説明

シート状フィブリン糊接着剤

【課題】止血効果及び組織接着力に優れたシート状フィブリン糊接着剤の提供。
【解決手段】有効成分としてフィブリノゲンが固定化された生体吸収性支持体、及び有効成分としてトロンビンが固定化された生体吸収性支持体より構成され、当該フィブリノゲン固定化支持体に非イオン界面活性剤を含有させることにより、止血効果及び組織接着力に優れ、両面での組織接着が可能となるため、外科手術における大血管の修復にも好適に使用される、シート状フィブリン糊接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分としてフィブリノゲンが固定化された生体吸収性支持体(以下、「フィブリノゲン固定化支持体」とする)、及び有効成分としてトロンビンが固定化された生体吸収性支持体(以下、「トロンビン固定化支持体」とする)より構成され、フィブリノゲン固定化支持体が非イオン界面活性剤を含有することを特徴とするシート状フィブリン糊接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリノゲンは、血液凝固カスケードの最終段階に存在する非常に重要な凝固因子である。血管が損傷を受けると凝固系の活性化が生じ、最終的に活性化されたトロンビンが可溶性フィブリノゲンを不溶性のフィブリンに変換する。このフィブリンは接着力を有し止血および損傷治癒に重要な機能を発揮する。
【0003】
医療現場、特に、外科手術においては、止血及び組織閉鎖等の組織接着操作は極めて重要な位置づけにあり、本原理を応用したフィブリン糊接着剤が幅広い外科手術の現場で利用されている。
【0004】
フィブリン糊接着剤の使用方法については、これまで様々な検討が加えられ改善が図られており、フィブリノゲン溶液及びトロンビン溶液を患部に塗布または噴霧する液状型製剤(2液混合製剤:特許文献1、特許文献2)やコラーゲン等の支持体にフィブリノゲンとトロンビンを混合固定化したシートを患部に貼付するシート製剤(特許文献3)がある。
【0005】
しかしながら、現行の液状型製剤においては、凍結乾燥されたフィブリノゲンとトロンビンそれぞれを使用時に溶解して用いるため、凍結乾燥製剤の溶解に数分程度の時間を要し、緊急時の手術への対応の面や簡便性において満足できる剤型とは言えない。
【0006】
また、上記フィブリン糊接着剤においては、フィブリノゲン濃度が高濃度であるほど強い接着力が得られることから、強力な接着力を実現させるためには、高濃度のフィブリノゲンに少量の高濃度トロンビンを作用させることが必要とされている。
【0007】
しかしながら、現行の液状型製剤は、フィブリノゲン溶液とトロンビン溶液を等量混合するため、濃度が半分になり、フィブリノゲンの最大効力を発揮できない。さらに、フィブリノゲンの濃度は現実的に10%程度溶液が濃度限界であることから、2液等量混合の系において、濃度の改良も困難である。
【0008】
この点に関して、シート製剤は、フィブリノゲン溶液を高濃度で患部に適用可能であるため、理論的には2液混合製剤より強固な接着力が期待される。また、シート製剤であれば、噴出性・滲出性の出血部位に対する圧迫止血・圧迫閉鎖が可能となり、優れた利便性が期待される。
【0009】
シート状の組織接着剤を使用する際には、フィブリノゲン溶液を高濃度で患部に適用するため、創傷部位に適用した際の、シート製剤の組織への浸透性を増大させる必要がある。また、シート製剤を創傷部位に密着させるために丸めたり、折り曲げたりすることがあるので、このような力に対してシートの破損やフィブリノゲン成分及びトロンビン成分の脱落が起こらないようにシートの柔軟性や2成分の保持力を上げる必要がある。
【0010】
しかしながら、現行のシート製剤(製品名:タココンブ/CSLベーリング社)においては、支持体であるコラーゲンは厚みがあり、また乾燥状態で臓器閉鎖部位に適用するには支持体自身が硬く柔軟性を欠くため、閉鎖すべき創傷部位での密着性が低く、効果的な閉鎖は困難である。また、本シート製剤は、支持体が馬コラーゲンであり、かつトロンビンは牛由来であり、ヒト以外の動物成分が使用されているため、適用対象がヒトである場合、異種タンパクに対する抗体の出現やプリオン病等の人畜共通感染症の危険性が存在するため理想的なものとは言い難い。
【0011】
また、現行のシート製剤の場合、同一シート内にフィブリノゲンとトロンビンが共存されており、使用直前に溶液に浸すと同時にフィブリノゲンとトロンビンが溶解し反応が開始するが、その反応はシート内部で起こる。そのため、たとえフィブリンが溶出したとしても組織接着部位へ十分浸透する前に凝固反応が進み、組織表面のみの接着となるため、十分な組織接着効果を示さない。
【0012】
したがって、これらの現行製剤により、全ての組織接着、止血が可能となるものではなく、現行製剤では要求される接着力、閉鎖力を示さない場合がある。そのため、医療現場では更に強力な接着力を持った組織接着剤が求められている(非特許文献1)。
【0013】
このようにフィブリノゲンとトロンビンの組み合わせにより、強力な接着力を示す剤形を推定することは可能だが、実際に効果と利便性が期待できるシート状フィブリン糊接着剤は確立されていない。また、強力な組織接着効果を発揮するためには、高濃度のフィブリノゲン溶液が必要であるが、フィブリノゲンの溶解性は悪いために、従来の組成のままでフィブリノゲンを支持体に固定化した場合、フィブリノゲンはほとんど溶解しないために、十分な薬効を発揮する事は期待できない。
【0014】
【特許文献1】特許公開平9−2971号
【特許文献2】PCT公開WO97/33633号
【特許文献3】特許公表2004−521115号
【非特許文献1】日消外会誌33(1):18〜24,2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、組織接着剤に関する上記の諸課題を克服し、従来の組織接着剤と比較して、強い組織接着・止血効果を発揮するシート状フィブリン糊接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、本願発明者らは上述の諸問題に鑑み鋭意検討した結果、フィブリノゲン固定化支持体及びトロンビン固定化支持体より構成されるシート状フィブリン糊接着剤において、当該フィブリノゲン固定化支持体に非イオン性界面活性剤を含有させることにより、強い組織接着・止血効果が発揮されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、医学上または産業上有用な物質・方法として下記(1)〜(10)の発明を含むものである。
(1)有効成分としてフィブリノゲンが固定化された生体吸収性支持体(以下、「フィブリノゲン固定化支持体」とする)、及び有効成分としてトロンビンが固定化された生体吸収性支持体(以下、「トロンビン固定化支持体」とする)より構成され、当該フィブリノゲン固定化支持体が、非イオン性界面活性剤を含有することを特徴とするシート状フィブリン糊接着剤。
(2)当該非イオン性界面活性剤が、ツイン80(Tween 80)、プルロニック F-68(Pluronic F-68)、トリトン X-100(Triton X-100)、ノニデットP-40(Nonidet P40)、n-オクチルグルコシド(n-Octylglucoside)、チロキサポールから選択される上記(1)に記載のシート状フィブリン糊接着剤。
(3)当該非イオン性界面活性剤が、ツイン80(Tween 80)である上記(1)または(2)のいずれかに記載のシート状フィブリン糊接着剤。
(4)当該フィブリノゲン固定化支持体が、更に、アルブミン、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムを含有することを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかに記載のシート状フィブリン糊接着剤。
(5)当該生体吸収性支持体が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸との共重合体からなる群より選択される材料より作製される支持体である上記(1)に記載のシート状フィブリン糊接着剤。
(6)当該生体吸収性支持体が、ポリグリコール酸を材料とする不織布である上記(1)または(5)に記載のシート状フィブリン糊接着剤。
(7)当該フィブリノゲン固定化支持体及び当該トロンビン固定化支持体からなる二層構造である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のシート状フィブリン糊接着剤。
(8)当該トロンビン固定化支持体の両側に当該フィブリノゲン固定化支持体を配置した三層構造である上記(1)〜(6)のいずれかに記載のシート状フィブリン糊接着剤。
(9)上記(1)から(8)のいずれかに記載のシート状フィブリン糊接着剤からなる止血用または組織閉鎖用キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるシート状フィブリン糊接着剤は、
・組織接着及び止血効果に優れている;
・トロンビン固定化支持体の両側にフィブリノゲン固定化支持体を重ねることにより、両面での接着効果が発揮できる。;
・製剤自体の膠着性により貼付することが可能なため、縫合は簡略化あるいは必要としない;
・広範囲の患部でも形状を保持したまま面で補修できる;
・溶解の手間が要らず、適用方法も簡便である;
・安全性に優れている;
・経時的に吸収される;
・伸縮性・柔軟性に優れている;
のような性質を有しており、理想的な組織接着剤となることが明らかになった。本発明により、様々な領域の外科手術を始めとする各種医療分野において、安全、迅速かつ確実に組織接着を行うことのできる生体吸収性材料からなるシート状フィブリン糊接着剤を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、フィブリノゲン固定化支持体及びトロンビン固定化支持体より構成され、フィブリノゲン固定化支持体が非イオン界面活性剤を含有するシート状フィブリン糊接着剤であることにより特徴付けられる。
【0020】
本発明に使用されるフィリノゲン固定化支持体は、フィブリノゲンを含有する溶液(以下、「フィブリノゲン含有溶液」という。)を支持体上に固定化することによって作製されるが、フィブリノゲン含有溶液には、止血剤の有効成分であるフィブリノゲンの他に、非イオン性界面活性等の添加剤が加えられる。フィブリノゲン固定化支持体に使用されるフィブリノゲンの固定化量としては、一般に、止血作用を発揮する濃度範囲0.5-5mg/cm2で使用され、好ましくは1-4mg/cm2である。
【0021】
本発明の形態が、薬効を発揮するためには溶解した高濃度のフィブリノゲンが患部に浸透することが必要となる。しかしながら、従来品のフィブリノゲンの溶解性は悪く、従来品組成のフィブリノゲンを固定化しただけでは、強い薬効は発揮できない。
強い薬効を発揮するには固定化したフィブリノゲンが速やかに溶解する必要がある。そこで、フィブリノゲン固定化支持体のフィブリノゲンの溶解性を高める物質として、非イオン活性剤が使用される。
非イオン活性剤の例としては、ツイン80(Tween 80)、プルロニック F-68(Pluronic F-68)、トリトン X-100(Triton X-100)、ノニデットP-40(Nonidet P40)、n-オクチルグルコシド(n-Octylglucoside)、チロキサポールなどが挙げられる。ツイン80(Tween 80)はさらに好適な一例である。ツイン80の終濃度としては、0.01%-0.5%の範囲で使用できるが、好ましくは、0.02%-0.2%である。
【0022】
さらに、当該フィブリノゲン固定化支持体には、アルブミン、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムが添加される。さらに、血液凝固第XIII因子(以下、FXIIIという。)ならびにイソロイシン、グリシン、アルギニン、およびグルタミン酸等のアミノ酸、マンニトール等の糖アルコールなどの添加剤を少なくとも一つ以上を適宜組み合わせて、または全てを添加してもよい。
【0023】
フィブリノゲンを固定化する生体吸収性支持体の材料としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸及び乳酸の共重合体をシート様に加工したものが使用可能である。中でも、ポリグリコール酸を材料とする不織布に加工した生体吸収性材料は、本目的に好ましい素材である。
【0024】
フィブリノゲン固定化支持体は、フィブリノゲン溶液に予め成型された生体吸収性材料を浸漬させた後、凍結乾燥することにより作製することができる。また、フィブリノゲン溶液と溶液状の生体吸収性材料を混合後、凍結乾燥することにより作製することもできる。
【0025】
トロンビン固定化支持体は、トロンビンを生体吸収性支持体上に固定化されたことを特徴とする凍結乾燥物である。トロンビン固定化支持体に使用されるトロンビンの固定化量としては、20-100U/cm2が好ましい。
【0026】
トロンビンを固定化する生体吸収性支持体の材料としては、フィブリノゲン固定化支持体に用いられる支持体と同様、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、またはグリコール酸及び乳酸の共重合体などをシート様に加工したものが使用可能である。ポリグリコール酸、ポリ乳酸、またはグリコール酸及び乳酸の共重合体としては、ポリグリコール酸を材料とする不織布に加工した生体吸収性材料が適している。
【0027】
トロンビン固定化支持体は、フィブリノゲン固定化支持体と同様、トロンビン溶液に予め成型された生体吸収性材料を浸漬させた後、凍結乾燥することにより作製することができる。また、トロンビン溶液と溶液状の生体吸収性材料を混合後、凍結乾燥することにより作製することもできる。
【0028】
当該トロンビン固定化支持体には、グリセロール、トレハロース、ヒスチジン、塩化カルシウム及びツイン80をトロンビン溶液に含有させてもよい。
【0029】
フィブリノゲン、トロンビン、またはFXIIIとしては、ヒト血液由来または遺伝子組換え技術により得られるものが好ましい。
【0030】
本発明の組織接着剤は、最終的に、フィブリノゲン固定化支持体、トロンビン固定化支持体からなる構造を有するシート状フィブリン糊接着剤であればよい。本シート状フィブリン糊接着剤の構成では、各々の成分が互いに独立しているため、使用前にトロンビンとフィブリノゲンが反応して安定化フィブリンを形成することがない。
【0031】
本発明の利点は、現行のフィブリノゲンとトロンビンを混合固定化した一体型シート製剤とは異なり、別個に調製したトロンビン固定化支持体とフィブリノゲン固定化支持体を利用することにより、種々のバリエーションで組み合わせることが可能である。基本的にはフィブリノゲン固定化支持体とトロンビン固定化支持体を組み合わせて用い、その使用状況に応じて、最も効果の高い方法を選択することが可能になる点である。
(1)フィブリノゲン固定化支持体を先に患部に貼付した後、トロンビン固定化支持体をフィブリノゲン固定化支持体に重層する方法、
(2)事前に水分をフィブリノゲン固定化支持体に滴下した後に患部に適用し、トロンビン固定化支持体を重層する方法、
(3)フィブリノゲン固定化支持体とトロンビン固定化支持体を重ねてフィブリノゲン固定化支持体側を直接患部に適用する方法、
(4)フィブリノゲン固定化支持体とトロンビン固定化支持体を重ねて事前に水分をフィブリノゲン固定化支持体に滴下した後にフィブリノゲン固定化支持体側を患部に適用する方法、
(5)トロンビン固定化支持体の両側を1対のフィブリノゲン固定化支持体で挟んで両面で接着閉鎖効果を発揮する等、
状況に応じて採用可能な最適の方法を実施することができる。
【0032】
本発明により得られる組織接着剤は、高い粘着性、適度な強度、柔軟性および伸縮性を有することから、様々な形状の生体内膜状組織の欠損部および各種臓器・組織の欠損部、切離面あるいは接合部においても密着被覆及び止血操作が可能である。更には、生体適合性が良好であり、それ自体の膠着性により縫合を簡略化あるいは実施することなく組織を接着しうる。また、本発明の組織接着材料の支持体として使用されるポリグリコール酸系生体吸収性不織布は既に医療用として使用されており、安全性も実証されているものである。
【0033】
このように本発明の組織接着剤は、生体内膜状組織の欠損部および各種臓器・組織の欠損部、切離面あるいは接合部に簡便かつ早急に対処が可能であり、血液凝固反応により効果的な組織接着を可能とする。しかも、いずれの成分も生体に安全なものを用いているため医療現場で安心して利用できる。
【0034】
以下、本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
<調製例1:フィブリノゲン固定化支持体の調製>
市販の生体組織接着剤(製品名:ボルヒール:財団法人化学及血清療法研究所製)のキットに含まれるフィブリノゲンに、種々の非イオン性界面活性剤(最終濃度0.1%)を添加した8%フィブリノゲン溶液を調製した。非イオン性界面活性剤として、ツイン80(Tween 80)、プルロニック F-68(Pluronic F-68)、トリトン X-100(Triton X-100)、ノニデット P-40(Nonidet P40)、n-オクチルグルコシド(n-Octylglucoside)、チロキサポールの6種類を用いた。各調製液の組成を表1に示す。それぞれのフィブリノゲン溶液2.5mLを、ポリグリコール酸系生体吸収性合成不織布(製品名:ネオベール/グンゼ(株),5 x 10cm)上に均一にしみ込ませた。この検体を凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化支持体のサンプルとした(固定化されたフィブリノゲンの量:4mg/cm2)。
【0036】
【表1】

【0037】
<調製例2:トロンビン固定化支持体の調製>
市販の生体組織接着剤(製品名:ボルヒール:財団法人化学及血清療法研究所製)のキットに含まれるトロンビンを付属の溶解液により溶解し、1875単位/mLのトロンビン溶液を作製した。1875単位/mLトロンビン溶液を用いて、終濃度1%グリセロール、3%トレハロース、0.18Mヒスチジン、40mM塩化カルシウム及び0.1%ツイン80を含むトロンビン充填液(pH6.0)を調製した。このトロンビン溶液2.5mLを、ポリグリコール酸系生体吸収性合成不織布(製品名:ネオベール/グンゼ(株),5 x 10cm)上に均一にしみ込ませた。この検体を凍結後、24時間凍結乾燥させたものをトロンビン固定化支持体のサンプルとした(固定化されたトロンビンの量:93.8U/cm2)。
【0038】
<実施例1:フィブリノゲン固定化支持体の界面活性剤添加による組織接着力の向上>
調製例1及び2に記載の方法に従い調製したフィブリノゲン固定化支持体及びトロンビン固定化支持体の組み合わせによる接着力評価試験を実施した。対照として、現行シート製剤(タココンブ(登録商標:CSLベーリング))を用いた。方法は以下に示す通りである。
(1)PTFEフェルト(3cmX3.8cm:バード社)を木製台座にクリップとピンで固定し、44〜48℃のインキュベータにて加温した。表面温度が36〜38℃に加温されたのを非接触温度計にて確認して試験に用いた。
(2)加温されたPTFEフェルトの上にフレームを置き、そのフレームにフィブリノゲン固定化支持体(2cmx2cm)を載せ、蒸留水200μL(50μL/cm2)を滴下した。蒸留水滴下後直ちに、フィブリノゲン固定化支持体にトロンビン固定化支持体(2cmx2cm)を載せて、タッピングし、PTFEフェルトと十分に接着させ、37℃インキュベータ内にて3分間反応させた。
(3)反応後、フレームをデジタルばねばかりにて引き上げた。引き剥がしに要した重量を接着力とした。
【0039】
接着力の測定結果を図1に示す。図1に示すように、従来のフィブリン糊接着剤のフィブリノゲンの組成に非イオン性界面活性剤を添加することで、フィブリノゲンの溶解性が増すとともに明らかな接着力の増強効果が認められ、特にTween80を添加すると8倍以上の増強効果が認められた。
【0040】
<実施例2:ウサギ肝臓滲出性出血に対する止血効果>
本発明のフィブリノゲン固定化支持体とトロンビン固定化支持体を以下のA及びBの組み合わせで使用した場合の止血効果を現行のシート製剤を使用した場合の止血効果と比較した。
A:フィブリノゲン固定化支持体(調製例1に示す第7群:現行のフィブリン糊接着剤のフィブリノゲン組成にTween80を添加したフィブリノゲン)+トロンビン固定化支持体(調製例2に示す)
B:フィブリノゲン固定化支持体(調製例1に示す第1群:現行のフィブリン糊接着剤のフィブリノゲン組成)+トロンビン固定化支持体(調製例2に示す)
対照:現行シート製剤(タココンブ)
【0041】
動物の止血モデルとしてはウサギを用いた。ウサギを開腹し、肝臓の一部を切除して、その出血部位に対して、フィブリノゲン固定化支持体とトロンビン固定化支持体を重ねて適応し、その止血効果(止血の有無、出血量)をみた。試験方法は以下に示す通りである。
(1)セラクタール10mg/kg(約1.0mL)ケタラール50mg/kg(約3.0mL)を筋肉内投与した。
(2)体重を測定し、腹部を剃毛後、仰臥位にて保定した。
(3)耳静脈より持続麻酔(2%ケタラール、20U/mLヘパリン添加生理食塩水)を行った。
(4)胸骨検状突起直下から下腹部までを正中切開により開腹した。
(5)ヘパリンナトリウム注射液を耳静脈より300U/kg投与した。
(6)腸用ピンセットやガーゼなどを用いて創傷作製に十分な厚みのある肝葉(外側左葉、内側左葉、右葉)を引き出した。
(7)肝葉に皮ポンチで直径10mm、深さ4mmの創傷を作り、その部分をメスで切除した。
(8)切除創からの出血を10秒間、ベンシーツに吸収してその重量を測定した。創傷部出血が0.5g以上の傷を試験に使用した。
(9)創傷部位に2.5cm角に切断したフィブリノゲン固定化支持体、トロンビン固定化支持体を重ねて、フィブリノゲン固定化支持体面を上にして蒸留水を312.5μL滴下した(50μL/cm2)。出血部位にフィブリノゲン固定化支持体面を適用し、1分間圧迫した。対照として用いる現行シート製剤の場合は、2.5cm角に切断した後に生理食塩水を312.5μL滴下し、出血部位に適用し、1分間または3分間圧迫した。
(10)圧迫後、出血の有無及び創傷部位からの1分間の出血をベンシーツに吸収して、その重量を測定した。
【0042】
その結果、表2に示すように、Aの検体を用いた場合、全例止血し、その出血量は極めて微量であった。一方、Bの検体を用いた場合、フィブリノゲンシートに滴下した蒸留水は浸透せず、フィブリノゲンの溶解が遅く、完全な止血効果は5例中1例しか認められなかった。対照として用いた現行シート製剤の場合、1分間の圧迫での止血効果は不十分であり、出血量も多く、更に圧迫時間を3分間に延長しても十分な止血効果は認められなかった。
【0043】
【表2】

【0044】
<実施例3:ウサギ腹部大動脈噴出性出血に対する止血効果>
次に、より止血が困難とされているウサギ腹部大動脈噴出性出血に対して、実施例2に使用した同じ組成の検体を用いて止血効果を測定した。試験方法は以下に示す通りである。
(1)セラクタールを10mg/kg、ケタラールを50mg/kg、筋肉内に投与した。
(2)体重を測定し、剃毛(腹部、頚部)を行った。
(3)1%ケタラール、20単位/mLヘパリン/生理食塩水の耳静脈点滴により麻酔を維持した。
(4)頚動脈を露出させ、カテーテルを挿入し、血圧トランスデューサーに接続した。
(5)腹部を正中切開し、腹大動脈を露出させる。適用箇所3ヶ所を確保した。
(6)ヘパリンナトリウム注射液を耳静脈より300単位/kg投与した。
(7)平均血圧80〜100mmHg であることを確認し、21Gの注射針で腹大動脈にピンホールを作製した。
(8)1.5cm角に切断したフィブリノゲン固定化支持体、トロンビン固定化支持体を重ねて、フィブリノゲン固定化支持体面を上にして蒸留水を112.5μL滴下した(50μL/cm2)。出血部位にフィブリノゲン固定化支持体面を適用し、3分間圧迫した。対照として用いた現行シート製剤の場合は1.5cm角に切断した現行シート製剤に生理食塩水を112.5μL滴下し、出血部位に適用し、3分間圧迫した。
(9)圧迫終了後9秒間出血の有無を確認し、止血が確認された場合は5分間観察し、再出血の有無を確認した。
【0045】
その結果、表3に示すように、Aの検体を用いた場合は、全例止血した。一方、Bの検体を用いた場合、肝臓滲出性出血に対する止血効果と同様に十分な止血効果は認められなかった。また、現行シート製剤を使用した場合も十分な止血効果は認められなかった。
実施例2及び実施例3の結果は、十分な薬効を発揮するためには、固定化したフィブリノゲンが速やかに溶解すること必要であることを示しており、これは本願発明により達成された。
【0046】
【表3】

【0047】
<実施例4:フィブリノゲン固定化支持体とトロンビン固定化支持体の組み合わせによる接着力評価試験>
これまでの実施例で示した効果は、本発明のフィブリノゲン固定化支持体とトロンビン固定化支持体を重ねて用い、フィブリノゲン側を創傷部位に適応し、効果を見てきたものである。本発明では、トロンビン固定化支持体とフィブリノゲン固定化支持体は独立しており、重ね方を任意に選択することができる。トロンビン固定化支持体をフィブリノゲン固定化支持体で挟むとその両面が接着面となり、外科手術において大血管などの修復への利用が考えられる。
本実施例では、両面での接着力の測定を行った。フィブリノゲン固定化支持体(Tween80添加)とトロンビン固定化支持体の組み合わせ、及び対照として現行シート製剤について両面接着力を測定した。接着力の測定にあたっては、外科手術において、血管吻合・縫合部の補強として用いられるPTFEフェルトを接着面として用いた。方法は以下に示す通りである。
(1)PTFEフェルト(3cmX3.8cm)を木製台座にクリップとピンで固定し、44〜48℃のインキュベータにて加温した。表面温度が36〜38℃に加温されたのを非接触温度計にて確認して試験に用いた。
(2)2cm x 2cmのクレーンフレームに2cm×2cmに切断したPTFEフェルトを置いたものを用意しておく。
(3)以下に示す群について接着力を測定した。
第1群:フィブリノゲン固定化支持体+トロンビン固定化支持体+フィブリノゲン固定化支持体
ディッシュにフィブリノゲン固定化支持体(Tween80添加)を置き、蒸留水200μL(50μL/cm2)滴下して30秒待機したものを2枚用意した。(1)の木製台座に固定したPTFEフェルトにフィブリノゲン固定化支持体、トロンビン固定化支持体、フィブリノゲン固定化支持体の順に重層した。その上に(2)のPTFEフェルトをセットしたフレームを載せて、キャップにてタッピングし、(1)のPTFEフェルトと十分に接着させる。37℃インキュベータ内にて3分間反応させた。
第2群:フィブリノゲン固定化支持体+トロンビン固定化支持体
ディッシュにフィブリノゲン固定化支持体(Tween80添加)を置き、蒸留水200uL(50uL/cm2)滴下して30秒待機したものを1枚用意した。(1)の木製台座に固定したPTFEフェルトにフィブリノゲン固定化支持体、トロンビン固定化支持体の順に重層した。その上に(2)のPTFEフェルトをセットしたフレームを載せて、キャップにてタッピングし、(1)のPTFEフェルトと十分に接着させた。37℃インキュベータ内にて3分間反応させた。
第3群:現行シート製剤(タココンブ)
現行シート製剤の有効成分を含む面をフレーム面になるように、(1)の木製台座に固定したPTFEフェルトの上に載せた。蒸留水200uL(50uL/cm2)滴下し、その上に(2)のPTFEフェルトをセットしたフレームを載せて、キャップにてタッピングして、(1)のPTFEフェルトと十分に接着させた。37℃インキュベータ内にて3分間反応させた。
(4)反応後、フレームをデジタルばねばかりにて引き上げた。引き剥がしに要した重量を接着力とした。
その結果、図2に示すように、第3群の現行シート製剤は全く接着を示さなかったのに対して、本願発明の第2群でも接着効果を示し、さらに両面に接着面を持つ第1群では10N/4cm2以上の強い接着力を示した。データは示していないが、イヌ肺エアリークテストにおいては、10N/4cm2の接着力を示す検体を適応した時、臨床的に効果がある、耐圧40cm水中以上の耐圧を示したことから、10N/4cm2上の接着力は臨床上効果が期待できる接着力である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】非イオン界面活性剤を添加したフィブリノゲン固定化支持体およびトロンビン固定化支持体から構成されるシート状フィブリン糊接着剤の接着効果を示した図。
【図2】シート状フィブリン糊接着剤の両面接着効果を示した図。第1群:フィブリノゲン固定化支持体+トロンビン固定化支持体+フィブリノゲン固定化支持体、第2群:フィブリノゲン固定化支持体+トロンビン固定化支持体、第3群:対照(現行シート製剤)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてフィブリノゲンが固定化された生体吸収性支持体(以下、「フィブリノゲン固定化支持体」とする)、及び有効成分としてトロンビンが固定化された生体吸収性支持体(以下、「トロンビン固定化支持体」とする)より構成され、当該フィブリノゲン固定化支持体が、非イオン性界面活性剤を含有することを特徴とするシート状フィブリン糊接着剤。
【請求項2】
当該非イオン性界面活性剤が、ツイン80(Tween 80)、プルロニック F-68(Pluronic F-68)、トリトン X-100(Triton X-100)、ノニデットP-40(Nonidet P40)、n-オクチルグルコシド(n-Octylglucoside)、チロキサポールから選択される請求項1に記載のシート状フィブリン糊接着剤。
【請求項3】
当該非イオン性界面活性剤が、ツイン80(Tween 80)である請求項1または2のいずれかに記載のシート状フィブリン糊接着剤。
【請求項4】
当該フィブリノゲン固定化支持体が、更に、アルブミン、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウムを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシート状フィブリン糊接着剤。
【請求項5】
当該生体吸収性支持体が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸と乳酸との共重合体からなる群より選択される材料より作製される支持体である請求項1に記載のシート状フィブリン糊接着剤。
【請求項6】
当該生体吸収性支持体が、ポリグリコール酸を材料とする不織布である請求項1または5に記載のシート状フィブリン糊接着剤。
【請求項7】
当該フィブリノゲン固定化支持体及び当該トロンビン固定化支持体からなる二層構造である請求項1〜6のいずれかに記載のシート状フィブリン糊接着剤。
【請求項8】
当該トロンビン固定化支持体の両側に当該フィブリノゲン固定化支持体を配置した三層構造である請求項1〜6のいずれかに記載のシート状フィブリン糊接着剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のシート状フィブリン糊接着剤からなる止血用または組織閉鎖用キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−69031(P2010−69031A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240228(P2008−240228)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000173555)財団法人化学及血清療法研究所 (86)
【Fターム(参考)】