説明

ジアリルフタレート樹脂成形材料

【課題】
衝撃強さに優れ、電気的特性を維持したジアリルフタレート樹脂成形材料を提供するものである。
【解決手段】
ジアリルフタレート樹脂成形材料全体に対する有機繊維(b)の含有量がジアリルフタレート樹脂成形材料の衝撃強さに大きく関与することを見出し、ジアリルフタレート樹脂(a)及び有機繊維(b)を含有するジアリルフタレート樹脂成形材料であって、有機繊維(b)の含有量が成形材料全体の1〜15重量%であることを特徴とするジアリルフタレート樹脂成形材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリルフタレート樹脂成形材料に関する。さらに詳しくは、電気・電子部品に適したジアリルフタレート樹脂成形材料である。
【背景技術】
【0002】
ジアリルフタレート樹脂成形材料は、電気的特性、寸法安定性、耐水性に優れることからコイルボビン、スイッチケース、端子板、コネクター、マグネットスイッチ等の電気・電子部品に使用されてきた。電気特性が劣るフェノール樹脂やコストが高い液晶ポリマーは、用途が限定される。
【0003】
ジアリルフタレート樹脂成形材料が電気・電子部品に使用される際、多くは非常に小型・肉薄の物であり、割れ又は欠けが問題となっている。そのため、衝撃強さを向上させ、割れ又は欠けに強くすることが求められている。
【0004】
上記問題を改善する手法として、一般的にガラス繊維をシランカップリング剤で処理し、樹脂やその他の充填剤等との密着性を向上させることにより、強度を向上させる方法が挙げられるが、成形材料の混合過程において、ガラス繊維が折れてしまうため、衝撃強さの向上には限界がある。
【0005】
これらの問題を改良するために、例えば、特許文献1にはジアリルフタレート樹脂にビスフェノールA型ビニルエステルを添加することにより、可撓性を付与させることが提案されている。しかしながら、シャルピー衝撃強さは4kJ/m程度と強度が不十分である。
【0006】
また、特許文献2では、熱硬化性樹脂に多量の有機繊維を配合することが提案されており、シャルピー衝撃強さ114kJ/m以上が得られている。しかしながら、成形材料調製時の作業性や成形性の点から工業的スケールに不向きである。また、高額な有機繊維を大量に使用するため、コスト面においても実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−241565
【特許文献2】特開2006−307185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、衝撃強さに優れ、電気的特性を維持したジアリルフタレート樹脂成形材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題について鋭意検討した結果、ジアリルフタレート樹脂成形材料全体に対する有機繊維の含有量がジアリルフタレート樹脂成形材料の衝撃強さと大きく関与していることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は、
ジアリルフタレート樹脂(a)及び有機繊維(b)を含有するジアリルフタレート樹脂成形材料であって、有機繊維(b)の含有量が成形材料全体に対して1〜15重量%であることを特徴とするジアリルフタレート樹脂成形材料である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機繊維(b)を成形材料全体に対して1〜15重量%配合することにより、電気的特性を損なうことなく、十分な衝撃強さを有するジアリルフタレート樹脂成形材料が得られ、それらの特性を必要とする電気・電子部品に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ジアリルフタレート樹脂(a)及び有機繊維(b)を含有するジアリルフタレート樹脂成形材料であって、有機繊維(b)の含有量が成形材料全体に対して1〜15重量%であることを特徴とする。以下、本発明の成形材料について詳細に説明する。
【0013】
本発明の成形材料においては、ジアリルフタレート樹脂(a)を用いる。ジアリルフタレート樹脂を配合することで、成形品に優れた電気特性を付与することができる。
本発明で用いられるジアリルフタレート樹脂(a)とは、ジアリルオルソフタレートプレポリマー、ジアリルイソフタレートプレポリマー、ジアリルテレフタレートプレポリマー等のジアリルフタレート樹脂に代表され、これらの単独、あるいは2種以上の混合物であってよい。成形品に高い耐熱性が要求される場合にはイソタイプまたは、パラタイプのものを使用することが好ましい。また、当該樹脂はジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、ジアリルテレフタレートモノマー等の2種以上のいわゆるジアリルフタレートモノマーの共重合体からなるプレポリマーであってもよい。この場合、ベンゼン環上の水素原子が塩素、臭素等のハロゲン原子で置換されていてもよく、また分子内に存在する不飽和結合が全部または一部において、水添されたプレポリマーもここに含まれるものとする。
【0014】
また、ジアリルフタレート樹脂(a)には、ジアリルフタレートモノマーを配合してもよい。ジアリルフタレートモノマーとして、ジアリルオルソフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、ジアリルテレフタレートモノマー等を例示することができる。
ジアリルフタレートモノマーの含有量は、成形材料全体に対して、0.1〜10重量%が好ましく、0.5〜5重量%がより好ましく、1〜3重量%がさらに好ましい。
【0015】
ジアリルフタレート樹脂(a)としては、樹脂の粘度等を考慮すると、重量平均分子量(GPCにより測定され、標準ポリスチレン換算)は20,000〜60,000であることが好ましく、ヨウ素価は50〜60であることが好ましく、軟化点65〜110℃であることが好ましい。
【0016】
ジアリルフタレート樹脂(a)の含有量は、成形材料全体に対して10〜60重量%であることが好ましく、さらに好ましくは15〜35重量%である。
【0017】
本発明の成形材料には、ジアリルフタレート樹脂の反応開始剤を用いることができる。反応開始剤としては、特に限定されないが、例えばジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエートのようなジアルキルパーオキサイド類やジアリルパーオキサイド類、t−ブチルペルオキシベンゾエートのようなペルオキシエステル類、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネートのようなペルオキシド類、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシシクロヘキサンのようなペルオキシケタール類、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドのようなジアロイルパーオキサイド類やジアシルパーオキサイド類、ヒドロベルオキシド類、アゾビスイソブチロニトリルのような過酸化物、及びアゾ化合物などを用いることができる。
【0018】
反応開始剤の含有量は、成形材料全体に対して0.5〜5重量%であることが好ましく、1〜2重量%であることがより好ましい。
【0019】
本発明の成形材料には、有機繊維(b)を成形材料全体に対して1〜15重量%を含有することを特徴としており、含有量は1〜10重量%であることが好ましく、1〜8重量%であることがより好ましく、3〜7重量%であることがさらに好ましい。有機繊維(b)の含有量が1重量%未満では、衝撃強さの好適な向上が得られにくく、15重量%を超えると成形材料調製時の作業性や成形性が困難となる。
【0020】
本発明に用いる有機繊維(b)の形態は、特に限定されないが、例えば不織布、クロス、ロービング、チョップドストランドなどが挙られ、これらを単独、あるいは2種以上組合せて用いても良い。また、成形材料を調製する際の均一分散性及び樹脂含浸性の点で、チョップドストランドが好ましい。
【0021】
本発明に用いる有機繊維(b)の繊維長は1〜6mm程度のものであればよく、成形材料を調製時の分散性や成形後のバリ処理のしやすさの点で、繊維長は1〜3mm程度のものが好ましい。なお、繊維長が6mm以上のものを用いた場合、成形材料調製時の作業性や成形性が困難になる。また、本発明の成形材料に用いる有機繊維(b)の繊維長は、最終的に得られる成形品の用途等に応じて、適宜選択すればよく、上記範囲内の繊維長の異なる有機繊維を2種以上組合せて用いてもよい。
【0022】
本発明に用いる有機繊維(b)としては、公知の有機繊維を制限なく用いることができ、具体的には、ビニロン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維などを例示することができ、中でも、効果的に衝撃強さを向上させる点で、PBO繊維又はアラミド繊維がより好ましい。上記有機繊維は、これらを単独、あるいは2種以上組合せて用いても良い。
【0023】
本発明の成形材料においては、無機充填剤を含有してもよい。無機充填剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、シリカ、ワラストナイトなどを例示することができ、難燃性、自己消化性、コスト面の点で、水酸化アルミニウムが好ましい。
【0024】
本発明に用いる水酸化アルミニウムは、1μm程度の微粒子のものから、100μm程度の粗粒子のものまで限定することなく使用することができるが、10〜30μmの細粒子のものが経済的にも好ましい。水酸化アルミニウムの含有量は成形材料全体に対して20〜70重量%であることが好ましく、さらに好ましくは30〜55重量%である。
【0025】
本発明の成形材料においては、ガラス繊維を含有してもよい。ガラス繊維の含有量は成形材料全体に対して15〜45重量%であることが好ましい。
【0026】
本発明に用いるガラス繊維は、ジアリルフタレートモノマーに対して、分散性の高いものが好ましい。
【0027】
本発明の成形材料においては、より高い機械的強度を得るために、カップリング剤を含有してもよく、シランカップリング剤を例示することができる。
【0028】
シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランのようなビニル類、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのようなエポキシ類、p−スチリルトリメトキシシランのようなスチリル類、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランのようなメタクリル類、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランのようなアクリル類が挙げられる。
【0029】
カップリング剤の含有量は成形材料全体に対して0.1〜5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは1〜4重量%である。
【0030】
本発明の成形材料においては、必要に応じて、種々の目的のために、その他繊維、顔料、離型剤等の添加剤を加えることができる。
【0031】
本発明の成形材料は、通常の方法を用いることにより製造することができる。ジアリルフタレート樹脂(a)、及び有機繊維(b)に必要に応じて、ガラス繊維、カップリング剤、顔料、離型剤、反応開始剤などの添加剤を加え、加熱ロール、2軸押出し装置、バンバリーミキサーなどの混練機を用いて、通常の方法にて、溶融混練し、粉砕機などを用いて粉砕あるいは、ヘンシルミキサーなどの造粒機を用いて整粒することによって、製造することができる。また、成形材料の各成分は、配合時に同時に添加してもよく、各成分を別々のタイミングで添加してもよい。
【0032】
以下実施例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1〜3)
(比較例1〜2)
表1に示す各材料を配合し、組成物を得た。得られた組成物を予備混合後、120〜130℃の加熱ロールで溶融混練し、冷却後粉砕して成形材料を得た。表1の表中の単位は重量部とする。
【0034】
【表1】

【0035】
(表1注)
※1 ジアリルフタレート樹脂:ダイソー株式会社製「ダイソーダップA」
重量平均分子量:55,000、ヨウ素価:55、軟化点:90℃
※2 水酸化アルミニウム:昭和電工株式会社製「ハイジライトH−32」
(平均粒子径8μm)
※3 ガラス繊維:オーエンスコーニングジャパン株式会社製「03IE830A」
※4 ジアリルフタレートモノマー:ダイソー株式会社製「ダイソーダップモノマー」
※5 反応開始剤:日油株式会社製「パークミルD」
※6 離型剤:堺化学工業株式会社製「ステアリン酸亜鉛」
※7 カップリング剤:信越化学工業株式会社製「KBM−503」
※8 着色剤:三菱化学株式会社製カーボンブラック「MA600」
※9 アラミド繊維A:帝人テクノプロダクツ株式会社製「テクノーラT320」
(繊維長1mm)
※10 アラミド繊維B:帝人テクノプロダクツ株式会社製「テクノーラT320」
(繊維長3mm)
※11 PBO 繊維:東洋紡績株式会社製「ザイロンHM」(繊維長6mm)
【0036】
実施例および比較例で得られた成形材料を用いて、JIS−K6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準じて、成形条件として、金型温度160℃、硬化時間4分間で圧縮成形により成形品を作成した。この特性を測定し、表2に示す結果を得た。
【0037】
【表2】

【0038】
(表2の注)
※12 圧縮成形により成形品を得、JIS−K6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準じて株式会社東洋精機製作所製シャルピー衝撃試験機を用いて測定を行った。
※13 圧縮成形により成形品を得、JIS−K6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準じてテスター産業株式会社製アイゾット衝撃試験機を用いて測定を行った。
※14 圧縮成形により成形品を得、JIS−K6911「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に準じてHEWLETT PACKARD社製4329A HIGH RESISTANCE METERを用いて測定を行った。
【0039】
表1および2に示すように、実施例1〜3は、ジアリルフタレート樹脂(a)、有機繊維(b)を含有するジアリルフタレート樹脂成形材料であって、有機繊維(b)の含有量が成形材料全体に対して、1〜15重量%であることを特徴とするジアリルフタレート樹脂成形材料であるが、電気特性を失うことなく、十分な衝撃強さを有している。一方、比較例1〜2にあるように、ガラス繊維だけでは、十分な衝撃強さを得ることができない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、電気的特性を実質的に損なうことなく優れた衝撃強さを付与した成形品用のジアリルフタレート樹脂成形材料に関するものである。本発明のジアリルフタレート樹脂成形材料は、優れた衝撃強さを生かし、例えば小型・肉薄のコイルボビン、スイッチケース、端子板、コネクター、マグネットスイッチ等においても、割れによる不良率が低減され、電気・電子部品に好適に用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリルフタレート樹脂(a)及び有機繊維(b)を含有するジアリルフタレート樹脂成形材料であって、有機繊維(b)の含有量が成形材料全体の1〜15重量%であることを特徴とするジアリルフタレート樹脂成形材料。
【請求項2】
有機繊維(b)の繊維長が1mm〜6mmである請求項1に記載のジアリルフタレート成形材料。
【請求項3】
有機繊維(b)がビニロン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、及びポリイミド繊維からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のジアリルフタレート樹脂成形材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のジアリルフタレート樹脂成形材料を成形して得られるジアリルフタレート樹脂成形品。


【公開番号】特開2013−10883(P2013−10883A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145107(P2011−145107)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】