説明

シリコン融液の搬送部材

【課題】シリコン融液が浸み出すことなく、長期に亘って多数回の繰返し使用が可能であり、しかも、搬送中におけるシリコン融液の飛沫の発生を抑制することができるシリコン融液の搬送部材を提供する。
【解決手段】C/Cコンポジット材により一端開口筒体状に形成され、開口側には入口開口が形成されていると共に外周部の平坦側面部には側面方向に向けて開口する出口開口を有し、底面側には入口開口から流入したシリコン融液の流れ方向を出口開口に向けて変える底流案内部を有する方向変更部材と、C/Cコンポジット材により溝状又は筒状に形成された樋部材とを有し、使用時には、樋部材の上方に方向変更部材をその底流案内部が重なり合うように配置し、方向変更部材の入口開口から流入したシリコン融液の流れを樋部材のシリコン融液流れ方向に案内するシリコン融液の搬送部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体素子や太陽電池等の原料として用いられる高純度シリコンの製造において使用される、シリコン融液の搬送部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や太陽電池等に用いられるシリコン原料の精製プロセスにおいては、従来は気相反応を用いたジーメンス法が広く採用されていたが、近年では、シリコン原料を溶融した後に、スラグ精錬や、電子ビーム溶解等の真空高温処理によって、溶融シリコン中のボロン、リン等の半導体ドーパント成分を除去するが、この前後に溶融シリコンを一方向凝固させることにより鉄等の金属成分を除去する工程等を組み合わせた、いわゆる冶金法が行われるようになっている。(特許文献1、非特許文献1参照)
【0003】
しかるに、この冶金法によるシリコン原料の精製プロセスにおいて、溶融シリコン中からボロンの除去、リンの除去、及び金属成分の除去を行う各工程は各々独立した工程であって、夫々独立した炉を用いて処理される。このため、シリコン精製プロセスで高純度シリコンを製造する際には、作業の効率性からシリコン原料を溶融状態のままで搬送することが求められている。そして、シリコン原料を溶融状態のままで搬送するためには、1)高温で使用できること、2)シリコン融液を汚染しないこと、3)シリコン融液が漏れないこと、4)シリコン融液から熱を奪って固化させることのない程度に熱容量が小さいこと、が要求される。
【0004】
発明者らは、先に、1)高温で使用でき、2)シリコン融液を汚染しない素材の一つとしてカーボンがあるが、単純なカーボンでは3)のシリコン融液が漏れないことの条件を満たすためにはその壁厚[み]を増して強度を稼ぐ必要があるが、壁厚を大きくすると熱容量が増大して4)の条件を満たせないことを見出し、更に、1)〜4)の条件を満たすには炭素繊維強化炭素複合材(以下、「C/Cコンポジット材」という。)を用いればよいことを見出し、このC/Cコンポジット材を用いたシリコン融液の搬送方法を提案した(第1の提案:特願2009-137,312号)。
【0005】
この第1の提案に係る熱容量の低いC/Cコンポジット材を用いてシリコン融液を搬送する場合には、たとえ無予熱の場合であっても、例えば図1に示すように、V字状横断面を有するL字アングル部材状に形成された搬送部材(樋部材)T1を、その一端側が上にまた他端側が下になるように、所定の角度で傾斜させて配置し、上端側に位置するシリコン融液の流入口a側からシリコン融液の流出口b側に向かって流せばよく、更に長い距離の搬送が必要なときには、同じ搬送部材(樋部材)T1を図1のように重ねて繋ぐことにより対応することができ、シリコン融液の温度が融点以下にならない距離まで容易に搬送することができる。
【0006】
しかしながら、シリコンを溶融状態のまま搬送するに当り、流れの向きを変更しなければならない場合が生じる。しかし、搬送経路の流れ方向を変更し得る搬送部材を製造するに当っては、一体物として製造することが極めて困難であり、仮に一体物として製造できたとしても高コストとなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明者らは、搬送経路の流れ方向を変更し得る搬送部材を低コストで製造するために、幾つかの平板状の部品を組み合わせて接合することにより、複雑な形状の一体物を製造することに着目し、検討を重ねた結果、C/Cコンポジットの平板状の部品を組み合わせて接合する場合には、上記の1)及び2)の条件については満たすことができるが、5)シリコン融液の搬送開始当初には常温の搬送部材にシリコンの融点(1414℃)以上の高温のシリコン融液が流れて短時間で急激な温度上昇が起こり、高温のシリコン融液と接している部分と接していない部分とで大きな温度差が生じ、従って搬送部材には熱膨張量差による大きな応力分布が生じ、最も強度の小さな接合部に応力が集中し、接合部が破損する虞があること、また、6)部品の接合部分に生じる隙間にシリコン融液が滞留し、温度が低下してシリコンが固化したときに、シリコンの体積が増加して隙間部分を広げ、その搬送部材を再使用した際にその隙間部分からシリコン融液が漏れ出す虞があること、更に、7)搬送部材全体の熱容量を所定の値以下にして搬送中にシリコン融液の一部が凝固しないようにするためには、C/Cコンポジット板材の厚みは10mm以下にする必要があり、接合面積を大きくとれないこと、という搬送部材製造上の必要条件を見出した。
【0008】
そして、これら5)〜7)の搬送部材製造上の必要条件を満たすために、更に鋭意検討したところ、(A)板材と板材の接合部分の強度を上げること、(B)接合部分にシリコン融液が侵入し難い構造とすること、の2点が極めて重要であることを見出し、接合部分をネジやピンでの接合部の補強方法、接合部分を互いに相補的関係を有する切欠き部と突起部との嵌合構造とする方法、接合部分にカーボン接着剤を塗布した後に不活性ガス雰囲気内で焼成して増強する方法を含む、C/Cコンポジット板材の組合せ・接合法によるシリコン融液の搬送部材及びその製造方法を提案した(第2の提案:特願2010-267,995号)。
【0009】
この第2の提案に係るシリコン融液の搬送部材によれば、例えば図2に示すように、平面略L字状に形成されたL字状板材と、このL字状板材の4つの側辺部の長さに対応する長さを有する4枚の長方形状板材とを組み合わせ、各板材の端部間を接合し、横断面略々U字状であって平面略L字状の搬送部材(樋部材)T2を構成し、その一端側が上にまた他端側が下になるように、所定の角度で傾斜させて配置し、上端側に位置するシリコン融液の流入口a側からシリコン融液の流出口b側に向かって流せばよく、これによってシリコン融液の流れ方向を変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平7−55813号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Solar Energy Materials and Solar Cells 92 (2008)418-424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、先の第2の提案に係るシリコン融液の搬送部材は、前記の(A)板材と板材の接合部分の強度を上げること、(B)接合部分にシリコン融液が侵入し難い構造とすることの2つの条件のうち、(A)の条件については極めて有効に働き、接合部分が完全に崩壊して形が崩れるまでには至らないという効果が達成され、また、(B)の条件については、ある程度の効果が発揮されて複数回の繰返し使用が可能になるものの、25回を超える多数回の繰返し使用が可能になるところまでは到達できず、繰返し使用による通液回数が増加すると、シリコン融液が浸み出すような僅かな隙間が発生し、その隙間を起点に更に隙間が拡大してシリコン融液が漏れ出してしまうという長期耐久性の問題がある。
【0013】
また、シリコン融液の搬送において最も重要な点は、上述の通り、高温で粘度が低くて漏れ易い上に、反応性が高くて周辺の鋼材製設備に接触するとその破損原因にもなるシリコン融液を漏らさないということであるが、シリコン融液の搬送中における飛沫の発生を抑制することもまた重要である。シリコン融液の飛沫は、やはり鋼材製設備を溶損するし、また、固化した後には、例えば機械部品の摺動部に噛み込まれて機械部品の動きを悪くする等の弊害を及ぼす。
【0014】
ところで、C/Cコンポジット材の成型体は、一般に次のような工程を経て製造されている。先ず、黒鉛の糸で編んだ布に樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを作製し、次にこのプリプレグをカーボン製の型に何層にも貼り付けて所定の形状を作り出し、その後に型ごと焼成し、最後に型を抜くという工程である。このため、C/Cコンポジット材によっては、例えば水道配管のエルボーの如く曲がった形状のパイプ等のように、複雑な形状の一体物を作ることはできない。外型であれば、分割式にする等して、焼成後に容易に取り外すことができるが、内型の場合には、幾何学的に抜き出すことのできる形状でなればならない。
【0015】
本発明者らは、かかる観点に鑑みて、更にC/Cコンポジット材の製造方法を鋭意研究した結果、C/Cコンポジット板材の組合せ・接合法による方法と、C/Cコンポジット材の成型法による方法に基づいて製造可能な範囲の三次元的な構造体からなる複数の搬送部材を組み合わせることで、シリコン融液が漏れ出すことがなく、また、シリコン融液の飛沫が飛び散ることもない長期耐久性に優れたシリコン融液の搬送部材を発明した。
【0016】
従って、本発明の目的は、シリコン融液が浸み出すことなく、長期に亘って多数回の繰返し使用が可能であり、しかも、搬送中におけるシリコン融液の飛沫の発生を抑制することができるシリコン融液の搬送部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
〔1〕 シリコン融液と直接接触しながら当該シリコン融液を搬送すると共にシリコン融液の搬送方向を変えるシリコン融液の搬送部材であって、カーボン/カーボンコンポジット材(C/Cコンポジット材)により壁厚1〜10mmの一端開口筒体状に形成され、開口側には入口開口が形成されていると共に外周部には少なくとも1つの平坦側面部が形成されており、また、この平坦側面部には側面方向に向けて開口する出口開口を有すると共に、底面側には前記入口開口から流入したシリコン融液の流れ方向を前記出口開口に向けて変える底流案内部を有する方向変更部材と、C/Cコンポジット材により壁厚1〜10mmの溝状又は筒状に形成された樋部材とを有し、使用時には、前記樋部材のシリコン融液流れ方向上流側の上方に、前記方向変更部材の底流案内部が重なり合うと共にこの底流案内部におけるシリコン融液の流れ方向が樋部材のシリコン融液流れ方向に略々一致するように、前記方向変更部材を配置し、方向変更部材の入口開口からこの方向変更部材内に流入したシリコン融液の流れを樋部材のシリコン融液流れ方向に案内することを特徴とするシリコン融液の搬送部材。
【0018】
〔2〕 前記方向変更部材と樋部材とが、それぞれC/Cコンポジット材の一体成形により形成されている前記〔1〕に記載のシリコン融液の搬送部材。
【0019】
〔3〕 前記方向変更部材と前記樋部材とが、互いに上下方向に所定の隙間を維持して配置されていることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載のシリコン融液の搬送部材。
【0020】
〔4〕 前記方向変更部材が底壁部と4つの側壁部とを有する一端開口の横断面矩形箱体状に形成されており、前記底壁部と1つの側壁部とによりその隅角部分に前記底流案内部が形成されると共に、この底流案内部のシリコン融液流れ方向下流側に位置する平坦側面部には三角形状の出口開口が形成されており、また、前記樋部材が横断面略V字状のL字アングル型搬送部と、このL字アングル型搬送部のシリコン融液流れ方向上流側の端部に設けられた流止壁部とからなり、使用時には、前記方向変更部材が、前記樋部材のシリコン融液流れ方向上流側においてL字アングル型搬送部と流止壁部とが形成する遇角部内に配置されることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のシリコン融液の搬送部材。
【0021】
〔5〕 前記方向変更部材の出口開口が前記底壁部の一部と側壁部の一部とを2辺とする直角三角形状に形成されており、また、前記樋部材のL字アングル型搬送部における2辺間の角度が略直角に形成されていることを特徴とする前記〔4〕に記載のシリコン融液の搬送部材。
【0022】
〔6〕 前記方向変更部材及び樋部材は、その表面の少なくともシリコン融液と接する部分に、厚さ0.1〜200μmの炭化珪素層又はグラファイト層、若しくは、表面に黒鉛化容易な高分子溶液を塗布し又は含浸させた後に焼成して形成された厚さ1μm〜3mmの高密度層からなる保護皮膜が形成されていることを特徴とする前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のシリコン融液の搬送部材。
【0023】
本発明において、前記方向変更部材については、その全体がC/Cコンポジット材の成型法により一体成型されたものであっても、また、複数のC/Cコンポジット板材を用いた組合せ・接合法により製造されたものであってもよく、多数回に亘って繰返し使用が可能であるという長期耐久性の観点からは、好ましくはC/Cコンポジット材の成型法により一体成型されたものである。そして、この方向変更部材の壁厚については、通常1mm以上10mm以下、好ましくは2mm以上5mm以下であり、壁厚が1mmより薄いとシリコン融液が浸み出して漏れたり、浸透したシリコン融液と黒鉛が反応して脆化して破壊したりするという問題があり、反対に、10mmより厚くなると熱容量が増大してシリコンが固化するという問題が生じる。
【0024】
また、この方向変更部材の形状については、基本的には外周部に少なくとも1つの平坦な側面部(平坦側面部)を有する一端開口筒体状であり、入口開口から流入したシリコン融液の流れを出口開口に向けて変える底流案内部を形成し易くて製造が容易な形状であればよく、また、横断面形状についても特に制限はなく、例えば、正方形や長方形等の矩形状、略円形状、略楕円形、三角形、等であってもよく、横断面の形状が変化する、例えば全体として逆三角錐や逆四角錐を形成するような形状であってもよい。
【0025】
更に、この方向変更部材に形成される底流案内部は、方向変更部材の底面側に形成され、開口側の入口開口から流入したシリコン融液の流れを出口開口に向けて変える機能の一部又は全部を担うものであり、使用時の姿勢において方向変更部材内をその入口開口から出口開口に向けて流れるシリコン融液の流れのうちの底の流れを形成しまた案内する部分である。この底流案内部については、底流案内部により案内されて流れるシリコン融液の底流が出口開口に向かうように形成されればよく、好ましくは方向変更部材の出口開口に配置される樋部材におけるシリコン融液の流れ方向に略一致するように形成される。
【0026】
また、本発明において、前記樋部材については、その全体がC/Cコンポジット材の成型法により一体成型されたものであっても、また、複数のC/Cコンポジット板材を用いた組合せ・接合法により製造されたものであってもよく、多数回に亘って繰返し使用が可能であるという長期耐久性の観点からは、好ましくはC/Cコンポジット材の成型法により一体成型されたものである。そして、この方向変更部材の壁厚については、通常1mm以上10mm以下、好ましくは2mm以上5mm以下であり、壁厚が1mmより薄いとシリコン融液が浸み出して漏れたり、浸透したシリコン融液と黒鉛が反応して脆化して破壊したりする、という問題があり、反対に、10mmより厚くなると熱容量が増大してシリコンが固化するという問題が生じる。
【0027】
また、この樋部材の形状については、基本的にはその一端側から他端側に向けてシリコン融液を流すことができ、製造が容易な形状であればよく、また、横断面形状についても特に制限はなく、例えば、略V字形、略U字形、半円形、半楕円形等の上面側が解放した横樋形状であっても、更には、正方形や長方形等の矩形状、略円形状、略楕円形、三角形等の竪樋形状であってもよい。なお、もし樋部材の形状が竪樋形状である場合には、方向変更部材との間の重なり合いが可能なように、この樋部材のシリコン融液流れ方向上流側の一部を切り欠いて部分的に横樋形状に加工する等の適当な加工を施すのがよい。
【0028】
そして、前記方向変更部材と樋部材は、その使用時には、方向変更部材が樋部材のシリコン融液流れ方向上流側の上方に配置されるが、その際に、方向変更部材の底流案内部の一部又は全部が樋部材の上方に位置して重なり合い、かつ、この底流案内部におけるシリコン融液の流れ方向が樋部材のシリコン融液流れ方向に略々一致し、これによって、方向変更部材の入口開口からこの方向変更部材内に流入したシリコン融液の流れは、その流れ方向が方向変更部材の底流案内部によって出口開口側に変えられ、この出口開口からの流れを樋部材によってそのシリコン融液流れ方向に案内するようになっている。
【0029】
ここで、前記方向変更部材(特に、その底流案内部の裏面)と樋部材(特に、その上面)との間の重なり合い状態については、使用時にこれら方向変更部材や樋部材を配置する際の傾斜角度等に応じて適宜設定できるものであって、これら方向変更部材と樋部材との間の隙間を介してシリコン融液が逆流し、あるいは、方向変更部材と樋部材との間の接触部分における毛細管現象により逆流するのを防止できればよく、重なり幅については、通常30mm以上底流案内部の長さ以下、好ましくは50mm以上300mm以下であるのがよく、また、重なり状態については、これら方向変更部材と樋部材とを互いに接触させて重ね合わせてもよいほか、毛細管現象による逆流を防止するために、通常2mm以上30mm以下、好ましくは
5mm以上10mm以下程度の隙間を維持して重ね合わせてもよい。
【0030】
更に、本発明においては、C/Cコンポジット材で形成された前記方向変更部材及び樋部材の表面において、少なくともシリコン融液と接する部分には、保護皮膜を形成せしめ、これによってこれら搬送部材の長期耐久性を更に改善するようにしてもよい。この目的で形成される保護皮膜としては、具体的には、CVD法等で形成された炭化珪素(SiC)層又はグラファイト層が挙げられ、また、方向変更部材及び樋部材の表面に黒鉛化容易な高分子溶液を塗布又は含浸させた後に焼成して形成された密度の高い高密度層が挙げられる。
【0031】
この保護皮膜としての炭化珪素層については、その膜厚が通常0.1μm以上200μm以下、好ましくは0.1μm以上40μm以下、より好ましくは0.1μm以上5μm以下であるのがよく、0.1μmより薄いと欠陥の少ない緻密な膜を形成することが難しいという問題があり、反対に、200μmより厚くなると剥離し易くなるという問題が生じる。また、グラファイト層については、その膜厚が通常0.1μm以上200μm以下、好ましくは0.1μm以上20μm以下、より好ましくは0.1μm以上5μm以下であるのがよく、0.1μmより薄いと欠陥の少ない緻密な膜を形成することが難しいという問題があり、反対に、200μmより厚くなると剥離し易くなるという問題が生じる。更に、高密度層については、その膜厚が1μm以上3mm以下、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは1μm以上10μm以下であるのがよく、1μmより薄いとシリコンの浸透を防止する効果が小さいという問題があり、反対に、3mmより厚い高密度層を形成するのは難しいという問題がある。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、シリコン融液が浸み出すことなく、長期に亘って多数回の繰返し使用が可能であり、しかも、搬送中におけるシリコン融液の飛沫の発生を抑制することができる長期耐久性に優れたシリコン融液の搬送部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明者らの第1の提案に係るシリコン融液の搬送部材を示す斜視説明図である。
【0034】
【図2】図2は、本発明者らの第2の提案に係るシリコン融液の搬送部材を示す斜視説明図である。
【0035】
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態に係るシリコン融液の搬送部材を構成する方向変更部材を示す斜視説明図である。
【0036】
【図4】図4は、本発明の第1の実施形態に係るシリコン融液の搬送部材を構成する樋部材を示す斜視説明図である。
【0037】
【図5】図5は、図3の方向変更部材と図4の樋部材を用いて構成される本発明の第1の実施形態に係るシリコン融液の搬送部材の分解組立状態を示す斜視説明図である。
【0038】
【図6】図6は、図3の方向変更部材と図4の樋部材を用いて構成される本発明の第1の実施形態に係るシリコン融液の搬送部材を示す斜視説明図である。
【0039】
【図7】図7は、本発明の比較例に係るシリコン融液の搬送部材を示す斜視説明図であり、本発明者らの第2の提案に基づいて形成されたものである。
【0040】
【図8】図8は、シリコン融液の搬送部材の長期耐久性を調べるシリコン融液通液試験の方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るシリコン融液の搬送部材T3は、図3〜図6に示すように、C/Cコンポジット材により形成され、横断面が正四角形状であって、一端側が開口し、また、他端側が閉塞した一端開口の横断面正四角形箱体状に形成された壁厚1mm以上10mm以下、好ましくは2mm以上5mm以下の方向変更部材1と、同じくC/Cコンポジット材により横断面略V字状の溝状に形成された壁厚1mm以上10mm以下、好ましくは2mm以上5mm以下の樋部材2とで構成されている。これら方向変更部材1及び樋部材2における壁厚が1mm未満だとシリコン融液が浸み込んで破壊する虞があり、反対に、10mmを超えるとこれら方向変更部材1や樋部材2の熱容量が大きくなり、搬送中にシリコン融液の熱を奪って固化させる虞がある。
【0042】
前記方向変更部材1は、底壁部1aと外周部を構成する4つの側壁部1b,1c,1d,1eとからなり、その開口側には入口開口3が形成されていると共に、1つの側壁部1bには側面方向に向けて開口する直角二等辺三角形状の出口開口4が開設されており、この出口開口4は底壁部1aと1つの側壁部1eとが形成する隅角部に連なり、これによって底壁部1aと側壁部1eの間の隅角部が入口開口3から流入するシリコン融液の流れ方向を出口開口4へと直角に変える底流案内部5となっている。
【0043】
また、前記樋部材2は、2辺間の角度が90°(直角)を中心にして許容される誤差範囲の88°以上92°以下である横断面略V字状のL字アングル型搬送部2aと、このL字アングル型搬送部2aのシリコン融液流れ方向上流側の端部に設けられ、この上流側への逆流を防止する流止壁部2bとからなり、前記L字アングル型搬送部2aの2辺が形成する隅角部がこの樋部材2を流れるシリコン融液の底流案内部6として機能するようになっている。
【0044】
また、前記L字アングル型搬送部2aの長さは、通常、前記方向変更部材1の底流案内部5の長さ(底壁部1aと側壁部1eとが形成する隅角部の長さ)より30mm以上長く、また、全長が3000mm以下である。このL字アングル型搬送部2aの長さが、底流案内部5の長さより30mm以上長くない場合には方向変更部材1の出口開口4から流出するシリコン融液を十分に受け取れない場合が生じ、反対に、全長が3000mmを超えると流路が長くなりすぎてシリコン融液が冷却し固化する虞が生じる。
【0045】
この第1の実施形態に係るシリコン融液の搬送部材T3において、その使用時には、図5及び図6に示すように、樋部材2のシリコン融液流れ方向上流側に方向変更部材1を配置し、方向変更部材1の底流案内部5が、樋部材2のシリコン融液流れ方向上流側において、L字アングル型搬送部2aと流止壁部2bとが形成する遇角部(底流案内部6)に重なり合うように、かつ、この底流案内部5におけるシリコン融液の流れ方向が樋部材2のシリコン融液流れ方向に略一致するように嵌め込まれる。
【0046】
この第1の実施形態においては、樋部材2のL字アングル型搬送部2aを形成する各辺の長さが方向変更部材1の底壁部1aの各辺や各側壁部1b,1c,1d,1eの長さと略同じに形成されて、樋部材2のシリコン融液流れ方向上流側の遇角部(底流案内部6)に方向変更部材1の略半分が嵌り込むようになっており、仮に方向変更部材1内に流れ込んだシリコン融液がこの方向変更部材1から漏れ出しても、樋部材2によって外部への漏れ出しを防止できるようになっている。
【0047】
なお、樋部材2が大きくなり過ぎて全体の熱容量が許容範囲を超える虞がある場合や樋部材2の形状に幾何学的な制約がある場合には、図5に点線で示した樋部材2の一部分を切り欠き、図6に示したように、方向変更部材1を超えて延びる樋部材2のシリコン融液流れ方向下流側を方向変更部材1の出口開口4の大きさに略々一致させるようにしてもよい。
【0048】
上記第1の実施形態に係る方向変更部材1及び樋部材2は、そのいずれも上述したC/Cコンポジット板材の組合せ・接合法や、C/Cコンポジット材の成型法により製造可能な三次元的な構造体からなるものであり、いずれの方法で形成してもよいが、多数回の繰返し使用を可能にする長期耐久性の観点からは、少なくとも樋部材2についてはC/Cコンポジット材の成型法により製造し、接合部を持たない構造体とすることが望ましい。なお、方向変更部材1の出口開口4を形成する際には、C/Cコンポジット板材の組合せ・接合法で形成する場合には予めこの出口開口4に対応する部分が切り欠かれたC/Cコンポジット板材を用いてもよく、また、C/Cコンポジット材の成型法で形成する場合には成型後に切削加工で形成してもよい。
【0049】
この第1の実施形態に係るシリコン融液の搬送部材T3によれば、図6に示すように、方向変更部材1の入口開口3からこの方向変更部材1内に流れ込んだシリコン溶液は、その流れ方向正面に位置する側壁部1aに当り、この側壁部1aと側壁部1eとで形成される隅角部を底流案内部5としてその流れ方向が方向変更部材1の出口開口4へと変えられ、この出口開口4から流出して樋部材2へと受け継がれて行き、結果としてシリコン融液の流れ方向はこの搬送部材T3により90°変えられることになる。
【0050】
また、この第1の実施形態に係るシリコン融液の搬送部材T3によれば、方向変更部材1の入口開口3を大きくとることができるので、シリコン融液を受ける位置に一定の自由度があり、また、方向変更部材1の内部ではシリコン融液の運動エネルギーが低減されてその際にシリコンの飛沫が発生するが、このシリコンの飛沫が外部に飛散するのを効果的に防止することができる。更に、出口開口4の形状が直角二等辺三角形状であるため、樋部材2のL字アングル型搬送部2aと重ね合わせることができ、方向変更部材1の出口開口4から樋部材2へとシリコン融液の流れを円滑に受け渡すことができる。
【0051】
〔第2の実施形態〕
第2の実施形態においては、上記の第1の実施形態の場合に加えて、方向変更部材1及び樋部材2の表面において、シリコン融液の搬送中に少なくともこのシリコン融液と接する部分に、厚さ0.1〜200μmの炭化珪素層又はグラファイト層、若しくは、表面に黒鉛化容易な高分子溶液を塗布し又は含浸させた後に焼成して形成された厚さ1μm〜3mmの高密度層からなる保護皮膜が形成されている。
【0052】
この第2の実施形態に係るシリコン融液の搬送部材によれば、多数回の繰返し使用が可能な長期耐久性が更に向上し、長期に亘って、シリコン融液が浸み出すことなく、また、搬送中におけるシリコン融液の飛沫も発生させることなく、シリコン融液を搬送することができる。
【実施例】
【0053】
〔実施例1〕
実施例1においては、C/Cコンポジット材の成型法により、図3に相当する壁厚3mmの方向変更部材と、図4に相当する壁厚3mmの樋部材とを作製し、図6に示すように重ね合わせてシリコン融液の搬送部材を構成した。
【0054】
また、この実施例1において、方向変更部材は、その底壁部の大きさが300mm×300mmであって各側壁部の大きさが300mm×300mmであり、また、出口開口の大きさが100mm×100mm×141mmの直角二等辺三角形状に形成されており、そして、樋部材は、そのL字アングル型搬送部が長さ480mm×各辺長300mmの大きさに形成されている。
【0055】
〔実施例2〕
実施例2においては、上記実施例1の方向変更部材及び樋部材の全面に、保護皮膜としてCVD法により約20μmのグラファイト層を形成したこと以外は、上記実施例1と同様にして方向変更部材及び樋部材を作製し、実施例1と同様に組み合わせてシリコン融液の搬送部材を構成した。
【0056】
〔比較例〕
比較例として、図7に示すように、先に説明した第2の提案に係るC/Cコンポジット板材の組合せ・接合法により、方向変更部7と樋部8とが一体的に形成されたシリコン融液の搬送部材T4を形成した。
この比較例のシリコン融液の搬送部材T4は、方向変更部7と樋部8とが一体的に形成されて重ね合わせ構造になっていない点で、上記実施例1のシリコン融液の搬送部材と異なるのみで、シリコン融液の流れを形成する内部構造はその大きさも含めて実質的に上記実施例1の場合と同じに設計されている。
【0057】
〔シリコン融液の通液試験〕
比較例、実施例1及び2に係るシリコン融液の搬送部材について、1回当り約1600℃のシリコン融液10kgを流した後に30分間自然冷却させる通液操作を複数回繰り返して実施し、1回毎に搬送部材からのシリコン融液の漏れの程度を観察し、漏れ量が500gを超えた時点で通液試験を中止し、その時点での通液回数を長期耐久性(寿命)として評価した。
【0058】
このシリコン融液の通液試験は、不活性ガスで置換できるチャンバー内で実施され、図7の概念図に示ように、搬送部材T、シリコン融液9の取鍋10、及び受器11を、それぞれ搬送部材Tの入口開口からその底壁部に至る傾斜角度が5°であって、搬送部材Tの底壁部と側壁部とで形成される底流案内部から出口開口を経て樋部材(樋部)に至る傾斜角度が5°となるように配置して実施した。このシリコン融液の通液試験において、1回の通液操作で流される10kgのシリコン融液を取鍋10から受器11まで完全に流すのに1分程度の時間を要し、また、通液終了後に搬送部材Tをほぼ室温に冷却するまでに30分間の放冷を必要とした。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示す結果から明らかなように、比較例では、9回目の通液操作で接合部から約600g融液漏れが確認されたが、実施例1では、36回目に樋部材のL字アングル型搬送部の先端に亀裂が入って、500g以上の融液漏れが生じ、また、実施例2では、80回を越える通液操作を実施しても、融液漏れは最大でも100g以下であり、本発明の効果が確認された。
【符号の説明】
【0061】
T、T1、T2、T3、T4…搬送部材、a…流入口、b…流出口、1…方向変更部材、1a…底壁部、1b,1c,1d,1e…側壁部、2…樋部材、2a…L字アングル型搬送部、2b…流止壁部、3…入口開口、4…出口開口、5…方向変更部材の底流案内部、6…樋部材の底流案内部、7…方向変更部、8…樋部、9…シリコン融液、10…取鍋、11…受器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液と直接接触しながら当該シリコン融液を搬送すると共にシリコン融液の搬送方向を変えるシリコン融液の搬送部材であって、
カーボン/カーボンコンポジット材(C/Cコンポジット材)により壁厚1〜10mmの一端開口筒体状に形成され、開口側には入口開口が形成されていると共に外周部には少なくとも1つの平坦側面部が形成されており、また、この平坦側面部には側面方向に向けて開口する出口開口を有すると共に、底面側には前記入口開口から流入したシリコン融液の流れ方向を前記出口開口に向けて変える底流案内部を有する方向変更部材と、C/Cコンポジット材により壁厚1〜10mmの溝状又は筒状に形成された樋部材とを有し、
使用時には、前記樋部材のシリコン融液流れ方向上流側の上方に、前記方向変更部材の底流案内部が重なり合うと共にこの底流案内部におけるシリコン融液の流れ方向が樋部材のシリコン融液流れ方向に略々一致するように、前記方向変更部材を配置し、方向変更部材の入口開口からこの方向変更部材内に流入したシリコン融液の流れを樋部材のシリコン融液流れ方向に案内することを特徴とするシリコン融液の搬送部材。
【請求項2】
前記方向変更部材と樋部材とが、それぞれC/Cコンポジット材の一体成型により形成されている請求項1に記載のシリコン融液の搬送部材。
【請求項3】
前記方向変更部材と前記樋部材とが、互いに上下方向に所定の隙間を維持して配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン融液の搬送部材。
【請求項4】
前記方向変更部材が底壁部と4つの側壁部とを有する一端開口の横断面矩形箱体状に形成されており、前記底壁部と1つの側壁部とによりその隅角部分に前記底流案内部が形成されると共に、この底流案内部のシリコン融液流れ方向下流側に位置する平坦側面部には三角形状の出口開口が形成されており、また、前記樋部材が横断面略V字状のL字アングル型搬送部と、このL字アングル型搬送部のシリコン融液流れ方向上流側の端部に設けられた流止壁部とからなり、
使用時には、前記方向変更部材が、前記樋部材のシリコン融液流れ方向上流側においてL字アングル型搬送部と流止壁部とが形成する遇角部内に配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコン融液の搬送部材。
【請求項5】
前記方向変更部材の出口開口が前記底壁部の一部と側壁部の一部とを2辺とする直角三角形状に形成されており、また、前記樋部材のL字アングル型搬送部における2辺間の角度が略直角に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のシリコン融液の搬送部材。
【請求項6】
前記方向変更部材及び樋部材は、その表面の少なくともシリコン融液と接する部分に、厚さ0.1〜200μmの炭化珪素層又はグラファイト層、若しくは、表面に黒鉛化容易な高分子溶液を塗布し又は含浸させた後に焼成して形成された厚さ1μm〜3mmの高密度層からなる保護皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコン融液の搬送部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−136358(P2012−136358A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287633(P2010−287633)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【出願人】(510096049)NSソーラーマテリアル株式会社 (4)
【Fターム(参考)】