説明

シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ

【課題】新規なシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブを提供する。
【解決手段】5乃至25(2θ)の範囲において、2θが9.3〜9.6、12.7〜13.0、13.8〜14.0、15.9〜16.1、17.7〜18.1、18.9〜19.1、20.5〜20.7、23.7〜24.0のそれぞれに少なくとも1の反射ピークを有するが、9.8乃至12.0(2θ)の範囲には反射ピークを有せず、16.9(2θ)に中心のある幅広いピークを有しないX線回折パターンを示す、シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ、その製造方法、及び、これらのシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブを含酸素化合物の供給原料と接触させてオレフィン生成物を製造する方法におけるそれらの用途に関する。具体的には、本発明は、AEI及びCHAモレキュラーシーブの少なくとも1の連晶相(intergrown phase)を含むシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコアルミノリン酸塩(SAPO)モレキュラーシーブは、[SiO2]、[AlO2]、及び[PO2]の頂点共有四面体ユニットの3次元ミクロ細孔結晶骨格構造を有する。[PO2]四面体ユニットは、リン酸、有機リン酸塩(例えば、リン酸トリエチル等)、及びアルミノリン酸塩を含む種々の組成物により提供される。[AlO2]四面体ユニットは、アルミニウムアルコキシド(例えば、アルミニウムイソプロポキシド等)、リン酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、及び擬ベーマイトを含む種々の組成物により提供される。[SiO2]四面体ユニットは、シリカゾル、ケイ素アルコキシド(例えば、オルトケイ酸テトラエチル等)、及びフュームドシリカ(fumed silica)を含む種々の組成物により提供される。
【0003】
アルミノリン酸塩(ALPO)モレキュラーシーブは、AlPO4骨格を有し得る結晶性ミクロ細孔酸化物である。ALPO類は、骨格内にさらなる元素を含むことができ、典型的には約3オングストローム乃至約10オングストロームの均一な細孔寸法を有する。
【0004】
軽質オレフィン(特に、エチレン及びプロピレン)は、メタノール又はジメチルエーテル等の含酸素有機化合物を含有する供給原料をSAPO及び/又はALPO含有触媒と接触させることにより製造できる。例えば、米国特許第4,499,327号を参照されたい。
【0005】
SAPO−34及びSAPO−18は、メタノールからの軽質オレフィンの製造における適切な触媒として報告されている。SAPO−34は、ゼオライト系鉱物であるシャバサイト(CHA)の構造タイプを有するモレキュラーシーブの仲間に属する。SAPO−34の調製及び特性評価については、いくつかの文献で報告されており、例えば、米国特許第4,440,871号;J.Chenら、Studies in Surface Science and Catalysis、84巻、1731−1738頁;米国特許第5,279,810号;J.Chenら、Journal of Physical Chemistry、98巻、10216−10224頁(1994);J.Chenら、Catalysis Letters、28巻、241−248頁(1994);A.M.Prakashら、Journal of the Chemical Society,Faraday Transactions、90(15)巻、2291−2296頁(1994);Yan Xuら、Journal of the Chemical Society,Faraday Transactions、86(2)巻、425−429頁(1990)に報告されている(これら全ての文献は、引用により本明細書中に完全に取込まれる)。
【0006】
SAPO−18は、AEI構造タイプを有するモレキュラーシーブの仲間に属する。AEI構造タイプを有するその他のモレキュラーシーブは、ALPO−18及びRUW−18である。AEI構造タイプを有するモレキュラーシーブの調製及び特性評価については、いくつかの文献で報告されており、例えば、米国特許第4,440,871号;J.Chenら、Studies in Surface Science and Catalysis、84巻、1731−1738頁;米国特許第5,279,810号;J.Chenら、Journal of Physical Chemistry、98巻、10216−10224頁(1994);J.Chenら、Catalysis Letters、28巻、241−248頁(1994);A.M.Prakashら、Journal of the Chemical Society,Faraday Transactions、90(15)巻、2291−2296頁(1994);Yan Xuら、Journal of the Chemical Society,Faraday Transactions、86(2)巻、425−429頁(1990);米国特許第5,609,843号に報告されている(これら全ての文献は、引用により本明細書中に完全に取込まれる)。
【0007】
国際出願PCT/NO97/00272(公開番号WO98/15496)は、AEI及びCHA構造のシリコアルミノリン酸塩を含む混合相であって、RUW−19と呼ばれるモレキュラーシーブに関するものである。RUW−19は、以下の2θの値にピークを有するX線ディフラクトグラムを与える:9.3−9.5、10.4−10.6、12.7−12.9、13.8−14.0、15.9−16.1、16.7−16.9、18.9−19.0、20.5−20.7、21.0−21.3、23.7−24.0、25.7−26.0、30.9−31.1。この公報の図1には、RUW−19(実施例1乃至3)、SAPO−18(実施例4)、SAPO−34(実施例5)、及びSAPO−18とSAPO−34の物理的混合物(実施例6)について、15−33(2θ)領域におけるXRD痕跡(trace)が示されている。当該公報には、RUW−19がSAPO−18とSAPO−34の混合物とは異なることが示唆されている。RUW−19はAEI構造タイプのモレキュラーシーブと同様のピーク特性を有するが、しかし、RUW−19における約16.9(2θ)に中心がある幅広いピークが、SAPO−18又はAEIにおける約17.0(2θ)に中心がある2つの反射ピークと置き換わっている点で異なる。また、RUW−19は、17.8(2θ)及び24.8(2θ)に中心がある、SAPO−34又はCHAに関する反射ピークを有しない。WO98/15496によると、RUW−19は、メタノールからオレフィンへの転化に適している。本明細書を通じて、XRD反射値は(2θ)で記載され、これは"2θ度"と同義である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
メタノールからオレフィンへの転化において、SAPO−34は、エチレン及びプロピレンには比較的高い生成物選択性を示し、パラフィン及び4以上の炭素を有するオレフィン(C4+オレフィン)には低い生成物選択性を示す。従って、SAPO−34を含む触媒は、メタノールからオレフィンへの転化に特に適している。その優れた性能にもかかわらず、SAPO−34の触媒ケージ(catalytic cage)において、炭素質析出物(一般に、コークスと呼ばれる)がすぐに形成する。最終的に、コークスがあまりに多く存在すると、ケージがふさがり、触媒が失活することになる。また、パラフィンに対する低い生成物選択性にもかかわらず、SAPO−34はなおも副生成物を生成する。所望のエチレン及びプロピレンから副生成物を除去することは、メタノールからオレフィンへの転化工程にさらなるコストを課すこととなる。それゆえ、優れた生成物選択性を有し、ほとんど副生成物を生成しない新規なモレキュラーシーブへの需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、AEI及びCHA骨格タイプを有するモレキュラーシーブの少なくとも1の連晶相(intergrown phase)を含むシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブに関する。ここで、連晶相は、当該シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブの焼成試料についての粉末X線回折パターンを用いるDIFFaX分析によって約5/95乃至40/60のAEI/CHA比を有する。
【0010】
本発明のシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブは、独特のX線回折特性を示す。本発明の1の実施態様では、本発明のモレキュラーシーブは、0.01乃至0.25の範囲のシリカ対アルミナモル比(SiO2/Al2O3)を有する。
【0011】
本発明のモレキュラーシーブは、好ましくは、以下の工程を含む方法により調製され得る。a)構造指示有機試薬(organic structure directing agent)(鋳型)の存在下において、ケイ素の反応源、リンの反応源、及び水和アルミニウム酸化物を混合し、混合物を形成する工程;b)工程a)で調製した混合物を、結晶化温度まで連続的に混合及び加熱する工程;c)2乃至150時間の攪拌の下で、混合物を結晶化温度に維持する工程;d)シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブの結晶を回収する工程。ここで、工程a)において調製される混合物は、以下に示す範囲のモル組成
P2O5 :Al2O3 0.6:1乃至1.2:1
SiO2:Al2O3 0.005:1乃至0.35:1
H2O :Al2O3 10:1乃至40:1
を有し、及び、前記鋳型はテトラエチルアンモニウム化合物である。本発明の実施態様では、構造指示有機試薬は、水酸化テトラエチルアンモニウムである。
【0012】
本発明のシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブは、含酸素化合物供給原料(例えば、メタノールを含む供給原料等)からオレフィン生成物を製造する工程において、優れた触媒性能を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
詳細な説明
本発明は、AEI及びCHA骨格タイプを有するモレキュラーシーブの少なくとも1の連晶相(intergrown phase)を含むシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブに関するものであり、ここで、連晶相は、当該シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブの焼成試料についての粉末X線回折パターンを用いるDIFFaX分析によって約5/95乃至40/60のAEI/CHA比を有する。
【0014】
連晶モレキュラーシーブ相は、モレキュラーシーブ骨格の無秩序平面(disordered planer)連晶である。連晶モレキュラーシーブ相についての詳細な説明のために、the Structure Commission of the International Zeolite Associationより出版されている"Catalog of Disordered Zeolite Structures"、2000年版、及び、the Structure Commission of the International Zeolite Associationを代表して出版されている"Collection of Similated XRD Powder Patterns for Zeolites"、M.M.J.Treacy及びJ.B.Higgins、2001年版を引用する。
【0015】
規則的な結晶性固体は、3次元において周期的に整列している。構造的に無秩序な構造は、3次元未満、すなわち、2次元、1次元、又は0次元において周期的な整列を示す。この現象は、構造的に不変の周期的構成単位(Periodic Building Unit)の積層無秩序(stacking disorder)と呼ばれる。周期的構成単位から構成される結晶構造は、3次元全てにおいて周期的整列が達成されている場合には、エンドメンバー構造(end−member structure)と呼ばれる。無秩序な構造では、周期的構成単位の積層配列が、統計的積層配列まで周期的整列から逸脱している。
【0016】
本発明のモレキュラーシーブは、エンドメンバー構造AEI及びCHAの無秩序平面連晶である。AEI及びCHA骨格タイプを有するモレキュラーシーブの構造について記載しているA.Simmenらの、Zeolites、11巻、654−661頁(1991年)を引用する。AEI及びCHAについて、周期的構成単位は、2重の6員環の層である。層には"a"と"b"の2つのタイプが存在し、これらは、"b"が"a"の鏡像(通常面について180°回転、又は通常面と垂直な鏡映)であること以外は同一である。同じタイプの層が互いに積層する場合(すなわち、aaa或いはbbb)には、骨格タイプCHAが生じる。層"a"と"b"が交互になる場合(すなわち、abab)には、骨格タイプAEIが生じる。本発明のモレキュラーシーブは、CHA骨格タイプの領域及びAEI骨格タイプの領域を有する層"a"及び"b"の積層により形成される。CHAからAEI骨格タイプへの変化は、積層無秩序又は平面欠陥である(planer fault)。
【0017】
好ましくは、本発明のモレキュラーシーブは、当該シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブの焼成試料についての粉末X線回折パターンを用いるDIFFaX分析によって、約7/93乃至38/62、より好ましくは約8/92乃至35/65、さらにより好ましくは約9/91乃至33/67、最も好ましくは約10/90乃至30/70のAEI/CHA比を有する。
【0018】
平面欠陥を有する結晶の場合、XRD回折の回折パターンを解釈するためには、積層無秩序の効果をシミュレートする能力が必要となる。DIFFaXは、平面欠陥を含む結晶からの強度を計算するための数学的モデルに基づくコンピュータープログラムである(M.M.J.Tracyら、Proceedings of the Royal Chemical Society、London、A、433巻、499−520頁(1991年)を参照のこと)。DIFFaXは、International Zeolite Associationにより選択され及び市販されている、ゼオライトの連晶に対するXRD粉末パターンをシミュレートするためシミュレーションプログラムである("Collection of Similated XRD Powder Patterns for Zeolites"、M.M.J.Treacy及びJ.B.Higgins、第4版、the Structure Commission of the International Zeolite Associationを代表して出版(2001年)を参照のこと)。それは、AEI、CHA、tmm、及びKFIの連晶についての理論的研究にも用いられており、K.P.Lillerudらの"Studies in Surface Science and Catalysis"、84巻、543−550頁(1994年)によって報告されている。DIFFaXは、本発明の連晶モレキュラーシーブのような平面欠陥を有する結晶性材料の特性評価のための、周知かつ確立された方法である。
【0019】
図1a及び1bは、種々のAEI/CHA比を有する連晶相について得られたシミュレート回折パターンを示すものである。図1aは、0/100(CHAエンドメンバー)、10/90(AEI/CHA=0.11)、20/80(AEI/CHA=0.25)、30/70(AEI/CHA=0.41)、40/60(AEI/CHA=0.67)、50/50(AEI/CHA=1.00)、及び60/40(AEI/CHA=1.50)のAEI/CHA比を有する連晶相についてDIFFaXによりシミュレートされた、15乃至35(2θ)の範囲における回折パターンを示すものである。図1bは、0/100(CHAエンドメンバー)、10/90(AEI/CHA=0.11)、20/80(AEI/CHA=0.25)、50/50(AEI/CHA=1.00)、70/30(AEI/CHA=2.33)、80/20(AEI/CHA=4.0)、及び100/0(AEIエンドメンバー)のAEI/CHA比を有する連晶相についてDIFFaXによりシミュレートされた、5乃至20(2θ)の範囲における回折パターンを示すものである。全てのXRD回折パターンは、0と1の間で規格化されている。規格化強度の値は、回折ピークの強度を20.5−20.7(2θ)の範囲における反射の強度に対して規格化することにより決定する。例えば、20.5−20.7(2θ)の範囲におけるピークが50カウントの絶対強度を有しており、26.0(2θ)におけるピークが16カウントの絶対強度を有している場合には、26.0(2θ)におけるピークの規格化強度は0.32である。強度値の規格化により、特定の2θ値におけるX線回折ピークの強度についての回折パターン間での比較が可能となる。
【0020】
連晶相におけるCHAに対するAEIの比が増加すると、特定のピーク強度(例えば、おおよそ2θ=25.0におけるピーク)の減少が観測され、及び、その他のピーク強度(例えば、おおよそ2θ=17.05におけるピーク、及び2θ=25.0におけるショルダー)の増加が観測され得る。50/50及びそれ以上(AEI/CHA≧1.0)のAEI/CHA比を有する連晶相は、約16.9(2θ)に中心がある幅広いピークを示す。
【0021】
図2は、本発明のシリコアルミノリン酸塩(試料B)についてのXRD回折パターン、さらに、比較のためにWO98/15496の実施例1及び図1に記載されているMTO−RUW−356についてのXRD回折パターン、及び種々のAEI/CHA比を有する連晶相に対するDIFFaXシミュレート回折パターンを示すものである。MTO−RUW−356の回折パターンは、デジタル化し、再度規格化した。DIFFaX分析から、本発明の試料Bは25/75のAEI/CHA比(0.33のAEI/CHA比)を有し、MTO−RUW−356は70/30のAEI/CHA比(2.3のAEI/CHA比)を有することが示唆される。MTO−RUW−356は、約16.9(2θ)に中心がある幅広いピークを有する。
【0022】
本発明のシリコアルミノリン酸塩は、焼成され、焼成の後の再水和を回避し、表1に示すように、少なくとも5乃至25(2θ)の範囲に反射を有する試料から得られる粉末X線回折パターンにより特徴付けられる。
【0023】
【表1】

【0024】
本発明におけるAEI/CHAの連晶相についてのXRD回折パターンは、また、9.8乃至12.0(2θ)の範囲にピークが存在しないこと、及び約16.9(2θ)に中心がある幅広いピークが全く存在しないことによって特徴付けられる。さらなる特徴は、17.7乃至18.1(2θ)の範囲にピークが存在することである。17.7−18.1(2θ)の範囲における反射ピークは、SAPO−34の回折パターンにおける17.9(2θ)の反射ピークに対して、0.09乃至0.4、好ましくは0.1乃至0.35の相対強度を有する。全ての回折パターンは、20.5−20.7(2θ)の範囲における反射ピークの強度値に対して規格化されている。
【0025】
図3は、0/100(CHAエンドメンバー)、10/90(AEI/CHA=0.11)、20/80(AEI/CHA=0.25)、30/70(AEI/CHA=0.41)、40/60(AEI/CHA=0.67)、50/50(AEI/CHA=1.00)、及び60/40(AEI/CHA=1.50)のAEI/CHA比について、15乃至19(2θ)の範囲における上記XRD特性の変化を示すものである。
【0026】
本発明のシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブは、AEI及びCHAモレキュラーシーブの少なくとも1の連晶相を含む。好ましくは、CHAモレキュラーシーブはSAPO−34であり、AEIモレキュラーシーブはSAPO−18、ALPO−18、又はSAPO−18とALPO−18の混合物から選択される。本発明のシリコアルミノリン酸塩は、好ましくは0.01乃至0.25、より好ましくは0.02乃至0.20、さらに好ましくは0.03乃至0.19、最も好ましくは0.03乃至0.08の範囲のシリカ対アルミナモル比(SiO2/Al2O3)を有する。当該シリカ対アルミナモル比(SiO2/Al2O3)は、通常、化学分析によって求めることができる。
【0027】
1の実施態様では、本発明のシリコアルミノリン酸塩は、ケイ素の反応源、リンの反応源、及びアルミニウムの反応源を含む混合物を、構造指示有機試薬(鋳型)の存在下において、自然圧(autogenous pressure)の下で水熱処理することにより調製される。
【0028】
本発明のモレキュラーシーブは、好ましくは、以下の工程を含む方法により調製され得る。a)構造指示有機試薬(organic structure directing agent)(鋳型)の存在下において、ケイ素の反応源、リンの反応源、及び水和アルミニウム酸化物を混合し、混合物を形成する工程;
b)工程a)で調製した混合物を、結晶化温度まで連続的に混合及び加熱する工程;
c)2乃至150時間の攪拌の下で、混合物を結晶化温度に維持する工程;
d)シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブの結晶を回収する工程、
ここで、工程a)において調製される混合物は、以下に示す範囲のモル組成
P2O5 :Al2O3 0.6:1乃至1.2:1
SiO2:Al2O3 0.005:1乃至0.35:1
H2O :Al2O3 10:1乃至40:1
を有し、及び、前記鋳型はテトラエチルアンモニウム化合物である。
【0029】
好ましくは、工程a)において調製される混合物は、以下に示す範囲のモル組成
P2O5:Al2O3 0.8:1乃至1.1:1
SiO2:Al2O3 0.01:1乃至0.3:1
最も好ましくは0.015:1乃至0.25:1、
H2O:Al2O3 10:1乃至40:1
を有する。
【0030】
反応混合物におけるシリカ対アルミナのモル比が、合成後のモレキュラーシーブにおけるシリカ対アルミナの比に影響することは明らかであろう。
【0031】
本発明のシリコアルミノリン酸塩の調製において用いられるケイ素反応源には、ケイ酸塩、例えば、アエロジル(Degussaより市販)等のフュームドシリカ、オルトケイ酸テトラアルキル、又はコロイド水分散液(例えば、E.I.du Pont de NemoursよりLudoxの商品名で販売されているもの)が含まれ得る。
【0032】
本発明において用いられ得る水和アルミニウム酸化物には、ベーマイト及び擬ベーマイトが含まれる。好ましくは、擬ベーマイトが用いられる。
【0033】
構造指示有機試薬(鋳型とも呼ばれる)は、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAOH)、リン酸テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、酢酸テトラエチルアンモニウムよりなる群から選択されるテトラエチルアンモニウム化合物である。より好ましくは、当該鋳型は水酸化テトラエチルアンモニウムである。
【0034】
本発明のシリコアルミノリン酸塩を調製するために、アルミナ、シリカ、リンの反応源、及び構造指示有機試薬の混合により得られる反応混合物は、水熱処理される。当該反応混合物は、約120℃乃至250℃、好ましくは130℃乃至200℃、最も好ましくは150℃乃至185℃の範囲の結晶化温度まで連続的に過熱される。結晶化温度までの加熱は、典型的には、約5乃至約16時間、好ましくは約6乃至12時間、最も好ましくは6乃至9時間の期間行われる。
【0035】
温度は、段階的に又は連続的に上昇させることができる。しかし、連続加熱が好ましい。加熱の間、当該反応は、静的に保たれ、タンブルされ(tumbled)、或いは攪拌され得る。好ましくは、当該反応はタンブル又は攪拌され、最も好ましくは攪拌される。
【0036】
その後、温度は2乃至150時間の間結晶化温度に維持され、結晶化時間は主に結晶化温度に依存する。加熱は、結晶化生成物の形成に効果的な期間行われる。特定の実施態様では、当該反応は、20乃至60時間の間結晶化温度に保たれる。
【0037】
シリコアルミノリン酸塩の合成は、過去の合成からのシード(seed)、又はその他のモレキュラーシーブのシード(通常は、SAPO−34のシード)によって助長され得る。水熱処理はかき混ぜ(agitation)、例えば攪拌又はタンブリング(水平軸の周りで容器を回転させること)を伴うことなく行うこともできるが、好ましくはかき混ぜながら行われる。好ましくは、混合物は、反応混合物を結晶化温度まで過熱するまでの期間及び結晶化の期間において攪拌される。
【0038】
典型的には、結晶性モレキュラーシーブは、スラリーとして生成し、標準的な方法によって(例えば、遠心分離又はろ過によって)回収することができる。分離されたモレキュラーシーブ生成物は、また、洗浄し、遠心分離又はろ過により回収し、及び、乾燥することができる。
【0039】
モレキュラーシーブの結晶化工程の結果、回収されたモレキュラーシーブは、用いられた鋳型の少なくとも一部をその細孔内に含有する。原則的に、結晶構造は鋳型を取り囲むものであり、触媒活性を得るために、当該鋳型は除去すべきである。好ましい実施態様では、活性化は、モレキュラーシーブから鋳型を除去し、モレキュラーシーブのミクロ細孔チャンネルを有する活性触媒部位を供給原料との接触のために開放することにより行われる。当該活性化工程は、典型的には焼成、すなわち原則的に鋳型を含むモレキュラーシーブを酸素含有ガスの存在下において200乃至800℃の温度に加熱することによって実行される。場合によっては、低い酸素濃度の環境でモレキュラーシーブを加熱するのが望ましいこともある。このような工程は、結晶内(intracrystalline)細孔系から鋳型を部分的に又は完全に除去する場合に用いられ得る。別の場合、特により小さな鋳型を用いる場合には、当該モレキュラーシーブからの完全な又は部分的な除去は、従来型の脱着工程により実行され得る。
【0040】
本発明の結晶性シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブは、典型的にはプレート状、プレートレット(platelet)、又は積層プレートレットである。これらのプレート、プレートレット、又は積層プレートレットは、Zとして定義される最小寸法及びYとして定義される最大寸法を有する平板な立方体(flattened cube)であり、好ましくはZ/Yは1未満である。好ましくは、Z/Yは0.05乃至0.5である。図4に、本発明の結晶性シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブの電子顕微鏡写真を示す。好ましくは、本発明のモレキュラーシーブの平均最小結晶寸法は、0.1ミクロン未満である。
【0041】
いったんモレキュラーシーブが生成すると、当該モレキュラーシーブは、最終的な触媒生成物へ付加的な硬度又は触媒活性を提供するその他の材料と当該モレキュラーシーブを混合することより、触媒中に配合され得る。これらその他の材料と混合される場合、得られる組成物は一般にシリコアルミノリン酸塩触媒と呼ばれるものであり、当該触媒はSAPOモレキュラーシーブを含む。本発明は、また、本発明のモレキュラーシーブを含む触媒に関する。
【0042】
当該モレキュラーシーブとブレンドされ得る材料は、種々の不活性又は触媒的に活性な材料、又は種々の結合剤であることができる。これらの材料には、カオリン及びその他のクレイ、種々の形態の希土類金属、その他の非ゼオライト系触媒成分、ゼオライト系触媒成分、アルミナ又はアルミナゾル、チタニア、ジルコニア、石英、シリカ又はシリカゾル、及びこれらの混合物などの組成物が含まれる。これらの成分は、また、触媒の総コストの削減、再生の間における触媒の遮熱に有用な熱シンクとしての機能、触媒の圧縮(densifying)、及び触媒強度の増加において効果がある。シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ以外の材料とブレンドされる場合、最終的な触媒生成物に含有されるモレキュラーシーブの量は、触媒全体に対し、10乃至90重量パーセント、好ましくは20乃至70重量パーセントの範囲である。
【0043】
本発明の方法によって合成されるモレキュラーシーブは、サイズ及び極性に基づく分子の選択的分離にために;イオン交換体として;分解、水素化分解、不均化、アルキル化、異性化、酸化における触媒として;及び、石油工業において留出物から直鎖パラフィンを除去するために、乾式ガス及び液体に対して用いることができる。
【0044】
本発明のシリコアルミノリン酸塩は、含酸素化合物から炭化水素への触媒的転化に特に適している。従って、本発明は、また、含酸素化合物供給原料からオレフィン生成物を製造する方法に関するものであり、ここで、当該含酸素化合物供給原料は、オレフィン生成物への転化に効果的な条件の下、本発明のモレキュラーシーブを含む本発明の触媒と接触する。同様の実施条件におけるその他のシリコアルミノリン酸塩と比較すると、本発明のシリコアルミノリン酸塩は、軽質オレフィンに対してより高い選択性を示し、さらに、よりわずかな副生成物しか生成しない。
【0045】
本方法では、含酸素化合物を含有する供給原料は、軽質オレフィン(特に、エチレン及びプロピレン)の生成において効果的な条件下、反応器の反応ゾーンにおいてモレキュラーシーブを含む触媒と接触する。典型的には、含酸素化合物供給原料は、含酸素化合物が気相に存在するときに、モレキュラーシーブを含有する触媒と接触する。または、当該方法は、液相において又は気相/液相の混合相において実施される。当該方法が液相又は気相/液相の混合相において実施される場合、触媒及び反応条件に依存して、原料から生成物への転化率及び選択性が異なる結果となり得る。
【0046】
当該含酸素化合物の転化工程では、オレフィンは、一般に、幅広い温度範囲において製造され得る。効果的な実施温度範囲は、約200℃乃至700℃であることができる。当該温度範囲の下限では、所望のオレフィン生成物の生成が著しく遅くなる場合がある。当該温度範囲の上限では、最適量の生成物が生成しない場合がある。少なくとも300℃の実施温度及び525℃までの実施温度が好ましい。
【0047】
好ましい実施態様では、少なくとも300℃の温度、及び、約0.016未満、好ましくは約0.012未満、より好ましくは約0.01未満の温度補正規格化メタン感度(TCNMS、Temperature Corrected Normalized Methane Sensitivity)における実施が非常に望ましい。含酸素化合物からのオレフィンの製造における反応条件に、少なくとも約20hr−1のオレフィン製造のWHSV、及び約0.016未満のTCNMSを含むことが特に好ましい。
【0048】
本明細書において、TCNMSは、400℃未満の温度における規格化メタン選択性(NMS、Normalized Methane Selectivity)と定義される。NMSは、メタン生成物の収率をエチレン生成物の収率で割ったものとして定義され、ここで各収率は重量%基準で測定され、又は重量%に換算される。温度が400℃以上の場合には、TCNMSは以下の式で定義され、
【数1】

ここで、Tは、反応器内における平均温度(℃)である。
【0049】
圧力もまた、自然圧を含む幅広い範囲で変更できる。好ましい圧力は、約5kPa乃至約5MPaであり、最も好ましい範囲は約50kPa乃至約0.5MPaである。上述の圧力には、任意の酸素を消耗した希釈剤は除かれるため、含酸素化合物及び/又はそれらと供給原料の混合物の部分圧と呼ばれる。
【0050】
当該方法は、動的床(dynamic bed)システム、又は種々の輸送床を用いる任意のシステムにおいて実施され得るが、固定床も用いることができるであろう。高い空間速度において反応工程を行うのが特に望ましい。
【0051】
当該方法は、バッチ、半連続的又は連続的な態様で実施することができる。当該方法は、単一の反応ゾーンにおいて、或いは、直列又は並列に配置された複数の反応ゾーンにおいて実施できる。
【0052】
好ましくは、オレフィンを生成する含酸素化合物の転化は、大規模の連続触媒反応器において実施される。このタイプの反応器には、流動床反応器及び同時上昇管(concurrent riser)反応器が含まれ、これらは"Free Fall Reactor"、Fluidization Engineering、D.Kunii及びO.Levenspiel著、Robert E.Krieger出版、NY(1977年)に記載されている(引用によりそっくり本明細書中に取込まれる)。さらに、同時フリーフォール(concurrent free fall)反応器が当該転化工程において用いられ得る。例えば、米国出願4,068,136号、及び"Riser Reactor"、Fluidization and Fluid−Particle Systems、48−59頁、F.A.Zenz及びD.F.Othmo著、Reinhold出版、NY(1960)を参照されたい(これらの記載は引用により本明細書中に取込まれる)。
【0053】
任意の標準的な商業規模反応器システム(例えば、固定床又は移動床)を用いることができる。当該商業規模の反応器システムは、1hr−1乃至1000hr−1の重量時間空間速度(WHSV)において実施され得る。商業規模の反応器の場合、WHSVは、触媒におけるシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブの含有重量当り、1時間当りにおける供給原料中の炭化水素重量と定義される。
【0054】
炭化水素含有量は、含酸素化合物含有量、並びに含酸素化合物と共に存在し得る任意の炭化水素含有量である。シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブの含有量は、触媒中に含まれるシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ部分のみを意味する。これには、結合剤、希釈剤、不活性成分、希土類成分等は除かれる。
【0055】
1以上の不活性希釈剤が、例えば、全供給物及び反応ゾーンに供給される希釈剤成分の総モル数に基づいて1乃至95モルパーセントの量で、供給原料中に存在し得る。典型的な希釈剤には、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、水、パラフィン類、アルカン類(特に、メタン、エタン、及びプロパン)、アルキレン類、芳香族化合物、及びそれらの混合物が含まれる(ただし、これらに限定する必要はない)。好ましい希釈剤は、水及び窒素である。水は、液体又は蒸気のいずれの状態でも注入できる。
【0056】
含酸素化合物の転化率は、望ましくない副生成物を削減するように維持される。転化率は、また、商業的に望ましくないレベルの未反応供給物の再循環を避けるために十分高く維持される。転化率が100モル%から約98モル%以下になった場合に、不要な副生成物の減少が見られる。供給物の約50モル%程度の再循環が好ましい。それゆえ、いずれの要求をも達成するような転化率は、約50モル%乃至約98モル%、望ましくは約85モル%乃至約98モル%である。しかし、再循環工程の単純化のために約98モル%乃至約100モル%の転化率にすることもまた許容できる。含酸素化合物の転化率は、当該技術分野における当業者に周知である多数の方法を用いて維持される。それらの例には、反応温度;圧力;流速(すなわち、WHSV);触媒再生のレベル及び程度;触媒再循環の量;特定の反応器の構成;供給物の組成;及び、転化率に影響を与えるその他のパラメータ、の1以上を調節することが含まれる(ただし、これらに限定する必要はない)。
【0057】
再生を用いる場合、モレキュラーシーブ触媒は、移動床として再生ゾーンへ連続的に注入され得る。ここで、当該再生ゾーンでは、例えば、炭素質材料を除去することにより、又は酸素を含む大気中での酸化等により触媒が再生される。好ましい実施態様では、当該触媒は、転化反応の間に蓄積した炭素質析出物を焼き去るという再生工程を受ける。
【0058】
含酸素化合物供給原料は、少なくとも1の酸素原子を有する少なくとも1の有機化合物、例えば、脂肪族アルコール、エーテル、カルボニル化合物(アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭酸塩、エステル等)を含む。含酸素化合物がアルコールである場合、当該アルコールは、1乃至10の炭素原子、より好ましくは1乃至4の炭素原子を有する脂肪族部位を含み得る。代表的なアルコールには、低級直鎖及び分枝鎖脂肪族アルコール、及びそれらの不飽和物が含まれる(ただし、これらに限定する必要はない)。適切な含酸素化合物の例には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、C4−C20のアルコール、メチルエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ホルムアルデヒド、炭酸ジメチル、ジメチルケトン、酢酸、及びそれらの混合物が含まれる(ただし、これらに限定されない)。好ましい含酸素化合物は、メタノール、ジメチルエーテル、又はそれらの混合物である。最も好ましい含酸素化合物は、メタノールである。
【0059】
含酸素化合物供給原料を本発明のシリコアルミノリン酸塩を含む触媒と接触させることにより含酸素化合物供給原料からオレフィン生成物を製造する方法は、優れた触媒性能を有する。それは、75.0%以上のエチレン及びプロピレン選択性、及び/又は0.75以上のエチレン対プロピレン比、及び/又は1.0%以下のプロパン選択性に反映される。
【0060】
含酸素化合物供給原料からオレフィン生成物を製造する方法には、炭化水素(例えば、オイル、コール、オイルサンド(tar sand)、シェール、バイオマス、及び天然ガス)から含酸素化合物供給原料を製造する付加的な工程を含むことができる。含酸素化合物供給原料の製造方法は、当該技術分野において公知である。それらの方法には、アルコール又はエーテルへの発酵、すなわち、合成ガスを製造し、その後当該合成ガスをアルコール又はエーテルに転化させることが含まれる。合成ガスは、水蒸気改質、自熱改質、及び部分酸化などの公知の方法によって製造され得る。
【0061】
本発明のモレキュラーシーブを用いる含酸素化合物からオレフィンへの転化反応により製造されるオレフィン生成物を重合して、ポリオレフィン(特に、ポリエチレン及びポリプロピレン)を生成できることも、また、当業者には明らかであろう。オレフィンからポリオレフィンを製造する方法は、当該技術分野において公知である。触媒を用いる方法が好ましい。特に、メタロセン、チーグラー/ナッタ、及び酸触媒系が好ましい。例えば、米国特許第3,258,455号、第3,305,538号、第3,364,190号、第5,892,079号、第4,659,685号、第4,076,698号、第3,645,992号、第4,302,565号、及び第4,243,691号を参照されたい(当該触媒及び方法についての記載は、それぞれ引用により本明細書に取込まれる)。一般に、これらの方法には、ポリオレフィン生成物を得るために効果的な圧力又は温度において、オレフィン生成物をポリオレフィン生成触媒と接触させることを含む。
【0062】
好ましいポリオレフィン生成触媒は、米国特許第5,324,800号に記載されているようなメタロセン触媒である。好ましい実施温度の範囲は50乃至240℃であり、当該反応は、約1乃至200Barの範囲内である低圧、中圧、又は高圧において実施され得る。溶液中で実施される方法の場合、不活性希釈剤を用いることができ、好ましい実施圧力は10乃至15Barであり、好ましい温度範囲は120乃至230℃である。気相で実施される方法の場合、一般に、温度は60乃至160℃の範囲内が好ましく、実施圧力は5乃至50Barが好ましい。
【0063】
ポリオレフィンに加えて、多数のその他のオレフィン誘導体が、本発明で回収されるオレフィンから生成できる。これらには、アルデヒド、アルコール、酢酸、線状アルファオレフィン、酢酸ビニル、二塩化エチレン及び塩化ビニル、エチルベンゼン、酸化エチレン、クメン、イソプロピルアルコール、アクロレイン、塩化アリル、酸化プロピレン、アクリル酸、エチレン−プロピレンゴム、及びアクリロニトリル、及び、エチレン、プロピレン、又はブチレンの三量体及び二量体が含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。これらの誘導体の製造方法は当該技術分野において周知であり、それゆえ本明細書では説明しない。
【実施例】
【0064】
以下の実施例は、特許請求の範囲に記載される発明の全範囲に含まれる特定の実施態様を例証するものである。
【0065】
これらの実施例では、XRD回折パターンは、銅のKα放射線を用いてSCINTAG X2 X線粉末回折計(Scintag Inc.、米国)に記録した。モレキュラーシーブ試料は、以下の手順に従って、調製の後に焼成し、湿気がない状態に保った。
【0066】
約2グラムのモレキュラーシーブを、窒素流れの下、1分当り2℃の速度で室温から200℃まで加熱した。当該温度を30分間200℃に保った。その後、試料を、窒素下、1分当り2℃の速度で200℃から650℃まで加熱した。当該試料は、窒素下で5時間650℃に保った。その後、窒素を空気で置換し、当該試料を空気下で3時間650℃に保った。その後、当該試料を200℃まで冷却し、水和を防ぐために200℃に保った。その後、当該熱試料をXRD試料容器に移し、水和を防ぐためにマイラーホイル(Mylar foil)で覆った。XRD回折パターンは、12乃至24度の範囲の2θで記録した。
【0067】
DIFFaX分析を用いて、モレキュラーシーブのAEI/CHA比を評価した。種々のAEI/CHA比における粉末XRD回折パターンは、the International Zeolite Associationから市販されているDIFFaXプログラムを用いて得た(M.M.J.Tracyら、Proceedings of the Royal Chemical Society、London、A、433巻、499−520頁(1991年)、"Collection of Similated XRD Powder Patterns for Zeolites"、M.M.J.Treacy及びJ.B.Higgins、第4版、the Structure Commission of the International Zeolite Associationを代表して出版(2001年)を参照されたい)。XRD回折パターンのシミュレートに用いたDIFFaXインプットファイルを表2に示す。この分析では、層のランダム分布に基づいて計算を行った。そのような計算は、統計的な目的のためのみに用いられるものであり、当該物質の本質が必ずしもランダムであることを意味しない。その後、当該シミュレーション回折パターンを、実験から得た粉末XRD回折パターンと比較した。
【0068】
【表2】


【0069】
実施例1
33.55グラムのリン酸(水中85%)、32.13グラムの脱イオン水、及び61.4グラムのTEAOH溶液(水中35%)を含む溶液をガラスビーカーに調製した。この溶液に、3.32グラムのLudox AS 40(40%シリカ)を添加した。19.85グラムのアルミナ(Condea Pural SB)を添加し、モル比で以下の組成
0.15SiO2/P2O5/Al2O3/TEAOH/35H2O
を有するスラリーを得た。当該スラリーは、均一になるまで混合し、150mlのステンレス製オートクレーブに移した。このオートクレーブを、オーブンの回転軸の上に取付けた。当該軸を60rpmで回転させ、オーブンは8時間175℃まで加熱した。オートクレーブを48時間この温度に保った。室温まで冷却した後、サンプルを取り出し、洗浄後、乾燥させた。X線回折パターンを得た。DIFFaX分析により、AEI/CHA比は15/85(AEI/CHA=0.18)であった。シリカ対アルミナのモル比(SiO2/Al2O3)は、0.15であった。当該試料は、今後、試料Aと記載する。
【0070】
実施例2
67.51グラムのリン酸(水中85%、Aldrich社より市販)を、67.29グラムの脱イオン水で希釈した。この溶液に、123.33グラムの水酸化テトラエチルアンモニウム溶液(水中35%、Eastern社より市販)を添加した。その後、2.23グラムのLudox AS 40(40%シリカ、Dupont社)を当該溶液に添加した。最後に、39.84グラムのアルミナ(Condea Pural SB)を添加し、スラリーを得た。当該混合物の組成は、以下のモル比
0.05SiO2/P2O5/Al2O3/TEAOH/35H2O
で表わすことができる。当該スラリーは、均一になるまで混合し、150mlのステンレス製オートクレーブに移した。このオートクレーブを、オーブンの回転軸の上に取付けた。当該軸を60rpmで回転させ、オーブンは8時間175℃まで加熱した。オートクレーブを48時間この温度に保った。室温まで冷却した後、サンプルを取り出して、洗浄後、乾燥させ、X線回折パターンを得た。DIFFaX分析により、AEI/CHA比は25/75(AEI/CHA=0.33)であった。シリカ対アルミナのモル比(SiO2/Al2O3)は、0.06であった。当該試料は、今後、試料Bと記載する。
【0071】
オートクレーブを60rpmの代わりに30rpmで回転させた以外は同じ手順を用いて、別の試料を調製した。従って、力強く混合した試料Bの調製におけるよりも、混合又はタンブリングは穏やかであった。DIFFaX分析により、AEI/CHA比は90/10(AEI/CHA=9.0)であった。当該試料は、今後、比較例1と記載する。
【0072】
図3及び5は、試料BのX線回折パターンを示すものである。また、比較のために、WO98/15496の実施例1及び図1に記載されているMTO−RUW−356、及びWO98/15496の実施例3及び図1に記載されているMTO−RUW−335TについてのXRD回折パターンも併せて示してある。MTO−RUW−356及びMTO−RUW−335Tの回折パターンは、デジタル化し、再度規格化した。MTO−RUW−356及びMTO−RUW−335TのDIFFaX分析によって、それぞれ、2.3及び4.0のAEI/CHA比が得られた。
【0073】
実施例3

191.23グラムのリン酸溶液(水中85%、Aldrich社)と214.25グラムの脱イオン水を、ミキシングボウル中で混合した。この溶液に、348.71グラムの水酸化テトラエチルアンモニウム溶液(水中35%、Sachem社)をビュレットで添加した。混合物が均一になった後、6.04グラムのLudox AS 40(40%シリカ、Dupont社)を当該溶液に添加した。その後、122.33グラムのアルミナ(Condea Pural SB)を添加し、当該混合物を15分間攪拌した。その後、163.46グラムの水酸化テトラエチルアンモニウム溶液(水中35%)及び10.13グラムの脱イオン水を添加した。モル比で以下の組成
0.045SiO2/0.92P2O5/Al2O3/1.35TEAOH/41H2O
を有するスラリーを得た。
【0074】
当該スラリーは、均一になるまで混合し、1リットルのPARRオートクレーブのステンレス製オートクレーブに移し、当該混合物を、水熱処理の間中600rpmで攪拌した。オートクレーブは5時間175℃まで加熱した。オートクレーブを72時間この温度に保った。室温まで冷却した後、当該スラリーを洗浄及び乾燥し、X線回折パターンを得た。DIFFaX分析により、AEI/CHA比は30/70(AEI/CHA=0.43)であった。シリカ対アルミナのモル比(SiO2/Al2O3)は、0.09であった。当該試料は、今後、試料Cと記載する。
【0075】
実施例4
437.92グラムのリン酸溶液(水中85%)と350.56グラムの脱イオン水を、ミキシングボウル中で混合した。この溶液に、28.49グラムのLudox AS 40(40%シリカ)を添加し、濁った溶液を得た。その後、799.09グラムの水酸化テトラエチルアンモニウム溶液(水中35%)をビュレットで添加し、全てのTEAOHを添加したときに透明な溶液を得た。この溶液に、258.29グラムのアルミナ(Condea Pural SB)、及び42.45グラムの脱イオン水を慎重に添加した。モル比で以下の組成
0.1SiO2/P2O5/Al2O3/TEAOH/34H2O
を有するスラリーを得た。当該スラリーは、均一になるまで混合し、外壁にジャケット(jacket)が溶接された2リットルのPARRステンレス製オートクレーブ(T316SS)に移した。外部熱浴から二重壁(double wall)を経て加熱オイルを流すことにより、反応器を加熱した。ステンレス製攪拌器は、標準的なPARR馬蹄型攪拌器と標準的なタービン型羽根車の組合せからなる。結晶化の間、混合物を170rpmで攪拌した。オートクレーブは8時間175℃まで加熱した。当該オートクレーブを36時間この温度に保った。室温まで冷却した後、当該スラリーを洗浄及び乾燥し、X線回折パターンを得た。DIFFaX分析により、AEI/CHA比は30/70(AEI/CHA=0.43)であった。シリカ対アルミナのモル比(SiO2/Al2O3)は、0.14であった。当該試料は、今後、試料Dと記載する。
【0076】
実施例5
434.19グラムのリン酸溶液(水中85%)と347.58グラムの脱イオン水を、ミキシングボウル中で混合した。この溶液に、28.25グラムのLudox AS 40(40%シリカ)を添加し、濁った溶液を得た。その後、792.24グラムの水酸化テトラエチルアンモニウム溶液(水中35%)をビュレットで添加し、全てのTEAOHを添加したときに透明な溶液を得た。この溶液に、256.08グラムのアルミナ(Condea Pural SB)を慎重に添加した後、脱イオン水10グラム中に0.761グラムのSAPO−34粉末を有する懸濁液を添加した(シードの懸濁液は、10分間超音波バスに入れた)。また、42.07グラムの脱イオン水を混合物に添加した。モル比で以下の組成
0.1SiO2/P2O5/Al2O3/TEAOH/34H2O、及び、
0.04重量%のSAPO−34シード
を有するスラリーを得た。当該スラリーは、均一になるまで混合し、2リットルのステンレス製PARRオートクレーブに移し、結晶化の間、混合物を170rpmで攪拌した。オートクレーブは8時間175℃まで加熱した。当該オートクレーブを36時間この温度に保った。室温まで冷却した後、結晶化物質をオートクレーブから除去し、洗浄し、及び120℃で乾燥し、X線回折パターンを得た。DIFFaX分析により、AEI/CHA比は30/70(AEI/CHA=0.43)であった。シリカ対アルミナのモル比(SiO2/Al2O3)は、0.12であった。当該試料は、今後、試料Eと記載する。
【0077】
実施例6
184.36グラムのリン酸溶液(水中85%)と176.29グラムの脱イオン水を、ミキシングボウル中で混合した。この溶液に、13.33グラムのLudox AS 40(40%シリカ)を添加し、濁った溶液を得た。その後、373.79グラムの水酸化テトラエチルアンモニウム溶液(水中35%)をビュレットで添加し、全てのTEAOHを添加したときに透明な溶液を得た。この溶液に、120.82グラムのアルミナ(Condea Pural SB)、及び31.42グラムの脱イオン水を慎重に添加した。モル比で以下の組成
0.1SiO2/0.9P2O5/Al2O3/TEAOH/35H2O
を有するスラリーを得た。当該スラリーは、均一になるまで混合し、1リットルのステンレス製PARRオートクレーブに移し、結晶化の間、混合物を170rpmで攪拌した。オートクレーブは8時間175℃まで加熱した。当該オートクレーブを48時間この温度に保った。室温まで冷却した後、当該スラリーを洗浄及び乾燥し、X線回折パターンを得た。DIFFaX分析により、AEI/CHA比は20/80(AEI/CHA=0.25)であった。シリカ対アルミナのモル比(SiO2/Al2O3)は、0.16であった。当該試料は、今後、試料Fと記載する。
【0078】
実施例7
411.23グラムのリン酸溶液(水中85%)と329.18グラムの脱イオン水を、ミキシングボウル中で混合した。この溶液に、26.75グラムのLudox AS 40(40%シリカ)を添加し、濁った溶液を得た。その後、750.35グラムの水酸化テトラエチルアンモニウム溶液(水中35%)をビュレットで添加し、全てのTEAOHを添加したときに透明な溶液を得た。この溶液に、242.59グラムのアルミナ(Condea Pural SB)、及び39.86グラムの脱イオン水を慎重に添加した。モル比で以下の組成
0.1SiO2/P2O5/Al2O3/TEAOH/34H2O
を有するスラリーを得た。当該スラリーは、均一になるまで混合し、2リットルのステンレス製PARRオートクレーブに移し、結晶化の間、混合物を170rpmで攪拌した。オートクレーブは12時間170℃まで加熱した。当該オートクレーブを24時間この温度に保った。室温まで冷却した後、当該試料を取り出して、洗浄及び乾燥し、X線回折パターンを得た。DIFFaX分析により、AEI/CHA比は40/60(AEI/CHA=0.67)であった。シリカ対アルミナのモル比(SiO2/Al2O3)は、0.13であった。当該試料は、今後、試料Gと記載する。
【0079】
実施例8
当該実施例は、AEI/CHA比が本発明の範囲に含まれないようなAEI及びCHAモレキュラーシーブの連晶についての触媒性能を例証するための比較例として、提示するものである。
【0080】
90.74グラムのアルミニウムイソプロポキシドをミキシングボウルに入れ、135.29グラムの脱イオン水を添加した。当該混合物を10分間静置し、その後、混合し、ゲルを得た。このゲルに、ビュレットを用いて50.19グラムのリン酸(水中85%)を滴下し、その後、3.26グラムのLudox AS 40(40%シリカ)を添加した。その後、91.54グラムの水酸化テトラエチルアンモニウム溶液(水中35%)をビュレットで添加し、同様に5.23グラムの脱イオン水を添加した。モル比で以下の組成
0.1SiO2/P2O5/Al2O3/TEAOH/56.9H2O
を有するスラリーを得た。当該スラリーは、均一になるまで混合し、300mlのステンレス製オートクレーブに移した。当該オートクレーブは6時間150℃まで加熱した。当該オートクレーブを133時間この温度に保った。結晶化は、静的条件下で行った。室温まで冷却した後、当該試料を取り出して、洗浄及び乾燥し、X線回折パターンを得た。DIFFaX分析により、AEI/CHA比は80/20(AEI/CHA=4.0)であった。シリカ対アルミナのモル比(SiO2/Al2O3)は、0.10であった。当該試料は、今後、比較例2と記載する。
【0081】
実施例9
メタノールのオレフィンへの転化は、生成物の分析のためのオンラインガスクロマトグラフを備えた、管状の固定床反応器において行った。試験試料の一部を、窒素下650℃で5時間焼成し、その後、空気中650℃で3時間加熱した。焼成したモレキュラーシーブを反応器に添加し、450℃の温度、25hr−1の重量時間空間速度(WHSV)、及び25psigの圧力において、メタノールを含有する供給原料と接触させた。エチレンとプロピレン生成物の総合的選択性、及びプロパン選択性を表3に示す。当該表において、選択性とは、供給原料中のメタノール重量に対する、所定の生成物又は生成物グループmについての重量平均生成物選択性を意味するものである。これは、以下の数式
【数2】

によって算出される。ここで、(Sm)iは、流れ時間iの間におけるmの選択性の中点であり;(MeOH conv)iは、流れ時間iにおける転化率の中点であり;(ΔMeOH/gr cat)iは、流れ時間iの間における、触媒1グラム当りのメタノール供給量である。
【0082】
全ての選択性は、コークスが存在しない条件に基づいて算出した。
【0083】
表3は、本発明のモレキュラーシーブが、軽質オレフィンに対して優れた選択性を示し、且つ、副生成物をほとんど生成しないことを示している。表3では、選択性をパーセンテージで示している。
【0084】
これまで当該発明を十分に説明してきたが、本発明の精神と範囲から逸脱することなしに、特許請求の範囲における幅広いパラメーターの範囲内で当該発明を実施できるということは、当業者には明らかであろう。
【0085】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1a】図1aは、種々のAEI/CHA比を有する連晶相に対するDIFFaXシミュレート回折パターンを示すものである。
【図1b】図1bは、種々のAEI/CHA比を有する連晶相に対するDIFFaXシミュレート回折パターンを示すものである。
【図2】図2は、本発明のシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ及びWO98/15496のMTO−RUW−356についてのXRD回折パターン、及び種々のAEI/CHA比を有する連晶相に対するDIFFaXシミュレート回折パターンを示すものである。
【図3】図3は、種々のAEI/CHA比を有する連晶相についての、15乃至19(2θ)の範囲におけるDIFFaXシミュレート回折パターンを示すものである。
【図4a】図4aは、本発明の結晶性シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブのSEM像を示すものである。当該SEM像は、2KeVの電圧、20,000倍の倍率を用いて、JEOL JSM−6340F 電解放出型SEMにより得たものである。
【図4b】図4bは、本発明の結晶性シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブのTEM像を示すものである。
【図5】図5は、本発明のシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブについてのXRD回折パターン、並びに、比較のためにWO98/15496のMTO−RUW−356及びMTO−RUW−335TのXRD回折パターンを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5乃至25(2θ)の範囲における以下の範囲:
【表1】

のそれぞれに少なくとも1の反射ピークを有するが、9.8乃至12.0(2θ)の範囲には反射ピークを有せず、16.9(2θ)に中心のある幅広い特徴を有しないX線回折パターンを示す、シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ。
【請求項2】
前記シリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ中のアルミナに対するシリカのモル比(SiO2/Al2O3)が0.01乃至0.25の範囲である、請求項1に記載のシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−230966(P2008−230966A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153289(P2008−153289)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【分割の表示】特願2002−569738(P2002−569738)の分割
【原出願日】平成14年2月4日(2002.2.4)
【出願人】(599134676)エクソンモービル・ケミカル・パテンツ・インク (301)
【Fターム(参考)】