説明

ジヒドロキシフタル酸類の製造方法

【課題】 ジヒドロキシフタル酸類を、特に高すぎない穏和な反応圧力で、比較的短い反応時間で製造し得る方法を提供する。
【解決手段】 アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属重炭酸塩とリチウム化合物の存在下、二価フェノールを二酸化炭素と接触させて二価フェノールをジカルボキシル化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロキシフタル酸類の製造方法に関する。
【0002】
2,5−ジヒドロキシテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸類と芳香族ジアミン又はその強酸塩とを重縮合したポリベンザゾール類は強度、弾性率、耐熱性等の数多くの優れた特性を有する産業上重要な材料の一つである。
【背景技術】
【0003】
従来、フェノール性水酸基を有する化合物にカルボキシル基を導入する方法として、コルベ−シュミット反応(Kolbe−Schmitt reaction)が知られている。この反応は、例えば、アルカリ金属のフェノキシド(フェノールの塩)に高温・高圧で二酸化炭素を接触させてオルト位をカルボキシル化させ、酸による中和後にサリチル酸を得る化学反応である。しかしながら、ヒドロキノンをジカルボキシリル化して2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を製造する場合、この反応によっては、低い転化率及び低い収率でしか目的物が得られない(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、中性溶媒中でのコルベ−シュミット反応により、中程度の収率で2,5−ジヒドロキシテレフタル酸を製造する例が報告されているが(例えば、特許文献3、4参照)、これらの方法は非常に高圧を必要とする(8〜13MPa程度)。
【0005】
比較的温和な条件により2価フェノールをジカルボキシル化する方法としては、アルカリ金属炭酸塩存在中で、フェノールを二酸化炭素と接触させることを含む方法において、アルカリ金属ギ酸塩の存在中で、ギ酸塩の融点より高い温度で反応を行う方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、この方法は、高価なアルカリ金属ギ酸塩を多量に使用するため、工業的に有利な製法とは言い難い。
【0006】
このように、工業的に有利な方法で、安価に、しかも低圧反応による穏和な条件でのジヒドロキシフタル酸類の製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭49−11841号公報
【特許文献2】特開昭48−96553号公報
【特許文献3】米国特許第3448145号明細書
【特許文献4】英国特許第1108023号明細書
【特許文献5】特表平11−515031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した背景技術を鑑みてなされたものであり、その目的は、ジヒドロキシフタル酸類を、工業的に有利な方法で、安価に、しかも低圧反応による穏和な条件で製造し得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、二価フェノールをリチウム化合物存在下でジカルボキシル化することにより、比較的穏和な条件でジヒドロキシフタル酸類が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
【化1】

すなわち、本発明は、以下に示すとおりのジヒドロキシフタル酸類の製造方法である。
【0011】
[1]二価フェノールをジカルボキシル化する方法であって、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属重炭酸塩とリチウム化合物の存在下、二価フェノールを二酸化炭素と接触させることを特徴とするジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【0012】
[2]二価フェノールが、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、2,2’−ビフェニルジオール、4,4’−ビフェニルジオール、2−メチルヒドロキノン、4−メチルレゾルシン、5−メチルレゾルシン、5−エチルレゾルシン、5−イソプロピルレゾルシン、5−n−ブチルレゾルシン、5−sec−ブチルレゾルシン、5−tert−ブチルレゾルシン、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、4−エチルカテコール、4−n−プロピルカテコール、4−イソプロピルカテコール、4−n−ブチルカテコール、及び4−tert−ブチルカテコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[1]に記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【0013】
[3]使用するリチウム化合物が水酸化リチウム及び/又は炭酸リチウムであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【0014】
[4]二価フェノール1モル当たり、0.1〜4モルのリチウム化合物を使用することを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【0015】
[5]使用するアルカリ金属炭酸塩が炭酸カリウムであることを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【0016】
[6]二価フェノール1モル当たり、1〜4モルのアルカリ金属炭酸塩を使用することを特徴とする上記[1]乃至[5]のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【0017】
[7]使用するアルカリ金属重炭酸塩が炭酸水素カリウムであることを特徴とする上記[1]乃至[6]のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【0018】
[8]二価フェノール1モル当たり、2〜8モルのアルカリ金属重炭酸塩を使用することを特徴とする上記[1]乃至[7]のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【0019】
[9]ジカルボキシル化反応を反応温度160〜240℃の範囲で行うことを特徴とする上記[1]乃至[8]のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【0020】
[10]ジカルボキシル化反応を反応圧力0.5〜5MPaの範囲で行うことを特徴とする上記[1]乃至[9]のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法によれば、ジヒドロキシフタル酸類を工業的に好ましい条件下で、例えば、反応圧力が比較的低い等、穏和な条件下で、ジカルボキシル化して目的のジヒドロキシフタル酸類を製造することができる。
【0022】
また、本発明の方法によれば、高価なアルカリ金属ギ酸塩を多量に使用するものではないため、経済的に目的のジヒドロキシフタル酸類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明は、二価フェノールをジカルボキシル化する方法であって、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属重炭酸塩とリチウム化合物の存在下、二価フェノールを二酸化炭素と接触させることをその特徴とする。
【0025】
本発明の方法において使用する二価フェノールとしては、特に限定するものではないが、例えば、無置換の二価フェノール類、置換基として炭化水素基を有する二価フェノール類等が好適なものとして挙げられる。具体的には、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、2,2’−ビフェニルジオール、4,4’−ビフェニルジオール、2−メチルヒドロキノン、4−メチルレゾルシン、5−メチルレゾルシン、5−エチルレゾルシン、5−イソプロピルレゾルシン、5−n−ブチルレゾルシン、5−sec−ブチルレゾルシン、5−tert−ブチルレゾルシン、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、4−エチルカテコール、4−n−プロピルカテコール、4−イソプロピルカテコール、4−n−ブチルカテコール、4−tert−ブチルカテコール等が例示される。
【0026】
本発明の方法において使用するリチウム化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiSCN、LiBF、LiAsF、LiClO、LiCFSO、LiC12SO、LiHgI、LiAlH、LiBH、LiCO、Li・4HO、LiF、LiOH、LiOH・HO、LiNO、LiPO、LiSO、LiSO・HO、LiB、LiAlO、LiYO、LiSiO、LiSi等の無機化合物を挙げることができる。経済性を考慮すると、本発明ではこれらのうちLiOH(水酸化リチウム)、LiCO(炭酸リチウム)の使用が特に有効である。
【0027】
本発明の方法において、リチウム化合物の添加量は、出発原料の二価フェノール1モル当たり、通常0.1〜4モルの範囲、好ましくは0.5〜2モルの範囲である。LiOHは無水物でも一水和物でもよい。
【0028】
本発明の方法において、アルカリ金属炭酸塩の使用量は、二価フェノール1モルに対して、通常1〜4モルの範囲、好ましくは2〜3モルの範囲である。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸カリウムが特に好ましい。
【0029】
本発明の方法においては、アルカリ金属炭酸塩を使用する代わりにアルカリ金属重炭酸塩を使用し、二酸化炭素及びアルカリ金属炭酸塩をアルカリ金属重炭酸塩から生成させてもよい。アルカリ金属重炭酸塩の使用量は、二価フェノール1モルに対して、通常2〜8モルの範囲、好ましくは2〜6モルの範囲である。アルカリ金属重炭酸塩としては、炭酸水素カリウム(重炭酸カリウム)が特に好ましい。
【0030】
本発明の方法において、ジカルボキシル化反応には有機溶媒を存在させることができる。使用する有機溶媒としては、反応に関与しないを使用すればよく、特に限定するものではないが、例えば、エーテル系有機溶媒、芳香族系有機溶媒等が挙げられる。具体的には、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジベンジルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系有機溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒が例示される。有機溶媒の使用量は、原料の二価フェノールに対して、通常5〜50重量倍の範囲、好ましくは10〜20重量倍の範囲である。
【0031】
本発明の方法において、ジカルボキシル化反応は、通常二酸化炭素雰囲気下で行われるが、アルゴン、水素等の反応に不活性なガスを存在させてもよい。
【0032】
本発明において、反応温度は、通常160℃以上、好ましくは180〜240℃の範囲である。また、反応圧力は、通常0.5〜5MPaの範囲、好ましくは1〜3MPaの範囲である。
【0033】
本発明の方法においては、上記したジカルボキシル化反応により、ジヒドロキシフタル酸類がそのアルカリ金属塩として得られる。ジヒドロキシフタル酸類を酸として得る方法としては、特に限定するものではないが、例えば、得られたアルカリ金属塩を水に溶解させた後、鉱酸にて遊離させることができる。ここで使用する鉱酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等を用いることができるが、塩酸を用いることが好ましい。また、得られたアルカリ金属塩を溶解させる水には、亜硫酸ナトリウム等の酸化防止剤を共存させることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を以って本発明を更に詳細に説明するが、これらによって本発明は限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
200mLの攪拌機付きオートクレーブにヒドロキノン9.00g(81.7mmol)と重炭酸カリウム19.3g(193mmol)、水酸化リチウム1.96g(81.7mmol)、炭酸カリウム0.8g(5.8mmol)、p−キシレン70mLを仕込んだ。オートクレーブを密閉、窒素置換後、0.5MPaに調整した。攪拌下に200℃まで昇温したところ、1.9MPaまで内圧が上昇した。同温にて3時間攪拌後、100℃まで冷却し、0.5%亜硫酸ナトリウム水溶液100gを加えた。オートクレーブから内容物を取り出し、0.5%亜硫酸ナトリウム水溶液150gと共に500mLの4つ口フラスコに入れた。加熱して還流させ、濃塩酸(37%)を加えて沈殿を生成させた。沈殿物を減圧濾過して採取し、減圧下で乾燥した。収量は11.5g(収率71%)で2,5−ジヒドロキシテレフタル酸が得られたことを核磁気共鳴分析、液体クトマトグラフィーより確認した。
【0036】
核磁気共鳴分析装置:バリアン社製 Gemini200,
液体クロマトグラフィー:東ソー製GPCカラム(TSK−gel Amide−80、4.6mmID×250mm)を用い、50mM酢酸アンモニウム/アセトニトリル=20/80(v/v)を溶出溶媒として、流量0.5mL/分、カラム温度40℃で通液し、東ソー製紫外可視検出器(UV−8020)にて検出した。
【0037】
[実施例2]
200mLの攪拌機付きオートクレーブにヒドロキノン9.00g(81.7mmol)と重炭酸カリウム19.3g(193mmol)、水酸化リチウム0.98g(40.9mmol)、炭酸カリウム0.8g(5.8mmol)、p−キシレン70mLを仕込んだ。オートクレーブを密閉、窒素置換後、0.5MPaに調整した。攪拌下に200℃まで昇温したところ、1.9MPaまで内圧が上昇した。同温にて3時間攪拌後、100℃まで冷却し、0.5%亜硫酸ナトリウム水溶液100gを加えた。オートクレーブから内容物を取り出し、0.5%亜硫酸ナトリウム水溶液150gと共に500mLの4つ口フラスコに入れた。加熱して還流させ、濃塩酸(37%)を加えて沈殿を生成させた。沈殿物を減圧濾過して採取し、減圧下で乾燥した。収量は8.7g(収率54%)であった。
【0038】
[比較例1]
200mLの攪拌機付きオートクレーブにヒドロキノン9.00g(81.7mmol)と重炭酸カリウム19.3g(193mmol)、炭酸カリウム0.8g(5.8mmol)、p−キシレン70mLを仕込んだ。オートクレーブを密閉、窒素置換後、攪拌下に200℃まで昇温した。同温にて3時間攪拌後、100℃まで冷却し、0.5%亜硫酸ナトリウム水溶液100gを加えた。オートクレーブから内容物を取り出し、0.5%亜硫酸ナトリウム水溶液150gと共に500mLの4つ口フラスコに入れた。加熱して還流させ、濃塩酸(37%)を加えて沈殿を生成させた。沈殿物を減圧濾過して採取し、減圧下で乾燥した。収量は4.2g(収率26%)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノールをジカルボキシル化する方法であって、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属重炭酸塩とリチウム化合物の存在下、二価フェノールを二酸化炭素と接触させることを特徴とするジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【請求項2】
二価フェノールが、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、2,2’−ビフェニルジオール、4,4’−ビフェニルジオール、2−メチルヒドロキノン、4−メチルレゾルシン、5−メチルレゾルシン、5−エチルレゾルシン、5−イソプロピルレゾルシン、5−n−ブチルレゾルシン、5−sec−ブチルレゾルシン、5−tert−ブチルレゾルシン、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、4−エチルカテコール、4−n−プロピルカテコール、4−イソプロピルカテコール、4−n−ブチルカテコール、及び4−tert−ブチルカテコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【請求項3】
使用するリチウム化合物が水酸化リチウム及び/又は炭酸リチウムであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【請求項4】
二価フェノール1モル当たり、0.1〜4モルのリチウム化合物を使用することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【請求項5】
使用するアルカリ金属炭酸塩が炭酸カリウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【請求項6】
二価フェノール1モル当たり、1〜4モルのアルカリ金属炭酸塩を使用することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【請求項7】
使用するアルカリ金属重炭酸塩が炭酸水素カリウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【請求項8】
二価フェノール1モル当たり、2〜8モルのアルカリ金属重炭酸塩を使用することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【請求項9】
ジカルボキシル化反応を反応温度160〜240℃の範囲で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法。
【請求項10】
ジカルボキシル化反応を反応圧力0.5〜5MPaの範囲で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のジヒドロキシフタル酸類の製造方法

【公開番号】特開2010−173955(P2010−173955A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17064(P2009−17064)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】