説明

シリコーンゴムスポンジ組成物

【目的】 良好な特性を有するシリコーンゴムスポンジを得るための発泡速度と硬化速度のバランスの調整が容易に出来、また、押出成形において押出機口金より押し出された直後の未発泡時の形状を、発泡して全体が膨張した後も保持することが可能で、さらにスキン層の表面平滑性に優れたシリコーンゴムスポンジを得ることができるシリコーンゴムスポンジ組成物を提供する。
【構成】 (a) ポリオルガノシロキサンベースポリマー、(a')補強性シリカ充填剤及び(b) 硬化剤を主成分とする(A) 熱硬化性ミラブル型シリコーンゴム組成物に、(B) 80〜200 ℃の温度で膨張する熱膨張性マイクロカプセル0.1 〜20重量部(対(a) 100 重量部)を配合する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の技術分野】本発明は、シリコーンゴムスポンジ組成物に係わり、更に詳しくは、良好な特性を有するシリコーンゴムスポンジを得るための発泡速度と硬化速度のバランスの調整が容易に出来、また、押出成形において押出機口金より押し出された直後の未発泡時の形状を、発泡して全体が膨張した後も保持することが可能で、さらにスキン層の表面平滑性に優れたシリコーンゴムスポンジを得ることができるシリコーンゴムスポンジ組成物に関する。
【0002】
【発明の技術的背景とその問題点】従来より、シリコーンゴムスポンジは、耐候性、電気特性、圧縮永久ひずみなどに優れた材料としてよく知られている。このシリコーンゴムスポンジは、基本的に熱硬化性ミラブル型シリコーンゴム組成物にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)などの有機発泡剤と硬化剤とを配合し、加熱により発泡・硬化させることにより得られる。ここで、良好な特性を有するシリコーンゴムスポンジを得るためには、有機発泡剤の発泡速度(分解速度)とシリコーンゴム組成物の硬化速度のバランスをとらなければならない。すなわち、有機発泡剤の分解速度がシリコーンゴム組成物の硬化速度に比べ遅いと、有機発泡剤の分解発生ガスを捕捉できず、発泡倍率が低く、セル構造が不均一なスポンジになってしまう。逆に、シリコーンゴム組成物の硬化速度が有機発泡剤の分解速度に比べ遅いと、セル構造の緻密性がなく、これも発泡倍率が低くなってしまい、共に良好なシリコーンゴムスポンジが得られない。加えて、有機発泡剤はその分解速度が高く、急激にガスを発生するため、これを捕捉するためには有機発泡剤の分解とほぼ同時にシリコーンゴム組成物の硬化も促進する必要がある。このように、有機発泡剤を用いてシリコーンゴムスポンジを成形するには、有機発泡剤の分解速度と熱硬化性ミラブル型シリコーンゴム組成物の硬化速度をほぼ同様に調整する必要があり、このバランスが少しでも崩れると良好なシリコーンゴムスポンジが得られないという欠点があった。また、上述の理由により、押出成形においては、押出機口金より押し出された直後の未発泡時の形状を、発泡して全体が膨張した後も保持することが困難であり、その結果、目的の形状のスポンジを得るためには、何度も口金の形状を手直しして成形テストを行なわねばならず、非常に生産性を悪化させるとともに、口金の形状を手直しする熟練を必要とする等の問題点があった。さらに、このような方法では、有機発泡剤の多量の分解発生ガスがスポンジ表面から漏出するため、スキン層の表面平滑性が損なわれ外観上好ましくないという問題もあった。このような課題に対して、これまでその根本的な解決方法は提案されていない。
【0003】
【発明の目的】本発明は、この様な課題に対してなされたものである。すなわち、良好な特性を有するシリコーンゴムスポンジを得るための発泡速度と硬化速度のバランスの調整が容易に出来、また、押出成形において押出機口金より押し出された直後の未発泡時の形状を、発泡して全体が膨張した後も保持することが可能で、さらにスキン層の表面平滑性に優れたシリコーンゴムスポンジを得ることができるシリコーンゴムスポンジ組成物を提供することを目的とする。
【0004】
【発明の構成】本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、熱硬化性ミラブル型シリコーンゴム組成物に対して、特定の熱膨張性マイクロカプセルを特定量配合することにより、良好な特性を有するシリコーンゴムスポンジを得るための発泡速度と硬化速度のバランスの調整が容易に出来、上記形状保持性等にも優れたシリコーンゴムスポンジを容易に作製し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、(a) ポリオルガノシロキサンベースポリマー、(a')補強性シリカ充填剤及び(b) 硬化剤を主成分とする(A) 熱硬化性ミラブル型シリコーンゴム組成物に、(B) 80〜200 ℃の温度で膨張する熱膨張性マイクロカプセル0.1 〜20重量部(対(a) 100 重量部)を配合したことを特徴とするシリコーンゴムスポンジ組成物である。
【0005】まず、本発明のシリコーンゴムスポンジ組成物を成す構成部分について説明する。本発明は、熱硬化性ミラブル型シリコーンゴム組成物(A) に、上記特定の熱膨張性マイクロカプセル(B) を配合することを特徴とし、ここで用いられる熱硬化性ミラブル型シリコーンゴム組成物(A) は、(a) ポリオルガノシロキサンベースポリマー、(a')補強性シリカ充填剤、(b) 硬化剤と、必要に応じて各種添加剤などを配合し、均一に分散させたものである。(a')補強性シリカ充填剤とは、シリコーンゴムの加工性、機械的強度等を良好にするために必要な物質であり、従来から一般的に用いられている沈澱シリカ、煙霧質シリカ等である。(a')補強性シリカ充填剤の配合量は、(a) ポリオルガノシロキサンベースポリマー100 重量部に対し、1〜100 重量部の範囲が一般的であるが、特にこれに限定されるものではない。このようなシリコーンゴム組成物に用いられる各種成分のうち、(a) ポリオルガノシロキサンベースポリマーと(b) 硬化剤とは、ゴム状弾性体を得るための反応機構に応じて適宜選択されるものである。その反応機構としては、(1) 有機過酸化物加硫剤による架橋方法、(2) 付加反応による方法等が知られており、その反応機構によって、(a) 成分と、(b) 成分すなわち硬化用触媒若しくは架橋剤との好ましい組み合わせが決まることは周知である。すなわち、上記(1) の架橋方法を適用する場合においては、通常(a) 成分のベースポリマーとしては、1分子中のケイ素原子に結合した有機基の内、少なくとも2個がビニル基であるポリジオルガノシロキサンが用いられる。また(b) 成分の硬化剤としては、ベンゾイルペルオキシド、2,4 −ジクロロベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、クミル−t−ブチルペルオキシド等の有機過酸化物加硫剤が用いられ、熱空気加硫を行う場合には、ベンゾイルペルオキシド、2,4 −ジクロロベンゾイルペルオキシド等のジアシル系有機過酸化物が一般的である。なお、これらの有機過酸化物加硫剤は、1種または2種以上の混合物として用いられる。(b) 成分の硬化剤である有機過酸化物の配合量は、(a) 成分のシリコーンベース100 重量部に対し、0.05〜15重量部の範囲が好ましい。有機過酸化物の配合量が0.05未満では加硫が十分に行われず、15重量部を越えて配合してもそれ以上の格別な効果がないばかりか、得られたシリコーンゴムの物性に悪影響を与えることがあるからである。上記(2) の付加反応を適用する場合の(a) 成分のベースポリマーとしては、上記(1) におけるベースポリマーと同様なものが用いられる。また、(b) 成分の硬化剤としては、硬化用触媒として、塩化白金酸、白金オレフィン錯体、白金ビニルシロキサン錯体、白金黒、白金トリフェニルフォスフィン錯体等の白金系触媒等が用いられ、架橋剤としてケイ素原子に結合した水素原子が一分子中に少なくとも平均2個を越える数を有するポリオルガノシロキサンが用いられる。(b) 成分の硬化剤の内、硬化触媒の配合量は、(a) 成分のベースポリマーに対し、白金元素量で1〜1000ppm の範囲となる量が好ましい。硬化用触媒の配合量が白金元素量として1ppm 未満では、十分に硬化が進行せず、また、1000ppm を越えても特に硬化速度の向上が期待できない。また、架橋剤の配合量は、(a) 成分中のアルケニル基1個に対し、架橋剤中のケイ素原子に結合した水素原子が0.5 〜4.0 個となるような量が好ましく、さらに好ましくは、1.0 〜3.0 個となるような量である。水素原子の量が0.5 個未満である場合は、組成物の硬化が十分に進行せず、硬化後の硬度が低くなり、また、水素原子の量が4.0 個を越えると硬化後の組成物の物理的性質と耐熱性が低下する。以上のような各種反応機構において用いられる(a) 成分のベースポリマーとしてのポリオルガノシロキサンにおけるアルケニル基以外の有機基は、一価の置換または非置換の炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基のようなアルキル基や、フェニル基のようなアリール基、β−フェニルプロピル基のようなアラルキル基等の非置換の炭化水素基や、クロロメチル基、3,3,3 −トリフルオロプロピル基等の置換炭化水素基が例示される。なお、一般的にはメチル基が合成のしやすさ等から多用される。また、(a) 成分のベースポリマーとしてのポリオルガノシロキサンの平均重合度は、3000〜30000 であり、重合度が3000未満だとシリコーンゴムスポンジの機械的強度が低下し、重合度が30000 を越えると充填剤配合が困難となり作業性が低下する。このポリマーは、実質的には直鎖状が望ましいが、使用可能な範囲であれば一部枝分かれ状であってもかまわない。
【0006】(B) 成分の80〜200 ℃の温度で膨張する熱膨張性マイクロカプセルは、本発明の効果を付与するための特徴となる成分である。ここで、80〜200 ℃の温度で膨張する熱膨張性マイクロカプセルとしては、平均粒径1〜50μm が必要であり、1μm より小さいとゴム中への分散が不十分となり、50μm を越えるとシリコーンゴムスポンジの強度が大きく低下する。また、膨張倍率は10〜100 倍が好ましく、10倍未満であると十分な発泡倍率が得られず、100 倍を越えると均一微細なセルが得られ難くなる。このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、塩化ビニリデン・アクリロニトリルコポリマーを外殻とし、イソブタンを内包したもの(例えば、エクスパンセル社製のエクスパンセル、松本油脂製薬製のマツモトマイクロスクエクエアー)などが市販されており、容易に入手することが可能である。(B) 成分の配合量は、(a) 成分のポリオルガノシロキサンベースポリマー 100重量部に対して、0.1 〜20重量部、好ましくは1〜10重量部の範囲で選択される。(B) 成分が0.1 重量部未満では十分な発泡倍率を得ることができず、20重量部を越えて配合すると、スポンジ硬度が非常に高くなり、ゴム弾性に欠けるため、圧縮等の変形により、成形品が破損しやすくなるとともに、機械的強度も大きく低下する。以上説明した(B) 成分の80〜200 ℃の温度で膨張する熱膨張性マイクロカプセルは、熱により膨張するため、有機発泡剤を用いて発泡させる時のように分解発生ガスをゴムの硬化により捕捉する必要がない。このため、十分に熱膨張性マイクロカプセルにより発泡させた後、熱硬化性ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドを硬化させればよいことから、発泡と硬化をほぼ同時に行う必要がなく、良好な特性を有するシリコーンゴムスポンジを得るための発泡速度と硬化速度のバランスの調整が容易に出来る。すなわち、硬化剤として、熱膨張性マイクロカプセルの膨張温度より高い温度で硬化するものを用いればよい。また、発泡と硬化をほぼ同時に行う必要がないことから、押出成形において押出機口金より押し出された直後の未発泡時の形状を、発泡して全体が膨張した後も保持することが可能となる。さらに、有機発泡剤を用いて発泡させる時のように分解発生ガスがスポンジ表面から漏出することがないため、スキン層の表面平滑性に優れたシリコーンゴムスポンジを得ることが可能となる。尚、膨張温度が80℃未満の熱膨張性マイクロカプセルでは、圧縮永久ひずみが悪くなり、200 ℃を越えるものでは生産性が悪くなる。なお、シリコーンゴム組成物に熱膨張性マイクロカプセルを配合することは、特開平2−9608号公報、特開平5−209080号公報で提案されているが、これらは何れも液状シリコーンゴムに熱膨張性マイクロカプセルを配合するものであり、本発明の熱硬化性ミラブル型シリコーンゴムを対象とする場合とは基本となるシロキサン成分の粘度が異なる。すなわち、上述の如き、熱膨張性マイクロカプセルと熱硬化性ミラブル型シリコーンゴム組成物を組み合わせることにより、発泡速度と硬化速度のバランスの調整が容易に出来、その結果として作用効果は本発明者らが始めて見出したことである。
【0007】本発明のシリコーンゴムスポンジ組成物には、以上の成分の他に本発明による効果を阻害しない範囲で半補強性ないし非補強性の充填剤を配合することができる。この半補強性ないし非補強性の充填剤としては、粉砕シリカ、ケイソウ土、金属炭酸塩、クレー、タルク、マイカ、酸化チタンなどをあげることができる。また、シリコーンゴム組成物に従来から用いられている耐熱添加剤、難燃剤、酸化防止剤、加工助剤なども配合することができる。さらに、カーボン、フェライト粉末などを配合し、高周波誘電加熱により成形も可能である。
【0008】
【発明の効果】本発明のシリコーンゴムスポンジ組成物は、熱効果性ミラブル型シリコーンゴム組成物に特定の熱膨張性マイクロカプセルを配合してあるので、良好な特性を有するシリコーンゴムスポンジを得るための発泡速度と硬化速度のバランスの調整が容易に出来、また、押出成形において押出機口金より押し出された直後の未発泡時の形状を、発泡して全体が膨張した後も保持することが可能で、さらにスキン層の表面平滑性に優れたシリコーンゴムスポンジを得ることができる。そして、得られたシリコーンゴムスポンジは、ガスケット、断熱材、クッション材などとして非常に有用である。
【0009】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお、実施例中の部は重量部を表す。
実施例1熱硬化性ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(東芝シリコーン製 TSE2575U) 100部に対して、外殻が塩化ビニリデン・アクリロニトリルコポリマーであり、イソブタンを内包し、膨張温度が 110〜150 ℃、平均粒径が5〜30μm の範囲にあり、膨張倍率が約60倍の熱膨張性マイクロカプセル(エクスパンセル社製 エクスパンセル461DU)2部、硬化触媒として塩化白金酸とテトラメチルビニルジシロキサンとの白金錯体 0.5部(白金として総重量に対して15ppm )、架橋剤として両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン/メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子含有量が0.8%)1.0 部、硬化抑制剤としてトリアリルイソシアネート1.0 部を配合し、二本ロールにて均一になるまで混合した。次に、上記シリコーンゴムコンパウンドを押出機に供給し、毎分5mで連続押し出しを行い、一辺の長さ約15mmで厚さ約3mmの正方形の断面を持つシリコーンゴムコンパウンドを得た。これを、長さ50cmに切断し、200 ℃の乾燥機に10分間放置し、シリコーンゴムスポンジを得た。得られたシリコーンゴムスポンジは均一・微細なセル構造を有していた。比重は0.51であった。さらに、シリコーンゴムスポンジの表面粗さを東京精密製表面粗さ測定機サーフコン570Aを用いて、ISO法(十点平均法)にて測定したところ5.2 μm であり、非常に好ましい外観であった。
【0010】実施例2熱硬化性ミラブル型シリコーンゴムコンパウンド(東芝シリコーン製 TSE2575U) 100部に対して、外殻が塩化ビニリデン・アクリロニトリルコポリマーであり、イソブタンを内包し、膨張温度が 110〜150 ℃、平均粒径が5〜30μm の範囲にあり、膨張倍率が約60倍の熱膨張性マイクロカプセル(エクスパンセル社製 エクスパンセル461DU)2部、硬化剤としてベンゾイルパーオキサイド 0.6部とジクミルパーオキサイド 0.8部を配合し、二本ロールにて均一になるまで混合した。次に、実施例1と同様の方法でシリコーンゴムスポンジを得た。得られたシリコーンゴムスポンジは、ほぼ正方形を維持しており、均一・微細なセル構造を有していた。比重は0.48であった。さらに、シリコーンゴムスポンジの表面粗さを東京精密製表面粗さ測定機サーフコン570Aを用いて、ISO法(十点平均法)にて測定したところ 5.2μm であり、非常に好ましい外観であった。
【0011】比較例1熱膨張性マイクロカプセルの代わりに、有機発泡剤としてアゾビスイソブチロニトリル(東芝シリコーン製 ME800)を2.5 部配合した以外は、実施例1と同様にシリコーンゴムスポンジを得た。得られたシリコーンゴムスポンジは、正方形を維持しておらず円形に近い形状であった。また、セルはほぼ均一ではあるが、微細ではなく、スポンジ表面は凹凸があり、表面粗さは24.2μm であった。比重は0.44であった。
【0012】比較例2熱膨張性マイクロカプセルの代わりに、有機発泡剤としてアゾジカルボンアミド(三協化成製 セルマイクCAP500)を2.0 部配合した以外は、実施例1と同様にシリコーンゴムスポンジを得た。得られたシリコーンゴムスポンジは、正方形を維持しておらず円形に近い形状であった。また、セルはほぼ均一ではあるが、微細ではなく、スポンジ表面は凹凸があり、表面粗さは56.7μm であった。比重は0.74であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a) ポリオルガノシロキサンベースポリマー、(a')補強性シリカ充填剤及び(b) 硬化剤を主成分とする(A) 熱硬化性ミラブル型シリコーンゴム組成物に、(B) 80〜200 ℃の温度で膨張する熱膨張性マイクロカプセル0.1 〜20重量部(対(a) 100 重量部)を配合したことを特徴とするシリコーンゴムスポンジ組成物。