説明

スイッチング電源装置とその起動方法

【課題】 起動直後の大きな電圧変動の発生を抑圧し、予め決められたオン/オフ期間により任意にしかも高速に電圧を起動させる。
【解決手段】 ドライブ信号(15,16)に基づいてスイッチ素子をオン/オフ制御することで出力電圧を制御するスイッチング電源回路(10)と、スイッチング電源回路(10)の出力電圧からモニタ信号を取り出すモニタ信号抽出部(11,12,13)と、スイッチング電源回路(10)に起動指示から一定期間に渡って予め決められたオン/オフ期間のドライブ信号を送って予備起動させ、モニタ信号と基準信号とを比較して誤差信号を得て、予備起動の動作期間完了後、誤差信号に基づいてドライブ信号のオン/オフ期間をフィードバック制御する演算処理回路(14)とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、例えばレーダ送信装置において、矩形波電圧が必要とされるRFモジュールに電源を供給するスイッチング電源装置とその起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、レーダ送信装置のRFモジュールでは、矩形波電圧が必要であり、その電源供給にはスイッチング電源装置が用いられる。このスイッチング電源装置に要求される立ち上がり時間は数μs以下であり、これは数百kHz〜数MHzのスイッチング電源装置の周期に換算すると、数回程度のスイッチング回数しかない。
【0003】
従来のスイッチング電源装置では、起動直後、または、一定の電圧に達した後、フィードバック制御を開始するスロースタート方式が一般的である。しかしながら、上記のようなスロースタート方式では、数回程度のスイッチング回数で起動した場合、起動直後に誤差増幅器の信号が大きくなりすぎて、誤差増幅器が飽和してしまい、制御不能状態となり、起動後に大きな電圧変動を発生してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−297983号公報
【特許文献2】特開2004−297985号公報
【特許文献3】特開2006−180599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来のスイッチング電源装置では、数回程度のスイッチング回数で起動した場合に、起動直後に誤差増幅器の信号が大きくなりすぎて誤差増幅器が飽和してしまい、制御不能状態となり、起動後に大きな電圧変動を発生してしまう問題があった。
【0006】
本実施形態は上記の課題に鑑みてなされたもので、起動直後の大きな電圧変動の発生を抑圧し、予め決められたパルス数により任意にしかも高速に電圧を起動させることのできるスイッチング電源装置とその起動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、本実施形態に係るスイッチング電源装置は、ドライブ信号に基づいてスイッチ素子をオン/オフ制御することで出力電圧を制御するスイッチング電源回路と、前記スイッチング電源回路に起動指示から一定期間に渡って予め決められたオン/オフ期間のドライブ信号を送る予備起動手段と、前記スイッチング電源回路の出力電圧からモニタ信号を取り出すモニタ信号抽出手段と、前記モニタ信号と基準信号とを比較して誤差信号を得る比較手段と、前記予備起動手段の動作期間完了後、前記誤差信号に基づいて前記ドライブ信号のオン/オフ期間を制御するフィードバック制御手段とを具備する態様とする。
【0008】
また、本実施形態に係るスイッチング電源装置の起動方法は、ドライブ信号に基づいてスイッチ素子をオン/オフ制御することで出力電圧を制御するスイッチング電源回路に対して、起動指示から一定期間に渡って予め決められたオン/オフ期間のドライブ信号を送って前記出力電圧を増加させる予備起動を行い、前記スイッチング電源回路の出力電圧からモニタ信号を取り出し、前記モニタ信号と基準信号とを比較して誤差信号を取得し、前記予備起動の動作期間完了後、前記誤差信号に基づいて前記ドライブ信号のオン/オフ期間をフィードバック制御する態様とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係るスイッチング電源装置の構成を示すブロック回路図。
【図2】図1に示す本実施形態の動作原理を説明するための波形図。
【図3】図1に示す本実施形態の演算処理回路の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本実施形態について説明する。
【0011】
図1は本実施形態に係るスイッチング電源装置の構成を示すブロック回路図である。図1において、スイッチング電源回路10は、入力電圧源1より電圧Vinが供給され、負荷2に任意の出力電圧Vout を供給する。出力電圧Vout はスイッチ素子のオン/オフを制御するドライブ信号を発生するドライブ回路16により制御される。
【0012】
スイッチング電源回路10は、例えば特許文献3に示される不連続モードのコンバータである。尚、これは一例であって、通常のDC/DCコンバータでよく、スイッチ素子が1個の簡単なものでもかまわない。
【0013】
スイッチング電源回路10の出力電圧Vout をモニタするため、抵抗11,12によって適切な電圧に分圧し、モニタ信号として取り出す。このモニタ信号はA/D(アナログ/デジタル)コンバータ13に供給される。ここでは、分圧のための抵抗11,12を入れているが、必要ない場合は特に無くてもよい。A/Dコンバータ13により、モニタ信号はアナログ信号からデジタル信号へ変換され、演算処理回路14に供給される。
【0014】
この演算処理回路14では、A/Dコンバータ13から供給される出力電圧Vout のモニタ信号を内部の基準信号源141で発生される基準信号と誤差増幅器(差分演算)142にて比較してその差分に応じた誤差信号を求める。これによって得られた誤差信号は、例えばPID(Proportional Integral Differential:比例・積分・微分)制御回路144に供給される。また、演算によって得られたデータ、誤差信号のデータはメモリ145に格納される。尚、リミッタ143は、誤差信号が起動時に過大になる、すなわちオーバーシュートになることを防ぐためのもので、起動後に外してもかまわない。
【0015】
起動時の予め決められたパルス幅のデータはメモリ145に格納されており、起動時はメモリ145からのパルス幅データがPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)回路15に供給され、起動後はPID制御の演算結果がPWM回路15に供給される。制御方式はPID制御以外にPI制御、ロバスト制御等、誤差信号を増幅する制御方式であればどのような方式でもかまわない。また、パルス出力に同期したパルス信号源3からのパルス信号を演算処理回路14に入力することにより、スイッチング電源10のオン/オフを制御する。
【0016】
例えばPWM回路15によりパルス幅変調された信号を、例えばドライブ回路16に出力する。PWM回路15はPFM変調、フェーズシフト等コンバータの出力電圧を制御する方式であれば、どのような方式でもかまわない。
【0017】
例えばドライブ回路16で信号を増幅し、スイッチング電源回路10のスイッチング素子のオン/オフを制御する。PWM回路15にスイッチング電源回路10のスイッチング素子のオン/オフをドライブできる能力があれば、無くてもかまわない。この場合、PWM回路15をスイッチング電源回路10に直接接続する。
【0018】
図1の回路図において、各部波形を図2に示して説明する。
【0019】
スイッチング電源回路10は、例えば特許文献3に示される不連続モードのコンバータを2フェーズ動作で動かすものとする。簡略化のため、スイッチ素子はハイサイドの信号のみをPWM1〜PWM4として表わし、図面上のハイレベルをオンとする。パルス出力に同期したパルス信号源3からのパルス信号をON/OFF信号として表わし、図面上のハイレベルをオンとする。PWM回路15への演算処理回路14のデータの値はd1〜d8、c1〜c8と表わす。d1〜d8はメモリ145により格納された予め決められたパルス幅のデータであり、c1〜c8はPID制御回路144により演算されたフィードバック制御のデータである。出力電圧Vout 上の○印はサンプルポイントを表わす。
【0020】
起動指示が与えられると、ON/OFF信号がOFFからONになる。このとき、メモリ145により格納された予め決められたパルス幅のデータとPWM信号をPWM1〜PWM4へそれぞれ出力し、それに応じたパルス幅により、スイッチング電源回路10がオンし出力電圧が増加し始める。データd1〜d8のデータを変えることにより、起動時間はスイッチング電源回路10の起動限界速度以下であれば、任意に調整することができる。
【0021】
なお、不連続コンバータは1次遅れの系であり、基本的にオーバーシュートは発生しない。また、起動中にも、起動後にPID制御回路144のために必要なデータをサンプリングし、メモリ145に格納する。
【0022】
ここで、出力電圧Vout のモニタ信号と基準信号と比較して得られた誤差信号の値が大きく、PID制御回路144の演算結果が過剰な値となり、その結果、出力電圧Vout が大幅に変動する状況となったとする。しかしながら、起動時に生じる大幅な変動の誤差信号はリミッタ143により制限され、過剰な電圧が加わるのを防ぐ。これにより、少ないスイッチング周期で、オーバーシュートを発生させることなく高速に起動することができ、フィードバック制御に移行したときも、電圧変動は発生せずにスムーズに移行できるスイッチング電源装置を構成することができる。
【0023】
上記演算処理回路14の具体的な処理の流れを図3に示す。図3において、初期状態ではPWM1〜PWM4はいずれもOFF状態となっている(ステップS1)。パルス信号源3からのパルス信号によるON/OFF信号がONとなった時点で(ステップS2)、データ1,2を出力し(ステップS3)、A/Dコンバータ13からサンプリングデータを取得する(ステップS4)。このとき、出力電圧Vout のモニタ信号と基準信号との差が大きいため、リミッタ143による制限が加わる(ステップS5)。続いて、データ3,4を出力し(ステップS6)、A/Dコンバータ13からサンプリングデータを取得する(ステップS7)。この時点でも、出力電圧Vout のモニタ信号と基準信号との差が大きいため、リミッタ143による制限が加わる(ステップS8)。
【0024】
同様に、データ5,6を出力し(ステップS9)、A/Dコンバータ13からサンプリングデータを取得する(ステップS10)。この時点でも、出力電圧Vout のモニタ信号と基準信号との差が大きいため、リミッタ143による制限が加わる(ステップS11)。続いて、データ7,8を出力し(ステップS12)、A/Dコンバータ13からサンプリングデータを取得する(ステップS13)。この時点で、出力電圧Vout のモニタ信号と基準信号との差が許容範囲に入ると、PID制御回路144にてPIDが計算され(ステップS14)、その計算結果に基づいてPWM1〜PWM4に対するPWM信号が演算出力される(ステップS15)。
【0025】
この時点でON/OFF信号を監視し(ステップS16)、ONのまま継続している場合には(N)、ステップS13〜S15の処理を繰り返す。ステップS16でOFFとなった場合には(Y)、ステップS1に戻り、ON待機状態となる。
【0026】
以上のように、本実施形態によると、スイッチング電源回路の起動直後のオーバーシュートを発生させず、予め決められたパルス幅により任意にしかも高速に電圧を起動させることができる。特に、起動時に誤差信号に過大入力が印加されるのを防ぐため、誤差信号の感度を落とすことで、フィードバック制御へ切り換えた直後の電圧変動を防止することができる。
【0027】
尚、上記実施形態はそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせでもよい。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…入力電圧源、2…負荷、3…パルス信号源、10…スイッチング電源回路、11,12…抵抗、13…A/Dコンバータ、14…演算処理回路、141…基準信号源、142…誤差増幅器(差分演算)、143…リミッタ、144…PID制御回路、145…メモリ、15…PWM回路、16…ドライブ回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブ信号に基づいてスイッチ素子をオン/オフ制御することで出力電圧を制御するスイッチング電源回路と、
前記スイッチング電源回路に起動指示から一定期間に渡って予め決められたオン/オフ期間のドライブ信号を送る予備起動手段と、
前記スイッチング電源回路の出力電圧からモニタ信号を取り出すモニタ信号抽出手段と、
前記モニタ信号と基準信号とを比較して誤差信号を得る比較手段と、
前記予備起動手段の動作期間完了後、前記誤差信号に基づいて前記ドライブ信号のオン/オフ期間を制御するフィードバック制御手段と
を具備することを特徴とするスイッチング電源装置。
【請求項2】
さらに、少なくとも前記予備起動手段の動作期間において前記誤差信号を規定レベルで制限するリミッタを備えることを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記スイッチング電源回路は不連続モードのコンバータであることを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
ドライブ信号に基づいてスイッチ素子をオン/オフ制御することで出力電圧を制御するスイッチング電源回路に対して、
起動指示から一定期間に渡って予め決められたオン/オフ期間のドライブ信号を送って前記出力電圧を増加させる予備起動を行い、
前記スイッチング電源回路の出力電圧からモニタ信号を取り出し、
前記モニタ信号と基準信号とを比較して誤差信号を取得し、
前記予備起動の動作期間完了後、前記誤差信号に基づいて前記ドライブ信号のオン/オフ期間をフィードバック制御することを特徴とするスイッチング電源装置の起動方法。
【請求項5】
さらに、少なくとも前記予備起動の動作期間において前記誤差信号を規定レベルで制限することを特徴とする請求項4の記載スイッチング電源装置の起動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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