説明

シングルベース発射薬

【課題】人体及び環境に優しい組成物であると共に、機械的特性、経時安定性及び燃焼性に優れ、かつ製造性の良好なシングルベース発射薬を提供する。
【解決手段】シングルベース発射薬は、成分(a)ニトロセルロース、成分(b)アセチルクエン酸誘導体及び成分(c)経時安定剤を含有する。成分(b)アセチルクエン酸誘導体の含有量が成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して6.5〜9質量部に設定され、かつ成分(c)経時安定剤の含有量が成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して1.5〜3.5質量部に設定される。成分(b)アセチルクエン酸誘導体としては、アセチルクエン酸トリブチル又はアセチルクエン酸トリヘキシルが好ましい。成分(c)経時安定剤としては、ジフェニルウレア誘導体が好ましく、具体的にはメチルジフェニルウレア又はジメチルジフェニルウレアが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば大口径の戦車砲、野戦砲等に使用される弾薬に用いられるシングルベース発射薬に関する。さらに詳しくは、機械的特性、経時安定性及び燃焼性に優れ、製造性の良いシングルベース発射薬に関する。
【背景技術】
【0002】
発射薬の分野において、ニトロセルロースを主成分とするシングルベース発射薬は大口径の戦車砲、野戦砲等の弾薬として広く使用されている。しかし、多くのシングルベース発射薬には、発ガン性や環境に対して悪影響を与えることが懸念されるジニトロトルエンが含まれていることから好ましい組成物とはいえない。なお、ジニトロトルエンは、PRTR〔Pollutant Release and Transfer Register(環境汚染物質排出・移動登録)〕法に規定された第一種指定化学物質に該当する物質である。そこで近年、このジニトロトルエンを使用しないシングルベース発射薬の開発が進められ、提案されている。
【0003】
すなわち、ジニトロトルエン(DNT)を含まないシングルベース発射薬に好適な可塑剤が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。この可塑剤は、クエン酸化合物及びアジピン酸化合物から選ばれる化合物である。具体的には、シングルベース発射薬は、ニトロセルロース88.0質量%、アセチルトリエチルクエン酸10.0質量%、3−ジエチル−1,3−ジフェニルウレア(EC)1.0質量%及び硝酸カリウム1.0質量%を含有する(特許文献1の第16頁の実施例5)。
【特許文献1】国際公開WO 99/59939号公報(第1頁、第16頁及び第20頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されたシングルベース発射薬は、ジニトロトルエンを使用していないため、人体及び環境に優しい組成物である。しかしながら、そのシングルベース発射薬には、可塑剤であるアセチルトリエチルクエン酸の含有量が10質量%(ニトロセルロース100質量部に対して11.4質量部)という過剰量であることから、通常のシングルベース発射薬に比べて製造性、機械的特性、経時安定性又は燃焼性が低下し、特に製造性及び燃焼性が問題となることが明らかとなった。しかも、シングルベース発射薬には、経時安定剤である3−ジエチル−1,3−ジフェニルウレアの含有量が1.0質量%(ニトロセルロース100質量部に対して1.1質量部)という少量であるため、シングルベース発射薬の経時安定性が十分に発揮されないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的とするところは、人体及び環境に優しい組成物であると共に、機械的特性、経時安定性及び燃焼性に優れ、かつ製造性の良好なシングルベース発射薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における第1の発明のシングルベース発射薬は、成分(a)ニトロセルロース、成分(b)アセチルクエン酸誘導体及び成分(c)経時安定剤を含有し、成分(b)アセチルクエン酸誘導体の含有量が成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して6.5〜9質量部であり、かつ成分(c)経時安定剤の含有量が成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して1.5〜3.5質量部であることを特徴とする。
【0007】
第2の発明のシングルベース発射薬は、第1の発明において、前記成分(b)アセチルクエン酸誘導体がアセチルクエン酸トリブチル又はアセチルクエン酸トリヘキシルであることを特徴とする。
【0008】
第3の発明のシングルベース発射薬は、第1又は第2の発明において、前記成分(c)経時安定剤がジフェニルウレア誘導体であることを特徴とする。
第4の発明のシングルベース発射薬は、第3の発明において、前記ジフェニルウレア誘導体がメチルジフェニルウレア又はジメチルジフェニルウレアであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明のシングルベース発射薬においては、成分(a)ニトロセルロース、成分(b)アセチルクエン酸誘導体及び成分(c)経時安定剤を含有する。そして、成分(b)アセチルクエン酸誘導体の含有量が成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して6.5〜9質量部に制限されている。このため、従来のような過剰量のアセチルクエン酸誘導体による弊害を防止することができ、シングルベース発射薬の機械的特性、経時安定性、燃焼性及び製造性を高めることができる。さらに、成分(c)経時安定剤の含有量が成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して1.5〜3.5質量部に設定されている。そのため、経時安定剤に基づいてシングルベース発射薬の経時安定性を高めることができる。
【0010】
従って、シングルベース発射薬は人体及び環境に優しい組成物であると共に、機械的特性、経時安定性及び燃焼性に優れ、かつ製造性を向上させることができる。
第2の発明のシングルベース発射薬では、成分(b)アセチルクエン酸誘導体がアセチルクエン酸トリブチル又はアセチルクエン酸トリヘキシルである。このため、好適なアセチルクエン酸誘導体により第1の発明の効果を一層向上させることができる。
【0011】
第3の発明のシングルベース発射薬では、成分(c)経時安定剤がジフェニルウレア誘導体である。従って、第1又は第2の発明の効果に加えて、経時安定剤のうち好適なジフェニルウレア誘導体によりシングルベース発射薬の経時安定性をさらに高めることができる。
【0012】
第4の発明のシングルベース発射薬では、ジフェニルウレア誘導体がメチルジフェニルウレア又はジメチルジフェニルウレアである。従って、第3の発明の効果に加えて、ジフェニルウレア誘導体のうち好適なメチルジフェニルウレア又はジメチルジフェニルウレアによりシングルベース発射薬の経時安定性を一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良の形態と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のシングルベース発射薬は、成分(a)ニトロセルロース、成分(b)アセチルクエン酸誘導体及び成分(c)経時安定剤を含有する。そして、成分(b)アセチルクエン酸誘導体の含有量が成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して6.5〜9質量部、かつ成分(c)経時安定剤の含有量が成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して1.5〜3.5質量部に設定される。係るシングルベース発射薬はジニトロトルエンに基づいていないため人体及び環境に優しい組成物であって、機械的特性、経時安定性、燃焼性及び製造性に優れている。以下に、このシングルベース発射薬の構成について順に説明する。
〔成分(a)ニトロセルロース〕
係る成分(a)のニトロセルロ−ス(硝化綿)は、燃料兼成形物を粒状化(グレイン化)にするための結合剤(バインダー)として機能する成分である。該ニトロセルロ−スは、セルロ−スを硝酸と硫酸との混酸で処理して得られる硝酸エステルである。
【0014】
ニトロセルロースを構成するグルコース1単位分子あたり3箇所で硝酸エステル化することが可能であるが、様々な程度に硝化されたものが得られ、その程度は窒素の含有量で区別される。このニトロセルロース中の窒素量は、11.7〜13.4質量%であることが好ましく、12.2〜13.4質量%であることがより好ましく、12.9〜13.2質量%であることが特に好ましい。この窒素量が、11.7質量%未満の場合には、シングルベース発射薬の燃焼性が低下すると共に、ニトロセルロ−スが有機溶剤に溶解し過ぎて粒状に成形することが困難になる傾向にある。その一方、窒素量が13.4質量%を超える場合には、シングルベース発射薬の経時安定性が低下すると同時に、ニトロセルロ−スが有機溶剤に溶解し難くなり、粒状に成形することが困難になる傾向を示す。
【0015】
シングルベース発射薬中における成分(a)ニトロセルロースは主成分であり、その具体的な含有量は88〜93質量%であり、90〜91質量%であることが好ましい。ニトロセルロースの含有量が88質量%を下回る場合、シングルベース発射薬の燃料としての機能が低下すると共に、シングルベース発射薬の成形物を成形することが難しくなる。一方、93質量%を上回る場合、相対的に成分(b)アセチルクエン酸誘導体や成分(c)経時安定剤の含有量が低下し、シングルベース発射薬の機械的特性や経時安定性が悪化する。
〔成分(b)アセチルクエン酸誘導体〕
成分(b)のアセチルクエン酸誘導体は、シングルベース発射薬に含まれることにより、組成物が十分な可塑性を持つような可塑剤(膠化剤)としての機能を発現することができ、柔軟性のあるシングルベース発射薬を得ることができる。そのため、シングルベース発射薬は機械的特性が向上し、強い衝撃が与えられた場合でもその成形物の形状を維持することができる。
【0016】
成分(b)のアセチルクエン酸誘導体とは、結合剤成分である成分(a)のニトロセルロースを可塑化することが可能な化合物の全てを使用することができる。アセチルクエン酸誘導体として例えば、アセチルクエン酸トリメチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリプロピル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリヘキシル、アセチルクエン酸トリヘプチル、アセチルクエン酸トリオクチル、アセチルクエン酸トリラウリル、アセチルクエン酸ジメチルモノブチル、アセチルクエン酸ジメチルモノヘキシル、アセチルクエン酸ジメチルモノオクチル、アセチルクエン酸ジメチルモノラウリル、アセチルクエン酸ジメチルモノヘキサデシル、アセチルクエン酸ジメチルモノオクタデシル、アセチルクエン酸ジエチルモノプロピル、アセチルクエン酸ジエチルモノブチル、アセチルクエン酸ジエチルモノヘキシル、アセチルクエン酸ジエチルモノオクチル、アセチルクエン酸ジエチルモノラウリル、アセチルクエン酸ジプロピルモノブチル、アセチルクエン酸モノメチルジエチル、アセチルクエン酸モノメチルモノエチルモノヘキシル、アセチルクエン酸モノメチルジブチル、アセチルクエン酸モノエチルモノブチルモノラウリル、アセチルクエン酸モノエチルジラウリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上の混合物として用いられる。
【0017】
これらの化合物の中では、特にシングルベース発射薬の成形性、高温での安定性等の観点からアセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリヘキシル又はアセチルクエン酸トリヘプチルが好ましく、アセチルクエン酸トリブチル又はアセチルクエン酸トリヘキシルが特に好ましい。
【0018】
アセチルクエン酸誘導体の含有量は、成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して6.5〜9質量部であり、好ましくは7.5〜8質量部である。アセチルクエン酸誘導体の含有量が6.5質量部未満の場合には、可塑剤としての効果が乏しくなるため、シングルベース発射薬の製造性が悪くなり、しかもシングルベース発射薬の機械的特性が不足する。その一方、アセチルクエン酸誘導体の含有量が9質量部を超える場合には、可塑剤としての効果は多大となるが、シングルベース発射薬の燃焼性が悪くなると共に、製造性にも問題が生じる。
〔成分(c)経時安定剤〕
この成分(c)経時安定剤は、シングルベース発射薬の経時安定性を高める機能を発現する。該経時安定剤として代表的なジフェニルウレア誘導体は、可塑剤としての機能をも発現することができる。
【0019】
経時安定剤は、シングルベース発射薬の経時安定性を向上させることが可能な化合物の全てが使用できる。経時安定剤としては、例えばジフェニルウレア、メチルジフェニルウレア、エチルジフェニルウレア、ジエチルジフェニルウレア、ジメチルジフェニルウレア、メチルエチルジフェニルウレア等のジフェニルウレア誘導体、ジフェニルアミン、2−ニトロジフェニルアミン等のジフェニルアミン誘導体、エチルフェニルウレタン、メチルフェニルウレタン等のフェニルウレタン誘導体、ジフェニルウレタン等のジフェニルウレタン誘導体、レゾルシノール等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上の混合物として用いられる。
【0020】
これらの化合物の中では、融点が120℃以上であるため高温時においてもニトロセルロ−スから発生する窒素酸化物を確実に捕捉し、ニトロセルロ−スの自然分解を抑制する効果の高いジフェニルウレア誘導体、具体的にはメチルジフェニルウレア、ジフェニルウレア又はジメチルジフェニルウレアが好ましく、メチルジフェニルウレア又はジメチルジフェニルウレアが特に好ましい。
【0021】
経時安定剤の含有量は、成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して1.5〜3.5質量部であり、好ましくは2〜3質量部である。経時安定剤の含有量が1.5質量部未満の場合、シングルベース発射薬の経時安定性を高める効果が不足する。一方、3.5質量部を超える場合、シングルベース発射薬の経時安定性を高める効果は多大となるが、その反面シングルベース発射薬の燃焼性が悪化する。
〔その他の成分〕
シングルベース発射薬には、上記成分(a)ニトロセルロース、成分(b)アセチルクエン酸誘導体及び成分(c)経時安定剤のほかに成分(d)光沢剤又は成分(e)消炎剤を用いることもできる。成分(d)光沢剤をシングルベース発射薬の表面にコーティングすることにより、光沢性を付与できると共に、例えば光沢剤としてのグラファイトは導電性を有しているためシングルベース発射薬の帯電を防止することができる。しかも、成形物の滑りが良くなるため、シングルベース発射薬の装填性を向上させることができると共に、吸湿を抑制することができる。この光沢剤としては、例えばグラファイト等が挙げられる。光沢剤の含有量は、成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して通常0.03〜0.35質量部である。
【0022】
次に、成分(e)消炎剤をシングルベース発射薬に配合すると、シングルベース発射薬が燃焼した際に発生する炎を抑制することができる。この消炎剤としては、例えば硝酸カリウム、硝酸バリウム、硫酸カリウム又はこれらの混合物等が挙げられる。消炎剤の含有量は、成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して通常0.5〜2.5質量部である。
〔シングルベース発射薬〕
シングルベース発射薬は、押出成形装置等の成形装置を使用して所望の形状に成形した成形物として用いられる。該成形物の形状としては無孔円柱状、単孔円柱状、多孔円柱状、多孔六角柱状等が挙げられる。これらのシングルベース発射薬の成形物は、例えばシングルベース発射薬に有機溶剤、好ましくはアセトンとエチルアルコールとの混合溶液又はジエチルエーテルとエチルアルコールとの混合溶液を添加混合し、押出成形装置で押出成形する方法により製造することができる。
【0023】
得られるシングルベース発射薬又はその成形物は、大口径の戦車砲、野戦砲等に使用される弾薬に用いられるほか、火管のエネルギーをシングルベース発射薬又はその成形物に伝えるための着火薬としても用いられる。
〔実施形態により発揮される作用及び効果のまとめ〕
・ 本実施形態におけるシングルベース発射薬は、成分(a)ニトロセルロース、成分(b)アセチルクエン酸誘導体及び成分(c)経時安定剤を含有する。そして、成分(b)アセチルクエン酸誘導体の含有量は成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して6.5〜9質量部に制限されている。このため、従来のような過剰量のアセチルクエン酸誘導体による弊害を防止することができ、シングルベース発射薬の機械的特性、経時安定性、燃焼性及び製造性を高めることができる。さらに、成分(c)経時安定剤の含有量は成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して1.5〜3.5質量部に設定されている。そのため、係る経時安定剤に基づいてシングルベース発射薬の経時安定性を高めることができる。
【0024】
従って、シングルベース発射薬はジニトロトルエンが含まれていないため人体及び環境に優しい組成物であると共に、機械的特性、経時安定性及び燃焼性に優れ、かつ製造性が良好である。
【0025】
・ 前記成分(b)アセチルクエン酸誘導体がアセチルクエン酸トリブチル又はアセチルクエン酸トリヘキシルであることにより、可塑剤として好適な化合物に基づいて前記シングルベース発射薬の効果を一層向上させることができる。
【0026】
・ 前記成分(c)経時安定剤がジフェニルウレア誘導体であることにより、経時安定剤のうち好適なジフェニルウレア誘導体に基づいてシングルベース発射薬の経時安定性をさらに高めることができる。
【0027】
・ 上記ジフェニルウレア誘導体がメチルジフェニルウレア又はジメチルジフェニルウレアであることにより、ジフェニルウレア誘導体のうち好適なメチルジフェニルウレア又はジメチルジフェニルウレアに基づいてシングルベース発射薬の経時安定性を一層高めることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。実施例及び比較例におけるシングルベース発射薬の特性を評価する方法について以下に示す。
(機械的特性の評価方法)
まず、機械的特性を評価するための圧縮強度試験方法について説明する。圧縮強度試験は、ミネベア(株)製の引張圧縮試験機を用いて行った。試料としてシングルベース発射薬の成形物を試料台中央部に載せた後、長さ方向に30mm/分の速度で圧縮して圧縮試験を行った。そして、応力ひずみ曲線より最大荷重値を読みとり、機械的特性の評価を行った。戦車砲、野戦砲等の射撃時には大きな衝撃がシングルベース発射薬の成形物に与えられる。そのため、シングルベース発射薬の成形物には、その衝撃に耐えられることが要求されており、今回試験に用いた形状においては圧縮強度が70MPa以上であることが望ましい。
(燃焼性の評価方法)
続いて、燃焼性を評価するための密閉ボンブ燃焼試験について説明する。
【0029】
図1に示すように、ボンブ本体1内には容積が70mlの円柱状をなす燃焼空間2が設けられ、その燃焼空間2にはシングルベース発射薬が成形されたシングルベース発射薬の成形物3が装填されている。ボンブ本体1の基端側(図1の左側)には燃焼空間2内にシングルベース発射薬の成形物3を装填後、密閉するための栓体4が装着され、ボルト5により着脱可能になっている。上記燃焼空間2の容積は、直径35mm、深さ75mmの円柱体の容積から栓体4の一部等の容積を差し引いくことによって算出される。栓体4の内端面には一対の電極9、10が取着され、両電極9、10には接続線を介して点火玉(黒色火薬0.5g付き)11が取付けられている。
【0030】
前記電極9は接続配線6を介して外部に位置する点火装置7の一方の電極に接続されると共に、電極9はボンブ本体1に接続されている。また、点火装置7の他方の電極は接続配線8を介してボンブ本体1に接続されている。そして、点火装置7を作動させることにより接続配線6、8、電極9、10などを経て点火玉11が点火し、燃焼空間2内のシングルベース発射薬の成形物3を着火させて燃焼させるようになっている。
【0031】
ボンブ本体1の側部にはガス抜き用バルブ12が取付けられ、サンプリング管13を介して燃焼空間2に連通されている。このガス抜き用バルブ12から燃焼空間2内のガスをサンプリングし、その燃焼特性を評価できるようになっている。ボンブ本体1の先端部には圧力変換器14が取付けられ、連通管15を介して燃焼空間2に連通されている。この圧力変換器14により通電開始から最大圧力までの到達時間を求めることができるようになっている。
【0032】
そして、栓体4を抜いた状態で燃焼空間2内にシングルベース発射薬の成形物3を装填する。その際に装填する薬量は、装填比重が0.1g/mlとなるように設定した。次いで、栓体4を閉めた後、点火装置7にて燃焼空間2内のシングルベース発射薬の成形物3を着火する。そして、燃焼した際の燃焼時間と燃焼圧力との関係を圧力変換器14を介してオシロスコ−プ(図示せず)にて計測し、通電開始から最大圧力に到るまでの到達時間(燃焼完了時間)を求めた。シングルベース発射薬の成形物3は、適切な速度で燃焼を完了させる必要があり、今回試験に用いた形状においては、18〜26ms(ミリ秒)で燃焼を完了させることが望ましい。
(経時安定性の評価方法)
次に、経時安定性を評価するための耐熱試験について説明する。
【0033】
サンプル瓶に、秤量したシングルベース発射薬の成形物を入れた後、サンプル瓶を75℃に調温された恒温槽に入れて240時間放置した。その後、シングルベース発射薬の成形物を恒温槽より取り出し、耐熱試験(JIS K 4810)を行ってシングルベース発射薬の経時安定性について確認した。シングルベース発射薬は、長期間保管した場合においても問題なく使用できなければならず、本試験条件においては18分以上の試験結果となることが望ましい。
(製造性の評価方法)
次いで、製造性の評価方法について説明する。各実施例及び比較例のシングルベース発射薬を押出成形装置で押出成形する場合の成形しやすさ、及び裁断機まで運搬する際の取扱性に関し、下記の評価基準にて評価を行った。
【0034】
○:押出装置より圧出された圧出薬を裁断するために取扱う際、圧出薬を容易に取扱うことができた、△:圧出薬の柔軟性が乏しく、注意しながら取扱いを行う必要があった、×:圧出薬の柔軟性がなく、また非常に脆いため取扱いに問題が生じた。
【0035】
なお、表1及び表2中における略号は次の意味を表す。
NC:ニトロセルロース
ATBC:アセチルクエン酸トリブチル
ATEC:アセチルクエン酸トリエチル
ATHC:アセチルクエン酸トリヘキシル
DIBA:アジピン酸ジイソブチル
AKII:メチルジフェニルウレア
SEII:ジメチルジフェニルウレア
SEI:ジエチルジフェニルウレア
G.P.:グラファイト
KN:硝酸カリウム
(実施例1)
窒素量13.2質量%のニトロセルロース100質量部、可塑剤としてアセチルクエン酸トリブチル7.7質量部、経時安定剤としてメチルジフェニルウレア2.2質量部の割合になるように混合した混合物に対し、ジエチルエーテル60質量部及びエチルアルコ−ル40質量部の混合溶液を加え、いわゆるウェルナ−混和機で均一に混合した。なお、ウェルナ−混和機は、横方向に延びる回転軸に取付けられた撹拌羽根により撹拌、混合する装置である。
【0036】
次いで、この混合物を押出装置に装填した。押出装置には予め7.5mmのダイス及び0.8mmのピンが取り付けられており、シングルベース発射薬は圧力をかけることにより、このダイスを通りながら押出され、7個の貫通孔を有する7孔円柱状に成形された。この成形物を7.5mmの長さに裁断し、乾燥することにより粒状のシングルベース発射薬の成形物を得た。その際の製造性について評価した。
【0037】
また、このシングルベース発射薬の成形物を用い、前記圧縮強度試験及び密閉ボンブ燃焼試験による燃焼完了時間の測定を行った。さらに、耐熱試験による経時安定性についても測定を行った。それらの結果を表1に示した。
(実施例2〜10)
表1に示した組成で、実施例1と同様の方法によりシングルベース発射薬を各々製造し、各々の特性を実施例1と同じ方法で評価した。それらの結果を表1にまとめて示した。
【0038】
【表1】

表1の試験結果より次のようなことがわかった。
【0039】
実施例1〜10に示したシングルベース発射薬は、いずれも製造性に問題のないことが明らかとなった。また、圧縮強度試験の結果、全てが72MPa以上の圧縮強度を有しており機械的特性に問題のないことが確認された。さらに、通電開始から最大圧力までの燃焼完了時間も20〜24msであり、シングルベース発射薬として十分に使用できることが確認された。加えて、耐熱試験の結果をみても全てが20分以上であり、経時安定性に優れるものであることが確認できた。
(比較例1〜6)
表2に示した組成で、実施例1と同様の方法によりシングルベース発射薬を各々製造し、各々の特性を実施例1と同じ方法で評価した。それらの結果を表2に示した。
【0040】
【表2】

表2に示したように、可塑剤としてアジピン酸ジイソブチル(DIBA)を使用した比較例1では、燃焼完了時間及び耐熱試験については問題ないものの、製造性に問題が生じ、かつ圧縮強度が不足する結果となった。すなわち、圧縮強度試験において63MPaの力が加わるとシングルベース発射薬の成形物が破壊されることがわかり、シングルベース発射薬として使用することが困難であることが明らかとなった。
【0041】
また、可塑剤であるアセトルクエン酸トリブチル(ATBC)の含有量を過剰量にした比較例2では、圧縮強度及び耐熱試験については問題ないものの、ニトロセルロースの含有量が相対的に低下したため、製造性に問題が生じた。しかも、通電開始から最大圧力までの燃焼完了時間が30msと遅くなり、燃焼性や着火性にも問題が生じることがわかった。アセチルクエン酸トリブチルの含有量を過少量にした比較例3では、燃焼完了時間及び耐熱試験については問題ないものの、可塑剤としての効果が乏しいため、製造性に問題が生じ、かつ圧縮強度も悪化することがわかった。
【0042】
経時安定剤であるメチルジフェニルウレア(AKII)の含有量を過少量にした比較例4では、製造性、機械的特性及び燃焼完了時間については問題ないものの、経時安定性としての効果が乏しいため、耐熱試験に問題が生じることがわかった。メチルジフェニルウレアの含有量を過剰量にした比較例5では、製造性、機械的特性及び経時安定性については問題ないものの、ニトロセルロースの含有量が相対的に低下したため、通電開始から最大圧力までの燃焼完了時間が29msと遅くなり、燃焼性や着火性に問題が生じることがわかった。
【0043】
加えて、前記特許文献1に記載のシングルベース発射薬(特許文献1に記載の実施例5)の組成に準じて製造した比較例6のシングルベース発射薬では、機械的特性については問題ないものの、アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)の含有量が多く、その分ニトロセルロースの含有量が相対的に低下した。このため、製造性に問題が生じ、燃焼完了時間も若干遅くなるという結果を示した。その上、経時安定剤としてのジエチルジフェニルウレアの含有量が1.1質量部という少量であるため、経時安定性としての効果が乏しく、耐熱試験において12分という短時間の結果となった。
【0044】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 前記成分(a)ニトロセルロースとして、窒素量の異なるニトロセルロースを複数使用し、シングルベース発射薬の燃焼性、経時安定性又は製造性を調整するように構成することも可能である。
【0045】
・ 前記成分(b)アセチルクエン酸誘導体以外のその他の可塑剤を、アセチルクエン酸誘導体と共に使用することもできる。
・ シングルベース発射薬には、その他の成分として燃焼圧力の急上昇を防ぐ燃焼抑制剤や砲身の寿命を延ばすための焼食抑制剤などを配合することができる。燃焼抑制剤としては樟脳、ジブチルフタレート等が挙げられ、焼食抑制剤としてはピログルタミン酸カルシウム、グルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0046】
・ 本発明のシングルベース発射薬をロケット等の推進薬として使用することも可能である。
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
【0047】
〇 前記成分(b)アセチルクエン酸誘導体は、複数種類の化合物が用いられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシングルベース発射薬。このように構成した場合、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、可塑剤としての効果を目的に適うように調整することができる。
【0048】
〇 前記成分(c)ジフェニルウレア誘導体は、複数種類の化合物が用いられることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のシングルベース発射薬。このように構成した場合、請求項3又は請求項4に係る発明の効果に加え、経時安定性や可塑剤としての効果を目的に適うように調整することができる。
【0049】
〇 光沢剤又は消炎剤を含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシングルベース発射薬。このように構成した場合、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加えて、光沢剤により光沢性のほか帯電防止性、滑り性などを向上させることができ、消炎剤によりシングルベース発射薬の燃焼時における炎の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施形態における燃焼性を評価するための密閉ボンブ燃焼装置を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0051】
3…シングルベース発射薬の成形物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)ニトロセルロース、成分(b)アセチルクエン酸誘導体及び成分(c)経時安定剤を含有し、成分(b)アセチルクエン酸誘導体の含有量が成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して6.5〜9質量部であり、かつ成分(c)経時安定剤の含有量が成分(a)ニトロセルロース100質量部に対して1.5〜3.5質量部であることを特徴とするシングルベース発射薬。
【請求項2】
前記成分(b)アセチルクエン酸誘導体がアセチルクエン酸トリブチル又はアセチルクエン酸トリヘキシルであることを特徴とする請求項1に記載のシングルベース発射薬。
【請求項3】
前記成分(c)経時安定剤がジフェニルウレア誘導体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシングルベース発射薬。
【請求項4】
前記ジフェニルウレア誘導体がメチルジフェニルウレア又はジメチルジフェニルウレアであることを特徴とする請求項3に記載のシングルベース発射薬。

【図1】
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【公開番号】特開2010−76950(P2010−76950A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244562(P2008−244562)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)