説明

シリンジ

【課題】ガスケットが外筒の底部に当接した状態の維持およびその解除が簡単な操作で行うことができるシリンジを提供すること。
【解決手段】シリンジ1は、先端部に液体を吸引または排出する口部22を有し、基端部が開放した有底筒状の外筒2と、外筒2内に挿入されたガスケット6と、ガスケット6を外筒2の軸方向に沿って移動操作する押し子3と、外筒2にその径方向に変位可能に設けられた複数の突出部41a、41bと、押し子3に設けられ、複数の突出部41a、41bに係合し得るフランジ33とを有し、ガスケット6が外筒2の底部に当接したときに、複数の突出部41a、41bとフランジ33とが係合することにより、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制するロック手段8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば患者へ薬液等の液体を投与するのに用いるシリンジは、一般に、先端部に突出形成された口部を有する外筒と、外筒の基端部に形成されたフランジ(指当て部)と、外筒内に挿入されたガスケットと、ガスケットを外筒の軸方向に沿って移動操作する押し子とを備える。
【0003】
従来、このようなシリンジとしては、ガスケットが外筒の所定位置よりも基端側へ移動しないように、押し子が外筒の軸方向に移動する範囲を制限するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のシリンジは、ガスケットが外筒の軸方向での途中に位置する状態で、外筒側に設けられた係合部と、押し子に設けられた係合部とが係合することにより、その位置よりも基端方向に押し子が移動するのを防止する。
【0005】
このような特許文献1に係るシリンジは、ガスケットが外筒の底部に当接する状態で押し子の移動を規制することができない。そのため、例えば、バイアル瓶内にシリンジ内の液体を注入する際に、バイアル瓶内の圧力が高まることによって、押し子が勝手に戻されてしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献1の図2等には、押し子の基端側への移動の規制およびその解除の双方が可能な構成のシリンジが開示されているが、かかる構成のシリンジでは、押し子をその軸線回りに回転させるという操作を要し、操作性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−265607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ガスケットが外筒の底部に当接した状態の維持およびその解除が簡単な操作で行うことができるシリンジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(7)の本発明により達成される。
(1) 先端部に液体を吸引または排出する口部を有し、基端部が開放した有底筒状の外筒と、
前記外筒内に挿入されたガスケットと、
前記ガスケットを前記外筒の軸方向に沿って移動操作する押し子と、
前記外筒にその径方向に変位可能に設けられた第1の係合部と、前記押し子に設けられ、前記第1の係合部に係合し得る第2の係合部とを有し、前記ガスケットが前記外筒の底部に当接したときに、前記第1の係合部が前記外筒の径方向に変位して、前記第1の係合部と前記第2の係合部とが係合することにより、前記押し子が前記外筒の軸方向に移動するのを規制するロック手段とを備え、
前記ロック手段は、前記外筒の径方向に押圧操作されることにより、前記第1の係合部と前記第2の係合部との係合を解除する操作部を有することを特徴とするシリンジ。
【0010】
(2) 前記押し子を前記外筒に対してその中心軸まわりに回転させない状態で、前記ガスケットが前記外筒の底部に当接するまで前記押し子を前記外筒の先端部側に移動させることにより、前記第1の係合部と前記第2の係合部とが係合する上記(1)に記載のシリンジ。
【0011】
(3) 前記第1の係合部は、前記外筒の内側に突出した複数の突出部で構成され、
前記第2の係合部は、前記押し子の途中に設けられたフランジで構成されている上記(2)に記載のシリンジ。
【0012】
(4) 前記ロック手段は、前記複数の突出部を前記外筒の内側へ付勢する複数の弾性部を有する上記(3)に記載のシリンジ。
【0013】
(5) 前記ロック手段は、互いに重ねられ、前記外筒の径方向に沿った一方向に変位可能に設けられたリング状の1対の挟圧部材を有し、
前記1対の挟圧部材は、一方の挟圧部材の前記一方向での一方側の部分に少なくとも1つの前記突出部および前記弾性部が設けられ、他方の挟圧部材の前記一方向での他方側の部分に少なくとも1つの前記突出部および前記弾性部が設けられ、
前記一方の挟圧部材の前記弾性部が前記他方の挟圧部材に当接するとともに、前記他方の挟圧部材の前記弾性部が前記一方の挟圧部材に当接している上記(4)に記載のシリンジ。
【0014】
(6) 前記操作部は、前記一方の挟圧部材の外周部の一部と前記他方の挟圧部材の外周部の一部とで構成されている上記(4)または(5)に記載のシリンジ。
【0015】
(7) 前記ロック手段は、外筒2の中心軸を介して互いに反対方向に突出した形状をなす指当て部として機能する部分を有する上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のシリンジ。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ロック部材を押し子に装着した状態で、ガスケットが外筒の底部に当接したときに、ロック部材の係合部と外筒のフランジ部の外周部とが係合することにより、押し子が外筒の軸方向に移動するのを規制する。そのため、ガスケットが外筒の底部に当接した状態を維持することができる。
【0017】
また、ロック部材の係合部が外筒の径方向に変位して、ロック部材の係合部と外筒のフランジ部の外周部とが係合する。そのため、押し子を回転操作することなく、押し子を押し込むだけの簡単な操作で、ガスケットが外筒の底部に当接した状態を維持することができる。
【0018】
さらに、ロック部材の係合部を外筒の径方向に変位させることにより、ロック部材の係合部と外筒のフランジ部の外周部との係合を解除することができる。そのため、ガスケットが外筒の底部に当接した状態を維持したロック状態の解除を簡単な操作で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のシリンジの実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すシリンジの外筒の基端部(ロック機構を外した状態での基端部)を示す斜視図である。
【図3】図1に示すシリンジのロック機構を示す斜視図である。
【図4】図3に示すロック機構の1対の挟圧部材を示す平面図である。
【図5】図1に示すシリンジのロック状態を示す縦断面図である。
【図6】図5に示すシリンジのロック状態の解除を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のシリンジを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明のシリンジの実施形態を示す斜視図、図2は、図1に示すシリンジの外筒の基端部(ロック機構を外した状態での基端部)を示す斜視図、図3は、図1に示すシリンジのロック機構を示す斜視図、図4は、図3に示すロック機構の1対の挟圧部材を示す平面図、図5は、図1に示すシリンジのロック状態を示す縦断面図、図6は、図5に示すシリンジのロック状態の解除を説明するための図である。
【0021】
なお、以下では、説明の便宜上、図1、図5および図6中の右側を「先端」、左側を「基端(後端)」として説明を行う。
【0022】
図1に示すように、シリンジ1は、外筒2と、外筒2内で摺動し得るガスケット6と、ガスケット6を外筒2の軸方向に沿って移動操作する押し子3と、前記外筒2の基端部に装着されたロック機構7とを備えている。
【0023】
後に詳述するが、このようなシリンジ1において、ロック機構7は、ガスケット6が外筒2の底部に当接したときに、押し子3と係合して、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制する機能を有するものである。
【0024】
以下、シリンジ1を構成する各部を順次説明する。
外筒2は、有底筒状の部材で構成され、その先端部、すなわち、先端側底部の中央部には、外筒2の胴部に対し縮径した口部22が一体的に突出形成されている。この口部22からは、薬液等の液体が吸引または排出される。また、口部22には、図示しない穿刺針の基端部に設けられているハブが着脱自在に接続されるようになっている。
【0025】
外筒2の基端部は、開放しており、外筒2の基端部、すなわち、外筒2の基端外周には、フランジ23が一体的に形成されている(図2参照)。
【0026】
このフランジ23は、後述するロック機構7が装着される部位であり、外筒2の外側に突出する部分を有する。このフランジ23の外筒2の径方向に沿った一方向での両端部に、後述するロック機構7の支持部材9の1対の爪92が係合する。これにより、ロック機構7がフランジ23に装着される。
【0027】
また、フランジ23は、外筒2の径方向に沿った一方向での前記両端部に、基端側に突出し、互いに平行な1対のガイド24が設けられている。
【0028】
この1対のガイド24は、後述するロック機構7の1対の挟圧部材4a、4bの移動方向を外筒2の径方向に沿った一方向に規制するものである。
【0029】
また、1対のガイド24には、それぞれ、後述する挟圧部材4aの突起44aと挟圧部材4bの突起44bとが挿入される切り欠き25が形成されている。これにより、各挟圧部材4a、4bの移動範囲が所定範囲に規制される。
また、外筒2の外周面には、液量を示す図示しない目盛りが付されている。
【0030】
このような外筒2の構成材料としては、特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂が挙げられるが、その中でも、成形が容易であり、かつ水蒸気透過性が低い点で、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステルのような樹脂が好ましい。なお、外筒2の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であるのが好ましい。
【0031】
このような外筒2内には、弾性材料で構成されたガスケット6が挿入されている。ガスケット6の外周部には、複数(本実施形態では2つ)のリング状の突部が全周に亘って形成されており、これらの突部が外筒2の内周面に密着しつつ摺動することで、液密性をより確実に保持するとともに、摺動性の向上が図れる。
【0032】
また、ガスケット6には、その基端面に開放する中空部が形成されている。この中空部は、後述する押し子3のヘッド部が嵌入される。ガスケット6の中空部の内面には、凹凸が形成されている。
【0033】
ガスケット6の構成材料としては、特に限定されず、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの混合物等の弾性材料が挙げられる。
【0034】
押し子3は、棒状の本体部31を有している。
この本体部31は、横断面が十文字状をなしている。すなわち、本体部31は、周方向に等角度間隔で設けられ、径方向に突出するとともに押し子3の軸方向に沿って形成された4本のリブが形成されている。
【0035】
本体部31の先端側には、ガスケット6の中空部内に挿入され、ガスケット6と連結されるヘッド部が形成されている。ヘッド部の外周には、ガスケット6の中空部の内面の凹凸と嵌合し得る凹凸が形成されている。この嵌合により、ガスケット6と押し子3とが連結される。なお、ガスケット6と押し子3は、凹凸嵌合による連結に限らず、例えば螺合等により連結された構成、接着、融着等により固着された構成、一体成形された構成であってもよい。
【0036】
また、本体部31の基端側には、円盤状のフランジ32が形成されている。
さらに、本体部31の途中にも、フランジ33が形成されている。
【0037】
このフランジ33は、押し子3を先端側に押し切ったときに、後述するロック機構7の複数の突出部41a、41bと係合する係合部(第2の係合部)である。
【0038】
また、このフランジ33の先端側の面には、凸湾曲した傾斜面331が形成されている。これにより、フランジ33を先端側に円滑に押し切ることができる。
【0039】
このような押し子3の構成材料としては、特に限定されず、前述した外筒2の構成材料として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0040】
ここで、ロック機構7について詳述する。
ロック機構7は、ガスケット6が外筒2の底部に当接したときに、押し子3のフランジ33と係合して、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制する機能を有するものである。すなわち、ロック機構7および押し子3は、ガスケット6が外筒2の底部に当接したときに、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制するロック手段8を構成する。
【0041】
また、ロック機構7は、その外形が外筒2の中心軸を介して互いに反対方向に突出した形状をなし、指当て部としての機能をも有する。したがって、使用者は、シリンジ1を使用する際は、ロック機構7の先端側に手指を掛けて使用する。すなわち、指当て部は、ロック機構7の先端側に設けられている。これに対し、後述する操作部42a、42bは、ロック機構7の外周部に設けられている。そのため、シリンジ1を使用する際に、ロック機構7に手指を掛けて使用しても、ロック機構7のロック操作および解除操作を邪魔せず円滑に行うことができる。
【0042】
このようなロック機構7は、互いに重ねられた1対の挟圧部材4a、4bと、1対の挟圧部材4a、4bを重ねられた状態で外筒2に対し一括して支持する支持部材9とで構成されている。
【0043】
1対の挟圧部材4a、4bは、それぞれ、リング状をなしている。そして、1対の挟圧部材4a、4bは、それぞれ、前述した1対のガイド24に沿って移動可能に設けられている。すなわち、1対の挟圧部材4a、4bは、それぞれ、外筒2の径方向に沿った一方向に変位可能に設けられている。
【0044】
また、挟圧部材4aは、その外周部の一部に当該挟圧部材4aを押圧操作する操作部42aを有する。同様に、挟圧部材4bは、その外周部の一部に当該挟圧部材4bを押圧操作する操作部42bを有する。
【0045】
この操作部42a、42bを押圧することにより、挟圧部材4a、4bが外筒2の中心軸に対し直交する方向、すなわち1対のガイド24に沿った一方向に移動する。
【0046】
また、挟圧部材4aは、操作部42aと反対側の部分に、内側に突出した複数の突出部41aを有している。同様に、挟圧部材4bは、操作部42bと反対側の部分に、内側に突出した複数の突出部41bを有している。より具体的には、挟圧部材4aの前記一方向での一方側の部分に複数の突出部41aが設けられ、挟圧部材4bの前記一方向での他方側の部分に複数の突出部41bが設けられている。
【0047】
そして、一方の挟圧部材4aの複数の突出部41aと、他方の挟圧部材4bの複数の突出部41bとは、外筒2の中心軸を介して対向して配置される。
【0048】
各突出部41a、41bは、ガスケット6が外筒2の底部に当接したときに、押し子3のフランジ33の外周部と係合する係合部(第1の係合部)である。
【0049】
各突出部41aの基端側には、傾斜面411aが形成され、同様に、各突出部41bの基端側には、傾斜面411bが形成されている(図4参照)。これにより、ガスケット6が外筒2の底部に当接するまで押し子3を先端側へ円滑に移動させることができる。
【0050】
さらに、挟圧部材4aは、突出部41aと同じ側に、外周部から突出した弾性変形可能な1対の弾性部43aを有している。同様に、挟圧部材4bは、突出部41bと同じ側に、外周部から突出した弾性変形可能な1対の弾性部43bを有している。
【0051】
そして、一方の挟圧部材4aの各弾性部43aは、他方の挟圧部材4bの操作部42bの内側の部分に当接し、これと同様に、当該他方の挟圧部材4bの各弾性部43bは、当該一方の挟圧部材4aの操作部42aの内側の部分に当接している。
【0052】
このように1対の弾性部43aおよび1対の弾性部43bが配置されていることにより、複数の突出部41aおよび複数の突出部41bが外筒2の内側に付勢され、外力が付与されていない自然状態において、複数の突出部41aの先端と複数の突出部41bの先端との間の距離が押し子3のフランジ33の直径よりも若干小さくなる。
【0053】
また、弾性部43a、43bの弾性力に抗して、複数の突出部41aと複数の突出部41bとを互いに離間する方向に変位させることにより、複数の突出部41aの先端と複数の突出部41bの先端との間の距離を押し子3のフランジ33の直径よりも大きくすることができる。
【0054】
また、挟圧部材4aの外周部には、操作部42aが押圧される方向と直交する方向に突出する1対の突起44aが設けられている。同様に、挟圧部材4bの外周部には、操作部42bが押圧される方向と直交する方向に突出する1対の突起44bが設けられている。
【0055】
そして、図示しないが、挟圧部材4aの一方の突起44aと挟圧部材4bの当該一方の突起44aと同じ側の突起44bとは、ともに前述した外筒2の一方の切り欠き25内にその内側から挿入されている。同様に、挟圧部材4aの他方の突起aと挟圧部材4bの当該他方の突起aと同じ側の突起bとは、ともに前述した外筒2の他方の切り欠き25内にその内側から挿入されている。
【0056】
このような1対の挟圧部材4a、4bを支持する支持部材9は、本体部91と、本体部91から先端側に突出する1対の爪92とを有する。
【0057】
本体部91には、1対の挟圧部材4a、4bを基端側から覆うとともに、押し子3が挿通される開口部を有する環状をなしている。
【0058】
この本体部91から突出した1対の爪92は、前述した外筒2のフランジ23の先端側面に係合している。これにより、支持部材9が外筒2に対して固定されるとともに、1対の挟圧部材4a、4bが支持部材9により支持されている。
【0059】
この支持部材9は、1対の挟圧部材4a、4bを前述した1対のガイド24に沿って移動可能に支持している。
【0060】
また、このようなロック機構7を構成する各部の構成材料としては、特に限定されず、前述した外筒2の構成材料として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0061】
以上のように構成されたロック手段8によれば、ガスケット6が外筒2の先端側底部に当接するまで押し子3を移動させたときに、まず、押し子3のフランジ33の傾斜面331がロック機構7の各突出部41aの傾斜面411aと接触しながら先端側へ移動することにより、複数の突出部41aが弾性部43aの弾性力に抗して外筒2の中心軸とは反対側に変位する。同様に、押し子3のフランジ33の傾斜面331がロック機構7の各突出部41bの傾斜面411bと接触しながら基端側へ移動することにより、複数の突出部41bが弾性部43bの弾性力に抗して外筒2の中心軸とは反対側に変位する。これにより、複数の突出部41aの先端と複数の突出部41bの先端との間の距離が拡げられる。
【0062】
そして、押し子3のフランジ33が複数の突出部41aおよび複数の突出部41bを越えると、複数の突出部41a、41bは、弾性変形した弾性部43a、43bの弾性力により外筒2の中心軸側に変位して、図5に示すように、フランジ33の外周部の基端側の面に係合する。
【0063】
このような複数の突出部41a、41bと押し子3のフランジ33との係合により、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制する。すなわち、ガスケット6が外筒2の先端側底部に当接するまで押し子3を移動させたときに、複数の突出部41a、41bとフランジ33との係合により、押し子3の軸方向での位置をロックすることができる。
【0064】
このようなロック状態は、1対の挟圧部材4a、4bの操作部42a、42bに対して押し子3の中心軸側へ外力を付与することにより解除することができる。より具体的には、ロック状態において、操作者が1対の操作部42a、42bを互いに接近させるように力(図6中矢印aで示す方向の力)を加えて摘まんだ状態で、押し子3を基端部側へ引くことにより、複数の突出部41a、41bとフランジ33との係合を解除することができる。
【0065】
このように、複数の突出部41a、41bとフランジ33との係合を、外筒2の径方向での押圧操作により解除することができる。これにより、簡単な操作で、複数の突出部41a、41bとフランジ33との係合を解除することができる。また、複数の突出部41a、41bとフランジ33との係合を解除することにより、上述した操作を繰り返し行うことができる。
【0066】
また、前述したような1対の挟圧部材4a、4bを備えるロック手段8は、小型なものとなり、シリンジ1の操作性を良好なものとすることができる。
【0067】
以上説明したようなシリンジ1によれば、ガスケット6が外筒2の底部に当接したとき、複数の突出部41a、41bとフランジ33とが係合することにより、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制する。そのため、ガスケット6が外筒2の底部に当接した状態を維持することができる。すなわち、押し子3を外筒2の先端側へ押し切ったときに、その状態をロックすることができる。
【0068】
また、複数の突出部41a、41bが外筒2の径方向に変位して、複数の突出部41a、41bとフランジ33とが係合する。そのため、押し子3を回転操作することなく、押し子3を押し込むだけの簡単な操作で、ガスケット6が外筒2の底部に当接した状態を維持することができる。
【0069】
さらに、複数の突出部41a、41bを外筒2の径方向に変位させることにより、複数の突出部41a、41bとフランジ33との係合を解除することができる。そのため、上記ロック状態の解除も、1対の操作部42a、42bを摘まみながら押し子3を基端側へ移動させるという簡単な操作で行うことができる。
【0070】
特に、外筒2の内側に突出した複数の突出部41a、41bで構成され第1の係合部と、押し子3の途中に設けられたフランジ33で構成された第2の係合部との係合により前述したようなロック状態を実現することにより、ロック手段8を小型化できるとともに、シリンジ1の操作性を良好なものとすることができる。
【0071】
以上、本発明のシリンジを、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0072】
例えば、前述した実施形態では、第1の係合部が2対の突出部41a、41bで構成される場合を例に説明したが、第1の係合部を構成する突起の数は、これに限定されず、例えば、1つ以上3つ以下、または、5つ以上であってもよい。
【0073】
また、前述した実施形態では、押し子3に設けられたフランジ33の平面視形状が円形をなしているが、フランジ33の平面視形状は、これに限定されず、例えば、四角形、五角形、六角形等の多角形をなしていてもよい。また、押し子に設けられる第2の係合部は、フランジ状をなすものに限定されず、例えば、押し子の中心軸側から外側に突出する少なくとも1つの突起であってもよい。
【0074】
また、ロック機構7の外形は、前述したものに限定されない。ただし、ロック機構7の外形は、指当て部として機能し得る程度に外筒の中心軸を介して互いに反対方向に突出した形状をなすのが好ましい。なお、外筒に指当て部をロック機構とは別途設けてもよい。
【0075】
また、本発明のシリンジは、例えば、予め外筒とガスケットとで囲まれた空間(貯液空間)に、薬液等が収納されたプレフィルドシリンジと、通常のシリンジとのそれぞれに適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 シリンジ
2 外筒
3 押し子
4a 挟圧部材
4b 挟圧部材
6 ガスケット
7 ロック機構
8 ロック手段
9 支持部材
22 口部
23 フランジ
24 ガイド
25 切り欠き
31 本体部
32 フランジ
33 フランジ
41a 突出部
41b 突出部
42a 操作部
42b 操作部
43a 弾性部
43b 弾性部
44a 突起
44b 突起
91 本体部
92 爪
331 傾斜面
411a 傾斜面
411b 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に液体を吸引または排出する口部を有し、基端部が開放した有底筒状の外筒と、
前記外筒内に挿入されたガスケットと、
前記ガスケットを前記外筒の軸方向に沿って移動操作する押し子と、
前記外筒にその径方向に変位可能に設けられた第1の係合部と、前記押し子に設けられ、前記第1の係合部に係合し得る第2の係合部とを有し、前記ガスケットが前記外筒の底部に当接したときに、前記第1の係合部が前記外筒の径方向に変位して、前記第1の係合部と前記第2の係合部とが係合することにより、前記押し子が前記外筒の軸方向に移動するのを規制するロック手段とを備え、
前記ロック手段は、前記外筒の径方向に押圧操作されることにより、前記第1の係合部と前記第2の係合部との係合を解除する操作部を有することを特徴とするシリンジ。
【請求項2】
前記押し子を前記外筒に対してその中心軸まわりに回転させない状態で、前記ガスケットが前記外筒の底部に当接するまで前記押し子を前記外筒の先端部側に移動させることにより、前記第1の係合部と前記第2の係合部とが係合する請求項1に記載のシリンジ。
【請求項3】
前記第1の係合部は、前記外筒の内側に突出した複数の突出部で構成され、
前記第2の係合部は、前記押し子の途中に設けられたフランジで構成されている請求項2に記載のシリンジ。
【請求項4】
前記ロック手段は、前記複数の突出部を前記外筒の内側へ付勢する複数の弾性部を有する請求項3に記載のシリンジ。
【請求項5】
前記ロック手段は、互いに重ねられ、前記外筒の径方向に沿った一方向に変位可能に設けられたリング状の1対の挟圧部材を有し、
前記1対の挟圧部材は、一方の挟圧部材の前記一方向での一方側の部分に少なくとも1つの前記突出部および前記弾性部が設けられ、他方の挟圧部材の前記一方向での他方側の部分に少なくとも1つの前記突出部および前記弾性部が設けられ、
前記一方の挟圧部材の前記弾性部が前記他方の挟圧部材に当接するとともに、前記他方の挟圧部材の前記弾性部が前記一方の挟圧部材に当接している請求項4に記載のシリンジ。
【請求項6】
前記操作部は、前記一方の挟圧部材の外周部の一部と前記他方の挟圧部材の外周部の一部とで構成されている請求項4または5に記載のシリンジ。
【請求項7】
前記ロック手段は、外筒2の中心軸を介して互いに反対方向に突出した形状をなす指当て部として機能する部分を有する請求項1ないし6のいずれかに記載のシリンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−179240(P2012−179240A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44147(P2011−44147)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】