また、上記シリカゲルは何れもロッド形状で使用されており、機械的強度に弱いという問題がある。破砕された2重細孔シリカゲルを使用することができれば、生産性向上につながると考えられる。さらに、これまで開発されているロッド形状の2重細孔シリカゲルはスルーポアの大きさとして10μm程度が最大の大きさである。気体捕集向けの基材の粒径は500μm程度が多いことからも明らかなように、気体を高速で流通させるには10μm程度のスルーポアでは十分とは言えない。
【0013】
これまでに、シリカゲルを破砕して粉末状シリカを製造する試みとして、シリカのウェットゲルをナイロン網に通しながら粉砕する例が知られている(特許文献5を参照。)。また、シリカゾルを、孔径が均一な貫通孔を有する高分子膜を介して有機溶媒中に注入することにより、前記有機溶媒中にゾルのエマルジョン粒子を形成させ、その後前記ゾルのエマルジョン粒子をゲル化することにより、粒子状のシリカゲルを得る方法が知られている(特許文献6を参照。)。しかしながら、水ガラスを原料とした2重細孔シリカゲルの製造において上記方法により製造されたという報告事例はこれまでなされていない。
【非特許文献1】環境省環境管理局総務課ダイオキシン対策室、「ダイオキシン類にかかわる大気環境調査マニュアル 第3節 環境大気中のダイオキシン類の測定分析方法」、[online]、平成13年8月、環境省、[平成14年9月8日検索]、インターネット<URL:http://www.env.go.jp/air/osen/manual/index.html>
【非特許文献2】中野武、外6名、「大気中のPOPs分析法の検討」、第10回環境化学討論会講演要旨集、平成13年5月23日、p.472−473
【非特許文献3】中野武、外3名、「室内大気中のPCBのモニタリング手法」、第10回環境化学討論会講演要旨集、平成13年5月23日、p.582−583
【特許文献1】特開昭59−147606号公報
【特許文献2】特開平4−334546号公報
【特許文献3】特開2002−362918号公報
【特許文献4】特開2003−075420号公報
【特許文献5】特開平11−268923号公報
【特許文献6】特開平5−23565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、シリカの持つ高い吸着・脱着能力を維持しつつ、しかも通液又は通気時にかかる圧力を比較的低く抑えることを可能としたシリカ系充填剤の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、そのような製造方法により製造されたシリカ系充填剤、そのようなシリカ系充填剤が充填された分析用前処理カラム、並びに、そのような分析用前処理カラムを用いた分取対象物質の分取方法、試料の浄化方法、回収対象物質の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 酸性水溶液にテンプレート化合物を加えて溶解させた後に水ガラスを加えて溶液をゲル化する、又は、水ガラスにテンプレート化合物を加えて溶解させた後に酸性水溶液を加えて溶液をゲル化することによって、シリカゲルを形成する工程と、前記シリカゲルを粉砕してから塩基性溶液で処理する、又は、前記シリカゲルを塩基性溶液で処理してから粉砕する工程と、前記粉砕したシリカゲルを焼成する工程とを含むことを特徴とするシリカ系充填剤の製造方法。
(2) 前記シリカゲルを粉砕する際に、複数の貫通孔を有する多孔質板材の一面側からシリカゲルを前記貫通孔に圧入させて粉砕する手段を用いることを特徴とする前項(1)に記載のシリカ系充填剤の製造方法。
(3) 前記テンプレート化合物が、ポリエチレンオキサイド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアクリル酸のうちの何れかであることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載のシリカ系充填剤の製造方法。
(4) 前項(1)乃至(3)の何れか一項に記載の製造方法により製造して得られることを特徴とするシリカ系充填剤。
(5) 数平均直径が0.5μm以上25μm以下の範囲であるスルーポアと、数平均直径が2nm以上50nm以下の範囲であるメソポアとを有する2重細孔構造からなることを特徴とする前項(4)に記載のシリカ系充填剤。
(6) 体積に占める前記スルーポアの細孔容積の割合が30%以上90%以下の範囲であることを特徴とする前項(4)又は(5)に記載のシリカ系充填剤。
(7)
表面に有機化合物がコーティングされていることを特徴とする前項(4)乃至(6)の何れか一項に記載のシリカ系充填剤。
(8) 数平均粒子径が10μm以上1000μm以下の範囲であり、且つ、BET法により測定される比表面積が50m/g以上である粒子形状を有することを特徴とする前項(4)乃至(7)の何れか一項に記載のシリカ系充填剤。
(9) 前項(4)乃至(8)の何れか一項に記載のシリカ系充填剤が充填されてなることを特徴とする分析用前処理カラム。
(10) 分取対象物質及び共存物質が含有された分析試料を、前項(9)に記載の分析用前処理カラムに流通させて、前記分取対象物質を前記シリカ系充填剤に吸着させた後に、前記分析用前処理カラムに溶離液を流通させて、前記分取対象物質を流出させることを特徴とする分取対象物質の分取方法。
(11) 分取対象物質及び共存物質が含有された分析試料を、前項(9)に記載の分析用前処理カラムに流通させて、前記共存物質を前記シリカ系充填剤に吸着させると共に、前記分取対象物質を流出させることを特徴とする分取対象物質の分取方法。
(12) 前記分取対象物質が、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニル、農薬、環境ホルモン、重金属、タンパク質、アルデヒド類から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする前項(10)又は(11)に記載の分取対象物質の分取方法。
(13) 除去対象物質及び共存物質が含有された試料を、前項(9)に記載の分析用前処理カラムに流通させて、前記試料中から前記除去対象物質を除去することを特徴とする試料の浄化方法。
(14) 回収対象物質及び共存物質が含有された試料を、前項(9)に記載の分析用前処理カラムに流通させて、前記試料中から前記回収対象物質を回収することを特徴とする回収対象物質の回収方法。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、水ガラスを原料としたシリカ材質に高性能分析が可能な細孔(メソポア)に加えて、高速分離が可能な細孔(スルーポア)を導入することで、シリカ材質の持つ高い吸着・脱着能力を維持しつつ、しかも通液または通気時にかかる圧力を比較的低く抑えることができ、その結果、通液速度又は通気速度を上げることができ、目的成分の迅速な前処理を行うことができるシリカ系充填剤を得ることができる。
また、一般的な粒子状シリカゲルを用いたカラムで、液体試料の分析、前処理を行う場合、一旦気泡が入ってしまうと気泡は抜けづらく、その気泡により、有効な表面積が使用できず、濃縮率の低下を招くことはよく知られている。これに対して、本発明に係る2重細孔を有する粒子状のシリカ系充填剤の場合、気泡が入ったとしても、スルーポアがあるために、再び気泡が溶媒で押し出されると考えられ、表面全てを活用することができ、捕集効率が低下しない。このことは前処理の際、気泡が入らないような特段の注意を施す必要がなく、再現性、簡便性という点からも大変有効である。
したがって、このようなシリカ系充填剤が充填された分析用前処理カラムを用いることによって、簡便且つ安価に、再現性よく、迅速且つ高い回収率を維持しながら、気体又は液体試料中に含まれる極微量の対象物質、例えばダイオキシンや、ポリ塩化ビフェニル、農薬、環境ホルモン、重金属、タンパク質、アルデヒド類などの精製・濃縮・分析・分取といった処理や、試料の浄化、対象物質の回収等が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を適用した水ガラスを原料とするシリカ系充填剤の製造方法、シリカ系充填剤、分取対象物質の分取方法、試料の浄化方法、回収対象物質の回収方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
本発明に係るシリカ系充填剤は、以下の方法で製造することができる。
具体的には、先ず、酸性水溶液に、テンプレートとなる水溶性化合物を加えて溶解させる。その後、水ガラスを加えて、この溶液がゲル化してシリカ(シリカゲル)が形成されるまでこの溶液を静置する。ここで、水ガラスとは、二酸化珪素と炭酸ナトリウムなどのアルカリとを融解して得られる珪酸アルカリの濃い水溶液のことであり、粘り気の強い無色透明の液体である。また、シリカゲルは、このような水ガラスにテンプレートとなる水溶性化合物を加えて溶解させた後に、酸性水溶液を加えることによって、溶液をゲル化させてもよい。
【0019】
この工程により、スルーポアが形成される。すなわち、シリカゲル中に水溶性化合物が残存して、この水溶性化合物がテンプレートとなり、シリカゲル中にスルーポアが形成される。また、この段階でスルーポアの大きさが決定される。すなわち、出発溶液の組成や、重合速度を制御して水溶性化合物の凝集の程度をコントロールすることで、スルーポアの大きさを決定することができる。
【0020】
本発明においては、上記酸性水溶液として、濃度0.01M乃至1.0Mの硝酸、酢酸等の水溶液を用いることができる。また、テンプレートの水溶性化合物として、分子量100000程度のポリエチレンオキサイド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアクリル酸等を用いることができる。この水溶性化合物の添加量としては、例えば上記酸性水溶液に対して2質量%乃至15質量%とすることができる。
【0021】
次に、得られたシリカゲルを粉砕してから水洗いし、更に塩基性溶液により処理する。この工程により、シリカ骨格の溶解・再析出が起こり、メソポアが形成される。塩基性溶液としては、尿素水溶液、アンモニア水溶液等を用いることができる。また、得られたシリカゲルを先に水洗いし、塩基性溶液で処理してから粉砕してもよい。すなわち、シリカゲルは、焼成する前に粉砕すればよい。このように、焼成前にシリカゲルの粉砕を行うことによって、粉砕処理による細孔の破壊や閉塞を低減することができる。
【0022】
シリカゲルを粉砕する手段としては、複数の貫通孔を有する多孔質板材の一面側からシリカゲルを貫通孔に圧入することにより、シリカゲルを粉砕することができる。多孔質板材としては、例えば、金属網、篩材などを例示できる。貫通孔の孔径は、30〜800μmの範囲が望ましく、100〜700μmの範囲がより望ましく、200〜500μmの範囲がもっとも望ましい。孔径が500μm以下であれば、焼成後の粒子径を適正な範囲に制御できる。また、孔径が100μm以上であれば、ゲルを多孔質板材に圧入する際の圧力を小さくすることができる。
【0023】
このとき、シリカゲルを多孔質板材の一側面から圧入する際に、多孔質板材の出口に分散媒を存在させると、該溶媒中にミセルを形成させることにより粉砕することもできる。分散媒としては、シリカゲルと均一に混合しないような媒体であれば特に制限なく使用することができ、好ましくは、水との相溶性が低い液体を用いることができる。この水との相溶性が低い液体としては、例えば、ヘキサン、トルエン、オクタノールなどの有機溶剤を使用することができる。この時使用する分散媒中に、界面活性剤を存在させておくと、シリカゲルと分散媒が乳化するので、均質に粉砕することができる。界面活性剤としては、カチオン系やノニオン系の界面活性剤を使用することができ、アルキルスルホン酸系や、ポリオキシエチレン系の界面活性剤を使用することができる。具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムや、ポリエチレングリコールアルキルエーテルなどを使用することができる。
【0024】
なお、ゲル化は短時間で完結するものではなく、ゲル化の開始と終了にはある程度時間の幅がある。ゲル化が完全に終了した後に押し出して成形しようとすると、押し出す際に圧力がかかり、押し出しが困難となる。したがって、より好ましくは完全にゲル化する前に押し出して成形することが好ましい。また、粉砕する手段としては、上記の他に、スプレードライ法、W/Oエマルジョンによる方法などが知られており(特開平7−069617号公報)、これらの手段で粉砕を行ってもよい。
【0025】
次に、シリカゲルを水洗後、高温で焼成(焼結)する。シリカゲルの焼成条件としては、焼成温度300℃乃至600℃の範囲で2時間乃至10時間焼結する条件とすることができる。また、焼成雰囲気は、不活性ガス、例えば窒素ガス雰囲気などがよい。以上の工程を経ることによって、本発明に係るシリカ系充填剤を得ることができる。
【0026】
なお、得られたシリカ系充填剤表面の吸着特性を変更したい場合には、表面に有機化合物をコーティングすることが好ましい。このコーティング方法としては、モノマー吸着重合法(モノマーをシリカ系充填剤表面上で重合させる方法)、カップリング反応などが挙げられるが、シリカ系充填剤と化学反応が可能な化合物であれば特に制限はない。カップリングさせる有機化合物としては、液体クロマトグラフィーによく用いられるクロロシラン化合物が好ましい。クロロシラン化合物の例としては、ジメチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、アミノメチルジメチルクロロシラン、ジメトキシメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、クロロメチルトリメチルシラン、クロロメチルメトキシジメチルシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、アリルジメチルクロロシラン、ジメチルプロピルクロロシラン、1-クロロエチルトリメチルシラン、ジメチルイソプロピルクロロシラン、メチルフェニルクロロシラン、ジメチルオクタデシルクロロシラン、トリベンジルクロロシラン、ジメチルフェニルクロロシラン、トリフェニルクロロシラン、ジフェニルメチルクロロシランなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0027】
また、上記カップリング反応以外にも、シリカのシラノール部分と反応させることが可能であり、そのようなものとしては、例えば有機金属化合物、包接化合物、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、糖などを挙げることができる。
【0028】
カップリング反応そのものは公知の反応であり、一般的な手法を用いて行うことができ、例えば下記の参考文献1に記載されている方法を用いることができる。すなわち、水分非存在下で、溶媒としてトルエン中、ピリジンとシランカップリング剤を加えて、加熱還流により反応させる。また、洗浄、乾燥後、エンドキャッピング反応を任意に実施してもよい。
「参考文献1」
特開2002―22721号公報
【0029】
図1に示すように本実施形態の一例である分析用前処理カラム1は、本発明に係るシリカ系充填剤2が、充填剤層2aとしてカラム容器3である注射筒型容器(リザーバー)に充填されることにより構成されている。また充填剤層2aの上下には、図示を省略するフィルターが取り付けられている。
【0030】
この分析用前処理カラム1に液体又は気体等の試料を流し、この試料に含まれる対象物質を一旦吸着させてから抽出する、或いは共存物質を吸着させ、対象物質を流出させることによって、対象物質を分取、回収することができる。また、試料の浄化を行うこともできる。
【0031】
なお、カラム容器3(リザーバー)の形状は特に制限はない。通常の円筒型であっても、ディスク状であってもよい。カラム容器3のサイズは、分析処理量に対応して適切な大きさのものを使用することができる。通常は、容積0.1〜100ml、好ましくは3〜6ml程度のものがハンドリングの面で好適である。また、カラム容器3(リザーバー)の材質としては、ガラス製、ステンレス製、樹脂製(例えばポリプロピレン、ポリエチレン)のものが好ましく、使用する溶媒に不溶性で、シリカ系充填剤2が試料の濃縮作業中にカラム容器3から流出しなければよく、その材質、形は特に制限されるものではない。
【0032】
本発明に係るシリカ系充填剤2は、粒子形状を有しており、その数平均粒子径は、10μm以上1000μm以下の範囲が好ましく、30μm以上700μm以下の範囲がより好ましく、50μm以上500μm以下の範囲が最も好ましい。平均粒子径が10μm未満になると、カラム1に流通させる液体又は気体等の分析試料の流速を上げた場合に、シリカ系充填剤2からなる充填剤層2aの前後の静圧の差(圧力損失)が大きくなり、高流速で分析試料を流すことができない。また、平均粒子径が1000μmを越えると、対象物質の吸着効率が悪くなるので好ましくない。なお、シリカ系充填剤2の平均粒子径は、JIS Z 8801に定める試験用ふるいを用いて、JIS Z8815ふるいわけ試験方法通則に準拠して測定する。
【0033】
本発明に係るシリカ系充填剤2は、その表面の吸着性を制御するための有機化合物が修飾(コーティング)されたものでもよく、全く修飾(コーティング)されていないものであってもよい。
また、カラム容器3には、必要に応じて上記シリカ系充填剤2と別の充填剤を混合して充填してもよく、シリカ系充填剤2と他の充填剤又は基材とで多層構造を形成させるように充填してもよい。
なお、本発明に係るシリカ系充填剤2は、粒子形状以外のものと組み合わせて使用することもできる。
【0034】
なお、本発明の分析用前処理カラム1には、前記のシリカ系充填剤2の他に通常の充填剤、例えばポリスチレンビーズ、ODS、アルミナビーズを併用することも可能である。すなわち、前記のシリカ系充填剤2の粒子と通常充填剤の粒子又は繊維を混合して、若しくは層状にカラム容器3に詰めて使用することができる。
【0035】
本発明に係るシリカ系充填剤2の比表面積は、50m/g以上であることが好ましく、100m/g以上がより好ましい。比表面積が50m/g未満になると、対象物質の吸着効率が悪くなるので好ましくない。なお、比表面積は、BET法により測定されたものである。
【0036】
また、本発明に係るシリカ系充填剤2は、上述した水ガラスをシリカ源としたものであり、数平均直径が0.5μm以上10μm以下の範囲のスルーポアと、数平均直径が2nm以上50nm以下のメソポアとが相互に連結し、3次元的に広がった細孔構造を持つ2重細孔構造を有することがより好ましい。なお、スルーポアは、充填剤内部を貫通する多数の貫通孔であり、メソポアは、充填剤表面又はスルーポアの壁面に形成された多数の細孔である。
【0037】
スルーポアの数平均直径は、0.5μm以上25μm以下の範囲が好ましく、0.5μm以上10μm以下の範囲がより好ましく、0.5μm以上7μm以下の範囲が特に好ましい。スルーポアの数平均直径が0.5μm未満になると、カラム1に流通させる液体、気体等の分析試料の流速を上げた場合に、充填剤層2a前後の静圧の差(圧力損失)が大きくなり、高流速で分析試料を流すことができないので好ましくない。また、スルーポアの数平均直径が25μmを越えると、シリカ系充填剤2自体の空隙率が大きくなり、シリカ系充填剤2の物理的強度が保てなくなるので好ましくない。
【0038】
シリカ系充填剤2の体積に占めるスルーポアの細孔容積の割合は、30%以上90%以下の範囲であることが好ましく、40%以上85%以下の範囲がより好ましく、50%以上80%以下の範囲がより好ましい。スルーポアの細孔容積の割合が30%未満になると、カラム1に流通させる液体、気体等の分析試料の速度を挙げた場合に、充填剤層2a前後の静圧の差(圧力損失)が大きくなり、高流速で分析試料を流すことができないので好ましくない。また、スルーポアの細孔体積の割合が90%を超えると、シリカ系充填剤2自体の空隙率が大きくなり、シリカ系充填剤2の物理的強度が保てなくなるので好ましくない。
【0039】
また、シリカ系充填剤2の体積に占めるスルーポアの細孔容積の割合は、シリカ系充填剤2の密度と、シリカ系充填剤2の質量当たりのスルーポアの細孔容積との積から求めることができる。一方、シリカ系充填剤2の密度は、スルーポア及びメソポアの細孔容積を含むシリカ系充填剤2の全体積をそのシリカ系充填剤2の質量で除して求められる。一方、シリカ系充填剤2の質量当たりのスルーポアの細孔容積は、水銀圧入法により求めることができる。
【0040】
メソポアの数平均直径は、2nm以上50nm以下が好ましく、5nm以上40nm以下の範囲がより好ましく、8nm以上35nm以下の範囲が特に好ましい。メソポアの数平均直径が2nm未満になると、吸着対象となる物質がメソポア内に入り込めず、吸着され難くなって回収率が低下するので好ましくない。また、数平均直径が50nmを越えると、十分に吸着されなくなるので好ましくない。
【0041】
本発明の分析用前処理カラム1は、例えば以下のように用いることができる。
図2に示すように、シリカ系充填剤2を充填した分析用前処理カラム1を用意し、この分析用前処理カラム1に対して試料11を流下させる。この試料11には、分取対象物質12及び分取非対象の共存物質13が含有されている。試料11を流下させると、分取対象物質12がシリカ系充填剤2に吸着され、分取非対象の共存物質13は吸着されずにそのまま流下される。その後、溶離液を流下させて分取対象物質12を脱着させる。このようにして、試料11に含まれる分取対象物質12を分取することができる。
【0042】
また、図3に示すように、シリカ系充填剤2を充填した分析用前処理カラム1を用意し、この分析用前処理カラム1に対して試料11を流下させる。試料11を流下させると、分取非対象の共存物質13がシリカ系充填剤2に吸着され、分取対象物質12は吸着されずにそのまま流下される。流下させた溶液においては、共存物質13量が大幅に低減される一方、分取対象物質12がほとんどそのまま流出する。このようにして、試料11に含まれる分取対象物質12を分取することができる。
【0043】
対象物質12をシリカ系充填剤2に吸着させたり、吸着させなかったりする場合には、例えば、シリカ系充填剤2の表面にコーティングする有機化合物を適当に選択することで制御することができる。
【0044】
本発明の分析用前処理カラム1の吸着対象物質としては、人や家畜に蓄積され有害性を引き起こす化合物、人や家畜の尿中に排泄される化合物及びその代謝物、若しくは人や家畜に有用な化合物、環境汚染物質、毒物、生理活性物質などが挙げられる。具体的には、ダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニル類、農薬類、環境ホルモン、石油化学誘導体、栄養成分並びにこれらの代謝物、微生物による生成物、毒素、重金属並びにその代謝物等が挙げられる。これらの化合物の例としては、アルデヒド類、ダイオキシン、ジベンゾフラン、多環芳香族炭化水素(PAHs、ベンゾ(a)ピレンを含む)、ポリ塩化ビフェニル、ポリ臭化ビフェニル、DDT、クロルピリホス、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、クロルデン、ヘプタクロル、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、マイレックス、トキサフェン(カンフェクロル)、ヘキサクロロシクロヘキサン(リンデン(γ−HCH)など)、クロルデコン(ケポン)、オクタクロロスチレン(OCS)、アシュラム、シマジン、1,4−ジオキサン、ノニルフェノール、界面活性剤、女性ホルモン、男性ホルモン、その他のホルモン、ポリフェノール類、抗生物質、抗菌剤、タンパク質、ペプチド、脂質、糖類、核酸関連物質、ビタミン類、神経伝達物質、マイコトキシンやマリントキシンに代表される自然毒、ヒ素、セレン及びこれらの代謝物などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0045】
以上、対象物質の分取方法について説明したが、本発明では試料から対象物質を除去する方法や、対象物質を回収する方法に上記の分取方法をそのまま適用することができる。
また、本発明の分析用前処理カラム1の具体的な用途としては、焼却炉排気ガス、各種製造設備排気ガス、幹線道路上空捕集大気のような環境大気、室内大気、工場排水、河川水、湖沼水、人体や家畜からの排泄物などから選ばれる微量物質であり、高度な濃縮を必要とする前処理などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の分析用前処理カラム1によれば、水ガラスを原料としたシリカ材質に高性能分析が可能なメソポアに加えて、高速分離が可能なスルーポアが形成されているので、シリカ材質の持つ高い吸着・脱着能力を維持しつつ、しかも通液又は通気時にかかる圧力を比較的低く抑えることができ、目的とする物質に対する選択性を高め、かつ処理時間の短縮化を図ることができる。
したがって、このようなシリカ系充填剤2が充填された分析用前処理カラム1を用いることによって、簡便且つ安価に、再現性よく、迅速且つ高い回収率を維持しながら、気体又は液体試料中に含まれる極微量の対象物質の精製・濃縮・分析・分取といった処理や、試料の浄化、対象物質の回収等が可能となる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0048】
(実施例1)
<シリカ系充填剤の合成>
酸性水溶液として1M硝酸水溶液20gにテンプレートとなるポリエチレンオキサイド(分子量Mv=100,000、Aldrich社製)を1.2g加えて溶解させた。次に、ソルビトール(和光純薬工業社製)1.0gを加えて溶解させた後、氷浴下で冷却した。さらに、氷冷下で水ガラス(52−57%、和光純薬工業社製)14gを激しく攪拌しながら加えた。また、氷冷下で30分攪拌してから、そのうち2mLを内径12mmの円筒容器に移し、60℃の恒温装置内に静置した。静置から約2時間程度で水ガラスがゲル化し、固形状になった。
次に、固形化した円筒形のゲルを、JIS8801で規定されている開口径300μmのステンレス製の網から押し出すことにより粉砕した。粉砕後のゲルを純水(イオン交換水)中に8時間静置することにより洗浄し、次に純水を排出させてからゲルを100mLのオートクレーブに入れ、1.5M尿素水溶液を70mL加えた。2時間静置後、110℃まで3時間で昇温してから5時間保持して熟成させた。冷却後ゲルを取り出し、純水中に8時間静置することにより洗浄した。
次に、純水を排出してからゲルをるつぼに移し入れ、600℃まで2時間で昇温、600℃で2時間焼結させてポリエチレンオキサイドを分解除去させた。このようにして、メソポアとスルーポアとを有する骨格が絡み合った構造を持つ2重細孔構造の粒子状のシリカ系充填剤を得た。
得られたシリカ系充填剤について、BET比表面積、メソポアの数平均直径、スルーポアの数平均直径及び細孔容積を測定した。BET比表面積とメソポアの数平均直径は、マイクロメトリックス社製ASAP2000を用いてBET法により測定した。また、スルーポアの数平均直径及び細孔容積は、カルロエルバ社製ポロシメーターシリーズ200を用いて、水銀圧入法により測定した。以下、測定結果を表1に示す。
【0049】
次に、得られたシリカゲルに対してシランカップリング反応を行い、シリカ表面にオクタデシル基を導入した。具体的には、塩酸洗浄処理したシリカゲル1.58gを乾燥トルエン15mL中に分散させ、ジメチルオクタデシルクロロシラン(信越化学工業社製)2.0gとピリジン(純正化学社製)0.6gを加え、約6時間加熱還流した。その後、シリカゲルをトルエン5mL、メタノール50mL、20%水含有メタノール50mL、クロロホルム20mLで順次洗浄した。得られたシリカゲルを130℃で4時間真空乾燥することにより、オクタデシル基が導入されたシリカゲルを得た。このシリカゲルを分級して平均粒子径380μmの実施例1のシリカ系充填剤を作製した。
【0050】
<分析用前処理カラムの調製>
底部にポリエチレン製フィルターが取り付けられた内径12mm、内容積6mLの筒型のカラム容器(リザーバー)に前記シリカ系充填剤を300mg充填することにより実施例1の分析用前処理カラムを製造した。
【0051】
(比較例1)
固形化した円筒形のゲルをステンレス製の網から押し出すことなく、ロッド状のままで以降の処理を行った以外は実施例1と同様の方法により2重細孔構造のロッド状シリカ系充填剤を得た。このロッド状のシリカ系充填剤を乳鉢上で粉砕することにより比較例の粒子状シリカ系充填剤を得た。得られたシリカ系充填剤について、BET比表面積、メソポアの数平均直径、スルーポアの数平均直径及び細孔容積を測定した。以下、測定結果を表1に示す。
次に、実施例1と同様の方法により、オクタデシル基を導入したシリカゲルを得てから、リザーバーに充填することにより、比較例1の分析用前処理カラムを製造した。
【0052】
【表1】

【0053】
<実施例及び比較例のシリカ系充填剤の物性評価>
表1に示すように、実施例1及び比較例1のシリカ系充填剤は何れも、スルーポアの数平均直径が2〜25μm以下の範囲であり、メソポアの数平均直径が6〜15nmの範囲であった。
次に、実施例1と比較例1を比較すると、スルーポアの細孔容積は、実施例1の方が大きいことがわかる。これは、実施例1のシリカ系充填剤を製造する際に、テンプレート化合物が含まれた状態のゲルを網で押し出して粉砕させ、粉砕後の焼結によってスルーポアが形成されるので、粉砕によってスルーポアが割れて減少するおそれがないためである。
【0054】
<指標化合物の添加回収試験>
実施例1及び比較例1の分析用前処理カラムを用いて、指標化合物の添加回収試験を行った。指標化合物として、親水性が高く回収が難しいフェノールを選択し、10g/L水溶液を調製して標準溶液とした。この標準溶液20μLをマイクロシリンジで採取して水に添加し、6N塩酸でpHを3.5に調整して1Lの検水を調製した。
得られた検水100mLを実施例1及び比較例1の分析用前処理カラムに流し込ませて流下させた。なお、検水の流下の際の線速度の条件は、10ml/分とした。次に、溶離液としてメタノール3mLを各カラムに対して流下させ、流出液をナスフラスコに受けて回収した。回収した流出液についてHPLC法により定量分析を行い、同液中に含まれるフェノールを定量して回収量を求め、この結果からフェノールの添加回収率を求めた。
【0055】
【表2】

【0056】
表2に示すように、実施例1は比較例1よりも高い回収率でフェノールを回収することができた。この結果から、実施例の分析用前処理カラムは、水中のフェノールの回収により有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明を適用した分析用前処理カラムの一例を示す断面図である。
【図2】図2は、図1に示す分析用前処理カラムを用いた有機物質の濃縮方法の一例を説明するための模式図である。
【図3】図3は、図1に示す分析用前処理カラムを用いた有機物質の濃縮方法の他例を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0058】
1…分析用前処理カラム、2…シリカ系充填剤、2a…充填剤層、3…カラム容器(リザーバー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性水溶液にテンプレート化合物を加えて溶解させた後に水ガラスを加えて溶液をゲル化する、又は、水ガラスにテンプレート化合物を加えて溶解させた後に酸性水溶液を加えて溶液をゲル化することによって、シリカゲルを形成する工程と、
前記シリカゲルを粉砕してから塩基性溶液で処理する、又は、前記シリカゲルを塩基性溶液で処理してから粉砕する工程と、
前記粉砕したシリカゲルを焼成する工程とを含むことを特徴とするシリカ系充填剤の製造方法。
【請求項2】
前記シリカゲルを粉砕する際に、複数の貫通孔を有する多孔質板材の一面側からシリカゲルを前記貫通孔に圧入させて粉砕する手段を用いることを特徴とする請求項1に記載のシリカ系充填剤の製造方法。
【請求項3】
前記テンプレート化合物が、ポリエチレンオキサイド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアクリル酸のうちの何れかであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリカ系充填剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の製造方法により製造して得られることを特徴とするシリカ系充填剤。
【請求項5】
数平均直径が0.5μm以上25μm以下の範囲であるスルーポアと、数平均直径が2nm以上50nm以下の範囲であるメソポアとを有する2重細孔構造からなることを特徴とする請求項4に記載のシリカ系充填剤。
【請求項6】
体積に占める前記スルーポアの細孔容積の割合が30%以上90%以下の範囲であることを特徴とする請求項4又は5に記載のシリカ系充填剤。
【請求項7】
表面に有機化合物がコーティングされていることを特徴とする請求項4乃至6の何れか一項に記載のシリカ系充填剤。
【請求項8】
数平均粒子径が10μm以上1000μm以下の範囲であり、且つ、BET法により測定される比表面積が50m/g以上である粒子形状を有することを特徴とする請求項4乃至7の何れか一項に記載のシリカ系充填剤。
【請求項9】
請求項4乃至8の何れか一項に記載のシリカ系充填剤が充填されてなることをを特徴とする分析用前処理カラム。
【請求項10】
分取対象物質及び共存物質が含有された分析試料を、請求項9に記載の分析用前処理カラムに流通させて、前記分取対象物質を前記シリカ系充填剤に吸着させた後に、前記分析用前処理カラムに溶離液を流通させて、前記分取対象物質を流出させることを特徴とする分取対象物質の分取方法。
【請求項11】
分取対象物質及び共存物質が含有された分析試料を、請求項9に記載の分析用前処理カラムに流通させて、前記共存物質を前記シリカ系充填剤に吸着させると共に、前記分取対象物質を流出させることを特徴とする分取対象物質の分取方法。
【請求項12】
前記分取対象物質が、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニル、農薬、環境ホルモン、重金属、タンパク質、アルデヒド類から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項10又は11に記載の分取対象物質の分取方法。
【請求項13】
除去対象物質及び共存物質が含有された試料を、請求項9に記載の分析用前処理カラムに流通させて、前記試料中から前記除去対象物質を除去することを特徴とする試料の浄化方法。
【請求項14】
回収対象物質及び共存物質が含有された試料を、請求項9に記載の分析用前処理カラムに流通させて、前記試料中から前記回収対象物質を回収することを特徴とする回収対象物質の回収方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−205927(P2007−205927A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25808(P2006−25808)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】