説明

シリコン精製装置及びシリコン精製方法

【課題】真空溶解によるシリコン精製方法において、坩堝上方に配した不純物捕捉装置から不純物凝縮物が落下してシリコン溶湯が汚染するのを防止する。
【課題手段】真空ポンプ1を装備した処理室2内に、シリコン溶湯3を収容する坩堝4と坩堝4を加熱する加熱手段5とを配し、さらにシリコン溶湯の液面から蒸発する不純物蒸気を冷却して凝縮させる不純物凝縮部を有する不純物捕捉装置と、不純物捕捉装置で捕捉した不純物が落下した際に、この不純物を受け止める不純物受止部を有してシリコン溶湯の汚染を防ぐ汚染防止装置とを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物濃度の高い金属シリコン原料を、太陽電池等の製造に用いる高純度シリコンに精製するためのシリコン精製装置、及びこの精製装置を用いたシリコンの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池製造用のシリコン原料は、これまで半導体製造プロセスで発生するスクラップシリコンが用いられてきた。しかしながら、近年の太陽電池需要の急速な伸びにより、スクラップの供給量が追いつかず、今後、太陽電池用のシリコン原料の供給不足が懸念されている。半導体製造プロセスで使用されているシリコン原料は、シーメンス法を用いて製造されているが、シーメンス法で製造したシリコン原料は高価であり、太陽電池製造プロセスに直接供給されるルートではコスト的に合わない。そこで、不純物濃度は高いが安価な金属シリコン原料から、真空溶解や凝固精製といった冶金プロセスを用いて、高純度シリコンを製造するプロセスの開発が進められてきた。
【0003】
冶金的プロセスは、不純物元素とシリコンとの物理的な挙動の差を利用した幾つかの冶金的なプロセスを組み合わせてシリコンを精製するプロセスである。P(リン)を代表とするSi(シリコン)よりも蒸気圧の高い不純物元素を除去するプロセスについては、真空溶解法の適用が検討されてきた。以下、真空溶解法によるP除去と言う表現を用いるが、P除去に伴ってP以外のSiよりも蒸気圧の高い不純物元素も除去される。
【0004】
真空溶解法に用いる装置の基本的な構成としては、真空ポンプを有した減圧可能な真空容器の中に坩堝及びヒーター等の加熱装置が設置される。坩堝中に数十ppm以上の高いPを含有する金属シリコン原料を充填し、減圧下乃至不活性ガス下で加熱溶解し、溶湯を減圧下かつ融点以上の温度で一定時間保持する。Siよりも蒸気圧の高いPが選択的に蒸発するので、Si中のP濃度は時間と共に低下するのである。
【0005】
上記のように、真空溶解法によるP除去処理技術は極めて単純な原理を拠り所としているが、Si融液中からのPの蒸発速度は通常はそれほど大きくなく、かつP除去後の製品に要求されるP濃度は0.1ppmw以下と低い。そのため、大排気量の真空ポンプや電子ビーム加熱等、コストの高い装置構成が検討され、安価なシリコン精製方法が実現されて来なかった。
【0006】
特許文献1は、真空ポンプを具備した減圧容器内に、シリコンを収容する坩堝と、該坩堝を加熱する加熱装置を少なくとも設置してなるシリコン精製装置であって、前記坩堝内のシリコン溶湯表面又は坩堝開口部の一方又は双方を見込める位置に不純物捕捉装置を配してなるシリコン精製装置及びこれを用いたシリコン精製方法に関するものである。すなわち、上記の真空溶解法による不純物除去の基本原理に基づきながら、生産性の向上と設備コストの低減を同時に実現し、工業化に値する真空溶解法によるP除去プロセスを確立したものである。
【0007】
特許文献1は、シリコン溶湯から蒸発したPを、同時に蒸発したSi又はSiOの一方又は双方と共に、不純物捕捉装置に捕捉し、即ち、Pを極めて高濃度に凝縮した不純物凝縮物の形に変え、シリコン溶湯から分離除去するものである。不純物捕捉装置は、水冷された円板形状の金属製部材、あるいは、水冷された円筒形状の金属製部材、あるいは、水冷されたコイル形状の金属製部材、あるいは、それら水冷された部材による輻射冷却で冷却された金属製の円板又は円筒状の板から成る単純安価な装置であり、坩堝上方のシリコン溶湯の表面を見込める位置に配される。これを用いることにより、従来技術より低い真空度の下でも、従来技術より高いP除去速度で、シリコン溶湯中からPを除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−231956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術では、金属シリコン原料を連続処理するためにそのチャージ回数が増えるにしたがい、処理後のシリコン溶湯中のP濃度が安定的に低減できていないという問題があった。そこで、本発明者らがこの原因を究明したところ、不純物捕捉装置に捕捉される不純物凝縮物は、シリコン溶湯より上方の空間に生成するため、シリコン溶湯に落下する可能性があることを見出した。凝縮した不純物が溶融シリコン内に落下した場合、不純物凝縮物にはPが極めて高濃度に凝縮しているため、例え少量の混入であっても、シリコン溶湯中のP濃度を上げてしまうのである。加えて、落下の量はいつも一定ではなく、制御することも難しいため、処理後のシリコン溶湯中のP濃度もチャージによって大きくばらつくこととなり、一定以上の品質を維持するために処理時間を長くせざるを得ず、生産性の低下に繋がっていた。更には、特定のチャージ数以上に連続処理すると、太陽電池用原料に要求されるP濃度以下に処理できないことがわかった。
【0010】
本発明は、真空溶解によるシリコン溶湯からのPを代表とする不純物除去において、坩堝上方に配した不純物捕捉装置からP等が高濃度に濃縮した不純物凝縮物が落下することを防止し、安定的にかつ連続的に不純物除去処理を実行できるシリコン精製装置及び精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)減圧手段により所定の圧力以下に減圧される処理室と、この処理室内に配設されてシリコンを収容する坩堝と、この坩堝内のシリコンを加熱する加熱手段とを備え、減圧下にシリコンを加熱して溶融し、生成したシリコン溶湯中の不純物を蒸発させて分離除去するためのシリコン精製装置において、
シリコン溶湯の液面から蒸発する不純物蒸気を冷却して凝縮させる不純物凝縮部を有する不純物捕捉装置を備えていると共に、不純物捕捉装置で捕捉した不純物が落下した際に、この不純物を受け止める不純物受止部を有してシリコン溶湯の汚染を防ぐ汚染防止装置を備えており、
シリコン精製処理時には、汚染防止装置の不純物受止部が待機位置に位置して、不純物蒸気を不純物捕捉装置の不純物凝縮部で凝縮し、また、シリコン精製処理の中断時及び/又は終了時には、汚染防止装置の不純物受止部が不純物捕捉装置の不純物凝縮部とシリコン溶湯の液面との間の動作位置に位置して、落下する不純物を受け止めるようにすることを特徴とするシリコン精製装置。
(2)不純物受止部が、動作位置において不純物凝縮部の不純物に対するシリコン溶湯の液面からの熱輻射を遮断する熱遮断面を有して、不純物凝縮部の不純物を熱収縮させて落下させるようにすると共に、熱遮断面の反対側には落下した不純物を受け止める受止面を有する上記(1)に記載のシリコン精製装置。
(3)減圧手段を備えた準備室がゲートバルブを介して処理室に連結されており、汚染防止装置が不純物受止部とこの不純物受止部を処理室と準備室との間で移動可能に保持する受止部移動機構とを備えており、シリコン精製処理時には、不純物受止部を準備室内に待機させ、また、シリコン精製処理の中断時及び/又は終了時には、不純物受止部を処理室内の動作位置に位置させる上記(1)又は(2)に記載のシリコン精製装置。
(4)減圧手段を備えると共に溶融シリコンを受湯する容器を備えた受湯室がゲートバルブを介して処理室に連結されており、精製したシリコンを受湯室内の容器で受湯して回収する上記(1)〜(3)のいずれかに記載のシリコン精製装置。
(5)減圧手段を備えると共に原料投入ホッパーを備えた原料供給室がゲートバルブを介して処理室に連結されており、精製したシリコンを回収した後、不純物を含んだシリコン原料を処理室内の坩堝に投入して連続処理を可能にする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のシリコン精製装置。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のシリコン精製装置を用いてシリコン中の不純物を除去するシリコンの精製方法であり、シリコン溶湯の液面から蒸発する不純物を不純物捕捉装置で捕捉する段階と、汚染防止装置を動作させてシリコン溶湯の汚染を防ぐ段階とを含むことを特徴とするシリコンの精製方法。
(7)不純物を捕捉する段階では、処理室内を500Pa以下に減圧すると共に坩堝内のシリコンをその融点以上に加熱し、シリコン溶湯の汚染を防ぐ段階では、処理室内を500Paより高い圧力にする上記(6)に記載のシリコンの精製方法。
(8)シリコン溶湯の汚染を防ぐ段階で不純物受止部に受け止められた不純物を取り除いた後、引き続き不純物を捕捉する段階を繰り返すようにしてシリコンを精製する上記(6)又は(7)に記載のシリコンの精製方法。
(9)シリコン溶湯の汚染を防ぐ段階において、坩堝内に精製したシリコンの回収を行うようにする上記(6)〜(8)のいずれかに記載のシリコンの精製方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、不純物を捕捉する不純物捕捉装置と不純物捕捉装置から落下する不純物を受け止めてシリコン溶湯の汚染を防ぐ汚染防止装置とを備えたシリコン精製装置とすることで、安定的にかつ安価に高純度シリコンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】汚染防止装置を配した本発明のシリコン精製装置の概念図。
【図2a】汚染防止装置を配した本発明のシリコン精製装置によるシリコン精製の手順を示したものであり、(a)原料供給室に原料を挿入した段階の概念図。
【図2b】(a)に引き続き、(b)原料供給室から坩堝に原料を投下している段階の概念図。
【図2c】(b)に引き続き、(c)原料を溶解した段階の概念図。
【図2d】(c)に引き続き、(d)P除去処理中の段階の概念図。
【図2e】(d)に引き続き、(e)P除去処理を終了した後に汚染防止装置を不純物捕捉装置の不純物凝縮部の直下に移動した段階の概念図。
【図2f】(e)に引き続き、(f)不純物捕捉装置の不純物凝縮部から落下した不純物凝縮物が汚染防止装置に捕捉された段階の概念図。
【図2g】(f)に引き続き、(g)汚染防止装置を準備室に移動した段階の概念図。
【図2h】(g)に引き続き、(h)処理済みのシリコン溶湯を溶湯受湯室内に設置した容器に排湯している段階の概念図。
【図2i】(h)に引き続き、(i)次のチャージの処理に入る前の段階の概念図。
【図3a】準備室を持たないシリコン精製装置の概念図であり、(a)P除去処理時の汚染防止装置の状態を示す。
【図3b】(a)に引き続き、(b)P除去処理中断又は終了後の汚染防止装置の状態を示す。
【図4a】ゲートバルブを介して連結された準備室に不純物凝縮部及び不純物受止部を同時に収容できるシリコン精製装置の概念図であり、(a)P除去処理時の不純物凝縮部及び不純物受止部の状態を示す。
【図4b】(a)に引き続き、(b)P除去処理の中断又は終了後の不純物凝縮部及び不純物受止部の状態を示す。
【図4c】(b)に引き続き、(c)不純物凝縮部及び不純物受止部を準備室に収納した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、処理室を形成する減圧容器中にセットした坩堝と一般的な加熱手段とを備えた簡便な装置によるシリコンの精製装置及び精製方法である。但し、本発明における精製とはP等の蒸気圧の高い不純物元素の除去であり、さらにP以外に、例えば、Al、As、Sb、Li、Mg、Zn、Na、Ca、Ni、Ge、Cu、Sn、Ag、In、Mn、Pb、Tl等のSiより蒸気圧の高い元素の除去についても、本発明は適用可能である。以下、不純物を代表してP除去と言うことがあるが、当然のことながらP以外の不純物も本発明におけるシリコン精製の分離除去対象に含まれる。
【0015】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態について、精製装置の構成を図1により説明する。
先ず、減圧手段として真空ポンプ1を備えて所定の圧力以下に減圧可能な処理室2に、シリコン溶湯3を保持するための坩堝4、シリコンを溶解し液相状態に保持するための加熱手段5、及び、シリコン溶湯3を保温するための保温手段6が、セットされている。
【0016】
真空ポンプ1は、処理室2を500Pa以下に減圧できれば良く、例えば油回転ポンプのみでも十分であるが、10Pa以下に減圧できればさらに好ましく、メカニカルブースターポンプ、油拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ等を装備すれば、真空掃引時間やP(リン)除去時間をさらに短縮することも可能である。
【0017】
坩堝4は、シリコンとの反応気体が発生しない高密度黒鉛製が最適である。石英等の酸化物製の坩堝は、高真空下でシリコンと反応してSiO(一酸化ケイ素)気体を発生するので、高真空を維持できない、又は、湧き上がる気体によりシリコン溶湯が突沸するといった問題があり、シリコン精製における真空溶解には適さない。
【0018】
加熱手段5は、シリコンを融点以上に加熱できればどのようなものでも適用できるが、黒鉛製等の発熱体に電圧を印加し、ジュール発熱で坩堝4とシリコン溶湯3を加熱するヒーター加熱方式が最も簡便である。黒鉛坩堝4の外側に誘導コイルを配置し、誘導電流による黒鉛製坩堝の加熱によってシリコン溶湯3を加熱する誘導加熱方式も、低コストの加熱方式である。どちらも、一般に広く利用されている金属溶解のための簡便な加熱方式である。
【0019】
溶湯保温手段6は、溶湯表面を高温に保つために設置されている。溶湯保温手段6は、図1の形状に特定するものではないが、図1では円形の坩堝開口部の一部を覆うリング状の断熱材で構成されている。なお、坩堝や加熱手段の形状や配置等により、溶湯表面が高温に保てるのならば、溶湯保温手段は設置しなくても良い。
【0020】
また、金属シリコン原料を連続処理するために、図1に示したような装置構成例にしてもよい。すなわち、図1では、数十チャージ分のシリコンを連続的に精製処理するための構成として、原料供給室20、及びシリコン溶湯受湯室21が、それぞれゲートバルブ14を介して処理室2に連結されており、また、処理室内の坩堝4を傾動させて精製したシリコンを受湯室21内の容器23に回収する機構(図示外)、が装備されている。
【0021】
P除去処理前のシリコン原料を坩堝4内に投入する機構は、以下に限定するものではないが、例えば図1に示すように、原料供給室20がゲートバルブ14を介して処理室2と連結されており、真空ポンプ(減圧手段)1と図示外の不活性ガス供給ラインを備えることによって、大気暴露することなく、かつ原料供給室20を処理室2と同じ圧力にした後にゲートバルブ14を開放し、しかる後に図示外の原料投入ホッパーを開放し、坩堝4内に向けてシリコン原料を投下する機構が一つの好ましい実施の形態である。
【0022】
P除去処理が完了したシリコン溶湯を装置外に排出する機構は以下に限定するものではないが、例えば図1のように、シリコン溶湯受湯室21がゲートバルブ14を介して処理室2と連結されており、真空ポンプ(減圧手段)1と図示外の不活性ガス供給ラインを備えることによって、大気暴露することなく、かつシリコン溶湯受湯室21を処理室2と同じ圧力にした後にゲートバルブ14を開放し、しかる後に減圧可能な処理室2と黒鉛坩堝4を一体として傾動することにより、黒鉛坩堝4の上部に配されたシリコン溶湯排出口からシリコン溶湯を排出し、さらにゲートを跨ぐ樋のような機構によって、シリコン溶湯をシリコン溶湯受湯室21内に配した容器23まで搬送する機構が一つの好ましい実施の形態である。あるいは、黒鉛坩堝4の底に開閉可能な弁を装備するとともに、処理室2における坩堝の下方にゲートバルブを介してシリコン溶湯受湯室21を連結させて、さらにこのシリコン溶湯受湯室21内に容器23を配してなる機構も好ましい実施の形態の一つである。
【0023】
図1において、坩堝4の直上には不純物捕捉装置の不純物凝集部7が配置され、この不純物凝集部7の直下には汚染防止装置の不純物受止部8が配置されるようになっている。不純物捕捉装置の不純物凝縮部7については、図1では内部に冷却水が通水された円筒形状の金属製部材がこれを形成するが、例えば水冷された円板形状の金属製部材から形成されてもよく、水冷されたコイル形状の金属製部材から形成されてもよく、水冷された部材による輻射冷却で間接的に冷却された金属製の円板あるいは円筒状の板円筒形状でもよい。いずれにおいてもシリコン溶湯の液面から蒸発する不純物蒸気を冷却して不純物凝縮部で不純物を捕捉できるように、シリコン溶湯3の自由表面を見込むことが出来る幾何学的な位置に不純物捕捉装置が配置されていれば良く、溶湯の自由表面から蒸発したPは、同時に蒸発するSi又はSiOの一方又は双方と共に、不純物捕捉装置の不純物凝縮部7の表面に付着する。不純物凝集部7は少なくともその表面は、鉄、ステンレス、銅等の金属、黒鉛やアルミナ等からなるのが適当である。
【0024】
本発明のポイントのひとつのである汚染防止装置は、不純物捕捉装置で捕捉した不純物が落下した際に、この不純物を受け止める不純物受止部を有してシリコン溶湯の汚染を防ぐ働きをするものである。図1においては、真空ポンプ(減圧手段)1を備えた準備室22がゲートバルブ14を介して処理室2に連結されており、板状部材からなる不純物受止部8が処理室2と準備室22との間を自由に移動できるように受止部移動機構(図示外)によって保持されている。すなわち、準備室22は、ゲートバルブ14と真空ポンプ1により処理室2の真空を破ることなく、大気圧と減圧の間を自由に行き来する事ができ、したがって、処理室2の圧力状態に依らず、汚染防止装置の不純物受止部8は、処理室2と準備室22の間を自由に移動でき、P除去処理中には、準備室22に格納され、P除去処理の中断時又はP除去処理の終了時には、不純物捕捉装置における不純物凝縮部7の直下かつ溶湯保温手段6の開口の直上のように、汚染防止装置の不純物受止部が不純物捕捉装置の不純物凝縮部とシリコン溶湯の液面との間の動作位置に配されて、落下する不純物を受け止めるようにする。
【0025】
汚染防止装置における不純物受止部8は、動作位置においてシリコン溶湯からの高温の輻射に晒されるため、その材質としては、耐熱性の高い黒鉛、あるいは、カーボンコンポジット、あるいは、黒鉛製の断熱材、あるいは、それらを組み合わせた構成が好ましいが、Mo等の耐熱金属も好ましく、また、使用する時間を短時間にできる場合には、ステンレスや一般的な鋼板でも良い。不純物受止部8は、動作位置において不純物凝縮部の不純物に対するシリコン溶湯の液面からの熱輻射を遮断する熱遮断面を有して、不純物凝縮部の不純物を熱収縮させて落下させるようにすると共に、熱遮断面の反対側には落下した不純物を受け止める受止面を有するのが好適である。その形状としては、円板でも角板でもよいが、不純物捕捉装置の不純物凝縮部7の下面を覆うなるべく大きな面積を有する板状部材からなり、落下する不純物凝集物を保持でき、輻射熱による熱変形に耐える強度を確保できる厚みであれば良く、具体的な形状として、例えば、円板の周囲に堰を設けた皿状の形状等は、受け止めた不純物凝集物を保持するのに最適な形状である。
【0026】
以下、図2に基づいてシリコン原料のP除去連続処理の手順を記述しながら、汚染防止装置の動作原理について詳細に述べる。
【0027】
先ず、図2(a)は、原料供給室20に原料を入れた段階の図であり、ゲートバルブ14を閉じて、原料供給室20に備え付けられた開閉扉等を開放し、原料供給室20の中にP除去処理前のシリコン原料を入れる。図2(b)は、原料供給室20から坩堝に原料を投下している段階の図であり、原料供給室20が真空ポンプ1と図示外の不活性ガス供給ラインを備えることによって、原料供給室20を処理室2と同じ圧力にした後にゲートバルブ14を開放し、しかる後に図示外の原料投入ホッパー等を開放して、坩堝4内に向けてP除去処理前のシリコン原料を投下する。図2(c)は、原料を溶解した段階の図であり、図2(b)で投下した固体状のシリコン原料を加熱して溶解する。
【0028】
図2(d)は、P除去処理中の段階の図であり、シリコン溶湯3を高温に維持しつつ、処理室2内を真空ポンプ1によって高い真空度に維持することで、Pは不純物捕捉装置の不純物凝縮部7の表面に蒸発・固化するSiまたはSiOの膜中に凝縮され、不純物凝縮部7の表面には不純物凝縮物が付着する。この際、汚染防止装置の不純物受止部8は準備室22内で待機している。図2(e)は、P除去処理を中断又は終了したときに汚染防止装置を動作させた様子を示し、不純物受止部8を不純物凝縮部7の直下に移動した段階の図であり、移動した直後の状態を示している。
【0029】
図2(f)は、不純物凝縮部7に凝縮していた不純物が落下して汚染防止装置の不純物受止部8に捕捉された段階の図であり、不純物受止部8が動作位置において坩堝4からの熱輻射を遮ることにより、不純物凝縮部7に凝縮していた不純物の温度が急激に低下し、この不純物は不純物凝縮部7との熱膨張差により、剥離して不純物受止部8の上で受け止められて、坩堝4内に不純物凝縮物が落下することが防止される。
【0030】
図2(g)は、汚染防止装置の不純物受止部8が準備室22に移動した段階の図であり、ゲートバルブ14を閉じた後、準備室22に備え付けられた開閉扉(図示外)を開放して、不純物凝縮物を取り除き、Pを装置外に排除する。図2(h)は、処理済みのシリコン溶湯を溶湯受湯室21内に設置した容器23に排湯している段階の図であり、シリコン溶湯受湯室21を処理室2と同じ圧力にした後にゲートバルブ14を開放し、しかる後に処理室2と黒鉛坩堝4を一体として傾動することにより、黒鉛坩堝4の上部に配されたシリコン溶湯排出口からシリコン溶湯を排出し、さらにゲートを跨ぐ樋のような機構によって、シリコン溶湯をシリコン溶湯受湯室21内に配した容器23まで搬送する。図2(i)は、P除去処理済みのシリコンを排湯し、次のチャージの処理に入る前の段階の図である。
【0031】
上記のように、汚染防止装置の機能は大きく分けると3つである。
(1)不純物捕捉装置における不純物凝縮部7の表面には、Pが高濃度に凝縮したSi又はSiOの一方又は双方の膜である不純物凝縮物が付着しているが、不純物凝縮物は一定の確率で剥がれて落下し、蒸発除去したPが再びシリコン溶湯中に戻り、溶湯のP濃度は上昇することになる。汚染防止装置における不純物受止部8は、不純物凝縮部7の表面から落下する不純物凝縮物を受け止め、不純物凝縮物がシリコン溶湯に落下することを防止する。
【0032】
(2)P除去処理中には、溶湯からの熱輻射により、不純物凝縮物は常に高温に維持されているが、汚染防止装置の不純物受止部8を不純物捕捉装置における不純物凝縮部7の動作位置に直下に移動させると、不純物受止部8が溶湯から不純物凝縮物への熱輻射を遮り、不純物凝縮物の温度が低下し、熱収縮により不純物凝縮物が落下する。不純物凝縮物の厚みが厚くなるほど、剥がれ易くなり、1回に剥がれて落下する不純物凝縮物の量も増加してP汚染も大きくなる。そのため、不純物捕捉装置の不純物凝縮部7から不純物凝縮物を毎チャージ積極的に除去することが、連続的にP除去処理を実施する上で重要であることが分った。
【0033】
(3)さらに、汚染防止装置は、不純物凝縮物を捕捉・保持する機能がある。Pが高濃度に凝縮した不純物凝縮物が、処理室2の中の不特定の場所に堆積することにより、P汚染を制御できなくなる。不純物凝縮物を特定の場所に捕捉・保持することによって、P汚染を防止することが出来る。特に図1の様に、ゲートを備えた準備室に汚染防止装置の不純物受止部8を取り出せるようにしておき、準備室に取り出したときに不純物凝縮物を除去・清掃し、Pを系外に完全に除去すれば、汚染の可能性を取り除くことになる。
【0034】
本発明の主要な事項の一つは圧力条件である。
Pを除去する際(図2(d))は、処理室内を500Pa以下、好ましくは10Pa以下、さらに好ましくは1Paに減圧するのが良い。圧力は低いほどPの除去速度は上がるが、0.001Pa程度でP除去速度は飽和し、極端に圧力を低くするためには大型の真空ポンプが必要であり、配管設計の自由度も阻害するので、本発明の目的である安価にP除去処理を施すことにおいては、圧力の下限は0.001Paとして良い。
【0035】
一方で、圧力を下げるほど、Siの蒸発速度は上がる。従来はなるべく低い圧力を実現するために、減圧状態をずっと維持するような手順をとっていた。前記のような連続チャージ処理を実現する上では、不純物を特定の場所に濃縮することが非常に重要になり、前記のように不純物捕捉装置の不純物凝縮部に濃縮して、汚染防止装置の不純物受止部に捕捉・保持して、系外に排出させるという手順が最も効率的であるということが分かった。そして、不純物凝縮部以外の不特定な場所にはなるべくPを濃縮させないことが次のポイントになった。そのためには、Siが付着する場所にPが濃縮するのだから、不特定の場所が露わになっている図2(d)の段階以外のときには、圧力を高くしてSiの蒸発を抑制するのである。その際の圧力としては、500Paより高い圧力が好ましいが、さらに好ましくは2000Pa以上の圧力であるが、必要以上に高い圧力はP除去処理に好適な10Pa以下の圧力からの復圧に時間や多量の不活性ガスを必要とし、生産性やコストの上で不利であるため、10000Pa以下の圧力で良い。
【0036】
以上のような、汚染防止装置の導入とその使用手順および圧力制御によって、除去したPが再度Siを汚染することを効率よく防止して、連続的に安定的にSi原料からのP除去を可能にすることが出来たのである。
【0037】
ところで、汚染防止装置は図3に示すような構造でも限定的にではあるが、機能を発揮する。図3の汚染防止装置における不純物受止部8は、回転軸に取り付けられた円板であり、回転軸を回転することにより横方向に移動出来る構造となっている。汚染防止装置の不純物受止部8は、P除去処理中は、図3(a)で図示するように、溶湯保温手段6の開口部を避けて覆わないように位置され(待機位置)、P除去処理の中断時又は終了時には、図3(b)で図示するように、回転軸を回転させて移動して、溶湯保温手段6の開口部を覆うように位置される(動作位置)。この構成では、不純物凝縮物を最終的に処理室2の外に排出する図示外の構成を付け加えるか、もしくは、汚染防止装置の不純物受止部8における不純物凝縮物の捕捉・保持の容量を超えない範囲でP処理を継続すれば良い。尚、図3では、原料投入ホッパー(原料供給室20など)、及びシリコン溶湯容器(シリコン溶湯受湯室21など)は図示外の構成として省略されているが、連続処理の手順や圧力変更の手順と合わせて、図1及び2に準ずるものとする。
【0038】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態について、精製装置の構成を図4により説明する。真空ポンプ1、シリコン溶湯3、坩堝4、加熱手段5、及び溶湯保温手段6は、第1の実施の形態での構成要件と同様であるが、処理室2、準備室22、及びゲートバルブ14の位置関係は、特に限定するものではないが、上下の接続に変更されており、それに関連して汚染防止装置の不純物受止部を形成する円板9、及び、不純物捕捉装置の不純物凝縮部を形成する不純物凝縮カバー10には、それぞれ昇降装置(移動機構)11及び11’が装備されており、また、準備室22には扉15が装備されている。尚、図4では、原料投入ホッパー(原料供給室20など)、及びシリコン溶湯容器(シリコン溶湯受湯室21など)は図示外の構成として省略されているが、連続処理の手順や圧力変更の手順は第1の実施の形態に準ずるものとする。
【0039】
図4の不純物捕捉装置では、特に本構成に限定するものではないが、不純物凝縮物が凝縮する表面を有する部材と冷却水等によって冷却された部材とに分割された構成となっており、図4では、不純物凝縮部を形成する円筒10とその外側に配された円筒形状の水冷ジャケット10’とから構成され(以降、前者を「不純物凝縮カバー」と呼ぶ。)、不純物凝縮カバー10は水冷ジャケットからの輻射伝熱によって冷却され、P除去効果をより大きくするように工夫されている。不純物凝縮カバー10を水冷ジャケットと独立の構造にすることにより、不純物凝縮物を清掃除去する際、不純物凝縮カバー10のみを移動したり取り外したりすれば良く、通水された部材を移動したり取り外したりする機構が不要となり、装置が簡素になる。
【0040】
図4のような不純物捕捉装置に組み合わせる汚染防止装置としては、図4に図示した汚染防止装置では、不純物受止部を形成する円板9が不純物凝縮カバー10の下端内側に付設された棚状に張り出したリング状の部材に当接し、9および10でいわば底付き円筒容器を形成して不純物がシリコン溶湯3に落下するのを確実に防ぐ。
【0041】
第2の実施の形態において、不純物捕捉装置の不純物凝縮部9は準備室に格納出来れば、特に形状や動作を限定するものではない。
【0042】
不純物凝縮カバー10と円板9の働きを図4(a)、(b)、(c)によって説明する。先ず、図4(a)は、P除去処理中の装置の状態であり、不純物凝縮カバー10が処理室2内かつ保温手段6の開口部の上にある。円板9は、不純物凝縮カバー10の上端に位置しており、不純物凝縮物は不純物凝縮カバー10の内面に付着する。
【0043】
P除去処理を終了ないし一次中断する場合には、まず、図4(b)にように、円板9だけを不純物凝縮カバー10の下端まで移動する。円板9の外径は、前記の不純物凝縮カバー10の下端内側に付設された棚状に張り出したリング状の部材の内径よりも大きく作られており、円板9は前記のリングの開口を閉じるため、不純物凝縮カバー10の内面に付着した不純物凝縮物が剥離して落下したとしても、円板9と前記リングの上に受け止められ、シリコン溶湯3の中に落下することは無い。
【0044】
その後、不純物凝縮カバー10と円板9の相対的な位置関係を図4(b)の相対的な位置関係と同じに保ったまま、それぞれ昇降装置(移動機構)11及び11’を使って上昇させ、準備室22に格納した後に、図4(c)のように、扉15を開放し、不純物凝縮カバー10と円板9を清掃ないし交換して不純物凝縮物を取り除けば、Pは完全に装置外に分離され、再度シリコン溶湯3を汚染することがない上に、清掃ないし交換された不純物凝縮カバー10と円板9を用いて、引き続きP除去処理を実施できる。
【0045】
本発明の第2の実施形態では、不純物捕捉装置と汚染防止装置を同時に組み合わせて使用し、それらの機能保全を簡素な装置構成により実現するものであって、装置コストが安価になり、装置信頼性も高く、したがって、安価にシリコン精製を実施できる。
【0046】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態は、上記第1又は第2のいずれかの実施の形態の装置を用いてシリコン中の不純物を除去するシリコンの精製方法に関し、シリコン溶湯の液面から蒸発する不純物を不純物捕捉装置で捕捉する段階と、汚染防止装置を動作させてシリコン溶湯の汚染を防ぐ段階とを含む。不純物を捕捉する段階では、真空容器からなる処理室内を500Pa以下、好ましくは10Pa以下、さらに好ましくは1Paに減圧し、シリコン原料を融点以上に加熱して、溶解保持し、シリコン溶湯からP及びSi乃至SiOを蒸発させ、それらを不純物凝縮物として不純物捕捉装置に捕捉することで、シリコン溶湯からPを選択的に除去する。一方、シリコン溶湯の汚染を防ぐ段階では、処理室内を500Paより高い圧力、好ましくは2000Pa以上の圧力にしてPやSi等の蒸発を抑制しながら、不純物凝縮物がシリコン溶湯に落下することを防止しつつ、最終的にP濃度の低い精製されたシリコンを得る。
【0047】
不純物凝縮物がシリコン溶湯に落下すると、一端P濃度が低下したシリコン溶湯中のP濃度が再び上昇してしまう。しかも落下する不純物濃縮物の量は制御することが難しいため、結果的にP除去不足の製品となったり、処理後のP濃度が安定しないために常に不必要に長時間の処理を施す必要が生じる。本方法により、不純物凝縮物を除去することが可能であり、不純物凝縮物が坩堝内に落下することをほぼ完璧に防止できるため、Pが低濃度に精製されたシリコンが安定して得られ、精製処理にかかる時間も短時間に設定でき、結果的に生産性も向上する。
【0048】
本発明のシリコン精製方法では、坩堝内に収容したシリコンの精製に際し、シリコン精製処理を中断してシリコン溶湯の汚染を防ぐ段階を入れるようにして、不純物を捕捉する段階を複数回に分けて行っても良い。すなわち、シリコン溶湯の汚染を防ぐ段階で不純物受止部に受け止められた不純物を取り除いた後、引き続き不純物を捕捉する段階を行うようにすれば、P等の不純物を高濃度で含有するシリコン原料であっても、不純物捕捉装置で捕捉した不純物によるシリコン溶湯の汚染を防ぎながら、最終的に不純物濃度の低い精製されたシリコンを得ることができる。また、坩堝内のシリコンの精製処理が終了した後は、汚染防止装置の不純物受止部をシリコン溶湯の液面と不純物捕捉装置の不純物凝縮部との間の動作位置に位置させてシリコン溶湯の汚染を防ぐ段階にして、坩堝内のシリコンを回収するようにするのが良い。これにより不純物の落下による汚染を確実に防ぎながら、精製したシリコンを回収することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例等に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の内容に制限されない。
【0050】
(実施例1)
使用した装置の基本構造は図1に準じている。処理室2を形成する減圧可能な容器は水冷ジャケット構造であって、油回転ポンプとメカニカルブースターポンプの2段の真空ポンプを備えている。減圧容器内には、外径1000mm、内径900mm、深さ(内寸)500mmの高純度黒鉛製の坩堝、この坩堝の側面と底面を覆う位置に高純度黒鉛製ヒーター、及び、それらの外側にカーボン製断熱材が設置されている。黒鉛製のヒーターは最大で300kWの電力を投入できる。
【0051】
坩堝の加熱を継続したまま、数十チャージのP除去処理を連続的に実施するための以下の2つの機構も図1に準ずる。1つ目は、原料の供給機構であり、減圧容器内の雰囲気を大気解放することなく、500kgのシリコン原料を坩堝の開口部より挿入する機構である。2つ目は、P除去処理が完了したシリコン溶湯を排出する機構であり、本実施例では、減圧容器が黒鉛坩堝と共に傾動する機構を装備すると共に、黒鉛坩堝上部にシリコン溶湯の排出口、溶湯受け容器を中に配してなる減圧可能なシリコン溶湯受湯室、が装備され、前記坩堝を配した減圧容器と前記溶湯受け容器を配したシリコン溶湯受湯室をゲートバルブを介して連通させることによって、P除去処理済みのシリコン溶湯を大気に暴露させることなく、坩堝から溶湯受け容器に移送し、しかる後に処理室と受湯室を切り離して、処理済みのシリコンを取り出すことが出来るようになっている。
【0052】
汚染防止装置も図1に準じており、処理室と準備室の間を移動可能にする移動機構に保持された平らな板からなる不純物受止部を有し、準備室は、ゲートバルブと真空ポンプにより処理室の真空を破ることなく、大気圧と減圧の間を自由に行き来する事ができる。したがって、汚染防止装置の不純物受止部は処理室の圧力状態に依らず処理室と準備室の間を自由に移動でき、P除去処理中には、準備室に格納され、P除去処理の中断時又は終了時には、不純物捕捉装置における不純物凝縮部の直下かつ溶湯保温手段の開口の直上に配される。本実施例1では、毎チャージの準備室への格納後に準備室を開放し、汚染防止装置における不純物受止部の上に捕捉された不純物凝縮物を取り除いた。
【0053】
汚染防止装置の不純物受止部を準備室に格納した状態を常に維持すれば、汚染防止装置を使用しないP除去処理も可能である。すなわち、本実施例1では、汚染防止装置を毎チャージ使用して、連続15チャージのP除去処理を実施した。一方、比較例でも連続15チャージのP除去処理を実施したが、汚染防止装置は全く使用しなかった。
【0054】
P除去処理の前準備として、まず、黒鉛坩堝を配した減圧容器内をアルゴンガスで置換した後に、3000Paまで減圧し、3000Paのアルゴンガス雰囲気を維持した状態で、坩堝を昇温し、1600℃に保持した。本実施例1では以下に述べるP除去処理のサイクルを15チャージ連続して実施した。1サイクルの処理は、先ず、3000Paのアルゴンガス雰囲気を維持した状態で、シリコン原料500kgを坩堝に挿入して溶解し、次に、P除去処理として真空ポンプで容器内を10Pa以下に減圧して12時間保持し、さらに、容器内を3000Paのアルゴンガス雰囲気に戻した後、汚染防止装置の不純物受止部を不純物捕捉装置における不純物凝縮部の直下に移動させ、さらに処理が終了したシリコン溶湯を坩堝から全量排出して回収した後、汚染防止装置の不純物受止部を待機位置(準備室)に戻した。15チャージ終了の後、3000Paのアルゴンガス雰囲気を維持した状態で坩堝を降温し、連続処理を終了した。
【0055】
シリコン原料は、初期P濃度が10ppmwのものを用いた。処理後に排出し固化させたシリコンの一部を採取し、ICP発光分析法を用いてP濃度を測定することによって、P除去効率を評価した。尚、ICP発光分析法の分析下限値は0.02ppmwであった。
【0056】
表1に、比較例および実施例1についての1〜15チャージ目の処理後のP濃度を示す。実施例1では、1〜15の全チャージを通し、太陽電池原料として使用可能な0.1ppmw以下の処理済みシリコンを回収することが出来た。一方の比較例では、0.1ppmw以下となったチャージもあるが、0.1ppmwを越えたチャージもあり、安定的なP除去処理が出来ていない結果となっており、不純物凝縮物の落下によるP濃度上昇の影響が出ている。
【0057】
(実施例2)
使用した装置の基本構造は図3に準じている。汚染防止装置の構成が実施例1と異なる以外は、原料供給機構、溶湯排出機構を含め、実施例1と同じである。また、連続処理の手順については、以下に述べる汚染防止装置の使用手順を除き、実施例1と同じ手順で実施した。
【0058】
汚染防止装置は図3の様に、回転軸に取り付けられた円盤状の板からなる不純物受止部を有しており、回転軸を回転することにより不純物受止部をシリコン溶湯の直上の動作位置とシリコン溶湯から離れた待機位置との間で移動出来る構造となっている。本例では、円盤状の板、及びこの円盤状の板を回転軸に取り付ける腕の部材は黒鉛製である。不純物受止部を形成する円盤状の板は、P除去処理中は、図3(a)で図示するように、溶湯保温手段の開口部を避けて覆わないように位置され、P除去処理の中断又は終了後は、図3(b)で図示するように、回転軸を回転させて移動して、溶湯保温手段の開口部を覆うように位置される。本実施例2の装置では、汚染防止装置における不純物受止部の上に捕捉された不純物凝縮物を取り除くことは出来ないので、連続15チャージの間に落下した不純物凝縮物は、不純物受止部の上に蓄積してゆく。尚、本実施例2でも不純物捕捉装置の不純物凝縮部自体は清掃が出来ない構造となっているが、実施例1と同様、汚染防止装置が不純物凝縮物を受け止めることで、不完全ではあるが実質的に不純物捕捉装置から不純物凝縮物を除去する機能を担保している。
【0059】
表1に、実施例2についての1〜15チャージ目の処理後のP濃度を示す。実施例2では、1〜15の全チャージを通し、太陽電池原料として使用可能な0.1ppmw以下の処理済みシリコンを回収することが出来た。一方で、実施例1と比較すると、8チャージ目以降でP濃度が0.1ppmwに近いチャージもあり、P濃度は不安定になっている。本実施例2では、汚染防止装置の不純物受止部に堆積した不純物凝縮物の一部がこぼれて、シリコン溶湯を汚染していると推測される。
【0060】
(実施例3)
使用した装置の基本構造は図4に準じており、不純物捕捉装置の不純物凝縮部と汚染防止装置の不純物受止部とを同時に準備室に取り出せる機構を装備している点で実施例1、2と異なる以外は、図示外の原料供給機構、溶湯排出機構を含め、実施例1、2と同じである。また、連続処理の手順については、以下に述べる汚染防止装置の使用手順を除き、比較例および実施例1、2と同じ手順で実施した。
【0061】
不純物捕捉装置は、円筒型ステンレス製の不純物凝縮カバーの内側に不純物凝縮物が付着する構造であり、不純物凝縮部を形成する不純物凝縮カバーは、その外側に設置された円筒型の水冷ジャケットによる輻射冷却により冷却されているが、水冷ジャケット自体は処理室内に据え置き設置されて移動しない一方で、不純物凝縮カバーは高さ方向に移動できる移動機構(昇降装置)を装備しており、ゲートバルブを閉じた位置から坩堝上面に設置されたシリコン溶湯保温手段の上面に到達できる位置までを移動できる。
【0062】
汚染防止装置も、図4に準じており、ステンレス製の円板からなる不純物受止部を有して、かつ、不純物凝縮カバーと独立に上下方向に移動できる機構(昇降装置)を備えており、不純物凝縮カバーの下端位置を下限として移動できる。ここで、不純物凝縮カバーの下端内側には棚状に張り出したリング状の部材が設置されており、かつ、リングの内径は前記のステンレス製の円板の外径より小さく作られており、円板が下降もしくは不純物凝縮カバーが上昇し、両者が干渉する高さになった場合には、不純物凝縮カバー下端の開口が閉じられて、不純物凝縮カバーからの不純物凝縮物の落下が完全に防止される。
【0063】
本実施例3では、不純物捕捉装置の不純物凝縮部自体も清掃可能な構造となっており、P除去処理の中断又は終了後(図4(c))で準備室に格納された後、不純物凝縮部及び不純物受止部に付着ないし堆積した不純物凝縮物は毎チャージほぼ完全除去され、処理室内に蓄積してシリコン溶湯を汚染することがない。
【0064】
表1に、実施例3についての1〜15チャージ目の処理後のP濃度を示すが、1〜15の全チャージを通し、太陽電池原料として使用可能な0.1ppmw以下の処理済みシリコンを回収することが出来た。また、全チャージ安定的に0.02ppmw以下の濃度が得られ、実施例1、2と比較してさらに安定的にP除去処理が可能となり、処理時間を短縮して生産性を向上させることも可能である。
【0065】
【表1】

【符号の説明】
【0066】
1及び1’・・・真空ポンプ
2・・・処理室
3・・・シリコン溶湯
4・・・坩堝
5・・・加熱手段
6・・・溶湯保温手段
7・・・不純物凝縮部
8・・・不純物受止部
9・・・円板
10・・・不純物凝縮カバー
10’・・・水冷ジャケット
11及び11’・・・昇降装置
12・・・処理室
14・・・ゲートバルブ
15・・・扉
20・・・原料供給室
21・・・シリコン溶湯受湯室
22・・・準備室
23・・・容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧手段により所定の圧力以下に減圧される処理室と、この処理室内に配設されてシリコンを収容する坩堝と、この坩堝内のシリコンを加熱する加熱手段とを備え、減圧下にシリコンを加熱して溶融し、生成したシリコン溶湯中の不純物を蒸発させて分離除去するためのシリコン精製装置において、
シリコン溶湯の液面から蒸発する不純物蒸気を冷却して凝縮させる不純物凝縮部を有する不純物捕捉装置を備えていると共に、不純物捕捉装置で捕捉した不純物が落下した際に、この不純物を受け止める不純物受止部を有してシリコン溶湯の汚染を防ぐ汚染防止装置を備えており、
シリコン精製処理時には、汚染防止装置の不純物受止部が待機位置に位置して、不純物蒸気を不純物捕捉装置の不純物凝縮部で凝縮し、また、シリコン精製処理の中断時及び/又は終了時には、汚染防止装置の不純物受止部が不純物捕捉装置の不純物凝縮部とシリコン溶湯の液面との間の動作位置に位置して、落下する不純物を受け止めるようにすることを特徴とするシリコン精製装置。
【請求項2】
不純物受止部が、動作位置において不純物凝縮部の不純物に対するシリコン溶湯の液面からの熱輻射を遮断する熱遮断面を有して、不純物凝縮部の不純物を熱収縮させて落下させるようにすると共に、熱遮断面の反対側には落下した不純物を受け止める受止面を有する請求項1に記載のシリコン精製装置。
【請求項3】
減圧手段を備えた準備室がゲートバルブを介して処理室に連結されており、汚染防止装置が不純物受止部とこの不純物受止部を処理室と準備室との間で移動可能に保持する受止部移動機構とを備えており、シリコン精製処理時には、不純物受止部を準備室内に待機させ、また、シリコン精製処理の中断時及び/又は終了時には、不純物受止部を処理室内の動作位置に位置させる請求項1又は2に記載のシリコン精製装置。
【請求項4】
減圧手段を備えると共に溶融シリコンを受湯する容器を備えた受湯室がゲートバルブを介して処理室に連結されており、精製したシリコンを受湯室内の容器で受湯して回収する請求項1〜3のいずれかに記載のシリコン精製装置。
【請求項5】
減圧手段を備えると共に原料投入ホッパーを備えた原料供給室がゲートバルブを介して処理室に連結されており、精製したシリコンを回収した後、不純物を含んだシリコン原料を処理室内の坩堝に投入して連続処理を可能にする請求項1〜4のいずれかに記載のシリコン精製装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシリコン精製装置を用いてシリコン中の不純物を除去するシリコンの精製方法であり、シリコン溶湯の液面から蒸発する不純物を不純物捕捉装置で捕捉する段階と、汚染防止装置を動作させてシリコン溶湯の汚染を防ぐ段階とを含むことを特徴とするシリコンの精製方法。
【請求項7】
不純物を捕捉する段階では、処理室内を500Pa以下に減圧すると共に坩堝内のシリコンをその融点以上に加熱し、シリコン溶湯の汚染を防ぐ段階では、処理室内を500Paより高い圧力にする請求項6に記載のシリコンの精製方法。
【請求項8】
シリコン溶湯の汚染を防ぐ段階で不純物受止部に受け止められた不純物を取り除いた後、引き続き不純物を捕捉する段階を繰り返すようにしてシリコンを精製する請求項6又は7に記載のシリコンの精製方法。
【請求項9】
シリコン溶湯の汚染を防ぐ段階において、坩堝内に精製したシリコンの回収を行うようにする請求項6〜8のいずれかに記載のシリコンの精製方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【図2f】
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【図2g】
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【図2h】
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【図2i】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【公開番号】特開2012−76944(P2012−76944A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221708(P2010−221708)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】