説明

ジピコリン酸の製造方法

【課題】安価に大量生産が可能なジピコリン酸の製造方法を提供することにある。
【解決手段】最も安価な一種の産業廃棄物といえるものから極めて効率良くジピコリン酸を得る方法を提供する。本発明においては、(1)蒸煮した植物素材に麹及び酵母を作用させ発酵させた後、常圧あるいは減圧状態で、アルコールを主とする揮発成分を取り除いてなる培地基質を作る。(2)前記培地基質に納豆菌を接種して醗酵物を作る。(3)前記醗酵物からジピコリン酸を精製する。即ち、本発明においては、焼酎製造時などに生じる蒸留粕を培地基質として利用する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ジピコリン酸を安価に大量生産する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ジピコリン酸は、その抗菌作用に着目し、種々の用途での研究、開発が進んでいる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これまでのジピコリン酸の製造方法はコストが高いという問題点があった。
【0004】
従って、本発明の目的は、安価に大量生産が可能なジピコリン酸の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
これまで納豆菌による各種発酵法について報告されている(須見洋行、デイリーフード、210、32−37、1997;FoodStyle 21,3(8),37−40,1999;日本家政誌、50、309、1999;日本農化誌、73、599、1999;日本農化誌、73、1187、1999;日本家政学会第52回大会要旨集、p.64、1999)。今回は、最も安価な一種の産業廃棄物といえるものから極めて効率良くジピコリン酸を得る方法を提供する。
【0006】
本発明においては、(1)蒸煮した植物素材に麹及び酵母を作用させ発酵させた後、常圧あるいは減圧状態で、アルコールを主とする揮発成分を取り除いてなる培地基質を作る。(2)前記培地基質に納豆菌を接種して醗酵物を作る。(3)前記醗酵物からジピコリン酸を精製する。
【0007】
即ち、本発明は焼酎製造時などに生じる蒸留粕を培地として利用する。焼酎粕は、2001年から海洋投棄が禁止されその消却には1トン当たり5,000円もかかるとされ社会問題にもなっており、正にただよりも安価な原料を納豆菌の培養基質とするものである。蒸留粕にグリセリンを添加するなどした後に、納豆菌を接種して常法により培養することにより、本発明の目的が達成できる。なお、蒸留粕としては、ウイスキー又は焼酎の製造段階で生じるものを使用することができる。なお、上記蒸留粕は、ウイスキーや焼酎の製造時に生じるもの以外にも、それ自体の生産を目的として製造されるものも含むことは言うまでもない。
【0008】
焼酎などの製造時に生じる蒸留粕は納豆菌の生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩などをバランス良く含んでおり、ジピコリン酸が大量生産できる。特に、イモ焼酎の蒸留粕はジピコリン酸の生産に最適であることが分かった。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、実施例にて詳細に説明する。なお、本発明は当該実施例によって何ら限定されるものではない。
【0010】
納豆菌による発酵物5gに対して1%酢酸を混合して50mlとした後、120℃、30分のオートクレーブ処理を行い、3,000rpm、10分間の遠心分離を行い得られた上清を試料とした。カチオン樹脂であるDowex MSA−1のカラム(2.5×5.0cm)に通し、蒸留水で洗浄後、0.1M酢酸、次いで1M食塩入りの1M酢酸で溶出操作を行い、各分画中のジピコリン酸量をJanssenらの方法(J.W.Janssen,
A.J.Lund and L.E.Anderson, Science, 127, 26−27, 1958)で測定し、両者をあわせたものを測定値とした。
【0011】
発酵は500mlコルベン中で300mlの焼酎粕+3%グリセリン、pH7.0 with NaOHに、目黒菌1白金耳を接種後、37℃、2日間振盪培養した。この場合のジピコリン酸(DPA)測定値は47.3ppmであった。これに対し、同条件下でイモ焼酎粕をベースにした場合には、ジピコリン酸(DPA)の測定値は、185.3ppmとなり、また、グリセリン濃度を6%とした場合は298.0ppmであった。
【0012】
実施例1
イモ(薩摩酒造、鹿児島)、米(沖縄県酒造組合)、ソバ(雲海酒造、宮崎)、ムギ(宇都酒造、熊本)等を原料とした各種焼酎の製造時に生じたスラリー状の蒸留粕に各々1NのNaOHを添加してpH7.0に調整した後、120℃、15−30分間オートクレーブ処理する。これに、納豆菌を添加、攪拌した後、振盪培養する。培養物(醗酵物)からジピコリン酸を精製する。
【0013】
実施例2
イモ焼酎の製造時に生じる蒸留粕(薩摩酒造、鹿児島)に攪拌しながら28%アンモニア水の添加を行いpH7.0に調整した後、さらに蒸留水で1.5倍に希釈しグリセリンを1〜12%(重量%)加え、その各混液0.7Lを2Lのジャーファーメンター内で温度40℃、通気0.5L/分、攪拌速度500rpmで4日間培養を行なう。得られた培養物は強いジピコリン酸濃度を示したが、特にグリセリン5−6%添加の場合が最も優れていた。培養物(醗酵物)からジピコリン酸を精製する。なお、グリセリンの添加量は2%未満では効果が少なく、10%を超えても収量増加は認められなかった。
【0014】
実施例3
イモ焼酎の製造時に生じる蒸留粕(薩摩酒造、鹿児島)の湿重量500gに対して5%量のグリセリン、及び28%アンモニア水を加えてpH7.3に調整した後、オートクレーブ処理して滅菌したものをホーローびきのトレイ(29×34cm)中に拡げ、クリーンベンチ内で1×1010個/gの目黒菌(目黒研究所、大阪)を0.1g添加して攪拌した後、アルミホイルで蓋をして40℃で4日間発酵させた。培養物(醗酵物)からジピコリン酸を精製する。
【0015】
次に、実際のジピコリン酸の製造方法について説明する。最初に、焼酎粕に納豆菌を添加し、これに水を加えて水溶液を作る。その後、この水溶液に対して、例えば、121℃で30分間のオートクレーブ処理を施す。これにより、納豆菌の胞子が壊れジピコリン酸が水溶液中に放出される。次に、ジピコリン酸を含む水溶液の上清をそのままスプレードライ手法によって乾燥させる。その後、乾燥物に対して分子カット処理を行い、ジピコリン酸のみを分別回収する。例えば、強塩基性樹脂であるMSA−1、SAR、SBR(メーカー未確認)などにより、イオン交換器で吸着させて回収することができる。
【0016】
なお、上述した「焼酎粕」、「焼酎粕」は、蒸煮したソバ等の植物素材に麹及び酵母を作用させ発酵させた後、常圧あるいは減圧状態で、アルコールを主とする揮発成分を取り除いてなるものを含む概念である。
【0017】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、安価で大量のジピコリン酸を容易に製造できるという効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸煮した植物素材に麹及び酵母を作用させ発酵させた後、常圧あるいは減圧状態で、アルコールを主とする揮発成分を取り除いてなる培地基質を作る工程と;
前記培地基質に納豆菌を接種して醗酵物を作る工程と;
前記醗酵物からジピコリン酸を精製する工程とを含むことを特徴とするジピコリン酸の製造方法。
【請求項2】
前記培地基質は、ウイスキー又は焼酎の製造時に生じる蒸留粕であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記蒸留粕は、芋焼酎の製造時に生じる蒸留粕であることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記培地基質に必要な添加物を加え、pH調整した後に、前記納豆菌を接種することを特徴とする請求項1,2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記培地基質に対する添加物として、2〜10重量%のグリセリンを用いることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記グリセリンの添加量は、約6重量%であることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
蒸煮した植物素材に麹及び酵母を作用させ発酵させた後、常圧あるいは減圧状態で、アルコールを主とする揮発成分を取り除いてなる培地基質を作る工程と;
前記培地基質にグリセリン及び納豆菌を添加し、これに水を加えて水溶液を作る工程と;
前記水溶液に対して、オートクレーブ処理を施し、前記納豆菌の胞子からジピコリン酸を前記水溶液中に放出させる工程と;
前記ジピコリン酸を含む水溶液の上清をスプレードライ手法によって乾燥させる工程と;
前記乾燥物に対して分子カット処理を行い、ジピコリン酸のみを分別回収することを特徴とするジピコリン酸の製造方法。