説明

シール挿入治具

【課題】シールハウジングのシール溝にシールを適切に装着することが可能なシール挿入治具を提供する。
【解決手段】ハウジング保持部材10とシール押え部材20とを備えたシール挿入治具1において、ハウジング保持部材10には、シールハウジング3の貫通孔小径部7aに嵌合する嵌合軸部14と、嵌合軸部14と同軸でかつ嵌合軸部14よりも小径の芯出し穴15とを設ける。シール押え部材20には、シール溝7bに挿入可能な外径のシール押え部21を設け、シール押え部21にはシール2の外周と接触可能なシール押え面23を設け、シール押え面23の中心には、シール押え面23と直交する方向に突出する芯出し軸22を設ける。シール押え部材20を軸線に沿って貫くボルト30をハウジング保持部材10のねじ孔16にねじ込んでシール2をシール溝7b内に押し込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルシール等のリング状シールをシールハウジングに挿入するための治具に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料を缶容器に充填して密封する缶充填機には、缶蓋を缶本体に巻き締めて缶容器を密封する巻締装置が設けられている。その巻締装置には、缶容器を回転させるスピンドル装置が組み付けられており、そのスピンドル装置内には軸受に供給される潤滑油の漏れを防止するためのオイルシールが設けられている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−172457号公報
【特許文献2】特開平7−39972号公報
【特許文献3】特開2005−21922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オイルシールは定期的に交換が必要な消耗部品である。シールハウジングのシール溝はスピンドルを通すための貫通孔の内部に存在しており、そのシール溝にオイルシールを装着するには適切な挿入治具の使用が必要不可欠である。しかしながら、従来の挿入治具は、オイルシールの金属環の内側に曲げられたフランジ部を押し込む構造であり、過剰な押し込み力が作用すると金属環が変形し、あるいはシールリップの先端が歪むといった不都合が生じることがある。
【0005】
そこで、本発明はシールハウジングのシール溝にシールを適切に装着することが可能なシール挿入治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシール挿入治具は、軸部材を通すための貫通孔(7)を有し、前記貫通孔の内部には、該貫通孔の軸線方向一端側に向かって開口するシール溝(7b)が形成されたシールハウジング(3)と組み合わせて使用され、前記シール溝の内周にリング状のシール(2)を前記軸線方向一端側から挿入するためのシール挿入治具(1)であって、前記シールハウジングを前記貫通孔の軸線方向他端側から支持する支持面(13)と、該支持面と直交する方向に延ばされて前記貫通孔と同軸に嵌め合わされる嵌合軸部(14)と、前記嵌合軸部と同軸でかつ前記嵌合軸部よりも小径の第1芯出し部とを有するハウジング保持部材(15)と、前記シール溝に挿入可能な外径のシール押え部(21)を有し、該シール押え部の前記シール溝に対向する側には前記シールの外周と接触可能なシール押え面(23)が設けられ、前記シール押え面の中心には、該シール押え面と直交する方向に延ばされて前記ハウジング保持部材の前記第1芯出し部と同軸的に嵌め合わされる第2芯出し部(22)が設けられたシール押え部材(20)と、前記シール押え部材を前記シール溝内に押し込む方向の推力(T)を当該シール押え部材に付与する推力付与手段(30、16)とを備えたものである。
【0007】
本発明のシール挿入治具においては、シールハウジングの他端側からハウジング保持部材の嵌合軸部を貫通孔に嵌め合わせつつ、シールハウジングをハウジング保持部材の支持面に重ね合わせることにより、シールハウジングのシール溝を嵌合軸部と同軸に保持することができる。さらに、貫通孔の一端側からシール溝の入口にシールを配置し、第1芯出し部及び第2芯出し部を相互に嵌め合わせつつシール押え部材をシールハウジングに被せてシール押え部のシール押え面をシールの外周と接触させ、その後に、推力付与手段にてシール押え部材に推力を付与してシール押え部をシール溝に向かって押し込むことにより、シールをシール溝内に装着することができる。シール溝に対して嵌合軸部が同軸であり、その嵌合軸部に対して第1芯出し部及び第2芯出し部が同軸であり、かつ第2芯出し部に対してシール押え面が直交しているので、そのシール押え面がシール溝の軸線方向に対して直交した状態を維持しつつシール押え部がシール溝内に押し込まれる。そのため、シール押え面がシール溝の軸線方向と直交する方向から傾くことがなく、シール押え部の押し込み力を、シールの外周に対して、その周方向に均等に作用させながらシールを押し込むことができる。そのため、シールをシール溝内に円滑に装着することができる。シール押え面にてシールの外周を押しているので、シールの変形や歪みといった不都合が発生するおそれを低減することができる。
【0008】
本発明の一形態においては、前記第1芯出し部のいずれか一方が芯出し穴(15)、いずれか他方が前記芯出し穴に嵌め合わされる芯出し軸(22)とされてもよい。これによれば、芯出し穴と芯出し軸との嵌め合いにより、シール押え面の傾きを抑えてシールを軸線方向に沿って真っ直ぐにシール溝内へ押し込むことができる。
【0009】
本発明の一形態においては、前記推力付与手段として、前記シール押え部材又は前記ハウジング保持部材のいずれか一方の部材を前記嵌合軸部の軸線に沿って貫くように配置されたボルト(30)を利用して前記シール押え部材及び前記ハウジング保持部材を前記軸線方向に相互に結合するボルト締結機構(30、16)が設けられてもよい。これによれば、ボルトを手作業で締め付けることによりシールを押し込むことができるので、シールがシール溝の底まで装着されたか否かを、ボルトの回転操作に対する抵抗によって確実に把握することができる。挿入途中でシールに異常が生じた場合、ボルトの操作に対する抵抗の変化でこれを確実に把握することもできる。油圧力等を利用してシールを挿入する場合と比較して、過剰な押し込み力がシールに作用するおそれも低減することができる。さらに、ボルトの頭部をスラストベアリング(26)を介して前記一方の部材に接するようにした場合には、ボルトの回転操作を円滑に行うことが可能であり、ボルトの噛み込みも防止できる。
【0010】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明したように、本発明によれば、ハウジング保持部材に嵌合軸部を設けてこれをシールハウジングの貫通孔に嵌め合わせることによってシール溝を嵌合軸部と同軸に保持し、かつ嵌合軸部と同軸の第1芯出し部をシール押え部の第2芯出し部と嵌め合わせることによってシール押え面をシール溝の軸線方向に対して直交する方向に保持しつつシール押え部をシール溝内に押し込むようにしたので、シールの装着過程でシール押え面がシール溝の軸線方向と直交する方向から傾くことがなく、シール押え部の押し込み力を、シールの外周に対して、その周方向に均等に作用させながらシールを押し込むことができる。そのため、シールをシール溝内に円滑に装着することができる。シール押え面にてシールの外周を押しているので、シールの変形や歪みといった不都合が発生するおそれを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の一形態に係るシール挿入治具のシール装着前の状態を示す軸線方向断面図、図2はシールをシール溝内に装着した状態を示す軸線方向断面図である。シール挿入治具1は、オイルシール2をシールハウジング3のシール溝7bに挿入するためのものである。オイルシール2及びシールハウジング3は、一例として、缶巻締装置のシーマスピンドルに組み込まれる。オイルシール2は、形状保持用の芯材としての金属環5と、その金属環5のフランジ5aの内周に結合された弾性材料製のシールリップ6とを有する公知のものである。シールハウジング3は金属製の円盤状であり、その中心部にはシーマスピンドルを通すための貫通孔7がその軸線を下面3a及び上面3bに対して直交させて設けられている。貫通孔7の内径は、下面3a側から上面3b側に向かって段階的に増加しており、それにより貫通孔7の内部には小径部7a、中間部7b及び大径部7cが順次形成されている。中間部7bがシール溝として機能する。そのシール溝7bは貫通孔7の軸線方向一端側(上面3b側)に向かって開口する。オイルシール2は、その金属環5がシール溝7bの内周面に嵌るようにしてシール溝7b内に装着される(図2参照)。
【0013】
シール挿入治具1は、ハウジング保持部材10とシール押え部材20とを備えている。ハウジング保持部材10は、円柱状のベース11と、そのベース11の上端部に同軸に設けられたフランジ12とを有している。フランジ12の上面にはシールハウジング3を下面3a側から支持するための支持面13が形成されている。その支持面13の中心部には、支持面13と直交する方向に突出する嵌合軸部14が形成されている。嵌合軸部14の直径は、シールハウジング3の貫通孔7の小径部7aに嵌め合わせることができるように小径部7aの内径と略等しく設定されている。嵌合軸部14の中心には、第1芯出し部としての芯出し穴15が嵌合軸部14と同軸に形成されている。芯出し穴15は嵌合軸部14の上端面に開口している。ベース11には、嵌合軸部14と同軸のねじ孔16が形成され、そのねじ孔16の上端は芯出し穴15内に開口している。
【0014】
シール押え部材20は、円盤状のシール押え部21と、そのシール押え部21の下面中央から突出する第2芯出し部としての芯出し軸22とを有している。シール押え部21の外径は、ハウジング保持部材10のシール溝7bの内周に嵌め合わせることができるように、シール溝7bの内径と略等しく設定されている。シール押え部21の下面は平面状であり、その下面がシール押え面23として機能する。シール押え面23はオイルシール2の金属環5と全周に亘って接触可能である。芯出し軸22はシール押え部21と同軸であり、その軸線方向はシール押え面23と直交する。芯出し軸22の直径は、ハウジング保持部材10の芯出し穴15に嵌め合わせることができるように芯出し穴15と略等しく設定されている。従って、芯出し軸22の直径はオイルシール2の内径よりも小さく、シールリップ6は芯出し軸22に接しない。シール押え部材20の中心には、シール押え部21及び芯出し軸22を貫通するようにしてねじ通し孔24が形成されている。ねじ通し孔24の上端部には凹部25が設けられ、その凹部25にはスラストベアリング26が装着されている。
【0015】
スラストベアリング26の中心にはボルト30が挿入されている。そのボルト30の頭部30aは、スラストベアリング26の上面に接している。ボルト30のねじ軸部30bは、スラストベアリング26からねじ通し孔24に通され、さらにはハウジング保持部材10のねじ孔16にねじ込まれている。
【0016】
以上のシール挿入治具1を利用したオイルシール2の装着手順は次の通りである。まず、ボルト30を抜き取ってシール押え部材20をハウジング保持部材10から取り外し、ハウジング保持部材10の支持面13上にシールハウジング3を載せて貫通孔7の小径部7aに嵌合軸部14を嵌め合わせる。シール溝7bの入口(上端の開口部)にはオイルシール2を同軸的に配置する。次に、シール押え部材20の芯出し軸22をハウジング保持部材10の芯出し穴15に嵌め合わせつつ、オイルシール2の上方にシール押え部材20のシール押え部21を被せてシール押え面23をオイルシール2の外周の金属環5の端面と接触させる。さらに、ボルト30をスラストベアリング26側から通してねじ軸30bをねじ孔16にねじ込む。
【0017】
これにより、図2に矢印Tで示したように、シール押え部材20に下向きの推力Tが付与され、オイルシール2がシール押え部材20のシール押え部21によってシール溝7b内に徐々に押し込まれる。オイルシール2がシール溝7bの底に当たるまでボルト30をねじ込んだ後、ボルト30を外してハウジング保持部材10からシール押え部材20を取り外し、さらに、シールハウジング3をハウジング保持部材10から取り外すことによりシールの装着が完了する。
【0018】
本形態のシール挿入治具1によれば、シール溝7bを嵌合軸部14と同軸に保持する一方で、芯出し穴15と芯出し軸22とを嵌め合わせてシール押え部21と嵌合軸部14とを同軸上に保持しつつシール押え部21をシール溝7b内に押し込んでいるので、シール押え面23がシール溝7bの軸線方向と直交する方向から傾くことがなく、シール押え部21の押し込み力を、オイルシール2の金属環5の外周に対して、その周方向に均等に作用させながらオイルシール2を押し込むことができる。そのため、オイルシール2をシール溝7b内に円滑に装着することができる。シール押え部21にて金属環5の外周を押しているので、フランジ5aを押し込んだ場合と比較して、金属環5が変形し、あるいはシールリップ6が歪むといった不都合が発生するおそれを低減することができる。
【0019】
シール押え部材20をボルト30の回転操作という手作業によって押し込むので、オイルシール2がシール溝7bの底まで装着されたか否かを、ボルト30の回転操作に対する抵抗によって確実に把握することができる。挿入途中でオイルシール2に異常が生じた場合、ボルト30の操作に対する抵抗の変化でこれを確実に把握することもできる。油圧力等を利用してオイルシール2を挿入する場合と比較して、過剰な押し込み力がオイルシール2に作用するおそれも低減することができる。さらに、ボルト30の頭部30aとシール押え部材20との間にスラストベアリング26を配置しているので、ボルト30の回転操作も円滑に行うことができ、ボルト30の噛み込みも防止できる。
【0020】
本発明は、上述した形態に限らず、適宜の形態にて実施することができる。例えば、第1芯出し部を嵌合軸部から突出する位置決め軸とし、第2芯出し部をその位置決め軸が嵌合する位置決め穴としてもよい。スラストベアリング26は、ボルト30の回転操作に支障がなければ省略してもよい。上記の形態では、ボルト30をねじ孔16にねじ込んでハウジング部材10とシール押え部材20とを軸線方向に結合するボルト締結機構を推力付与手段として設けているが、ボルト30をハウジング保持部材10に装着し、これをシール押え部材20のねじ孔にねじ込むようにボルト締結機構を変形してもよい。この場合、ねじ孔をシール押え部材20に形成することなく、ナットをシール押え部材に重ね合わせてボルト締結機構を構成してもよい。さらに、推力付与手段は、シール押え部材20をシール溝7b内に押し込む方向の推力をシール押え部材20に付与できる限りにおいて、適宜に変更可能である。例えば、ハウジング保持部材10のフランジ12の下面側とシール押え部材20の上面側との間に万力を装着してシール押え部材20をシール溝7b内に押し込むといった変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一形態に係るシール挿入治具のシール装着前の状態を示す軸線方向断面図。
【図2】シールをシール溝内に装着した状態を示す軸線方向断面図。
【符号の説明】
【0022】
1 シール挿入治具
2 オイルシール
3 シールハウジング
5 金属環
6 シールリップ
7 貫通孔
7a 小径部
7b シール溝
10 ハウジング保持部材
13 支持面
14 嵌合軸部
15 芯出し穴(第1芯出し部)
16 ねじ孔(ボルト締結機構、推力付与手段)
20 シール押え部材
21 シール押え部
22 芯出し軸(第2芯出し部)
23 シール押え面
26 スラストベアリング
30 ボルト(ボルト締結機構、推力付与手段)
30a ボルトの頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材を通すための貫通孔を有し、前記貫通孔の内部には、該貫通孔の軸線方向一端側に向かって開口するシール溝が形成されたシールハウジングと組み合わせて使用され、前記シール溝の内周にリング状のシールを前記軸線方向一端側から挿入するためのシール挿入治具であって、
前記シールハウジングを前記貫通孔の軸線方向他端側から支持する支持面と、該支持面と直交する方向に延ばされて前記貫通孔と同軸に嵌め合わされる嵌合軸部と、前記嵌合軸部と同軸でかつ前記嵌合軸部よりも小径の第1芯出し部とを有するハウジング保持部材と、
前記シール溝に挿入可能な外径のシール押え部を有し、該シール押え部の前記シール溝に対向する側には前記シールの外周と接触可能なシール押え面が設けられ、前記シール押え面の中心には、該シール押え面と直交する方向に延ばされて前記ハウジング保持部材の前記第1芯出し部と同軸的に嵌め合わされる第2芯出し部が設けられたシール押え部材と、
前記シール押え部材を前記シール溝内に押し込む方向の推力を当該シール押え部材に付与する推力付与手段と、
を備えたシール挿入治具。
【請求項2】
前記第1芯出し部のいずれか一方が芯出し穴、いずれか他方が前記芯出し穴に嵌め合わされる芯出し軸である請求項1に記載のシール挿入治具。
【請求項3】
前記推力付与手段として、前記シール押え部材又は前記ハウジング保持部材のいずれか一方の部材を前記嵌合軸部の軸線に沿って貫くように配置されたボルトを利用して前記シール押え部材及び前記ハウジング保持部材を前記軸線方向に相互に結合するボルト締結機構が設けられている請求項1又は2に記載のシール挿入治具。
【請求項4】
前記ボルトの頭部がスラストベアリングを介して前記一方の部材に接している請求項3に記載のシール挿入治具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−156368(P2010−156368A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333710(P2008−333710)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【出願人】(392032100)キリンエンジニアリング株式会社 (54)