説明

シリコン太陽電池の製造方法

【課題】太陽電池基板結晶内部の欠陥を増大させることなく、光照射によって発生する少数キャリアを高効率に光電流に寄与させ、太陽電池の変換効率を向上させることができるシリコン太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】太陽電池製造プロセスにおける、pn接合形成のためのP(りん)拡散工程において、拡散熱処理条件を780℃以上850℃以下の温度範囲で、かつ、該温度範囲での拡散熱処理時間を5秒以上30秒以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実用Si(シリコン)太陽電池は、チョクラルスキー法で作製されるSi単結晶インゴットや、キャスト法で作製されるSi多結晶インゴットから厚さ200ミクロンメートル以下の薄板が切り出され、これを太陽電池の基板材料として用いたものが主流となっている。これら両材料で、現在の実用太陽電池生産量の8割以上を占めている。また、これらのSi結晶のほとんどは、III族元素であるB(ボロン)がドープされたp型半導体の結晶である。
【0003】
p型半導体Si結晶を基板として用いた太陽電池では、その製造過程において、基板表面からP(リン)などのV族元素をドープすることで、基板表面から一定の深さまでn型半導体層を作製し、表面近傍にpn接合が形成される。
【0004】
pn接合型Si太陽電池では、太陽光などの光照射によって生成した電子および正孔がpn接合部近傍における内部電界によって分離され、p型領域に正孔、n型領域に電子がたまることにより起電力を発生する。光照射によりp型領域で生成された電子やn型領域で生成された正孔は少数キャリアとよばれ、これらの少数キャリアがpn接合部まで到達できなければ光電流に寄与することができない。従って、少数キャリアの数やその寿命(ライフタイム)が太陽電池の特性に大きく影響を及ぼすこととなる。
【0005】
p型基板の表面近傍にpn接合を形成する方法として、オキシ塩化りん(POCl)を基板表面に塗布して850℃で30分間の熱処理を行う方法(例えば、特許文献1または2参照)、リン酸水溶液を塗布して900℃で5分間の熱処理を行う方法(例えば、特許文献3参照)、リン酸を含有した拡散ペーストをスピン塗布して880℃で40分間の熱処理を行う方法(例えば、特許文献4参照)、Pを含む薬液を塗布して約900℃で約30分間の熱処理を行う方法(例えば、特許文献5参照)、PとTi系化合物とアルコールとの混合液からなるPTG(PhosphoricTitanate Glass)液を塗布して800℃〜950℃の温度で5〜30分間熱処理を行う方法(例えば、特許文献6参照)、P(りん)を含むPSG(PhosphoSlicate Glass)液を塗布して800〜900℃で20分程度の熱処理を行う方法(例えば、特許文献7参照)等が報告されている。
【0006】
前述のように、p型Si結晶基板の表面近傍にn型層を作製し、pn接合を形成する方法としては、P(りん)を含む溶液を基板表面に塗布して、800℃〜950℃の温度範囲で5分〜40分間の拡散熱処理を施す方法が一般的である。このような条件で形成されるpn接合の表面からの深さは、およそ0.5μm程度である(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−259488号公報
【特許文献2】特開2000−299483号公報
【特許文献3】特開2008−282877号公報
【特許文献4】特開2010−27744号公報
【特許文献5】特開2010−92961号公報
【特許文献6】特開2010−109201号公報
【特許文献7】特開2010−114345号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】浜川圭弘・桑野幸徳 共編、「太陽エネルギー工学」、培風館、1994年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
太陽電池の基板として利用されるSi単結晶中には、不純物やミクロボイドなどの点欠陥や転位が必ず存在し、また、Si多結晶中には前述の欠陥の他に、亜粒界や結晶粒界など多くの欠陥が存在する。
【0010】
このようなSi結晶基板内部に存在する欠陥は、非特許文献1等に記載のような従来の5分〜40分間の長時間のP(りん)の拡散熱処理の間に、再分布したり増殖したりする。再分布や増殖した欠陥は、基板表面から結晶内部へ光が侵入する際の妨げとなり、また、光照射によって発生した少数キャリアを消滅させるため、発生した少数キャリアの一部がpn接合部まで到達する前に消滅してしまうという課題があった。
【0011】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、太陽電池基板結晶内部の欠陥を増大させることなく、光照射によって発生する少数キャリアを高効率に光電流に寄与させ、太陽電池の変換効率を向上させることができるシリコン太陽電池の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るシリコン太陽電池の製造方法は、太陽電池製造プロセスにおける、pn接合形成のためのP(りん)拡散工程において、拡散熱処理条件を780℃以上850℃以下の温度範囲で、かつ、該温度範囲での拡散熱処理時間を5秒以上30秒以下とすることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るシリコン太陽電池の製造方法は、p型Si結晶基板にP(りん)拡散によりpn接合を形成させる際、拡散熱処理時間を極めて短時間にすることにより拡散熱処理による基板の劣化を防ぎ、また基板表面の極浅い場所にpn接合を形成させて、基板結晶中の欠陥の影響を極力減らすことで電流密度を最大限に引き上げ太陽電池の高効率化を達成する方法である。
【0014】
本発明に係るシリコン太陽電池の製造方法は、p型Si結晶基板の表面にP(りん)を含む溶液を塗布し、780℃〜850℃の温度で5秒〜30秒という極短時間の拡散熱処理を行うことにより、Pを表面から数nm〜数十nm拡散させ、表面から極浅い位置にpn接合を形成することができる。これにより、基板結晶内部に存在する、あらゆる欠陥における少数キャリアの消滅や損失を防止することができる。
【0015】
本発明に係るシリコン太陽電池の製造方法は、使用するSi基板がp型の半導体Si単結晶基板またはp型のSi多結晶基板であってもよい。また、使用する基板がp型の薄膜Si結晶基板または薄膜アモルファスSi基板であってもよい。本発明による数秒〜数十秒という極短時間の拡散熱処理時間でpn接合を形成させた太陽電池は、従来の数分〜数十分の拡散熱処理時間でpn接合を形成させた太陽電池に比べて、高効率な特性が得られるだけでなく、pn接合プロセスにかかる時間を大幅に短縮することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、太陽電池基板結晶内部の欠陥を増大させることなく、光照射によって発生する少数キャリアを高効率に光電流に寄与させ、太陽電池の変換効率を向上させることができるシリコン太陽電池の製造方法を提供することができる。本発明により、太陽電池の短絡電流密度と開放電圧が増加するため、エネルギー変換効率が従来プロセスを施した太陽電池と比較して1%以上向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のシリコン太陽電池の製造方法により製造された太陽電池、および、従来技術の熱処理時間により製造された太陽電池のI−V曲線を示すグラフである。
【図2】本発明のシリコン太陽電池の製造方法により製造された太陽電池、および、従来技術の熱処理時間により製造された太陽電池の外部量子効率(External quantum efficiency)を示すグラフである。
【図3】本発明のシリコン太陽電池の製造方法により、P拡散の熱処理時間を5秒から40秒まで変えて製造された太陽電池のI−V曲線を示すグラフである。
【図4】本発明のシリコン太陽電池の製造方法により、P拡散の熱処理温度を825℃から860℃まで変えて製造された太陽電池のI−V曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のシリコン太陽電池の製造方法によるpn接合形成プロセスが太陽電池の高効率化に有効であることを実証するために、チョクラルスキー法により作製された市販のSi単結晶基板を用いて太陽電池を試作し、特性評価を行った。
【0019】
抵抗率2.6Ωcm、基板厚さ約400μmのp型Si(100)単結晶基板を、1.8cm角にカットし、太陽電池試作用の基板とした。基板表面のテクスチャー構造は作製せず、鏡面表面のまま用いた。基板表面を、HF:HNO、10%HF溶液および純水で洗浄した後、P(りん)を含むOCD(Ohka Coat Diffusion type P−59230)溶液をスピンコートにより塗布した。pn接合プロセスは、本発明による極短時間の拡散熱処理プロセスを用いた。835℃で10秒間という極短時間の熱処理により、pn接合を表面から極浅い位置に形成した。比較のため、従来技術の熱処理時間(5分、7分、10分、15分)を用いた試料も作製した。熱処理温度は、いずれの基板も835℃とした。熱処理後、全ての基板において、ITOを用いた単層反射防止膜(75−80nm)をスパッタによって成膜し、基板の裏面にAlペースト電極を760℃で約60秒間焼成し、受光面にAgフィンガー電極を作製して太陽電池とした。
【0020】
図1は、試作した各太陽電池のI−V曲線である。縦軸は短絡電流密度(Current density)JSCであり、横軸は開放電圧(Voltage)VOCである。本発明による、拡散熱処理時間を10秒とした高速pn接合プロセスを用いて作製した太陽電池(δ Diff. 10sec)は、従来の技術である5分〜15分の拡散熱処理時間によりpn接合を作製した太陽電池(Conv. 5,7,10,15 min)と比較して、短絡電流密度および開放電圧が増加した結果、変換効率が1%程度向上しており、本発明の有効性が実証された。
【0021】
図2は、各太陽電池の外部量子効率(External quantum efficiency)の測定結果である。本発明により作製した太陽電池(δ Diff. 10sec)は、従来技術により作製した太陽電池(Conv. 5,7,10,15 min)に比べて、600nm〜1200nmの波長領域で量子効率の向上が見られる。これは、従来の技術では拡散熱処理時間が長いため、熱処理中に結晶内部に存在する転位の増殖が起こり、発生したキャリアが転位によって消滅してしまうが、本発明では極短時間の熱処理のため、熱処理中の転位の増殖が起こらないためである。
【0022】
次に、同様の基板を用いて、P拡散のための熱処理時間の最適範囲を調べるために、熱処理時間を5秒から40秒まで変えてpn接合を作製し、太陽電池を作製した。P拡散のための熱処理温度は、いずれも840℃とした。
【0023】
図3は、各太陽電池のI−V曲線である。P拡散のための熱処理時間が5秒から30秒までは、I−V曲線の曲線因子(FF)が0.705以上であり、良好な太陽電池特性が得られているが、熱処理時間が40秒のときは、FFが0.673という低い値となり、特性の向上はみられない。この結果より、P拡散のための拡散熱処理時間としては、5秒から30秒までの範囲が適当であるといえる。
【0024】
さらに、P拡散のための最適な熱処理温度範囲を調べるために、熱処理温度を825℃から860℃まで変えてpn接合を作製し、太陽電池を作製した。熱処理時間は、いずれも10秒とした。
【0025】
図4は、各太陽電池のI−V曲線である。P拡散のための熱処理温度が825℃から850℃までは、I−V曲線のFFが0.726以上であり、良好な太陽電池特性が得られているが、熱処理温度が860℃のときは、FFが0.665という低い値となり、特性の向上はみられない。熱処理温度が高くなると、Pの拡散が速くなり、短時間の熱処理においても表面から深い位置にpn接合が形成されるためである。
【0026】
同様に、P拡散のための熱処理温度を760℃から800℃まで変えて、熱処理時間を10秒として特性を評価したところ、熱処理温度が780℃未満の時には特性の向上が見られなかった。これは、熱処理温度が低い時、短時間の熱処理ではPの拡散が起こりにくく、pn接合の形成自体が困難となるためである。以上の結果より、最適な熱処理温度範囲は、780℃以上850℃以下である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池製造プロセスにおける、pn接合形成のためのP(りん)拡散工程において、拡散熱処理条件を780℃以上850℃以下の温度範囲で、かつ、該温度範囲での拡散熱処理時間を5秒以上30秒以下とすることを特徴とするシリコン太陽電池の製造方法。
【請求項2】
使用するSi基板がp型の半導体Si単結晶基板またはp型のSi多結晶基板であることを特徴とする請求項1記載のシリコン太陽電池の製造方法。
【請求項3】
使用する基板がp型の薄膜Si結晶基板または薄膜アモルファスSi基板であることを特徴とする請求項1記載のシリコン太陽電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−42042(P2013−42042A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179126(P2011−179126)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「太陽エネルギー技術研究開発/太陽光発電システム次世代高性能技術の開発/極限シリコン結晶太陽電池の研究開発(浮遊キャスト成長法による高品質Si多結晶インゴット結晶成長技術)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】