説明

スキッドランチングシステムを用いた陸上船舶建造及び進水方法

【課題】 ドライドックを用いることなく組み立て場で船舶を部分的に組み立てた後、バージで各部の組み立てを完了して進水できるようにした船舶の建造及び進水方法を提供すること。
【解決手段】 陸上で船舶を2〜4部分に分けて船体ブロック12に各々組み立て、船体組み立て場に隣接した岸壁にバージ14を長さ方向に固定し、部分的に組み立てられた各船体ブロック12をバージ14に長さ方向へ移送し、バージ14で各船体ブロック12を結合して船体を完成するようにした。また、バージ14を進水地点へ移動させ、バラストでバージ14を沈下させ、建造させた船を進水させ、バージ14を浮上させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキッドランチングシステム(Skid Launching System)を用いた陸上船舶建造及び進水方法に関するものであり、特に船舶建造用ドック内ではなく、陸上で船舶の2〜4部分を建造し、一つのバージで進水できるようにした船舶の建造及び進水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型船の場合、陸上で船を建造して完成した後、船を海に向かって滑らせて進水することもあるが、大型造船所では一般的にドライドック(乾ドック)で船舶を建造してドック内に水を満たして船を進水させる工法を使用している。船体の各部分を単位ブロックに分割して各々製作した後、これらをドライドックに運搬して溶接にて組み立てて船体を完成する。船体の組み立てが完了するとドックに水を満たして船体を浮かべ、船をドック外に引き出して進水させる。このようなドライドックで船を組み立てて進水する建造及び進水方法は船の組み立てや進水が容易のため、大型船舶の建造に多く活用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、大型ドライドックの建設には多大の費用と敷地が必要であり、その運用においても多くの費用がかかるため、要望に応じて大型ドライドックを作るのも難しい。
【0004】
また、船舶の建造注文量は一定に維持されるものではなく、その変動量が大きいので、大規模のドライドックをいくつも建設して運用するのも難しい。
【0005】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、ドライドックを用いることなく組み立て場で船舶を部分的に組み立てた後、バージで各部の組み立てを完了して進水できるようにした船舶の建造及び進水方法を提供することを目的としている。
【0006】
また、本発明の別の目的は、組み立て場の活用効率を高めた船舶の建造及び進水方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明にかかる船舶の建造及び進水方法は、陸上で船舶を2〜4部分に取り分けて船体ブロックに各々組み立てるステップと、船体組み立て場の岸壁にバージを長さ方向に準備するステップと、部分的に組み立てられた角船体ブロックを海上のバージに長さ方向へ移送するステップと、バージで各船体ブロックを結合して船体を完成するステップと、バージを進水地点へ移動させて、バラストによりバージを沈下させるステップ、建造された船を進水させ、バージを浮上させるステップとを含んで構成される。
【0008】
部分的に組み立てられた船体ブロックをバージで移送するステップでは、船体ブロックの下にレールに沿って移動できるボギー車を設置して、船体ブロックを押して移動させるボギー車を用いた工法や陸上とバージに設置されたスキッドに沿って船体ブロックを押して移動させるスキッド工法や、船体ブロックの移動経路にスキッドウェーを設置してスキッドウェーと船体間に油圧ジャッキを設け、スキッドウェーに圧縮空気を吹き出しながら摩擦を減らし、船体ブロックを押して移送させる工法や、または船体ブロックを大型クレーンで吊り上げてバージへ移動させる工法を使用することができる。
【0009】
また、部分的に組み立てられた船体ブロックをバージへ移送するステップでは、船体ブロックの前には船体ブロックを引くプルウィンチと船体ブロックの後には、必要な場合船体ブロックの移動を中止させるブレーキウィンチを使用する。これら移送ウィンチは複数使用することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるスキッドランチングシステムを用いた陸上船舶建造及び進水方法を使用すれば、ドライドック設備が不足した造船所でも陸上で船舶組み立てを行いバージで船舶を進水させることができるので、船舶の生産性を画期的に向上させることができる。すなわち、陸上で部分的に船舶を2〜4部分に取り分けて船体ブロックに組み立て、各船体ブロックを海上のバージへ移送して船舶の組み立てを完成した後、バージを沈下させて船舶を進水することで、空間を効率的に使用し、より多くの船舶を建造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明による船舶の建造及び進水方法を概略的に表わす平面図である。
図1に示されるように、船体生産工程にて組み立てられた単位ブロックを船体ブロック組み立て場10まで運搬して、これら単位ブロックを溶接して各部分の船体ブロック12で組み立てる。
【0012】
図1には船首部と船尾部からなる2つの船体ブロックを組み立てることを例示しているが、必要により船体ブロックの数を2〜4個に増やすことができる。船体ブロックを2つ以上とすれば、移送作業を容易にすると共に船体ブロック組み立て場の活用度を高めて船舶の建造量を増やすことができる。つまり、船体ブロック組み立て場10で船舶の各部分の船体ブロック12を組み立てた後、これらをバージ14へ移送してバージ14上で船舶の組み立てを完成することで船舶の建造量を増大できる。
【0013】
単位ブロックを組み立てて船体ブロック12を完成した後、岸壁にバージを係船ライン16などで固定し、船体ブロック12をバージ14へ長手方向に移送させる。その後、船体ブロックが正確な高さで配置されるように位置を微調整した後、船体ブロックらをバージ上で組み立てる。バージで組み立て作業が完了すると、バージを進水海域に移動させ、バージをバラストにより沈下させた後、建造した船を進水する。その後、バージを浮上させれば進水作業は完了する。
【0014】
図2aはボギー車を用いて船体ブロックを移送する方法を表わす断面概念図であり、図2bはボギー車を用いて船体ブロックを移送する方法を表わす側面概念図であり、図2cはボギー車を用いて船体ブロックを移送する方法に用いられる移送ボギー車の概略図である。
【0015】
船体ブロックの下部船体ブロック組み立て場に船体ブロック12を移送するレール等の移送ガイド20を設けて、移送ガイド20に沿って移動する多数のボギー車22を設ける。ボギー車22の車輪は好ましくは4つである。ボギー車22には船体ブロック12を引き上げる油圧ジャッキ24が設けられており、ボギー車22の上に船体ブロック12を支えるトレソル支持台26が配置される。この支持台26と船体ブロック12との間に船体保護と摩擦のため、木板やゴム板等のプレート28を設けるのが好ましい。
【0016】
船体ブロック12をバージに移送する時には全てのボギー車22の油圧ジャッキ24を作動させ、船体ブロック12を引き上げた後、船体ブロック12をウィンチで引くかプッシュプルグリッパージャッキ(押し引き型把持ジャッキ)で押してバージに移動させる。
【0017】
ボギー車22の油圧ジャッキ24は全て油圧システムのオイルタンクに一つの管で繋いでおり、油圧が各ジャッキに同様に作用する。油圧ジャッキの高さ(ストローク)調整は流量の増減により行われる。船体ブロック12の移送中に油圧ジャッキ24に作用する圧力は圧力ゲージにより測定され、油圧ジャッキのストロークはレベルゲージにより測定される。このように測定された圧力と油圧ジャッキのストロークの変化により油圧ジャッキへ送るオイルを増減させながら、油圧ジャッキを制御する。このようにすることで陸上の組み立て場でバージへ船体ブロック12を移送する時に生じる高さの変化に対して船体ブロック12が傾斜することなくバージに移送できる。
【0018】
図3aはスライディングパッドを用いて船体ブロック12を移送する方法を表わす概略断面図であり、図3bはスライディングパッドを用いて船体ブロックを移送する方法を表わす概略側面図であり、図3cはスライディングパッドを表わす詳細図である。
【0019】
コンクリートや鋼鉄からなる支持部30の上に船体ブロック12が配置されるが、支持部30の上に樹脂等の滑り部材からなるスライディングパッド32が配置され、その上に船体保護と滑りのため、プレート34が配置される。船体ブロック12の直下には木板やゴム板等の板状部材36を設けることが好ましい。
【0020】
船体ブロック12をバージで移送するために、ウィンチやプッシュプルグリッパージャッキが使用されるが、図3bではプッシュプルグリッパージャッキ37を図示している。船体ブロック12の下部にグリッパーレール38を設置して、このグリッパーレール38に沿って移動しながらプッシュプルグリッパージャッキ37が船体ブロック12を押して移送できるように構成されている。
【0021】
図4aは流体移送システムを用いて船体ブロックを移送する方法を表わす概略断面図であり、図4bは流体移送システムを用いて船体ブロックを移送する方法を表わす概略側面図であり、図4cは流体移送システムを表わす詳細図である。
【0022】
船体ブロック12の下部船体ブロック組み立て場に船体ブロック12を移送するスキッドウェー(滑走路)40を設け、このスキッドウェー40に沿って移動する多数の油圧ジャッキ42を設ける。油圧ジャッキ42は船体ブロック12を引き上げる油圧シリンダーを備え、下部にはスキッドウェー40に向かって圧縮空気44を噴射して移動中の摩擦を大幅に減少させている。油圧ジャッキ42の上に船体ブロック12を支えるトレソル支持台26が配置されており、このトレソル支持台26と船体ブロック12との間に船体保護と摩擦のため、木板やゴム板等のプレート28を設けるのが好ましい。
【0023】
図5a乃至図5dは船体ブロック12をボギー車22で移送する場合に使用されるボギー車システムの具体例を表わす図面であり、ボギー車22はボギー車フレーム両側下部にボギー車輪53を有し、ボギー車輪53はレール20に沿って移動できる。二対のボギー車22により支持される荷重支持部50が設けられ、その上に船体ブロック12を支えるトレソル支持台26が配置される。荷重支持部50はボギー車22のフレーム52に設けられた油圧ジャッキ58により引き上げることができる。荷重支持部50の下部にはジャッキキャップサドル57が設けられ、このジャッキキャップサドル57は油圧ジャッキ58の上部に設けられたジャッキキャップ56の上部に形成された突出部に取り付けられる。油圧ジャッキ58に油圧が供給されると油圧ジャッキ58のシリンダーが上昇するようにシリンダーが配置されており、これによりジャッキキャップ56が上昇して荷重支持部50が上昇する。
【0024】
荷重支持部50の上部中央にはメインサドル55が配置されており、このメインサドル55は円弧状の柱の形態で形成されている。これはボギー車22の移動中に高さの差が生じた場合、荷重支持部50に角変化を生じさせるためである。また、メインサドル55は制限された範囲内で横方向に移動できるように設定されているが、これはバージ上で船体ブロック12を組み立てるに際し、正確に嵌合するように横方向の位置調整を行うためである。ジャッキサドル57と突出部との間、及び、メインサドル55には潤滑剤が塗布され、相対変位を可能にする。これは移動中に高さの差が生じてボギー車22が傾斜しても船体ブロック12を傾斜させることなく水平に維持するためである。
【0025】
船体ブロック12をバージに移送する時には、全ての油圧ジャッキ42を作動させて船体ブロック12を引き上げた後、船体ブロック12をウィンチで引くかプッシュプルグリッパージャッキで押してバージへ移動させる。
【0026】
上述したように組み立てされた各船体ブロック12をバージまで移送した後、バージの上で各船体ブロック12を組み立てて船舶の建造が完了する。船舶が完成するとバージを固定した係船ライン16を解除して船舶を進水する海域にバージを曳航する。バージのバラストタンクに水を満たして沈下させ、建造した船舶を浮かばせた後、この船舶を引き出してバージを浮上させれば進水作業が完了する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明にかかる陸上船舶建造及び進水方法は、高価なドライドックを用いることなく組み立て場で船舶を部分的に組み立てた後、バージで各部の組み立てを完了して完成した船舶を進水できるので、広い敷地を必要としない安価な船舶建造及び進水方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による船舶の建造及び進水方法を示す概略平面図である。
【図2a】ボギー車を用いて船体ブロックを移送する方法を示す概略断面図である。
【図2b】ボギー車を用いて船体ブロックを移送する方法を示す概略側面図である。
【図2c】ボギー車を用いて船体ブロックを移送する方法を示す移送部の詳細図である。
【図3a】スライディングパッドを用いて船体ブロックを移送する方法を示す概略断面図である。
【図3b】スライディングパッドを用いて船体ブロックを移送する方法を示す概略側面図である。
【図3c】スライディングパッドを示す詳細図である。
【図4a】流体移送システムを用いて船体ブロックを移送する方法を示す概略断面図である。
【図4b】流体移送システムを用いて船体ブロックを移送する方法を示す概略側面図である。
【図4c】流体移送システムを示す詳細図である。
【図5a】船体ブロックを移送するためのボギー車システムを具体的に示す図である。
【図5b】図5aのボギー車システムの側面図である。
【図5c】図5aのボギー車システムにおけるA矢視断面図である。
【図5d】図5aのボギー車システムにおけるB矢視断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 船体ブロック組み立て場、 12 船体ブロック、 14 バージ、
16 係船ライン、 20 移動ガイド、 22 ボギー車、 24 油圧ジャッキ、
26 トレソル支持台、 28 プレート、 30 支持部、
32 スライディングパッド、 34 プレート、 36 板状部材、
37 プッシュプルグリッパージャッキ、 38 グリッパーレール、
40 スキッドウェー、 42 油圧ジャッキ、 44 圧縮空気、
50 荷重支持部、 52 フレーム、 53 車輪、 55 メインサドル、
56 ジャッキキャップ、 57 ジャッキサドル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸上で船舶を2〜4部分に取り分けて船体ブロックに各々組み立てるステップと、船体組み立て場に隣接した岸壁にバージを長さ方向に固定するステップと、組み立てた各船体ブロックを前記バージに長さ方向に移送するステップと、バージで各船体ブロックを結合して船体を完成するステップと、バージを進水地点に移動させバラストにてバージを沈下させるステップと、建造された船を進水させてバージを浮上させるステップとを備えたことを特徴とするスキッドランチングシステムを用いた陸上船舶建造及び進水方法。
【請求項2】
前記船体ブロックをバージに移送するステップは、船体ブロック組み立て場に船体ブロックを移送するガイドを船体ブロックの下部に設け、前記ガイドに沿って移動する油圧ジャッキを備えた複数のボギー車を設け、該ボギー車の上に船体ブロックを支える支持台を設けるステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のスキッドランチングシステムを用いた陸上船舶建造及び進水方法。
【請求項3】
前記船体ブロックをバージへ移送するステップは、支持部の上にスライディングパッドを配置し、その上に船体保護と滑りのためのプレートと板状部材を配置し、該板状部材の上に船体ブロックを配置し、船体ブロックを移送させるステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のスキッドランチングシステムを用いた陸上船舶建造及び進水方法。
【請求項4】
前記船体ブロックをバージへ移送するステップは、船体ブロックの下部船体ブロック組み立て場に船体ブロックを移送するスキッドウェーを設け、該スキッドウェーに沿って移動する複数の油圧ジャッキを設け、該油圧ジャッキの下部にはスキッドウェーに向かって圧縮空気を噴射させ、油圧ジャッキの上に船体ブロックを支える支持台を設け、該支持台と船体ブロックとの間に船体保護と摩擦のためのプレートを設けるステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のスキッドランチングシステムを用いた陸上船舶建造及び進水方法。
【請求項5】
前記船体ブロックをバージへ移送するステップは、船体ブロックの移送中に油圧ジャッキに作用する圧力を測定し、油圧ジャッキストロークを測定し、測定された圧力と油圧ジャッキストロークの変化により油圧ジャッキへ送るオイルを増減しながら油圧ジャッキを制御するステップを含み、陸上の組み立て場でバージへ船体ブロックを移送する時に生じる高さの変化に対して船体ブロックを傾斜させることなく船体ブロックをバージへ移送できるようにした請求項1乃至4のいずれか一つに記載のスキッドランチングシステムを用いた陸上船舶建造及び進水方法。
【請求項6】
二対のボギー車で支持される荷重支持部を備え、該荷重支持部は油圧ジャッキにより上昇可能に構成され、油圧ジャッキに油圧が供給されると荷重支持部が上昇し、油圧ジャッキシリンダー上部に設けられたジャッキキャップサドルと前記荷重支持部の中央部に設けられたメインサドルを用いて、ボギー車の移動中に高さの差が生じた場合に角変化を通して船体ブロックを水平に維持して、メインサドルの横方向移動を可能にしてバージ上で船体組み立てを容易にしたステップを含むことを特徴とする請求項2に記載のスキッドランチングシステムを用いた陸上船舶建造及び進水方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【公開番号】特開2006−182296(P2006−182296A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380795(P2004−380795)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(505005278)エス・ティ・エックス造船株式会社 (1)