説明

シール挿入治具

【課題】リング状のシールの挿入を容易に行えるようにしたシール挿入治具を提供する。
【解決手段】弁軸8が通される貫通孔10aの一端からその内部のシール取付溝10eにキャップシール14を挿入するためのシール挿入治具20において、貫通孔10aに他端側から同軸的に挿入されるようにして蓋部材10に組み付け可能であり、シール14の内周に嵌め合わせ可能な外径を有するガイド軸21aが蓋部材10への組み付け状態で貫通孔10aの他端側からシール取付溝10eを越えて一端側に延びるように設けられたガイド部材21と、ガイド部材21のガイド軸21aの外周に嵌合可能なガイド孔22aを有し、貫通孔10aに一端側から挿入されてガイド軸21a上を移動することにより、シール14をシール取付溝10e内に押し込み可能なシール押え22とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サニタリ弁のキャップシールといったリング状のシールをシール取付溝に挿入するための治具に関する。
【背景技術】
【0002】
リング状のシールを、取付対象の内周面のシール溝等に挿入する作業は、軸の外周のシール溝にシールを嵌め込む作業と比較して作業に手間取ることが少なくない。このため、従来より、様々な構成のシール挿入治具が提案されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−187677号公報
【特許文献2】特開2000−128289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、飲料の充填ラインに使用されるサニタリ弁等の制御弁は、一般にバルボディ内の流路を開閉するための弁体とバルブボディ外のアクチュエータとを弁軸で連結して弁体を操作するように構成されている。弁軸がバルブボディを貫く部分には、バルブボディからの液漏れを防止するためにリング状のシールが設けられるが、そのシールの取付箇所がバルブボディに設けられた弁軸挿入用の貫通孔の奥深くに設定されていることがある。この場合、シールの挿入時に、シールの変形や破損が生じ易い。
【0005】
そこで、本発明は、リング状のシールの挿入を容易に行えるようにしたシール挿入治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸部材(8)を通すための貫通孔(10a)の内部に、前記貫通孔の一端側よりも内径が小さいシール取付溝(10e)が設けられた対象部品(10)と組み合わせて使用され、前記貫通孔の前記一端から前記シール取付溝に、前記軸部材の外周と接触すべきリング状のシール(14)を挿入するためのシール挿入治具(20)であって、前記貫通孔に他端側から同軸的に挿入されるようにして前記対象部品に組み付け可能であり、前記シールの内周に嵌め合わせ可能な外径を有するガイド軸(21a)が前記対象部品への組み付け状態で前記貫通孔の他端側から前記シール取付溝を越えて前記一端側に延びるように設けられたガイド部材(21)と、前記ガイド部材の前記ガイド軸の外周に嵌合可能なガイド孔(22a)を有し、前記貫通孔に前記一端側から挿入されて前記ガイド軸上を移動することにより、前記シールを前記シール取付溝内に押し込み可能なシール押え(22)と、を備えることにより、上述した課題を解決する。
【0007】
本発明のシール挿入治具においては、ガイド部材を対象部品の貫通孔にその他端側から挿入し、貫通孔の一端側からガイド軸にシール及びシール押えを順次嵌め合わせ、さらにシール押えをガイド軸に沿ってシール取付溝側に押し込むことにより、シールをシール取付溝内に挿入することができる。シールはガイド軸によって内周側から支持され、かつ、シール押えによって均等に押し込まれる。従って、シールの挿入過程におけるシールの変形、あるいは破損が防止され、貫通孔内のシール取付溝に対してシールを容易かつ確実に挿入することができる。
【0008】
本発明のシール挿入治具においては、前記シール押えを前記貫通孔の前記一端側から他端側に向かって押し込む押し込み手段(21c、23)をさらに備えてもよい。これによれば、シール押えをガイド軸に沿って円滑に押し込むことができ、シールの挿入作業がさらに容易に行える。
【0009】
前記押し込み手段は、前記ガイド部材の前記ガイド軸の先端側に同軸的に設けられたねじ軸(21c)と、前記ねじ軸にねじ込まれることにより前記シール押えを前記ガイド軸に沿って押し込み可能なキャップ(23)とを備えていてもよい。これによれば、キャップをねじ軸にねじ込むことにより、シール押えをガイド軸に沿って移動させてシールをシール取付溝内まで均等に押し込むことができる。
【0010】
前記ガイド部材には、前記貫通孔の前記他端側の周囲にて前記対象部品に突き当て可能なフランジ(21b)が設けられてもよい。これによれば、フランジを対象部品に突き当てることにより、ガイド部材を貫通孔の軸線方向に位置決めすることが可能となり、シールの挿入作業をさらに容易に行える。
【0011】
前記シール押えの前記シールと接する側の端部には、前記ガイド孔の周囲に沿って環状に突出して前記シール取付溝内に挿入可能なシール押え部(22b)が設けられてもよい。これによれば、シール取付溝がシールよりも軸線方向に深く形成されている場合でも、シール取付溝内の所定の位置までシール押えでシールを押し込むことができる。
【0012】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明のシール挿入治具においては、対象部品の貫通孔内に同軸に配置されたガイド部材のガイド軸にシールを嵌め合わせ、そのガイド軸に沿ってシール押えを押し込むことにより、シールをその内周側からガイド軸によって支持しつつシール取付溝まで均等に押し込むことができる。従って、シールの挿入過程におけるシールの変形、あるいは破損が防止され、貫通孔内のシール取付溝に対してシールを容易かつ確実に挿入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明の一形態に係るシール挿入治具が利用されるサニタリ弁の断面図である。サニタリ弁1は、ビール等の飲料の充填ラインに使用されるものであって、バルブボディ2内の第1流路3と第2流路4との間に配置された弁体5と、バルブボディ2外に設けられたアクチュエータ6の駆動軸7とを軸部材としての弁軸8にて連結した構成を有している。図1は、流路3、4を結ぶ接続路9を弁体5にて閉め切った状態を示している。図1の状態からアクチュエータ6にて弁体5を弁軸8の軸線方向上方に駆動することにより、接続路9が開いて第1流路3から第2流路4へと流体(飲料)が流入する。バルブボディ2とアクチュエータ6との間には、ボンネットと呼ばれる概略円盤状の蓋部材10が取り付けられており、弁軸8はその蓋部材10の貫通孔10aを貫いてアクチュエータ6の駆動軸7と連結されている。蓋部材10の外周はOリング11にてシールされている。
【0015】
蓋部材10の上面にはアクチュエータ6のケース12が突き合わされており、それらの蓋部材10とケース12との間には弁軸8を案内するための軸ガイド13が設けられている。その軸ガイド13の両端には、リング状のキャップシール14、15が取り付けられている。それらのキャップシール14、15により、バルブボディ2の内部とケース12との間がシールされている。
【0016】
図2は蓋部材10に本形態のシール挿入治具20を利用してキャップシール14を挿入した状態を示している。蓋部材10の貫通孔10aは、蓋部材10の上面10bに開口する一端側から下面10cに開口する他端側に向かって、軸ガイド13が嵌め合わされる大径部10dと、その大径部10dの内径が小さいシール取付溝10eと、そのシール取付溝10eよりもさらに内径が小さい小径部10fとが同軸的に形成された構成を有している。大径部10dには上述した軸ガイド13が嵌め合わされ、シール取付溝10eにはキャップシール14が装着され、小径部10fには弁軸8が挿通される。シール取付溝10eの軸線方向の深さはキャップシール14の直径よりも大きく、その上端部には軸ガイド13が挿入される。小径部10fの内径は弁軸8の外径よりも僅かに大きい程度であり、キャップシール14は大径部10dからシール取付溝10eへと挿入される。しかし、キャップシール14は直径が比較的小さく、かつ、シール取付溝10eは上面10bから深い位置にあるため、治具なしでキャップシール14をシール取付溝10eに正しく装着する作業がやりづらく、シール14が挿入途中で変形し、あるいは破損して取付不良となることが少なくない。本形態のシール挿入治具20は、このような不都合を解消するために、蓋部材10を対象部品として、これと組み合わせて使用される。
【0017】
シール挿入治具20は、貫通孔10aに挿入されるガイド部材21と、そのガイド部材21に嵌め合わされるシール押え22と、そのシール押え22を操作するためのキャップ23とを備えている。ガイド部材21は、蓋部材10の貫通孔10aに、小径部10f側(他端側)から挿入されるガイド軸21aと、ガイド軸21aの後端に設けられるフランジ21bと、ガイド軸21aの先端に同軸的に形成されるねじ軸21cとを有している。蓋部材10の貫通孔10aとガイド部材21とを同軸に保持することができるように、ガイド軸21aの外径は、蓋部材10の小径部10fに対してほぼ遊びなしで嵌合できる範囲に設定されている。ガイド軸21aは、フランジ21bを蓋部材10の下面10cに突き当ててガイド部材21と蓋部材10とを組み合わせたときに、蓋部材10のシール取付溝10eを越えて延び、その上端が上面10b付近に達する程度に設定されている。
【0018】
シール押え22は、ガイド部材21のガイド軸21aの外周に嵌合するガイド孔22aを備えた筒状部材として形成されている。シール押え22の軸線方向一端には、シール取付溝10eに挿入可能なシール押え部22bが、他端にはキャップ23と嵌合するキャップ嵌合部22cがそれぞれ形成されている。シール押え部22b、及びキャップ嵌合部22cはいずれもガイド孔22aの周囲に沿って環状に突出するように設けられている。シール押え22の外径は、貫通孔10aの大径部10dの内径よりも幾らか小さく設定されている。シール押え22は、キャップシール14を傷付けることがないように、樹脂素材にて形成されている。シール押え22の軸線方向の全長は、蓋部材10の貫通孔10aの大径部10dとシール取付溝10eとの間の段差面10gにシール押え22を突き当てたときに、その上端がガイド部材21のガイド軸21aの上端よりも幾らか上方に位置するように設定されている。
【0019】
キャップ23は、ガイド部材21のねじ軸21cにねじ込まれるねじ孔23aを有する円盤状部材として形成されている。キャップ23の下端の外周には、シール押え22のキャップ嵌合部22cの外周に同軸に嵌め合わされる環状突部23bが形成されている。本形態では、キャップ23とガイド部材21のねじ軸21cとがシール押え22に対する押し込み手段として機能する。
【0020】
次に、シール挿入治具20を利用したキャップシール14の挿入手順を説明する。まず、図3に示すように、蓋部材10の下面10c側から貫通孔10aにガイド部材21を挿入してフランジ21bを下面10cに突き当てることにより、ガイド部材21を蓋部材10に組み合わせる。続いて、貫通孔10aの一端側(上面10b側)からキャップシール14を挿入してこれをガイド軸21aに嵌め合わせ、さらに、ガイド軸21aに沿ってキャップシール14をシール取付溝10e側へ幾らか移動させる。この段階では、キャップシール14の上方にて、ガイド軸21aがシール押え22を嵌め合わせるに足りる範囲で突出するまでキャップシール14をシール取付溝10e側に移動させればよい。
【0021】
続いて、図4に示すように、シール押え22のガイド孔22aをガイド部材21のガイド軸21aに嵌め合わせる。この段階で、作業者自らがシール押え22をガイド軸21aに沿って移動させてキャップシール14をさらに下方に押し込んでもよい。この後、図5に示すように、ガイド部材21のねじ軸21cにキャップ23のねじ孔23aを嵌め合わせ、キャップ23の環状突部23bとシール押え22のキャップ嵌合部22cとを嵌め合わせる。そして、図2に示したように、シール押え22が蓋部材10の段差面10gに突き当たるまでキャップ23をねじ込む。以上により、シール押え22がガイド軸21aに沿って押し込まれて、キャップシール14がガイド軸21aに案内されつつシール押え22に押されてシール取付溝10eに挿入される。
【0022】
本形態のシール挿入治具20を用いた挿入手順によれば、キャップシール14がガイド部材21のガイド軸21aによって内周側から支持されつつ、シール押え22により均等に押し込まれるので、キャップシール14をその変形や破損を防止しつつシール取付溝10eに容易かつ確実に挿入することができる。しかも、キャップ23をねじ軸21cにねじ込んでシール押え22を押し込むようにしたので、キャップシール14をガイド軸21aに沿って円滑かつ均等に押し込むことができ、シールの挿入作業がさらに容易に行える。
【0023】
本発明は上述した形態に限ることなく、適宜の形態にて実施されてよい。例えば、シール押え22を作業者による手作業で押し込むことができる場合には、ねじ軸21c及びキャップ23は省略してもよい。ガイド部材21のガイド軸21aを貫通孔10aと同軸に保持できる限りにおいて、ガイド部材21の構成は適宜に変更可能である。例えば、フランジ21bについては、ガイド部材21と蓋部材10との間の軸線方向のずれがシールの挿入に際して支障にならない場合等には省略可能である。シール取付溝の軸線方向の深さがシールの直径と同程度であれば、シール押えのシール押え部は省略可能である。本発明のシール挿入治具は、上述した蓋部材10へのキャップシール14の取り付けに限らず、各種の対象部品の貫通孔内に形成されたシール取付溝へのシールの挿入に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一形態に係るシール挿入治具が利用されるサニタリ弁の断面図。
【図2】図1のサニタリ弁の蓋部材に本発明の一形態に係るシール挿入治具を利用してキャップシールを挿入した状態を示す図。
【図3】挿入治具を利用してキャップシールを挿入した状態を示す図。
【図4】挿入手順の一部を示す図。
【図5】図4に続く手順を示す図。
【符号の説明】
【0025】
1 サニタリ弁
8 弁軸(軸部材)
10 蓋部材(対象部品)
10a 貫通孔
10d 大径部
10e シール取付溝
10f 小径部
10g 段差面
14 キャップシール
20 シール挿入治具
21 ガイド部材
21a ガイド軸
21b フランジ
21c ねじ軸(押し込み手段)
22 シール押え
22a ガイド孔
22b シール押え部
23 キャップ(押し込み手段)
23a ねじ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材を通すための貫通孔の内部に、前記貫通孔の一端側よりも内径が小さいシール取付溝が設けられた対象部品と組み合わせて使用され、前記貫通孔の前記一端から前記シール取付溝に、前記軸部材の外周と接触すべきリング状のシールを挿入するためのシール挿入治具であって、
前記貫通孔に他端側から同軸的に挿入されるようにして前記対象部品に組み付け可能であり、前記シールの内周に嵌め合わせ可能な外径を有するガイド軸が前記対象部品への組み付け状態で前記貫通孔の他端側から前記シール取付溝を越えて前記一端側に延びるように設けられたガイド部材と、
前記ガイド部材の前記ガイド軸の外周に嵌合可能なガイド孔を有し、前記貫通孔に前記一端側から挿入されて前記ガイド軸上を移動することにより、前記シールを前記シール取付溝内に押し込み可能なシール押えと、
を備えていることを特徴とするシール挿入治具。
【請求項2】
前記シール押えを前記貫通孔の前記一端側から他端側に向かって押し込む押し込み手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載のシール挿入治具。
【請求項3】
前記押し込み手段は、前記ガイド部材の前記ガイド軸の先端側に同軸的に設けられたねじ軸と、前記ねじ軸にねじ込まれることにより前記シール押えを前記ガイド軸に沿って押し込み可能なキャップとを備えていることを特徴とする請求項2に記載のシール挿入治具。
【請求項4】
前記ガイド部材には、前記貫通孔の前記他端側の周囲にて前記対象部品に突き当て可能なフランジが設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシール挿入治具。
【請求項5】
前記シール押えの前記シールと接する側の端部には、前記ガイド孔の周囲に沿って環状に突出して前記シール取付溝内に挿入可能なシール押え部が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシール挿入治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−162259(P2009−162259A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339822(P2007−339822)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【出願人】(392032100)キリンエンジニアリング株式会社 (54)