説明

スエード調の外観を有する多層抄き包装紙

【課題】低コストで製造することができ、紙製品でありながら、製袋用途、あるいは包装用途に適した一般的な紙とは異なるスエード調の外観及び手触り感を有し、且つ高い防滑性と耐罫線割れ適性を合わせ持った、特に製袋用に好適なスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を提供する。
【解決手段】表層、及び裏層の少なくとも2層の紙層により基紙が構成された多層抄き包装紙において、少なくとも表層の表面に樹脂粒子を含有する水分散系の樹脂を塗工して塗工層を形成してスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を作る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スエード調の外観を有すると共に、スエード調の手触り感も備え、美粧性に優れた、特に製袋用に好適な多層抄き紙に関する。
【背景技術】
【0002】
ショッピングバッグなどの手提げ袋、雑貨・食品などの角底袋、あるいは封筒などに使用する包装用紙、または商品のパッケージとして使用する包装紙は、紙または多層抄き紙に適宜の絵柄や模様を直接印刷することによって製造される。最近では製袋原紙、段ボール原紙にも、高級感が好まれる傾向があり、それにともなって、外観はもちろん、触感も質の良いものや変わったものが求められるようになっている。
【0003】
高級感のある紙または多層抄き紙のひとつとして、スエード調の外観を有するものがある。スエード調とは、革の裏面をサンドペーパーでベルベット状(表面に毛羽を織り出した柔らかな布地)に起毛したもので、毛足が起毛した状態のことを言う。
【0004】
従来、このようなスエード調の外観を有する素材の製造方法として以下のものが知られている。
【0005】
例えば特許文献1には、感熱化剤と整泡剤を含有するアクリル酸エステル共重合体エマルジョンからなるバインダーを主成分とする水性樹脂組成物を、例えば高速プロペラミキサーで撹拌して起泡させ、基材表面の全面に捺印あるいはコーティングにより組成物層を形成した後、この組成物層を湿潤状態で加熱し起泡状態のままゲル化し乾燥することにより、多孔質で軽くて風合いのよい立体模様層を得、この立体模様層をエンボスロール等によりエンボス化させ、あるいはサンディングによりスエード調の立体模様を形成するようにした、スエード調の外観を有する素材の製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、この方法においては、塗布あるいはスクリーン印刷する水性樹脂組成物を調整する段階で、粘度の調整、撹拌機による気泡(発泡)を行う必要があり、塗工液を調整するための設備が必要となると共に製造時間を要する。また、スエード調の外観を得るために塗工後に水性樹脂組成物をゲル化させるのに実施例では10〜15分の熱乾燥を行い、更には得られた立体樹脂皮膜表面をサンドペーパーでサンディングするとあるため、操業性が悪く、製造時間の増加及び製造コストの増加となる問題がある。また、製袋用途として加工した場合に、折れ適性に不具合があり、加工効率を悪化させている。
【0007】
また、例えば特許文献2には、基材の中間層及び表層のうちの少なくとも一方が膨張層と表皮層とを備える装飾材において、膨張層には重合体中に熱膨張したマイクロカプセルを分散させ、表皮層にはウレタンビーズ、シリコンビーズ及びシリコンオイルのうちの少なくとも1種を含有させることにより、表面の凹凸が緻密で微細な外観を呈し、また柔らかい感触をも備え合わせ、艶消し調であって、且つしっとりとしたスエード調の外表面を有する装飾材及びその製造方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、この方法においては、紙の表面に熱膨張性マイクロカプセルを分散塗工し、またウレタンビーズ、シリコンビーズ及びシリコンオイルのうち少なくとも1種を配合した塗工液を塗布する必要があるが、このような塗工には下塗り剤として使用する塗料は有機溶剤で希釈されたものが好ましいことから、塗工設備は防爆仕様であることが必須条件である。また、大気汚染防止法に伴うVOC規制により、VOC排出基準を満たすための工場設備が必要となり、設備費用が発生するという問題がある。さらに、スエード調の紙は製袋会社、印刷会社、段ボール会社にて加工されることから、紙または板紙が滑ることにより操業性や輸送性の面での問題が発生してはならないという制約がある。
【0009】
また、特許文献3には、耐熱性及び耐溶剤性を有するプラスチックの補助フィルムにビーズ顔料を含有する塗料を塗布して塗膜を形成し、この塗膜が表面となるように、補助フィルムを包装に適した紙類の上にラミネートすることにより、スエード調の外観を維持した包装用紙の製造方法が提案されている。
【0010】
しかしながら、この方法においては、スエード調に成形したフィルムを紙または板紙に貼り合せるための2次加工が必要となり、このため工程数や製造時間が増加して製造コストがアップするという問題がある。また、フィルム貼合品は紙とフィルムの分別が困難であるため、古紙としてリサイクルすることが難しいという問題がある。さらに、ビーズ顔料なる顔料粒子が合成樹脂で被覆された形態のものを含有する塗料を使用し、紙に直接塗布してスエード調の外観を得ようとしても、特許文献3の第1頁右欄の記載からも分かるように、従来の技術では紙に粒形状の合成樹脂を含有する塗工液を塗工することによりスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を製造することは困難であった。
【0011】
【特許文献1】特公平8−30307公報
【特許文献2】特許第3786763号公報
【特許文献3】特開平4−144743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述したような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、低コストで製造することができ、紙製品でありながら、製袋用途、あるいは包装用途に適した一般的な紙とは異なるスエード調の外観及び手触り感を有し、且つ高い防滑性と耐罫線割れ適性を合わせ持った、特に製袋用に好適なスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、表層、及び裏層の少なくとも2層の紙層により基紙が構成された多層抄き包装紙において、少なくとも前記表層の表面に樹脂粒子を含有する水分散系の樹脂を塗工して塗工層を形成したことを特徴とするスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を提供することによって達成される。
【0014】
また、本発明の上記目的は、前記樹脂が重量固形分で片面当り0.9〜12.0g/m塗工されていることを特徴とするスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を提供することによって、効果的に達成される。
【0015】
また、本発明の上記目的は、前記樹脂粒子の平均粒子径が4〜20μmであることを特徴とするスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を提供することによって、より効果的に達成される。
【0016】
また、本発明の上記目的は、JIS−P8147(1994)の滑り角度試験に準拠して測定した滑り角度が19度以上であり、またJIS−B0601(1994)の表面粗さ試験に準拠して測定した高低値(Ry)が21μm以下であることを特徴とするスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を提供することによって、より効果的に達成される。
【0017】
さらにまた、本発明の上記目的は、JIS−P8118(1998)の厚さ及び密度の試験方法に準拠して測定した密度が0.35〜0.93g/cmであることを特徴とするスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を提供することによって、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る多層抄き包装紙は、表層、及び裏層の少なくとも2層の紙層により基紙が構成され、少なくとも表層の表面に樹脂粒子を含有する水分散系の樹脂を塗工して塗工層が形成されて成り、スエード調の外観及び手触り感を有し、美粧性に優れ、且つ高い防滑性と耐罫線割れ適性を合わせ持った紙であるので、特に高級な印象を与えるショッピングバッグ等の製袋用あるいは段ボールケース等の製函用に好適であり、また、低コストで製造することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るスエード調の外観を有する多層抄き包装紙について詳細に説明する。なお、本発明に係るスエード調の外観を有する多層抄き包装紙は以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲において、適宜変更可能であることはいうまでもない。
【0020】
本発明に係るスエード調の外観を有する多層抄き包装紙(以下、「本多層抄き包装紙」と言う。)は、表層、及び裏層の少なくとも2層の紙層により基紙が構成されている。また、本多層抄き包装紙は、少なくとも表層の表面に樹脂粒子を含有する水分散系の樹脂を塗工して塗工層を形成することにより、スエード調の手触り感を付与することができる。
【0021】
本多層抄き包装紙の基紙に使用される原料パルプは、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の木材繊維を主原料として化学的に処理されたパルプやチップ、あるいは木材以外の繊維原料であるケナフ、麻、葦等の非木材繊維を主原料として化学的に処理されたパルプやチップを機械的にパルプ化したグランドパルプ、木材またはチップに化学薬品を添加しながら機械的にパルプ化したケミグランドパルプ、及びチップを柔らかくなるまで蒸解した後、レファイナー等でパルプ化したセミケミカルパルプ等のバージンパルプ及びクラフトパルプ、セミケミカルパルプ、酵素漂白パルプを含むオフィス上物古紙を脱墨、漂白したパルプ、牛乳パック古紙上質断裁落ち古紙、コート断裁落ち古紙、上白、特白、中白等未印刷、地券、新段、新聞、クラフト封筒、模造、雑誌の古紙から得られる回収パルプ等をあげることができる。なお、古紙パルプを多く利用すると環境負荷が低減されるという利点がある。
【0022】
また、本多層抄き包装紙は、表層の原料パルプ中に着色剤を配合して着色層とし、多層抄き包装紙の表面を着色しても良い。なお、本多層抄き包装紙は、中層、あるいは裏層の原料パルプ中に着色剤を配合して中層及び/又は裏層も着色層としても良い。
【0023】
着色剤としては、アニオン性直接染料やカチオン性直接染料とともに、色が美しく、色濃度が高い塩基性染料を用いることができる。なお、これらの染料を2種以上添加する場合の染料の添加順序は、初期の段階でアニオン性直接染料を添加し、硫酸バンドを添加してpH調整を行った後、塩基性染料とそれに必要な定着剤を添加し、インレットに近い場所で高速染着性を有し、吸尽性が高く、耐水堅牢度や日光堅牢度が良好なカチオン性直接染料を添加するのが好適である。さらに、顔料を添加することで、一層濃色で且つ一層耐候性の高い着色を実現できる。なお、顔料としては公知の種々のものを用いることができる。
【0024】
表層に用いられる原料パルプは、フリーネスを250〜400ml、特に250〜350mlに調整することが好ましい。表層のフリーネスが250ml未満であると、繊維間が密になりやすく、多層抄き紙の脱水不良が発生すると共に、繊維長が短くなることにより、製袋加工時に罫線割れ、破袋が発生しやすくなる。逆に400mlを超えると、繊維間が疎になりやすく、多層抄き包装紙の地合い不良が発生すると共に、繊維長が長く原料パルプの不透明性が低下することにより、表層の色調が変動する恐れがある。すなわち、多層抄き包装紙のスエード感が損なわれることにより、美粧性が低下してしまう。
【0025】
また、裏層に用いられる原料パルプは、フリーネスを250〜450ml、特に250〜400mlに調整することが好ましい。裏層のフリーネスが250ml未満であると、繊維間が密になりやすく、樹脂を塗工した後の乾燥時において紙中の水分が裏面に抜けにくくなる。逆に裏層のフリーネスが450mlを超えると、多層抄き包装紙の表層の原料パルプのフリーネスと裏層の原料パルプのフリーネスとの差が大きくなってしまうため、乾燥後にカールが発生してしまう。
【0026】
また、本多層抄き包装紙が3層以上の場合は、中層に用いられる原料パルプは、フリーネスを250〜450ml、特に250〜400mlに調整することが好ましい。中層のフリーネスが250ml未満であると繊維間が密になりやすく、多層抄き包装紙の脱水不良が発生し、乾燥不良となると共に、繊維長が短くなることにより引裂強度が低下傾向となり、製袋加工時に罫線割れ、破袋が発生しやすくなる。逆に中層のフリーネスが450mlを超えると繊維間が疎になりやすく、多層抄き包装紙の地合い不良が発生すると共に、引っ張り強度が低下傾向となり製袋加工時の破れが発生しやすくなる。
【0027】
なお、上記原料パルプのフリーネスの調整方法としては、例えばシングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、コニカルリファイナーなどの公知の叩解機を使用することができる。
【0028】
なお、本明細書において、フリーネスとはJIS−P8220(1998)離解方法に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、JIS−P8121(1995)パルプのろ水度試験方法に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて濾水度を測定した値である。
【0029】
また、基紙中には、必要に応じて填料、歩留向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤、定着剤、蛍光増白剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤、発泡剤等の抄紙用内添助剤を適宜配合することができる。
【0030】
本多層抄き包装紙の基紙の坪量は、特に限定されるものではないが、通常50〜220g/m、好ましくは70〜200g/mである。坪量が50g/m未満であると、本多層抄き包装紙を製袋原紙、あるいは包装原紙として加工する際に、その強度を確保することが難しい。逆に、坪量が220g/mを超えると、過剰品質となるだけでなく、製造コストが高くなるだけである。なお、本明細書における坪量とはJIS−P8124(1998)の坪量測定方法に準拠して測定した値である。
【0031】
また、本多層抄き包装紙の抄造においては、樹脂の基紙内部への吸水性を調整するため、酸性ロジンサイズ剤、中性ロジンサイズ剤、アルキルケテンダイマーなど公知のサイズ剤を内添することにより、JIS−P8140(1998)に準じて測定された樹脂を塗工する前の紙(以下、「塗工前原紙」と言う。)のコッブサイズ度が接触時間120秒で15〜80g/m、好ましくは20〜50g/mとなるように調整されることが好ましい。塗工前原紙のコッブサイズ度が15g/m未満では、後工程の樹脂の塗布工程で、後述する樹脂を塗工する際、ムラなく均一に塗工することができない。一方、塗工前原紙のコッブサイズ度が80g/mを超えると、塗布される樹脂の基紙の内部への浸透量が多くなり本願の所望とするスエード調の外観及び手触り感を得ることができない。
【0032】
さらにまた、本多層抄き包装紙の基紙の抄造においては、塗工前原紙の密度が0.35〜0.93g/cmが望ましい。塗工前原紙の密度が0.35g/cm未満では、基紙内部への樹脂の染み込み量が多くなることにより、本願の所望とするスエード調の手触り感を得ることができない。一方、塗工前原紙の密度が0.93g/cmを超えると、基紙内部への樹脂の染み込み量が少なくなることにより、樹脂の原紙への吸着力が弱くなることにより、表面強度が下がり、塗工層が剥がれやすくなる。なお、塗工前原紙の密度の調整方法としては、例えばヤンキードライヤー、スーパーキャレンダ、グロスキャレンダ、ソフトキャレンダ等の加圧装置の圧力、加熱温度、ニップ数等の処理条件を適宜調整する。
【0033】
なお、本多層抄き包装紙の基紙の抄紙方法については、特に限定されるものではなく、酸性抄紙法、中性抄紙法、アルカリ性抄紙法のいずれであってもよい。また、抄紙機も特に限定されるものではなく、例えば長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機、ヤンキー抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等の当分野における公知の種々な抄紙機を適宜使用することができる。
【0034】
以上のようにして抄造された本多層抄き包装紙は、基紙の少なくとも表層の表面に、樹脂粒子を含有する水分散系の樹脂を重量固形分で0.9〜12.0g/m(dry)塗工し、乾燥することにより塗工層を形成する。すなわち、少なくとも基紙の表層の表面に、抄紙機のドライヤー後の塗布工程で、樹脂を塗工ないしは塗布して塗工層を設け、その後、塗工層をドライヤーにプレスさせながら、圧着乾燥させることにより塗工層がスエード調の外観及び手触り感を呈するようになる。これにより、本多層抄き包装紙にスエード調の外観及び手触り感を付与することができ、美粧性に優れるようになる。
【0035】
本多層抄き包装紙に用いられる水分散系の樹脂としては、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系、ラテックス系、ビニルアルコール系、アルキル系、スチレンーブタジエン系等の一般に公知の水分散系の樹脂を使用することができるが、ウレタン系樹脂を用いることが特に好ましい。
【0036】
このような水分散系の樹脂の塗工量は重量固形分で0.9〜12.0g/m(dry)、好ましくは2.0〜8.0g/m(dry)である。塗工量が0.9g/m(dry)未満の場合は、本願の所望とするスエード調の外観及び手触り感を得ることが難しいと共に、滑り角度を本願の所望とする19度以上とすることが難しい。また、罫線割れを防止するための十分な膜厚を得ることが困難になる。逆に、塗工量が12.0g/m(dry)を超えると、樹脂を塗工した後の乾燥工程で、紙が十分に乾燥しないという問題が発生してしまう。
【0037】
また、水分散系の樹脂に含有される樹脂粒子は、平均粒子径が4〜20μm、好ましくは8〜20μmのものが用いられる。これにより、本多層抄き包装紙のJIS−P8147(1994)の「紙及び板紙の摩擦係数試験方法の傾斜方法」に準拠して測定した滑り角度(以下、単に「滑り角度」と言う。)を19度以上とすることができる。なお、平均粒子径が4μm未満の樹脂粒子であると、粒子の大きさが小さく、塗工面のザラツキ感が出にくくなるため、本発明の所望とするスエード調の外観及び手触り感を得にくくなる。逆に、平均粒子径が20μmを超える樹脂粒子であると、しっとりとした滑らかなスエード調の風合いを維持でき難くなる。
【0038】
また、水分散系の樹脂に含有される樹脂粒子の種類として、シリコン樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられるが、特に、耐熱、弾力性の点に加え、塗布した際の手触り感としてスエード調の風合い及び外観を提供するには、ウレタン樹脂が好ましい。さらには、水分散系の樹脂の中でもウレタン樹脂との組み合わせがよく、これにより本発明のスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を提供することができる。
【0039】
上述した水分散系の樹脂の塗工方法としては、抄紙機にオンマシンで設置している塗工設備による塗工、あるいはオフマシンで設置している塗工設備による塗工のどちらでも良いが、コスト面と生産効率を考えるとオンマシンで塗工することが好ましい。なお、このような塗工装置としては、例えばカレンダー、ブレードコータ、エアーナイフコータ、ロールコータ、リバースロールコータ、バーコータ、カーテンコータ、スロットダイコータ、グラビアコータ、チャンプレックスコータ、ブラシコータ、スライドビードコータ、ツーロールあるいはメータリングブレード式のサイズプレスコータ、ビルブレードコータ、ショートドウェルコータ、ゲートロールコータ等の一般に公知の塗工装置を用いることができる。
【0040】
また、本多層抄き包装紙の滑り角度は19度以上が望ましい。本多層抄き包装紙の滑り角度が19度未満であると、本多層抄き包装紙が例えばショッピングバッグ、角底袋、包装用紙などに加工された場合、加工後の製品を輸送する際、あるいは中に商品を入れて輸送する際に荷崩れが発生するおそれがある。しかしながら、多層抄き包装紙の滑り角度が高くなりすぎると、多層抄き包装紙を加工する際、製袋加工機、または封筒加工機などの加工設備においてシート詰まりが発生する原因になると共に、多層抄き包装紙が加工されたショッピングバッグ、角底袋、包装用紙の荷崩れを防止する目的の観点からは過剰品質となるため、実用的には滑り角度が19〜55度の範囲が好ましい。
【0041】
また、上記のようにして形成された本多層抄き包装紙は、JIS−B0601(1994)の表面粗さ試験に準拠して測定した高低値(Ry)(以下、単に「粗度」と言う。)が21μm以下であり、実用的には20μm以下が好ましい。なお、粗度が21μmを超える場合、本多層抄き包装紙にグラビア印刷を施す際、特に網点部にインクのにじみが発生したり、再現性が劣ったりしてグラビア印刷適性が低下してしまう。
【0042】
また、本多層抄き包装紙はJAPAN TAPPI No.1のワックスによる表面強さ試験方法に準拠して測定した表面強度(以下、「表面強度」と言う。)が14A以上である。表面強度が14A未満の場合、例えば本多層抄き包装紙を使用して製袋されたのち、製品と製品が擦れた際に、表面が毛羽立ち、スエード調の外観を損なう問題が発生する。しかし、表面強度が23Aを超えると、柔軟性が損なわれ、表面が硬く感じられ、スエード調の手触り感が無くなる問題が発生する場合があるため、実用的には14〜23Aが好ましい。
【0043】
さらにまた、本多層抄き包装紙はJIS−P8118(1998)の厚さ及び密度の試験方法による密度が0.35〜0.93g/cmである。密度が0.35g/cm未満の場合、本多層抄き包装紙は、本目的の包装用紙としての強度を確保できなくなる。一方、密度が0.93g/cmを越える場合、紙の腰が弱くなりすぎるため、剛性が無くなり、折り加工適性が悪くなる傾向にある。
【0044】
さらにまた、本多層抄き包装紙は、折れに対する強さを測定した罫線割れが、発生しない。罫線割れが発生すると、本多層抄き包装紙をショッピングバッグ、角底袋、包装用紙として使用するには、必要な強度が確保されないことはもちろんのこと、美粧性に優れたスエード調の外観が損なわれてしまう。
【0045】
上述したように形成された本多層抄き包装紙は、優れたスエード調の外観及び手触り感を有し、美粧性に優れ、また防滑性にも優れるので、本多層抄き包装紙を用いて形成されたショッピングバッグ、包装用紙等に高級な印象を与えることができる。
【0046】
以上、本発明に係る多層抄き包装紙を、その紙層が2層から成る場合について説明したが、中層を1層、または2層以上の複数層とし、3層以上の紙層から構成しても良い。また、樹脂を本多層抄き包装紙の表面に塗工する場合について説明したが、裏面、あるいは表裏面に塗工されていても良い。
【実施例】
【0047】
本多層抄き包装紙の効果を確認するため、以下のような各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行った。なお、本実施例において、配合、濃度等を示す数値は、固形分又は有効成分の質量基準の数値である。また、本実施例で示すパルプ・薬品等は一例にすぎないので、本発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではなく、適宜選択可能であることはいうまでもない。
【0048】
本発明に係る39種類の多層抄き包装紙(これを「実施例1」ないし「実施例39」とする)と、これらの実施例1ないし実施例39と比較検討するために、2種類の板紙(これを「比較例1」ないし「比較例2」とする)を、表1に示すような構成で作製した。
【0049】
【表1】

〔実施例1〕
(基紙の作成)
<表層>
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を100質量%用い、ダブルディスクリファイナーでフリーネス(CSF)が300mlとなるように原料パルプを調整し、表層用の原料パルプスラリーを作製した。この表層用の原料パルプスラリーに、着色剤、定着剤、サイズ剤、紙力増強剤を添加した。なお、着色剤としてアニオン性直接染料及び顔料を用いた。また、定着剤として硫酸バンドを用い、3.0質量%添加した。さらにサイズ剤として酸性ロジンサイズ剤を用い、0.75質量%添加し、さらに紙力増強剤を0.4質量%添加した。
<中層>
コート断裁落ち古紙パルプを100質量%用い、ダブルディスクリファイナーでフリーネス(CSF)が350mlとなるように原料パルプを調整し、中層用の原料パルプスラリーを作製した。この中層用の原料パルプスラリーに、定着剤、サイズ剤、紙力増強剤を添加した。定着剤として硫酸バンドを用い、0.4質量%添加した。また、サイズ剤として酸性ロジンサイズ剤を用い、0.75質量%添加し、さらに紙力増強剤を0.4質量%添加した。
<裏層>
地券古紙パルプ100質量%用い、ダブルディスクリファイナーでフリーネス(CSF)が400mlとなるように原料パルプを調整し、裏層用の原料パルプスラリーを作製した。この裏層用の原料パルプスラリーに、定着剤及びサイズ剤を添加した。なお、定着剤として硫酸バンドを用い、0.4質量%添加した。また、サイズ剤として酸性ロジンサイズ剤を用い、0.75質量%添加し、さらに紙力増強剤を0.4質量%添加した。
【0050】
これらの表層、中層、及び裏層の各層の原料パルプスラリーを用い、円網5層抄紙機にて表層、3層の中層、及び裏層の原料パルプスラリーを抄き合わせ、坪量が170g/mの5層構造の基紙から成る着色層を有する多層抄き包装紙(板紙)を抄紙した。
(樹脂の調整)
(実施例1)まず、樹脂粒子を含有する水分散系の樹脂として、大日精化工業株式会社製のダイプラコートSCW−6734クリヤーを使用した。この樹脂をプレドライヤー後の塗布パートで、塗工量が固形分で0.8g/m(dry)となるように、着色層である基紙の表層の表面に塗布して塗工層を形成し、鏡面仕上げしたドライヤーで圧着乾燥し、基紙の表層の表面にスエード調層を形成して、実施例1の多層抄き包装紙を得た。
【0051】
(実施例2〜9)基紙の表面に塗工する樹脂の塗工量を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして得た多層抄き包装紙である。
【0052】
(実施例10〜15)基紙の表面に塗工する樹脂に含有する樹脂粒子の平均粒子径を表1に示すように変更したこと以外は、実施例7と同様にして得た多層抄き包装紙である。
【0053】
(実施例16〜23)基紙の樹脂を塗工する表層のコッブサイズ度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例7と同様にして得た多層抄き包装紙である。
【0054】
(実施例24〜30)基紙の密度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例7と同様にして得た多層抄き包装紙である。
【0055】
(実施例31〜35)水分散系樹脂の種類及び/又は樹脂粒子の種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例7と同様にして得た多層抄き包装紙である。
【0056】
(実施例36〜37)基紙の紙層を表1に示すように変更したこと以外は、実施例7と同様にして得た多層抄き包装紙である。
【0057】
(実施例38〜39)基紙の表層のフリーネスを表1に示すように変更したこと以外は、実施例7と同様にして得た多層抄き包装紙である。
【0058】
(比較例1)基紙に何も塗工しなかったこと以外は、実施例7と同様にして得た多層抄き包装紙である。
【0059】
(比較例2)基紙の表面に塗工する樹脂を、樹脂粒子を含有しない樹脂に変更したこと以外は、実施例7と同様にして得た多層抄き包装紙である。
【0060】
なお、表1中の「表コッブサイズ度(g/m)」とは、樹脂を塗工する前の基紙(塗工前原紙)表層の吸水度を、JIS−P8140(1998)に基づいて測定した値である。
【0061】
また、表1中の「塗工前密度(g/cm)」とは、樹脂が塗工される前の基紙の密度であり、JIS−P8118(1998)の厚さ及び密度の試験方法に準拠して測定した値である。
【0062】
これら全実施例及び比較例についての品質評価、すなわち本多層抄き包装紙(全層)の滑り角度、表面強度、粗度等について評価試験を行った。その結果は表2に示すとおりであった。なお、この品質評価はJIS−P8111に準拠して温度23±2℃、湿度50±2%の環境条件で行った。また、得られた本多層抄き包装紙の触感、塗工性について評価し、上記評価試験結果と併せて総合評価を行った。
【0063】
表2中の「滑り角度(度)」とは、各試料に係る多層抄き包装紙の滑りやすさをJIS−P8147(1994)の紙及び板紙の摩擦係数試験方法の傾斜方法に準拠して測定した値である。
【0064】
また、「表面強度(A)」とは、各試料に係る多層抄き包装紙の表面の強さをJAPAN TAPPI No.1のワックスによる表面強さ試験方法に準拠して、塗工後の塗工面を測定した値である。
【0065】
「粗度(μm)」とは、各試料に係る本多層抄き包装紙の表面の粗さをJIS−B0601(1994)の表面粗さ試験に準拠して、塗工後の塗工面を測定した値である。(最大山高さRpと最大谷深さRmとの差の最大高さRy値を粗度とした。)
「塗工後密度(g/cm)」とは、樹脂を基紙の表層の表面に塗工した後の、各試料に係る多層抄き包装紙の密度をJIS−P8118(1998)の厚さ及び密度の試験方法に準拠して測定した値である。
【0066】
また、「触感」とは、得られた各試料である多層抄き包装紙の外観及び手触り感がスエード調になっているか否かを、に評価したものである。なお、評価基準は下記の通りとした。
◎:特に優れたスエード調である。
○:優れたスエード調である。
△:スエード調である。
×:スエード調でない。
【0067】
また、「塗工性」とは、基紙の少なくとも表層の表面に樹脂を塗工する際にムラなく、均一に塗工できるかを目視で評価したものであり、その評価基準は下記の通りとした。
○:ムラなく、均一に塗工できる。
△:若干ムラがあるが、実用的には問題ない。
×:ムラがあり、均一に塗工できない。
【0068】
さらにまた、「罫線割れ」とは、基紙の折れに対する強さを評価したものであり、評価方法としては、図1(a)に示すように、各試料を紙の巾200mm流れ250mmに切り取り、乾燥温度100℃に設定した熱風乾燥機の中に30秒間入れた後取り出し、図1(b)に示すように、紙を折り曲げずに紙の表面が表になるようにして巾200mmの端辺同士を重ね合わせ抑えたまま、図1(c)に示すように、湾曲になった部分の端に直径32mmの鉄製パイプを置き、このパイプを矢印方向に1回だけ転動して、図1(d)に示すように、折り曲げ部を一気に折り曲げる。評価方法は、この折り曲げ部を正面から見た時の紙の表層、あるいは表層と中層が剥離している度合いを見て評価する。
【0069】
◎:3mm未満の割れが1〜2個ある。
【0070】
○:3mm以上5mm未満の割れが1〜2個ある。
【0071】
△:5mm未満の割れが3〜4個ある。
【0072】
×:5mm以上の割れが多数ある。
【0073】
さらにまた、「総合評価」とは、樹脂を塗工した後の基紙の触感、美粧性、塗工性、防滑性、罫線割れ等の製袋原紙、包装用紙としての品質、製造コスト(すなわち本発明に係る多層抄き包装紙の製造に要する設備、時間、人権費等のコスト)及び加工適性を総合的に判断し、総合評価として評価した。
◎:スエード調の外観及び手触り感に優れ、品質及び加工適性にも優れている。
○:スエード調の外観及び手触り感に優れ、品質及び加工適性がある。
△:スエード調の外観及び手触り感を有するが、品質及び加工適性の点でやや劣る。
×:スエード調の外観及び手触り感を有さず、また品質及び加工適性の観点からも劣る。

【0074】
【表2】

表2から分かるように、本発明に係るスエード調の外観を有する多層抄き包装紙、すなわち実施例1〜39に係る多層抄き包装紙、特に実施例7、8、12〜14、18〜20、27、28、36、37、39に係る多層抄き包装紙は、総合評価、すなわち樹脂を塗工した後の基紙の触感、美粧性、塗工性、防滑性、罫線割れ等の製袋原紙、包装用紙としての品質、製造コスト及び加工適性を総合的に判断した評価が優れており、特に製袋用に好適なスエード調の外観を有する多層抄き包装紙を低コストで製造できることが首肯される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】試料の罫線割れを評価する方法の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層、及び裏層の少なくとも2層の紙層により基紙が構成された多層抄き包装紙において、少なくとも前記表層の表面に樹脂粒子を含有する水分散系の樹脂を塗工して塗工層を形成したことを特徴とするスエード調の外観を有する多層抄き包装紙。
【請求項2】
前記樹脂が重量固形分で片面当り0.9〜12.0g/m塗工されていることを特徴とする請求項1に記載のスエード調の外観を有する多層抄き包装紙。
【請求項3】
前記樹脂粒子の平均粒子径が4〜20μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスエード調の外観を有する多層抄き包装紙。
【請求項4】
JIS−P8147(1994)に準拠して測定した滑り角度が19度以上であり、またJIS−B0601(1994)に準拠して測定した高低値(Ry)が21μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のスエード調の外観を有する多層抄き包装紙。
【請求項5】
JIS−P8118(1998)に準拠して測定した密度が0.35〜0.93g/cmであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスエード調の外観を有する多層抄き包装紙。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−31421(P2010−31421A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194878(P2008−194878)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】