説明

ジアゾニウム塩を含んだマイクロカプセル及びその製造方法

【発明の詳細な説明】
<産業上の利用分野>新規な熱現像型複写材料に用いられるジアゾニウム塩を含有するマイクロカプセルの製造方法に関する。更に詳細には高分子物質の壁膜を有し、かつそのカプセル中には実質的に溶媒を含まない0.3μから12μのマイクロカプセルの製造方法に関する。
<従来の技術>疎水性液体を含有するマイクロカプセルの製造方法に関しては、数多くの方法が知られている。列挙すると下記のようになる。
■水溶液からの相分離法(米国特許第2900457号、同第2800458号)で、最も一般的かつ実用化されているもので親水性コロイドゾルのコアセルベーションを利用する。
■界面重合法(特公昭38−19574号、特公昭42−446号、特公昭42−771号、英国特許第989264号、同第950443号、同第867797号、同第1069140号、同第1046409号)で、マイクロカプセルの壁膜物質として最初から完成したポリマーを用いずに第1の壁膜形成物質であるモノマーまたは初期縮合物を内蔵すべき油性液中に存在させておき、第1の壁膜形成物質と反応しうる基を有する第2の壁膜形成物質を前記油性液と混和しない極性溶媒に溶解し、前記油性液の油滴と極性溶媒との界面で第1の壁膜形成物質と第2の壁膜形成物質とを重合させ壁膜を形成させる。
■油滴中でのモノマーの重合による方法(特公昭36−9168号)で、油滴中でアクリル系化合物、スチレン、酢酸ビニル等の二重結合を有する化合物を溶解しておき、触媒として過酸化合物を用いてラジカル重合を進行させ油不溶の重合体を生成させる。
■融解分散冷却法(英国特許第952807号同第965074号)で、常温で固体、加熱により液状となる安定物質をマイクロカプセル壁膜として利用する。ワックスまたは、熱可塑性樹脂を用いる。
■スプレードライング法(米国特許第3111407号、英国特許第930422号)で、スプレードライの原理を応用したもので、ポリマー溶液中に固体粒子または液体を乳化分散したものをスプレードライヤーにかけ、アトマイザーから分散液は微粒子の形ではじき飛ばされ、その瞬間に内蔵物質をポリマーが包囲する、などである。
これらの方法は、製法的に複雑であったり、カプセルサイズの制御が難しかったりというような製造上の問題点の他に、芯物質として存在する溶剤によってカプセルの性能が大きく支配されるという問題も有している。特に、本発明のようにジアゾニウム塩を内包するカプセルでは、ジアゾニウム塩の特質を引きだそうとしても共存する溶媒によってその性質が隠されてしまう場合が生じることがある。
従って、本発明の第1の目的は、実質的に溶媒を含まないジアゾニウム塩内包マイクロカプセルを提供することにある。
本発明の第2の目的は、実質的に溶媒を含まないジアゾニウム塩内包マイクロカプセルを安定に製造する方法を提供することにある。
<問題点を解決するための手段>本発明の上記目的は、常圧で40℃以上95℃以下の沸点をもつ非水溶媒にジアゾニウム塩及び互いに反応して高分子物質を生成する同種または異種の化合物を溶解した溶液を、親水性保護コロイド溶液中に分散乳化後、系を昇温して油滴表面に壁形成物質を移動させ、かつ油滴表面で高分子生成反応を進行させて壁膜を形成させることを特徴とするマイクロカプセル内にジアゾニウム塩を含有しかつ実質的に溶媒を含まないマイクロカプセルの製造方法によって達成された。このとき、壁膜形成反応中に反応容器を減圧にしながら該非水溶媒を留去させることが好ましい。
また上記製造方法において該非水溶媒としてはハロゲン化炭化水素もしくは脂肪酸エステル、ケトン類、エーテル類より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましく、マイクロカプセルの壁を形成する高分子物質は、ポリウレタン、ポリウレアより選ばれる少なくとも1種により形成されるものであることが好ましい。
本発明に用いられる常圧で40℃以上95℃以下の沸点をもつ非水溶媒は、溶質であるジアゾニウム塩10重量部に対して5〜100重量部の割合で使用することが好ましい。
本発明に用いられる非水溶媒の具体例を下記に列挙するが、本発明はこれによって限定されるものではない。( )内は、常圧における沸点を示す。
アセトン(56),イソアミルメチルエーテル(91),イソプロピルメチルケトン(94)イソ酪酸メチル(92),エチルイソブチルエーテル(79),エチルイソプロピルエーテル(54),エチルプロピルエーテル(64),塩化t−アミル(86),塩化エチレン(84)塩化イソブチル(69),塩化ブチル(78),塩化エチリデン(57),塩化プロピル(46)塩化メチレン(42),ギ酸エチル(54),ギ酸プロピル(81),クロルメチルメチルエーテル(59),クロルギ酸メチル(71),酢酸エチル(77),酢酸メチル(57),四塩化炭素(77),1,1−ジクロルプロパン(86),トリクロルエチレン(87),プロピオン酸メチル(80),プロピルエーテル(91),メチルクロロホルム(74),クロロホルム(61)
本発明に用いられるマイクロカプセルの壁を形成する互いに反応して高分子物質を生成する同種または異種の化合物は、好ましい高分子物質がポリウレア、ポリウレタンの場合は、相当するモノマーとして下記に示すイソシアネート化合物から選択される。なお、モノマーの使用量はマイクロカプセルの平均粒径が0.3μ〜12μ、壁厚が0.01μ〜0.3μになるように決定される。
本発明に用いられるモノマーの具体例を下記に列挙するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
一般式〔1〕


(nは0〜10の整数)
本発明において使用される芳香族イソシアネートは、一般式〔1〕で示されるn=0,1,2,3,・・・10の単品でもよいし、これらの混合物であってもよい。
本発明において使用される脂肪族多価イソシアネートの具体例をあげると、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、エチリジンジイソシアネート、シクロヘキシレン1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体などがある。
マイクロカプセルの壁の物性を変化させる目的で上記イソシアネートとともにジアミン類およびジオール類を共存させて重合反応させることもできる。
本発明に用いられるジアゾニウム塩は主に芳香族ジアゾニウム塩を指す。
ジアゾニウム塩は一般式ArN2Xで示される化合物である。(式中、Arは置換又は非置換の芳香環を表し、N2はジアゾニウム基を表し、Xは酸アニオンを表す。)
本発明で使用されるジアゾ化合物の具体例としては、例えば、下記の例が挙げられる。
4−ジアゾ−1−ジメチルアミノベンゼン4−ジアゾ−2−ブトキシ−5−クロル−1−ジメチルアミノベンゼン4−ジアゾ−1−メチルベンジルアミノベンゼン4−ジアゾ−1−エチルヒドロキシエチルアミノベンゼン4−ジアゾ−1−ジエチルアミノ−3−メトキシベンゼン4−ジアゾ−1−モルホリノベンゼン4−ジアゾ−1−モルホリノ−2,5−ジブトキシベンゼン4−ジアゾ−1−トルイルメルカプト−2,5−ジエトキシベンゼン4−ジアゾ−1−ピペラジノ−2−メトキシ−5−クロルベンゼン4−ジアゾ−1−(N,N−ジオクチルアミノカルボニル)ベンゼン4−ジアゾ−1−(4−tert−オクチルフェノキシ)ベンゼン4−ジアゾ−1−(2−エチルヘキサノイルピペリジノ)−2,5−ジブトキシベンゼン4−ジアゾ−1−(2,5−ジ−tert−アミルフェノキシ−α−ブタノイルピペリジノ)ベンゼン4−ジアゾ−1−(4−メトキシ)フェニルチオ−2,5−ジエトキシベンゼン4−ジアゾ−1−(4−メトキシ)ベンズアミド−2,5−ジエトキシベンゼン4−ジアゾ−1−ピロリジノ−2−メトキシベンゼン上記ジアゾ化合物とジアゾニウム塩を形成する酸の具体例としては、例えば、下記の例が挙げられる。
Cn F2n+1COOH(nは1〜9の整数)
Cm F2m+1SO3H(mは1〜9の整数)
四フッ化ホウ素,テトラフェニルホウ素ヘキサフルオロリン酸,芳香族カルボン酸芳香族スルホン酸,金属ハライド(塩化亜鉛,塩化カドミウム,塩化スズ など)
本発明のマイクロカプセルを複写材料に使用する場合は、ジアゾニウム塩とともに必要に応じて遊離基発生剤やビニルモノマーをマイクロカプセル中に含有させることが好ましい。
本発明の親水性保護コロイドとしては、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ポリビニルアルコールなど天然または合成の親水性高分子物質があげられる。また、乳化分散させるために界面活性剤を用いてもよく、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、ロート油のような陰イオン性のもの、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸のような非イオン性のものがある。
本発明のマイクロカプセルは、実質的に非水溶媒を含まないという特徴を有しているものであるが、本発明者らはこのマイクロカプセルの中に含まれる非水溶媒を以下の方法にて定量することを開発し、本発明の「実質的に含まない」について規定した。
本発明のマイクロカプセルはカプセル液単独で使用されることはほとんど無く、カプラーや塩基とともに塗液をつくり、塗布、乾燥を経て複写材料の膜中に存在させるという使用形態が一般的である。従って、カプセル液の段階では数%含まれていた非水溶媒も塗膜中では検出限界以下になってしまった。
本発明の製造方法にて製造したマイクロカプセル液0.1gを20ccのメスフラスコにはかりとり、メタノールを加えて正確に20ccとした後、30分放置した。マイクロシリンジにて上記メタノール溶液2ccをはかりとり、ガスクロマトグラフ質量分析装置(日立製作所M−80B)に注入した。カラムはTENAX3mmφ×1mを用いた。測定すべき溶媒に応じたm/zピークを使って定量した。(例えば、酢酸エチルの場合はm/z=43,塩化メチレンの場合は84のピークを使った。)
この測定方法によると本発明のマイクロカプセル液には0.01〜3.00%の非水溶媒が含まれていた。
以下、本発明を実施例によって更に詳述するが本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
<実施例1>1−モルホリノ−2,5−ジブトキシベンゼン−4−ジアゾニウムヘキサフルオロリン酸基3。45部及びキシリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパン(3:1)付加物18部を酢酸エチル10部に添加し、加熱溶解した。このジアゾニウム塩の溶液を、ポリビニルアルコール5.2部が水58部に溶解されている水溶液に混合し、20℃で乳化分散し、平均粒径2.5μの乳化液を得た。得られた乳化液に水100部を加え、攪拌しながら60℃に加温し、2時間後にジアゾニウム塩を芯物質に含有したカプセル液を得た。この反応中容器は水流ポンプにて100mmHg〜130mmHgの減圧下に保った。
前述の測定方法によりカプセル液中の酢酸エチルを定量し0.87%の値を得た。
<実施例2>次に2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸アニリド10部とトリフェニルグアニジン10部を5%ポリビニルアルコール水溶液200部に加えてサンドミルで約24時間分散し、平均粒径3μの分散物を得た。
実施例1で得られたジアゾニウム塩のカプセル溶液50部に、カップリング成分とトリフェニルグアニジンの分散物50部及び40%炭酸カルシウム分散液10部を加えて塗布液とした。この塗布液を平滑な上質紙(75g/m2)にコーティングバーを用いて乾燥重量10g/m2になるように塗布し、50℃で1分間乾燥し複写材料を作成した。
この複写材料0.05m2を20ccのメタノールに1時間浸責し、その抽出液を前述した方法によって測定した結果は、酢酸エチルの含有量は検出限界以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】常圧で40℃以上95℃以下の沸点をもつ非水溶媒にジアゾニウム塩及び互いに反応して高分子物質を生成する同種または異種の化合物を溶解した溶液を、親水性保護コロイド溶液中に分散乳化後、系を昇温して油滴表面に壁形成物質を移動させ、かつ油滴表面で高分子生成反応を進行させて壁膜を形成させることを特徴とするマイクロカプセル内にジアゾニウム塩を含有しかつ実質的に溶媒を含まないマイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】特許請求の範囲第1項に記載のマイクロカプセルの製造方法において、壁膜形成反応中に反応容器を減圧にしながら該非水溶媒を留去させることによって実質的に溶媒を含まないマイクロカプセルを得るマイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】ジアゾニウム塩を溶解させる非水溶液が、ハロゲン化炭化水素、脂肪酸エステル、ケトン類、エーテル類より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】高分子物質が、ポリウレタン、ポリウレアより選ばれる少なくとも1種により形成されるものであることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載のマイクロカプセルの製造方法によって得られるマイクロカプセル。

【公告番号】特公平7−73669
【公告日】平成7年(1995)8月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−89878
【出願日】昭和63年(1988)4月12日
【公開番号】特開平1−262943
【公開日】平成1年(1989)10月19日
【出願人】(999999999)富士写真フイルム株式会社
【参考文献】
【文献】特開昭59−190886(JP,A)