説明

シートパッド及び同製造方法

【課題】車両の正面衝突時に、シートベルトによって乗員が胸部に受ける圧迫感を軽減すること。
【解決手段】車両用シート10の心材となるポリウレタン発泡体製のシートパッド21において、シートパッド21は、車両用シート10の着座する方の表面の少なくとも一部に多数の凹部37が形成されるとともに、この多数の凹部37の底に近接し且つ多数の凹部37に沿って位置する補強用の布材38が埋設されている。布材38は、未発泡のポリウレタンが通過可能である。シートパッド21は、成形時にシートパッド21に対する布材38の位置決めをするための位置決め孔39を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのシートパッドの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の乗員が着座するシートパッドとして、種々のシートパッドが提案されている(例えば、特許文献1(図4)参照。)。
【0003】
特許文献1に示されるシートパッドは、乗員が着座する着座面からシートパッド内部に向かって凹む凹部が多数形成されてなる。多数の凹部が形成されているので、小さい圧縮荷重によって撓みやすく、軟らかい感触を得ることができる。つまり、シートパッドの表面の軟らかさを確保することができる。このため、シートクッションのクッション性が良く、座り心地が良い。
【0004】
ところで、シートパッドには、乗員をよりシートに密着させ、移動しにくくすることが求められる。特許文献1に示されるシートパッドによれば、小さい圧縮荷重によってシートパッドが撓む。例えば、急カーブ等において乗員の身体に力が加わる際に、容易にシートパッドが撓むことで、乗員が移動しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−537500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、着座時における乗員の快適性を確保しつつ、乗員をしっかり固定することができるシートパッド技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、シートクッションの心材となるポリウレタン発泡体製のシートパッドにおいて、シートパッドは、シートクッションに着座する方の表面の少なくとも一部に多数の凹部が形成されるとともに、この多数の凹部の底に近接し且つ多数の凹部に沿って位置する補強用の布材が埋設されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、布材は、未発泡のポリウレタンが通過可能であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、シートパッドは、成形時にシートパッドに対する布材の位置決めをするための位置決め孔を有していることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1記載のシートパッドを製造するためのシートパッドの製造方法であって、シートパッドを成形するためのキャビティの所定の領域に、多数の凹部を形成するための多数の凸部が形成されている金型を準備する工程と、多数の凸部の各々の先端面に布材を載置する工程と、キャビティに未発泡のポリウレタンを供給する工程と、この未発泡のポリウレタンを発泡させる工程とを、有していることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、キャビティに未発泡のポリウレタンを供給する工程では、多数の凸部の各々の先端面と押さえ金型とによって、布材を挟み込んでいる状態で、キャビティに未発泡のポリウレタンを供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、シートパッドの表面は、多数の凹部が形成されているので、小さい圧縮荷重によって撓みやすく、軟らかい感触を得ることができる。つまり、シートパッドの表面の軟らかさを確保することができる。このため、クッション性が良く、乗員への当たり心地が良い。しかも、シートパッドには補強用の布材が埋設されている。この布材は、多数の凹部の底に近接し(隣接を含む。)且つ多数の凹部に沿って位置している。このため、シートパッドのなかで、多数の凹部が形成されることにより柔らかくなっている部位の、全体の剛性(面剛性)を確保することができる。つまり、シートパッドは、表面に多数の凹部を有している範囲が、極く局部的な弾性変形をしないように、布材によって抑制される。このように、シートパッドに必要とされる、表面の軟らかさと、全体の適度の剛性との、両立を図ることができる。
【0013】
請求項2に係る発明では、布材は、未発泡のポリウレタンが通過可能である。通過可能とすることで、シートパッド作成時において、シートパッドの作成型内に満遍なく未発泡のポリウレタンを充填することができる。シートパッドの作成型内に満遍なく未発泡のポリウレタンを充填することで、凹部等の細かい部位まで確実に成形することができる。即ち、未発泡のポリウレタンが通過可能な布材を用いることで、任意の形状に確実にシートパッドを成形することができる。
【0014】
請求項3に係る発明では、シートパッドは、成形時にシートパッドに対する布材の位置決めをするための位置決め孔を有している。即ち、シートパッドは、成形時に位置決めをされた状態で成形されている。成形時に位置決めを行うことで、シートパッドの移動を防止することができる。シートパッドの移動を防止することで、任意の部位に正確にシートパッドを固定することができる。
【0015】
請求項4に係る発明では、多数の凸部の先端面に布材を載置した状態で、未発泡のポリウレタンを供給し、未発泡のポリウレタンを発泡させる。即ち、多数の凸部の先端面に布材を載置した状態で、ポリウレタンを発泡させる。布材を載置した状態で発泡させることにより、シートパッド内に布材を埋設させることができる。シートパッド全体の剛性を高めるために、予め布材を型内に載置させておくだけでよい。容易にシートパッド全体の剛性を高めることができる。
【0016】
請求項5に係る発明では、布材を挟み込んでいる状態で、キャビティに未発泡のポリウレタンを供給する。即ち、布材は、シートパッドの成形時に、位置決めをされている。成形時に位置決めを行うことで、シートパッドの移動を防止することができる。シートパッドの移動を防止することで、任意の部位に正確にシートパッドを固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るシートパッドを搭載した車両用シートの斜視図である。
【図2】本発明に係るシートパッドの平面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図3の4部拡大図である。
【図5】本発明に係る準備工程から布材挟持工程までを説明する図である。
【図6】本発明に係るポリウレタン供給工程からポリウレタン発泡工程までを説明する図である。
【図7】実施例2に係るシートパッドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1に示すように、車両用シート10は、シート基部11と、このシート基部11に支持され乗員が着座するシートクッション20と、このシートクッション20の後部から立上げられ乗員の背中を支えるシートバック14と、このシートバック14の先端に設けられるヘッドレスト15とからなる。
本発明に係るシートパッド(図2、符号シートパッド21)は、シートクッション20及びシートバック14の心材として用いられる。以下、シートクッション20に用いた場合を例に説明する。
【0020】
図2から図4までに示すように、シートクッション20は、心材となるポリウレタン発泡体製のシートパッド21と、このシートパッド21を囲う表皮材22とからなる。
シートパッド21は、乗員が着座する着座面31と、この着座面31から両側方に向かって上り形状に形成されている着座部側面32,32と、これらの着座部側面32,32の端部から下方に向かって下りる壁面33,33と、これらの壁面33,33の下端からさらに下げられ湾曲状に形成されている湾曲面34,34と、これらの湾曲面34,34間に延びている底面35と、着座面31から内部に向かって凹まされる着座部凹部36と、着座部側面32,32から内部に向かって凹まされる側部凹部37,37と、これらの側部凹部37の底面37aに沿って埋設されている布材38,38と、これらの布材38に向かって湾曲面34,34から開けられている位置決め孔39とからなる。
【0021】
位置決め孔39は、成形時にシートパッド21に対する布材38の位置決めをした際に形成された穴である。
布材38には、例えば不織布を用いることができる。
【0022】
特に、図2に示すように、着座面31と、着座部側面32とは、車両前後方向に向かって延びる縦溝42,42で仕切られている。また、着座面31は、車幅方向に向かって延びる横溝43,43によって3つに分割されている。
【0023】
シートパッド21の着座面31、着座部側面32は、着座部凹部36、側部凹部37が形成されているので、小さい圧縮荷重によって撓みやすく、軟らかい感触を得ることができる。つまり、シートパッド21の表面の軟らかさを確保することができる。このため、クッション性が良く、乗員への当たり心地が良い。
加えて、シートパッド21には補強用の布材38が埋設されている。この布材38は、多数の側部凹部37の底に近接し(隣接を含む。)且つ多数の側部凹部37に沿って位置している。このため、シートパッド21のなかで、多数の側部凹部37が形成されることにより柔らかくなっている部位の、全体の剛性(面剛性)を確保することができる。つまり、シートパッド21は、表面に多数の側部凹部37を有している範囲が、極く局部的な弾性変形をしないように、布材38によって抑制される。このように、シートパッド21に必要とされる、表面の軟らかさと、全体の適度の剛性との、両立を図ることができる。
【0024】
また、布材38を着座部側面32近傍にのみ設けた場合は、以下の効果を得ることができる。車両の運転中に急な旋回をする必要のある場合がある。急な旋回をした際に、着座面31に着座している乗員に対して、着座部側面32に向かって移動させる力が加わる。乗員の視点を一定に保つために、乗員の移動は最小限に抑えられることが望ましい。布材38を着座部側面32近傍に設けることで、表面の軟らかさと、全体の適度の剛性との、両立を図ることができる。また、着座面31の近傍には布材38を埋設させないことで、高い快適性を得ることができる。
このようなシートパッド21の製造方法について次図以降において説明する。
【0025】
図5(a)は、準備工程から布材載置工程までを説明する図であり、まず、金型50及び布材38を準備しておく。
金型50は、地面に載置される下型51と、この下型51に臨み下型51に向かって昇降する上型52とからなる。
【0026】
下型51には、着座部凹部(図3、符号36)や側部凹部(図3、符号37)を形成するための多数の凸部54が形成されている。
上型52には、下型51に向かって延び下型51の凸部54の先端面54aとの間で布材38を挟持する押さえ金型56が形成されている。
【0027】
次に、布材38を下型51の凸部54の各々の先端面54aに載置する。載置したら、上型52を下型51に向かって下降させる。
図5(b)は、キャビティ形成工程を説明する図であり、上型52を下降させることで、下型51の端部51aに上型52の端部52aが接触する。接触することで、下型51と上型52との間に隙間が形成される。この隙間がキャビティ58である。
【0028】
図5(b)のc部拡大図である図5(c)も合わせて参照すると、凸部54の先端面54aに載置された布材38を、凸部54の先端面54aと、押さえ金型56とで挟持する。挟持した状態を保ったまま、つぎの工程を行う。
【0029】
図6(a)はポリウレタン注入工程を説明する図であり、キャビティ58内に未発泡のポリウレタン61を供給する。次に、未発泡のポリウレタン61に発泡剤を加える。
図6(b)はポリウレタン発泡工程を説明する図であり、発泡させることで、キャビティ58内でシートパッド21が形成される。
【0030】
布材38は、未発泡のポリウレタンが通過可能である。通過可能とすることで、シートパッド21作成時において、シートパッド21の作成を行う金型50内に満遍なく未発泡のポリウレタン61を充填することができる。金型50内に満遍なく未発泡のポリウレタン61を充填することで、側部凹部37等の細かい部位まで確実に成形することができる。即ち、未発泡のポリウレタン61が通過可能な布材38を用いることで、任意の形状に確実にシートパッド21を成形することができる。
【0031】
多数の凸部54の先端面54aに布材38を載置した状態で、未発泡のポリウレタン61を供給し、未発泡のポリウレタン61を発泡させる。即ち、多数の凸部54の先端面54aに布材38を載置した状態で、未発泡のポリウレタン61を発泡させる。布材38を載置した状態で発泡させることにより、シートパッド21内に布材38を埋設させることができる。シートパッド21全体の剛性を高めるために、予め布材38を金型50内に載置させておくだけでよい。容易にシートパッド21全体の剛性を高めることができる。
【0032】
布材38を挟み込んでいる状態で、キャビティ58に未発泡のポリウレタン61を供給する。即ち、布材38は、シートパッド21の成形時に、位置決めをされている。成形時に位置決めを行うことで、シートパッド21の移動を防止することができる。シートパッド21の移動を防止することで、任意の部位に正確にシートパッド21を固定することができる。
【0033】
さらに、図3も合わせて参照して、シートパッド21は、成形時にシートパッド21に対する布材の位置決めをするための位置決め孔39を有している。即ち、シートパッド21は、成形時に位置決めをされた状態で成形されている。成形時に位置決めを行うことで、シートパッド21の移動を防止することができる。シートパッド21の移動を防止することで、任意の部位に正確にシートパッド21を固定することができる。
【0034】
図1に戻り、布材38は、シートクッション20の着座部側面32のみならず、シートバック14の側部補強部63の内部に埋設することもでき、シートクッション20に埋設した場合と同様の効果を得ることができる。
このようなシートバックの別実施例について次図で説明する。
【実施例2】
【0035】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。図7は実施例2のシートパッドの断面構成を示し、上記図3に対応させて表している。
図7に示されるように、シートパッド70は、布材71が着座部側面32から側部凹部37の底面37aに沿って延びると共に、底面35まで延びている。即ち、着座面31の下部では、略鉛直方向にわたって布材71が埋設されている。
【0036】
このようなシートパッド70も、本発明の効果を得ることができる。
また、着座面31の下部で、略鉛直方向にわたって布材71が埋設されていることで、乗員が着座する部分では、鉛直方向の剛性が高められる。鉛直方向への剛性を高めることで、シートパッド70が潰れようとする作用に対しての反発力を大きくすることができる。反発力を大きくすることで、乗員へのシートパッド70の密着性を高めることができる。
【0037】
尚、本発明に係るシートパッドは、実施例ではクッションシートの側部に適用した場合を例に説明したが、クッションシートの着座面にも適用することができる。また、クッションシートの他、シートバックにも適用することができ、布材の埋設される部位は、クッションシートの側部に限られない。また、クッションシート及びシートパッドの両方に本発明に係るシートパッドを適用することもできるし、クッションシート又はシートパッドのどちらかにのみ、本発明に係るシートパッドを適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のシートパッドは、車両用シートに好適である。
【符号の説明】
【0039】
10…車両用シート、21,70…シートパッド、37…側部凹部、38,71…布材、39…位置決め孔、50…金型、54…凸部、54a…先端面、56…押さえ金型、58…キャビティ、61…未発泡のポリウレタン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートの心材となるポリウレタン発泡体製のシートパッドにおいて、
前記シートパッドは、前記車両用シートの着座する方の表面の少なくとも一部に多数の凹部が形成されるとともに、この多数の凹部の底に近接し且つ前記多数の凹部に沿って位置する補強用の布材が埋設されていることを特徴とするシートパッド。
【請求項2】
前記布材は、未発泡のポリウレタンが通過可能であることを特徴とする請求項1記載のシートパッド。
【請求項3】
前記シートパッドは、成形時に前記シートパッドに対する前記布材の位置決めをするための位置決め孔を有していることを特徴とする請求項1又は2記載のシートパッド。
【請求項4】
請求項1記載のシートパッドを製造するためのシートパッドの製造方法であって、
前記シートパッドを成形するためのキャビティの所定の領域に、前記多数の凹部を形成するための多数の凸部が形成されている金型を準備する工程と、
前記多数の凸部の各々の先端面に前記布材を載置する工程と、
前記キャビティに未発泡のポリウレタンを供給する工程と、
この未発泡のポリウレタンを発泡させる工程とを、
有していることを特徴とするシートパッドの製造方法。
【請求項5】
前記キャビティに未発泡のポリウレタンを供給する工程では、前記多数の凸部の各々の先端面と押さえ金型とによって、前記布材を挟み込んでいる状態で、前記キャビティに未発泡のポリウレタンを供給することを特徴とする請求項3記載のシートパッドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−200269(P2012−200269A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64442(P2011−64442)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】