説明

スクリューロータの加工方法及び加工装置、及び加工用エンドミル並びにスクリュー圧縮機の製造方法

【課題】スクリューロータの歯溝加工において、特に歯溝側面加工の加工能率を向上させる方法、加工装置、加工工具、並びにスクリュー圧縮機の製造方法を提供する。
【解決手段】5軸のNC加工機をベースに、ワーク回転と工具旋回とを同時に制御してスクリュー歯溝を形成するスクリューロータの加工方法であり、歯溝側面仕上げ加工工程に切れ刃長さを短くし、切れ刃部とシャンク部の間に首部を設けその部分を細くした特殊なエンドミルを用いて加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スクリュー圧縮機に組み込まれているスクリューロータの加工方法及び加工装置に関し、特に歯溝加工が高精度でかつ高能率に可能となるスクリューロータの加工方法及び加工装置、及びそれに用いられるエンドミルならびにスクリュー圧縮機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シングルスクリュー圧縮機に組み込まれるスクリューロータの歯溝加工は、従来、第1の回転軸上に被削材をセットし、第1の回転軸と垂直な第2の回転軸に工具をセットし、これら2軸を同期的に回転させ、さらに、加工の進行とともに第2の回転軸にセットされている工具の回転半径を微少量ずつ増加させることで、スクリューロータの歯溝形状を形成する方法が知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
ところが、上記特許文献1で使用される仕上げ工具は総形工具であり、切削点以外での干渉を防ぐため特殊形状をしている。また、総形工具を用いたシェービング加工であるため、溝底の切削抵抗が非常に大きくなり、このため微小切削をせざるを得ないことから加工時間短縮及び工具寿命改善の障害となっていた。
一方、上述した問題を解決するため、市販の5軸のNC加工機をベースマシンとして使い、エンドミル工具での荒加工の高能率化と直行2軸の円弧運動を付加することによって、工具の回転半径を増加させ、汎用の設備でのスクリューロータの加工を実現したものが別途提案されている(例えば特許文献2を参照)。
【0004】
【特許文献1】特表平6−506640
【特許文献2】国際公開番号WO2004/089569
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のものは、スクリューロータの歯溝加工のうち、歯溝側面の仕上げ加工において、特殊形状の工具でシェービング加工を行うため、特殊形状の工具を製品形状に合わせて製作する必要がある。また、特殊形状であるため、工具切れ刃位置の座標設定において誤差が発生しやすく、ダミー加工での補正や調整ジグが必要になる。また、被削材と工具が同期して移動するシェービング加工であるため、被削材と工具との相対速度が切削速度となり、高速化が望めず、加工能率が上げられないという問題点があった。
また、特許文献2のような加工法では、専用設備が必要であり、加工装置の加工中止により、スクリューロータの生産ができないという問題があった。
この発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、スクリューロータの歯溝加工において、特に歯溝側面加工の加工能率を向上させる方法、加工装置、加工工具、並びにスクリュー圧縮機の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のスクリューロータの加工方法は、ワークの回転及び工具の旋回の少なくとも2軸を同時に制御してスクリュー歯溝を形成するスクリューロータの加工方法において、第1のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝の深さ方向に一定の切込みを与えて所望深さまで掘り込む第1の工程と、上記第1のエンドミルより小さい径の第2のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝側面の荒加工を行う第2の工程と、先端部にアール形状を有する第3のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝底面の荒加工を行う第3の工程と、深さ方向において上記スクリュー歯溝の深さより短い切れ刃部と上記切れ刃部の径より小さい径を有する首部とを具備する第4のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝の側面の仕上げ加工を行う第4の工程と、スクリュー歯溝の底面に対応する形状を有するシェービングバイトを上記工具として上記スクリュー歯溝の底面の仕上げ加工を行う第5の工程とを備えたことを特徴とするものである。
また、この発明のスクリューロータの加工方法は、ワークの回転及び工具の旋回の少なくとも2軸を同時に制御してスクリュー歯溝を形成するスクリューロータの加工方法において、第1のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝の深さ方向に一定の切込みを与えて所望深さまで掘り込む第1の工程と、上記第1のエンドミルより小さい径の第2のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝側面の荒加工を行う第2の工程と、先端部にアール形状を有する第3のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝底面の加工を行う第3の工程と、上記第1のエンドミルより小さい径の第6のエンドミルを上記工具として、深さ方向において上記スクリュー歯溝の深さより短い加工深さに分割し、上記第6のエンドミルの先端でのリードと上記ワークの外径表面でのリードの両方に接するように工具中心を移動させるカッターパスとして上記スクリュー歯溝の側面の仕上げ加工を行う第4の工程と、上記スクリュー歯溝の底面に対応する形状を有するシェービングバイトを上記工具として上記スクリュー歯溝の底面の仕上げ加工を行う第5の工程とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、歯溝側面の仕上げ加工に回転工具を使用するため、回転数を通常のエンドミル加工と同等まで高めることができ、特殊形状のシェービングバイトを使用しなくてもよくなるので、加工の高能率化が図られる。また、回転対象工具であるため、特殊形状のシェービングバイトに比べ刃先位置の測定が容易となり歯溝幅精度が向上する。特殊形状のシェービングバイトに比べ、工具の加工が簡単である等の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
まず、はじめにシングルスクリュー圧縮機の圧縮原理について図1に基づき説明する。
シングルスクリュー圧縮機は、複数の歯溝2を有するスクリューロータ1と、複数の歯4を有するゲートロータ3a、3bが互いに軸直角の位置に左右対称に配置されている。図1ではスクリューロータ1が6個の歯溝2を有し、ゲートロータ3a、3bが11個の歯4を有する場合を図示している。スクリューロータ1の外周部にはケーシング(図示せず)が覆っており、スクリューロータ1の歯溝2、ゲートロータ3a、3bの歯4、ケーシングの内径で密閉空間が形成されている。スクリューロータ1のある位置で歯溝2に冷媒ガスが吸入され、スクリューロータ1の回転とともに連れ回りするゲートロータ3a、3bで、歯溝2が閉じられ冷媒ガスが閉じ込められる。
【0009】
さらにスクリューロータ1が回転するとスクリューロータ1の歯溝2、ゲートロータ3a、3bの歯4、及びケーシングによって形成された密閉空間の歯溝容積が縮小され冷媒ガスが圧縮される。さらにスクリューロータ1が回転し、所定の歯溝容積になったところで、開口部から圧縮された冷媒ガスが噴出される。このサイクルを各歯溝において繰り返すことで圧縮が連続的に行われる。なお、図1のC-C’断面を図2に示しており、スクリューロータ1の歯溝2にゲートロータ3aの歯4が噛み合っている様子を示している(ケーシングは図示せず)。
【0010】
次にこのスクリューロータ1を加工する加工装置について、図3の装置構成図に基づき説明する。加工装置は被加工物であるスクリューロータ1を回転させるC軸主軸5と、上記C軸と直行方向に工具6を移動させるX軸(上下方向)移動ステージ7、上記X軸に平行なZ軸移動ステージ8、上記X軸、Z軸の両軸に直行するY軸移動ステージ(図示せず)、工具6がB軸を中心として図の矢印方向に回転させられるB軸回転テーブル9の5軸駆動が可能なNC装置である。ベッド10上にはC軸主軸5が取付けられたC軸主軸台11と、Z軸移動ステージ8と、移動式の心押し台12と、振れ止め13a、13bが設置されている。
【0011】
スクリューロータ1はシャフト14を介してC軸チャック15でC軸主軸5に固定されているが、より高精度な加工を行う場合には、加工時の負荷による変形を抑えるため、心押し台12と振れ止め13a、13bでシャフト14を支えるようにされる。Z軸移動ステージ8上には、X軸移動ステージ7、Y軸移動ステージ(図示せず)、B軸回転テーブル9が搭載されており、B軸回転テーブル9上には工具6を回転させるスピンドル16が搭載されており、その先端にはホルダー17を介して工具6が取付けられている。
【0012】
次に図4に基づいて上記加工装置における加工原理を説明する。スクリューロータ1の歯溝2の加工は、圧縮原理で説明したゲートロータ3の歯4を工具6に置き換えて加工を行う。すなわちスクリューロータ1を上記C軸主軸5で回転させ、スクリューロータ1の回転と同期させて工具6をB軸テーブル9で回転させる。図1、図2に示すようなスクリューロータ1を得るには、スクリューロータ1のC軸での回転と工具6の円運動との回転比率を例えば6:11で同期するようにする。また、工具6の回転中心20とスクリューロータ1の回転中心21との距離22は、スクリュー圧縮機の芯間距離18(図2参照)に相当し、工具6の回転半径23は、ゲートロータ半径19に相当する。
【0013】
図4に示すように、歯溝2を掘り込むときは、図4(a)の状態から工具6の回転中心20を変更せずに工具6の回転半径23を逐次変更して、最終半径がゲートロータ半径19(図2参照)と同じになるように、B軸テーブル9の中心位置(B軸)をX軸移動ステージ7とZ軸移動ステージ8で円弧軌道24a、24b上を移動するよう駆動制御する(図4(b)を参照)。スクリューロータ1の中心線からのずれは、加工装置のY軸で補正制御すればよい。
【0014】
次に、図5、図6を参照して、上記加工装置を用いてスクリューロータ1の歯溝2を加工する工程についてその使用工具と共に説明する。スクリューロータ1の加工母材は中実または中空の円柱状とする。まず第1のエンドミル25を工具として旋回させ、歯溝2の荒加工を行う。この荒加工工程Aでは、要求される歯溝形状に対応させて第1のエンドミル25での溝削りにより、歯溝2の両側を同時に加工し、歯溝深さ方向に一定値の切込みを与えて、要求深さまで掘り込む(図6(a))。このとき、要求される歯溝形状に可能な限り近い工具径を使用する方が後工程の加工時間が短くなる。また、図7に示すような先端が細くなったテーパエンドミル29を用いるとより要求形状に近くなり、さらに時間短縮が可能となる。加工母材を中空とした場合、これに回転軸を挿入してもよい。
【0015】
次に、荒加工用の第1のエンドミル25の径より小さい汎用の第2のエンドミル55で歯溝2の側面荒加工を行う(図6(b))。この歯溝側面荒加工工程Bでは、歯溝2の片側ずつ加工し溝幅を広げ、加工精度を向上させる。溝深さ方向と溝幅方向の2方向に別個に切込みを与えて、複数回の駆動で加工を行う。図2に示すように、スクリューロータ1の歯溝2はゲートロータ3の歯側面30とで冷媒ガスをシールするため、ゲートロータ3の歯側面30の形状とスクリューロータ1の歯溝2の側面形状が同じであることが理想的である。
【0016】
図8は所定の歯溝深さaにおける歯溝側面の回転半径31と歯側面の回転半径32の関係を示しており、図において、33はスクリューロータ1の回転中心、34はゲートロータ3の回転中心である。また、図9は歯溝深さによるリード角の変化を示すもので、37a、37bはスクリューロータ1の外形表面上におけるリードを、38a、38bは歯溝底部におけるリードを示している。圧縮原理から図8、図9に示すように、溝深さ位置によってその溝深さ位置での歯溝回転半径31とその溝深さ位置での歯回転半径32が異なることから、溝深さによって歯溝2のリード角が異なる。すなわち、スクリューロータ1の外形表面上では、歯溝回転半径31が大きく歯回転半径32が小さいため、外径表面でのリード角35が大きくなり、反対に歯溝2の底では歯溝回転半径31が小さく歯回転半径32が大きくなるため、歯溝底でのリード角36が小さくなる。
【0017】
図10はエンドミル加工における歯溝側面の誤差を説明する図であり、図に示すように、外径表面60でのリード37と歯溝底部41でのリード38との交点Xから、エンドミル39の外周までの距離が最大形状誤差となり、工具径が小さいほど歯溝側面の形状誤差が小さくなる。図11は図10のD―D'線断面から見た歯溝側面の形状誤差を示しており、40は歯溝側面、41は歯溝底面である。なお、同一形状の歯溝に対して、工具径による最大誤差量の比較の一例を図12に示しており、工具径が小さいほど歯溝側面の形状誤差が小さくなることが分かる。
【0018】
次に図6に戻って、先端がアール(R)形状をした第3のボールエンドミル26にて歯溝底面の荒加工を行う(図6(c))。この加工工程Cでは歯溝中心位置を1パス〜数パス加工する。溝底半径はゲートロータ半径に等しいため、エンドミル径に対して曲率半径の大きい楕円のボールエンドミルを使用すると、底面仕上げ加工の加工負荷が低減でき加工精度が向上する。
【0019】
続いて特殊形状の第4のエンドミル27で歯溝側面の仕上げ加工Dを行う(図6(d))。第4のエンドミル27の形状の一例を図13に示す。第4のエンドミル27は、切れ刃部42、首部43、シャンク部44から構成され、第1のエンドミルに比べ歯溝深さより短い切れ刃部42と切れ刃部42の径より小さい径を有する首部43を設けているところに特徴がある。ここで凹み量dを切れ刃部42の径と首部43の径の差の1/2とする。従来の凹み量dを有さないエンドミルでは歯溝側面に幾何学的な形状誤差が発生する。具体的な数値で計算した結果を図14、図15に示す。図14はφ6の円筒形状をした従来のエンドミルでの歯溝側面形状誤差を示すグラフであり、横軸は図8に示す回転角度γであり、スクリューロータの回転軸に直行する位置を0度とした回転角度である。縦軸は目標形状からのずれを表す形状誤差である。5種類の線及び点はスクリューロータ溝底からの距離の違いを表しており、40.7は最も深い位置であるため1点のみとなっている。また、歯溝の幅が存在するため、回転角度10度あたりで最大値となっている。
【0020】
図15は同じくφ6の円筒形状をした従来のエンドミルでの最深位置の歯溝側面形状誤差を示すグラフであり、図11を定量的に示したものであり、図14の回転角度10°付近の形状誤差が最大となる点をプロットしたものである。横軸はスクリューロータ溝底からの距離とし、縦軸は目標形状からのずれを表す形状誤差である。φ6mmのエンドミルで深さ40.7mmの側面加工を行った場合の幾何学的な誤差量で最大90μm存在することが分かる。さらにアスペクト比6.7の深溝加工であるため、加工負荷などの外乱による加工誤差が加わり、高精度な加工は望めない。
【0021】
これに対し、この発明の第4のエンドミル27で加工する場合について説明する。図16は第4のエンドミル加工における歯溝側面加工時のリードと工具位置の関係を示す図で、図17は図16のE−E´線断面図で軸切り込み位置を説明するものである。すなわち、上記第4のエンドミル27の切れ刃部42に相当する長さで歯溝深さ方向に加工を分割し、その時のカッターパスは切れ刃部上部47で生成される切れ刃部上部リード45(45は図17の紙面方向の直線のため図示せず)と切れ刃部下部48で生成される切れ刃部下部リード46(46は図17の紙面方向の直線のため図示せず)の両方が切れ刃部42の外周円筒部が接線となる位置に第4のエンドミル27を設定する。
【0022】
図18はこの発明の第4の特殊形状のエンドミル27での最深位置の歯溝側面形状誤差を示すグラフで、図15に対応するものである。切れ刃部42の直径がφ6mmで切れ刃部の長さを10mmとし、10mmずつ溝深さ方向に切り込んだ場合の最深部の歯溝位置での側面形状誤差を示している。この場合は歯溝側面の形状誤差が8μmと従来の10分の1以下になっているのが分かる。また、図19は首部43の凹み量d(図13参照)を試算するための外形表面での干渉量を示すグラフであり、例えば、図中プロット10は首部43の直径を切れ刃部42と同じ直径であるφ6とし、溝底から0〜10mmを加工しているときの外径表面と首部43との干渉量を表している。図19に示すように溝底から0〜10mmを加工中で最も溝深さの深い回転角度10°付近において、最も干渉量が大きく工具食込み量が0.25mmある。このことから首部43の凹み量dは0.25mm以上必要であることが分かる。すなわち、φ6mmの切れ刃部で首部43の直径は凹み量dは製品仕様及び加工工具仕様から計算することができる。
【0023】
また、スクリューロータ圧縮機の製品仕様である芯間距離18と歯溝幅54とスクリューロータとゲートロータの回転比率からスクリューロータの歯溝側面の各点のリード角は次式で求められる。
【数1】

さらに、切れ刃部42の工具径と切れ刃長さ、ゲートロータ半径19とスクリューロータ直径53と芯間距離18から決定される最大歯溝深さ、および上記計算式で計算される最大溝深さ位置での歯底位置での歯溝側面リード角δaと溝底から切れ刃長さ分上方での歯溝側面リード角δbと外形表面位置での歯溝側面リード角δcから次式で外形表面位置での工具とスクリューロータの干渉量が計算できる。
【数2】

【0024】
次にシェービングバイト28で歯溝の底面仕上げ加工Eを行う(図6(e))。シェービングバイト28はスクリュー歯溝の底面に対応させた形状を有する総形工具とし、これまでと同じくスクリューロータの回転と工具の回転によりスクリュー歯溝の底面を往復で加工する。機種毎に異なるスクリューロータ歯溝底面の形状に合わせたシェービングバイト28は従来の加工法で使用されている工具を流用してもよく、取付方法のみ本加工装置に合うように変更してあればよい。また、本装置では往復駆動が可能であるため、図20に示すように非対称の先端部を有するものであってもよい。このように要求される加工精度を満足させるための工程となっており、歯溝底面仕上げ加工工程を除き、回転工具での加工が可能となったため加工効率の向上が図れる。
【0025】
以上説明したように、この発明の実施の形態1によれば、歯溝側面の仕上げ加工に回転工具を使用するため、工具とワークの相対速度が切削速度となる。例えばシェービングバイトで歯溝側面仕上げ加工をする場合と比較して、切削速度が速くなり加工の高能率化が図られる。また、回転対象工具であるため、シェービングバイトで歯溝側面仕上げ加工をする場合に比べ刃先位置の測定が容易となり溝幅精度が向上する。更に、本発明において第4のエンドミルを用いる工程は、シェービングバイトで歯溝側面仕上げ加工をする場合に比べ、工具の加工も簡単となる。なお、この実施の形態では、スクリューロータの中心線と、歯溝側面と歯側面でシールされる冷媒ガスのシール線とが一致しているが、スクリューロータの中心線とシール線がずれた場合は、シール線位置を基準とすれば良い。
【0026】
実施の形態2.
実施の形態1では、歯溝側面仕上げ加工工程に第4のエンドミル27を用いたものについて説明したが、実施の形態2では第1のエンドミル25より小さい径の第6のエンドミル50を工具として用いる。第1のエンドミル25を工具としてスクリュー歯溝の深さ方向に一定の切込みを与えて所望深さまで掘り込む第1の工程、第1のエンドミルより小さい径の第2のエンドミルを工具としてスクリュー歯溝側面の荒加工を行う第2の工程、先端部にアール(R)形状を有する第3のエンドミルを工具としてスクリュー歯溝底面の加工を行う第3の工程は実施の形態1と同様であるので重複を避けるため説明は省略する。
【0027】
第6のエンドミル50を用いた場合を図21、図22に示す。図21は仕上げ加工でのリードと工具位置を説明する図、図22はスクリュー歯溝側面の仕上げ加工での軸切込み位置を説明する図である。すなわち、歯溝深さ方向に加工を分割し、第6のエンドミル50の先端部52でのリード51と外径表面60でのリード37の両方に接するように工具中心位置を移動させるカッターパスとする。従来のエンドミルでは、上記図14、図15で説明したように歯溝側面に幾何学的な形状誤差が発生するが、上述のように加工方法を採用すればこれを飛躍的に改善することができる。
【0028】
図23は上記カッターパスを採用したときの第6のエンドミル50での最深位置の歯溝側面形状誤差を示すグラフであり、エンドミル先端52でのリードを利用した時の状態を示している。第6のエンドミル50の直径がφ6mmで、22.7mm、6mm、4mm、4mm、4mmと5段階に溝深さ方向に切り込んだ場合で、最深部の歯溝位置での側面形状誤差を示している。この場合は歯溝側面の形状誤差が40μmと図15に示す従来のものの2分の1以下になっているのが判る。但し、切り込みのつなぎ目の部分は実施の形態1に比べ段差が大きくなるため、これを解消するため、切込み回数を細かくすればよい。なお、スクリューロータ1の中心線からのずれは、Y軸で補正すれば良い。
【0029】
本発明では、歯溝側面の仕上げ加工に回転工具を使用するため、回転数を通常のエンドミル加工と同等まで高めることができ、シェービングバイトで歯溝側面仕上げ加工を行う場合と比較して、加工の高能率化が図られる。また、回転工具であるため、刃先位置の測定が容易となり溝幅精度が向上する。
【0030】
また、上記実施の形態1及び2の加工方法で加工されたスクリューロータ1は、図18、図23に示されるごとく、表面が40μm以下の滑らかな凸部を形成することとなり、その表面粗さが小さくなるため、スクリューロータ1の複数のスクリューロータ歯溝2を2つのゲートロータ3a、3bの複数の歯4にそれぞれ互いに軸直角となるようにゲートロータをスクリューロータの左右に精度よく配置できる。スクリューロータとゲートロータの外周部をケースで覆い、スクリューロータの回転とともに連れ回りするゲートロータによりスクリューロータ歯溝2が閉じられ冷媒ガスを閉じ込めれば、性能のよいスクリュー圧縮機を製造することができる。特にスクリュー圧縮機の初期なじみがよく、初期の摺動摩擦抵抗が低くなる等スクリュー圧縮機の作動特性を向上できる。
【0031】
なお、上記実施の形態1および2において同時に制御するのは、ワークの回転軸と工具の旋回軸でもよく、ワークの回転軸2軸、工具の旋回軸を2軸用いてもよい。少なくともいずれかの2軸を同時に制御してスクリュー歯溝を形成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】シングルスクリュー圧縮機の圧縮原理を示す斜視図、
【図2】図1のC-C'線断面図、
【図3】スクリューロータ加工機の装置構成図、
【図4】スクリューロータ加工時の軸移動を示す説明図、
【図5】スクリューロータの加工工程を示すフローチャート、
【図6】スクリューロータの加工工程を示すモデル図、
【図7】荒加工用テーパエンドミルの正面図、
【図8】歯溝深さによる歯溝側面の回転半径と歯側面の回転半径の関係を示す図、
【図9】歯溝深さによるリード角変化を示す図、
【図10】エンドミル加工における歯溝側面の誤差説明図、
【図11】エンドミル加工における歯溝側面の形状誤差を示す模式図、
【図12】工具径と歯溝側面の形状誤差量の関係を示す一例、
【図13】この発明の実施の形態1による歯溝側面仕上げ加工用のエンドミルの一例を示す正面図、
【図14】従来のエンドミルにおける歯溝側面の形状誤差を示すグラフ、
【図15】従来のエンドミルにおける最深位置の歯溝側面形状誤差を示すグラフ、
【図16】この発明によるエンドミル加工における歯溝側面加工時のリードと工具位置の関係を示す説明図、
【図17】この発明の実施の形態1によるエンドミル加工における歯溝側面加工時の軸切込み位置を示す説明図、
【図18】この発明の実施の形態1のエンドミルでの最深位置の歯溝側面形状誤差を示すグラフ、
【図19】この発明の実施の形態1のエンドミルにおける首部の凹み量を試算するための外径表面での干渉量を示すグラフ、
【図20】非対称シェービングバイトの例を示す正面図、
【図21】この発明の実施の形態2のエンドミル仕上げ加工におけるリードと工具位置を説明する図、
【図22】実施の形態2のエンドミル仕上げ加工における軸切込み位置を説明する図、
【図23】実施の形態2のエンドミル仕上げ加工における最深位置の歯溝側面形状誤差を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 スクリューロータ、 2 歯溝、 3a、3b ゲートロータ、
4 歯、 5 C軸主軸、 6 工具、 7 X軸移動ステージ、
8 Z軸移動ステージ、 9 B軸回転テーブル、 10 ベッド、
11 C軸主軸台、 12 心押し台、 13a、13b 振れ止め、
14 シャフト、 15 C軸チャック、 16 スピンドル、
17 ホルダー、 18 芯間距離、 19 ゲートロータ半径、
20 工具の回転中心、 21 スクリューロータの回転中心、
22 工具の回転中心とスクリューロータの回転中心との距離、
23 工具の回転半径、 24a、24b 円弧軌道、
25 第1のエンドミル、 26 第3のエンドミル、 27 第4のエンドミル、
28 シェービングバイト、 29 テーパエンドミル、
30 歯側面、 31 ある溝深さ位置での歯溝側面の回転半径、
32 ある溝深さ位置での歯側面の回転半径、 33 スクリューロータの回転中心、
34 ゲートロータの回転中心、 35 外径表面でのリード角、
36 歯溝底でのリード角、 37a、37b 外径表面でのリード、
38a、38b 歯溝底でのリード、 39 エンドミル、
40 歯溝側面、 41 歯溝底面、 42 切れ刃部、
43 首部、 44 シャンク部、 45 切れ刃部上部でのリード、
46 切れ刃部下部でのリード、 47 切れ刃部上部、
48 切れ刃部下部、 49 非対称シェービングバイト、
50 第6のエンドミル、 51 エンドミル先端でのリード、
52 エンドミル先端、 53 スクリューロータ直径、
54 歯溝幅、 55 第2のエンドミル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの回転及び工具の旋回の少なくとも2軸を同時に制御してスクリュー歯溝を形成するスクリューロータの加工方法において、第1のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝の深さ方向に一定の切込みを与えて所望深さまで掘り込む第1の工程と、上記第1のエンドミルより小さい径の第2のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝側面の荒加工を行う第2の工程と、先端部にアール形状を有する第3のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝底面の荒加工を行う第3の工程と、深さ方向において上記スクリュー歯溝の深さより短い切れ刃部と上記切れ刃部の径より小さい径を有する首部とを具備する第4のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝の側面の仕上げ加工を行う第4の工程と、スクリュー歯溝の底面に対応する形状を有するシェービングバイトを上記工具として上記スクリュー歯溝の底面の仕上げ加工を行う第5の工程とを備えたことを特徴とするスクリューロータの加工方法。
【請求項2】
第4の工程において、第4のエンドミルの切れ刃部の長さ分深さ方向に加工を分割し、上記切れ刃部の上部と下部で創成される両方のリードに接するように工具中心を移動させるカッターパスとすることを特徴とする請求項1に記載のスクリューロータの加工方法。
【請求項3】
ワークの回転及び工具の旋回の少なくとも2軸を同時に制御してスクリュー歯溝を形成するスクリューロータの加工方法において、第1のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝の深さ方向に一定の切込みを与えて所望深さまで掘り込む第1の工程と、上記第1のエンドミルより小さい径の第2のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝側面の荒加工を行う第2の工程と、先端部にアール形状を有する第3のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝底面の加工を行う第3の工程と、上記第1のエンドミルより小さい径の第6のエンドミルを上記工具として、深さ方向において上記スクリュー歯溝の深さより短い加工深さに分割し、上記第6のエンドミルの先端でのリードと上記ワークの外径表面でのリードの両方に接するように工具中心を移動させるカッターパスとして上記スクリュー歯溝の側面の仕上げ加工を行う第4の工程と、上記スクリュー歯溝の底面に対応する形状を有するシェービングバイトを上記工具として上記スクリュー歯溝の底面の仕上げ加工を行う第5の工程とを備えたことを特徴とするスクリューロータの加工方法。
【請求項4】
ワーク回転軸と、
工具旋回軸と、
上記ワーク回転軸及び上記工具旋回軸の少なくとも2軸を同時に制御する制御手段と、
上記工具旋回軸に設置され、スクリュー歯溝の深さ方向に一定の切込みを与えて所望深さまで掘り込む第1のエンドミルと、
上記工具旋回軸に設置され、上記スクリュー歯溝の側面の荒加工を行う上記第1のエンドミルより小さい径を有する第2のエンドミルと、
上記工具旋回軸に設置され、上記スクリュー歯溝底面の荒加工を行う先端部にアール形状を有する第3のエンドミルと、
上記工具旋回軸に設置され、上記スクリュー歯溝の側面の仕上げ加工を行う上記スクリュー歯溝の深さより短い切れ刃部と上記切れ刃部の径より小さい径を有する首部とを具備する第4のエンドミルと、
上記スクリュー歯溝の底面の仕上げ加工を行う上記底面に対応する形状を有するシェービングバイトと
を備えたことを特徴とするスクリューロータの加工装置。
【請求項5】
ワークの回転及び工具の旋回の少なくとも2軸を同時に制御してスクリュー歯溝を形成するスクリューロータの加工用エンドミルであって、
深さ方向において上記スクリュー歯溝の深さより短い切れ刃部と上記切れ刃部の径より小さい径を有する首部とを具備することを特徴とするスクリューロータの加工用エンドミル。
【請求項6】
ワークの回転及び工具の旋回の少なくとも2軸を同時に制御して、
第1のエンドミルを上記工具としてスクリュー歯溝の深さ方向に一定の切込みを与えて所望深さまで掘り込み、
上記第1のエンドミルより小さい径の第2のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝側面の荒加工を行い、
先端部にアール形状を有する第3のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝底面の荒加工を行い、
深さ方向において上記スクリュー歯溝の深さより短い切れ刃部と上記切れ刃部の径より小さい径を有する首部とを具備する第4のエンドミルを上記工具として上記スクリュー歯溝の側面の仕上げ加工を行い、
スクリュー歯溝の底面に対応する形状を有するシェービングバイトを上記工具として上記スクリュー歯溝の底面の仕上げ加工を行うことにより複数の上記スクリュー歯溝を加工してスクリューロータを形成する第1の工程と、
上記スクリューロータの複数のスクリューロータ歯溝を2つのゲートロータの複数の歯にそれぞれ互いに軸直角となるように上記ゲートロータを上記スクリューロータの左右に配置する工程と、
上記スクリューロータと上記ゲートロータの外周部をケースで覆う工程と、
上記スクリューロータの回転とともに連れ回りする上記ゲートロータにより上記スクリューロータ歯溝が閉じられ冷媒ガスを閉じ込める工程と
を備えたスクリュー圧縮機の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−202327(P2009−202327A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50136(P2008−50136)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】