説明

ジャイロトロン装置

【課題】ジャイロトロン管を横置きする場合、取り付けフランジ1箇所における固定のみの場合は、ジャイロトロン管と磁場発生装置の同軸あわせが十分でない場合がある。
【解決手段】電子ビームを発生する電子銃11が一端に設けられ、他端にマイクロ波を出力する出力窓12が設けられたジャイロトロン管1と、このジャイロトロン管を同心状に囲む筒状に形成されてジャイロトロン管の動作に必要な磁場を発生する磁場発生装置2と、ジャイロトロン管を磁場発生装置の一側面に固定するためのフランジ3と、ジャイロトロン管の電子銃付近の外周部に取り付けられ、磁場発生装置の筒状の中にフランジが固定される側面側から挿入して、ジャイロトロン管と磁場発生装置の間に設けられるスペーサ4とを備え、スペーサがジャイロトロン管と磁場発生装置との同軸合わせの役目をするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロ波を発振する作用を持つジャイロトロン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジャイロトロンは、一端に電子ビームを発生する電子銃が設けられ、他端にマイクロ波を出力する出力窓が設けられ、電子銃から放射された電子ビームは磁場発生装置が発生する磁力線に沿って進み、ジャイロトロン内部にある空洞部分においてマイクロ波を発生し、それを出力窓から取り出すようにしている。
【0003】
ジャイロトロンは例えばクライストロンなどと同様、電子銃部分に高電圧(80から100kV程度)を印加する必要があり、電子銃部分の電極間の絶縁のために電子銃部分を絶縁油に浸るようにするのが一般的である。そのために、ジャイロトロンを縦置きにすることになり、その状況は例えば特許文献1の図1に示されている。
【0004】
一方、工業用のジャイロトロンは、電子銃に印加する電圧は25kV以下であるため、電子銃部分を絶縁油に浸す必要が無く、その結果、ジャイロトロンを横置きにすることが可能である。
このような横置きジャイロトロンにおいて、電子銃、キャビティ、コレクタ、出力窓が一端より他端側に順に設けられたジャイロトロン管と、このジャイロトロン管を同心状に囲む筒状に形成されてジャイロトロン管の動作に必要な軸方向磁場を発生する永久磁石と、この永久磁石とジャイロトロン管との間に配置されて永久磁石の磁場を補正する電磁石とを備えたジャイロトロン装置が、例えば特許文献2の図1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−100226号公報(図1)
【特許文献2】特開2000−200557号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ジャイロトロンを横置き(ジャイロトロンの軸がほぼ水平になる状態)にする場合、例えば特許文献2の図1に示されたジャイロトロン装置では、ジャイロトロンを支える箇所は、永久磁石ユニットの端部に設けられた磁性フランジとジャイロトロン管のコレクタの外周面に環状に突設された非磁性フランジとをボルトにより固定するようにした1箇所だけであり、電子銃部分の磁場発生装置に対する同軸合わせ精度が十分でない場合がある。
【0007】
また、ジャイロトロン管を横置きにして筒状に形成された磁場発生装置の内周部に挿入する際に、電子銃部分が磁場発生装置の内面に衝突することがあり、最悪の場合は電子銃部分に損傷を与えることがある。
【0008】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたものであり、ジャイロトロン管と磁場発生装置の同軸合わせが簡単で、ジャイロトロン管の電子銃部分に損傷を与えることのないジャイロトロン装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のジャイロトロン装置は、電子ビームを発生する電子銃が一端に設けられ、他端にマイクロ波を出力する出力窓が設けられたジャイロトロン管と、このジャイロトロン管を同心状に囲む筒状に形成されてジャイロトロン管の動作に必要な磁場を発生する磁場発生装置と、ジャイロトロン管を磁場発生装置の一側面に固定するためのフランジと、ジャイロトロン管の電子銃付近の外周部に取り付けられたスペーサとを備え、スペーサが取り付けられたジャイロトロン管を磁場発生装置の筒状の中にフランジが固定される側面側から挿入して、スペーサがジャイロトロン管と磁場発生装置の間に設けられるようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明は、ジャイロトロン管の電子銃部分に、磁場発生装置との同軸合わせのためのスペーサを取り付けたので、ジャイロトロン管の電子銃部分と磁場発生装置との同軸が精度よく得られ、設計どおりのジャイロトロン性能が得やすくなる。
また、同軸合わせのためのスペーサが磁場発生装置の内面を滑るようにしながらジャイロトロン管を磁場発生装置の内周部に挿入できるので、電子銃部分に損傷を与える可能性が低くなり、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1のジャイロトロン装置を示す構成図である。
【図2】実施の形態1で使用されるスペーサの形状を示す正面図と側面図である。
【図3】この発明の実施の形態2で使用されるスペーサの形状を示す正面図である。
【図4】この発明の実施の形態3で使用されるスペーサの形状を示す正面図である。
【図5】この発明の実施の形態2、3で示されているスペーサを使用した場合の、スペーサと磁場発生装置の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1におけるジャイロトロン装置を図1および図2により説明する。図1はジャイロトロン装置を示す構成図、図2(a)(b)はジャイロトロン装置に使用されるスペーサの形状を示す正面図と側面図である。
図1において、マイクロ波を発振するジャイロトロン管1は、一端に電子ビームを発生する電子銃11が設けられ、他端にマイクロ波を出力する出力窓12が設けられ、その中間は真空雰囲気の空洞部分になっている。電子銃11は図示しないカソードとアノードからなる電極を有し、電極間には絶縁を施すセラミック部品などの絶縁部13が設けられている。
【0013】
ジャイロトロン管1が発振するために必要な磁場を発生する磁場発生装置2は、例えば電磁石などで構成され、ジャイロトロン管1を同心状に囲む筒状に形成されている。ジャイロトロン管1を磁場発生装置2に支持固定させるため、ジャイロトロン管1の出力窓12側の空洞部分外周面に環状に突設されたフランジ3が取り付けられ、このフランジ3を磁場発生装置2の一側面にボルトなどで固定している。
【0014】
フランジ3が固定される磁場発生装置2の一側面とは反対側の側面の端部においては、ジャイロトロン管1の電子銃11付近の外周部に取り付けられ、ジャイロトロン管1と磁場発生装置2の間に設けられて、ジャイロトロン管1の電子銃11部分と磁場発生装置2との同軸合わせのためのスペーサ4が備えられている。
このスペーサ4は、図2(a)(b)に示すようなリング状の形状に構成され、材料は絶縁材料であることが好ましく、例えばテフロン(登録商標)などが考えられる。
【0015】
スペーサ4は、電子銃11部分の端部から通すようにしてジャイロトロン管1の外周部に取り付け、電子銃11の絶縁部13より少し離れた出力窓12側に固定する。そして、スペーサ4を取り付けたジャイロトロン管1を図1の右側から、即ち、フランジ3が固定される磁場発生装置2の側面側から磁場発生装置2の筒状の中に挿入するが、その際、スペーサ4の外周部が磁場発生装置2の内面を滑りながら進むようにする。
【0016】
図1のように、ジャイロトロン管1が横置きの状態で磁場発生装置2に取り付けるに際し、フランジ3以外に、電子銃11部分においてもジャイロトロン管1を支えることによって、同軸合わせが確実に行えるようにする必要があり、スペーサ4はその役目を担っている。
【0017】
こうしてジャイロトロン管1を磁場発生装置2に支持する箇所は、ジャイロトロン管1の出力窓12側の空洞部分外周面に取り付けられたフランジ3と磁場発生装置2の一側面との固定部と、ジャイロトロン管1の電子銃11付近の外周面と磁場発生装置2との間に同軸合わせのために設けられたスペーサ4の2箇所となる。そのため、ジャイロトロン管1の電子銃11部分と磁場発生装置2との同軸が精度よく得られ、設計どおりのジャイロトロン性能が得やすくなる。
【0018】
上記のように構成したジャイロトロン装置において、電源装置(図示なし)から供給される直流電圧により、電子銃11から電子ビームが放射される。この電子ビームは、磁場発生装置2が発生する磁力線に沿って進み、ジャイロトロン管1の内部にある空胴部分において、マイクロ波を発生させる。発生したマイクロ波は出力窓12から取り出される。
ジャイロトロン装置はこのような動作をするため、ジャイロトロン管1と磁場発生装置2の同軸合わせは、ジャイロトロン装置の性能を確保するために重要である。
【0019】
以上のように、実施の形態1の発明は、スペーサ4をジャイロトロン管1の電子銃11の付近に取り付けるようにしたので、ジャイロトロン管1を横置きとした場合であっても、ジャイロトロン管1と磁場発生装置2との同軸合わせが正確に行えるようになるので、設計どおりの性能が得られやすくなる効果がある。
また、ジャイロトロン管1の挿入作業の際には、スペーサ4の外周部が磁場発生装置2の内面を滑りながら進むので、電子銃11部分が磁場発生装置2の内面に直接衝突することを避けることができ、電子銃11部分、特に絶縁部13のセラミック部品が損傷を受ける可能性が低くなり、信頼性が向上する。
【0020】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2におけるジャイロトロン装置を図3により説明する。図3はジャイロトロン装置に使用されるスペーサの形状を示す正面図である。
実施の形態1の発明に使用されたスペーサ4は、単なるリング状の部品を用いていたが、実施の形態2の発明に使用されるスペーサ4は、図3に示すようにリング状の外周部に複数(図示の場合は4個)の突起4aを設けた形状にしたものである。このスペーサ4の材料は、実施の形態1と同様にテフロン(登録商標)などの絶縁材料で構成される。
この形状の場合はスペーサ4の外周部が部分的に磁場発生装置2の内面に接することになるが、スペーサ4の役割としてはこれでも問題は無い。
【0021】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3におけるジャイロトロン装置を図4により説明する。図4はジャイロトロン装置に使用されるスペーサの形状を示す正面図である。
実施の形態2の発明に使用されたスペーサ4は、一体部品でリング状の外周部に複数の突起4aを設けた形状にしたが、実施の形態3の発明に使用されるスペーサ4は、図4に示すようにリング状を2分割とし、分割した部品を互いにネジ5などで締め付けて固定し、リング状の外周部に複数の突起4aを設けた形状にしたものである。
【0022】
この実施の形態3の場合、スペーサ4は分割した部品を互いにネジ5などで締め付けて形成しているため、ジャイロトロン管1の外周を分割したスペーサ4で囲み、ネジ5などで分割部品を互いに締め付けることにより、スペーサ4をジャイロトロン管1の外周に取り付けることが可能となるので、図2のスペーサと同等の効果が得られると同時に、スペーサ4の内径寸法を精度よく加工しなくてもジャイロトロン管1への取り付け作業が簡単になる。
【0023】
実施の形態2および3のスペーサ4を使用した場合のスペーサ4と磁場発生装置2の位置関係を図5に示す。図5はスペーサ4と磁場発生装置2の位置関係を軸方向に見た時の状況を示している。
この場合、スペーサ4は4箇所で磁場発生装置2と接することになる。なお、当然のことながら、スペーサ4の外周直径は磁場発生装置2の内面直径より僅かに小さく製作することになるので、厳密な意味では4箇所で接していない場合もある。
【0024】
なお、実施の形態2および3においては、図3、図4に示すようにスペーサ4の突起4aが4箇所あるスペーサを示したが、突起4aの個数は4個以外でも同等の効果が得られることは明らかである。
【符号の説明】
【0025】
1:ジャイロトロン管
2:磁場発生装置
3: フランジ
4:スペーサ
5:ネジ
11:電子銃
12:出力窓
13:絶縁部(セラミック部品)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生する電子銃が一端に設けられ、他端にマイクロ波を出力する出力窓が設けられたジャイロトロン管と、このジャイロトロン管を同心状に囲む筒状に形成されてジャイロトロン管の動作に必要な磁場を発生する磁場発生装置と、前記ジャイロトロン管を前記磁場発生装置の一側面に固定するためのフランジと、前記ジャイロトロン管の電子銃付近の外周部に取り付けられたスペーサとを備え、前記スペーサが取り付けられたジャイロトロン管を前記磁場発生装置の筒状の中に前記フランジが固定される側面側から挿入して、前記スペーサが前記ジャイロトロン管と前記磁場発生装置の間に設けられるようにしたジャイロトロン装置。
【請求項2】
スペーサは絶縁材料から成っていることを特徴とする請求項1に記載のジャイロトロン装置。
【請求項3】
スペーサはリング状の形状をしている請求項1または請求項2に記載のジャイロトロン装置。
【請求項4】
スペーサはリング状をしており、その外周部には複数の突起を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のジャイロトロン装置。
【請求項5】
スペーサは複数の部品で構成され、それを固定してリング状の形状にしたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のジャイロトロン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−151068(P2012−151068A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10759(P2011−10759)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】