説明

シート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法

【課題】キャリヤーフィルムとペーストとの剥離性をよくし、金型により加圧・加熱して成形品としたとき、表面の平滑性や色ムラ等のない外観性に優れた成形品を得るためのシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂に各種添加剤を混合してなるコンパウンドペースト2に補強用繊維4を散布し、含浸させてなる成形材料を2枚のキャリヤーフィルム7によりサンドイッチ状に挟み込むことによってシート状熱硬化性樹脂成形材料を製造する方法において、上記各キャリヤーフィルム7のコンパウンドペースト2に接する面に予め親水剤6を塗工したことを特徴とするシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明はシートモールディングコンパウンドといわれるシート状熱硬化性樹脂成形材料(SMC)に関し、さらに詳しくは、上記SMCと、このSMCをサンドイッチ状に挟み込んで保持するキャリヤーフィルムとの剥離性が改良されたシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、SMCとして知られるシート状熱硬化性樹脂成形材料は、通常、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、低収縮材、充填材、開始剤、内部離型剤、安定化剤、着色剤、増粘剤、その他の添加剤を混合したコンパウンドをペースト状とし、これにガラス繊維、カーボン繊維等の補強繊維を混合したものを、2枚のキャリヤーフィルムに挟んで、適当な大きさのシートとすることにより製造される。
【0003】
本願図2は、従来、公知のシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法を模式的に示す説明図である。本願図2に示すように、上記公知の製造方法においては、一対の含浸ローラー3が一定の間隔をおいて設けられ、この含浸ローラー3は矢印で示すように相互に逆方向に向かって同一速度で回転するように配置されている。これら含浸ローラー3のそれぞれの上方には、ドクターナイフ1が相対向して設けられ、このドクターナイフ1により不飽和ポリエステル樹脂、充填材、低収縮材、開始剤等が混合されたコンパウンドはコンパウンドペースト2として均一な厚みとなるように調節され、含浸ローラー3の上に供給される。
【0004】
ここで、上記コンパウンドペースト2は、熱硬化性で液体状の不飽和ポリエステル樹脂と炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の充填材、低収縮材、開始剤等、その他の添加物とが所定の割合となるように、予めミキサー等の混合手段により混合されてコンパウンドとして図外ペーストタンクに貯留されている。そして、図外供給経路を経て含浸ローラー3に供給される。
【0005】
上記ドクターナイフ1で厚みを一定とされたコンパウンドペースト2は、含浸ローラー3の表面上に均一に塗布されてペースト膜21が形成される。さらに、上記ペースト膜21の表面にガラス繊維やカーボン繊維等の補強用繊維4が均一に散布される。
【0006】
この後、含浸ローラー3上のペースト膜21と補強用繊維4とは含浸ローラー3と含浸ローラー3との間の狭いギャップを通過するとともに、上記補強用繊維4に両側から圧力がかけられてコンパウンドペースト2が含浸される。この含浸によって生じたコンパウンドペースト2と補強用繊維4との混合物はスクレーパー5で掻き取られて落下し、引き取りロール8の上部に一時的に溜められて含浸物Bが形成される。
【0007】
一方、キャリヤーフィルム7は、左右両方から繰り出され、引き取りロール8に至り、水平から垂直方向に向きを変える。この引き取りロール8の上部に形成された上記含浸物Bは、2枚のキャリヤーフィルム7に挟まれた状態で案内板9に案内されてシート状に賦形され、シート状熱硬化性樹脂成形材料が製品Pとして得られる。
【0008】
一方、特開平7−178729号公報には、熱硬化性樹脂と充填剤等の添加剤を混合したペースト状物にて補強用繊維を含浸させた成形材料を、2枚のキャリヤーフィルムによりサンドイッチ状に挟み込むことよりなるシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法において、該キャリヤーフィルムの該成形材料に接するそれぞれの面に、別の上記ペースト状物をあらかじめ薄膜状に塗布しておくことを特徴とするシート状熱硬化性樹脂成形材料およびその製造方法が開示されている。
【0009】
すなわち、上記2枚のキャリヤーフィルムの内面に、あらかじめ成形材料に用いるものと同じ熱硬化性樹脂と充填剤等の添加剤を混合したペーストを薄いスキン層として設けておくことにより、キャリヤーフィルムを剥がした後の成形材料の表面に、ペーストの連続層が均一に形成されるというものである。そして、これを硬化して成形品とした後に平滑な表面を有した色ムラのない優れた硬化成形品を得ることができるとその効果が述べられている。
【特許文献1】特開平7−178729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術には次のような問題がある。すなわち、2枚のキャリヤーフィルムの内面には、予め、成形材料に用いるものと同じ熱硬化性樹脂と充填剤等の添加剤を混合したペーストが薄いスキン層として設けられているが、やはり、このスキン層用のペーストとキャリヤーフィルムとの剥離性が悪く、キャリヤーフィルムを剥がした後のスキン層の表面に、凹凸やピンホール等が発生するという問題がある。
【0011】
上記の方法で製造されたシート状の成形材料製品は、両面のキャリヤーフィルムを剥がしてそのまま、または数枚を積層した後、金型により加圧・加熱して硬化させることにより最終成形品、例えばバスタブ、板材等とするが、キャリヤーフィルムを剥離したとき生じた凹凸やピンホール等がそのまま、最終製品の表面に残り不良品の発生につながるという問題が生じる。
【0012】
本願発明は、上記背景技術に鑑みてなしたものであり、その目的は、上記キャリヤーフィルムとペーストとの剥離性をよくし、金型により加圧・加熱して硬化して最終成形品としたとき、表面の平滑性のよい、白化、ピンホール、色ムラ等のない外観性に優れた最終成形品を得るためのシート状熱硬化性樹脂成形材料(SMC)の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本願請求項1に記載の発明に係るシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法は、熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂に各種添加剤を混合してなるコンパウンドペーストに補強用繊維を散布し、含浸させてなる成形材料を2枚のキャリヤーフィルムによりサンドイッチ状に挟み込むことによってシート状熱硬化性樹脂成形材料を製造する方法において、上記各キャリヤーフィルムのコンパウンドペーストに接する面に予め親水剤を塗工したことを特徴とする。
【0014】
上記キャリヤーフィルムとしては熱可塑性樹脂をフィルム状に成形したものが用いられ、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の各種熱可塑性樹脂フィルムを用いることができる。
【0015】
また、補強用繊維としては、ガラス繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、金属繊維等の各種無機繊維、あるいはビニロン、ケプラー等の各種有機繊維をあげることができる。
【0016】
本願請求項2に記載の発明に係るシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法は、上記請求項1に記載のシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法において、上記親水剤が無機酸化物あるいは無機酸をアルコールと水とによって希釈した希釈水溶液であることを特徴としている。
【0017】
上記無機酸化物としては、例えばコロイダルシリカがあげられ、また、無機酸としては、例えば硝酸をあげることができる。上記コロイダルシリカや硝酸等をアルコールと水とで希釈して親水剤として用いる。このとき、キャリヤーフィルムへの塗工量は1.0g/m2とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本願請求項1記載の発明に係るシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法においては、熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂に各種添加剤を混合してなるコンパウンドペーストに補強用繊維を散布し、含浸させてなり、上記成形材料を2枚のキャリヤーフィルムによりサンドイッチ状に挟み込むとき、上記各キャリヤーフィルムのコンパウンドペーストに接する面に予め親水剤が塗工されているため、親水剤の薄い水膜が形成され、キャリヤーフィルムの界面とコンパウンドペーストの増粘挙動を容易にコントロールでき、キャリヤーフィルムを容易に剥離することができる。
【0019】
そして、この水膜により界面のコンパウンドペーストの水分含有量が高くなり、タック力が低下するため、キャリヤーフィルムの界面とコンパウンドペーストの剥離性が良好となり、加熱硬化により、金型を用いて成形品としたとき、表面が平滑で、ピンホール、色ムラ等のない優れたバスタブ、板材等の硬化成形品を得ることができる。
【0020】
本願請求項2記載の発明に係るシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法においては、特に、上記親水剤として無機酸化物あるいは無機酸をアルコールと水とによって希釈した希釈水溶液を用いるため、キャリヤーフィルムのコンパウンドペーストに接する面に塗工したとき、コンパウンドペーストの界面の水分含有量を効果的に高めることが可能となり、キャリヤーフィルムとコンパウンドペーストとの剥離性をさらに良好とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願発明に係るシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1(a)は上記製造方法の実施形態の一例を模式的に示す説明図である。
【0022】
図1(a)に示すように、一対の含浸ローラー3が一定の間隔をおいて配置され、各含浸ローラー3は矢印で示すように相互に逆方向に向かって同一速度で回転するようにされている。これら含浸ローラー3のそれぞれの上方には、ドクターナイフ1が設けられている。一方、図外ペーストタンクには、所定量の熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の充填材、低収縮材、開始剤、内部離型剤、安定化剤、着色剤、増粘剤等が仕込まれ、ミキサーにより均一に混合されてコンパウンドとして貯留されている。
【0023】
このコンパウンドがコンパウンドペースト2として、図外ペーストタンクから供給されてドクターナイフ1により均一な厚みとなるように調節され、回転するローラー3に供給される。このようにして、含浸ローラー3の表面上に均一な厚みを有するペースト膜21が形成される。
【0024】
一方、含浸ローラー3の上方においては、補強用繊維4としてのガラス繊維のロービングをカットしてチョップドストランドとし、これが図外散布器から上記ペースト膜21の表面に均一に散布される。この後、含浸ローラー3上のペースト膜21とガラス繊維とは含浸ローラー3と含浸ローラー3との間の狭いギャップを通過する間に、ガラス繊維の両側から圧力をかけられてコンパウンドペースト2が含浸される。この含浸によって生じたコンパウンドペースト2と補強用繊維4との混合物はスクレーパー5で掻き取られて落下し、引き取りロール8の上部に一時的に溜められて含浸物Bが形成される。
【0025】
一方、キャリヤーフィルム7は、左右両方から繰り出され、引き取りロール8に至り、水平から垂直方向に向きを変える。この引き取りロール8の上部に形成された上記含浸物Bは2枚のキャリヤーフィルム7に挟まれた状態で案内板9に案内され、下方に引き取られる。ここで、キャリヤーフィルム7が引き取りロール8に達する前に、その上面に親水剤6を親水剤塗工機62により薄く均一に塗布する。親水剤6の塗布量は1.0g/m2以下が好ましく、このようにして、キャリヤーフィルム7上に薄い親水膜61が形成される。
【0026】
上記親水剤6を薄く塗布された2枚のキャリヤーフィルム7は、2個の引き取りロール8で合一するように引き取られるとともに、上記含浸物Bをサンドイッチ状に挟み込むようにして案内板9と案内板9との間を進み、シート状に賦形される。このとき、上記2枚のキャリヤーフィルム7上には、親水剤6の薄い水膜61が形成されており、この水膜61によりキャリヤーフィルム7界面のコンパウンドペースト2の水分含有量が高くなり、増粘を増進させタック力が低下する。このようにして、キャリヤーフィルム7の界面とペースト2の剥離性が良好となり、両面のキャリヤーフィルムが容易に剥がれるため、剥離面に凹凸やピンホール、色ムラ等のない本願発明に係るシート状熱硬化性樹脂成形材料が製品Aとして得られる。
【0027】
なお、本実施形態においては、コンパウンドペースト2を上から下に縦移動させるフローを例として説明にしたが、コンパウンドペースト2を左から右に、あるいは右から左に横移動させるフローとすることもできる。
【0028】
図1(b)は、本願発明に係るシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法の実施形態の他の例を模式的に示す説明図である。この実施形態はコンパウンドペースト2を左から右に、移動させる場合を示している。
【0029】
図1(b)に示すように、左端から、キャリヤーフィルム7がベルトコンベヤ10上に導かれ、親水剤塗工機62から親水剤6がキャリヤーフィルム7上に散布される。次にディップパン11内のコンパウンドペースト2が一定の厚さでこのキャリヤーフィルム7上に塗布される。次に、該コンパウンドペースト2上にガラス繊維等の補強用繊維4が散布される。
【0030】
一方、ベルトコンベヤ10の右方からも、キャリヤーフィルム7が供給される。このキャリヤーフィルム7上にも右方の親水剤塗工機62から親水剤6が散布される。そして、右方のディップパン11内のコンパウンドペースト2が一定の厚さでこのキャリヤーフィルム7上に塗布される。
【0031】
この右方から供給されたキャリヤーフィルム7が、上記左方から供給されたキャリヤーフィルム7に重合される。この重合されたキャリヤーフィルム7、7はベルトコンベヤ10の右方から完成品として取り出される。
【0032】
このように本願発明に係るシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法は設計変更自在であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、いずれの場合も本願発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)は本願発明に係るシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法の実施形態の一例を模式的に示す説明図、(b)は本願発明に係るシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法の実施形態の他の例を模式的に示す説明図。
【図2】従来、公知のシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法を模式的に示す説明図。
【符号の説明】
【0034】
A 本願発明の製造方法によって得られたシート状熱硬化性樹脂成形材料
P 公知の製造方法によって得られたシート状熱硬化性樹脂成形材料
B 含浸物
1 ドクターナイフ
11 ディップパン
2 コンパウンドペースト
21 ペースト膜
3 含浸ローラー
4 補強用繊維
5 スクレーパー
6 親水剤
61 水膜
62 親水剤塗工機
7 キャリヤーフィルム
8 引き取りロール
9 案内板
10 ベルトコンベヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂に各種添加剤を混合してなるコンパウンドペーストに補強用繊維を散布し、含浸させてなる成形材料を2枚のキャリヤーフィルムによりサンドイッチ状に挟み込むことによってシート状熱硬化性樹脂成形材料を製造する方法において、上記各キャリヤーフィルムのコンパウンドペーストに接する面に予め親水剤を塗工したことを特徴とするシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法。
【請求項2】
上記親水剤が無機酸化物あるいは無機酸をアルコールと水とによって希釈した希釈水溶液である請求項1記載のシート状熱硬化性樹脂成形材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−77247(P2010−77247A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245962(P2008−245962)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】