シールドフラットケーブル
【課題】 LVDS方式に使用されるシールドフラットケーブルであって、4mを超える距離で4.5GHzまでの周波数範囲で遠端クロストークが−26dB以下となるシールドフラットケーブルを提供すること。
【課題を解決するための手段】 本発明のシールドフラットケーブルは、四本以上の平角導体を一平面上に配列して、その配列面の上下から絶縁フィルムを貼り合わせて平角導体を絶縁し、前記絶縁フィルムの外にシールド層が設けられている。絶縁フィルムは接着層と基材層からなる。前記接着層は加熱されることで前記平角導体に接着可能であり、前記基材層は、前記接着層が前記平角導体に接着される温度ではその形状を維持する。前記絶縁フィルムの誘電率が前記基材層の誘電率よりも小さいことを特徴とする。
【課題を解決するための手段】 本発明のシールドフラットケーブルは、四本以上の平角導体を一平面上に配列して、その配列面の上下から絶縁フィルムを貼り合わせて平角導体を絶縁し、前記絶縁フィルムの外にシールド層が設けられている。絶縁フィルムは接着層と基材層からなる。前記接着層は加熱されることで前記平角導体に接着可能であり、前記基材層は、前記接着層が前記平角導体に接着される温度ではその形状を維持する。前記絶縁フィルムの誘電率が前記基材層の誘電率よりも小さいことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の平角導体を並列して絶縁樹脂フィルムを貼り合わせ、その外にシールドフィルムを貼ったシールドフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
低電圧差動伝送(LVDS)に用いられるシールドフラットケーブルが特許文献1に開示されている。このシールドフラットケーブルでは、平角導体に貼り合わせる絶縁樹脂フィルムが接着剤層と絶縁層とからできている。絶縁層にはポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等が使用されること、および接着剤層にはポリエスエル系樹脂やポリオレフィン系樹脂に難燃剤を添加したものが使用されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−146694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケーブルの長さが長くなり、かつ伝送される信号が高ビットレートとなるほど遠端クロストークが無視できなくなる。
一方、フラットパネルディスプレイなどを含む機器の大型化に伴ってその機器に使用されるケーブルはより長いものが要求されてきている。そして、高画質化に伴って伝送容量はより大きくなり、より高速度の伝送が要求されてきている。
本発明は、LVDS方式に使用されるシールドフラットケーブルであって、0.4mを超える距離で4.5GHzまでの周波数範囲で遠端クロストークが−26dB以下となるシールドフラットケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のシールドフラットケーブルは、四本以上の平角導体を一平面上に所定の間隔をおいて配列して、その配列面の上下から絶縁フィルムを貼り合わせて平角導体を絶縁し、前記絶縁フィルムの外にシールド層が設けられている。絶縁フィルムは接着層と基材層からなる。前記基材層は、前記接着層が前記平角導体に接着される温度ではその形状を維持する。前記絶縁フィルムの誘電率が前記基材層の誘電率よりも小さいことを特徴とする。
【0006】
本発明のシールドフラットケーブルは、前記絶縁フィルムと前記シールド層の間に誘電体層が設けられ、前記誘電体を前記基材層に接着する接着剤層の誘電率が前記基材層の誘電率よりも大きいものであってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフラットケーブルは上記の構成により、0.4mを超える距離で4.5GHzまでの周波数範囲で遠端クロストークが−26dB以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のフラットケーブルを示す斜視図である。
【図2】本発明のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図3】別の態様の本発明のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図4】別の態様の本発明のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図5】本発明のフラットケーブルの要部の長さ方向に垂直な断面図である。
【図6】本発明の実施例のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図7】本発明の実施例および比較例を示す表である。
【図8】実施例の比較例のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図9】本発明の実施例のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図10】本発明の実施例および比較例を示す表である。
【図11】本発明の別の実施例のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のシールドフラットケーブル1は、図1に示すように平角導体2を複数本一平面上に並列し、並列面の上下から絶縁フィルム3を貼り合わせて各導体2を絶縁したものである。本発明のフラットケーブルは、二チャンネル以上の差動伝送に使用されるものであるので信号線は四本以上必要である。すなわち平角導体は四本以上必要である。図では平角導体2を四本としているが、四本以上であれば何本でも構わない。
本発明のシールドフラットケーブル1は、絶縁フィルム3の外にシールドフィルム4が巻かれるかまたは貼り付けられてシールド層が形成されたものである。シールドフィルム4は図2に示すように絶縁フィルム3の周囲を包むように巻かれてもよい。図3に示すように貼り合わされた絶縁フィルム3にシールドフィルム4がそれぞれ貼り付けられてもよい。この場合、シールドフィルム4は2枚であり、それらのシールドフィルム4は一体とはなっていない。図4に示すように一方の絶縁フィルム3(図4では下側3b)のみに貼られてもよい。この場合、シールドフラットケーブル1は片面のみがシールドされていることになる。
シールドフィルム4は従来から使用されているもの、例えば銅箔やアルミ箔の一面に接着剤層が形成され、他面に樹脂フィルムなどが貼られたものを使用できる。
【0010】
このフラットケーブルの特性インピーダンスが所定の値(例えば90Ωや100Ω)となるように平角導体2の厚さまたは幅、平角導体2の間隔、絶縁フィルム3の誘電率を調整する。また、絶縁フィルム3とシールドフィルム4の間にインピーダンス調整のために別の誘電体層(例えばポリオレフィン系樹脂フィルムやポリエステルフィルム)が入れられることもある。
【0011】
本発明の絶縁フィルム3は接着層5と基材層6とからなる。図1〜図4では接着層5、基材層6とも一層のみ示すが、それぞれ複数の層から形成されてもよい。
接着層5は、熱可塑性の樹脂であり、百数十℃の熱を加えることで平角導体2または相手方の絶縁フィルム3と接着することのできる材料からなる。接着層5には例えばポリエステル系接着剤を使用することができる。
絶縁フィルム3を接着するために百数十℃の熱を加えたときも基材層6は軟化したり接着性を示すことなく、フィルムの形状を維持する。基材層6にはポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルを使用することができる。
接着層5と基材層6とは機能が違うので別の樹脂となる。
【0012】
電気信号が伝搬する差動伝送路では正の電位である導体から負の電位である導体に電気力線が出ていると捉えることができる。+−が交番するが、ある瞬間の様子を図5に示す。ただし、電気力線は説明のために必要なもののみ示す。
平角導体12は二本で一対となっている。平角導体12aはこの瞬間正の電位を有し、12bは負の電位を有する。正の電位を有する平角導体12aから出た電気力線7aは隣接する負の電位を有する平角導体12bと隣接するグランド線11に入る。平角導体12bには隣接するグランド線13からの電気力線7cも入る。ケーブルの外に向かう電気力線7bは接着層5を透過して平角導体から出た電気力線は接着層5、基材層6を順に透過するが、両層の屈折率が異なるのでその界面で屈折する。
【0013】
この電気力線7bの屈折はスネルの法則で説明できる。屈折率は誘電率と透磁率の積の平方根に置き換えることができる。ここで、接着層5と基材層6はいずれもプラスチック素材であってそれらの透磁率は等しいと仮定することができるので、屈折率は誘電率の平方根の比で決定される。電気力線7bの接着層5から基材層6への入射角をθ1、屈折角をθ2、接着層の誘電率をε1、基材層の誘電率をε2とするとε1×sinθ1=ε2×sinθ2となる。ε1>ε2の場合は、電気力線は図5に電気力線7b2で示すようにθ1<θ2となるように屈折する。ε1<ε2の場合は、逆に電気力線7b1で示すようにθ1>θ2となるように屈折する。図より明らかなようにε1<ε2の場合が、電気力線が同じチャンネル内からはみ出しにくい。さらに、ε1<ε2の場合は電気力線の一部が接着層から基材層の界面で全反射してチャンネル外へはみ出すことがない。これらを合わせてε1<ε2であれば電気力線を同じチャンネル内に閉じこめる効果が大きい。
【0014】
本発明のシールドフラットケーブルは、接着層5と基材層6との誘電率が異なる。本発明では接着層5(絶縁フィルム3のうち平角導体2に近い層)の誘電率(ε1)を基材層6の誘電率(ε2)よりも小さくすることで、平角導体2から出る電気力線をその平角導体2の近くに閉じ込めることができ、0.4mを超えて一チャンネル当たりの信号の占有周波数帯幅が4.5GHzに達する高周波伝送をした場合でも遠端クロストークを小さくすることができる。
【0015】
(実施例)
図6に示すように絶縁フィルム3の一方(下側)に、インピーダンス調整のための誘電体層(介在層)9とその外(平角導体と逆側)にシールドフィルム4を貼ったシールドフラットケーブルを製造した。介在接着層8を介在層9の一面に付けて一体としておき、介在接着層8と介在層9とを絶縁フィルム3に貼り付けた。
本実施例では接着層が二つあるので絶縁フィルム3の接着層5を絶縁接着層5、介在層9を絶縁フィルム3に接着する接着層8を介在接着層8と呼び分ける。
【0016】
絶縁接着層5、基材層6、介在接着層8、介在層9の材料と厚さは図7に示す通りとした。各例について測定された遠端クロストーク最大値と差動モードインピーダンスも図7に示す。
グランド線をG、信号線をSで表して、それらの配置をGSSGSSG・・・と配置した。隣り合う二本の信号線が一対となって一チャンネルとなる。各チャンネルの間にグランド線を配置した。これらのシールドフラットケーブルの隣合うチャンネル間の遠端クロストークを測定した。4.5GHzでの遠端クロストーク最大値が−26dB以下のものを合格とした。
【0017】
各層の誘電率はその層を積み重ねて0.5mm以上の厚さとしてインピーダンスマテリアルアナライザを使用して測定した。比誘電率は真空の誘電率に対する比である。
絶縁接着層の比誘電率をε1、基材層の比誘電率をε2、絶縁接着層と基材層とからなる絶縁フィルムの比誘電率をε3、絶縁接着層の体積をV1、基材層の体積をV2とすると、ε3=(ε1V1+ε2V2)/(V1+V2)である。
絶縁接着層と基材層とからなる絶縁フィルムの比誘電率(ε3)と基材層の比誘電率(ε2)を測定し、上記式から絶縁接着層の比誘電率(ε1)を求めた。ここで絶縁フィルムの比誘電率が基材層の比誘電率よりも小さい場合、絶縁接着層の比誘電率が基材層の比誘電率よりも小さくなる。
【0018】
比較例1は従来の構成のシールドフラットケーブルである。この例では、距離150mm、450mmいずれも遠端クロストーク最大値は不合格である。この例では、平角導体2に近い層から遠い層にかけて順に比誘電率が小さくなっている(絶縁接着層5>基材層6>介在接着層8>介在層9の大小関係である)。平角導体2から出る電気力線7は図8に示すように各層の界面で屈折して平角導体2から水平方向に遠ざかる。さらに、比誘電率の大きな層(平角導体2に近い層)から比誘電率の小さな層(平角導体2から遠い層)に向かって電気力線7が出るときに一部の電気力線は全反射する。これらが遠端クロストークが良くない原因と考えられる。
【0019】
実施例1は各層の比誘電率が、絶縁接着層5<基材層6<介在接着層8>介在層9の大小関係となるようにしたものである。絶縁接着層5の比誘電率が基材層6の比誘電率よりも小さいので、絶縁フィルム3の比誘電率が基材層6の比誘電率よりも小さい。この例では450mmの遠端クロストークが合格となる。この例では、平角導体2から出る電気力線7は図9に示すように介在接着層8まではその平角導体2の近くに閉じ込められる。比誘電率の小さな層(平角導体2に近い層)から比誘電率の大きな層(平角導体2から遠い層)の界面では電気力線7の全反射が抑えられ、閉じ込め効果はさらに大きくなっている。これらが遠端クロストークが小さい原因と考えられる。
【0020】
比較例2は各層の比誘電率が、絶縁接着層5>基材層6<介在接着層8>介在層9の大小関係となるようにしたものである。絶縁フィルム3の比誘電率は基材層6の比誘電率よりも大きい。この例では150mmの遠端クロストークが合格となるけれども、450mmの遠端クロストークは不合格である。
実施例1と比較例2を比べて、絶縁フィルム3の比誘電率が基材層6の比誘電率よりも小さいことが、450mmでの遠端クロストークが合格となるために必要であることが分かる。
【0021】
図11に示すように絶縁フィルム3の両方に、インピーダンス調整のための誘電体層(介在層)9とその外(平角導体2と逆側)にシールドフィルム4を貼ったシールドフラットケーブル1を製造した。介在接着層8と介在層9が両方の絶縁フィルム3に貼り付けられていること以外は上記の実施例1、比較例1、比較例2と同様である。
絶縁接着層5、基材層6、介在接着層8、介在層9の材料と厚さは図10に示す通りとした。各例について測定された遠端クロストーク最大値と差動モードインピーダンスも図10に示す。
【0022】
実施例2は各層の比誘電率が、絶縁接着層5<基材層6<介在接着層8>介在層9の大小関係となるようにしたものである。実施例1と同様に、図11に示すように電気力線7が同じチャンネル内に閉じ込められることにより450mmの遠端クロストークが合格するものと考えられる。
【0023】
実施例3は各層の比誘電率が、絶縁接着層5<基材層6>介在接着層8>介在層9の大小関係となるようにしたものである。この場合も、450mmの遠端クロストークが合格する。絶縁接着層5の比誘電率を基材層6の比誘電率よりも小さくすること、すなわち絶縁フィルム3の誘電率を基材層6の誘電率よりも小さくすることにより450mmの遠端クロストークが合格することが分かる。この例では、絶縁フィルム3の外に介在層9があるが、介在層9がない場合、すなわち絶縁フィルム3にシールドフィルム4が直接貼り付けられている場合でも絶縁フィルムが厚ければ遠端クロストークが良いと考えられる。
【0024】
実施例2は基材層6のすぐ外の層である介在接着層8の比誘電率が基材層6の比誘電率よりも大きいので実施例2よりも遠端クロストークがさらに良くなっている。
【0025】
比較例3は各層の比誘電率が、絶縁接着層5>基材層6>介在接着層8>介在層9の大小関係となっており、450mmの遠端クロストークが不合格となるのは電気力線の閉じ込め効果が弱いことが原因と考えられる。
【符号の説明】
【0026】
1 シールドフラットケーブル
2 平角導体
3 絶縁フィルム
4 シールドフィルム
5 接着層(絶縁接着層)
6 基材層
7 電気力線
8 接着層(介在接着層)
9 介在層開口
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の平角導体を並列して絶縁樹脂フィルムを貼り合わせ、その外にシールドフィルムを貼ったシールドフラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
低電圧差動伝送(LVDS)に用いられるシールドフラットケーブルが特許文献1に開示されている。このシールドフラットケーブルでは、平角導体に貼り合わせる絶縁樹脂フィルムが接着剤層と絶縁層とからできている。絶縁層にはポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等が使用されること、および接着剤層にはポリエスエル系樹脂やポリオレフィン系樹脂に難燃剤を添加したものが使用されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−146694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケーブルの長さが長くなり、かつ伝送される信号が高ビットレートとなるほど遠端クロストークが無視できなくなる。
一方、フラットパネルディスプレイなどを含む機器の大型化に伴ってその機器に使用されるケーブルはより長いものが要求されてきている。そして、高画質化に伴って伝送容量はより大きくなり、より高速度の伝送が要求されてきている。
本発明は、LVDS方式に使用されるシールドフラットケーブルであって、0.4mを超える距離で4.5GHzまでの周波数範囲で遠端クロストークが−26dB以下となるシールドフラットケーブルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のシールドフラットケーブルは、四本以上の平角導体を一平面上に所定の間隔をおいて配列して、その配列面の上下から絶縁フィルムを貼り合わせて平角導体を絶縁し、前記絶縁フィルムの外にシールド層が設けられている。絶縁フィルムは接着層と基材層からなる。前記基材層は、前記接着層が前記平角導体に接着される温度ではその形状を維持する。前記絶縁フィルムの誘電率が前記基材層の誘電率よりも小さいことを特徴とする。
【0006】
本発明のシールドフラットケーブルは、前記絶縁フィルムと前記シールド層の間に誘電体層が設けられ、前記誘電体を前記基材層に接着する接着剤層の誘電率が前記基材層の誘電率よりも大きいものであってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフラットケーブルは上記の構成により、0.4mを超える距離で4.5GHzまでの周波数範囲で遠端クロストークが−26dB以下である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のフラットケーブルを示す斜視図である。
【図2】本発明のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図3】別の態様の本発明のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図4】別の態様の本発明のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図5】本発明のフラットケーブルの要部の長さ方向に垂直な断面図である。
【図6】本発明の実施例のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図7】本発明の実施例および比較例を示す表である。
【図8】実施例の比較例のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図9】本発明の実施例のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【図10】本発明の実施例および比較例を示す表である。
【図11】本発明の別の実施例のフラットケーブルの長さ方向に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のシールドフラットケーブル1は、図1に示すように平角導体2を複数本一平面上に並列し、並列面の上下から絶縁フィルム3を貼り合わせて各導体2を絶縁したものである。本発明のフラットケーブルは、二チャンネル以上の差動伝送に使用されるものであるので信号線は四本以上必要である。すなわち平角導体は四本以上必要である。図では平角導体2を四本としているが、四本以上であれば何本でも構わない。
本発明のシールドフラットケーブル1は、絶縁フィルム3の外にシールドフィルム4が巻かれるかまたは貼り付けられてシールド層が形成されたものである。シールドフィルム4は図2に示すように絶縁フィルム3の周囲を包むように巻かれてもよい。図3に示すように貼り合わされた絶縁フィルム3にシールドフィルム4がそれぞれ貼り付けられてもよい。この場合、シールドフィルム4は2枚であり、それらのシールドフィルム4は一体とはなっていない。図4に示すように一方の絶縁フィルム3(図4では下側3b)のみに貼られてもよい。この場合、シールドフラットケーブル1は片面のみがシールドされていることになる。
シールドフィルム4は従来から使用されているもの、例えば銅箔やアルミ箔の一面に接着剤層が形成され、他面に樹脂フィルムなどが貼られたものを使用できる。
【0010】
このフラットケーブルの特性インピーダンスが所定の値(例えば90Ωや100Ω)となるように平角導体2の厚さまたは幅、平角導体2の間隔、絶縁フィルム3の誘電率を調整する。また、絶縁フィルム3とシールドフィルム4の間にインピーダンス調整のために別の誘電体層(例えばポリオレフィン系樹脂フィルムやポリエステルフィルム)が入れられることもある。
【0011】
本発明の絶縁フィルム3は接着層5と基材層6とからなる。図1〜図4では接着層5、基材層6とも一層のみ示すが、それぞれ複数の層から形成されてもよい。
接着層5は、熱可塑性の樹脂であり、百数十℃の熱を加えることで平角導体2または相手方の絶縁フィルム3と接着することのできる材料からなる。接着層5には例えばポリエステル系接着剤を使用することができる。
絶縁フィルム3を接着するために百数十℃の熱を加えたときも基材層6は軟化したり接着性を示すことなく、フィルムの形状を維持する。基材層6にはポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルを使用することができる。
接着層5と基材層6とは機能が違うので別の樹脂となる。
【0012】
電気信号が伝搬する差動伝送路では正の電位である導体から負の電位である導体に電気力線が出ていると捉えることができる。+−が交番するが、ある瞬間の様子を図5に示す。ただし、電気力線は説明のために必要なもののみ示す。
平角導体12は二本で一対となっている。平角導体12aはこの瞬間正の電位を有し、12bは負の電位を有する。正の電位を有する平角導体12aから出た電気力線7aは隣接する負の電位を有する平角導体12bと隣接するグランド線11に入る。平角導体12bには隣接するグランド線13からの電気力線7cも入る。ケーブルの外に向かう電気力線7bは接着層5を透過して平角導体から出た電気力線は接着層5、基材層6を順に透過するが、両層の屈折率が異なるのでその界面で屈折する。
【0013】
この電気力線7bの屈折はスネルの法則で説明できる。屈折率は誘電率と透磁率の積の平方根に置き換えることができる。ここで、接着層5と基材層6はいずれもプラスチック素材であってそれらの透磁率は等しいと仮定することができるので、屈折率は誘電率の平方根の比で決定される。電気力線7bの接着層5から基材層6への入射角をθ1、屈折角をθ2、接着層の誘電率をε1、基材層の誘電率をε2とするとε1×sinθ1=ε2×sinθ2となる。ε1>ε2の場合は、電気力線は図5に電気力線7b2で示すようにθ1<θ2となるように屈折する。ε1<ε2の場合は、逆に電気力線7b1で示すようにθ1>θ2となるように屈折する。図より明らかなようにε1<ε2の場合が、電気力線が同じチャンネル内からはみ出しにくい。さらに、ε1<ε2の場合は電気力線の一部が接着層から基材層の界面で全反射してチャンネル外へはみ出すことがない。これらを合わせてε1<ε2であれば電気力線を同じチャンネル内に閉じこめる効果が大きい。
【0014】
本発明のシールドフラットケーブルは、接着層5と基材層6との誘電率が異なる。本発明では接着層5(絶縁フィルム3のうち平角導体2に近い層)の誘電率(ε1)を基材層6の誘電率(ε2)よりも小さくすることで、平角導体2から出る電気力線をその平角導体2の近くに閉じ込めることができ、0.4mを超えて一チャンネル当たりの信号の占有周波数帯幅が4.5GHzに達する高周波伝送をした場合でも遠端クロストークを小さくすることができる。
【0015】
(実施例)
図6に示すように絶縁フィルム3の一方(下側)に、インピーダンス調整のための誘電体層(介在層)9とその外(平角導体と逆側)にシールドフィルム4を貼ったシールドフラットケーブルを製造した。介在接着層8を介在層9の一面に付けて一体としておき、介在接着層8と介在層9とを絶縁フィルム3に貼り付けた。
本実施例では接着層が二つあるので絶縁フィルム3の接着層5を絶縁接着層5、介在層9を絶縁フィルム3に接着する接着層8を介在接着層8と呼び分ける。
【0016】
絶縁接着層5、基材層6、介在接着層8、介在層9の材料と厚さは図7に示す通りとした。各例について測定された遠端クロストーク最大値と差動モードインピーダンスも図7に示す。
グランド線をG、信号線をSで表して、それらの配置をGSSGSSG・・・と配置した。隣り合う二本の信号線が一対となって一チャンネルとなる。各チャンネルの間にグランド線を配置した。これらのシールドフラットケーブルの隣合うチャンネル間の遠端クロストークを測定した。4.5GHzでの遠端クロストーク最大値が−26dB以下のものを合格とした。
【0017】
各層の誘電率はその層を積み重ねて0.5mm以上の厚さとしてインピーダンスマテリアルアナライザを使用して測定した。比誘電率は真空の誘電率に対する比である。
絶縁接着層の比誘電率をε1、基材層の比誘電率をε2、絶縁接着層と基材層とからなる絶縁フィルムの比誘電率をε3、絶縁接着層の体積をV1、基材層の体積をV2とすると、ε3=(ε1V1+ε2V2)/(V1+V2)である。
絶縁接着層と基材層とからなる絶縁フィルムの比誘電率(ε3)と基材層の比誘電率(ε2)を測定し、上記式から絶縁接着層の比誘電率(ε1)を求めた。ここで絶縁フィルムの比誘電率が基材層の比誘電率よりも小さい場合、絶縁接着層の比誘電率が基材層の比誘電率よりも小さくなる。
【0018】
比較例1は従来の構成のシールドフラットケーブルである。この例では、距離150mm、450mmいずれも遠端クロストーク最大値は不合格である。この例では、平角導体2に近い層から遠い層にかけて順に比誘電率が小さくなっている(絶縁接着層5>基材層6>介在接着層8>介在層9の大小関係である)。平角導体2から出る電気力線7は図8に示すように各層の界面で屈折して平角導体2から水平方向に遠ざかる。さらに、比誘電率の大きな層(平角導体2に近い層)から比誘電率の小さな層(平角導体2から遠い層)に向かって電気力線7が出るときに一部の電気力線は全反射する。これらが遠端クロストークが良くない原因と考えられる。
【0019】
実施例1は各層の比誘電率が、絶縁接着層5<基材層6<介在接着層8>介在層9の大小関係となるようにしたものである。絶縁接着層5の比誘電率が基材層6の比誘電率よりも小さいので、絶縁フィルム3の比誘電率が基材層6の比誘電率よりも小さい。この例では450mmの遠端クロストークが合格となる。この例では、平角導体2から出る電気力線7は図9に示すように介在接着層8まではその平角導体2の近くに閉じ込められる。比誘電率の小さな層(平角導体2に近い層)から比誘電率の大きな層(平角導体2から遠い層)の界面では電気力線7の全反射が抑えられ、閉じ込め効果はさらに大きくなっている。これらが遠端クロストークが小さい原因と考えられる。
【0020】
比較例2は各層の比誘電率が、絶縁接着層5>基材層6<介在接着層8>介在層9の大小関係となるようにしたものである。絶縁フィルム3の比誘電率は基材層6の比誘電率よりも大きい。この例では150mmの遠端クロストークが合格となるけれども、450mmの遠端クロストークは不合格である。
実施例1と比較例2を比べて、絶縁フィルム3の比誘電率が基材層6の比誘電率よりも小さいことが、450mmでの遠端クロストークが合格となるために必要であることが分かる。
【0021】
図11に示すように絶縁フィルム3の両方に、インピーダンス調整のための誘電体層(介在層)9とその外(平角導体2と逆側)にシールドフィルム4を貼ったシールドフラットケーブル1を製造した。介在接着層8と介在層9が両方の絶縁フィルム3に貼り付けられていること以外は上記の実施例1、比較例1、比較例2と同様である。
絶縁接着層5、基材層6、介在接着層8、介在層9の材料と厚さは図10に示す通りとした。各例について測定された遠端クロストーク最大値と差動モードインピーダンスも図10に示す。
【0022】
実施例2は各層の比誘電率が、絶縁接着層5<基材層6<介在接着層8>介在層9の大小関係となるようにしたものである。実施例1と同様に、図11に示すように電気力線7が同じチャンネル内に閉じ込められることにより450mmの遠端クロストークが合格するものと考えられる。
【0023】
実施例3は各層の比誘電率が、絶縁接着層5<基材層6>介在接着層8>介在層9の大小関係となるようにしたものである。この場合も、450mmの遠端クロストークが合格する。絶縁接着層5の比誘電率を基材層6の比誘電率よりも小さくすること、すなわち絶縁フィルム3の誘電率を基材層6の誘電率よりも小さくすることにより450mmの遠端クロストークが合格することが分かる。この例では、絶縁フィルム3の外に介在層9があるが、介在層9がない場合、すなわち絶縁フィルム3にシールドフィルム4が直接貼り付けられている場合でも絶縁フィルムが厚ければ遠端クロストークが良いと考えられる。
【0024】
実施例2は基材層6のすぐ外の層である介在接着層8の比誘電率が基材層6の比誘電率よりも大きいので実施例2よりも遠端クロストークがさらに良くなっている。
【0025】
比較例3は各層の比誘電率が、絶縁接着層5>基材層6>介在接着層8>介在層9の大小関係となっており、450mmの遠端クロストークが不合格となるのは電気力線の閉じ込め効果が弱いことが原因と考えられる。
【符号の説明】
【0026】
1 シールドフラットケーブル
2 平角導体
3 絶縁フィルム
4 シールドフィルム
5 接着層(絶縁接着層)
6 基材層
7 電気力線
8 接着層(介在接着層)
9 介在層開口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角導体を四本以上一平面上に所定の間隔をおいて配列して、その配列面の上下から絶縁フィルムを貼り合わせて平角導体を絶縁し、前記絶縁フィルムの外にシールド層を設けたシールドフラットケーブルであって、
前記絶縁フィルムが接着層と基材層からなり、
前記基材層は、前記接着層が前記平角導体に接着される温度では形状を維持し、
前記絶縁フィルムの誘電率が前記基材層の誘電率よりも小さいことを特徴とするシールドフラットケーブル。
【請求項2】
前記絶縁フィルムと前記シールド層の間に誘電体層が設けられ、前記誘電体を接着する接着剤層の誘電率が前記基材層の誘電率よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のシールドフラットケーブル。
【請求項1】
平角導体を四本以上一平面上に所定の間隔をおいて配列して、その配列面の上下から絶縁フィルムを貼り合わせて平角導体を絶縁し、前記絶縁フィルムの外にシールド層を設けたシールドフラットケーブルであって、
前記絶縁フィルムが接着層と基材層からなり、
前記基材層は、前記接着層が前記平角導体に接着される温度では形状を維持し、
前記絶縁フィルムの誘電率が前記基材層の誘電率よりも小さいことを特徴とするシールドフラットケーブル。
【請求項2】
前記絶縁フィルムと前記シールド層の間に誘電体層が設けられ、前記誘電体を接着する接着剤層の誘電率が前記基材層の誘電率よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のシールドフラットケーブル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−80624(P2013−80624A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220026(P2011−220026)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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