説明

シリコーンゴム多孔質体

【課題】小さな平均セル径を有し、しかも過酸化物型硬化剤や、乾式シリカを分散させるためのウェッターに由来するベンゼン化合物含有量が極めて少ないシリコーンゴム多孔質体を提供する。
【解決手段】付加反応型シリコーンゴムを含み、湿式シリカを含有し、有機アゾ系発泡剤を用いて発泡させた、150〜200μmの平均セル径を有し、ベンゼン化合物含有率が0.1μg/g以下であることを特徴とするシリコーンゴム多孔質体。 シリコーンゴム多孔質体は、発泡前に予熱し、非酸化物系の硬化剤を用いて硬化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム多孔質体に係り、特に、小さな平均セル径を有し、しかもベンゼン化合物含有量が極めて少ないシリコーンゴム多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴム多孔質体(スポンジ)は、種々の分野で利用されており、例えば、複写機、レーザプリンタなどの作像部品、例えば、現像ローラ、トナー供給ローラ、転写ローラ、ドラムクリーニングローラに、また複写機、各種プリンタ、プロッタの用紙搬送ローラに使用され、さらにはトナー定着装置の加圧ローラにも使用されている。
【0003】
従来、シリコーンゴム多孔質体は、主に、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いて発泡させていた(特許文献1参照)。しかしながら、AIBNは、異常発泡を引き起こすため、得られる多孔質体中のセル(気泡)のサイズ(径)が均一でなく、大きくばらついていた。
【0004】
他方、環境問題の側面から、大気中への有害物質排出の削減が求められており、ドイツを始め、複写機やレーザプリンタ等に使用される作像部品及び定着部品の多孔質体においてもベンゼン化合物等の排出が規制されるようになってきている。
【0005】
そのようなことから、シリコーンゴム多孔質体の製造に使用する発泡剤として、有害物質を排出しない有機アゾ系発泡剤が検討されている(特許文献2参照)が、得られるセル径が均一でない。
【特許文献1】特公昭44−461号公報
【特許文献2】特開平8−259816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、小さな平均セル径を有し、しかもベンゼン含有量が極めて少ないシリコーンゴム多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、150〜200μmの平均セル径を有し、ベンゼン含有率が0.1μg/g以下であることを特徴とするシリコーンゴム多孔質体が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシリコーンゴム多孔質体は、小さな平均セル径を有し、セル径のばらつきが少ないので、圧縮永久歪が小さく、耐久性に優れ、ベンゼン含有率が極めて少ないので、環境汚染の問題もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0010】
本発明のシリコーンゴム多孔質体は、150〜200μmの平均セル径を有し、ベンゼン含有率が0.1μg/g以下である。
【0011】
シリコーンゴムは、p−メチルベンゾイルパーオキサイドやジクミルパーオキサイドのような有機過酸化物を硬化剤として用いて硬化させる過酸化物硬化型のものと、付加反応硬化型のものがある。しかしながら、過酸化物硬化型のものは使用する硬化剤が、分解してベンゼン化合物を生成する。しかも、過酸化物硬化型シリコーンゴム材は、得られるシリコーンゴムに所定の強度を持たせるために、湿式シリカに加えて乾式シリカも配合され、さらに乾式シリカをシリコーンゴム材中に分散させるためにウエッターも配合されている。通常、このウエッターにはベンゼン化合物が含まれているため、分解してベンゼン化合物を生成する。
【0012】
そこで、本発明では、硬化剤として非酸化物系の硬化剤を用いることが好ましい。いいかえると、本発明では、シリコーンゴム材として、付加反応硬化型のものを用いることが好ましい。付加反応硬化型シリコーンゴム材は、主剤となる不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと架橋剤となる活性水素含有ポリシロキサンを含む。不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンにおいて、不飽和脂肪族基は、両末端に導入され、側鎖としても導入され得る。そのような不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンは、例えば、下記式(1)で示すことができる。
【化1】

【0013】
式(1)において、R1は、不飽和脂肪族基を表し、各R2は、C1〜C4低級アルキル基、またはフッ素置換C1〜C4低級アルキル基を表す。a+bは、通常、50〜2000である。R1によって表される不飽和脂肪族基は、通常、ビニル基である。各R2は、通常、メチル基である。R2としてフェニル基等のベンゼン系置換基を有するものは、ベンゼン化合物の発生の原因となるので、使用しない。
【0014】
活性水素含有ポリシロキサン(ハイドロジェンポリシロキサン)は、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンに対し架橋剤として作用するものであり、主鎖のケイ素原子に結合した水素原子(活性水素)を有する。水素原子は、活性水素含有ポリシロキサン1分子当たり3個以上存在することが好ましい。そのような活性水素含有ポリシロキサンは、例えば、下記式(2)で示すことができる。
【化2】

【0015】
式(2)において、R3は、水素またはC1〜C4低級アルキル基を表し、R4は、C1〜C4低級アルキル基を表す。c+dは、通常、8〜100である。R3およびR4で表される低級アルキル基は、通常、メチル基である。
【0016】
不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと架橋剤となる活性水素含有ポリシロキサンとは、前者100重量部に対し、後者0.01〜50重量部の割合で用いることができる。
【0017】
上記シリコーンゴム材は、市販されている。なお、市販品では、付加反応硬化型シリコーンゴムを構成する不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンと活性水素含有ポリシロキサンとは別々のパッケージで提供され、両者の硬化に必要な硬化触媒は、活性水素含有ポリシロキサンに添加されている。いうまでもなく、シリコーンゴム材は、2種類以上を併用して用いることができる。硬化触媒としては、白金系触媒を用いることができる。白金系触媒の量は、白金原子として、1〜100重量ppm程度で十分である。なお、付加反応硬化型シリコーンゴム材にも、通常、湿式シリカが、含まれ、湿式シリカをシリコーンゴム中に分散させるためのウエッターが配合されているが、このウエッターにはベンゼン化合物を含んでいないものを使用している。また、付加反応硬化型シリコーンゴム材には、乾式シリカは含まれていない。すなわち、シリカとしては、湿式シリカのみを含むものとする。
【0018】
本発明のシリコーンゴム多孔質体は、発泡剤により発泡されるのであるが、発泡剤としては、AIBNのように分解してシアン化合物を発生する発泡剤は用いない。その代わりに、有機アゾ化合物を用いることが好ましい。発泡剤としての有機アゾ化合物には、特開2002−146078号公報に開示されている有機アゾ化合物、例えば、ジメチル−1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)を好ましく用いることができる。有機アゾ系発泡剤は、不飽和脂肪族基を有するポリシロキサンの重量の0.01〜50%の割合で用いることができる。
【0019】
本発明のシリコーンゴム発泡体を製造するためには、付加反応硬化型シリコーンゴム材に有機アゾ系発泡剤を配合してシリコーンゴムコンパウンドを調製し、特開2002−146078号公報の教示に従い、100〜500℃で10秒〜30分硬化、発泡させることができる。必要に応じて180〜250℃で1〜10時間二次加硫することもできる。硬化、発泡は、無加圧(大気圧)下、金型を使用することなく行うことができる。
【0020】
ここで、硬化、発泡に先立ち、シリコーンゴムコンパウンドを予熱すると、セル径が小さく、セル径のばらつきが少なくなることがわかった。予熱は、30〜70℃で、5〜10分間行うことが好ましい。
【0021】
本発明をシリコーンゴムスポンジローラに適用する場合、プライマーを塗布した芯金にシリコーンゴムコンパウンドを所定の外径に押し出し、上記手法により予熱し、硬化・発泡させ、得られた発泡層を所望の厚さまで研磨することができる。この発泡層に自己接着型加熱硬化性一液ゴムを塗布し、フッ素樹脂(例えばPFA)チューブ内に挿入することもできる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はそれらの実施例により限定されるものではない。
【0023】
実施例1、比較例1〜2
下記表1に示す組成のゴムコンパウンドを調製した。
【表1】

【0024】
表1において、
「NT−522U」は、信越化学工業(株)製ビニルポリシロキサンの商品名で、ビニルポリシロキサン約70重量%に、湿式シリカとウエッターを約30重量%含む。
【0025】
「C−25A」は、信越化学工業(株)製ハイドロジェンポリシロキサンの商品名で、微量の白金系触媒を含む。
「C−25B」は、信越化学工業(株)製ハイドロジェンポリシロキサンの商品名で、約95重量%のハイドロジェンポリシロキサンに約5重量の湿式シリカを含む。
「X−30−3017U」は、信越化学工業(株)製の過酸化物硬化型ポリシロキサンの商品名で、ポリシロキサンに、乾式シリカ、湿式シリカおよびウエッターを含む。
【0026】
「C−24」は、信越化学工業(株)製p−メチルベンゾイルパーオキサイド約50重量%にジメチルシリコーンオイル等を含む。
「C−3」は、信越化学工業(株)製ジクミルパーオキサイド。
「KE−P13」は、信越化学工業(株)製AIBN系発泡剤(AIBN50重量%含有)である。
「KE−P26」は、信越化学工業(株)製有機アゾ系発泡剤ジメチル−1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)である。
「KE−カラーBR」は、信越化学工業(株)製着色剤(赤褐色)である。
【0027】
得られたゴムコンパウンドを、プライマーを塗布した芯金の周りに押し出し、以下の手法で硬化、発泡させた。
【0028】
すなわち、実施例1では、40℃で10分間予熱した後、大気圧下、金型を用いずに、200℃で40分の一次加硫後、210℃で10時間の二次加硫を行った。他方、比較例1および2では、予熱を行うことなく、アルミニウムパイプ金型中で、170℃で40分の一次加硫後、210℃で36時間の二次加硫を行った。
【0029】
得られたシリコーンゴム発泡多孔質層を厚さ5mmに研磨し、自己接着型加熱硬化性一液ゴムを塗布し、PFAチューブに挿入し、一液ゴムについて150℃で30分の一次加硫後、200℃で4時間の二次加硫を行った。こうして、所望の加圧ローラを得た。
【0030】
こうして得られた多孔質体、加圧ローラについて、以下の試験を行った。
【0031】
<平均セル径およびセル径のばらつき>
画像処理装置を用い、2値化により白黒の判定で平均セル径を測定。セルとして判別可能な最大径の1/4を最小径とした。最大セル径−平均セル径をセル径のばらつきとした。
【0032】
<圧縮永久歪>
加圧ローラ上の多孔質体層の厚さに対し50%圧縮し、180℃で22時間維持した後、測定した。
【0033】
<実機評価(画質)>
カラー機OHPにおけるセル目の影響を以下の基準で評価した。
【0034】
○…セル目なし
△…セル目ややあり
×…セル目あり。
【0035】
<実機評価(耐久性)>
ニップ幅を5mmとし、190℃で30rpm連続空運転での使用可能な範囲を測定した。
【0036】
<シアン化合物(定性分析)>
多孔質体試料6.0gを80℃で60分間加熱し、ヘッドスペースのガスを捕集管(吸着剤:TenaxTA)で吸着し、吸着剤をサーマルコールドトラップにセットし、230℃で10分間加熱した。脱離した物質をGC/MSで分析した。
【0037】
<シアン化合物およびベンゼン化合物の定量分析>
パージ/トラップGC/MS分析装置(カラム:ヒューレットパッカード製HP6890N)を用い、多孔質体試料5mgを280℃に設定した注入口に注入し、ヘリウムガスを流しながら、カラムに流入させた。カラム温度は、40℃で2分間の加熱後、15℃/分の昇温速度で、280℃で10分間加熱するものである。カラムを190℃で5分間加熱して試料を気化し、吸着剤TenaxGRに吸着させた後、吸着剤を255℃で30秒加熱して吸着物質を離脱させ、これを分析した。
【0038】
以上の結果を表2に示す。
【表2】

【0039】
表2に示す結果からわかるように、本発明の多孔質体は、比較例1、2の多孔質体に比べて、平均セル径が小さく、セル径のばらつきが小さい。従って、圧縮永久歪も小さい。また、本発明の多孔質体を有する加圧ローラは、良好な画質を与え、耐久性にも優れる。しかも、本発明の多孔質体は、シアン化合物やベンゼン化合物のような有害物質が定性的にも定量的にも検出されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
150〜200μmの平均セル径を有し、ベンゼン化合物含有率が0.1μg/g以下であることを特徴とするシリコーンゴム多孔質体。
【請求項2】
シリコーンゴムが、付加反応型シリコーンゴムを含む請求項1に記載のシリコーンゴム多孔質体。
【請求項3】
シリコーンゴムが、湿式シリカを含有する請求項1または2に記載のシリコーンゴム多孔質体。
【請求項4】
有機アゾ系発泡剤を用いて発泡されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーンゴム多孔質体。
【請求項5】
非酸化物系の硬化剤を用いて硬化されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリコーンゴム多孔質体。
【請求項6】
発泡の前に、シリコーンゴム材が予熱されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコーンゴム多孔質体。
【請求項7】
前記予熱が、30〜70℃の温度で行われる請求項5に記載のシリコーンゴム多孔質体。

【公開番号】特開2006−257218(P2006−257218A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75211(P2005−75211)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000227412)日東工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】