説明

シース熱電対およびその製造方法

【課題】工数を減らし生産速度を向上できるとともに、低コスト化することができ、しかも自動化するのに適し、耐久性および測定精度に優れたシース熱電対の製造方法、およびそれにより製造されたシース熱電対を提供せんとする。
【解決手段】金属シース10先端側の気密封止として無機絶縁物3の埋設表面31から所定長さLだけ延出させたシース先端部位11を溶融させ、当該金属シース材からなる先端封止部4を形成してなる。先端部位11の溶融は、筒状のまま若しくは先端を縮径させたうえで、又は所定形状にかしめたうえで溶融され、先端縁から全周にわたって略均一に溶融させることで略半球形状に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シース熱電対およびその製造方法に係わり、より詳しくは、特にガスタービンや蒸気タービン、石油化学プラント等の高温・高速流体の温度測定に好適なシース熱電対の製造方法およびそれにより製造されたシース熱電対に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電対は、種類の異なる二本の素線を接続し、この接続部(温接点)間に温度差が生じたとき閉回路に熱起電力が発生し、回路に電流が流れるゼーペック効果を利用して温度を測定するものである。シース熱電対は、熱電対素線を金属シース内に納め、酸化マグネシウム(MgO)等の無機絶縁物で充填密封して一体化したものである。従来のシース熱電対は、先端が互いに接続された二本の熱電対素線を当該接続部で折り返した形に平行に配し、棒状の金属シース基端から挿入して、温接点をシース先端部分に位置させるとともに、シース基端側を片持ち状に支持することで先端側を被測定流体中に突出させ、当該温接点が位置するシース先端の部分で温度測定するものである(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0003】
このようなシース熱電対の先端部の形成方法として、図13(a)のシース熱電対101に示すように、熱電対202を収容した金属シース110の先端開口部110aを封止する際、溶接棒をアーク電極により溶融し溶かし込むことにより先端封止部104を形成し、絶縁物が飛び出さないよう蓋をする手法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、このような手法では、溶接棒に金属シースと同材質のものを用いる必要があるため、毎回溶接棒と金属シースの材質の確認作業が必要となるとともに、金属シースの材質が変わる度に合わせて溶接棒の材質を変更する必要があり、材質の異なる溶接棒の在庫が増え、低コスト化が困難であり、それにより商品価格が高くなる問題があった。また、溶接する際に、溶接棒と金属シースとを正確に位置合わせする必要があるため、このような溶接工程を含むシース熱電対の製造を自動化することは困難であった。更に、実際に用いられている専用溶接棒は金属シースの組成と微妙に異なり、その異成分を原因として耐酸化性等の耐久性を低下させる原因となっていた。
【0004】
また、図13(b)のシース熱電対201に示すように、熱電対202を収容した金属シース210の先端開口部に封止部材240を嵌入させ、溶接により開口縁部210aに固定して先端封止部204を形成する手法も行われているが、この方法では金属シースの内径に合致した封止部材240を別途用意する必要があり、部品点数および工数の増加などコスト増大の原因となる。また、先端封止部にシース内壁や無機絶縁物の埋設表面との間に空間が生じると温度測定精度に悪影響を与えるところ、このような封止部材240を用いる方法では、封止部材240自体の精度や封止部材240の熱膨張/収縮を原因として空間が生じやすく、精度低下の懸念がある。
【0005】
【特許文献1】特開平8−82557号公報
【特許文献2】特開2001−165780号公報
【特許文献3】特公昭59−37771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、工数を減らし生産速度を向上できるとともに、低コスト化することができ、しかも自動化するのに適し、耐久性および測定精度に優れたシース熱電対の製造方法、およびそれにより製造されたシース熱電対を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、金属シース内部に、少なくとも一対の熱電対素線およびこれら熱電対素線と金属シースの隙間を埋める無機絶縁物を収容し、先端側を気密封止してなるシース熱電対において、前記金属シース先端側の気密封止として、前記無機絶縁物の埋設表面から所定長さ延出させたシース先端部位を溶融させ、当該金属シース材からなる先端封止部を形成してなることを特徴とするシース熱電対を構成した。ここに、「所定長さ」とは、狙いとする容量の先端封止部を形成するために設定される長さであり、金属シースの厚み、径などの寸法に基づいて適宜設定される。
【0008】
ここで、前記シース先端部位を、筒状のまま若しくは先端を縮径させたうえで、又は所定形状にかしめたうえで溶融させたものが好ましい。
【0009】
また、前記シース先端部位を、筒状のまま若しくは先端を縮径させたうえで、先端縁から全周にわたって略均一に溶融させることにより略半球形状に形成したものが好ましい。
【0010】
また、本発明は、金属シース内部に、少なくとも一対の熱電対素線およびこれら熱電対素線と金属シースの隙間を埋める無機絶縁物を収容し、先端側を気密封止してなるシース熱電対の製造方法において、前記金属シース先端側の気密封止に際し、前記無機絶縁物の埋設表面を金属シース先端縁から所定深さの位置に設定し、これにより前記埋設表面から所定長さ延出されたシース先端部位を溶融して、当該金属シース材からなる先端封止部を形成することを特徴とするシース熱電対の製造方法をも提供する。
【0011】
ここでも、前記シース先端部位を、筒状のまま若しくは先端を縮径させた後に、又は所定形状にかしめた後に溶融させることが好ましい。
【0012】
また、前記シース先端部位を、筒状のまま若しくは先端を縮径させた後に、先端縁から全周にわたって略均一に溶融させることにより略半球形状に形成することが好ましい。
【0013】
さらに詳しくは、少なくとも一対の熱電対素線およびこれら熱電対素線と金属シースの隙間を埋める無機絶縁物を収容した長尺な金属シースを、所定の長さに切断し、切断された金属シースの一端側から無機絶縁物を除去し、一対の熱電対素線を突出させ、突出した熱電対素線を結線して温接点を形成して、無機絶縁物を埋め戻し、該無機絶縁物の埋設表面を金属シース先端縁から所定深さの位置に設定し、該埋設表面から所定長さ延出しているシース先端部位を、そのまま若しくは先端を縮径させた後に、又は所定形状にかしめた後に溶融して前記先端封止部を形成することが好ましい。ここに、「長尺な」とは、例えば10m程度をいい、複数の長さに切り分けて効率よく生産できる長さが設定されるが、とくにその寸法は限定されない。
【0014】
また、前記温接点を形成する手法は、前記金属シース一端側に内嵌する外周面とその先端面に縦断面略V字状の切り欠き部を設けた冶具を、前記無機絶縁物を除去した空所に挿入し、金属シース端部の内壁に付着した無機絶縁物を前記冶具の外周面でかき落とすと同時に、温接点を形成する一対の熱電対素線を前記切り欠き部の略V字面に案内させて互いにもたれ合うように折曲して前記熱電対素線端部を結線することが好ましい。
【0015】
また、少なくとも一対の熱電対素線およびこれら熱電対素線と金属シースの隙間を埋める無機絶縁物を収容した長尺な金属シースを、所定の長さに切断し、切断された金属シースの一端側から無機絶縁物を除去し、一対の熱電対素線を突出させ、前記シース先端部位を溶融して、前記突出した熱電対素線を当該金属シース材からなる先端封止部に埋入させることが好ましく、たとえば、突出した熱電対素線を挟み込むように、前記シース先端部位を所定形状にかしめた後に溶融させる。
【0016】
さらに、前記シース先端部位を所定形状にかしめた後に溶融させる方法では、前記シース先端部位を所定形状にかしめたかしめ部のシース長手方向に沿った長さを前記シース外径の1〜3倍とすることが好ましく、また、前記シース先端部位を所定形状にかしめたかしめ部の横断面形状を、シース軸心に対して対称形とすること、特に前記かしめ部がシース軸心から少なくとも3方向へ伸びるかしめ片より構成されることが好ましい。
【0017】
そして、前記シース先端部位は、好ましくは溶接により溶融される。
【発明の効果】
【0018】
以上にしてなる本願発明によれば、溶接棒を用いる必要がないため、溶接棒とシースとの材質確認作業が不要となり工数を減らし生産速度を向上できるとともに、材質の異なる溶接棒の在庫を保有する必要もなくなり低コスト化することができ、しかも溶接棒と金属シースとを正確に位置合わせして溶接する必要がないため製造工程を自動化するのに適したものとなる。また、溶接棒の異成分が耐酸化性を低下させるといった問題も解消され、耐久性及び測定精度に優れたシース熱電対を低コストに提供できる。
【0019】
また、シース先端部位を筒状のまま若しくは先端を縮径させた後に、又は所定形状にかしめた後に溶融させることで、シース径や厚さ等に応じて適切な方法でシース先端部位を確実にかつ略半円形となるように溶融させることができる。
【0020】
また、熱電対素線と無機絶縁物を収容した長尺な金属シースを所定の長さに切断し、切断された金属シースの一端側から無機絶縁物を除去し、一対の熱電対素線を突出させ、突出した熱電対素線を結線して温接点を形成して、無機絶縁物を埋め戻し、該無機絶縁物の埋設表面を金属シース先端縁から所定深さの位置に設定し、延出しているシース先端部位を溶融するので、大量生産への対応にも優れたものとなり、生産効率を向上することができるものとなる。
【0021】
また、温接点を形成する手法として、前記金属シース一端側に内嵌する外周面とその先端面に縦断面略V字状の切り欠き部を設けた冶具を、前記無機絶縁物を除去した空所に挿入し、金属シース端部の内壁に付着した無機絶縁物を前記冶具の外周面でかき落とすと同時に、温接点を形成する一対の熱電対素線を前記切り欠き部の略V字面に案内させて互いにもたれ合うように折曲して前記熱電対素線端部を結線するので、付着物の除去と温接点の形成とを同時に行うことができ、工数を増やすことなく、安定的に高い気密性で封止できる。
【0022】
また、熱電対素線と無機絶縁物を収容した長尺な金属シースを所定の長さに切断し、切断された金属シースの一端側から無機絶縁物を除去し、一対の熱電対素線を突出させ、前記シース先端部位を溶融して、前記突出した熱電対素線を当該金属シース材からなる先端封止部に埋入させることにより、応答が速い接触型のシース熱電対を低コストで提供できる。
【0023】
また、かしめ部のシース長手方向に沿った長さを、金属シース外径の1〜3倍とすることにより、かしめ片の大きさが溶融させるのに最適なものとなり、溶融させた後のシース熱電対先端形状を良好なものとし高い気密性で封止することが容易となる。
【0024】
さらに、前記かしめ部の横断面形状を、シース軸心に対して対称形とすることにより、溶融させた後のシース先端形状を、肉厚に偏りのない略半球状に形成することが容易となる。
【0025】
また、かしめ部が、シース軸心から少なくとも3方向へ伸びるかしめ片より構成されることにより、かしめ部の強度が向上し、かしめ片が折れ曲がることによる不良品の発生を低減することができる。
【0026】
また、シース先端部位は溶接により溶融することにより、容易かつ確実に気密封止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明に係るシース熱電対を示す説明図であり、図1〜5は第1実施形態、図6は第2実施形態、図7〜11は第3実施形態、図12は第4実施形態を示し、図中符号1はシース熱電対、2は熱電対、3は無機絶縁物、4は先端封止部、10は金属シースをそれぞれ示している。
【0029】
シース熱電対1は、図1に示すように、金属シース10内部に、一対の熱電対素線21,21よりなる熱電対2、およびこれら熱電対2と金属シース10の隙間を埋める無機絶縁物3を収容し、先端側を気密封止したものであり、当該気密封止した一端側が温度測定する際に被測定流体中に突出させる先端側となる。本発明はとくに、金属シース10先端側の気密封止として、図3に示すように、無機絶縁物3の埋設表面31から所定長さLだけ延出させたシース先端部位11を溶融させ、当該金属シース材からなる先端封止部4を形成してなることを特徴とする。
【0030】
なお、先端封止部4を除いて、金属シース10や熱電対2、無機絶縁物3などの素材や各部の構造については、従来のシース熱電対と同様のものを採用できる。金属シース10は、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、SUS316等)やニッケルクローム系耐熱合金(インコネル)等を用いることができ、シース内に充填する無機絶縁物3として、酸化マグネシウム(MgO)等を用いることができるが、これらに何ら限定されるものでもない。また、熱電対2を構成する熱電対素線21は、たとえばプラス側素線にニッケル−クロム合金、マイナス側素線にニッケル合金が用いることができるが、とくに限定されるものではない。また、本例では、熱電対素線21,21を一対のみ収容したもの例示しているが、複数対内挿したものでも勿論よい。また、シース熱電対1の基端側において、熱電対が接続部5内の補償導線を介してリード線6に接続されているが、このような構造に何ら限定されず、たとえばスリーブ状の保護管で支持し、端子箱から延出した補償導線で測定器に接続される耐圧防爆型や、端子箱を介することなく脱着コネクタを設けたものなど、従来と同様の種々の接続構造を採用できる。
【0031】
先ず、図1〜5に基づき、本発明の第1実施形態を説明する。
【0032】
本実施形態のシース熱電対1は、非接触型シース熱電対であり、図3に示すように、金属シース10先端側の気密封止として、前記無機絶縁物の埋設表面31を金属シース先端縁10aから所定深さLの位置に設定し、これにより無機絶縁物の埋設表面31から所定長さ延出されたシース先端部位11を、筒状のまま先端縁10aから全周にわたって略均一に溶融させることにより略半球形状の先端封止部4を形成したものである。
【0033】
シース先端部位11を構成するまでの工程は、図2に示す通りである。すなわち、まず一対の熱電対素線21,21およびこれら熱電対素線21と金属シース10の隙間を埋める無機絶縁物3を収容した長尺な金属シース10を所定長さに切断し(S101)、切断された金属シース10の一端側から無機絶縁物を除去するとともに所定長さに設定された一対の熱電対素線21、21を突出させ(S102)、該熱電対素線21、21を先端部で結線して温接点22を形成する(S103)。ここで、温接点22の形成は、後述の第3実施形態と同様、図9に示すような冶具9を用いてシース内壁25に付着した無機絶縁物3をかき落とすと同時に温接点22を形成する一対の熱電対素線21,21を互いにもたれ合うように折曲させた上で、各熱電対素線の先端部を互いに結線して形成してもよい。
【0034】
そして、無機絶縁物3を埋め戻して前記温接点22を埋没させた後(S104)、該無機絶縁物3を除去して埋設表面31が金属シース先端縁から所定深さLの位置となるように設定する(S105)。ここで、無機絶縁物を除去するには、好ましくはエンドミルやドリルなどが用いられ、このとき発生する削りカスを吸引或いはエアーの吹き付けにより除去しながら行うことがより好ましい。これによりシース先端部位11を溶融する際に無機絶縁物が含まれてしまうことを防止できる。
【0035】
なお、シース先端部位11を形成するその他の方法としては、図4に示すように、金属シース10を所定長さに切断し(S301)、該金属シース10に予め温接点22を形成した一対の熱電対素線21を挿入した後(S302)、該温接点22を無機絶縁物3により埋没させて所定深さLに設定する方法を採用することも勿論可能である。
【0036】
次に、シース先端部位11を溶融して先端封止部4を構成する工程は、図3のS201〜203に示すように、シース先端部位11の先端縁10aから全周にわたって略均一に溶融させることにより、略半球形状の先端封止部4を形成する(S204)。溶融手法としては、特に制限されるものではないが、容易かつ確実に気密封止できることから溶接が用いられる。具体的には、溶接棒は用いずにアーク溶接またはTIG溶接によりシース先端部位11を溶融させる。このようにシース先端部位11を溶融することにより、シース熱電対先端部における余分な気泡の噛み込みが殆どなく気密性が高いシース熱電対を作製することが容易となり、また溶接棒と金属シースとを正確に位置合わせして溶接する必要がないため製造工程を自動化するのに適したものとなる。なお、溶融の際には、図示しない金属シースの他端側から真空ポンプなどで吸引し、シース内部を減圧した状態としておくことが、内部に空気が残存することなく確実に気密封止することができるため好ましい。
【0037】
このようにして製造したシース熱電対は、先端形状が肉厚に偏りのない略半球状で、余分な気泡の噛み込みや、前記気泡がシース熱電対先端部を溶融する際に熱膨張しはじけることによる表面の凹凸や歪みの発生が殆どなく、気密性も高いものとなり、かつ低コスト化できるものとなる。また非接触型であるため、長時間の使用にも耐え得る耐久性の高いものとなる。
【0038】
なお、以上の例ではシース先端部位11を筒状のまま溶融させていたが、図5に示すように、先端を縮径させたうえで、先端縁10aから全周にわたって略均一に溶融させることも好ましい実施例である。これによれば金属シース10の径が大きい場合でも溶接をスムーズに行うことができる。
【0039】
次に、図6に基づき、本発明の第2実施形態を説明する。
【0040】
本実施形態は、接触型のシース熱電対を構成したものであり、図6に示すように、一対の熱電対素線21,21を収容し、これら熱電対素線間に無機絶縁物3を充填した長尺な金属シース10を所定の長さに切断し(S401)、切断された金属シース10一端側から無機絶縁物3を除去するとともに所定長さに設定された熱電対素線21,21を突出させ、無機絶縁物3の埋設表面31は所定深さLに設定される(S402)。そして、埋設表面31より突出するシース先端部位11を溶融して、同じく突出している熱電対素線21,21を当該金属シース材からなる先端封止部4に埋入させたものである(S403)。
【0041】
このようにして製造したシース熱電対は、先端形状が肉厚に偏りのない略半球状で、余分な気泡の噛み込みが殆どなく気密性が高いものとなり、かつ低コスト化に対応したものとなる。また接触型であるため、温度測定時の応答が速いものとなる。その他については上記第1実施形態と同様であり説明を省略する。
【0042】
次に、図7〜11に基づき、本発明の第3実施形態を説明する。
【0043】
本実施形態に係るシース熱電対1は、非接触型のものであり、所定長さLだけ延出されたシース先端部位11を所定形状にかしめてかしめ部13を形成した上で、該かしめ部13を溶融させ、当該金属シース材からなる先端封止部4を形成したものである。尚、本発明において「かしめ」は、目的とするかしめ部13の形状を得るために、図示しない種々の形状よりなる冶具又は型を用いて、従来のかしめ方法と同様に行われるものであり特に限定されないが、所望のかしめ形状を得るために、数段階の荷重負荷工程を経て徐々に目的とするかしめ部13形状を形成していくことが、金属シース10への負荷が分散されるため好ましい。
【0044】
具体的には、図8に示すように、一対の熱電対素線21,21を収容し、これら熱電対素線間に無機絶縁物3を充填した長尺な金属シース10を所定の長さに切断し(S501)、切断された金属シース10一端側の無機絶縁物3を除去するとともに所定長さに設定された一対の熱電対素線21,21を突出させ(S502)、これら熱電対素線21,21を結線して温接点を形成する(S503)。そして、無機絶縁物3を埋め戻して温接点22を埋没した埋設表面31を所定深さLに設定した後(S504)、該埋設表面31から所定長さ延出しているシース先端部位11を所定形状にかしめ(S505)、当該かしめ部13を溶融させて先端封止部4を形成する(S506)。
【0045】
より詳しくは、前記温接点22を形成する際には、図9に示すように前記金属シース10一端側に内嵌する外周面9bとその先端面に縦断面略V字状の切り欠き部9aを設けた冶具9を、前記無機絶縁物3を除去した空所に挿入し(図中(a))、金属シース10端部の内壁25に付着した無機絶縁物3を前記冶具9の外周面9bでかき落とすと同時に、温接点22を形成する一対の熱電対素線21を前記切り欠き部9aの略V字面に案内させて互いにもたれ合うように折曲して(図中(b))、前記熱電対素線端部を結線する(図中(c))。
【0046】
この冶具9の形状としては、切り欠き部が円錐形状となっているものがより好ましく、このような冶具9を、無機絶縁物3を除去した空所に回転させながら挿入することがさらに好ましい。尚、温接点22を形成する工程と、金属シース10端部の内壁25に付着した無機絶縁物3をかき落とす工程とを、別々に備えてもよいことは勿論であり、内壁25に付着した無機絶縁物3を除去する手法としては、前記の手法以外にも、例えば超音波により除去する手法を採用することもできる。
【0047】
なお、上記第1実施形態と同様、シース先端部位11を構成するその他の方法として、図10に示すように、金属シース10を所定長さに切断し(S601)、該金属シース10に予め温接点22を形成した一対の熱電対素線21を挿入した後(S602)、該温接点22を無機絶縁物3により埋没させて所定深さLに設定する(S603、S604)方法を採用することも可能である。
【0048】
前記かしめ部13の横断面形状は、例えば図11(a)〜(e)に示すように、シース軸心23に対して対称形とすることにより、溶融させた後のシース先端形状を、肉厚に偏りのない略半球状に形成することが容易となるため好ましい。さらに、前記かしめ部13を、シース軸心23から少なくとも3方向へ伸びるかしめ片12より構成することにより、かしめ部の強度が向上し、かしめ片が折れ曲がることによる不良品の発生を低減することができるため、より好ましい。例えば、図11(b)、(d)に示すかしめ部は、シース軸心23に対して対称形で、かつ3方向へ伸びるかしめ片12より構成されたものであり、図11(c)に示すかしめ部は、シース軸心23に対して対称形で、かつ4方向へ伸びるかしめ片12より構成されたものである。また、前記かしめ部13のシース長手方向に沿った長さAを、前記シース外径Bの1〜3倍とすることにより、かしめ片12の大きさが溶融させるのに最適なものとなり、高い気密性で封止することが容易となる。
【0049】
かしめ部13の溶融は、上記第1実施形態と同様、溶接によること、特に金属シースの他端24を例えば真空ポンプなどを用いて吸引して金属シース10内部を減圧した状態で溶接することが好ましい。このようにかしめ部13を形成してこれを溶融することで、金属シースが大径であっても溶接をスムーズに行うことができ、先端封止部4が肉厚に偏りのない略半球状のものとすることができる。その他については基本的には上記第1実施形態と同様であり、同一構造には同一符合を付してその説明を省略する。
【0050】
次に、図12に基づき、本発明の第4実施形態を説明する。
【0051】
本実施形態のシース熱電対1は、第3実施形態のようにかしめ部を形成して溶融するケースにおいて、シース熱電対を接触型とするものであり、図12に示すように、一対の熱電対素線21,21を収容し、これら熱電対素線間に無機絶縁物3を充填した長尺な金属シース10を所定の長さに切断し、切断された金属シース10一端側から無機絶縁物3を除去し、所定長さに設定された熱電対素線21,21を突出させて埋設表面31を所定深さLに設定するとともに、各熱電対素線21を適切な長さに切断し(S701)、熱電対素線21,21を挟み込むように、当該シース先端部位11を所定形状にかしめた後(S702)、当該かしめ部13を溶融することにより、金属シース材からなる先端封止部4に熱電対素線21,21埋入させたものである。
【0052】
この場合、一対の熱電対素線21をかしめ片12内に挟み込むようにかしめる必要があるため、かしめ部13の形状としては、図11(a)、(c)及び(e)に示すように、シース軸心23に対して対称形で、かつ偶数の方向へ伸びるかしめ片12より構成される形状とすることが好ましい。
【0053】
以上、本発明の実施形態についてそれぞれ説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、例えば金属シースが細径(例えば、外径0.25〜1.6mm)の場合、シース内の空間容積が少ないことから無機絶縁物3により該温接点22を埋没させずに内部に空間を有するタイプのシース熱電対としても特に支障はなく、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0054】
図13(a)に示した従来からの製法により、JIS規格で定められたインコネル用溶接棒を用いて先端を封じ溶接した3.2mm、2.3mm、1.6mmのインコネルシース型K熱電対について、1150℃、1100℃、1050℃などの加速試験温度で加熱並びにEMFの経時変化を測定する試験を実施した結果、EMF値はクラスIIの範囲内に
ありながら、予測されたインコネルの耐久時間よりも短時間でシースに破損が生じた。以下、その考察について説明する。
【0055】
図14は、破損品の破損部断面の光学顕微鏡による観察結果を示し、下記表1は、破損品の溶接部近傍のSEM/EDX元素定量分析比較結果を示している。この図14および表1から、次のことが考察される。破損品の先端封止部近傍のシース母材部分は、表面に緻密な酸化クロムを主成分とした酸化物で覆われている(箇所B)が、母材(箇所C)は残存している。母材の結晶粒界には構成元素のCr,Fe,Niの粒界酸化物が析出しているものの、母材を貫通する程には粒界酸化は及んでいない。一方、シース先端封止部は、酸化しきらずに金属組織が一部残留している。残留組織の特徴は粒界に大量に酸化物が析出している。また、残留組織の成分は、表1から分かるように本来のインコネルシース母材とは異なり、溶接直後の先端溶接部の成分(溶接棒成分)から、恐らく酸化により消失した成分を示している。
【0056】
【表1】

【0057】
次に、破損品先端封止部近傍の約1mm長さ範囲の酸化損耗の原因を調べるべく、破損品と同じくJIS規格で定められたインコネル用溶接棒を用いて先端を封じ溶接したインコネルシース型K熱電対(比較例1)と、本発明の上記第1実施形態の方法により、溶接棒を用いずにシース先端部位を溶融させて先端封止したインコネルシース型K熱電対(実施例1)の比較観察を実施した。図15(a)は、比較例1の先端封止部近傍断面の走査型電子顕微鏡観察結果を示し、図15(b)は、実施例1の先端封止部近傍断面の走査型電子顕微鏡観察結果を示し、表2は比較例1、実施例1の溶接部近傍のSEM/EDX元素定量分析比較結果を示している。図15の走査型電子顕微鏡写真での両者の差は明瞭で、実施例1は当然ながら母材と先端封止部は均質であったが、溶接棒を用いて封止した比較例1では溶接境界面に不均質の兆候が見られる。そして、表2の分析結果から、比較例1では本来シース母材に含まれないMn,Nbを含有し、その他の元素に関しても微妙に母材とは異なっている。
【0058】
【表2】

【0059】
以上の破損品、比較例1、実施例1の観察結果から、次のことが想定される。まずインコネル用溶接棒はインコネルそのものより耐酸化性が劣る。また、シース母材では表面に緻密な酸化クロム膜を形成し、その酸化膜がある程度の表面からの一様な酸化に対して抑制する機能を果たしているが、先端封止部に残留した金属組織の特徴から、溶接棒で形成された部分は溶接後の結晶組織の粒度は母材よりも大きく、その粒界にMn,Nbなどの酸化しやすい添加元素が析出し、表面からの一様な酸化に加えて、粒界酸化が生じたと考えらえる。そのため、酸化の耐久性が母材に劣る結果となったと考えられる。このことから、溶接棒を用いずに母材自体を溶融させて先端封止した本発明は優れた耐酸化性を有することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1実施形態に係るシース熱電対を示す説明図。
【図2】シース先端部位を構成するまでの工程を示す説明図。
【図3】シース先端部位を溶融して先端封止部を構成する工程を示す説明図。
【図4】シース先端部位を形成する他の方法を示す説明図。
【図5】シース先端部位を縮径させて溶融する変形例を示す説明図。
【図6】本発明の第2実施形態に係るシース熱電対の製作手順を示す説明図。
【図7】本発明の第3実施形態に係るシース熱電対の製作工程におけるかしめ部の代表的形状を示す斜視図。
【図8】同じく第3実施形態に係るシース熱電対の製作手順を示す説明図。
【図9】(a)〜(c)は熱電対の温接点を形成する方法を示す説明図。
【図10】シース先端部位を形成する他の方法を示す説明図。
【図11】(a)〜(e)はそれぞれかしめ部形状の変形例を示す説明図。
【図12】本発明の第4実施形態に係るシース熱電対の製作手順を示す説明図。
【図13】(a),(b)は、従来のシース熱電対を示す説明図。
【図14】破損品の破損部断面の光学顕微鏡写真。
【図15】(a)は比較例1の先端封止部近傍断面の走査型電子顕微鏡写真、(b)は実施例1の先端封止部近傍断面の走査型電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0061】
1 シース熱電対
2 熱電対
3 無機絶縁物
4 先端封止部
5 接続部
6 リード線
9 冶具
9a 切り欠き部
9b 外周面
10 金属シース
10a 先端縁
11 シース先端部位
12 かしめ片
13 かしめ部
21 熱電対素線
22 温接点
23 軸心
24 他端
25 内壁
31 埋設表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シース内部に、少なくとも一対の熱電対素線およびこれら熱電対素線と金属シースの隙間を埋める無機絶縁物を収容し、先端側を気密封止してなるシース熱電対において、前記金属シース先端側の気密封止として、前記無機絶縁物の埋設表面から所定長さ延出させたシース先端部位を溶融させ、当該金属シース材からなる先端封止部を形成してなることを特徴とするシース熱電対。
【請求項2】
前記シース先端部位を、筒状のまま若しくは先端を縮径させたうえで、又は所定形状にかしめたうえで溶融させてなる請求項1記載のシース熱電対。
【請求項3】
前記シース先端部位を、筒状のまま若しくは先端を縮径させたうえで、先端縁から全周にわたって略均一に溶融させることにより略半球形状に形成してなる請求項2記載のシース熱電対。
【請求項4】
金属シース内部に、少なくとも一対の熱電対素線およびこれら熱電対素線と金属シースの隙間を埋める無機絶縁物を収容し、先端側を気密封止してなるシース熱電対の製造方法において、
前記金属シース先端側の気密封止に際し、前記無機絶縁物の埋設表面を金属シース先端縁から所定深さの位置に設定し、
これにより前記埋設表面から所定長さ延出されたシース先端部位を溶融して、当該金属シース材からなる先端封止部を形成することを特徴とするシース熱電対の製造方法。
【請求項5】
前記シース先端部位を、筒状のまま若しくは先端を縮径させた後に、又は所定形状にかしめた後に溶融させてなる請求項4記載のシース熱電対の製造方法。
【請求項6】
前記シース先端部位を、筒状のまま若しくは先端を縮径させた後に、先端縁から全周にわたって略均一に溶融させることにより略半球形状に形成してなる請求項5記載のシース熱電対の製造方法。
【請求項7】
少なくとも一対の熱電対素線およびこれら熱電対素線と金属シースの隙間を埋める無機絶縁物を収容した長尺な金属シースを、所定の長さに切断し、切断された金属シースの一端側から無機絶縁物を除去し、一対の熱電対素線を突出させ、突出した熱電対素線を結線して温接点を形成して、無機絶縁物を埋め戻し、該無機絶縁物の埋設表面を金属シース先端縁から所定深さの位置に設定し、該埋設表面から所定長さ延出しているシース先端部位を、そのまま若しくは先端を縮径させた後に、又は所定形状にかしめた後に溶融して前記先端封止部を形成する請求項4〜6の何れか1項に記載のシース熱電対の製造方法。
【請求項8】
前記温接点を形成する手法が、前記金属シース一端側に内嵌する外周面とその先端面に縦断面略V字状の切り欠き部を設けた冶具を、前記無機絶縁物を除去した空所に挿入し、金属シース端部の内壁に付着した無機絶縁物を前記冶具の外周面でかき落とすと同時に、温接点を形成する一対の熱電対素線を前記切り欠き部の略V字面に案内させて互いにもたれ合うように折曲して前記熱電対素線端部を結線する請求項7記載のシース熱電対の製造方法。
【請求項9】
少なくとも一対の熱電対素線およびこれら熱電対素線と金属シースの隙間を埋める無機絶縁物を収容した長尺な金属シースを、所定の長さに切断し、切断された金属シースの一端側から無機絶縁物を除去し、一対の熱電対素線を突出させ、前記シース先端部位を溶融して、前記突出した熱電対素線を当該金属シース材からなる先端封止部に埋入させてなる請求項4記載のシース熱電対の製造方法。
【請求項10】
突出した熱電対素線を挟み込むように、前記シース先端部位を所定形状にかしめた後に溶融させてなる請求項9記載のシース熱電対の製造方法。
【請求項11】
前記シース先端部位を所定形状にかしめた後に溶融させてなる請求項4記載のシース熱電対の製造方法であって、前記シース先端部位を所定形状にかしめたかしめ部のシース長手方向に沿った長さを、前記シース外径の1〜3倍とした製造方法。
【請求項12】
前記シース先端部位を所定形状にかしめた後に溶融させてなる請求項4記載のシース熱電対の製造方法であって、前記シース先端部位を所定形状にかしめたかしめ部の横断面形状を、シース軸心に対して対称形としたシース熱電対の製造方法。
【請求項13】
前記かしめ部が、シース軸心から少なくとも3方向へ伸びるかしめ片より構成される請求項12記載のシース熱電対の製造方法。
【請求項14】
前記シース先端部位を、溶接により溶融してなる請求項4〜13の何れか1項に記載のシース熱電対の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−187654(P2007−187654A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335601(P2006−335601)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(390007744)山里産業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】