説明

シリコン薄膜太陽電池用被覆ステンレス箔及びこれを用いたシリコン薄膜太陽電池

【課題】本発明は、薄膜太陽電池の光路長を稼ぐための凹凸のある裏面反射層が作製可能な、表面凹凸構造を有するシリカ系無機ポリマー膜で被覆されたステンレス箔及びシリコン薄膜太陽電池を提供する。
【解決手段】ステンレス箔表面に、シロキサン結合を主体とする無機ポリマーから成る下地膜と、その上に、シロキサン結合を主体とする無機ポリマー中に、粒径50nm以上5000nm以下の球状フィラーを膜中に15質量%以上90質量%以下含む凹凸膜を有することを特徴とする被覆ステンレス箔、及び、該ステンレス箔を用いてなるシリコン薄膜太陽電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ系無機ポリマー膜で被覆したステンレス箔及びシリコン薄膜太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電は、新しいエネルギー源の1つとして注目されている。太陽電池としては、単結晶Si又は多結晶Siのバルク型太陽電池が主流であるが、軽量化・大面積化・量産による低価格化等、薄膜太陽電池の方が有利と考えられる点も多い。
【0003】
薄膜太陽電池の基板としては、ガラスが用いられているが、軽量化・フレキシビリティの観点から、樹脂基板も検討されている。しかしながら、樹脂は耐熱性が低いため、薄膜太陽電池の製造プロセス温度が制限される。このため、表面に絶縁膜をつけたステンレス箔基板が提案されている(特許文献1)。太陽電池基板としては、複数のセルを配列して一定の性能が得られるように、少なくともMΩ・cm2オーダーの絶縁性が求められるので、ステンレス箔上の膜にもこのレベルの絶縁性が求められる。金属箔の上に、絶縁性の高いポリイミド塗料等の有機樹脂塗料を塗布したものを使用する例がある(特許文献2)が、有機樹脂は、太陽電池セル形成時の200〜350℃の熱処理で劣化するものが多い。
【0004】
薄膜太陽電池の中でも、高い変換効率が期待される結晶系Si薄膜太陽電池が、最近、注目されている。従来、この材料は、可視域での吸収係数が小さいので、薄膜材料には適さないと考えられていたが、結晶系Siにおいても、長い光路長を得られるよう、結晶系Si層の裏面及び表面に光を反射させて、中に閉じ込めることにより、高い変換効率を実現することが判ってきた。例えば、ガラス基板の上に、凹凸テクスチャ構造を有する裏面反射層としてSnO2を設け、その上にn型Si層、活性層となるi層、p型Si層、ITO膜を順次積層し、セルを作製している。裏面反射層は、電極も兼ねた構造になっている(非特許文献1)。また、アモルファスSiにおいても、変換効率を上げるために、アモルファスSi層の表面、裏面のそれぞれに凹凸テクスチャ構造を持たせて、光路長を稼いだ場合についてシミュレーションした結果、凹凸テクスチャ構造の有効性が示されている(非特許文献2)。
【0005】
現在のところ、凹凸テクスチャ構造は、ガラス基板上に透明電極としてSnO2又はZnOをCVD又はスパッタリングで作製後、酸によるウエットエッチングで得ているものが主流である。しかしながら、軽量化・フレキシビリティ・耐熱性等の観点から金属箔基板の採用を考えた場合、SnO2やZnOの酸によるウエットエッチングプロセスでは、金属自体の腐食が問題になるため、凹凸テクスチャ構造を作ることができなかった。裏面電極として、Al等の金属を凹凸テクスチャ構造を有する形に成膜することも考えられるが、現実には、光閉じ込め効果が発現するようなサブミクロンレベルの凹凸を有する電極膜をAl等で成膜する技術は確立していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-247078号公報
【特許文献2】特開2001-127323号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K. Yamamoto, et. Al., IEEE Trans. Elect. Devices, vol.46, p.2041 (1999)
【非特許文献2】太陽光発電技術研究組合監修、薄膜太陽電池の基礎と応用、p82〜91、オーム社 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、1MΩ・cm2オーダー以上の絶縁性、熱安定性、及び、薄膜太陽電池として凹凸テクスチャ構造を有する裏面反射層が作製可能な、シリカ系無機ポリマー膜で被覆されたステンレス箔及びシリコン薄膜太陽電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、上記目的を達成するために以下のような手段を用いる。
(1) ステンレス箔表面に、Si-R結合(Rは有機基又は水素)を含むシロキサン結合を主体とする無機ポリマーから成る下地膜と、その上に、シロキサン結合を主体とする無機ポリマー中に、粒径50nm以上5000nm以下の球状フィラーを膜中に15質量%以上90質量%以下含む凹凸膜を有することを特徴とする被覆ステンレス箔。
(2) ステンレス箔表面に、Si-R結合(Rは有機基又は水素)を含むシロキサン結合を主体とする無機ポリマーから成る下地膜と、その上に、シロキサン結合を主体とする無機ポリマー中に、粒径50nm以上1000nm以下の球状フィラーを膜中に15質量%以上50質量%以下含む凹凸膜を有することを特徴とする被覆ステンレス箔。
(3) 前記球状フィラーによるオーバーハング領域が全基板面積の3%以下である凹凸膜を有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の被覆ステンレス箔。
(4) 前記下地膜の膜厚が4μm以上200μm以下である(1)又は(2)に記載の被覆ステンレス箔。
(5) 前記下地膜の膜厚が4μm以上20μm以下である(1)又は(2)に記載の被覆ステンレス箔。
(6) 前記凹凸膜の膜厚が0.2μm以上3μm以下である(1)、(2)又は(3)に記載の被覆ステンレス箔。
(7) 前記球状フィラーによる凹凸の凸部高さが30nm以上3000nm以下のものが全凸部の70%以上である(1)、(2)、(3)又は(6)に記載の被覆ステンレス箔。
(8) 前記球状フィラーによる凹凸の凸部高さが30nm以上1000nm以下のものが全凸部の70%以上である(1)、(2)、(3)又は(6)に記載の被覆ステンレス箔。
(9) 前記球状フィラーによる凹凸の凸部径が30nm以上3000nm以下のものが全凸部の70%以上である(1)、(2)、(3)又は(6)に記載の被覆ステンレス箔。
(10) 前記球状フィラーによる凹凸の凸部径が30nm以上1000nm以下のものが全凸部の70%以上である(1)、(2)、(3)又は(6)に記載の被覆ステンレス箔。
(11) 前記球状フィラーによる凹凸の凸部面積が全基板面積の10%以上90%以下である (1)、(2)、(3)又は(6)に記載の被覆ステンレス箔。
(12) 前記下地膜を構成する無機ポリマーのシロキサン骨格を修飾する有機基がメチル基又はフェニル基の一方又は両方であり、かつ、前記有機基のSiに対するモル比が1以上2.2以下である(1)、(2)、(4)又は(5)に記載の被覆ステンレス箔。
(13) 前記球状フィラーがコロイダルシリカである(1)〜(3)、(7)〜(11)のいずれかに記載の被覆ステンレス箔。
(14) 前記凹凸膜のマトリックス部分が、全Siに対してエポキシ基を0.2以上0.7以下含むシリカ系無機ポリマーである(1)、(2)、(3)又は(6)に記載の被覆ステンレス箔。
(15) (1)〜(14)のいずれかに記載の被覆ステンレス箔を基板に用いてなることを特徴とするシリコン薄膜太陽電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面に凹凸構造を有するシロキサン結合を主体とする無機ポリマー膜で被覆されたステンレス箔が得られ、太陽電池をはじめ各種電気・電子部品用に軽量で可とう性を備えた絶縁基板を提供することができる。本発明のステンレス箔は、特に、シリコン薄膜太陽電池基板として用いた場合、凹凸構造を有する裏面反射層が得られるので光路長を稼ぐことができる。したがって、本発明のステンレス箔により、シリコン薄膜太陽電池の電流密度が上がり、太陽電池としての変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の球状フィラーによる凹凸表面の例。
【図2】球状フィラーによるオーバーハング領域を説明する図。
【図3】本発明による球状フィラーによる凸部形成例を示す電子顕微鏡写真。
【図4】凸部高さを示す図。
【図5】粒子が凝集しているとき、密に充填されているときの凸部高さを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
無機ポリマーは、M(金属又は半金属)-O(酸素)-Mの無機結合で骨格が主骨格が構成されているポリマーである。特に、MがSiの場合は、シロキサン結合と呼ばれる。Siの4つの結合手の内の全てがSi-O-Si結合でつながっている場合は、SiO2ガラスになる。 SiO2ガラスは硬く、クラックが入り易い。一般に、ステンレス箔表面の表面粗さは、Ra=0.03〜0.6μm、Rmax=0.35〜3.0μmであるため、数μm以上の膜厚がなければ、絶縁性を維持することができない。スパッタ法、CVD法、ゾルゲル法等いずれの成膜方法においても、クラックなく1μm近い厚さのSiO2膜を成膜することは困難である。
【0013】
SiO2ガラスの硬さを緩和するために、Si-R(Rは有機基又は水素)結合を導入したシロキサン結合を主体とする無機ポリマー膜にすると、膜に柔軟性が付与されるので、厚膜にしてもクラックが入り難くなり、1MΩ・cm2以上の絶縁抵抗値を得ることが可能になる。シロキサン結合を主体とする無機ポリマー膜とは、無機ポリマー膜を形成しているM-O-Mの無機結合の内、Si-O-Si結合が90%以上を占めているものを指す。Si-O-Si結合以外の無機結合としては、例えば、Si-O-Ti、Ti-O-Ti、Al-O-Ti等の結合が挙げられる。Si-R結合は、シロキサン骨格を修飾して無機ポリマー膜に柔軟性を付与する効果がある。Si-R結合を含みシロキサン結合を主体とする無機ポリマー膜は、高い絶縁抵抗値が得られるが、一般に平滑な面となり凹凸表面は得られないので、本発明においては、この無機ポリマー膜を下地膜として用いる。Rとしては、水素の他に、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、グリシドキシプロピル基、アミノ基、トリフルオロプロピル基等が挙げられる。R(有機基又は水素)とSiのモル比は、1以上2.2以下であることが望ましい。
【0014】
一方、薄膜太陽電池基板としては、表面に光を乱反射させるような凹凸形状を有することが望まれる。太陽電池セル形成時の200〜350℃の熱処理条件に耐えられ、かつ、凹凸形状を付与する方法として、無機ポリマー中に球状フィラーを分散させることが考えられる。
【0015】
凹凸形状を付与する際に用いる無機ポリマー膜は、シロキサン結合を主体とする無機ポリマー膜である。シロキサン結合を主体とする無機ポリマー膜とは、下地膜として用いる無機ポリマー膜同様、無機ポリマー膜を形成しているM-O-Mの無機結合の内、Si-O-Si結合が90%以上を占めているものを指す。凹凸形状を付与する際に用いる無機ポリマー膜は、Si-R結合を含んでいても、含んでいなくてもよい。凹凸を付与するのに適した球状フィラーの粒径は、50nm以上5000nm以下である。また50nm以上1000nm以下でもよい。粒径が50nmより小さいときは、凝集により二次粒子を生成し易く、一次粒子による凹凸に加えて、数μmレベルの二次粒子による凹凸が形成され易くなり、適切な光閉じ込め効果が得られない。粒径が5000nmより大きい場合は、凹凸が大きくなり過ぎるため、適切な光閉じ込め効果が得られない。粒径が1000nm以下であればサブミクロンレベルの凹凸を付与できる。凹凸を付与するのに適した球状フィラーの粒径のより好ましい範囲は、300nm以上3000nm以下である。無機ポリマー中の球状フィラーの含有率は、15質量%以上90質量%以下である。ここで、無機ポリマー中の球状フィラーの含有率は、球状フィラーの質量/(球状フィラーの質量+無機ポリマーの質量)で求められるものである。この含有率が15質量%より少ないときは、十分な凹凸が得られない。90質量%を超える場合は、粒子が凝集し易くなる。球状フィラーの含有率のより好ましい範囲は、30質量%以上75質量%以下である。なお、サブミクロンレベルの凹凸を形成する場合は50質量%以下が好ましい。
【0016】
球状フィラーを分散させた無機ポリマー膜は、表面に凹凸構造を付与するのには適しているが、フィラーとマトリックスになる無機ポリマーの間に微細な空隙を含む場合が多く、この膜単独では、1MΩ・cm2以上の高い絶縁抵抗の膜を形成することは困難である。
【0017】
本発明では、1MΩ・cm2以上の絶縁抵抗と、表面凹凸形状を両立させるため、ステンレス箔表面に、Si-R結合(Rは有機基又は水素)を含むシロキサン結合を主体とする無機ポリマーからなる下地膜と、その上に、シロキサン結合を主体とする無機ポリマー中に、粒径50nm以上5000nm以下の球状フィラーを膜中に15質量%以上90質量%以下含む凹凸膜を有することを特徴とする下地膜と凹凸膜の二層で、ステンレス箔を被覆することを見出した。
【0018】
本発明による凹凸膜の凸部は、球状フィラーの体積の過半が平滑面の外側に出ている場合でも、図1に示すように、凹凸膜のマトリックスがテールを引いて、オーバーハングしていない形状になることが望ましい。図2に示すような球状フィラーによるオーバーハングがある場合、平面図に示したようなオーバーハング領域は、全基板面積の3%以下であることが望ましい。オーバーハング領域では、薄膜太陽電池の各層が不連続に形成されることになる。したがって、オーバーハング領域が、全基板面積の3%を越えると、太陽電池の特性が著しく劣化する可能性がある。オーバーハング領域は、全基板面積に対して1%以下であることが、特に好ましい。
【0019】
本発明の下地膜の厚さは、4μm以上200μm以下であることが望ましい。下地膜の厚さが4μmより薄い場合は、十分な絶縁性が得られ難く、200μmを超える場合は、膜の焼き付け時にクラックが入り易くなる。下地膜の厚さのより好ましい範囲は、4μm以上20μm以下、さらに好ましくは4μm以上13μm以下である。
【0020】
凹凸膜の膜厚は、0.2μm以上3μm以下であることが望ましい。本発明の凹凸膜は、図3に示すように、平滑な面の上に球状フィラーの各粒子に対応して凸部が形成された表面構造を有する。凹凸膜の膜厚とは、平滑面の膜厚のことである。凹凸膜の膜厚が0.2μmより薄い場合は、球状フィラーの保持が不十分となり、球状フィラーが膜から脱離し易くなる。3μmより厚い場合は、凹凸膜にクラックが発生し易くなる。凹凸膜の厚さのより好ましい範囲は、0.3μm以上1.2μm以下である。
【0021】
図4に示すように、球状フィラーのない平滑面から凸部の最上部までを凸部高さと定義する。図5に示すように粒子が凝集していたり、密に充填されていたりした場合は、表面粗度計で測った最下面を平滑面とみなし、表面に現れている各粒子について1つずつ凸部高さを考慮する。本発明では、凸部高さが30nm以上3000nm以下のものが全凸部の70%以上であることが望ましい。ここで全凸部とは、フィラーにより表面が平滑面より高くなっている全領域のことである。凸部高さが30nmより低い場合は、十分な光閉じ込め効果が得られ難くなる。凸部高さが3000nmを超えると、太陽電池セル形成時に、太陽電池セルの各層に不均一な応力が加わり膜が剥離したり、セルが短絡したりし易くなる。凸部高さのより好ましい範囲は、200nm以上2000nm以下、さらに好ましい範囲は300nm以上1500nm以下である。また、凸部高さが30nm以上3000nm以下のものが全凸部の70%より少ない場合は、十分な光閉じ込め効果が得られなかったり、セルの短絡が起きたり剥離が生じたりする恐れが高まる。凸部高さが30nm以上3000nm以下のものが全凸部の80%以上であるとき、特に好ましい効果が得られる。
【0022】
本発明の凹凸膜の凸部径は、図4に示すように凸部を形成している球状フィラーを真球とみなし、凸部の曲率から求めた球の直径と定義する。球状フィラーが凝集しているときは、表面に現れている形状から、それぞれの球状フィラーについて凸部径を求めることができる。本発明では、凸部径が50nm以上3000nm以下のものが全凸部の70%以上であることが望ましい。凸部径が50nmより小さい場合、及び、3000nmを超える場合のどちらも、十分な光閉じ込め効果が得られ難くなる。凸部径のより好ましい範囲は、300nm以上2500nm以下、さらに好ましい範囲は450nm以上2000nm以下である。また、凸部径が50nm以上3000nm以下のものが全凸部の70%より少ない場合は、十分な光閉じ込め効果が得られ難くなる。凸部径が50nm以上3000nm以下のものが全凸部の80%以上であるとき、特に好ましい効果が得られる。
【0023】
本発明の凸部面積は、フィラーにより平滑面より高くなっている部分の面積と定義する。この面積が全基板面積の10%より少ない場合および90%より多い場合は、十分な光閉じ込め効果が得られ難くなる。凸部面積のより好ましい範囲は全基板面積の20%以上80%以下、さらに好ましい範囲は30%以上70%以下である。
【0024】
下地膜を構成する無機ポリマーのシロキサン骨格を修飾する有機基は、耐熱性が高く、適度な膜硬度が得られると言う点において、メチル基又はフェニル基の一方又は両方であることが望ましい。さらに、シロキサン骨格を修飾する有機基のシロキサン骨格を形成している全Siに対するモル比は、1以上2.2以下であることが望ましい。この比が1より小さい場合は、有機基による膜の柔軟化の効果が小さいため、クラックが入り易くなる。2.2より大きい場合は、膜が柔らかくなり過ぎるため、太陽電池セルの形成に支障が出易くなる。
【0025】
凹凸膜中の球状フィラーは、マトリックスの無機ポリマーとの密着性が良好である上、球状で適当な粒径のものが得られ易いため、コロイダルシリカであることが望ましい。また、球状フィラーを含んでいる無機ポリマー膜は、全Siに対してエポキシ基をモル比で0.2以上0.7以下含むシリカ系無機ポリマーであることが望ましい。エポキシ基の比率が0.2より少ない場合は、球状フィラーが凹凸表面から欠落し易い傾向がある。微結晶シリコン薄膜太陽電池は通常200℃以上の成膜温度を必要とするので、エポキシ基の比率が0.7を超えると、太陽電池形成中にエポキシ基の分解に伴う脱ガス等で、セルが剥離したり、太陽電池特性が劣化したりする恐れが生じ易い。
【0026】
本発明のシロキサン結合を主体とする無機ポリマーから成る下地膜は、ポリシロキサンとSi、Al、Ti、Zr、Nb、Ta、Wから選ばれる1種類以上の金属アルコキシドを出発原料として、加水分解して調製したゾルをステンレス箔に塗布し、乾燥・焼き付けすることにより作製することができる。ポリシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサン等が挙げられる。ポリシロキサンの両末端は、シラノール基の他、カルビノール変性、アミノ変性等でもよい。ポリシロキサンの質量平均分子量は500以上15000以下であることが望ましく、特に2500以上10000以下であることが望ましい。質量平均分子量が500より小さい場合は、低粘度の塗布液となるため、十分な膜厚を得ることが難しい。質量平均分子量が15000を超える場合は、膜硬化に時間がかかる上、得られる膜も柔らかく傷つき易い。ポリジメチルシロキサン中のSiに対するSi、Al、Ti、Zr、Nb、Ta、Wから選ばれる1種類以上の金属アルコキシドのモル比が1/40以上1/4以下であるように、有機溶媒中に分散させてから加水分解させることが特に望ましい。ポリジメチルシロキサン中のSiに対する金属アルコキシドのモル比が1/40より小さい場合は、三次元網目構造が発達し難いため、膜の硬化が不十分になり易い。このモル比が1/4を超える場合は、膜が硬くなり過ぎるため、クラックが入り易い。Siのアルコキシドとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランの他に、オルガノアルコキシシランを用いることができる。オルガノアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。Al、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの金属アルコキシドは、いずれもアルコキシシランに比べて反応性が高いため、アルコキシ基の一部をβ-ジケトン、β-ケトエステル、アルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン、有機酸等で置換したアルコキシド誘導体を使用してもよい。
【0027】
前述したアルコキシド、ポリシロキサン等の膜固形分を生成するための出発原料を均一に分散、溶解できる有機溶媒中で、加水分解を行い、ゾルを調製することができる。有機溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の各種アルコール、アセトン、トルエン、キシレン等を用いることができる。
【0028】
加水分解は、出発原料中の全アルコキシ基のモル数に対して0.5〜2倍の水を添加して行う。必要に応じて、加水分解の触媒として酸を添加してもよい。酸としては、無機酸、有機酸とも使用可能である。
【0029】
本発明の凹凸膜は、金属アルコキシドを有機溶媒中で加水分解したゾルの中に球状フィラーを添加したものを、ステンレス箔上に形成した下地膜の上に塗布し、乾燥・焼き付けにより作製することができる。このとき、下地膜については、塗布後、乾燥のみであっても、乾燥・焼き付けを終了したものであってもよい。下地膜が乾燥のみで凹凸膜形成用のゾルを塗布した場合は、凹凸膜の焼き付け時に下地膜も同時に焼き付けることになる。
【0030】
粒径50nm以上5000nm以下の球状フィラーとしては、シリカ、アルミナ、チタニア等の材質のフィラーが挙げられる。コロイダルシリカのように、溶媒中に分散したシリカ粒子であってもよい。また、メチルトリエトキシシランを有機溶媒中で加水分解して得られるメチル基含有シリカガラスのような無機・有機ハイブリッド粒子であってもよい。球状フィラーは、直径の最長と最短の比が0.6以上であれば、完全な球でなくてもよい。
【0031】
球状フィラーを分散させるゾルは、Siのアルコキシド又はオルガノアルコキシシランを有機溶媒中で加水分解することにより調製できる。その際、加水分解促進のための触媒として、Al、Ti、Zr、Nb、Ta、W等の金属アルコキシドを添加してもよい。グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等を用いることにより、球状フィラーのマトリックス部分にエポキシ基を導入することが可能となる。球状フィラーがゾルの中で良好に分散させられるように、加水分解時の水に酸・アルカリ等を添加して、pH調整してもよい。球状フィラーの分散性がよいと、凝集による二次粒子ができ難いので、凸部高さを3000nm以下にそろえることが容易になる。
【0032】
ステンレス箔へのコーティングは、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法等で行うことができる。特に、ステンレス箔がコイル形状の場合は、オフセット方式又はグラビア方式によるロールコータで塗布することが連続処理が容易で好ましい。ステンレス箔に対して、特に前処理を行わなくても良好な密着性を示すが、必要に応じて、塗布前に前処理を行うこともできる。代表的な前処理としては、酸洗、アルカリ脱脂、クロメート等の化成処理、研削、研磨、ブラスト処理等があり、必要に応じてこれらを単独もしくは組み合わせて行うことができる。
【0033】
ステンレス箔材としては、フェライト系ステンレス箔、マルテンサイト系ステンレス箔、オーステナイト系ステンレス箔等が挙げられる。ステンレス箔の表面は、ブライトアニール、バフ研磨等の表面処理を施してあってもよい。
【0034】
本発明の被覆ステンレス箔を基板に用いた場合、例えば、Al電極、n型シリコン層、活性層となるi層、p型シリコン層、ITO膜を順次積層し、最後に、くし型電極を形成して薄膜微結晶シリコンによる太陽電池セルを作製することができる。本発明によれば、従来のSnO2テクスチャ付きガラス基板と同等の特性の太陽電池が、被覆ステンレス箔上に形成可能となる。被覆ステンレス箔は、ガラス基板に比べて、軽量で割れ難く、大面積化が容易であるので、屋根等の建材向けの太陽電池基板として適している。また、フレキシブル太陽電池としての応用も期待される。
【実施例】
【0035】
アセト酢酸エチル2モルとテトラエトキシチタン1モルを2モルのエタノールに分散させ、両末端カルビノール変性で平均分子量6000のポリジメチルジフェニルシロキサン0.2モル加え攪拌した。4モルの2-エトキシエタノールと2モルの水の混合溶液を滴下し、ゾルを調製した。厚さ100μm、表面をスーパーブライトで仕上げたYUS190(SUS444規格相当)の基板の上に、番手26番のバーコータで塗布し、150℃で2分乾燥後、150℃で2時間、続いて300℃で6時間の熱処理を行い、下地膜を作製した。得られた下地膜の厚さは約7μmであった。
【0036】
次に、テトラエトキシチタン0.07モルと酢酸0.21モルとグリシドキシプロピルトリエトキシシラン0.7モルを24時間混合後、テトラエトキシシラン0.3モルを添加し、1モルの水と6モルのエタノールを混合した溶液をゆっくりと添加して、加水分解を行った。得られた加水分解溶液5.80gに対して,アミノプロピルトリエトキシシランを0.77g添加して溶液Aを作製した。この溶液Aに対して、種々のフィラーを添加し、粘度調整等の目的で、必要に応じて水とエタノールの混合溶液を適宜加え、エポキシ基含有シリカ系ゾルを調製した。得られたゾルを番手3番のバーコータで下地膜上に塗布し、100℃5分で乾燥後、250℃5分で焼き付けて、凹凸膜を作製した。形成した凹凸膜の厚みはいずれも0.7μmから0.9μmの間にあった。
【0037】
作製した凹凸膜を有するステンレス箔について、ステンレス箔を下部電極とし、凹凸膜上に1cm2の上部電極をつけて、印加電圧500Vで絶縁抵抗を測定した。また、作製したステンレス箔を基板として、凹凸膜の上に太陽電池セルを形成し、SnO2によるテクスチャーつきガラス基板上に作製した太陽電池セルと効率の比較を行った。効率が1の場合、テクスチャーつきガラス基板と同等の性能であり、1を超えた場合はそれよりも効率が高いことを意味する。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
コロイダルシリカとしては、日産化学製コロイダルシリカOMP2030(粒子径200nm、PH2.2、SiO2:30.5質量%)、OMP3030(粒子径300nm、PH2.2、SiO2:30.5質量%)、OMP4530(粒子径450nm、pH3.0、SiO2:30.5質量%)を用いた。球状シリカ(1)は電気化学工業製SFP-30Mを用いた。球状アルミナはアドマテックス製AO-502を用いた。球状シリコーンは日硝産業トスパール120を用いた。球状シリア(2)はマイクロン製SC10-2である。SiCウィスカーは、東海カーボン製トーカウィスカーを用いた。フュームドシリカはアエロジル製AEROSILTM200を用いた。
【0040】
比較例1は十分な凹凸を得ることができず効率が低かった。比較例2は凹凸が荒すぎるため良好なセルを形成することができず効率が低かった。比較例3、4、6においては、太陽電池のセル形成時、セル形成部に剥離が生じた。比較例5では、絶縁膜として機能していないため、太陽電池セルを直列接続等することができなかった。
【符号の説明】
【0041】
11 球状フィラー
12 凹凸表面
21 球状フィラー
22 凹凸表面
23 オーバーハング領域
41及び42 球状フィラー
43 凹凸表面
44 球状フィラー41の凸部高さ
45 球状フィラー42の凸部高さ
51及び52 球状フィラー
53 凹凸表面
54 みなしの平滑面
55 球状フィラー51の凸部高さ
56 球状フィラー52の凸部高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス箔表面に、Si-R結合(Rは有機基又は水素)を含むシロキサン結合を主体とする無機ポリマーから成る下地膜と、その上に、シロキサン結合を主体とする無機ポリマー中に、粒径50nm以上5000nm以下の球状フィラーを膜中に15質量%以上90質量%以下含む凹凸膜を有することを特徴とする被覆ステンレス箔。
【請求項2】
ステンレス箔表面に、Si-R結合(Rは有機基又は水素)を含むシロキサン結合を主体とする無機ポリマーから成る下地膜と、その上に、シロキサン結合を主体とする無機ポリマー中に、粒径50nm以上1000nm以下の球状フィラーを膜中に15質量%以上50質量%以下含む凹凸膜を有することを特徴とする被覆ステンレス箔。
【請求項3】
前記球状フィラーによるオーバーハング領域が全基板面積の3%以下である凹凸膜を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項4】
前記下地膜の膜厚が4μm以上200μm以下である請求項1又は2に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項5】
前記下地膜の膜厚が4μm以上20μm以下である請求項1又は2に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項6】
前記凹凸膜の膜厚が0.2μm以上3μm以下である請求項1、2又は3に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項7】
前記球状フィラーによる凹凸の凸部高さが30nm以上3000nm以下のものが全凸部の70%以上である請求項1、2、3又は6に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項8】
前記球状フィラーによる凹凸の凸部高さが30nm以上1000nm以下のものが全凸部の70%以上である請求項1、2、3又は6に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項9】
前記球状フィラーによる凹凸の凸部径が30nm以上3000nm以下のものが全凸部の70%以上である1、2、3又は6に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項10】
前記球状フィラーによる凹凸の凸部径が30nm以上1000nm以下のものが全凸部の70%以上である1、2、3又は6に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項11】
前記球状フィラーによる凹凸の凸部面積が全基板面積の10%以上90%以下である請求項1、2、3又は6に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項12】
前記下地膜を構成する無機ポリマーのシロキサン骨格を修飾する有機基がメチル基又はフェニル基の一方又は両方であり、かつ、前記有機基のSiに対するモル比が1以上2.2以下である請求項1、2、4又は5に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項13】
前記球状フィラーがコロイダルシリカである請求項1〜3、7〜11のいずれかに記載の被覆ステンレス箔。
【請求項14】
前記凹凸膜のマトリックス部分が、全Siに対してエポキシ基を0.2以上0.7以下含むシリカ系無機ポリマーである請求項1、2、3又は6に記載の被覆ステンレス箔。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の被覆ステンレス箔を基板に用いてなることを特徴とするシリコン薄膜太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−3932(P2011−3932A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211224(P2010−211224)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【分割の表示】特願2005−223808(P2005−223808)の分割
【原出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】