説明

シート材、電磁波シールド用シート材、壁紙、及び電線用電磁波シールドテープ

【課題】軽量、薄肉で、しかも金属付着量の多いシート材を提供する。
【解決手段】シート材は、繊維配列層12A,12B,12C,12Dを少なくとも1層備えた通気性の基布2を有し、基布2の少なくとも一方の面が通気性を有するようにめっきされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材、電磁波シールド用シート材、壁紙、及び電線用電磁波シールドテープに関し、特に、めっきされたシート材の基布の構成に関する。
【0002】
従来から、電磁波のシールドは多くの技術分野で公知の課題である。例えば、携帯電話に代表される小型電子通信機器では、高機能化のために従来よりも多くの電磁波が放出される傾向にあり、内部の電子部品への影響を抑えることが重要となってきている。また、工場等においても多くの設備が電子化され、電子化された機器や工場内の動力線から放出される電磁波によるノイズないし誤動作に対する対策が必要とされている。自動車の分野でも多くの電装品が用いられており、電磁波シールドが重要となりつつある。さらに、近年の健康志向、あるいはペースメーカ使用者、電磁波過敏症患者などへの配慮から、家庭内、病院内等でも電磁波シールドに対するニーズが高まっている。
【0003】
これらの電磁波シールドには、金属繊維、不織布等からなる基材にめっきを施したシート材が多く使われている(例えば、特許文献1〜4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−091877号公報
【特許文献2】特開2004−276443号公報
【特許文献3】特開2000−124660号公報
【特許文献4】特開2004−327687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電磁波シールド特性はめっき工程によって基材に付着する金属の量に大きく依存し、金属の付着量が多いほど電磁波シールド特性も向上する。しかし、金属繊維を使った編物や織物では繊維が太く剛直であるため厚みの厚い素材となってしまう。これを打開するために不織布を基材としてメッキしたものが用いられる。しかし、一般的なスパンボンド不織布を構成する高分子繊維は、径の下限界から表面積が限られている。一般に、電磁波シールド用のシート材のめっきには無電解めっきが用いられるが、無電解めっきでは、金属は被めっき物のめっき液との接液部に形成されていくため、繊維の表面積が小さいと、それだけ金属の付着量も小さくなる。そこで、付着量を増やすため基材の膜厚を増やしても、めっき液の浸透性に限界があるため、基材の奥の方まで十分にめっき液が浸透せず、目付量(単位面積当たりの重量)及び基材の厚さがいたずらに増えるだけの結果となる。
【0006】
しかし、電磁波シールドは用途によっては軽量、薄肉性が強く求められる。例えば前述の携帯電話では、部品の集積度は既に限界に達しており、しかも一層のスリム化、軽量化が求められており、電磁波シールド機能に寄与しない基材の重量や厚さが増えることは極力避けられなければならない。自動車の電装品用の電磁波シールドにあっても、自動車の軽量化のためには基材は薄いほど好ましい。
【0007】
本発明は、上記の課題に照らし、軽量、薄肉で、しかも金属付着量の多いシート材を提供することを目的とする。また、本発明は、かかるシート材を用いて電磁波シールド効果を発揮する各種応用品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様によれば、シート材は、繊維配列層を少なくとも1層備えた通気性の基布を有し、基布の少なくとも一方の面が通気性を有するようにめっきされている。
【0009】
基布は連続した長繊維が一方向に略直線状に延伸されて配列された繊維配列層を複数層備え、一部の繊維配列層と他の繊維配列層とが、長繊維の延伸方向が互いに異なるように積層されていることが好ましい。このように構成された基布では、長繊維が一方向に略直線状に配列しているため、繊維を隙間なく密集して配列させることができる。長繊維が延伸されているため、繊維の径が絞られ、小径で多数の繊維を配列させることができる。そして、これらの相乗効果で繊維の比表面積(単位体積当たりの表面積)を増やすことができる。めっきによる金属付着量は繊維の比表面積、特に基布の表面近傍における繊維の比表面積に大きく依存するため、従来のように繊維がランダムに配向した基布を用いた場合と比べて金属の付着効率が高まり、より多くの金属を付着させることができる。また、連続した長繊維を一方向に略直線状に延伸させることにより、繊維がシート材の面内方向に整然と延び、基布内における繊維の充填効率を高めることができるため、嵩薄のシート材を作成することができる。嵩薄であることは、金属が基布の全厚みに渡って形成されやすくなり、金属の付着効率がさらに高まるというメリットにもつながる。その結果、薄いシートで十分な金属付着量が得られ、軽量化に資すると共に、上述の本来的な嵩薄い特質と相俟って一層の薄肉化にも資する。
【0010】
本発明の他の実施形態によれば、電磁波シールド用シート材、壁紙、電線用電磁波シールドテープは上記シート材を有している。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、軽量、薄肉で、しかも金属付着量の多いシート材を提供することができる。また、本発明によれば、かかるシート材を用いて電磁波シールド効果を発揮する各種応用品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るシート材の断面図である。
【図2】図1に示す基布の分解斜視図である。
【図3】図1に示す基布の部分分解斜視図である。
【図4】本発明のシート材を電磁波シールド用シート材として用いた携帯電話の概略断面図である。
【図5】本発明のシート材を電磁波シールドとして用いた壁紙の概略断面図である。
【図6】本発明のシート材を用いた電線の概略図である。
【図7】繊維配列層の作成に用いられる製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のシート材の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るシート材の断面図である。シート材1は、不織布からなる基布2と基布2の両面に形成されためっき部3a,3bとを有している。めっき部3a,3bは、実際には後述するように繊維の表面に付着した金属であるが、図1では図示の都合上、層の形態で表示している。めっき部3a,3bは無電解めっきによって基布2の両面に形成されるが、いずれか片面のみに形成されていてもよい。付着させる金属は、形成されるめっき部3a,3bが電磁波シールド効果を奏することができればどのような材料を用いても構わないが、一例として、銅とニッケルを繊維に順次付着させる構成が好適に用いられる。この構成では銅が主に電磁波シールド効果を担い、ニッケルは主に防錆効果を担う。
【0014】
付着する金属の量は基布2をめっき液に浸す時間を変えることによって調整可能である。基布をめっき液に短時間浸せば、基布が本来備えている通気性を阻害しない程度の量の金属を付着させることができ、より長時間浸せば、各繊維に付着しためっき部が互いに連結する程度の量の金属を付着させることもできる。
【0015】
図2は、基布の分解斜視図である。基布2は、連続した長繊維が一方向に略直線状に延伸されて配列した繊維配列層を複数枚積層して構成されている。図では4枚の繊維配列層12A,12B,12C,12Dを示しているが、積層する枚数は適宜定めることができ、用途によっては後述するように1枚の繊維配列層だけが設けられていても構わない。繊維配列層12A,12B,12C,12Dは互いに熱圧着されて、全体として一つの基布2を形成している。
【0016】
図3は、基布の繊維配列層の一部を拡大して示す部分斜視図である。同図には繊維配列層12A,12Bだけが示されているが、他の繊維配列層も同様の構成となっている。図示するように、繊維配列層12Aは、互いに平行にかつ直線状に延びる多数の繊維13Aの集合体である。同様に、繊維配列層12Bは、互いに平行にかつ直線状に延びる多数の繊維13Bの集合体である。繊維13A,13Bは途中で折り畳まれたり、2層以上積層されたりしている場合もある。繊維配列層12Aは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン、フッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂およびこれらの変性樹脂から作成することができる。ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアクリルニトリル系樹脂等の湿式または乾式の紡糸手段による樹脂も使用することができる。繊維配列層12Bも同様である。各繊維13A,13Bの直径は例えば10μm程度である。繊維配列層12A,12Bは、繊維配列層12Aの繊維13Aの延伸方向15Aと繊維配列層12Bの繊維13Bの延伸方向15Bとが互いに直交するように積層されている。繊維配列層12Cの繊維13Cの延伸方向15Cは繊維配列層12Bの繊維13Bの延伸方向15Bと直交している。同様に、繊維配列層12Dの繊維13Dの延伸方向15Dは繊維配列層12Cの繊維13Cの延伸方向15Cと直交している。繊維配列層は、繊維の延伸方向が隣接する繊維配列層同士で互いに直交している必要はなく、一定の角度差で順次積層されていてもよく、同じ延伸方向を持つ2枚またはそれ以上の繊維配列層が連続して設けられていてもよい。
【0017】
基布の目付量は5g/m以上、60g/m以下が好ましい。基布の一方の面または両面に粘着テープ、粘着材等の接着手段が設けられていてもよい。
【0018】
各繊維配列層12A,12B,12C,12Dの繊維13A,13B,13C,13Dは延伸方向15A,15B,15C,15Dに延伸されて配列している。このため、従来のメルトブロー法等を用いて作成した不織布と比べて、繊維の直線性と方向性が極めて高く、しかも繊維の密集度が高い。この結果、基布2の繊維の比表面積を従来の不織布に対して増加させることが可能となる。一例として、従来のスパンボンド法で作成された不織布では繊維径は20μm程度が一般的であるが、本実施形態の不織布は10μm程度の繊維径で作成することができる。これは後述するように、ノズルから押出された繊維がさらに後工程で延伸されるためである。繊維径が20μmの場合と繊維径が10μmの場合とで単位長さ当りの繊維重量を同一とすると、径20μmの繊維1本は径10μmの繊維4本に相当する。しかし、表面積は周長に比例するため、繊維の径が10μmの場合は繊維の径が20μmの場合の2倍の表面積を有することになる。電気めっきは、化学反応を介して、めっき液に接する被めっき物に金属を形成する技術であるため、金属は各繊維の表面に形成される。従って、形成される金属の体積ないし表面積は、基布の表面積ではなく、基布2を構成する繊維の総表面積に依存する。このため、本実施形態の基布2ではより多くの金属を繊維層に付着させることが可能となる。
【0019】
また、本実施形態による不織布では、繊維は互いに略平行に直線状に重ね合わされるので、交絡が少なく、繊維配列層の表面に繊維が密集した状態で露出する。電界めっき液は基布の内部に浸透するため、金属は基布の内部にも形成されるが、最も金属が付着しやすいのは繊維配列層の表面とその近傍である。そして、本実施形態では、基布の表面での繊維の接液面積が増加しているため、金属の付着効率が増大する。換言すれば、従来の基布では表面から基布の厚さ方向に十分な深さまで金属を付着させる必要があったのに対し、本実施形態の基布では、表面での付着効率が高く、従来よりも浅い深さまでしか金属を付着させなくても十分な付着量を得ることができる。この結果、シート材の薄肉化と軽量化が促進される。
【0020】
また、本実施形態の基布は延伸して形成されているため、従来の基布と比べて本来的に嵩薄い(厚さが小さい。)。従って、完成したシート材は従来のシート材よりも薄くてすむ。また、この本来的な嵩薄さによって電界めっき液の浸透効率が高められ、金属付着効率もさらに向上する。これによって、一層の薄肉化と軽量化が達成される。このことは、特に携帯電話等の小型の電子装置では重要なメリットとなる。さらに、嵩薄いという特徴は、保管、運搬等のハンドリングのしやすさにもつながる。一般に従来の不織布では30g/m程度の目付の場合、200μm程度の厚みであるが、本実施形態の基布では30g/m程度の目付の場合、100μm程度の厚みに低減できる。
【0021】
また、本実施形態の基布は、連続した長繊維からなるため、電界めっき液に浸したときに繊維が脱落しにくく、電界めっき液の汚染防止の観点からも有利である。繊維が脱落しにくいことから、長期の使用によっても基布は当初の状態を保ちやすく、強度低下が生じにくいというメリットもある。
【0022】
さらに、本実施形態の基布は、常温での揮発性またはブリードアウト性を有する添加剤、及び揮発性またはブリードアウト性を有する加工助剤を実質的に含んでいない。一般に不織布は、紡糸性や加工性、延伸性を高めるため、それ自体が種々の添加物を含んでおり、あるいは各工程で必要な加工助剤が加えられる。例えば、従来の不織布では、繊維が複雑に交絡しているため、帯電防止や延伸の際の抵抗低減が必要であり、これらの目的で、油分を含んだ添加剤あるいは加工助剤を用いている。しかし、無電解めっきでは金属の付着性を高めるため、研磨や洗浄によって被めっき物の表面をクリーンな状態にしておく必要がある。本実施形態の基布では、繊維が一方向に直線状に配列し、配列ムラが少ないため、延伸時に繊維の交差点が軋むことが少なく、また、帯電もしにくいので、油分は不要である。このため、金属の基布への付着性が良好である。
【0023】
次に、上述したシート材を用いた様々な実施形態について説明する。
【0024】
図4は、本発明のシート材を電磁波シールド用シート材として用いた携帯電話の概略断面図である。携帯電話41の筐体42には表示部43や操作部44が設けられ、筐体42の内部には基板45が設けられている。スピーカ及び通話口(図示せず)も表示部43と同じ面に設けられている。筐体42の内部にはさらに、電磁波の主たる発生源であるアンテナ44が設けられている。筐体42の内面には、接着剤、粘着テープ等の接着手段を介して電磁波シールド用シート材46が取り付けられている。アンテナ44は基地局との通信のために常時電磁波を外部に出し続けなければならないため、電磁波シールド用シート材46の外側に置かれているが、基板45は電磁波シールド用シート材46の内側に位置している。
【0025】
このように構成された携帯電話41では、アンテナ44から放出される電磁波が筐体42の内部に届きにくくなり、基板45上に設置された各種素子への影響が緩和される。前述したように、本実施形態の電磁波シールド用シート材46は嵩薄いため、筐体42の内部空間への影響が少なく、しかも軽量であるため、携帯電話の重量増加もわずかである。
【0026】
図5は、本発明のシート材を電磁波シールドとして用いた壁紙の概略断面図である。壁紙51は、壁紙本体52と電磁波シールド用シート材53とが接着テープ54によって貼り合わされた積層構造を有している。壁紙51は壁紙本体52が部屋の内部空間57に面する向きで、接着剤56によって鉄筋コンクリート製の壁55に接着される。高圧送電線や一般的な電気機器から発生する電磁波は50Hzまたは60Hzの極低周波の電磁波であり、コンクリートでもシールドが難しいといわれている。本実施形態の壁紙51を、住宅や病院等の壁に適用することで、壁の電磁気シールド性能を高めることができる。
【0027】
本実施形態の壁紙はコンクリート製の壁だけではなく、木造住宅のモルタル壁にも同様に適用することができる。また、必要に応じて天井、床にも適用可能であり、さらに、あらかじめ躯体内部に埋め込んでおくこともできる。また、パーティションやドア、雨戸など電磁波シールド効果が期待できる建築物のあらゆる部位に用いることができる。
【0028】
図6は、本発明のシート材を電線用電磁波シールドテープに応用した例を示す。同図(a)は概念的側面図、同図(b)は概念的断面図である。電線61は複数の被覆電線62が集合した構成となっており、その全体が外被63に覆われている。被覆電線62の間には介在64と呼ばれる充填材が充填されている。被覆電線62の集合体には電線用電磁波シールドテープ65がらせん状に巻きつけられている。電線用電磁波シールドテープ65は被覆電線62を結束するだけでなく、被覆電線62から発生する電磁波を有効にシールドする。
【0029】
本実施形態で用いられる電線用電磁波シールドテープ65の基布は、上述したように複数の繊維配列層が互いに直交している必要はなく、1枚の繊維配列層だけで形成することができる。なぜなら、巻き付けによる張力を発生させる必要があるのは巻き付け方向だけであり、巻き付け方向と直交する方向に張力を発生させる必要はないからである。張力は繊維配列層の延伸方向に発生するため、電線用電磁波シールドテープ65の巻き付け方向は繊維配列層の延伸方向と一致していることが好ましい。図中の矢印は繊維配列層の繊維の延伸方向を示している。
【0030】
なお、他の実施形態では、複数の繊維配列層が互いに直交している基布を用いてもよく、繊維の延伸方向が互いに平行になるように複数の繊維配列層を重ね合わせて基布を形成してもよい。また、本実施形態では複数の被覆電線が集合した構成を用いているが、1本の裸芯線に電線用電磁波シールドテープをらせん状に巻き付け、その上を外被で覆うように構成してもよい。さらに、電線の種類に限定はなく、電流が流れて磁界を発生する任意の電線に適用して電線から外界への電磁波を遮蔽することができる。例えば、送電線、工場内の動力供給線などが代表例として挙げられる。また、逆に外部からの電磁波による影響を嫌う電線に適用して外界から電線への電磁波による悪影響を抑制することができる。例えば、高密度の信号の伝送線が代表例として挙げられる。
【0031】
次に、以上説明した基布2の製造方法について説明する。図7は、基布を構成する繊維配列層の作成に用いられる製造装置の概略図を示す。繊維配列層製造装置21は、主にメルトブローンダイス24とコンベア25とで構成される紡糸ユニット22と、延伸シリンダ26a,26b、引取ニップローラ27a,27b等で構成される延伸ユニット23と、を有している。メルトブローンダイス24は、先端(下端)に、紙面に対して垂直な方向に並べられた多数のノズル28を有している(図では1つのみ表示している。)。ギアポンプ(図示せず)から送入された溶融樹脂30がノズル28から押出されることで、多数の繊維31が形成される。各ノズル28の両側にはそれぞれエアー溜32a,32bが設けられている。樹脂の融点以上に加熱された高圧加熱エアーは、これらエアー溜32a,32bに送入され、エアー溜32a,32bと連通してメルトブローンダイス24の先端に開口するスリット33a,33bから噴出される。これにより、ノズル28から押出される繊維31の押出し方向とほぼ平行な高速気流が生じる。この高速気流により、ノズル28から押出された繊維31はドラフト可能な溶融状態に維持され、高速気流の摩擦力により繊維31にドラフトが与えられ、繊維31が細径化される。高速気流の温度は、繊維31の紡糸温度よりも80℃以上、望ましくは120℃以上高くする。メルトブローンダイス24を用いて繊維31を形成する方法では、高速気流の温度を高くすることにより、ノズル28から押出された直後の繊維31の温度を繊維31の融点よりも十分に高くすることができるため、繊維31の分子配向を小さくすることができる。
【0032】
メルトブローンダイス24の下方にはコンベア25が配置されている。コンベア25は、駆動源(図示せず)により回転されるコンベアローラ29やその他のローラに掛け回されており、コンベアローラ13の回転によりコンベア25を駆動することで、ノズル28から押出された繊維31は図示右方向へ搬送される。
【0033】
繊維31は、ノズル28の両側のスリット33a,33bから噴出された高圧加熱エアーが合流した流れである高速気流に沿って流れる。高速気流は、スリット33a,33bから噴出された高圧加熱エアーが合流して、コンベア25の搬送面とほぼ垂直な方向に流れる。
【0034】
メルトブローンダイス24とコンベア25との間には、スプレーノズル35が設けられている。スプレーノズル35は、高速気流中へ霧状の水を噴霧するもので、これにより繊維31が冷却され、急速に凝固される。スプレーノズル35bは実際には複数個設置されるが、図5では1個のみを示している。スプレーノズル35から噴射される流体は、繊維31を冷却することができるものであれば必ずしも水分等を含む必要はなく、冷エアーであってもよい。
【0035】
メルトブローンダイス24の近傍の、スリット33a,33bによる高速気流が発生している領域には、楕円柱状の気流振動機構34が設けられている。気流振動機構34は、コンベア25上での繊維31の搬送方向Dとほぼ直交した、すなわち製造すべき繊維配列層の幅方向とほぼ平行に配置された軸34aの周りを、矢印A方向に回転させられる。一般に、気体や液体の高速噴流近傍に壁が存在しているとき、噴流は壁面に沿った方向の近くを流れる傾向があり、これはコアンダ効果といわれる。気流振動機構34は、このコアンダ効果を利用して繊維31の流れの向きを変える。図5の場合、気流振動機構34の楕円形の長軸が高速気流の向き(図面の上下方向)に一致するとき、繊維31はコンベア25に向けてほぼ鉛直に落下する。気流振動機構34が軸34aの周りを90度回転し、気流振動機構34の楕円形の長軸が高速気流の向きと直交するとき、繊維31はコンベア25の搬送方向D(図中右側)に偏位し、偏位量はこのときが最大となる。さらに気流振動機構34が軸34aの周りを回転すると、繊維31のコンベア25への落下位置は搬送方向Dに対して前後方向に周期運動する。すなわち、凝固した繊維31は、縦方向に振られながらコンベア25上に集積し、縦方向に部分的に折り畳まれて連続的に捕集され、連続長繊維が形成される。
【0036】
コンベア25上に捕集された繊維31は、コンベア25により搬送方向Dに搬送され、延伸温度に加熱された延伸シリンダ26aと押えローラ36とにニップされ、延伸シリンダ26bに移される。その後、繊維31は、延伸シリンダ26bと押えゴムローラ37とにニップされて延伸シリンダ26bに移され、2つの延伸シリンダ26a,26bに密着される。このように繊維31が延伸シリンダ26a,26bに密着しながら送られることで、繊維31は、縦方向に部分的に折り畳まれた状態のまま、隣接する繊維31同士が融着したウェブとなる。
【0037】
延伸シリンダ26a,26bに密着して送られることにより得られたウェブは、さらに、引取ニップローラ27a,27b(後段の引取ニップローラ27bはゴム製)で引き取られる。引取ニップローラ27a,27bの周速は延伸シリンダ26a,26bの周速よりも大きく、これによりウェブは縦方向に延伸され、縦延伸繊維配列層38となる。このように、紡糸したウェブを縦方向に延伸することにより、フィラメントの配列性をさらに向上することができる。繊維31が十分に急冷されることによって、延伸応力が小さく伸度が大きい繊維31が形成される。これは、上述したようにスプレーノズル35から霧状の水を噴霧し、高速気流に霧状の液体を含ませることによって実現される。以上述べた方法で形成された繊維配列層は、繊維の向きが一方向に揃えられている。
【0038】
前述のように、繊維配列層を製造する各工程では油分を含む添加剤や加工助剤を用いていない。具体的には、繊維31をノズル28から押出す際には(紡糸工程)、油分を含む添加剤や加工助剤を用いていない。その後のコンベア25上への捕集、繊維の延伸の各工程においても、油分を含む添加剤や加工助剤を用いていない。従って、完成した繊維配列層もこれらの添加剤や加工助剤は含んでいない。
【0039】
このようにして製造した繊維配列層を、繊維の方向が互いに直交するように順次積層し熱圧着することによって上述した基布2が完成する。
【符号の説明】
【0040】
1 シート材
2 基布
3a,3b めっき部
12A,12B,12C,12D 繊維配列層
13A,13B,13C,13D 繊維
15A,15B,15C,15D 延伸方向
24 メルトブローンダイス
28 ノズル
31 繊維
41 携帯電話
42 筐体
44 アンテナ
45 基板
46 電磁波シールド用シート材
51 壁紙
52 壁紙本体
53 電磁波シールド用シート材
54 接着テープ
61 電線
62 被覆電線
63 外被
65 電線用電磁波シールドテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維配列層を少なくとも1層備えた通気性の基布を有し、該基布の少なくとも一方の面が通気性を有するようにめっきされている、シート材。
【請求項2】
前記基布は連続した長繊維が一方向に略直線状に延伸されて配列された前記繊維配列層を複数層備え、一部の前記繊維配列層と他の前記繊維配列層とが、前記長繊維の延伸方向が互いに異なるように積層されている、請求項1に記載のシート材。
【請求項3】
前記一部の繊維配列層と前記他の繊維配列層とは、前記長繊維の延伸方向が互いに直交するように積層されている、請求項2に記載のシート材。
【請求項4】
一の前記長繊維の表面に付着しためっき部と、前記一の長繊維に隣接する前記長繊維の表面に付着しためっき部と、が互いに連結されていない部分を有する、請求項2または3に記載のシート材。
【請求項5】
前記基布の目付量は5g/m以上、60g/m以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のシート材。
【請求項6】
前記基布の一方の面に接着手段が設けられている、請求項1から5のいずれか1項に記載のシート材。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のシート材を有する、電磁波シールド用シート材。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載のシート材を有する、壁紙。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載のシート材を有する、電線用電磁波シールドテープ。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−99865(P2012−99865A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−33592(P2012−33592)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【分割の表示】特願2007−334471(P2007−334471)の分割
【原出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】