説明

シリンジ

【課題】ガスケットが外筒の底部に当接した状態の維持およびその解除が簡単な操作で行うことができるシリンジを提供すること。
【解決手段】シリンジ10は、押し子3に設けられ、外筒2の指当て部4に係合し得る1対の突起74、75を有し、ガスケット6が外筒2の底部に当接したとき、1対の突起74、75が外筒2の径方向に変位して指当て部4と係合することにより、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制するロック手段8を備える。ロック手段8は、外筒2の径方向に押圧操作されることにより、指当て部4と1対の突起74、75との係合を解除し得る操作部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば患者へ薬液等の液体を投与するのに用いるシリンジは、一般に、先端部に突出形成された口部を有する外筒と、外筒の基端部に形成されたフランジ(指当て部)と、外筒内に挿入されたガスケットと、ガスケットを外筒の軸方向に沿って移動操作する押し子とを備える。
【0003】
従来、このようなシリンジとしては、ガスケットが外筒の所定位置よりも基端側へ移動しないように、押し子が外筒の軸方向に移動する範囲を制限するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のシリンジは、ガスケットが外筒の軸方向での途中に位置する状態で、外筒側に設けられた係合部と、押し子に設けられた係合部とが係合することにより、その位置よりも基端方向に押し子が移動するのを防止する。
【0005】
このような特許文献1に係るシリンジは、ガスケットが外筒の底部に当接する状態で押し子の移動を規制することができない。そのため、例えば、バイアル瓶内にシリンジ内の液体を注入する際に、バイアル瓶内の圧力が高まることによって、押し子が勝手に戻されてしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献1の図2等には、押し子の基端側への移動の規制およびその解除の双方が可能な構成のシリンジが開示されているが、かかる構成のシリンジでは、押し子をその軸線回りに回転させるという操作を要し、操作性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−265607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ガスケットが外筒の底部に当接した状態の維持およびその解除が簡単な操作で行うことができるシリンジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(12)の本発明により達成される。
(1) 先端部に液体を吸引または排出する口部と、開放した基端部に形成されたフランジ部とを有する有底筒状の外筒と、
前記外筒内に挿入されたガスケットと、
前記ガスケットを前記外筒の軸方向に沿って移動操作する押し子と、
前記押し子に設けられ、前記外筒の前記フランジ部に係合し得る係合部を有し、前記ガスケットが前記外筒の底部に当接したとき、前記係合部が前記外筒の径方向に変位して前記フランジ部と係合することにより、前記押し子が前記外筒の軸方向に移動するのを規制するロック手段とを備え、
前記ロック手段は、前記外筒の径方向に押圧操作されることにより、前記フランジ部と前記係合部との係合を解除し得る操作部を有することを特徴とするシリンジ。
【0010】
(2) 前記押し子を前記外筒に対してその中心軸まわりに回転させない状態で、前記ガスケットが前記外筒の底部に当接するまで前記押し子を前記外筒の先端部側に移動させることにより、前記フランジ部と前記係合部とが係合する上記(1)に記載のシリンジ。
【0011】
(3) 前記ロック手段は、前記押し子から延出する長尺状の弾性変形可能な弾性部を有し、
前記係合部は、前記弾性部の先端部に設けられている上記(1)または(2)に記載のシリンジ。
【0012】
(4) 前記係合部は、前記押し子の中心軸側に突出する突起である上記(3)に記載のシリンジ。
【0013】
(5) 前記弾性部は、前記押し子の中心軸とは反対側を凸とするように湾曲した形状をなす上記(3)または(4)に記載のシリンジ。
【0014】
(6) 前記押し子が前記外筒に対して軸線回りに回転するのを防止する押し子回転防止手段を有する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のシリンジ。
【0015】
(7) 前記押し子には、その軸方向に沿って形成されたリブが設けられており、
前記押し子回転防止手段は、前記外筒に装着された状態で、前記リブを挟むように前記外筒の内側に突出した1対の突起を有する上記(6)に記載のシリンジ。
【0016】
(8) 前記押し子回転防止手段は、前記押し子が前記外筒から外れるのを防止する機能をも有する上記(6)または(7)に記載のシリンジ。
【0017】
(9)前記ロック手段は、前記押し子に着脱自在に装着され、前記係合部を有するロック部材を備える上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のシリンジ。
【0018】
(10) 前記ロック部材は、前記押し子の前記ガスケットとは反対側の基端部に装着される本体部と、前記本体部から前記外筒側に延出する長尺状の弾性変形可能な弾性部とを有し、
前記係合部は、前記弾性部の先端部に設けられている上記(9)に記載のシリンジ。
【0019】
(11) 前記ロック部材は、前記押し子に装着した状態で、前記押し子に対してその中心軸まわりに回転するのを防止するロック部材回転防止手段を有する上記(9)または(10)に記載のシリンジ。
【0020】
(12) 前記押し子回転防止手段は、前記外筒に装着して用いられ、その装着状態で、前記押し子に係合して、前記押し子が前記外筒に対して軸回りに回転するのを防止する押し子回転防止部材を有する上記(6)ないし(11)のいずれかに記載のシリンジ。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ガスケットが外筒の底部に当接したときに、押し子に設けたロック部材の係合部と外筒のフランジ部の外周部とが係合することにより、押し子が外筒の軸方向に移動するのを規制する。そのため、ガスケットが外筒の底部に当接した状態を維持することができる。
【0022】
また、ロック部材の係合部が外筒の径方向に変位して、ロック部材の係合部と外筒のフランジ部の外周部とが係合する。そのため、押し子を回転操作することなく、押し子を押し込むだけの簡単な操作で、ガスケットが外筒の底部に当接した状態を維持することができる。
【0023】
さらに、ロック部材の係合部を外筒の径方向に変位させることにより、ロック部材の係合部と外筒のフランジ部の外周部との係合を解除することができる。そのため、ガスケットが外筒の底部に当接した状態を維持したロック状態の解除を簡単な操作で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のシリンジの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示すシリンジの回転防止部材を示す平面図である。
【図3】図2に示す回転防止部材を示す側面図である。
【図4】図1に示すシリンジのロック部材を示す平面図である。
【図5】図1に示すシリンジのロック状態を示す縦断面図である。
【図6】図5に示すシリンジのロック状態の解除を説明するための図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るロック部材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のシリンジを添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明のシリンジの第1実施形態を示す斜視図、図2は、図1に示すシリンジの回転防止部材を示す平面図、図3は、図2に示す回転防止部材を示す側面図、図4は、図1に示すシリンジのロック部材を示す平面図、図5は、図1に示すシリンジのロック状態を示す縦断面図、図6は、図5に示すシリンジのロック状態の解除を説明するための図である。
【0026】
なお、以下では、説明の便宜上、図1、図5および図6中の右側を「先端」、左側を「基端(後端)」として説明を行う。
【0027】
図1に示すように、シリンジ10は、シリンジ本体1と、シリンジ本体1の後述する指当て部4の外周部に着脱自在に装着された押し子回転防止部材5と、シリンジの後述する押し子3に着脱自在に装着されたロック部材7とを備えている。
【0028】
シリンジ本体1は、外筒2と、外筒2内で摺動し得るガスケット6と、ガスケット6を外筒2の軸方向に沿って移動操作する押し子3とを備えている。ガスケット6は、押し子3の先端に連結されている。
【0029】
後に詳述するが、このようなシリンジ10において、押し子回転防止部材5は、押し子3が外筒2内で回転するのを防止する機能を有するものであり、また、ロック部材7は、ガスケット6が外筒2の底部に当接したときに、指当て部4と協働して、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制する機能を有するものである。また、本実施形態では、押し子回転防止部材5およびロック部材7は、それぞれ、シリンジ本体1に対して着脱自在であり、これらがロック部材セットを構成する。
【0030】
以下、シリンジ10を構成する各部を順次説明する。なお、以下では、特に断りのない限り、押し子回転防止部材5およびロック部材7がシリンジ本体1に装着された状態でのシリンジ10の構成を説明する。
【0031】
外筒2は、有底筒状の部材で構成され、その先端部、すなわち、先端側底部の中央部には、外筒2の胴部に対し縮径した口部22が一体的に突出形成されている。この口部22からは、薬液等の液体が吸引または排出される。また、口部22には、図示しないバイアル等の薬剤容器と連通するための穿刺針や各種連通用部材が着脱自在に接続されるようになっている。
【0032】
外筒2の基端部は、開放しており、外筒2の基端部、すなわち、外筒2の基端外周には、指当て部4(フランジ部)が一体的に形成されている。
【0033】
指当て部4は、外筒2の中心軸を介して互いに反対方向に突出した1対の板状部で構成されている。また、指当て部4は、外筒2の中心軸に直交する一方向を長手とする長手形状をなしている。本実施形態では、外筒2の軸方向から見たとき、指当て部4は、長方形の各辺をそれぞれ外側が凸となるように湾曲させた形状をなしている。これにより、指当て部4に押し子回転防止部材5を装着しやすくすることができる。
【0034】
この指当て部4には、後述するように指当て部として機能し得る部位を拡張する機能をも有する押し子回転防止部材5が装着され、使用者は、シリンジ10を使用する際は、指当て部4および押し子回転防止部材5の長手方向での両端部に手指を掛けて使用する。
【0035】
また、指当て部4は、その短手方向での端部も外筒2の外周面に対して突出しており、その突出した部分が、後に詳述するロック部材7の1対の突起74、75と係合する係合部(第1の係合部)を構成する。
【0036】
このような指当て部4の形状は、板状をなし、外筒2の中心軸を介して互いに反対方向に突出していれば、図示の形状には限定されず、この他、例えば、楕円形、長方形の角部を丸めた形状等が挙げられる。
また、外筒2の外周面には、液量を示す図示しない目盛りが付されている。
【0037】
このような外筒2の構成材料としては、特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂が挙げられるが、その中でも、成形が容易であり、かつ水蒸気透過性が低い点で、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステルのような樹脂が好ましい。なお、外筒2の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であるのが好ましい。
【0038】
このような外筒2内には、弾性材料で構成されたガスケット6が挿入されている。ガスケット6の外周部には、複数(本実施形態では2つ)のリング状の突部が全周に亘って形成されており、これらの突部が外筒2の内周面に密着しつつ摺動することで、液密性をより確実に保持するとともに、摺動性の向上が図れる。
【0039】
また、ガスケット6には、その基端面に開放する中空部が形成されている。この中空部は、後述する押し子3のヘッド部が嵌入される。ガスケット6の中空部の内面には、凹凸が形成されている。
【0040】
ガスケット6の構成材料としては、特に限定されず、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの混合物等の弾性材料が挙げられる。
【0041】
押し子3は、棒状の本体部31を有している。
この本体部31は、横断面が十文字状をなしている。すなわち、本体部31は、周方向に等角度間隔で設けられ、径方向に突出するとともに押し子3の軸方向に沿って形成された4本のリブが形成されている。
【0042】
本体部31の先端側には、ガスケット6の中空部内に挿入され、ガスケット6と連結されるヘッド部が形成されている。ヘッド部の外周には、ガスケット6の中空部の内面の凹凸と嵌合し得る凹凸が形成されている。この嵌合により、ガスケット6と押し子3とが連結される。なお、ガスケット6と押し子3は、凹凸嵌合による連結に限らず、例えば螺合等により連結された構成、接着、融着等により固着された構成、一体成形された構成であってもよい。
【0043】
また、本体部31の基端側には、円盤状のフランジ32が形成されている。このフランジ32には、後に詳述するロック部材7が装着されている。
【0044】
このような押し子3の構成材料としては、特に限定されず、前述した外筒2の構成材料として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0045】
ここで、押し子回転防止部材5およびロック部材7について詳述する。
まず、押し子回転防止部材5について説明する。
【0046】
押し子回転防止部材5は、図1に示すように、前述した外筒2の指当て部4に着脱自在に装着されている。
【0047】
この押し子回転防止部材5は、環状をなす本体部を有する。このような押し子回転防止部材5は、押し子3が挿通される開口部51を有する。
【0048】
そして、押し子回転防止部材5には、開口部51内へ突出する1対の突起52、53が形成されている。本実施形態では、押し子回転防止部材5は、指当て部4に沿って形成され、長手形状をなしており、1対の突起52、53は、押し子回転防止部材5の長手方向での一端側に設けられている。
【0049】
この1対の突起52、53は、前述した押し子3の本体部31の4つのリブのうち、1つのリブの外側端部を挟んでいる。
【0050】
このような1対の突起52、53は、押し子3を軸方向に沿って案内する機能を有する。また、1対の突起52、53は、押し子3が軸線回りに回転するのを防止する押し子回転防止手段を構成する。このような押し子回転防止手段により、後に詳述する1対の突起74、75と指当て部4との係合を確実なものとすることができる。
【0051】
また、1対の突起52、53は、押し子3のヘッド部との当接により、押し子3が外筒2から外れるのを防止する押し子抜け防止手段としての機能をも有する。これにより、押し子3を基端側へ移動させる際に、操作者が押し子3の移動量を気にしなくて済むので、操作性を高めることができる。
【0052】
なお、このような押し子3の回転防止のための突起は、2対以上設けられていてもよい。また、押し子3の回転を防止できれば、1対の突起のうちの一方の突起が係合する押し子3のリブと、他方の突起が係合する押し子3のリブとが異なっていてもよい。また、開口部51の平面視形状を押し子3の横断面形状に対応した形状、すなわち十字状とすることによっても、押し子3の回転を防止することができる。
【0053】
また、押し子回転防止部材5は、指当て部4に装着することにより、その指当て部として機能し得る部位を拡張する機能をも有する。
【0054】
本実施形態では、押し子回転防止部材5は、指当て部4の長手方向での両端部を覆うように形成された部分を有し、その部分が指当て部(フランジ)の一部として機能する。
【0055】
また、押し子回転防止部材5は、指当て部4の短手方向での両端部の側面および先端側面を露出するように形成されている。そして、後述するロック部材7の1対の突起74、75は、指当て部4の短手方向での両端部の先端側面に係合する。なお、押し子回転防止部材5は、指当て部4の短手方向での両端部の側面および先端側面をも覆うように形成されていてもよい。この場合、後述するロック部材7の1対の突起74、75は、押し子回転防止部材5の先端側面に係合することとなる。
【0056】
このような押し子回転防止部材5は、図2に示すように、互いに分割された第1の部分5aおよび第2の部分5bと、第1の部分5aと第2の部分5bとを互いに回動可能に連結する連結部5cとを備えている。すなわち、押し子回転防止部材5は、第1の部分5aと第2の部分5bとが連結部5cを中心として図2中矢印に示す方向に開閉可能に構成されている。
【0057】
このような押し子回転防止部材5は、第1の部分5aと第2の部分5bとが閉じた状態で、指当て部4に装着されている。なお、図2は、第1の部分5aと第2の部分5bとが開いた状態を示している。
【0058】
また、第1の部分5aは、押し子回転防止部材5の長手方向での一端部側の部分であり、第2の部分5bは、押し子回転防止部材5の長手方向での他端側の部分である。よって、第1の部分5aおよび第2の部分5bは、それぞれ、指当て部として機能する部分を有する。また、第1の部分5aには、1対の突起52、53が形成されている。
【0059】
また、第1の部分5aには、指当て部4の長手方向での一端部が挿入される空間54が形成され、同様に、第2の部分5bには、指当て部4の長手方向での他端部が挿入される空間55が形成されている。また、第2の部分5bには、欠損部56が形成されている。
【0060】
また、第1の部分5aの空間54内の面には、複数のリブ57が形成されている。同様に、第2の部分5bの空間55内の面には、複数のリブ58が形成されている。図示の構成では、各リブ57、58は、直線状をなし、互いに平行に配置されている。また、各リブ57、58は、指当て部4に押し子回転防止部材5を装着する際、その指当て部4が挿入される方向(移動する方向)に沿って延在している。
【0061】
このような複数のリブ57、58を設けることにより、指当て部4への押し子回転防止部材5の装着を容易なものとしつつ、押し子回転防止部材5が指当て部4から外れるのを防止することができる。
【0062】
このような第1の部分5aと第2の部分5bとを連結する連結部5cは、第1の部分5aおよび第2の部分5bと一体的に形成されている。また、連結部5cは、容易に曲げ変形し得るように薄肉に形成されている。これにより、連結部5cを曲げ変形させることにより、第1の部分5aおよび第2の部分5bを連結部5cを中心として回動させることができる。
【0063】
なお、連結部5cの構成は、前記のものに限定されず、この他、例えば、軸と、その軸を支持する軸受けとで構成されたヒンジ構造部等が挙げられる。また、連結部5cを省略することもできる。
【0064】
このような押し子回転防止部材5を指当て部4に装着する際は、図2に示すように第1の部分5aと第2の部分5bとを開いた状態で、例えば、第1の部分5aの空間54内に指当て部4の長手方向での一端部を挿入した後、第2の部分5bを第1の部分5aに対して閉じる方向に回動させて、欠損部56を通じて第2の部分5bの空間55内に指当て部4の長手方向での他端部を挿入する。これにより、第1の部分5aと第2の部分5bとが閉じた状態となり、押し子回転防止部材5が指当て部4に装着される。なお、第2の部分5bの空間55への指当て部4の挿入を第1の部分5aの空間54への指当て部4の挿入よりも先に行ってもよいし、また、第1の部分5aの空間54への指当て部4の挿入と第2の部分5bの空間55への指当て部4の挿入とが同時であってもよいことは、言うまでもない。
【0065】
また、押し子回転防止部材5の構成材料としては、特に限定されず、前述した外筒2の構成材料として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0066】
次に、ロック部材7について説明する。
ロック部材7は、ガスケット6が外筒2の底部に当接したときに、指当て部4と協働して、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制する機能を有するものである。すなわち、ロック部材7および指当て部4は、ガスケット6が外筒2の底部に当接したときに、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制するロック手段8を構成する。
【0067】
ロック部材7は、押し子3のフランジ32に装着される本体部71と、1対の弾性部材72、73(弾性部)と、1対の突起74、75とを有している。
【0068】
本体部71は、押し子3のガスケット6とは反対側の基端部、すなわちフランジ32に対して着脱自在に装着される部位であり、フランジ32を基端側から覆うように設けられ、フランジ32に沿って円形をなしている。このようなフランジ32に装着可能な本体部71を有することにより、押し子3に対するロック部材7の装着を容易なものとすることができる。
【0069】
この本体部71には、その先端側に押し子3の中心軸側に向けて突出する1対の突起76、77が形成されている(図4参照)。
【0070】
この1対の突起76、77は、前述した押し子3の本体部31の4つのリブのうち、1つのリブの外側端部を挟んでいる。
【0071】
このような1対の突起76、77は、ロック部材7が押し子3に対してその軸線回りに回転するのを防止するロック部材回転防止手段としての機能を有する。これにより、フランジ32が円形をなす場合においても、後述するような1対の突起74、75と指当て部4との係合を確実なものとすることができる。
【0072】
この本体部71には、先端方向、すなわちロック部材7を押し子3に装着した状態での外筒2側に突出する長尺状の1対の弾性部材72、73が設けられている。この弾性部材72、73は、それぞれ、本体部71に片持ち支持されており、弾性部材72の先端部、すなわち、自由端部には、内側に向けて突出する爪状の突起74が形成されている。同様に、弾性部材73の先端部には、外側に向けて突出する爪状の突起75が形成されている。
【0073】
1対の弾性部材72、73は、それぞれ、長尺状をなし、押し子3の長手方向に沿って設けられている。また、1対の弾性部材72、73は、指当て部4の短手方向に押し子3を介して対向している。また、1対の弾性部材72、73は、それぞれ、押し子3の中心軸とは反対側を凸とするように湾曲した形状をなしている。本実施形態では、1対の弾性部材72、73は、それぞれ、帯状をなし、その厚さ方向に湾曲した形状をなしている。
【0074】
また、弾性部材72、73は、それぞれ、押し子3の中心軸に接近離間する方向に弾性変形し得るように構成されている。すなわち、1対の弾性部材72、73は、それぞれ、外筒2の径方向に弾性変形可能に設けられている。これにより、弾性部材72に支持された突起74、および、弾性部材73に支持された突起75を外筒2の径方向に変位させることができる。そのため、1対の突起74、75と指当て部4との係合およびその解除を簡単化することができる。
【0075】
この1対の弾性部材72、73は、押し子3の軸に対して対称となるように設けられ、外力が付与されていない自然状態において、突起74の先端と突起75の先端との間の距離が指当て部4の短手方向での幅よりも若干小さくなるように構成されている。
【0076】
このような1対の弾性部材72、73は、それぞれ、前述したような湾曲した形状をなしているので、1対の突起74、75が指当て部4に係合した状態で、指当て部4および押し子回転防止部材5よりも基端側の部分を互いに接近させる方向(図6中矢印aで示す方向)の外力を付与することにより、突起74の先端と突起75の先端との間の距離を指当て部4の短手方向での幅よりも大きくすることができる。これにより、1対の突起74、75と指当て部4との係合を簡単に解除することができる。
【0077】
突起74は、押し子3の中心軸側へ突出し、ガスケット6が外筒2の底部に当接したときに、指当て部4の短手方向での一端部と係合する係合部(第2の係合部)である。
【0078】
同様に、突起75は、押し子3の中心軸側へ突出し、ガスケット6が外筒2の底部に当接したときに、指当て部4の短手方向での他端部と係合する係合部(第2の係合部)である。
【0079】
突起74の先端側には、傾斜面741が形成され、同様に、突起75の先端側には、傾斜面751が形成されている(図4参照)。
【0080】
このようなロック部材7は、図4に示すように、互いに分割された第1の部分7aおよび第2の部分7bと、第1の部分7aと第2の部分7bとを互いに回動可能に連結する連結部7cとを備えている。すなわち、ロック部材7は、第1の部分7aと第2の部分7bとが連結部7cを中心として図4中矢印に示す方向に開閉可能に構成されている。
【0081】
このようなロック部材7は、第1の部分7aと第2の部分7bとが閉じた状態で、押し子3のフランジ32に装着されている。なお、図4は、第1の部分7aと第2の部分7bとが開いた状態を示している。
【0082】
また、第1の部分7aは、ロック部材7の弾性部材72、突起74および1対の突起76、77を含む部分であり、第2の部分7bは、ロック部材7の弾性部材73および突起75を含む部分である。
【0083】
また、第1の部分7aには、フランジ32の外周部の一部が挿入される空間78が形成され、同様に、第2の部分7bには、フランジ32の外周部の残部が挿入される空間79が形成されている。
【0084】
また、第2の部分7bの連結部7cとは反対側の端部には、突起82が形成されており、第1の部分7aの連結部7cとは反対側の端部には、突起82と係合し得る凹部81が形成されている。この突起82と凹部81とが係合することにより、第1の部分7aと第2の部分7bとが閉じた状態を保持することができる。
【0085】
このような第1の部分7aと第2の部分7bとを連結する連結部7cは、第1の部分7aおよび第2の部分7bと一体的に形成されている。また、連結部7cは、容易に曲げ変形し得るように薄肉に形成されている。これにより、連結部7cを曲げ変形させることにより、第1の部分7aおよび第2の部分7bを連結部7cを中心として回動させることができる。
【0086】
なお、連結部7cの構成は、前記のものに限定されず、この他、例えば、軸と、その軸を支持する軸受けとで構成されたヒンジ構造部等が挙げられる。また、連結部7cを省略することもできる。
【0087】
このようなロック部材7を押し子のフランジ32に装着する際は、図4に示すように第1の部分7aと第2の部分7bとを開いた状態で、例えば、第1の部分7aの空間78内にフランジ32の外周部の一部を挿入した後、第2の部分7bを第1の部分7aに対して閉じる方向に回動させて、第2の部分7bの空間79内にフランジ32の外周部の残部を挿入する。これにより、第1の部分7aと第2の部分7bとが閉じた状態となり、ロック部材7がフランジ32に装着される。なお、第2の部分7bの空間79へのフランジ32の挿入を第1の部分7aの空間78へのフランジ32の挿入よりも先に行ってもよいし、また、第1の部分7aの空間78へのフランジ32の挿入と第2の部分7bの空間79へのフランジ32の挿入とが同時であってもよいことは、言うまでもない。
【0088】
このようなロック部材7の構成材料としては、特に限定されず、前述した外筒2の構成材料として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0089】
以上のように構成されたロック手段8によれば、ガスケット6が外筒2の先端側底部に当接するまで押し子3を移動させたときに、まず、傾斜面741が押し子回転防止部材5と接触しながら基端側へ移動することにより、突起74が弾性部材72の弾性力に抗して押し子3の中心軸とは反対側に変位する。同様に、傾斜面751が押し子回転防止部材5と接触しながら基端側へ移動することにより、突起75が弾性部材73の弾性力に抗して押し子3の中心軸とは反対側に変位する。これにより、1対の突起74、75の先端同士の間の距離が拡げられる。
【0090】
その状態で、突起74、75は、押し子回転防止部材5の側面および指当て部4の側面に沿って移動した後、押し子回転防止部材5の側面および指当て部4の側面を越えると、弾性変形した弾性部材72の弾性力により押し子3の中心軸側に変位して、図5に示すように、指当て部4の外周部の先端側の面に係合する。
【0091】
このような突起74、75と指当て部4との係合により、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制する。すなわち、ガスケット6が外筒2の先端側底部に当接するまで押し子3を移動させたときに、突起74、75と指当て部4との係合により、押し子3の軸方向での位置をロックすることができる。
【0092】
このようなロック状態は、各弾性部材72、73に対して押し子3の中心軸側へ外力を付与することにより解除することができる。より具体的には、ロック状態において、操作者が1対の弾性部材72、73の指当て部4および押し子回転防止部材5よりも基端側の部分を互いに接近させるように力(図6中矢印aで示す方向の力)を加えて摘まんだ状態で、押し子3を基端部側へ引くことにより、突起74、75と指当て部4との係合を解除することができる。
【0093】
このように、1対の突起74、75と指当て部4との係合を、外筒2の径方向での押圧操作により解除することができる。これにより、簡単な操作で、1対の突起74、75と指当て部4との係合を解除することができる。また、1対の突起74、75と指当て部4との係合を解除することにより、上述した操作を繰り返し行うことができる。ここで、1対の弾性部材72、73は、突起74、75と指当て部4との係合を解除する操作を行うための操作部を構成するとも言える。
【0094】
このようなロック状態の解除の際、押し子3を基端部側へ引き続けようとしても、前述したように、押し子回転防止部材5の1対の突起52、53が押し子3のヘッド部と当接するので、押し子3が外筒2から抜けるのを防止することができる。
【0095】
以上説明したようなシリンジ本体1によれば、ガスケット6が外筒2の底部に当接したとき、1対の突起74、75と指当て部4とが係合することにより、押し子3が外筒2の軸方向に移動するのを規制する。そのため、ガスケット6が外筒2の底部に当接した状態を維持することができる。すなわち、押し子3を外筒2の先端側へ押し切ったときに、その状態をロックすることができる。
【0096】
また、1対の突起74、75が外筒2の径方向に変位して、1対の突起74、75と指当て部4とが係合する。そのため、押し子3を回転操作することなく、押し子3を押し込むだけの簡単な操作で、ガスケット6が外筒2の底部に当接した状態を維持することができる。
【0097】
さらに、1対の突起74、75を外筒2の径方向に変位させることにより、1対の突起74、75と指当て部4との係合を解除することができる。そのため、上記ロック状態の解除も、1対の弾性部材72、73を摘まみながら押し子3を基端側へ移動させるという簡単な操作で行うことができる。
【0098】
<第2実施形態>
次いで、本発明の第2実施形態について説明する。
【0099】
図7は、本発明の第2実施形態に係るロック部材を示す平面図である。
以下、第2本実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0100】
本実施形態は、押し子回転防止部材の構成が異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。
【0101】
本実施形態の押し子回転防止部材5Aは、前述した第1実施形態の押し子回転防止部材5において、第2の部分5bおよび連結部5cを省略した構成を有する。すなわち、押し子回転防止部材5Aは、1対の突起52、53を有する第1の部分5aのみで構成されている。このように構成された押し子回転防止部材5Aは、指当て部4に対する着脱が容易となる。
【0102】
また、第2実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0103】
以上、本発明のシリンジを、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。
【0104】
また、前述した実施形態では、ロック部材が分割された2部材を有する構成である場合を例に説明したが、これに限定されず、押し子3のフランジ32に嵌合し得る一部材でロック部材を構成してもよい。
【0105】
また、前述した実施形態では、押し子回転防止部材が指当て部とは別体として形成され、押し子回転防止部材が指当て部に対して着脱自在である場合を例に説明したが、押し子回転防止部材が指当て部または外筒2と一体的に形成され、シリンジの一部を構成していてもよい。また、押し子回転防止部材は、必要に応じて省略することができる。
【0106】
また、前述した実施形態では、ロック部材7が押し子3とは別部材として形成され、ロック部材7が押し子3に対して着脱自在である場合を例に説明したが、ロック部材7が押し子3と一体的に形成されシリンジの一部を構成していてもよい。
【0107】
また、本発明のシリンジは、例えば、予め外筒とガスケットとで囲まれた空間(貯液空間)に、薬液等が収納されたプレフィルドシリンジと、通常のシリンジとのそれぞれに適用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 シリンジ本体
2 外筒
3 押し子
4 指当て部
5 押し子回転防止部材
5A 押し子回転防止部材
5a 第1の部分
5b 第2の部分
5c 連結部
6 ガスケット
7 ロック部材
7a 第1の部分
7b 第2の部分
7c 連結部
8 ロック手段
10 シリンジ
22 口部
31 本体部
32 フランジ
51 開口部
52 突起
53 突起
54 空間
55 空間
56 欠損部
57 リブ
58 リブ
71 本体部
72 弾性部材
73 弾性部材
74 突起
75 突起
76 突起
77 突起
78 空間
79 空間
81 凹部
82 突起
741 傾斜面
751 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に液体を吸引または排出する口部と、開放した基端部に形成されたフランジ部とを有する有底筒状の外筒と、
前記外筒内に挿入されたガスケットと、
前記ガスケットを前記外筒の軸方向に沿って移動操作する押し子と、
前記押し子に設けられ、前記外筒の前記フランジ部に係合し得る係合部を有し、前記ガスケットが前記外筒の底部に当接したとき、前記係合部が前記外筒の径方向に変位して前記フランジ部と係合することにより、前記押し子が前記外筒の軸方向に移動するのを規制するロック手段とを備え、
前記ロック手段は、前記外筒の径方向に押圧操作されることにより、前記フランジ部と前記係合部との係合を解除し得る操作部を有することを特徴とするシリンジ。
【請求項2】
前記押し子を前記外筒に対してその中心軸まわりに回転させない状態で、前記ガスケットが前記外筒の底部に当接するまで前記押し子を前記外筒の先端部側に移動させることにより、前記フランジ部と前記係合部とが係合する請求項1に記載のシリンジ。
【請求項3】
前記ロック手段は、前記押し子から延出する長尺状の弾性変形可能な弾性部を有し、
前記係合部は、前記弾性部の先端部に設けられている請求項1または2に記載のシリンジ。
【請求項4】
前記係合部は、前記押し子の中心軸に向かって突出する突起である請求項3に記載のシリンジ。
【請求項5】
前記弾性部は、前記押し子の中心軸とは反対側を凸とするように湾曲した形状をなす請求項3または4に記載のシリンジ。
【請求項6】
前記押し子が前記外筒に対して軸線回りに回転するのを防止する押し子回転防止手段を有する請求項1ないし5のいずれかに記載のシリンジ。
【請求項7】
前記押し子には、その軸方向に沿って形成されたリブが設けられており、
前記押し子回転防止手段は、前記外筒に装着された状態で、前記リブを挟むように前記外筒の内側に突出した1対の突起を有する請求項6に記載のシリンジ。
【請求項8】
前記押し子回転防止手段は、前記押し子が前記外筒から外れるのを防止する機能をも有する請求項6または7に記載のシリンジ。
【請求項9】
前記ロック手段は、前記押し子に着脱自在に装着され、前記係合部を有するロック部材を備える請求項1ないし8のいずれかに記載のシリンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−179241(P2012−179241A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44148(P2011−44148)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】