説明

シート材搬送方法

【課題】積層状態にあるシート材を吸着して引き上げるときに、最上位にある1枚目のシート材だけでなく2枚目以降のシート材まで一緒に引き上げてしまうことがある。
【解決手段】キャリアケース20に分離板30a,30b,30c,30dを配設する。そして、各吸着パッド40によって吸着して引き上げたシート材10を水平方向に搬送する。このとき、シート材10の両端部が分離板30a,30cに当接して変形した状態で、分離板30a,30cの間を通過するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層状態にあるシート材を吸着して引き上げるときに、最上位にある1枚目のシート材だけでなく2枚目以降のシート材まで一緒に引き上げてしまうことがある。これは、主にシート材の加工時のバリによる機械的な付着、静電気による付着、さらには各シート材間の真空発生に伴う吸着効果等によるものが原因と考えられている。
これらに対応するため、例えば下記の特許文献1及び特許文献2に記載されているシート材の分離方法では、吸着時にシート材を変形させることにより、1枚目のシート材だけを引き上げる方法を提供している。また、例えば下記の特許文献3に記載されている真空吸着装置では、吸着パッドの内側に吸着溝が形成された凸形状の支持部を付加することによって吸着時におけるシート材の変形を抑え、シート材間に真空が発生するのを防止している。さらに、他の対応方法として、吸着時にシート材の側面からエアーを吹きかけたり、シート材の側面に除電ブラシを設けたりする等の対応も行われている。
【0003】
【特許文献1】特開平6−179535号公報
【特許文献2】特開平9−255175号公報
【特許文献3】特開2003−94370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1及び特許文献2のように吸着時にシート材を変形させる方法では、吸着パッド形状に倣って容易に変形する薄いシートについては、シート材間の真空の発生を完全に防止することが難しく有効ではない。また、特許文献3のように凸形状の支持部を内部に付加した吸着パッドでは、吸着パッドの径が大きくなることから、径の小さな吸着パッドでの実用化には適していない。また、エアーによる分離では、エアーの力が弱いと分離ができず、逆に強過ぎると吸着状態のシート材を外してしまうことになり調整が難しく確実性が得られない。また、除電ブラシについては、シートがある程度大きくなると除電効果がシート中央まで達することがなく、これも確実とは言えない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
本適用例に係るシート材搬送方法は、積層された複数のシート材を分離して搬送するシート材搬送方法であって、前記シート材を引き上げる工程と、前記引上げたシート材を分離部材に当接させて前記シート材を変形させる工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
このシート材搬送方法によれば、積層された複数のシート材を分離して搬送するときに、シート材を引き上げて、この引き上げたシート材を分離部材に当接させて変形させる工程を有する。ここで、シート材を複数引き上げてしまったときに、これらのシート材を分離部材に当接させて変形させることにより、シート材に対して当接及び変形に伴う応力等を作用させ、最上位となる1枚目のシート材から2枚目以降のシート材を分離することができる。
【0008】
[適用例2]
上記適用例に係るシート材搬送方法において、前記分離部材は、前記複数のシート材が収容されるケースに設けられている分離板であることが望ましい。
【0009】
このシート材搬送方法によれば、複数のシート材が収容されるケースに分離部材となる分離板が設けられている。これにより、シート材に当接して変形させる分離部材を容易に設置することができる。また、分離した2枚目以降のシート材を元のケースの位置に戻す構成も容易に実現することができる。
【0010】
[適用例3]
上記適用例に係るシート材搬送方法において、前記分離板は前記ケースに複数設けられ、前記シート材を変形させる工程において、前記引上げたシート材を前記複数の分離板の間を通過させることにより、前記シート材を前記分離板に当接させて前記シート材を変形させることが望ましい。
【0011】
このシート材搬送方法によれば、複数の分離板をケースに設けて、シート材をこれらの分離板の間を通過させるだけの簡単な搬送方法により、引上げた複数のシート材を分離することができる。
【0012】
[適用例4]
上記適用例に係るシート材搬送方法において、前記シート材を複数引上げたときに、前記シート材を変形させる工程において、前記シート材を前記分離板に当接させて前記シート材を変形させることにより、前記シート材と当該シート材に接する他のシート材との接触面に応力を生じさせることが望ましい。
【0013】
このシート材搬送方法によれば、シート材を複数引き上げたときに、1枚目のシート材と2枚目のシート材との接触面に応力を生じさせて、この応力によって1枚目のシート材から2枚目以降のシート材を分離することができる。
【0014】
[適用例5]
上記適用例に係るシート材搬送方法において、前記シート材を引き上げる工程では、前記シート材を真空吸着により引き上げるようにしても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態に係るシート材搬送方法について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、第1実施形態に係るシート材搬送方法におけるシート材搬送装置1及びキャリアケース20の例を示す概略図である。同図に示す例では、半導体ウエハーを保護するための複数枚のシート材10が、キャリアケース20内に積層された状態で収納されている。また、キャリアケース20の外周側面には、4枚の分離板30a,30b,30c,30dが配設されている。分離板30a,30bと分離板30c,30dとは、キャリアケース20の外周においてそれぞれが対向する位置関係にある。
【0017】
シート材搬送装置1は、キャリアケース20に収容されたシート材10を1枚1枚取り出して搬送する装置である。これらのシート材10は、薄く柔らかい樹脂により構成されている。シート材搬送装置1は、4つの吸着パッド40と、各吸着パッド40を支持して通気用の配管を兼ねる支持部材50と、各支持部材50に接続される図示しない真空ポンプ機構等により構成されている。また、シート材搬送装置1は、昇降及び水平移動が可能な図示しない移動アームに取り付けられている。キャリアケース20からシート材10を取り出す際には、図1に示すように、移動アームによってシート材搬送装置1が垂直方向(下矢印方向)に下降する。
【0018】
図2は、積層されたシート材10を引き上げる工程を示す図である。同図に示す工程では、シート材搬送装置1が垂直方向に下降して、各吸着パッド40が最上面となる1枚目のシート材10の表面に接触する。そして、真空ポンプ機構が、各支持部材50を介して空気を吸引することによって各吸着パッド40の内部が負圧状態になり、各吸着パッド40が1枚目のシート材10を吸着した状態になる。この各吸着パッド40の吸着により、シート材10は各吸着パッド40に分散保持された状態になる。そして、シート材10を引き上げるときには、この状態で、移動アームによってシート材搬送装置1が垂直方向(上矢印方向)に上昇し、各吸着パッド40によって分散保持されたシート材10も共に上昇する。
【0019】
このとき、1枚目のシート材10だけでなく2枚目以降のシート材10も一緒に引き上げられてしまうことがある。これは、例えば、シート材10の加工時におけるバリによる機械的な付着、静電気による付着、さらには各シート材10間の真空発生に伴う吸着効果によるものが考えられる。
【0020】
図3は、引き上げたシート材10を水平方向に搬送する工程を示す図である。同図に示す工程では、シート材搬送装置1が水平方向(右矢印方向)に移動して、引き上げたシート材10も共に移動する。このとき、図3に示すように、引き上げたシート材10の両端部がキャリアケース20に配設された2枚の分離板30a,30cに当接して、これらの間を通過することになる。これは、シート材10の直径よりも、分離板30aと分離板30cとの対向間隔が狭いことによる。
【0021】
図4及び図5は、2枚のシート材10a,10bを引き上げた例を示す図であり、これらのシート材10a,10bを水平方向(図3に示す右矢印方向)から見た図を示している。ここで、図4は、シート材10a,10bが水平方向に移動する前の状態を示し、図5は、シート材10a,10bが水平方向に移動して分離板30a,30cに当接したときの状態を示している。図4ではシート材10a,10bにおける対向表面の全体が貼り付いた状態にある。この状態で、シート材10a,10bの両端部が2枚の分離板30a,30cを通過すると、シート材10a,10bの両端部が分離板30a,30cに当接して変形する。このとき、シート材10a,10bに対して、分離板30a,30cとの衝突による衝撃力、及び分離板30a,30cによる変形応力が加わることになる。
【0022】
これらの衝撃力及び変形応力がシート材10a,10bの接触面に作用することにより、図5に示すように、1枚目のシート材10aから2枚目のシート材10bが両端から内側へと次々と分離していく。これは、各吸着パッド40に吸着されている1枚目のシート材10aの吸着力よりも、2枚目のシート材10bの吸着力の方が弱いことによる。この結果、最終的には2枚目のシート材10bが完全に分離して落下することになる。落下したシート材10bは、分離板30a,30bと分離板30c,30dにより両側からガイドされて元のキャリアケース20内に積層される。
【0023】
なお、図4及び図5では2枚のシート材10a,10bを引き上げた例を示しているが、シート材10の枚数はこれに限られず、3枚以上のシート材10を引き上げた場合にも適用される。この場合、1枚目のシート材から2枚目以降のシート材を分離して落下させることになる。
【0024】
上述したように、本実施形態に係るシート材搬送方法においては、キャリアケース20に分離板30a,30b,30c,30dが配設されている。そして、引き上げたシート材10を水平方向に搬送するときに、シート材10の両端部を分離板30a,30cに当接して変形させた状態で、分離板30a,30cの間を通過させるようにしている。
これにより、シート材10を複数枚引き上げた場合に、これらのシート材10を分離板30a,30cの間を通過させるときの衝撃力及び変形応力の作用により、1枚目のシート材10aから2枚目以降のシート材10を容易に分離することができる。
また、吸着パッド、エアー、除電ブラシ等の対応により、シート材10の引き上げ時に分離する従来の方法とは異なり、キャリアケース20に分離板を配設した簡易な構造によってシート材10の引き上げ後に容易に分離することができる。
【0025】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るシート材搬送方法について図面を参照して説明する。
【0026】
図6は、第2実施形態に係るシート材搬送装置の例を示す概略図である。ここで、第1実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。同図に示すキャリアケース21と、図1等に示す第1実施形態におけるキャリアケース20とは、4枚の分離板の各形状が異なる。図6に示すように、第2実施形態におけるキャリアケース21では、先端部分がキャリアケース21の内側に折れ曲がった形状の分離板31a,31b,31c,31dが配設されている。
【0027】
また、図6では、引き上げたシート材10を垂直方向(上矢印方向)に搬送する工程を示している。同図に示す工程では、シート材搬送装置1が垂直方向に上昇して、引き上げたシート材10も共に上昇する。このとき、引き上げたシート材10の両端部がキャリアケース21に配設された4枚の分離板31a,31b,31c,31dの折れ曲がった各先端部分に当接して、各先端部分の間を通過することになる。これは、シート材10の直径よりも、分離板の各先端部分の対向間隔が狭いことによる。
【0028】
ここで、図4に示すように2枚のシート材10a,10bを引き上げた場合、シート材10a,10bの両端部が分離板31a,31b,31c,31dの各先端部分に当接して変形する。このとき、シート材10a,10bに対して、各先端部分との衝突による衝撃力、及び各先端部分による変形応力が加わることになる。この結果、図5に示すように、1枚目のシート材10aから2枚目のシート材10bが両端から内側に分離していくことになり、最終的には2枚目のシート材10bが完全に分離して落下することになる。
【0029】
上述したように、本実施形態に係るシート材搬送方法においては、キャリアケース21に先端部分が折れ曲がった分離板31a,31b,31c,31dが配設されている。そして、引き上げたシート材10を垂直方向に上昇させて搬送するときに、シート材10の両端部を各先端部分に当接して変形させた状態で、各先端部分の間を通過させるようにしている。
これにより、シート材10を複数枚引き上げた場合に、これらのシート材10を各先端部分の間を通過させるときの衝撃力及び変形応力の作用により、1枚目のシート材10aから2枚目以降のシート材10を容易に分離することができる。
【0030】
なお、上記実施形態では、キャリアケースに4枚の分離板を配設する例について説明したが、配設する分離板の枚数及び配設位置はこれに限られない。例えば、上記した第1実施形態におけるキャリアケース20において、シート材10a,10bを図3に示す右矢印方向に搬送する場合は、2枚の分離板30a,30cのみ配設しても良い。逆に、シート材10a,10bを図3に示す右矢印方向とは反対方向に搬送する場合は、2枚の分離板30b,30dのみ配設しても良い。
【0031】
また、上記実施形態では、半導体ウエハーのシート材に係るシート材搬送方法の例について説明したが、これに限られず、他の搬送対象物についても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態に係るシート材搬送方法におけるシート材搬送装置及びキャリアケースの例を示す概略図。
【図2】積層されたシート材を引き上げる工程を示す図。
【図3】引き上げたシート材を水平方向に搬送する工程を示す図。
【図4】水平方向に移動する前のシート材の状態を示す図。
【図5】水平方向に移動して分離板に当接したときのシート材の状態を示す図。
【図6】第2実施形態に係るシート材搬送方法におけるシート材搬送装置及びキャリアケースの例を示す概略図。
【符号の説明】
【0033】
1…シート材搬送装置、10…シート材、10a…1枚目のシート材、10b…2枚目のシート材、20…第1実施形態におけるキャリアケース、21…第2実施形態におけるキャリアケース、30a,30b,30c,30d…第1実施形態における分離板、31a,31b,31c,31d…第2実施形態における分離板、40…吸着パッド、50…支持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数のシート材を分離して搬送するシート材搬送方法であって、
前記シート材を引き上げる工程と、
前記引上げたシート材を分離部材に当接させて前記シート材を変形させる工程と、を有することを特徴とするシート材搬送方法。
【請求項2】
前記分離部材は、前記複数のシート材が収容されるケースに設けられている分離板であることを特徴とする請求項1に記載のシート材搬送方法。
【請求項3】
前記分離板は前記ケースに複数設けられ、
前記シート材を変形させる工程において、前記引上げたシート材を前記複数の分離板の間を通過させることにより、前記シート材を前記分離板に当接させて前記シート材を変形させることを特徴とする請求項2に記載のシート材搬送方法。
【請求項4】
前記シート材を複数引上げたときに、前記シート材を変形させる工程において、前記シート材を前記分離板に当接させて前記シート材を変形させることにより、前記シート材と当該シート材に接する他のシート材との接触面に応力を生じさせることを特徴とする請求項2又は3に記載のシート材搬送方法。
【請求項5】
前記シート材を引き上げる工程において、前記シート材を真空吸着により引き上げることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のシート材搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−100419(P2010−100419A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275244(P2008−275244)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】