説明

ジアルコキシチオフェンの製造法

【課題】3,4−ジアルコキシチオフェンを、経済的に、安全に、しかも高収率で得る製造法の提供。
【解決手段】銅触媒存在下、原料として3,4−ジブロモチオフェンと金属アルコキシド含有アルコール溶液を用い、下記一般式(1)で表されるジアルコキシチオフェンを製造する置換反応において、置換反応を密閉容器中100〜150℃で行うことによる下記一般式(1)で表される3,4−ジアルコキシチオフェンの製造法。


(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)該銅触媒としては、酸化銅(II)とヨウ化塩の混合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジアルコキシチオフェンの新規合成法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性ポリマーは、導電率の違いにより、帯電防止、コンデンサー等の用途に使われている。近年では、液晶や電子ペーパーの透明電極であるITOの代替材料としても注目されている。中でも、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)[通称PEDOT]及びポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸[通称、PEDOT:PSS]は、抵抗膜式タッチパネルの透明電極として近年研究が活発化している。
【0003】
PEDOT:PSSは、一般に酸化重合により合成され、又、原料となる3,4−エチレンジオキシチオフェンは、チオジグリコール酸を原料に5段階で合成することができる(例えば、特許文献1参照)。
近年、上記方法とは別に、チオフェン原料から4工程で合成する方法が報告された(例えば、特許文献2参照)。具体的には、テトラブロモ化、2,5位の脱臭素化(3,4−ジブロモチオフェンの合成)、ナトリウムメトキシドを用いたジメトキシ化、エチレンジオキシ化からなる方法である。
【0004】
上記3工程目のジアルコキシ化において、特許文献2では、3,4−ジブロモチオフェンにナトリウムメトキシドを、常圧下30℃ 〜90 ℃で合成すると記載している。一方、特許文献3では、常圧条件下、40〜200 ℃で、特定の濃度範囲(具体的には、金属アルコキシドのアルコール系溶媒に対する濃度が、30−36重量%である。)の金属アルコキシドを用いることを報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−313521号公報
【特許文献2】中国公開101220038号公報
【特許文献3】特開2009−161457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の方法では、実施例に見られるように反応時間が48時間と非常に長時間を必要としていた。特許文献3では、反応時間は短時間であるものの、事前に調製する必要がある高濃度、具体的には30重量%以上の金属アルコキシド溶液を用意しなければならなかった。具体的には、一般に市販されている金属アルコキシド溶液は30重量%未満であって、30重量%以上の高濃度金属アルコキシド溶液を調製する際には、アルカリ金属とアルコール原料から調製する必要があるが、その際、水素発生と高発熱のために、除熱操作にかなりの時間を要するといった問題を有していた。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来技術の問題点を解決し、3,4−ジアルコキシチオフェンを、経済的に、安全に、しかも収率よく製造することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、3,4−ジブロモチオフェンと金属アルコキシド含有アルコール溶液を原料にジアルコキシチオフェンを合成する際に、密閉容器中特定の温度で行うことにより目的とするジアルコキシチオフェンを短時間で収率よく合成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、銅触媒存在下に、3,4−ジブロモチオフェンと金属アルコキシド含有アルコール溶液を原料に、下記一般式(1)で表されるジアルコキシチオフェンを製造する置換反応において、置換反応を密閉容器中100〜150℃で行うことを特徴とするジアルコキシチオフェンの製造法に関するものである。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す)。
【0012】
以下にその製造法について詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造法は、上記一般式(1)で表されるジアルコキシチオフェンの製造法である。
【0014】
ここで、一般式(1)におけるRは炭素数1〜4のアルキル基であり、炭素数1〜4のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられ、その中でも、メチル基、エチル基等が好ましい。
具体的な一般式(1)で表されるジアルコキシチオフェンとしては、例えば3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン(DET)、3,4−ジ(n−プロポキシ)チオフェン、3,4−ジ(i−プロポキシ)チオフェン、3,4−ジ(n−ブトキシ)チオフェン、3,4−ジ(sec−ブトキシ)チオフェン等が挙げられ、そのなかでも3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン等が好ましい。
【0015】
銅触媒としては、市販されている1価又は2価の銅化合物であればよく、特に制限はなく、例えば、酢酸銅(I又はII)、アセチルアセトナート銅(II)、臭化銅(I又はII)、炭酸銅(II)、シアン化銅、2−エチルヘキサノエート銅(II)、水酸化銅、ヨウ化銅(I)、硝酸銅(II)、酸化銅(I又はII)、硫酸銅等が挙げられる。銅触媒のうち、酸化銅(I又はII)が経済的に有利なことから、より好ましい。
【0016】
尚、本置換反応において、銅触媒と共に、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等のヨウ化塩を併用してもよく、特に酸化銅(II)とヨウ化塩の混合物を用いることが好ましい。
【0017】
銅触媒の量は、3,4−ジブロモチオフェン1molに対して1〜100mol%の範囲が好ましく、特に好ましくは10〜40mol%である。
【0018】
金属アルコキシド含有アルコール溶液は、金属アルコキシドを含むアルコール溶液であり、金属アルコキシドを5〜30重量%未満含むものが好ましく、さらに、金属アルコキシドが15%以上28重量%以下含むものが好ましく、特に好ましくは、一般に市販されている和光純薬製の20重量%ナトリウムエトキシド・エタノール溶液、28重量%ナトリウムメトキシド・メタノール溶液、シグマアルドリッジ製の24重量%カリウムエトキシド・エタノール溶液、25重量%カリウムメトキシド・メタノール溶液等である。
【0019】
金属アルコキシドの量は、3,4−ジブロモチオフェン1molに対して、2.0〜10倍モルの範囲が好ましく、収率、経済性の点から、特に好ましくは3〜6倍モルである。
【0020】
反応温度は、100〜150℃であり、特に好ましくは110〜140℃である。
【0021】
本発明は、密閉容器に、3,4−ジブロモチオフェン、銅触媒、金属アルコキシド含有アルコール溶液を仕込み、不活性ガス中で行う。密閉容器中で行われる結果、用いられるアルコールの蒸気圧だけ圧力がかかり、必要なら、不活性ガスを封入し更なる加圧下で反応を行ってもよい。加圧した後の反応圧力は、ゲージ圧0.1MPa以上あれば充分であり、ゲージ圧1MPaを超える高圧で反応を行っても特に収率の向上は小さい。通常は、加熱により用いる溶媒での自然な圧力の上昇分で十分である。
【0022】
ここでいう密閉容器は、例えばSUS製又はガラス製オートクレーブ等が挙げられる。
【0023】
反応終了後、ジアルコキシチオフェンは、蒸留・クロマトグラフィー等の公知方法により、結晶又は油状物として単離することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、従来技術の問題点を克服し、ジアルコキシチオフェンを経済的にしかも収率よく製造可能となる。
【実施例】
【0025】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。なお、実施例で得られた化合物の純度は、シクロドデカンを内部標準としてガスクロマトグラフィー測定により行った。また、H,13C−NMRは、バリアン社製 Gemini200を用いて測定した。
[ガスクロマトグラフィー測定]
装置:島津製作所製 GC−17A
カラム:キャピラリーカラム(GL Science社製 NB−5)
キャリアガス:ヘリウム
カラム温度:50℃(5分保持)→10℃/min → 300℃
インジェクション:280℃
検出器:FID
実施例1(DETの合成)
30mlSUS製オートクレーブに、3,4−ジブロモチオフェン 1.81g(7.55mmol)、 酸化銅(II)0.15g(1.88mmol)、ヨウ化カリウム0.08g(0.48mmol)、20%ナトリウムエトキシド/エタノール溶液 12.9g(37.9mmol、市販品)を順次加えた後、系内を不活性雰囲気とするため、減圧処理・窒素置換を3回繰り返した。その後、オートクレーブを加熱し密閉容器中130℃で6時間攪拌した。その際の圧力は、ゲージ圧0.4MPaであった。室温まで冷却後、水 15ml、酢酸エチル 30mlを加えた。得られた反応液を濾過し、有機相をガスクロマトグラフィーにて分析すると、原料である3,4−ジブロモチオフェンは消失し(ジブロモチオフェン転化率100%)、3,4−ジエトキシチオフェンの収率は74.7%であった。
【0026】
尚、有機層を、シリカゲルクトマトグラフィー(溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=100/1体積比)で精製することにより3,4−ジエトキシチオフェンを淡黄色結晶として収率65%で得た。
【0027】
尚、化合物の同定は、H−NMR及び13C−NMR(CDCl)で行った。
H−NMR(CDCl)δ ppm;6.16(s,2H),4.07(4H,q,J=7.0Hz),1.45(6H,t,J=7.0Hz),
13C−NMR(CDCl)δ ppm;14.79,66.00,96.69,147.12。
【0028】
高濃度の金属アルコキシド含有アルコール溶液を事前に調整する必要がなく高収率で3,4−ジエトキシチオフェンが得られた。
【0029】
実施例2〜3
反応温度を140℃、又は120℃にした以外は、実施例1と同様に3,4−ジエトキシチオフェンを合成した。結果を表1に示す。
【0030】
高濃度の金属アルコキシド含有アルコール溶液を事前に調整する必要がなく高収率で3,4−ジエトキシチオフェンが得られた。
【0031】
実施例4
実施例1において、130℃に昇温後、ゲージ圧の圧力が1.0MPaになるように窒素を圧入し、その後、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
高濃度の金属アルコキシド含有アルコール溶液を事前に調整する必要がなく高収率で3,4−ジエトキシチオフェンが得られた。
【0032】
比較例1
50mlナス型フラスコに、3,4−ジブロモチオフェン 2.41g(10.0mmol)、酸化銅(II) 0.2g(2.5mmol)、ヨウ化カリウム0.1g(0.60mmol)、ジメチルホルムアミド 10g、20%ナトリウムエトキシド/エタノール溶液 17g(50mmol、市販品)を窒素雰囲気下加えたのち、常圧下、95℃で6時間還流させた。反応液を冷却後、水 20gを加えて反応を終了した。反応液を濾過後、分液し、得られた有機相を分析したところ、目的物である3,4−ジエトキシチオフェンは検出されなかった。結果を表1に示す。
【0033】
反応温度が低く反応が進行しなかった。
【0034】
比較例2
実施例1において、反応温度を155℃に設定した以外は、実施例1と同様に3,4−ジエトキシチオフェンを合成した。反応温度が高く、3,4−ジエトキシチオフェンの収率は、56.1%と低いものであった。結果を表1に示す。
【0035】
実施例5
30mlSUS製オートクレーブに、3,4−ジブロモチオフェン 2.91g(12.1mmol)、 酸化銅(II)0.24g(3.0mmol)、ヨウ化カリウム0.12g(0.72mmol)、28%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液 11.7g(60.7mmol、市販品)を順次加えた後、系内を不活性雰囲気とするため、減圧処理・窒素置換を3回繰り返した。その後、オートクレーブを加熱し密閉容器中110℃で6時間攪拌した。その際の圧力は、ゲージ圧0.3MPaであった。室温まで冷却後、水 15ml、酢酸エチル 30mlを加えた。反応液をろ過し、得られた母液を分液したのち、有機相をガスクロマトグラフィーにて分析すると、原料である3,4−ジブロモチオフェンは消失し(ジブロモチオフェン転化率100%)、3,4−ジメトキシチオフェンの収率は90.4%であった。結果を表1に示す。
【0036】
高濃度の金属アルコキシド含有アルコール溶液を事前に調整する必要がなく高収率で3,4−ジエトキシチオフェンが得られた。
【0037】
実施例6
反応温度、反応時間を、夫々、120℃、2時間とした以外は、実施例4と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0038】
高濃度の金属アルコキシド含有アルコール溶液を事前に調整する必要がなく高収率で3,4−ジエトキシチオフェンが得られた。
【0039】
実施例7
グローブボックス中、28%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液 11.7g(60.7mmol、市販品)、及び脱水メタノール12gを加えて、14重量%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液を調製した。得られた溶液、3,4−ジブロモチオフェン 2.91g(12.1mmol)、 酸化銅(II)0.24g(3.0mmol)、ヨウ化カリウム0.12g(0.72mmol)を、窒素雰囲気下、SUS製50mlオートクレーブに加えた。その後、実施例5と同様に、3,4−ジメトキシチオフェンを合成した。結果を表1に示す。
【0040】
高濃度の金属アルコキシド含有アルコール溶液を事前に調整する必要がなく高収率で3,4−ジエトキシチオフェンが得られた。
【0041】
比較例3
100mlナス型フラスコに、3,4−ジブロモチオフェン8.73g(36.4mmol)、臭化銅(I)1.31g(9.07mmol)、28%ナトリウムメトキシド/メタノール溶液 35.1g(182mmol、市販品)を加え、系内を窒素置換した後、88℃で6時間還流した。
【0042】
反応液を濾過後、分液し、得られた有機相を分析したところ、ジブロモチオフェン転化率は95%、3,4−ジメトキシチオフェンの収率は73.2%であった。
反応温度が低く、実施例5〜7に比べて3,4−ジメトキシチオフェンの収率は低かった。
【0043】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅触媒存在下に、3,4−ジブロモチオフェンと金属アルコキシド含有アルコール溶液を原料に下記一般式(1)で表されるジアルコキシチオフェンを製造する置換反応において、置換反応を密閉容器中100〜150℃で行うことを特徴とするジアルコキシチオフェンの製造法。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す)。
【請求項2】
金属アルコキシド含有アルコール溶液の金属アルコキシド含有量が、5重量%以上〜30重量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のジアルコキシチオフェンの製造法。
【請求項3】
銅触媒が、酸化銅(II)とヨウ化塩の混合物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のジアルコキシチオフェンの製造法。