説明

スクリュコンプレッサ用複合ロータ

【課題】回転軸と歯形部の熱膨張係数が大きく相違する場合でも、界面の剥がれを抑制し、必要なスラストとトルクを伝達することができるスクリュコンプレッサ用複合ロータを提供する。
【解決手段】軸心Z−Zを中心に回転駆動される回転軸12と、回転軸の中央部外面にモールドされた歯形部20とを備える。歯形部20がモールドされる回転軸12の外面(モールド部12a)は、回転軸と同心であり回転軸と断面形状の異なるトルク伝達部分14を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張係数が異なる異種材料からなるスクリュコンプレッサ用複合ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張係数が異なる異種材料からなる回転体(ロータ)として、特許文献1〜3が既に開示されている。
特許文献1は、両端段付き歯車止め部を有する金属軸と、両端段付き歯車止め部に嵌着した樹脂モールドギアを開示している。
特許文献2は、先端面に円形凹部を有する樹脂材料からなる樹脂歯車と、円形凹部の底面側に挿入され樹脂材料とともにモータの出力軸に圧入固定される固定板とを開示している。
特許文献3は、金属インサート軸の表面にプラスチック製歯形部を形成した複合プラスチックロータを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3075990号公報、「樹脂モールドギアを備えた歯車減速機構」
【特許文献2】特開2007−116864号公報、「モータの動力伝達構造」
【特許文献3】特開平2−276612号公報、「射出成形法及び複合プラスチックロータ」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリュコンプレッサ用ロータは、回転軸の中央部にスクリュ形の歯形部を設けたものである。スクリュコンプレッサには、2本のロータが設置され、それぞれの歯形部が互いに噛み合いながら回転し、その間で気体(空気等)を圧縮するようになっている。
【0005】
このようなスクリュコンプレッサ用ロータにおいて、2本のロータ間に発生する圧力やロータの噛み合いにより各ロータは、軸方向と半径方向の両方向に大きな荷重を受ける。
そのため、回転軸は、両方向の大荷重を支持するために、曲げ剛性の高い金属製であるのが好ましく、両端部に設けられた軸受(ラジアル軸受とスラスト軸受)で支持される。
一方、歯形部は互いに噛み合い、擦りあいながら回転するので、その間の摩擦係数が小さいことが好ましく、金属よりはむしろ樹脂製であるのが好ましい。
【0006】
しかし、特許文献3に開示されるように、金属軸の表面にプラスチック製歯形部を単に鋳込んだ場合、金属と樹脂の界面で伝達できるスラストとトルクが不足し、界面の剥がれや、樹脂部の亀裂が生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は上述した従来の問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、回転軸と歯形部の熱膨張係数が大きく相違する場合でも、界面の剥がれや亀裂が生じにくくなり、また、界面の剥がれが生じた場合でも、必要なスラストとトルクを伝達することができるスクリュコンプレッサ用複合ロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、軸心を中心に回転駆動される回転軸と、回転軸の中央部外面にモールドされた歯形部とを備え、
歯形部がモールドされる回転軸の外面は、回転軸と同心であり回転軸と断面形状の異なるトルク伝達部分を有する、ことを特徴とするスクリュコンプレッサ用複合ロータが提供される。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明の構成によれば、トルク伝達部分が回転軸と同心に設けられているので、軸心を中心とする回転バランスを容易にとることができる。
また、回転軸と断面形状の異なるトルク伝達部分のまわりに歯形部がモールドされるので、熱膨張係数が大きく相違している場合でも、界面の剥がれを抑制し、軸方向のズレを防止できる。
【0010】
また、トルク伝達部分が、多角形を形成する4以上の外平面を有し、必要なトルク伝達時に、外平面に発生する応力が材料の許容応力より低い多角形断面形状である構成により、界面の剥がれや亀裂が生じることなく、必要なトルクを伝達することができる。
また、回転軸の外面が、さらに回転軸とトルク伝達部分の間又は隣接するトルク伝達部分の間に円筒形部分を有し、円筒形部分はトルク伝達部分と異なる径であり、その間に必要なスラストを伝達可能な段差を有する構成により、界面の剥がれが生じた場合でも、必要なスラストを伝達することができる。
【0011】
従って、上述した本発明の構成により、熱膨張係数が大きく相違する場合でも、界面の剥がれが生じた場合でも、必要なスラストとトルクを伝達することができる。
また、この結果、回転軸にスプラインを設ける場合と比較して、加工時間の短縮、加工の簡易化、加工費の削減等の効果が得られる。

【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるスクリュコンプレッサ用複合ロータの第1実施形態図である。
【図2】図1の回転軸12の全体図である。
【図3】図2のI−I線における断面図である。
【図4】本発明によるスクリュコンプレッサ用複合ロータの第2実施形態図である。
【図5】本発明によるスクリュコンプレッサ用複合ロータの第3実施形態図である。
【図6】本発明によるスクリュコンプレッサ用複合ロータの第4実施形態図である。
【図7】本発明によるスクリュコンプレッサ用複合ロータの第5実施形態図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施例を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明によるスクリュコンプレッサ用複合ロータの第1実施形態図である。
この図において、スクリュコンプレッサ用複合ロータ10は、回転軸12と歯形部20とを備える。本実施形態においては、スクリュコンプレッサは水潤滑式スクリュコンプレッサである。
【0015】
図1において回転軸12は、全体が一体の円筒形部材であり、その軸心Z−Zを中心に回転駆動されるようになっている。
この例において、回転軸12は、その外面に歯形部20がモールドされるモールド部12aと、その両端に接続する長軸部12bと短軸部12cとからなる。
この例では、長軸部12bと短軸部12cは直径が同じであるが相違してもよい。また、長軸部12bと短軸部12cとも、直径がそれぞれ一定であるが、軸受等で支持するために段差等を設けてもよい。
回転軸12の材質は、ロータ10が設けられるコンプレッサが水潤滑式スクリュコンプレッサである場合は、水による腐食を回避するためにステンレスであることが好ましいが、その他の材質(金属、樹脂等)であってもよい。
また、回転軸12は、スクリュコンプレッサ用ロータにおいて、2本のロータ間に発生する圧力により各ロータが受けるスラストとトルクを支持できる寸法に設定されている。
【0016】
図1において歯形部20は、回転軸12の中央部外面(モールド部12a)にモールドされている。
歯形部20の材質は、モールドに適した樹脂であるのが好ましいが、その他の材質(例えば金属)であってもよい。
【0017】
図2は、図1の回転軸12の全体図であり、図3は、図2のI−I線における断面図である。
図2、図3に示すように、歯形部12がモールドされる回転軸12の外面(モールド部12a)は、複数のトルク伝達部分14と、1以上の円筒形部分16とを有する。
【0018】
トルク伝達部分14は、回転軸12と同心であり、軸方向に間隔を隔てて複数設けられる。この例において、トルク伝達部分14は5箇所であるが、1箇所以上であればよく、2〜5箇所であるのが好ましい。
また、図3に示すように、この例においてトルク伝達部分14は、回転軸12と断面形状の異なる多角形の断面形状であり、多角形を形成する4以上の外平面14aを有する。
トルク伝達部分14の数、及び外平面14aの数と大きさは、スクリュコンプレッサ用ロータとして必要なトルク伝達時に、外平面14aに発生する応力が材料の許容応力より低くなるように設定されている。
【0019】
なお、外平面14aの数は偶数であり、トルク伝達部分14の断面形状は、4角、6角又は8角の多角形であるのが好ましい。この構成により、対向する2つの外平面14aは互いに平行となり、加工や計測が容易となる。
また、隣接する2つの外平面14aの間、及びトルク伝達部分14と円筒形部分16が連結する隅部は、歯形部20及びトルク伝達部分14に発生する応力がそれぞれの材料の許容応力より低くなるように大きいr(例えば2〜3mm)又は幅2〜3mmの面取りにするのがよい。
【0020】
円筒形部分16は、回転軸12と同心であり、回転軸12とトルク伝達部分14の間又は隣接するトルク伝達部分14の間に設けられる。この例において、円筒形部分16は4箇所であるが、1箇所以上であればよく、2〜5箇所であるのが好ましい。また、後述するように円筒形部分16は必須ではなくこれを省略してもよい。
円筒形部分16は、トルク伝達部分14の外接円直径と異なる径となっており、その間に必要なスラストを伝達可能な段差16aを有する。
【0021】
また、円筒形部分16の角部は、歯形部20及び円筒形部分16に発生する応力がそれぞれの材料の許容応力より低くなるように大きいr(例えば2〜3mm)又は幅2〜3mmの面取りにするのがよい。
【0022】
円筒形部分16を有することにより、歯形部20が回転軸12に対して軸方向に熱膨張した場合でも、円筒形部分16の軸方向両端面が常に歯形部20で把持される(円筒形部分16が歯形部20に引っ掛かる)ので、界面の剥がれを抑制するとともに、軸方向のズレを防止できる。
従って、円筒形部分16を有することにより、仮に歯形部20と回転軸12との間が剥がれた場合でも、引っ掛かりがあることで動きを止められる。
【0023】
図4は、本発明によるスクリュコンプレッサ用複合ロータの第2実施形態図である。この図は、モールド部12aと歯形部20のみを示している。
【0024】
この例において、トルク伝達部分14は3箇所であり、それぞれ第1実施形態より長くなっている。
回転軸12とトルク伝達部分14の間の段差13aは、段差16aと同様に、その間に必要なスラストを伝達可能に構成される。
また、この例において、円筒形部分16は、2箇所であり、その外径が回転軸12より大きく、その軸方向端面に凹溝16bを有している。
凹溝16bは、この例では円筒形部分16の両面に設けられているが、片面のみでも又は無くてもよい。またこの例では凹溝16bは、リング状の凹溝であるが、その他の形状であってもよい。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0025】
上述した凹溝16bを設けることにより、熱膨張係数が大きく相違し、歯形部20が回転軸12に対して周方向に熱膨張した場合でも、円筒形部分16の外周面と凹溝16bの内面との間が常に歯形部20で把持されるので、半径方向界面の剥がれを防止し、周方向のズレを防止できる。
【0026】
図5は、本発明によるスクリュコンプレッサ用複合ロータの第3実施形態図である。
この例において、トルク伝達部分14は1箇所であり、第2実施形態より長くなっている。
また、この例において、円筒形部分16は、2箇所であり、その外径が回転軸12より大きく、それぞれ回転軸12とトルク伝達部分14の間に設けられている。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0027】
図6は、本発明によるスクリュコンプレッサ用複合ロータの第4実施形態図である。
この例では、上述した円筒形部分16はなく、トルク伝達部分14は1箇所であり、トルク伝達部分14の外接円直径が両端の回転軸12の外径と同じ又は小さくになっている。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0028】
この構成によっても、界面が剥がれにくくなり、剥がれても段差13aの引っ掛かりがあることにより軸方向のズレが止められるという効果が得られる。
【0029】
図7は、本発明によるスクリュコンプレッサ用複合ロータの第5実施形態図であり、円筒形部分16がトルク伝達部分14の外接円直径より小さくなっている。
この場合、トルク伝達部分14と円筒形部分16との段差14bが、必要なスラストを伝達可能になっている。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0030】
上述した本発明の構成によれば、トルク伝達部分14が回転軸12と同心に設けられているので、軸心Z−Zを中心とする回転バランスを容易にとることができる。
また、回転軸12と断面形状の異なるトルク伝達部分14のまわりに歯形部20がモールドされるので、熱膨張係数が大きく相違し、歯形部20が回転軸12に対して軸方向に熱膨張した場合でも、トルク伝達部分14の軸方向両端面が常に歯形部20で把持されるので、界面の剥がれを防止し、軸方向のズレを防止できる。
【0031】
また、トルク伝達部分14が、多角形を形成する4以上の外平面14aを有し、必要なトルク伝達時に、外平面14aに発生する応力が材料の許容応力より低い多角形断面形状である構成により、界面の剥がれや亀裂が生じることなく、必要なトルクを伝達することができる。
また、回転軸12の外面が、さらに回転軸12とトルク伝達部分14の間又は隣接するトルク伝達部分14の間に円筒形部分16を有し、円筒形部分16はトルク伝達部分14の外接円直径と異なる径であり、その間に必要なスラストを伝達可能な段差14b,16aを有する構成により、界面の剥がれや亀裂が生じることなく、必要なスラストを伝達することができる。
【0032】
従って、上述した本発明の構成により、熱膨張係数が大きく相違する場合でも、界面の剥がれや亀裂が生じることなく、必要なスラストとトルクを伝達することができる。
また、この結果、回転軸にスプラインを設ける場合と比較して、加工時間の短縮、加工の簡易化、加工費の削減等の効果が得られる。
【0033】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
例えば、歯形部20が回転軸12に対して半径方向に熱膨張した場合でも、周方向にズレが生じないように、回転軸12へ穴加工又は突起物を追加してもよい。
【符号の説明】
【0034】
10 スクリュコンプレッサ用複合ロータ、
12 回転軸、12a モールド部、
12b 長軸部、12c 短軸部、13a 段差、
14 トルク伝達部分、14a 外平面、14b 段差、
16 円筒形部分、
16a 段差、16b 凹溝、
20 歯形部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心を中心に回転駆動される回転軸と、回転軸の中央部外面にモールドされた歯形部とを備え、
歯形部がモールドされる回転軸の外面は、回転軸と同心であり回転軸と断面形状の異なるトルク伝達部分を有する、ことを特徴とするスクリュコンプレッサ用複合ロータ。
【請求項2】
トルク伝達部分は、多角形を形成する4以上の外平面を有し、必要なトルク伝達時に、外平面に発生する応力が材料の許容応力より低い多角形断面形状である、ことを特徴とする請求項1に記載のスクリュコンプレッサ用複合ロータ。
【請求項3】
回転軸の外面は、さらに回転軸とトルク伝達部分の間又は隣接するトルク伝達部分の間に円筒形部分を有し、円筒形部分はトルク伝達部分の外接円直径と異なる径であり、その間に必要なスラストを伝達可能な段差を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のスクリュコンプレッサ用複合ロータ。
【請求項4】
円筒形部分は、その軸方向端面に凹溝を有する、ことを特徴とする請求項3に記載のスクリュコンプレッサ用複合ロータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−44298(P2013−44298A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183491(P2011−183491)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000198352)株式会社IHI回転機械 (27)
【Fターム(参考)】