説明

ジカルボン酸の脱カルボキシル化法

出発物質としてのジカルボン酸、殊に3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の熱的脱カルボキシル化法が記載されている。これに関して、出発物質を固体として使用し、かつ/又は反応を多数の流動層体の存在下で実施し、その際、反応を溶剤の存在下で実施し、反応の際に生じる脱カルボキシル化生成物をガス状で反応帯域から排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加的な溶剤を添加せず、場合により不活性ガスの添加下に、ジカルボン酸の熱的脱カルボキシル化法、殊にジアルコキシチオフェン及びアルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸の脱カルボキシル化法に関する。
【0002】
本発明の意味における不活性ガスは、使用条件下でジカルボン酸と反応を生じないガスである。
【0003】
モノカルボン酸及びポリカルボン酸の脱カルボキシル化のために、種々の方法が公知である。US−A2,453,103によれば、粉末状の銅触媒の添加下での3,4−ジメトキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の熱的脱カルボキシル化が実施されている。ジアルコキシチオフェンジカルボン酸及びアルキレンジオキシチオフェンジカルボン酸の脱カルボキシル化のための類似の処理法は、例えばCoffey他(Synthetic Communications, 26(11), 2205, 1996における溶融された材料の熱的脱カルボキシル化)、Stephan他(Journal of Electroanalytical Chemistry, 443, 217-226, 1998におけるクロム(III)−銅(II)−酸化物の添加下での180℃での脱カルボキシル化)又はMerz及びRehm(Journal fuer Praktische Chemie, 228, 672-674, 1996における触媒又は希釈剤無し)から公知である。前記方法において使用される条件は、大抵、化合物の熱的不安定性に依存する。例えば、脱カルボキシル化は有利に溶剤中で脱カルボキシル化を促進する触媒の添加を伴って実施される。3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸から3,4−エチレンジオキシチオフェンへの脱カルボキシル化は、例えば、有機溶剤(例えばテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド)中で、触媒としての炭酸銅の添加下に100〜200℃の温度及び800〜1200hPaの圧力で実施される。前記の形の処理運転において、まず全体の出発物質を脱カルボキシル化し、その後生成物を溶剤から減圧で留去する。
【0004】
しかしながら、3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の他に、出発物質は、以前の合成段階で形成される副生成物を常に少量含有する。前記の副生成物は溶剤中に蓄積され、溶剤及び触媒の再利用可能性を制限する。費用をかけて処理しなければならないCu含有廃棄物が生じる。更に、先行技術である前記の3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の脱カルボキシル化法は断続的に運転可能であるに過ぎない。純粋な熱的脱カルボキシル化の場合、反応室中に生成物の大部分が残留し、高められた温度に基づいて副生成物の形成が増大し、この副生成物により品質が強度に損なわれるか、又は費用のかかる後精製が必要となる。
【0005】
本発明の課題は、連続的又は準連続的な運転方式と同時に、運転物質(溶剤及び触媒)の使用の最小化を可能にする、3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸及び類似のジカルボン酸の脱カルボキシル化のための処理運転をもたらすことである。
【0006】
前記課題を解決する本発明の対象は、出発物質としてのジカルボン酸、殊に3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の熱的脱カルボキシル化法において、出発物質を固体として使用し、かつ/又は反応を多数の流動層体の存在下で実施し、その際、反応を溶剤の存在下で実施し、反応の際に生じる脱カルボキシル化生成物、殊に3,4−エチレンジオキシチオフェンをガス状で反応帯域から排出することを特徴とする、ジカルボン酸の熱的脱カルボキシル化法である。
【0007】
有利に、脱カルボキシル化は100〜600℃、有利に100〜500℃、殊に有利に150〜400℃の温度で実施される。
【0008】
驚異的にも、流動層中での3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の純粋な熱的脱カルボキシル化法のための実験において、3,4−エチレンジオキシチオフェンを極めて高い選択率で溶剤の不在下においても出発物質の固体の単独不均一系反応により得ることができることが明らかとなった。生成された3,4−エチレンジオキシチオフェンは脱カルボキシル化のために必要な温度で十分に高い蒸気圧を有し、ガス状で不活性ガス流と共に排出され、冷却により分離され得る。この方法で、運転物質の使用を最小化し、連続的又は準連続的な運転が可能となる。
【0009】
本発明による方法は、脱カルボキシル化により形成される生成物、例えば3,4−エチレンジオキシチオフェンがガス状で反応器から排出される限り、種々の反応器型で実施することができる。ここでは例示的に固定床式反応器、移動床式反応器、気泡形成式流動床を有する反応器、乱流式流動床を有する反応器又は貫流式流動床を有する反応器、内部循環式流動床を有する反応器又は外部循環式流動床を有する反応器が挙げられる。出発物質、例えば3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸を、例えば上記クラスに属する流動層体が充填された反応器中に添加することも可能である。
【0010】
前記方法は、殊に連続的に、気泡形成式流動層又は乱流式流動層又は貫流式流動層中で、又は内部循環式流動床又は外部循環式流動床中で実施される。
【0011】
反応は殊に有利に希ガス、窒素、水蒸気、一酸化炭素又は二酸化炭素の一連から選択された不活性補助ガス、又はこの種の種々の不活性補助ガスの混合物の存在下で実施される。
【0012】
不活性ガスとして、選択された条件下で出発物質又は生成物と反応しない全てのガスが該当し、適当な不活性ガスは、例えば希ガス、窒素、水蒸気、一酸化炭素又は二酸化炭素である。3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の脱カルボキシル化のための本発明による方法を、1種の不活性ガスか又は任意の組合せの複数の不活性ガスの混合物の添加下に実施することができる。
【0013】
温度は上記の通り100℃〜600℃の温度範囲内で変動してよい。しかしながら、温度は、出発物質、例えば3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の脱カルボキシル化が保証される高さでなければならず、かつ3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸ないし3,4−エチレンジオキシチオフェンの分解温度を超えてはならない。
【0014】
有利に、反応は流動層反応器又は流動床反応器中で実施され、その際、ジカルボン酸の粒径よりも大きな平均直径(数平均)を有する流動層体が使用される。
【0015】
流動層体は殊に有利に0.5g・cm−3<ρ<6g・cm−3の固体密度ρを有する。
【0016】
流動層体を有利に熱媒体として使用することができ、前記の熱媒体は反応帯域の外側を予熱し、反応帯域の周囲を循環する。
【0017】
流動層体は有利に部分的か又は完全に触媒活性材料、殊に銅又は銅塩、有利にCuCOから成る。
【0018】
本発明による方法は、有利に流動層中で実施される。反応室中に、3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の固形粒子(以下、粒子と呼称する)が装入される。粒子は断続的にか又は連続的に外部から供給されてよい。粒子は固定床を形成し、この固定床を通じて供給ガスが流入する。供給ガスの流入速度は、固定床が流動化し、流動層が形成されるように調節されてよい。相応する処理方法は当業者に公知である。更に、供給ガスの流入速度は、少なくとも弛緩速度(及び最小流動化速度Umf)に相当しなければならない。弛緩速度とはこの場合、ガスが粒子から成る床を導通し、この速度以下では固定床が静止しており、即ちこの速度以下では床粒子が十分に不動である速度であると解釈される。この速度以上で床の流動化が開始され、即ち床粒子が移動し、第一の気泡が形成される。気泡形成式流動層を運転させる場合、速度が弛緩速度の10倍まで、有利に7倍まで、殊に有利に1〜5倍に相当するように速度が選択される。
【0019】
出発物質が極めて微細な粒状フラクションで生じる場合、粒子間力が優勢であり、固体は取扱いが困難である。この場合、出発物質である3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸を比較的大きな粒子から成る床内に装入することは有利であり得る。3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の平均粒径が例えば0.1〜50μmである場合、50<dP<350μmの平均粒径dPを有する粒子を有する床中での取扱いを本質的に容易にすることができる。この比較的大きな床粒子は、有利に0.5g・cm−3<ρ<4g・cm−3の固体密度ρを有する。前記の粒子は、この場合、表面に付着する小さな粒子のための支持体として作用する。更に、装入された床粒子は衝撃媒体及び熱媒体として作用し、かつ/又は完全か又は部分的に触媒活性材料から成ってよい。触媒活性材料として、例えば金属、金属酸化物又は金属塩を使用することができる。殊に有利に、銅、酸化銅及び銅塩が使用される。完全な材料(Vollmaterial)を使用することができるが、活性成分は支持体と混合されるか又は施与されてもよい。純粋な成分又は混合物の使用が考えられる。出発物質である3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の搬入は例えばスクリュー、噴射装置又はスルース系(Schleusensystem)により行うことができる。搬入のもう1つの形は、溶融されたか又は溶剤を用いて希釈された3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸のノズルによる搬入であってよい。
【0020】
純粋な形で、混合物として、又は担持された形での触媒の導入は、反応器中の内蔵物の形で行うこともできる。例示的に、不撓性又は可撓性の内蔵物、棒状及び管状の内蔵物、穿孔板、網、格子又は3次元構造物並びに充填体の形の構造が挙げられ、成形体又は自由に流動する要素が使用される。
【0021】
反応器を去るガス流からの微粒状の出発物質の固体の分離は、例えばサイクロン、フィルター又はガス洗浄器により行うことができる。サイクロン及び/又はフィルターによる分離は有利である。収集された出発物質の固体は有利に再度脱カルボキシル化工程に返送される。この返送は例えば内部循環又は外部循環により行われてよい。しかしながら返送は吹き戻し(Rueckblasen)及びフィルターの脱塵により行うこともできる。
【0022】
有利な方法は、場合によりガス流により反応帯域から排出された固体をサイクロン及び/又はフィルターを用いて生成物と分離することにより特徴付けられる。
【0023】
同様に、生成物ガス流から分離された未反応の出発物質の固体を断続的にか又は連続的に再度反応帯域中に返送する方法の変法は有利である。
【0024】
以下に、本発明による方法を若干の実施例を用いて説明するが、その際、実施例は本発明の思想の限定であると解釈すべきではない。
【実施例】
【0025】
実施例
実施例1(固定床):
ガラス反応器(直径16mm、全高400mm)内に、3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の乾燥原料4gを装入し、窒素流中で300℃の最高反応温度に加熱した(加熱速度2℃/分)。80分の時間に亘り、出発物質の反応を完了させた。装入した4g(1.7×10−2モル)のうち、3.5g(1.52×10−2モル)の反応を完了させ、少量を窒素流により反応器から排出した。後接続された冷却トラップ中で3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸と3,4−エチレンジオキシチオフェンとから成る生成物混合物2.89gを捕捉した。HPLCにより測定された3,4−エチレンジオキシチオフェンの含分は>90質量%であった。
【0026】
実施例2(流動床、ジェット層式反応器):
ガラス反応器(直径50mm、全高730mm、10mmのガス分配器フリットを有する円錐形ガス取水口)内に、3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の乾燥原料120.0g(0.52モル)を装入し、窒素流中で(標準状態)320℃の最高反応温度に加熱した(加熱速度2℃/分)。100分の時間に亘り、出発物質の反応を完了させた。原料の量のうち、32.0g(0.139モル)の反応を完了させた。後接続された冷却トラップ中で生成物混合物16.6gを凝縮させた。3,4−エチレンジオキシチオフェンの含分は>94質量%であった。
【0027】
実施例3”粒子粉末”流動床:
付加的なガス分配器を有するガラス反応器(直径95mm、全高700mm、ガス分配器フリット95mm)内に、直径160〜250mmのケイ砂3000gを装入し、石英床中で窒素を用いた流動化下に280℃の反応温度に加熱した。3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸0.1351モルと塩基性炭酸銅との質量比1:1から成る混合物を58分の時間に亘って窒素で流動化された反応器中に添加した。そこで脱カルボキシル化を行い、生成物を複数の直列接続された冷却トラップ中で凝縮させた。収率はY=83モル%であり、HPLCにより測定された生成物の純度は94質量%を上回っていた。反応器から排出させ、サイクロン中で分離された固体を再度出発物質として使用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発物質としてのジカルボン酸、殊に3,4−エチレンジオキシチオフェン−2,5−ジカルボン酸の熱的脱カルボキシル化法において、出発物質を固体として使用し、かつ/又は反応を多数の流動層体の存在下で実施し、その際、反応を溶剤の存在下で実施し、反応の際に生じる脱カルボキシル化生成物、殊に3,4−エチレンジオキシチオフェンをガス状で反応帯域から排出することを特徴とする、ジカルボン酸の熱的脱カルボキシル化法。
【請求項2】
脱カルボキシル化を100〜600℃、有利に100〜500℃、殊に有利に150〜400℃の温度で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
方法を連続的に気泡形成式流動層又は乱流式流動層又は貫流式流動層中で、又は内部循環式流動床又は外部循環式流動床中で実施する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
反応を、殊に希ガス、窒素、水蒸気、一酸化炭素又は二酸化炭素の一連から選択された不活性補助ガス、又はこの種の種々の不活性補助ガスの混合物の存在下で実施する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
反応を流動層反応器又は流動床反応器中で実施し、その際、ジカルボン酸の粒径よりも大きな平均直径(数平均)を有する流動層体を使用する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
流動層体が0.5g・cm−3<ρ<6g・cm−3の固体密度ρを有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
流動層体を熱媒体として使用し、前記の熱媒体は反応帯域の外側を予熱し、反応帯域の周囲を循環し、部分的か又は完全に触媒活性材料から成る、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
流動層体が部分的か又は完全に触媒活性材料、殊に銅又は銅塩、有利にCuCOから成る、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
場合によりガス流により反応帯域から排出された固体を、サイクロン及び/又はフィルターを用いて生成物と分離する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
生成物ガス流から分離した未反応の出発物質の固体を、断続的か又は連続的に再度反応帯域に返送する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2006−515842(P2006−515842A)
【公表日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−559751(P2004−559751)
【出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【国際出願番号】PCT/EP2003/013679
【国際公開番号】WO2004/055023
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(504419760)ランクセス ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (58)
【氏名又は名称原語表記】Lanxess Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】D−51369 Leverkusen、 Germany
【Fターム(参考)】