説明

シンチレータパネル、放射線検出装置及びシステム

【課題】 シンチレータパネルの電気化学的腐食を防止する。
【解決手段】 蛍光体層112を支持するための導電性基材111と、蛍光体層112で変換された光を外部に出射するための反射層114とを備えたシンチレータパネル110において、導電性基材111と反射層114との間に絶縁層115を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シンチレータパネル、放射線検出装置及びシステムに関し、特に、産業用非破壊検査や、医療用のX線撮像装置などのシンチレータパネル、放射線検出装置及びシステムに関する。
【0002】なお、本明細書においては、放射線の範ちゅうにX線、α線、β線、γ線などの種々の電磁波を含むものとして説明する。
【0003】
【従来の技術】近年、医療機業界のデジタル化が加速しており、レントゲン撮影の方式もコンベンショナルなフィルムスクリーン方式からX線デジタルラジオグラフィー方式へのパラダイムシフトが進んでいる。
【0004】X線デジタルラジオグラフィー方式のレントゲン撮影用のX線検出装置には、アモルファスシリコンなどを用いたフォトセンサー及びTFTを有する光電変換素子部を備えたセンサパネルと、柱状の蛍光体よりなる蛍光体層及び蛍光体層で発光した可視光をセンサパネル側へ反射させる金属薄膜などの反射膜を備えたシンチレータとを、透明な接着剤よりなる接着層によって接着したものがある。
【0005】このようなX線検出装置は、センサパネルの素子構成やシンチレータの蛍光体材料の制約を受けることなく、さまざまなものを用途に応じて組み合わせることが可能である。
【0006】つぎに、X線検出装置の動作について説明する。まず、装置本体にX線が入射されると、このX線は、反射層を透過し、蛍光体層で吸収される。その後、蛍光体層は吸収したX線に応じた強度の可視光を発光する。可視光は光電変換素子部のフォトセンサーで電気信号に変換され、TFTのオン/オフの切り替えに応じて外部に出力される。こうして、入射したX線情報を2次元のデジタル画像に変換している。
【0007】ここで、シンチレータを構成する基材にアモルファスカーボンなどがよく用いられている。その理由は、(1)アモルファスカーボン等がガラスやアルミニウムに比べ、X線の吸収が少ないため、より多くのX線を蛍光体層側へ送ることができるからである。たとえば、各材料を実用的な厚み(日本電気硝子製OA−10ガラス板:0.7mm、Al板:0.5mm、アモルファスカーボン板:1mm)にした場合には、どの材料もフォトンエネルギー60keV以上ならば90%以上の透過率を確保できるが、OA−10ガラス板は60keV以下、Al板は35keV以下で、急激に透過率が低下する。一方、他の材料よりも厚いにもかかわらず、アモルファスカーボン板は20keVまで95%以上を確保するので、医療で使用されるX線のエネルギー領域では、ほぼフラットな透過率特性を示すことが可能である。
【0008】(2)アモルファスカーボン等が耐薬品性に優れているからである。アモルファスカーボンは、フッ酸などの強酸や、溶剤に対しても侵食されることはない。
【0009】(3)アモルファスカーボン等が耐熱性に優れているからである。アモルファスカーボンは、ガラスやアルミニウムよりも高い耐熱性を有する。
【0010】(4)アモルファスカーボン等の導電性がよいからである。アモルファスカーボンは、導電率がσ=2.4×10-2Ω-1cm-1なので、電磁シールドとしても機能するし、製造時の静電気対策としても機能する。
【0011】(5)アモルファスカーボン等の熱膨張係数がガラスと近いため、貼り合わせ後の膨張率の差による剥がれ等の心配が少ないからである。一般的に用いられるパネルガラスの熱膨張係数は、4.6×10-6だが、アモルファスカーボンはそれに近い2.0×10-6である。
【0012】また、反射層を用いる理由は、アモルファスカーボン等の反射率が対空気層では約20%と低いため、金属薄膜からなる反射層を設けることによって、光の利用効率を向上させるためである。
【0013】反射層としてアルミニウム等の金属膜を材料として用いる理由は、(1)アルミニウム等が、可視光のほぼ全域に渡って高い反射率を示すからである。なお、詳細は、Journal of the optical society of America,vol45,no.11,p945,1955に詳しい。
【0014】(2)アルミニウムが安価だからである。
【0015】(3)蒸着した薄膜は鏡面が得られやすいので、乱反射による解像力の乱れを生じることが少ないからである。
【0016】また、シンチレータは、具体的に以下のような手法により製造する。まず、表面を鏡面に研磨されたアモルファスカーボンなどの基材を洗浄し、スパッタ等でアルミニウム薄膜を成膜する。アルミニウム薄膜は厚すぎると表面の凹凸によって乱反射を起こし、薄すぎると光が透過してしまうので、通常、厚みは100nm〜500nmとしている。
【0017】つぎに、蒸着によって柱状の蛍光体層をアルミニウム薄膜上に蒸着する。この時のプロセス温度は200℃を超える。つぎに、周りに保護層を形成し、シンチレータを完成する。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来の技術では、アモルファスカーボンなどからなる導電性を有する基材に形成した反射層の上にアルカリハライド蛍光体、たとえばCsIを形成すると、数日の内に反射層に腐食が開始することが我々の検討から判明した。この原因としては、CsI中のハロゲン、つまりヨウ素が、反射層の材料であるアルミニウムを腐食させることが考えられる。
【0019】従って、これを防止する一つの方法として、反射層の表面側に保護層を設けてみたが、反射層と基材との接触がある限り、本件のような短期間で発生する腐食は抑制できないこともわかった。
【0020】また、このような問題は基材の材料としてガラスを用い、反射層の材料としてアルミニウムを用いた場合には発生が極端に抑制されることもわかった。従って、反射層が腐食するもう一つの原因として、アモルファスカーボンなどカーボンを成分に有するものやシリコンなどと、アルミニウムなどをはじめとする金属という異種の導電性材料とを積層したことによる電気化学的腐食が考えられる。
【0021】ここで、特開昭53−122356号公報には、基板の全面にアルミニウム蒸着膜を介して沃化セシウムよりなる蛍光体を設ける旨の記載があるが、この公報に記載されている技術では、上記と同様の理由により電気化学的腐食を防止することができない。
【0022】また、特開平10−160898号公報には、光反射層の蛍光体が設けられていない側に保護膜としてPET (ポリエチレンテレフタレート)を設ける旨が記載されているが、PETは200℃を超える蛍光体形成プロセスに耐えうる材料でないので、アモルファスカーボンやシリコン、アルミニウムという異種の導電性材料を積層したことによる電気化学的腐食を抑制するものではなく、また基材にPETもしくはガラスなどの絶縁体を用いた構成になっているのでそもそも電気化学的腐食はほとんど起こらない。
【0023】そこで、本発明は、シンチレータパネルの基材の電気化学的腐食、すなわち基材と反射層との反応を防止することを課題とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するために、本発明は、蛍光体層を支持するための導電性基材と、前記蛍光体層で変換された光を外部へ出射するための反射層とを備えたシンチレータパネルにおいて、前記導電性基材と前記反射層との間に絶縁層を形成してなることを特徴とする。
【0025】また、本発明は、上記シンチレータパネルシンチレータパネルを備えた放射線検出装置であって、前記シンチレータパネル側から出射された光を電気信号に変換する光電変換素子と、前記光電変換素子によって変換された電気信号を伝送する配線部とを有することを特徴とする。
【0026】さらに、本発明は、蛍光体層を支持するための導電性基材と、前記蛍光体層で変換された光を外部へ出射するための反射層とを備えたシンチレータパネルの製造方法において、前記導電性基材と前記反射層との間に、前記蛍光体層の成膜時の温度に対して耐熱性を有する絶縁層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0027】さらにまた、本発明の放射線検出システムは、上記放射線検出装置と、前記放射線検出装置からの信号を処理する信号処理手段と、前記信号処理手段からの信号を記録するための記録手段と、前記信号処理手段からの信号を表示するための表示手段と、前記信号処理手段からの信号を伝送するための伝送処理手段と、前記放射線を発生させるための放射線発生源とを具備することを特徴とする。
【0028】具体的には、上記シンチレータパネルは、たとえばアモルファスカーボン基材と、絶縁層と、反射層と、蛍光体層と、保護層とが順次積層されたものである。
【0029】絶縁層の物理的性質としては、体積抵抗率が1×1010Ωcm以上、耐熱温度として、200℃以上であり、シリコンを含む材料か、金属酸化膜か、耐熱性樹脂よりなる単層、又はそれらいずれかの材料の積層膜である。
【0030】また、耐熱性樹脂として、ポリイミド、ジビニルシロキサンビスベンゾブテン系樹脂、メチルシルセスキオキサン系樹脂、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、芳香族ポリエステルなどが挙げられる。
【0031】絶縁層に、耐熱性絶縁樹脂を用いる場合は、アモルファスカーボンの凹凸差が0.02μmから5μm程度とすることが望ましい。
【0032】また、絶縁層をたとえば化学気相成長法(CVD法)で複数形成する場合には、各絶縁層を気体を変えて連続して形成すると、各層間の密着度を高めることができて好ましい。
【0033】なお、反射層は、アルミニウム、銀、銅又は金を含む材料からなる。また、光電変換素子は、アモルファスシリコン又はクリスタルシリコンからなる。
【0034】さらに、シンチレータは、アモルファスカーボン基材などを研磨する工程と、アモルファスカーボン基材などを洗浄する工程と、アモルファスカーボン基材などに絶縁層を形成する工程と、絶縁層に反射層を形成する工程と、反射層に蛍光体を形成する工程と、上記各層を覆うように保護層を形成する工程とによって製造されている。
【0035】中でも、絶縁層は、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法、プラズマ重合法、スピンナー法又はスプレー法で形成している。なお、基材の表面を粗し、その表面に絶縁層を形成すると、密着度が増すので好ましい。
【0036】ここで、絶縁層に200℃以上の耐熱性を必要とする理由は、蛍光体を形成する際に一般的に必要とされる温度が200℃以上に達するためであり、このような耐熱性を備えておけば、絶縁層の形成工程以外は、従来の放射線検出装置の製造工程をそのまま用いることができるので好ましい。
【0037】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0038】まず、本発明の実施形態の放射線検出装置の原理について簡単に説明する。本発明の実施形態の放射線検出装置のシンチレータパネルは、導電性を有する基材と、腐食されやすいアルミニウムなどの反射層との間に、基材と反射層との反応を防止する絶縁層とを備える。
【0039】この絶縁層は、反射層や蛍光体などの形成プロセス時に高温状態となるような場合には耐熱性を有する必要がある。
【0040】導電性を有する材料としては、カーボンを成分として有するものが用いられ、特にアモルファスカーボンが好適に利用される。
【0041】絶縁層は、たとえば200℃以上の熱に耐えられるようにしておけば、反射層やアルカリハライドからなる柱状結晶蛍光体などの蛍光体層を形成する際にかかる熱に耐えられるようになる。
【0042】また、絶縁層は、単層でも多層でもよいが、少なくとも反射層との接触部に相当する絶縁層の体積抵抗率が1×1010Ωcm以上であることが必要である。これは、体積抵抗率が、ほぼ1×108Ωcm以下までは半導体の領域であり、この領域であれば、状態の変化たとえば、温度の上昇などによって、抵抗率が変化する可能性があり、完全な絶縁を得ることは難しいので、これにマージンを含んだ値としたものである。ちなみに、半導体のシリコン単体の体積抵抗率は3×105Ωcm、GaAsでは7×107Ωcmである。
【0043】シリコンの化合物を形成すれば、光学バンドギャップが広くなり体積抵抗率が1×1010Ωcm以上の絶縁物となる。ちなみに、SiOX、SiNXなどは全てこれを満足する材料である。さらに、このようなシリコン化合物はカーボンと化学結合しやすく、SiCなどは非常に硬い材料であることが知られている。
【0044】半導体分野では配線材料としてAl及びAl合金薄膜が一般的に用いられており、シリコン化合物との密着は半導体デバイスとして実績がある。一方、プラズマ重合より得られるテトラアルキルシラン(Si−OR、R=CH3、C25、C37)は、1×1010Ωcm以上の絶縁性があり、カーボンを主体とした有機材料と金属とのカップリング層として実用化されているものである。
【0045】この材料はプラズマ重合により形成されるので、アルキル基の炭素数が1〜3程度であれば、200℃以上の耐熱性も有するものである。つまり、シリコンを含む材料は導電性を有する基材と反射層との間の絶縁耐熱層として機能するし、密着性もよい。
【0046】金属酸化膜は、安定した絶縁物質なので、ほとんどは、1×1010Ωcm以上の体積抵抗率と200℃以上の耐熱性を有する。ちなみに、Al23、SiO2、TiO2、MgO、BeO、CeO、HfO2、ThO2、UO2、ZrO2などを具体的に用いることができる。但し、これらは、組成比が変化すると半導体転移を示すものもあるため、組成比が変化しないようにすることが必要である。
【0047】また、ポリイミド、ジビニルシロキサンビスベンゾブテン系樹脂、メチルシルセスキオキサン系樹脂、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、芳香族ポリエステルなどは、全て体積抵抗率1×1010Ωcm以上で、200℃以上の耐熱性を有する絶縁材料である。これらの耐熱性樹脂を使用する場合は、シリコンを含む材料を用いる場合に比べ、膜厚を厚くできるので、下地の粗れやゴミによる絶縁破壊を起こす可能性が減少する。
【0048】ちなみに、シリコンを含む材料を用いる場合は自身の内部応力の影響から厚くしすぎることはできないため、一般的には数10nm〜数100nmにするのが適切であるが、耐熱性樹脂は数100nm〜数10000nmの範囲で制御が可能である。さらに、これらの樹脂はカーボンを含むため、カーボンとの密着性は良好であるが、下地を凹凸差が0.02μm以上に粗らしてアンカー効果をもたせることで、更に密着力を向上させることが可能である。
【0049】その際、樹脂の表面は平坦化されるので、反射層の平坦性を確保し、鏡面を維持することが可能である。但し、凹凸差が5μmを超えると、上記の平坦化効果が減少してしまうので、0.02μmから5μmに納まるようにするとよい。Alとの密着性に関しては、弱い組み合わせもあるが、Al成膜前に何らかの表面処理、たとえば逆スパッタを行なえば密着力が向上する。
【0050】これらシリコンを含む材料、金属酸化膜、及び耐熱性樹脂はどちらも密着力のよいものであるが、更なる効果をもたせるために、これらから選ばれる複数の材料を積層してもかまわない。この場合は、少なくとも金属薄膜と接触する層に1×1010Ωcm以上の絶縁性を持たせればよく、その下の層の抵抗率を問うものではない。
【0051】また、アモルファスカーボンとの接触層はできる限りアモルファスカーボンとの密着性の高い材料を、Alとの接触層はできる限りAlとの密着性の高い材料を選ぶとよい。もしも、積層する層同士の密着性が悪くなる場合は、組成を漸進的に変化させるとよい。
【0052】(実施形態1)図1は、本発明の実施形態1の放射線検出装置の模式的な断面図である。図1において、110はシンチレータで、アルカリハライドよりなる柱状結晶化した蛍光体112と、アモルファスカーボン等よりなる蛍光体112を支持するための基材111と、アルミニウム薄膜よりなる蛍光体112で変換された光を後述するセンサパネル100側へ反射する反射層114と、基材111と反射層114との間に形成されたSiNXなどからなる絶縁層115と、蛍光体112等を外気から保護する有機樹脂よりなる保護層113とを備えている。
【0053】SiNX中のシリコンとアモルファスカーボンの炭素は強固な結合が作られるため、密着力が高い。さらに、SiNXとアルミニウム薄膜との間もシリコン系薄膜とアルミニウムとの密着になるので、半導体でも実績のあるように密着力が高い状態を作り出すことが可能となるものである。
【0054】当然、SiNXは絶縁性と耐熱性とを有しているので、アモルファスカーボン基材111とアルミニウム薄膜114とは電気的に絶縁される。
【0055】また、図1において、100はセンサパネルであり、ガラス基板101と、アモルファスシリコンを用いたフォトセンサー及びTFTからなる光電変換素子部102と、光電変換素子部102で変換された電気信号を伝送する配線部103と、配線部103を伝送された電気信号を外部に取り出す電極取り出し部104と、窒化シリコン等よりなる第一の保護層105と、ポリイミド等よりなる第二の保護層106とを備えている。
【0056】センサパネル100とシンチレータ110とは、接着剤121により貼り合わされ、その周囲を封止材122によって封止されている。なお、光電変換素子部102は、蛍光体層112からの可視光を検知できる物であればよく、センサーとしてはアモルファスシリコンなどからなるMIS型のものやPIN型のもの、スイッチとしては、TFTやPIN型ダイオードスイッチのものでもよい。更にはCMOSセンサーやCCD撮像素子を用いてもかまわない。この場合、基板101はクリスタルシリコンを用いることになる。
【0057】また、図1に示す放射線検出装置を用途に応じて複数枚タイリングしてもよい。さらに、シンチレータパネル110は、図1の上から、基材111、絶縁層115、反射層114、蛍光体112の順になるように積層している場合を例に図示しているが、反射層114、絶縁層115、基材111、蛍光体112の順になるように積層してもよい。
【0058】図2は、図1に示す放射線検出装置の製造工程図である。鏡面に研磨されたアモルファスカーボンなどからなる基材111を一度洗浄・乾燥し、スパッタ法等により、絶縁層115であるSiNX薄膜を約300nmの厚さで成膜する(図2(a))。絶縁層115の成膜は、CVD(化学気相成長法)によっても可能である。
【0059】つぎに、スパッタ法等で絶縁層115上に反射層114としてアルミニウム薄膜を約300nmの厚さで成膜する(図2(b))。反射層114の成膜方法は、真空蒸着法や電子ビーム(EB)法などによっても可能である。絶縁層115と反射層114との成膜は同じ成膜装置で連続的に行なえば、それぞれの成膜ごとに成膜チャンバーから取り出すよりは、ゴミ等の影響による不良を防止することができるので望ましい。
【0060】つぎに、蛍光体層112としてアルカリハライドの蛍光体を反射層114上に200℃以上の温度で柱状結晶させた後、全体を保護層113で被覆して図1のシンチレータ110が出来上がる。保護層113は、特開2000−9845号公報にあるように、耐湿性の高いパリレン等のCVD膜を用いるのが望ましい。
【0061】本実施形態では、絶縁層115としてSiNXの例を示したが、SiNX以外にもSiOXなどのシリコン化合物やテトラアルキルシラン(Si−OR、R=CH3、C25、C37)などのシリコンを主体とした絶縁層や、金属酸化膜を用いてもかまわない。絶縁層115にシリコン化合物を用いた場合には、膜厚をできる限り厚くする方がよいが、厚すぎると内部応力による剥がれを起こす場合があるので、好適には、数10nmから数100nmにするとよい。
【0062】また、本実施形態では、反射層114として、アルミニウム薄膜を用いる場合を例に説明したが、蛍光体が発光する波長によっては、アルミニウム合金、銀、銀合金、銅、金などの他の金属層を用いてもよい。
【0063】つぎに、図1に示す放射線検出装置の動作について説明する。
【0064】図1の上部から放射線を入射すると、この放射線は基材111、絶縁層115、及び反射層114を透過し、蛍光体層112で吸収される。蛍光体層112は吸収した放射線の強度に応じた光量で可視光を発光する。
【0065】この可視光は、光電変換素子部102で電気信号に変換され、TFTのオン/オフの切り替えに従って、配線103に出力される。各配線103に出力された電気信号は、電極取り出し部104を通して外部に読み出される。外部では図示しない処理装置で、表示部に表示等される2次元のデジタル画像を得るための処理がされる。こうして、放射線検出装置に入射された放射線情報を変換して、外部で2次元のデジタル画像を得ることができる。
【0066】(実施形態2)図3は、本発明の実施形態2の放射線検出装置に係るシンチレータ210の断面図である。本実施形態では、絶縁層115にポリイミドを用いており、基材111の表面を、絶縁層115との密着性を良好にするために粗らして、絶縁層115と基材111との間はアンカー効果による密着力が得られるようにしている。
【0067】なお、図3において図1と同様の部分には同一符号を付している。また、センサパネル100については、図1と同様である。
【0068】基材111上は平坦ではないが、絶縁層115の表面は、塗布した際、平坦化されるため、反射層114を平坦に形成することが可能となり、反射層114の表面を鏡面反射にすることができる。絶縁層115は、より平坦化させるために膜厚を基材111表面の粗さよりも充分に厚く取る必要がある。好適な厚さとしては、1μm〜20μm程度である。
【0069】さらに、絶縁層115と反射層114との間は、反射層114を成膜する前に、逆スパッタ等の処理を行っておけば、必要な密着力は確保できるものである。当然、ポリイミドは耐熱性絶縁膜なので、導電性を有する基材と反射層とを電気的に絶縁することができる。
【0070】図4は、図3に示すシンチレータの製造工程図である。表面を所望の粗さにした状態で処理されたアモルファスカーボンなどからなる基材111を一度洗浄・乾燥し、スピンコート法等により、絶縁層115であるポリイミドを約数μmの厚さで塗布・キュアする(図4(a))。絶縁層115の塗布は、スリットを設けたノズルからの噴出し法やスプレー法によっても可能である。
【0071】つぎに、スパッタ法等で絶縁層115上に反射層114としてアルミニウム薄膜を約300nmの厚さで成膜する(図4(b))。反射層114の成膜にあたっては、絶縁層115であるポリイミドとの密着性を更に強化するため、直前に逆スパッタ等の表面処理を施すとよい。反射層114の成膜方法は、真空蒸着法やEB法などによっても可能である。
【0072】つぎに、蛍光体層112としてアルカリハライドの蛍光体を反射層114上に200℃以上の温度で柱状結晶させた後、全体を保護層113で被覆して図3のシンチレータ210が出来上がる。
【0073】本実施形態では、絶縁層115としてポリイミドの例を示したが、これ以外にもジビニルシロキサンビスベンゾブテン系樹脂、メチルシルセスキオキサン系樹脂、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、芳香族ポリエステル等を用いてもよい。さらに、基材111に用いる材料との密着性のよい樹脂であれば粗らす必然性はない。
【0074】図3に示すシンチレータ210は、図1に示すものに比べて、絶縁層115を厚く(数μm〜20μm)形成することができるので、異物等による絶縁破壊に対しては強い構造となるというメリットと、基材111を鏡面研磨する必要がない分、コストが安いというメリットがある。
【0075】(実施形態3)図5は、本発明の実施形態3の放射線検出装置に係るシンチレータ310の断面図である。本実施形態では、絶縁層115にジビニルシロキサンビスベンゾブテン系樹脂(以下、「BCB」と称する。)を用いており、絶縁層115と反射層114との間にSiNX等よりなる第二の絶縁層116を設けている。なお、図5において図3と同様の部分には同一符号を付している。また、センサパネル100については、図1と同様である。
【0076】図5に示すシンチレータ310は、図3に示すものと同様に、基材111の表面を、絶縁層115との密着性を良好にするために粗らしており、絶縁層115の表面も平坦である。絶縁層115の膜厚も図3と同様に決めればよく、好適な厚さは、1μm〜10μm程度である。
【0077】半導体分野ではSiNX等と、BCBとの間の密着度が高いとされているため、第二の絶縁層116としてSiNX等を用いると、絶縁層115の材料であるBCBとの接合を強固とすることができる。さらに、SiNXは、耐湿性の高い膜であるため、耐湿層としても機能する。BCBもSiNXも絶縁材料なので、導電性を有する基材と反射層との間の電気的絶縁も確保される。当然両材料とも200℃以上の耐熱性を有しているので、放射線検出装置の製造を困難とはしない。
【0078】図6は、図5に示す放射線検出装置の製造工程図である。表面をある程度粗らした状態で処理されたアモルファスカーボンなどからなる基材111を一度洗浄・乾燥し、スピンコート法等により、絶縁層115であるBCBを約数μmの厚さで塗布・キュアする(図6(a))。絶縁層115の塗布は、スリットを設けたノズルからの噴出し法やスプレー法によっても可能である。
【0079】つぎに、絶縁層115上にスパッタ法等で、第二の絶縁層116としてSiNXを成膜する(図6(b))。SiNXは、CVDによる成膜でもかまわない。
【0080】つぎに、スパッタ法等で第二の絶縁層116上に反射層114を約300nmの厚さで成膜する(図6(c))。反射層114の成膜にあたっては、第二の絶縁層116であるSiNXとの密着性を更に強化するため、直前に逆スパッタ等の表面処理を施すとよい。反射層114の成膜方法は、真空蒸着法やEB法などによっても可能である。
【0081】つぎに、蛍光体層112としてアルカリハライドの蛍光体を反射層114上に200℃以上の温度で柱状結晶させた後、全体を保護層113で被覆して図5のシンチレータ310が出来上がる。
【0082】本実施形態では、絶縁層115には今まで説明した種々の材料を用いることができる。さらに、基材111の材料であるアモルファスカーボンなどとの密着性のよい樹脂であれば、基材111の表面は粗らす必然性はない。
【0083】また、本実施形態では、第二の絶縁層116として、SiNXを用いる場合を例に説明したが、これ以外にも、SiOXなどのシリコン系絶縁膜や、金属酸化膜を用いてもよい。
【0084】図5に示すシンチレータ310は、第二の絶縁層116を形成することにより、図3に示すものよりも、更に耐湿性を向上させることができる。
【0085】(実施形態4)図7は、本発明の実施形態4の放射線検出装置に係るシンチレータ410の断面図である。本実施形態では、絶縁層115及び第二の絶縁層116の各材料を共にシリコン系とし、絶縁層115にはアモルファスカーボンとの結合では構造乱れを最小限にすることができるSi−C結合を有するSiCX膜を、第二の絶縁層116には反射層114との密着性のよいSiOX膜を用いている。なお、図7において図3と同様の部分には同一符号を付している。また、センサパネル100については、図1と同様である。
【0086】図7に示すシンチレータ410は、図1に示すものと同様に、基材111の表面を、鏡面仕上げしている。絶縁層115は、上記のようにSi−C結合を有するSiCXを用いているので、基材111との密着力を高めることができる。また、当然に、SiOXとSiCXとは共にシリコン系材料なので、第二の絶縁層116と絶縁層115との密着力はもともとよい。さらに、SiOXとアルミニウムとは半導体分野では実績のある構成であるので、密着度に優れている。さらに、SiCXとSiOXの組成を漸進的に変化させれば、層間の界面を無くすことができ、密着力を一層向上させることができる。
【0087】但し、SiCの体積抵抗率は1×10-4Ωcmと低いが、SiO2に絶縁性を有するため、SiCとSiO2の2層を構成することで、絶縁層として機能するものである。
【0088】なお、本実施形態でも実施形態1等と同様、反射層114としてはアルミニウム薄膜以外にアルミ合金、銀、銀合金、銅、金を用いることもできる。第二の絶縁層116としては、反射層114の材料に応じて密着度などを考慮して変更してもよく、実施形態1で説明したようにシリコン系以外の材料を用いてもよい。
【0089】図8は、図7に示す放射線検出装置の製造工程図である。表面を鏡面仕上げしたアモルファスカーボンなどからなる導電性を有する基材111を一度洗浄・乾燥し、CVD法等でSiH4+CH4のガスを流しながらプラズマで分解して絶縁層115であるSiCXを形成する(図8(a))。
【0090】つぎに、CVD法等でSiH4+H2Oのガスを流しながら絶縁層115上に第二の絶縁層116であるSiOXを成膜する(図8(b))。絶縁層115と第二の絶縁層116との密着力を更に向上させる方法として、放電を続けながらガスの組成をSiH4+CH4からSiH4+H2Oへと漸進的に変更してもかまわない。
【0091】つぎに、スパッタ等の方法でSiOX上に反射層114としてアルミニウム薄膜を約300nmの厚さで成膜する(図8(c))。反射層114の成膜にあたっては、第二の絶縁層116の材料であるSiOXとの密着性を更に強化するため、直前に逆スパッタ等の表面処理を施すとよい。反射層114の成膜方法は、真空蒸着法やEB法などを用いてもよい。
【0092】つぎに、蛍光体層112としてアルカリハライドの蛍光体を反射層114上に柱状結晶させた後、全体を保護層113で被覆して図7のシンチレータ410が出来上がる。
【0093】本実施形態では、絶縁層115は下地となる基材111の材料との密着のよいものを、第二の絶縁層116は上層となる反射層114の材料との密着性のよいものを選択しているため、密着力が向上する。
【0094】さらに、本実施形態では、絶縁層115と第二の絶縁層116との組成を漸進的に変化させることで、より強固な密着力を実現している。
【0095】(実施形態5)図9は、本発明の実施形態5のX線診断システムへ模式的な構成を示すブロック図である。X線チューブ6050で発生したX線6060は患者あるいは被験者6061の胸部6062を透過し、蛍光体を上部に実装した光電変換装置6040に入射する。この入射したX線には患者6061の体内部の情報が含まれている。X線の入射に対応して蛍光体は発光し、これを光電変換して電気的情報を得る。この情報は、ディジタルに変換されイメージプロセッサ6070により画像処理され制御室のディスプレイ6080で観察できる。
【0096】また、この情報は電話回線6090等の伝送手段により遠隔地へ転送でき、別の場所のドクタールームなどディスプレイ6081に表示もしくは光ディスク等の保存手段に保存することができ、遠隔地の医師が診断することも可能である。またフィルムプロセッサ6100によりフィルム6110に記録することもできる。
【0097】なお、本実施形態では、放射線検出装置を、X線診断システムへ適用する場合について説明したが、たとえば非破壊検査装置などの放射線撮像システムにも適用することができる。
【0098】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によると、導電性を有する基材によって反射層が電気化学的に腐食されることがなくなるので、放射線検出装置の信頼性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1の放射線検出装置の模式的な断面図である。
【図2】図1に示す放射線検出装置の製造工程図である。
【図3】本発明の実施形態2の放射線検出装置に係るシンチレータの断面図である。
【図4】図3に示すシンチレータの製造工程図である。
【図5】本発明の実施形態3の放射線検出装置に係るシンチレータの断面図である。
【図6】図5に示す放射線検出装置の製造工程図である。
【図7】本発明の実施形態4の放射線検出装置に係るシンチレータの断面図である。
【図8】図7に示す放射線検出装置の製造工程図である。
【図9】本発明の実施形態5のX線診断システムへ模式的な構成を示すブロック図である。
【符合の説明】
100 センサパネル
101 ガラス基板
102 光電変換素子部
103 配線部
104 電極取り出し部
105 窒化シリコン等よりなる第一の保護層
106 ポリイミド等よりなる第二の保護層
110,210,310,410 シンチレータ
111 基材
112 柱状の蛍光体よりなる蛍光体層
113 有機樹脂等よりなる保護層
114 反射層
115 絶縁層
116 第二の絶縁層
121 透明な接着剤よりなる接着層
140 封止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 蛍光体層を支持するための導電性基材と、前記蛍光体層で変換された光を外部へ出射するための反射層とを備えたシンチレータパネルにおいて、前記導電性基材と前記反射層との間に絶縁層を形成してなることを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項2】 前記絶縁層は、前記蛍光体層を形成する際に必要な温度に耐えられるように耐熱性を有していることを特徴とする請求項1記載のシンチレータパネル。
【請求項3】 前記導電性基材は、アモルファスカーボンを含む材料としていることを特徴とする請求項1又は2記載のシンチレータパネル。
【請求項4】 前記絶縁層は、シリコンを含む材料よりなることを特徴とする請求項1又は2記載のシンチレータパネル。
【請求項5】 前記絶縁層は、金属酸化膜よりなることを特徴とする請求項1又は2記載のシンチレータパネル。
【請求項6】 前記絶縁層は、ポリイミド、ジビニルシロキサンビスベンゾブテン系樹脂、メチルシルセスキオキサン系樹脂、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、又は芳香族ポリエステルよりなることを特徴とする請求項1又は2記載のシンチレータパネル。
【請求項7】 前記絶縁層は、前記反射層との接触部の体積抵抗率が1×1010Ωcm以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載のシンチレータパネル。
【請求項8】 前記絶縁層は、少なくとも200℃の温度に耐えられることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載のシンチレータパネル。
【請求項9】 前記導電性基材は、前記絶縁層を形成する側の面を凹凸差が0.02μmから5μmとなるように粗らしていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載のシンチレータパネル。
【請求項10】 前記絶縁層と前記反射層との間に、該絶縁層と異なる第二の絶縁層を形成することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載のシンチレータパネル。
【請求項11】 前記第二の絶縁層は、シリコンを含む材料よりなることを特徴とする請求項10記載のシンチレータパネル。
【請求項12】 前記第二の絶縁層は、金属酸化膜よりなることを特徴とする請求項10記載のシンチレータパネル。
【請求項13】 前記第二の絶縁層は、ポリイミド、ジビニルシロキサンビスベンゾブテン系樹脂、メチルシルセスキオキサン系樹脂、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、又は芳香族ポリエステルよりなることを特徴とする請求項10記載のシンチレータパネル。
【請求項14】 前記絶縁層及び前記第二の絶縁層は、共に化学気相成長法で形成されており、前記絶縁層を所要の厚さで形成した後に気体の成分を変えて前記第二の絶縁層を形成することを特徴とする請求項10から13のいずれか1項記載のシンチレータパネル。
【請求項15】 前記反射層は、アルミニウム、銀、銅又は金を含む材料であることを特徴とする請求項1から14のいずれか1項記載のシンチレータパネル。
【請求項16】 前記光電変換素子はアモルファスシリコン又はクリスタルシリコンにより形成されることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項記載のシンチレータパネル。
【請求項17】 前記導電性基材は、体積抵抗率が1×1010Ωcm以下の材料からなることを特徴とする請求項1から16のいずれか1項記載のシンチレータパネル。
【請求項18】 請求項1から17のいずれか1項記載のシンチレータパネルを備えた放射線検出装置であって、前記シンチレータパネル側から出射された光を電気信号に変換する光電変換素子と、前記光電変換素子によって変換された電気信号を伝送する配線部とを有することを特徴とする放射線検出装置。
【請求項19】 蛍光体層を支持するための導電性基材と、前記蛍光体層で変換された光を外部へ出射するための反射層とを備えたシンチレータパネルの製造方法において、前記導電性基材と前記反射層との間に、前記蛍光体層の成膜時の温度に対して耐熱性を有する絶縁層を形成する工程を有することを特徴とするシンチレータパネルの製造方法。
【請求項20】 前記絶縁層は、スパッタ法、化学気相成長法、真空蒸着法、プラズマ重合法、スピンナー法又はスプレー法によって形成することを特徴とする請求項19記載のシンチレータパネルの製造方法。
【請求項21】 さらに、前記導電性基材の表面を粗らす工程を備え、前記絶縁層の表面に前記反射層を形成することを特徴とする請求項19又は20記載のシンチレータパネルの製造方法。
【請求項22】 請求項18に記載の前記放射線検出装置からの信号を処理する信号処理手段と、前記信号処理手段からの信号を記録するための記録手段と、前記信号処理手段からの信号を表示するための表示手段と、前記信号処理手段からの信号を伝送するための伝送処理手段と、前記放射線を発生させるための放射線発生源とを具備することを特徴とする放射線検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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