説明

シールド掘進機の発進フード

【課題】 発進フードをシールド掘進機の外周に被嵌した状態で既設トンネル内を搬送する際に、発進フードの内周面に取り付けたシールの潰れ・損傷を防止し、発進フードに対する掘進機の同芯性が確保できる発進フードを提供する。
【解決手段】 シールド掘進機(分割片1)の外周部にスライド可能に被嵌された状態で既設トンネル3内を搬送される発進フード本体4xと、該発進フード本体4xの内周面に設けられ、該内周面と上記外周部との間を止水すべく周方向に沿ってリング状に形成されたシール6と、該シール6を挟むようにして上記内周面に設けられ、上記外周部を上記内周面から浮かせて支持するための隆起部8とを備えたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機の発進フードに関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機の発進は、立坑の内壁に円筒状の発進フードを取り付け、立坑内の発進フードの後方にシールド掘進機を搬入し、掘進機が発進フード内を通過して立坑壁を掘り抜くこと等によって成している。しかし、これでは立坑の直径が「発進フードの長さ+シールド掘進機の長さ」よりも大きくならざるを得ない。
【0003】
そこで、本出願人は、シールド掘進機の外周部に予め発進フードをスライド可能に被嵌したものを立坑内に搬入し、発進フードを立坑の内壁に取り付けて発進するようにしたものを開発中である。この技術によれば、立坑の直径を「発進フードの長さ」分だけ小さくできる。
【0004】
なお、掘進機の発進に関する技術として、予め立坑の壁に掘進機の前部(カッタ部)を埋め込んでおき、この立坑を土中に沈設し、上記前部に掘進機の後部を取り付けて発進し、立坑壁の切削を不要としたものが知られているが(特許文献1、2)、このタイプでは立坑壁の厚さが増えコストアップとなってしまう。
【0005】
【特許文献1】特開2001−32675号公報
【特許文献2】特開平6−235289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、掘進機の外周部に発進フードをスライド可能に被嵌したものでは、発進フードの内周面と掘進機の外周部との間に、掘進機をスライド可能とするためのクリアランスが設定されている。このため、上記クリアランス内にて掘進機が下がり、発進フードに対する掘進機の同芯性が確保できない。
【0007】
また、発進フードの内周面には、この内周面と掘進機の外周部との間を止水するためリング状に形成されたシールが設けられているが、このリング状のシールのうち掘進機の下方の部分が掘進機の自重によって押し潰され、止水性能の悪化を招く。
【0008】
また、掘進機の外周部に発進フードをスライド可能に被嵌したもの(以下ユニット)を立坑内に搬入してこのユニットを所定の発進位置まで移動させるときに、掘進機が上記クリアランス内にて振動等によって動き、押し潰された上記シールに損傷が生じる可能性がある。
【0009】
特に、近年、既設トンネル内から掘進機を発進させる需要が生じており、この場合、上記ユニットを立坑から台車に載せて既設トンネル内の所定の発進位置まで搬送しなければならないため、かかる搬送中の振動等によって掘進機が上記クリアランス内にて動き、上記シールの損傷が生じ易い。
【0010】
そこで、上記シールの潰れ・損傷を防止し、且つ発進フードに対する掘進機の同芯性が確保できる発進フードが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るシールド掘進機の発進フードは、シールド掘進機の外周部にスライド可能に被嵌された状態で既設トンネル内を搬送される発進フード本体と、該発進フード本体の内周面に設けられ、該内周面と上記外周部との間を止水すべく周方向に沿ってリング状に形成されたシールと、該シールを挟むようにして上記内周面に設けられ、上記外周部を上記内周面から浮かせて支持するための隆起部とを備えたものである。
【0012】
上記隆起部は、少なくとも上記内周面の下部に配置されることが好ましい。
【0013】
上記内周面の側部に、側部隆起部を設けることが好ましい。
【0014】
上記内周面の下部に、上記隆起部よりも前方に位置させて先頭隆起部を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、隆起部によって掘進機が発進フードの内周面から浮かされているので、上記内周面に設けられたリング状のシールが掘進機の自重や振動等によって損傷することを防止でき、また、発進フードに対する掘進機の同芯性を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
本実施形態に用いられるシールド掘進機は、既設トンネル内から発進するものであるが、既設トンネルの内径よりも掘進機の機長の方が長い。このため、掘進機が軸方向に複数に分割され、それら分割片が夫々架台に載置されて先頭側のものから順に既設トンネル内の掘削可能壁に対向する位置に搬送され、既設トンネル内にて各分割片が組み立てられながら掘削可能壁を掘り抜いて発進するようになっている。
【0018】
図1は先頭の分割片1(特許請求の範囲のシールド掘進機に相当)を架台2に載置して既設トンネル3内を搬送する様子を示す。図示するように、上記分割片1の外周部には、発進フード4がスライド可能に被嵌されている。発進フード4は円筒状の発進フード本体4xを有し、この発進フード本体4xは、円筒状に形成されたエントランス部4aと、円筒の前端が既設トンネル3の掘削可能壁5の内周面に当接するように馬鞍状に形成された接続部4bとからなる。
【0019】
エントランス部4aの内周面の略中央部には、この内周面と上記分割片1の外周部との間を止水すべく周方向に沿ってリング状に形成されたシール6(エントランスシール)が設けられている。シール6は、エントランス部4aの内周面に周方向に沿って形成された溝7に嵌め込まれ、ボルトによって固定されている。
【0020】
発進フード本体4xの内周面には、上記シール6が分割片1によって押し潰されないようにするため、分割片1の外周部を上記内周面から浮かせて支持するための隆起部8が設けられている。隆起部8は、分割片1を発進フード本体4xに対して同芯的に支持する高さとなっており、本実施形態では、分割片1の滑り易さ及び分割片1の荷重による圧縮性を考慮して樹脂(MCナイロン等)から成形されているが、これに限らず鉄・アルミ等の金属から成形してもよい。
【0021】
上記発進フード4を後方から見た図2(シール6は省略)、図2のIII−III線断面図である図3(シール6は省略)に示すように、上記隆起部8は、少なくともエントランス部4aの内周面の下部に配置された下部隆起部8a、8bを有する。下部隆起部8a、8bは、上記シール6よりも掘削可能壁5に近い側に配置された下部前側隆起部8aと、シール6を挟んで掘削可能壁5から遠い側に配置された下部後側隆起部8bとからなり、上記シール6を挟んで配置されている。これら下部隆起部8a、8bは、所定厚さの円弧状に形成されており、エントランス部4aの内周面に周方向に沿って形成された溝9に嵌め込まれ、ボルトによって固定されている。これら下部隆起部8a、8bは、主に、分割片1が発進フード4内に収容されている状態において、その分割片1の重量を支持する(図1参照)。
【0022】
また、上記接続部4bの内周面の下部には、上記下部前側隆起部8aよりも前方に位置させて、先頭隆起部8cが設けられている。この先頭隆起部は8cは、上記分割片1の発進方向に沿って略直方体状に形成されており、上記下部前側隆起部8aの略両端部に上記内周面の周方向に所定間隔を隔てて配置され、上記接続部4bの内周面に軸方向に沿って形成された窪み部10に嵌め込まれ、ボルトによって固定されている。先頭隆起部8cの材質及び高さ等は、上記下部隆起部8a、8bと同様に設定されている。先頭隆起部8cは、主に、分割片1が発進フード4から前進しつつある状態において、その分割片1の重量を支持する。
【0023】
また、エントランス部4aの内周面の一側部には、側部隆起部8d、8eが設けられている。側部隆起部8d、8eは、上記シール6に対して掘削可能壁5に近い側に配置された側部前側隆起部8dと、シール6を挟んで掘削可能壁5から遠い側に配置された側部後側隆起部8eとからなり、上記シール6を挟んで配置されている。これら側部隆起部8d、8eは、所定厚さの円弧状に形成されており、上記溝9に嵌め込まれ、ボルトによって固定されている。これら側部隆起部8d、8eの材質及び高さ等は、上記下部隆起部8a、8bと同様に設定されている。側部隆起部8d、8eは、主に、図5に示すように分割片1が掘削可能壁5を掘り抜いて地山に侵入したとき、分割片1が地山から受ける土圧Fを支持する。すなわち、側部隆起部8d、8eは、土圧Fが作用する側部と反対側の側部に配置されている。
【0024】
本実施形態の作用を述べる。
【0025】
図1に示すように、上記分割片1の外周部に上記発進フード4がスライド可能に被嵌されたもの(ユニット11)は、立坑内にて架台2上に載置される。このとき、分割片1は発進フード4を介して架台2に支持される。上記ユニット11は、架台2に取り付けた車輪12が既設トンネル3の底部に敷設されたレール13上を走行することで、立坑から既設トンネル3内に搬入され、既設トンネル3の長手方向に沿って掘削可能壁5の近傍まで搬送される。
【0026】
この際、下部前側隆起部8a及び下部後側隆起部8bが分割片1の自重を支持し、分割片1を発進フード4の内周面から浮かせた状態とするので、これら下部隆起部8a、8bの間に配置されたシール6が分割片1の自重によって押し潰されることはなく、シール6の性能悪化を防止できる。また、上記分割片1が発進フード4の内周面と分割片1の外周部との間に設けられたクリアランス内にて搬送中に振動等しても、分割片1の荷重が分割片1の下方のシール6に作用することはなく、シール6が損傷することはない。
【0027】
上記ユニット11が掘削可能壁5の近傍に搬送されたならば、図4に示すように、車輪12が架台2から取り外され、架台2が既設トンネル3の底部に設けられた平板14上に載置される。その後、架台2を平板14上を滑らせることで、発進フード4の接続部4bの前端を掘削可能壁5の内周面に当接させ、その当接部を溶接する。
【0028】
ここで、上記隆起部8(主に下部前側隆起部8a、下部後側隆起部8b)の高さが分割片1の自重による圧縮をも見越して適切に設定されているので、分割片1が発進フード4と同芯に配置される。よって、上記シール6は、分割片1の外周部に周方向に略均等に押し付けられることになり、周方向にバランスの良い安定した止水性能を発揮できる。
【0029】
その後、図5にも示すように、順次、次の分割片1a、1b、1c…を同様に架台2a、2b、2c…に載置して上記分割片1の後方に運び込み、分割片1、1a…同士を溶接する。このように運び込んだ分割片1…を連結してシールド掘進機を組み立てながら、分割片1bの内部に取り付けたシールドジャッキ15(推進ジャッキ)の伸長力を、反力受けブロック16及び反力受け架台17を介して既設トンネル3に伝達し、分割片1…の連結体を前進させる。
【0030】
このように分割片1…が前進するときに、分割片1…の自重の一部が下部前側隆起部8aの前方に発進方向に沿って形成された先頭隆起部8c(図3参照)によって支持されるため、分割片1…が前下がりとなることを防止できる。よって、発進方向が下方にずれることを防止できる。
【0031】
また、本実施形態では、図5に示すように、既設トンネル3のカーブ部の半径(又は法線)に対して傾斜させて分割片1…を発進させるので、先頭の分割片1が掘削可能壁5を掘り抜いて地山に侵入した直後においては、上記分割片1の前部の右側部のみが地山に侵入する。
【0032】
このため、上記右側部に加わる地山の土圧Fによって分割片1…の連結体は図5の左方に押し付けられるが、この押し付け力は、上記側部前側隆起部8d及び側部後側隆起部8eによって支持される。よって、分割片1…の連結体が上記クリアランスの範囲で図5の左方にずれることを防止できる。これにより、発進方向が左方にずれることを防止できる。
【0033】
図5以降、順次分割片1d…を同様にして搬送し、発進途中の分割片1…の連結体の後部に溶接し、既設トンネル3の内径よりも全長の長いシールド掘進機を完成させ、その掘進機を既設トンネル3から発進させる。これにより既設トンネル3に分岐トンネルを分岐させて構築できる。
【0034】
本発明の実施形態は上記タイプに限定されない。
【0035】
例えば、既設トンネル3のストレート部から発進する場合やカーブ部にてその半径(又は法線)方向に発進する場合には、分割片1の前部が均等に地山に侵入することから上記片押し土圧Fが作用しないので、上記側部隆起部8d、8eを省略してもよい。
【0036】
また、発進中における分割片1…の連結体の重心位置が発進フード4のエントランス部4a上に位置する場合には、発進途中の分割片1…の連結体が前下がりにならないので、上記先頭隆起部8cを省略してもよい。
【0037】
また、上記隆起部8(8a、8b、8c、8d、8eのいずれか又は全て)を発進フード本体4xの内周面に周方向に所定間隔を隔てて間欠的に形成してもよく、周方向に連続させてリング状に形成してもよい。また、上記隆起部8を発進フード本体4xの内周面にシール6を避けてドット状に形成してもよい。
【0038】
また、本実施形態ではシールド掘進機の分割片1の外周部に発進フード4をスライド可能に被嵌したが、完成したシールド掘進機の外周部に上記発進フード4をスライド可能に被嵌してもよい。
【0039】
また、本明細書及び請求の範囲における「既設トンネル」は、水平方向のみならず上下方向に形成されたトンネルも含み、広くは立坑も含む概念である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】シールド掘進機の分割片の外周部に発進フードをスライド可能に被嵌したものを既設トンネル内にて搬送する様子を示す側断面図である。
【図2】上記発進フードの後面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図1の次の発進工程を示す側断面図である。
【図5】図4に続く発進工程を示す平断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 シールド掘進機の分割片
3 既設トンネル
4 発進フード
4x 発進フード本体
6 シール
8 隆起部
8a 隆起部としての下部隆起部(下部前側隆起部)
8b 隆起部としての下部隆起部(下部後側隆起部)
8c 先頭隆起部
8d 側部隆起部(側部前側隆起部)
8e 側部隆起部(側部後側隆起部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機の外周部にスライド可能に被嵌された状態で既設トンネル内を搬送される発進フード本体と、
該発進フード本体の内周面に設けられ、該内周面と上記外周部との間を止水すべく周方向に沿ってリング状に形成されたシールと、
該シールを挟むようにして上記内周面に設けられ、上記外周部を上記内周面から浮かせて支持するための隆起部と
を備えたことを特徴とするシールド掘進機の発進フード。
【請求項2】
上記隆起部は、少なくとも上記内周面の下部に配置された請求項1記載のシールド掘進機の発進フード。
【請求項3】
上記内周面の側部に、側部隆起部を設けた請求項2記載のシールド掘進機の発進フード。
【請求項4】
上記内周面の下部に、上記隆起部よりも前方に位置させて先頭隆起部を設けた請求項2又は3記載のシールド掘進機の発進フード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−97328(P2006−97328A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284757(P2004−284757)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【特許番号】特許第3651485号(P3651485)
【特許公報発行日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】