説明

ジアミノジフェニルエーテルの製造方法

【課題】本発明の課題は、ジアミノジフェニルエーテルを高い収率で製造し、かつ縮合反応生成物の固液分離で生じる、有効成分を含んだ無機塩を乾燥機にて乾燥させ、高純度の無機塩を回収すると同時に、留出した上記有効成分を含む非プロトン性極性溶媒も工程内へ回収する方法を提供することにある。
【解決手段】上記課題は、アミノフェノールとp−クロロニトロベンゼンとを非プロトン性極性溶媒中にて塩基性化合物の存在下で縮合反応させ、縮合反応により生成する無機塩を固液分離後、液体成分は更にニトロ基を還元する反応を行い、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを製造し、固液分離した固体成分である無機塩を非プロトン性極性溶媒で洗浄後さらに固液分離にて有効成分を含む液と無機塩に分離し、分離された無機塩を乾燥機にて残存有機物を除去し、無機塩を回収、分離した有効成分を含む非プロトン性極性溶媒を工程内へ回収する、ジアミノジフェニルエーテルおよび無機塩の製造方法によって解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高機能ポリアミド、またはポリイミドの重合用モノマー原料、または重合改質添加剤に用いられるジアミノジフェニルエーテルの製造に関し、縮合反応で副生する無機塩と無機塩に含有する有効成分の回収方法に関するものである。本発明に記載される有効成分とは、縮合反応物と未反応の原料を示す。ジアミノジフェニルエーテルの製造では、原料としてp−クロロニトロベンゼンとアミノフェノールがあり、反応中間体である縮合反応物としてアミノニトロジフェニルエーテルがあり、これらを有効成分とすることが出来る。
【背景技術】
【0002】
ジアミノジフェニルエーテルは、高性能なポリアミド、或いはポリイミドの製造原料及び改質添加剤として知られている。ジアミノジフェニルエーテルを製造する代表的な方法として、以下の方法が挙げられる。
(1)p−クロロニトロベンゼンとアミノフェノールとを塩基性化合物の存在下、非プロトン性溶媒を用いて縮合反応させ、中間生成物であるアミノニトロジフェニルエーテルを得る。
(2)次いで得られたアミノニトロジフェニルエーテルを触媒の存在下、水素添加反応を行い、遠心分離で触媒回収、蒸留等精製工程を経てジアミノジフェニルエーテルを得る。
【0003】
例えば非プロトン性極性溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを含む溶媒中で、アルカリ金属触媒下、アミノニトロジフェニルエーテルを生成させ、その後、反応媒質中で貴金属触媒存在下、水素添加反応を行い、ジアミノジフェニルエーテルを形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。当該縮合反応においては塩基性化合物とp−クロロニトロベンゼンから無機塩が形成され、またハロゲン化合物は一般的に使用される水素添加反応の触媒に対し被毒作用がある上、水素添加反応時にハロゲン化水素を発生させ、装置腐食、製品へのハロゲン成分の混入の可能性があり、水素添加反応前に分離する必要があった。また反応により形成される無機塩の粒子は数十ミクロン程度であり、固液分離された無機塩の含液率は高く、そのまま廃棄した場合含液中に同伴している有効成分、具体的には未反応の原料、及び目的とする縮合反応物は少なくない。縮合反応後のスラリー状の生成物を固液分離した後、トルエン等の非水溶性極性溶媒を用いて、抽出操作により上記有効成分を回収する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
しかしながら、上記方法において有効成分回収に非水溶性極性溶媒を使用し、また回収無機塩水溶液は微量ではあるが有機物が含まれており、その後排水処理施設等にて廃棄されている。産業廃棄物として廃棄するためにコストがかかり、また環境負荷を考慮すると上記方法は好ましくなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−206504号公報
【特許文献2】特開2009−007297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ジアミノジフェニルエーテルを高い収率で製造し、かつ縮合反応生成物の固液分離で生じる、有効成分を含んだ無機塩を乾燥機にて乾燥させ、高純度の無機塩を回収することができる。同時に、留出した上記有効成分を含む非プロトン性極性溶媒も工程内へ回収することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、エーテル化反応後の反応液を分離した後、さらに各種分離操作にて1回分離した粗無機塩を乾燥機にて乾燥させ、無機塩と有効成分を含む非プロトン性極性溶媒を分離し、有効成分を含む非プロトン性極性溶媒を工程へ戻すことを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明の構成についてはジアミノジフェニルエーテルおよび無機塩を製造する方法であって、以下の(1)〜(6)の工程を含むジアミノジフェニルエーテルおよび無機塩の製造方法からなる。
(1)アミノフェノールとp−クロロニトロベンゼンとを非プロトン性極性溶媒中にて塩基性化合物の存在下で縮合反応させる工程、
(2)縮合反応により生成する無機塩を固液分離する工程、
(3)(2)の工程の固液分離後の液体成分に対してニトロ基を還元する反応を行い、ジアミノジフェニルエーテルを製造する工程、
(4)(2)の工程の固液分離後の固体成分である無機塩に対して、非プロトン性極性溶媒により洗浄・固液分離操作を行う工程
(5)(4)の工程の固液分離後の固体成分である無機塩に対して非プロトン性極性溶媒を除去するために乾燥処理する工程、
(6)(4)の工程の固液分離操作後の液体成分を(1)の工程にて再利用する
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、粗無機塩を乾燥機を使用して有効成分を含む非プロトン性極性溶媒と無機塩に分離し、有効成分を工程へ戻すことで製品収率をアップすることが可能となり、その後精製工程を経ることで別途製品として活用することが可能となる。さらに、これまで産業廃棄物として出していた無機塩を回収・精製し、純度を上げることで製品とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1はジアミノジフェニルエーテルの製造で、本発明の一実施にかかる、原料から縮合反応をしてスラリー化した反応物を固液分離し、乾燥機により無機塩と有効成分を含む非プロトン性極性溶媒に分離するブロック図を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、発明を詳細に説明する。本発明の製造方法においては上記(1)〜(6)の工程を含む。
【0011】
(1)縮合反応工程
使用する原料として、アミノフェノールとクロロベンゼンが必要となる。具体的にはo−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−アミノフェノールのいずれか1つ以上の化合物であってもよい。後述するように高性能なポリアミドを製造する原料の製造方法として本願発明を用いる際には、m−アミノフェノール又はp−アミノフェノールとp−クロロベンゼンから得られたジアミノジフェニルエーテルがポリアミドの原料として好ましいので、アミノフェノールとしては好ましくはm−アミノフェノール、p−クロロニトロベンゼンが挙げられる。これらの原料を選択した場合にはジアミノジフェニルエーテルとして、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルまたは4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが得られる。またこれらの化合物の芳香族環の1つ又は2以上の水素原子は、後述する縮合反応、水素化反応に対して反応を阻害しない不活性な官能基に置換されていても良い。これらのアミノフェノールとp−クロロニトロベンゼンの縮合反応において使用する非プロトン性極性溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、スルホランなどを挙げる事ができる。用いる溶媒が非プロトン性極性溶媒でない場合には原料の溶解性が不十分であったりして縮合反応が十分に進行しないことがある。縮合反応時に使用する塩基性化合物として、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸水素塩等が挙げられ、具体的には炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウムを挙げる事ができ、より好ましくは炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどの炭酸塩を挙げることが出来る。塩基性化合物量はアルカリ金属原子としてアミノフェノール1モルに対し1.0〜1.5倍量のモル数の使用が好ましい。塩基性化合物を用いず、あるいは用いる量が上述の範囲外の場合には縮合反応が進行しない場合がある。
【0012】
(2)固液分離工程
上記操作により、反応物は縮合反応時に副生する無機塩(アルカリ金属の塩化物)を含有するスラリー状態で得られる。この反応物を次の水素による還元反応へ移行するには無機塩を固液分離にて取り除くことをする必要がある。分離操作として、遠心分離、真空濾過、サイクロン分離など公知の分離手法が利用できる。
【0013】
(3)還元反応を行う工程
無機塩を分離した後の縮合反応液はニトロ基のアミノ基への還元反応を行う。還元反応の方法として、通常実施可能な方法であれば特に限定されないが、一般的には水素による還元反応がある。水素による還元反応の触媒として、通常金属触媒(ラネーニッケル触媒、パラジウム触媒、白金触媒、ルテニウム触媒など)が用いられる。反応条件として、20℃〜160℃程度、より好ましくは50〜120℃程度の温度にて水素を供給して反応が行われる。これらの触媒は必要に応じて担体に坦持されたものを用いる事も可能であり、好ましくはパラジウムを炭素に坦持させたPd/C触媒を用いる事ができる。反応圧力は常圧〜5MPaG程度、好ましくは常圧〜2MPaG程度である。この水素添加反応を適切に行うことで、ニトロ基が還元されアミノ基になり、目的とするジアミノジフェニルエーテルが生成する。還元反応後、濾過等で触媒が除去され、触媒は再び還元反応に使用さる。触媒除去後、蒸留、または晶析等で溶媒を除去し、好ましくは減圧蒸留にて溶媒を除去し、粗ジアミノジフェニルエーテルが得られる。粗ジアミノジフェニルエーテルは高真空下の精密蒸留により高収率にて純度が99.9%以上のジアミノジフェニルエーテルの製品を得ることが出来る。
【0014】
(4)洗浄・固液分離操作および再利用などの工程
更に分離された粗無機塩を上記非プロトン性極性溶媒で洗浄し、その後分離操作により固液分離をすることを数回経ることで、縮合反応の原料、中間生成物又は縮合反応生成物を含んだ有効成分を含む非プロトン性極性溶媒と無機塩とに分離できる。洗浄の形態は特に限定されるものではなく、一般的な洗浄方法であるリンス型洗浄及び攪拌槽内での混合洗浄などが使用可能である。洗浄に使用する非水溶性溶媒の量は縮合反応により生成し、縮合反応液より固液分離した無機塩の重量に対し1.0倍〜3.0重量倍の範囲が好ましい。1.0重量倍未満では洗浄効果が十分でなく、3.0重量倍を超える場合は縮合反応時に留出させるための必要エネルギー、あるいは非水溶性溶媒を循環使用するための精製エネルギーが増加するため好ましくない。洗浄により得られた有効成分を含む非プロトン性極性溶媒は縮合反応の工程に添加し再利用することができる。また洗浄後の固液分離においても洗浄前と同じ手法により固液分離操作を行うことが好ましい。
【0015】
(5)乾燥工程など
上記分離操作にて分離後の無機塩から、さらに残存する非プロトン性極性溶媒、及び有効成分を回収するために、乾燥機にて非プロトン性極性溶媒、有効成分を留去する。乾燥の手法として、汎用の乾燥機、例えば流動層乾燥装置などを用いることが出来る。乾燥の条件として、非プロトン性極性溶媒が蒸発し、無機塩と分離できる温度が望ましい。本操作により無機塩に含有される有機物は1質量%以下と極めて少なくなり、一般に実施されている排水処理によって安定して処理可能となる。更に本操作により得られた無機塩を焼成などの方法で精製し、純度を上げて製品として出荷することも可能である。焼成などを行い得られた無機塩中の含液率が0.5質量パーセント以下であり、かつ回収した無機塩中の残存有機物が1質量パーセント以下とすることが好ましい。この範囲にする為には、洗浄を上記のような溶媒の量を用いて行う、さらに焼成を行うことによって達成することができる。
こうして得られたジアミノジフェニルエーテルは高機能ポリアミド、またはポリイミドの重合用モノマー原料、または重合改質添加剤として使用することが可能である。
【実施例】
【0016】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。これらの結果を表1に示した。含液率は、赤外線水分計(設定温度170℃)にて分析し、値を求めた。有機物(DMFや高沸点成分)の組成はガスクロマトグラフ(GC)分析により求めた値である。無機塩の割合は全体から非プロトン性極性溶媒の含液率、及びGC分析による非プロトン性極性溶媒を除く有機物の含有率を差し引いた値である。
【0017】
<実施例1>
下記に記載される実施例で、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの製造において、原料としてm−アミノフェノールとp−ニトロクロロベンゼンをN,N−ジメチルホルムアミドを溶媒に、触媒として炭酸カリウムを用いて反応させた後、生成した塩化カリウムを分離操作後、N,N−ジメチルホルムアミドによる洗浄・固液分離操作を3回繰り返した、サンプルを使用した。当該実施例でのN,N−ジメチルホルムアミドの含有率は約24〜29質量パーセントであり、実施例3においては含液率が高い場合を想定して含液率を約40%調整したサンプルを使用した。サンプルの組成と乾燥前後の組成を表1−2に示した。
一方でm−アミノフェノールとp−ニトロクロロベンゼンの縮合反応液に対して5重量%のPd/C触媒と共に縮合反応液をオートクレーブに仕込み、水素圧0.7MPaG、反応温度100℃で3時間水素添加反応を行った。水素添加反応終了後、反応液を室温まで冷却し、触媒を分離した後、減圧下でN,N−ジメチルホルムアミドを蒸留により除去し、更に、40mmHg(5.33kPa)で精密蒸留することにより3,4’−3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−DAPE)を得た。3,4’−DAPEの収率は93%であった。
サンプル30.8kgを乾燥機にいれ、180℃、操作圧3.3kPaで20分間乾燥させた。累計蒸発量は7.5kgであり、乾燥機下部より取り出された塩化カリウムの含液率は0.05質量パーセントであった。また乾燥の際に蒸発したN,N−ジメチルホルムアミドを回収し、m−アミノフェノールとp−ニトロクロロベンゼンの反応工程へ投入した。結果を表1、表2に纏めた。なお、表2〜4におけるその他とはDMF以外の有機物を指す。
【0018】
<実施例2>
サンプル40.5kgを乾燥機にいれ、180℃、操作圧3.3kPaで40分間乾燥させた。累計蒸発量は11.99kgであり、乾燥機下部より取り出された塩化カリウムの含液率は0.4質量パーセントであった。結果を表1、表3に纏めた。
【0019】
<実施例3>
含液率を40質量パーセントに調整したサンプル34kgを乾燥機にいれ、180℃、操作圧3.3kPaで30分間乾燥させた。累計蒸発量は13.39kgであり、乾燥機下部より取り出された塩化カリウムの含液率は0.39質量パーセントであった。結果を表1、表4に纏めた。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの製造の際に、乾燥機の使用により縮合反応で副生する無機塩を回収することで、産業廃棄物の低減が可能となる。同時に非プロトン性極性溶媒と未反応の原料、及び目的とするエーテル化合物の回収により製品である3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの収率アップが可能となり、工業的意義は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミノジフェニルエーテルおよび無機塩を製造する方法であって、以下の(1)〜(6)の工程を含むジアミノジフェニルエーテルおよび無機塩の製造方法。
(1)アミノフェノールとp−クロロニトロベンゼンとを非プロトン性極性溶媒中にて塩基性化合物の存在下で縮合反応させる工程、
(2)縮合反応により生成する無機塩を固液分離する工程、
(3)(2)の工程の固液分離後の液体成分に対してニトロ基を還元する反応を行い、ジアミノジフェニルエーテルを製造する工程、
(4)(2)の工程の固液分離後の固体成分である無機塩に対して、非プロトン性極性溶媒により洗浄・固液分離操作を行う工程
(5)(4)の工程の固液分離後の固体成分である無機塩に対して非プロトン性極性溶媒を除去するために乾燥処理する工程、
(6)(4)の工程の固液分離操作後の液体成分を(1)の工程にて再利用する
【請求項2】
製造した無機塩の含溶媒率が0.5質量パーセント以下であり、かつ回収した無機塩中の非プロトン性極性溶媒を除く有機物が1質量パーセント以下であることを特徴とする請求項1に記載のジアミノジフェニルエーテルおよび無機塩の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−82160(P2012−82160A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229664(P2010−229664)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】