説明

スクリュ圧縮機

【課題】ロータ軸の回転時の不釣り合い力(アンバランス力)を生じにくくしつつ、ロータ軸自体の振動を直接的に低減できる制振構造を備えた片持ち方式の電動機直結型スクリュ圧縮機を提供すること。
【解決手段】スクリュロータ41と、スクリュロータ41を収容するスクリュケーシング12と、スクリュロータ41に対して一体構造にされるとともにスクリュロータ側で片持ち支持されたモータ軸7と、モータ軸7を回転させるモータとを備えるスクリュ圧縮機1である。スクリュ圧縮機1は、周囲の部材と衝突する態様又は相互に衝突する態様でモータ軸7と略同軸に配置された板状の錘8を具備してなる制振機構部を備える。錘8の固有振動数と、ロータ軸11の固有振動数とが一致させられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュ式の圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機直結構造のスクリュ圧縮機は、駆動ベルトを介する動力伝達方式のものよりエネルギー変換効率がよい。また、インバータを用いた回転数制御方式を採用するスクリュ圧縮機においては電動機直結構造のスクリュ圧縮機が主流となっている。ここで、コスト低減・メカロス削減の目的から、モータ軸の片側に軸受を設けない片持ち方式の電動機直結型スクリュ圧縮機とされることが多い。
【0003】
片持ち方式のスクリュ圧縮機の場合、通常、運転回転数のはるか上に危険速度がくるようにロータ軸系の設計がなされる。しかし、圧力脈動成分の加振力が発生するスクリュ圧縮機では、ロータ軸の危険速度(回転数)よりもはるかに低い回転数においてロータ軸系部分の振動が大きくなることがある。また、軸回転数で決まるアンバランスによる振動の高次成分がロータ軸系のがたつきなどで大きく出るような場合には、やはり危険速度(回転数)よりも低い回転数でロータ軸系部分の振動が大きくなることがある。
【0004】
ここで、スクリュ圧縮機の振動を低減する方法としては、防振ゴムを用いた動吸振器のような振動減衰装置による方法や、振動が大きくなる回転数域をスキップするようにロータ軸の回転数を制御する方法がある。
【0005】
しかしながら、動吸振器のような振動減衰装置による方法では、ゴムの劣化や取付の緩みなどにより防振ゴム部分などの設置条件が変化するとロータ軸系部分の共振周波数が変化し振動減衰効果が得られなくなるという問題がある。また、インバータを用いた回転数制御方式を採用するスクリュ圧縮機の場合、特定周波数だけに減衰効果を有する動吸振器では全回転数域における振動に対応できない。
【0006】
一方、振動が大きくなる回転数域をスキップするようにロータ軸の回転数を制御する方法では、振動が大きくなる回転数周辺の回転数域についても安全をみてスキップする必要があり、実機運転条件に支障をきたす場合がある。
【0007】
スクリュ圧縮機の固有振動数に関係なく振動を低減できる方法(全回転数域における振動を低減できる方法)として、例えば特許文献1に記載された方法がある。特許文献1には、モータケーシングに対して棒状体を水平方向に突設し、比較的大きな遊びを持たせた孔を有する板(質量体)をこの棒状体に挿入したことを特徴とするスクリュ圧縮機が記載されている。本構造によると、モータケーシングの振動により板(質量体)が上下方向に変位し、モータケーシングに突設した棒状体と板(質量体)とが衝突して振動エネルギーが消費されモータケーシングの振動が低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−343641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、片持ち方式の電動機直結型スクリュ圧縮機の場合、当該スクリュ圧縮機のロータ軸系部分の振動が大きくなるとロータ軸の振れ回り振動が顕著に大きくなり、電動機の回転子と固定子との間の距離が広まったり狭まったりする。このとき、回転子と固定子との間に作用する磁気吸引力が変化することから回転子だけでなく固定子側も磁気吸引力による影響を受け、固定子の設置されているモータケーシングが磁気吸引力で加振されて振動する。このように電動機の回転子側だけでなく固定子側も振動することにより、電動機の回転子とモータケーシングとが連成するような状態で振動し、この振動が成長してついには回転子と固定子とが接触してしまうことがある。その結果、固定子側が損傷して運転継続が困難となる状態が発生することがある。
【0010】
前記したように、特許文献1に記載された振動低減方法では、モータケーシングに突設した棒状体、およびこれに挿入された上下方向に変位可能な板(質量体)により、「モータケーシング」の振動を低減している。そのため、モータケーシングの振動の作用により回転子側の振動が増大することはない。しかしながら、スクリュ圧縮機のロータ軸自体の振動が大きく、例えば軸受の許容荷重を超える振動となってしまっているような場合には、スクリュ圧縮機のロータ軸自体に何らかの振動対策が必要になる。なお、ロータ軸自体に振動対策を施す場合には、その振動対策が、ロータ軸の回転時の不釣り合い力(アンバランス力)として作用しないように工夫しなければならない。
【0011】
また、モータケーシングに突設した棒状体、およびこれに挿入された上下方向に変位可能な板(質量体)という構成では、棒状体および板(質量体)を配置する空間をモータケーシングの外部に確保する必要があり、圧縮機のパッケージレイアウトの制約になる場合がある。また、ヒートバランスをとるための制約にもなる。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ロータ軸の回転時の不釣り合い力(アンバランス力)を生じにくくしつつ、ロータ軸自体の振動を直接的に低減できる制振構造を備えた片持ち方式の電動機直結型スクリュ圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、スクリュロータと、前記スクリュロータを収容するスクリュケーシングと、前記スクリュロータに対して一体構造にされるとともにスクリュロータ側で片持ち支持されたモータ軸と、前記モータ軸を回転させるモータと、周囲の部材と衝突する態様又は相互に衝突する態様で前記モータ軸と略同軸に配置された板状の錘を少なくとも具備してなる制振機構部と、を備え、前記制振機構部の固有振動数が、前記スクリュロータと前記モータ軸とで構成されるロータ軸が共振する振動数に合わせられていることを特徴とするスクリュ圧縮機を提供する。
【0014】
この構成によると、ロータ軸の曲げ振動に対して、軸方向前後のストロークエンド(例えば、モータ軸の軸端)などと錘とが衝突したり摩擦しあったりすることにより、または錘同士が衝突したり摩擦しあったりすることにより、振動エネルギーが消散し、ロータ軸の振動は低減する。また、錘を少なくとも具備してなる制振機構部の固有振動数が、ロータ軸が共振する振動数に合わせられていることで、ロータ軸に共振が生じると制振機構部の振動が促進され、衝突と摩擦による振動低減性能がより向上する。
【0015】
また、モータ軸と略同軸に錘が配置されていることで、ロータ軸の回転時の不釣り合い力(アンバランス力)は生じにくい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ロータ軸の回転時の不釣り合い力(アンバランス力)を生じにくくしつつ、ロータ軸自体の振動を直接的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスクリュ圧縮機を示す側断面模式図である。
【図2】図1のA部拡大図およびそのX−X断面図である。
【図3】図1に示した錘の変形例を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るスクリュ圧縮機を示す側断面模式図である。
【図5】図4のB部拡大図およびそのY−Y断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るスクリュ圧縮機を示す側断面模式図である。
【図7】図6のC部拡大図およびそのZ−Z断面図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係るスクリュ圧縮機の一部拡大側断面模式図である。
【図9】図1および図2に示したスクリュ圧縮機の変形例を示す一部拡大側断面模式図である。
【図10】本発明の第5実施形態に係るスクリュ圧縮機の一部拡大側断面模式図である。
【図11】図10に示したスクリュ圧縮機の変形例を示す一部拡大側断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るスクリュ圧縮機1を示す側断面模式図である。図2は、図1のA部拡大図(図2(a))およびそのX−X断面図(図2(b))である。
【0020】
(スクリュ圧縮機の構成)
図1に示すように、スクリュ圧縮機1は、スクリュ本体部2とモータ部30(モータ)とを具備してなる電動機直結構造のスクリュ圧縮機である。
【0021】
(スクリュ本体部)
スクリュ本体部2は、スクリュロータ41と、スクリュロータ41を収容するスクリュケーシング12とを有する。スクリュロータ41は、スクリュ歯部4と、スクリュ歯部4と同軸で当該スクリュ歯部4に対して一体構造にされたスクリュ軸3とを有する。スクリュ軸3は、軸受14および軸受15で両持ち支持されている。
【0022】
スクリュ歯部4とスクリュ軸3とは、1本の鋼材から削り出し加工などで製作される。なお、スクリュ歯部4とスクリュ軸3とをそれぞれ別に製作したのち剛結(一体に連結)してもよい。また、スクリュロータ41と後述するモータ軸7とも1本の鋼材から削り出し加工などで製作されて一体構造となっている。相互に一体構造にされたスクリュロータ41とモータ軸7とで回転するロータ軸11を構成する。なお、スクリュロータ41とモータ軸7とをそれぞれ別に製作したのち剛結(一体に連結)してもよい。剛結(一体構造化)の方法としてはフランジ連結などがある。
【0023】
(モータ部)
モータ部30(モータ)は、ロータ軸11を回転させるための駆動源であって、モータ軸7の外周に固定された回転子5と、回転子5の外側に配置された固定子6と、回転子5および固定子6を収容するモータケーシング13と、を有する。モータ軸7は、スクリュロータ41(スクリュ軸3)と同軸でスクリュロータ41(スクリュ軸3)に対して一体構造にされるとともにスクリュロータ41側で片持ち支持されている。具体的には、スクリュロータ41側の軸受14(および軸受15)でモータ軸7は片持ち支持されている。
【0024】
モータ軸7のモータ側端面7aは、回転子5のモータ側端面5aよりもスクリュロータ41側に位置している。回転子5のモータ側端面5aには円板状のエンド部材10がボルト(不図示)などで固定されている。エンド部材10の中心には孔10aが開けられている。エンド部材10はモータ軸7と同軸にされる。
【0025】
(制振機構部)
モータ軸7のモータ側端面7aには、モータ軸7と同軸で(モータ軸7の回転中心に)ボルト9が固定されている。ボルト9は、本発明に係る棒状被摺動部材の一例である。
【0026】
図2(a)に示したように、ボルト9は、エンド部材10の中心に形成された孔10aを貫通するような形態でモータ軸7のモータ側端面7aに固定される被摺動軸部16と、被摺動軸部16の端に形成された頭部17(大径部)とからなる。頭部17の外径は被摺動軸部16の軸径よりも大きい。被摺動軸部16の軸径は、モータ軸7の軸径よりも小さい。
【0027】
ここで、モータ軸7のモータ側端面7aとエンド部材10との間の空間には、ボルト9の被摺動軸部16に緩挿された状態で複数の板状かつ環状の錘8が収容されている。本実施形態では6枚の錘8としているが6枚に限られることはない。1枚でもあってもよい。この錘8(本実施形態では計6枚)と、ボルト9とで本発明における制振機構部を構成する。
【0028】
6枚の錘8の合計の厚みは、モータ側端面7aとエンド部材10との間の間隔よりも小さい。すなわち、錘8は、モータ軸7の軸方向に移動可能となっている。錘8の軸方向移動可能量は、例えば、約0.5mm〜数mmとされる。また、錘8の外径(直径)は、回転子5の内径よりも小さい。かつ、前記したように、錘8は、ボルト9の被摺動軸部16に緩挿されているので、モータ軸7の軸直交方向にも移動(変位)可能となっている。錘8の軸直交方向変位可能量は、回転子5と固定子6との嵌め合い寸法と同程度にされ、例えば、約0.02mm〜約0.5mmとされる。
【0029】
ここで、図2(a)では、錘8がモータ軸7と同軸に図示されている。しかしながら、ボルト9の被摺動軸部16に錘8を緩挿させて静止した状態においては、厳密には、錘8の軸直交方向変位可能量(0.02mm〜0.5mm程度)だけ、モータ軸7の軸心よりも鉛直下方向に錘8の軸心が下がった状態となる。すなわち、本発明で、モータ軸7と「略」同軸に錘8が配置される、とは、この軸直交方向変位可能量だけモータ軸7の軸心よりも鉛直下方向に錘8の軸心が下がった状態になることを表現している。
【0030】
このようにして、錘8は、モータ軸7のモータ側端面7a、エンド部材10などの周囲の部材と軸方向などで衝突する態様でモータ軸7と略同軸に配置されている。本実施形態では複数枚の錘8を用いているので、相互に軸方向で衝突し合うようにもなっている。
【0031】
なお、被摺動軸部16の断面形状は円形であるが必ずしも円形である必要はなく、例えば、四角形などであってもよい。錘8の中心に形成された孔8aも同様であって、円形ではなく、例えば、四角形などであってもよい。錘8の中心に形成された孔8aの形状は、被摺動軸部16の断面形状と合わされる。また、頭部17の断面形状は六角形であるが必ずしも六角形である必要はなく、例えば、円形などであってもよい。
【0032】
なお、本実施形態では、モータ軸7の片持ち支持側の反対側端部(エンド部材10付近)に錘8を配置しているが、錘8の配置位置はこの限りでない。例えば、ロータ軸11の中途部分に、当該ロータ軸11の軸径よりも小さい軸径の棒状被摺動部を形成し、この部分に錘8を緩挿配置してもよい。
【0033】
(制振機構部の固有振動数)
ここで、錘8の固有振動数と、スクリュロータ41とモータ軸7とで構成されるロータ軸11の固有振動数とを一致させる。ロータ軸11の固有振動数は、例えば、ロータ軸11と一体で回転する部品、すなわち、ロータ軸11、回転子5、ボルト9、およびエンド部材10といった部品を考慮して計算により求められる。錘8の固有振動数は、その板厚、直径、材料などを選択することで調整される。
【0034】
(作用・効果)
スクリュ圧縮機1によると、主にスクリュロータ41の回転に起因するロータ軸11の曲げ振動に対して、軸方向前後のストロークエンド(モータ軸7のモータ側端面7a、およびエンド部材10の端面)と錘とが衝突したり摩擦しあったりすることにより、振動エネルギーが消散し(軸方向衝突による振動エネルギーの消散)、ロータ軸11の振動は低減する。すなわち、回転するロータ軸11自体の振動を、軸方向などに移動して衝突する錘8で直接的に低減できる。また、ロータ軸11の曲げ振動が大きくなる部分である、モータ軸7の片持ち支持側の反対側端部(エンド部材10付近)に錘8を配置していることで、軸方向衝突による振動エネルギーの消散効率をより高めることができている。
【0035】
また、制振機構部を構成する錘8の固有振動数を、ロータ軸11の固有振動数と一致させることで、錘8の振動が促進され、衝突と摩擦による振動低減性能をより向上させることができている。ロータ軸11の固有振動数付近では、錘8部分で大きな振動が励起されるため、衝突と摩擦が促進されるからである。
【0036】
また、モータ軸7と略同軸に錘8を配置することで、ロータ軸11の回転時の不釣り合い力(アンバランス力)は生じにくい。なお、モータ軸7と同軸に配置されたボルト9に対して環状の錘8を緩挿させた形態とすることで、ロータ軸11の回転時の不釣り合い力(アンバランス)をより生じにくくすることができている。
【0037】
さらに、軸方向に隣接させて複数の錘8を配置しているので、錘8同士が軸方向衝突したり摩擦しあったりすることによっても振動エネルギーを消散させることができている。
【0038】
また、モータ軸7のモータ側端面7aとエンド部材10との間の空間に錘8を収容することで、スクリュ圧縮機全体の軸方向長さを従来機とほぼ同じにすることができる。
【0039】
(変形例)
ボルト9の固有振動数と、スクリュロータ41とモータ軸7とで構成されるロータ軸11の固有振動数とを一致させてもよい。ロータ軸11の固有振動数付近では、ボルト9部分で大きな振動が励起され、その振動により、ボルト9に緩挿された錘8部分でも大きな振動が励起される。これにより、衝突と摩擦による振動低減性能が向上する。1本のボルト9の固有振動数を調整するのみで、複数の錘8すべての振動を促進させることができる。ボルト9の固有振動数は、その軸径、長さ、材料などを選択することで調整される。
【0040】
なお、ボルト9の固有振動数、および錘8の固有振動数を、いずれもロータ軸11の固有振動数と一致させてもよい。さらには、錘8とボルト9とで構成される制振機構部全体として(系として)、その固有振動数を、ロータ軸11の固有振動数と一致させてもよい。
【0041】
「制振機構部の固有振動数と、ロータ軸11の固有振動数とが一致させられている」とは、錘8およびボルト9のうちの少なくともいずれか一方の固有振動数と、ロータ軸11の固有振動数とが一致させられていること、ならびに、制振機構部全体として(系として)、その固有振動数と、ロータ軸11の固有振動数とが一致させられていること、を全て含んでいる。
【0042】
なお、ロータ軸11の固有振動数に、制振機構部の固有振動数を一致させる必要は必ずしもない。ロータ軸11が共振する振動数(ロータ軸11に対して減衰を付加したい振動数)に、制振機構部の固有振動数を合わせれば、ロータ軸11に共振が生じると(減衰を付加したい振動数の振動がロータ軸11に発生すると)、制振機構部の振動が促進され、衝突と摩擦による振動低減性能が向上する。
【0043】
ロータ軸11が共振する振動数とは、特定の振動モードでロータ軸11の曲げ振動が大きくなる振動数のことであり、ロータ軸11の固有振動数を含む。また、ロータ軸11に対して減衰を付加したい振動数は、スクリュ圧縮機1の運転に支障がでるようなロータ軸11の曲げ振動が大きくなる振動数のことであり、ロータ軸11の固有振動数を含む。
【0044】
さらには、前記したスクリュ圧縮機1では、モータ軸7のモータ側端面7aにボルト9の一端をねじ込みなどで固定するとともに、ボルト9の他端部(頭部17)をエンド部材10に強く当接させることで、ボルト9が両持ち支持されるが、モータ側端面7aにボルト9の端を固定するのみ、またはエンド部材10にボルト9の端(頭部17)を固定するのみ、というように、ボルト9が片持ち支持されてもよい。
【0045】
(錘の変形例)
図3は、図1、2に示した錘8の変形例を示す図であり、図2(b)に示したX−X断面図に相当する錘の断面図である。
【0046】
前提として、図3に示した板状かつ環状の錘42の固有振動数は、ロータ軸11の固有振動数と一致させられる。図3に示したように、本実施形態の錘42の周縁部42aには、その周方向に沿って等間隔で(同じ位相差で)三日月状の孔42bが4つ設けられている。孔42bの一部は、錘42の外形に沿う円弧状とされている。
【0047】
孔42bの存在によりその部分の弾性が大きくなるので、錘42の周縁部42aは、当該周縁部42aの内側部分よりも弾性が大きいばね部となる。なお、三日月状の孔42bの円弧状部頂部などに、当該孔42bと錘42の周縁とを連通させるスリットが切られていてもよい。これにより、半島形状の振動部が錘42の周縁部42aに形成される。
【0048】
(作用・効果)
錘42の周縁部42aを当該周縁部42aの内側部分よりも弾性が大きいばね部とし、当該周縁部42aにばね(弾性)の機能を持たせることで、錘42の質量と弾性とから求まる錘42の固有振動数の調整が行いやすくなる。
【0049】
また、周縁部42aの周方向に沿って複数の孔42bを設けることにより、当該周縁部42aをばね部とすることで、孔42bの形状、寸法などにより錘42の固有振動数の調整を行うことができる。これにより、減衰を付加したい振動数(例えば、ロータ軸11の固有振動数)が低い場合であっても、錘42の板厚を確保しつつ、錘42の固有振動数の調整を行うことができる。
【0050】
また、本実施形態の錘42によれば、錘42の重心が、錘42の中心と一致するので、ロータ軸11の回転時の不釣り合い力(アンバランス力)も生じにくい。
【0051】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係るスクリュ圧縮機102を示す側断面模式図である。図5は、図4のB部拡大図(図5(a))およびそのY−Y断面図(図5(b))である。図4および図5において、第1実施形態のスクリュ圧縮機1と同様の部材については同一の符号を付している。
【0052】
第1実施形態のスクリュ圧縮機1と、本実施形態のスクリュ圧縮機102との主な相違点は、本実施形態のスクリュ圧縮機102が、筒状のスペーサ18を具備してなることである。
【0053】
(スペーサ)
スペーサ18は、錘8の軸方向移動可能量を調整するためのものであり、本実施形態では、錘8の軸方向両側のうちのエンド部材10側に配置されている。なお、錘8の軸方向両側のうちの少なくともいずれか一方にスペーサ18を配置することができる。また、スペーサ18の数は、複数であってもよい。
【0054】
スペーサ18を入れることで、錘8の軸方向移動可能量は、例えば、約0.5mm〜数mmとされる。また、スペーサ18の軸直交方向変位可能量は、回転子5と固定子6との嵌め合い寸法と同程度にされ、例えば、約0.02mm〜約0.5mmとされる。スペーサ18の中心に形成された孔18aは、円形ではなく、例えば、四角形などであってもよい。スペーサ18の中心に形成された孔18aの形状は、被摺動軸部16の断面形状と合わされる。
【0055】
(作用・効果)
錘8の軸方向移動可能量が大きすぎると、錘8が例えば倒れるように動いてロータ軸11回転時の不釣り合い力(アンバランス力)が生じてしまう。スペーサ18により、錘8の軸方向移動可能量を調整することで、錘8の倒れを防止でき、ロータ軸11の回転時の不釣り合い力(アンバランス力)を生じにくくすることができる。
【0056】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態に係るスクリュ圧縮機103を示す側断面模式図である。図7は、図6のC部拡大図(図7(a))およびそのZ−Z断面図(図7(b))である。図6および図7において、第1実施形態のスクリュ圧縮機1と同様の部材については同一の符号を付している。
【0057】
第1実施形態のスクリュ圧縮機1と、本実施形態のスクリュ圧縮機103との主な相違点は、錘の配置であり、本実施形態のスクリュ圧縮機103では、エンド部材10よりも外方(回転子5の軸方向外側)に錘を配置している。
【0058】
(制振機構部)
本実施形態のボルト21(棒状被摺動部材)は、エンド部材10の中心に形成された孔10aを貫通するような形態でモータ軸7のモータ側端面7aに固定される被摺動軸部22と、被摺動軸部22の端に形成された頭部23(大径部)とからなる。被摺動軸部22は、モータ軸7の端面側から順に小径部22a、中径部22bを有する。頭部23の外径は被摺動軸部22の小径部22a・中径部22bの軸径よりも大きく、かつ錘20の内径よりも大きい。頭部23の外径を錘20の内径よりも大きくすることで、錘20は、ボルト21の端から飛び出して脱落してしまうことはない。
【0059】
ボルト21の頭部23は、エンド部材10よりも外方、換言すれば、回転子5の軸方向外側に位置させられている。頭部23の断面形状は六角形であるが必ずしも六角形である必要はなく、例えば、円形などであってもよい。
【0060】
そして、ボルト21の頭部23とエンド部材10との間の被摺動軸部22の中径部22bに複数の環状の錘20が緩挿されている。本実施形態では3枚の錘20としているが3つに限られることはない。1枚でもあってもよい。これら3枚の錘20とボルト21とで本発明における制振機構部を構成する。
【0061】
これら3枚の錘20とボルト21とで構成される制振機構部の固有振動数を、ロータ軸11に対して減衰を付加したい振動数に合わせることに関しては、前記した第1実施形態(スクリュ圧縮機1)と同様であるのでその説明を省略する(以降に記載の実施形態・変形例においても同様)。
【0062】
(作用・効果)
本実施形態のスクリュ圧縮機103によると、ロータ軸11の曲げ振動が大きくなる部分である、モータ軸7の片持ち支持側の反対側端部よりも外方に錘20が配置されることになり、軸方向衝突による振動エネルギーの消散効率をより高めることができる。また、スクリュ圧縮機103によると、エンド部材10を取り外すことなく錘20をセットすることができる。また、錘20の数量調整などをするときは、基本的に、ボルト21の中径部22bの長さのみを変化させればよく、モータ軸7の加工(モータ軸7の長さ変更)などを必要としない。また、錘20の外径寸法も任意に決定できる。
【0063】
(第4実施形態)
図8は、本発明の第4実施形態に係るスクリュ圧縮機104の一部拡大側断面模式図であり、スクリュ圧縮機1の一部を示す図2(a)に相当する図である。図8において、第1実施形態のスクリュ圧縮機1と同様の部材については同一の符号を付している。
【0064】
本実施形態では、エンド部材10とモータ側端面7aとの間の空間に錘8を配置するだけでなく粘性体24を封入している。粘性体24の封入により、錘8の摺動面に粘性減衰を発生させることもでき、その結果、この粘性減衰によってもロータ軸11の振動を低減できる。ここで、錘8の摺動面とは、錘8と被摺動軸部16とが接する面、錘8と回転子5とが接する面などのことをいう。なお、粘性体24としては、粘度の高いグリス、シリコンオイルなどが挙げられる。10000cSt〜100000cSt程度の粘度の粘性体24が好ましい。
【0065】
第4実施形態の変形例として、エンド部材10とモータ側端面7aとの間の空間に、モータ軸7の振動にともなって振動する粉粒体を封入することも好ましい。粉粒体の封入によると、粉粒体の粒子間の摩擦による摩擦減衰によってもロータ軸11の振動を低減できる。なお、粉粒体としては、スラグ(高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、転炉スラグ、電炉スラグなど)、コールドペレット(セメントにより、鉄粉・ダスト・フライアッシュなどをペレット状に固めたもの)、金属系の還元鉄ペレットおよび焼結鋼、ガラス系のシラスバルーン(火山灰を原料とした微細な中空ガラス球)、ならびにセラミック系の粉粒体などが挙げられる。100μm〜数mm程度の粒径の粉粒体が好ましい。
【0066】
(変形例)
図9は、図1および図2に示したスクリュ圧縮機1の変形例を示す一部拡大側断面模式図であり、いずれの図もスクリュ圧縮機1の一部を示す図2(a)に相当する図である。
【0067】
モータ軸7の軸方向に複数の錘を隣接配置するだけでなく、図9(a)に示したように、モータ軸7の軸直交方向(径方向)にも複数の錘25・26を隣接配置(多層配置)することも好ましい。環状の錘25の内径は、環状の錘26の内径よりも大きい。モータ軸7の軸直交方向(径方向)に錘25・26を隣接配置(多層配置)することで、錘25・26同士も衝突・摩擦するので、錘の衝突・摺動面積も増加し、振動エネルギーをより消散させやすくなる。
【0068】
なお、本形態において、エンド部材10とモータ側端面7aとの間の空間に、図8で示した粘性体24や粉粒体を封入することも好ましい。粘性体24の封入により、錘25・26間の摺動面にも粘性減衰を発生させることができる。粉粒体の封入により、粉粒体の粒子同士が擦れあうことによる摩擦減衰効果が錘25・26間においても得られる。また、本形態では、軸直交方向に2枚の錘25・26を隣接配置(多層配置)しているが、軸直交方向に3枚以上の錘を隣接配置(多層配置)してもよい。
【0069】
また、図9(b)に示したように、孔のない円板状の錘27を、エンド部材10(孔なし)とモータ側端面7aとの間の空間に複数配置してもよい。すなわち、図2(a)に示したボルト9を省略してもよい。本形態によっても、軸方向前後のストロークエンド(モータ軸7のモータ側端面7a、およびエンド部材10の端面)と錘27とが衝突することで振動エネルギーが消散し、ロータ軸11の振動は低減する。また、モータ軸7と略同軸に円板状の錘27を配置することで、ロータ軸11の回転時の不釣り合い力(アンバランス力)を生じにくくすることができる。また、錘27の固有振動数が、ロータ軸11に対して減衰を付加したい振動数(例えば、ロータ軸11の固有振動数)に合わせられることで、減衰を付加したい振動数の振動が発生すると、錘27の振動が促進され、衝突と摩擦による振動低減性能がより向上する。
【0070】
(第5実施形態)
図10は、本発明の第5実施形態に係るスクリュ圧縮機105の一部拡大側断面模式図であり、スクリュ圧縮機1の一部を示す図2(a)に相当する図である。図10において、第1実施形態のスクリュ圧縮機1と同様の部材については同一の符号を付している(後述する図11についても同様)。
【0071】
本実施形態では、エンド部材10とモータ側端面7aとの間の空間に、環状の錘19を1枚、コイルばね32を2つ、環状の減衰体33を2つ配置している。2つのコイルばね32は、環状の減衰体33にその外側から挿入される態様でエンド部材10とモータ側端面7aとの間の空間に配置されている。さらには、2つのコイルばね32は、縮められた状態で、それぞれ、エンド部材10と錘19との間、錘19とモータ側端面7aとの間に組み込まれている。このようにして環状の錘19は、コイルばね32および減衰体33で軸方向に支持されている。なお、第1実施形態における錘8と同様に、錘19の外周面と回転子5との嵌め合い寸法、または錘19の内周面とボルト9との嵌め合い寸法を、回転子5と固定子6との嵌め合い寸法と同程度とすることで、ロータ軸11回転時の不釣り合い力(アンバランス力)を生じにくくしている。ここで、減衰体33としては、例えば、シリコン系ゲル状の減衰体が挙げられる。
【0072】
本実施形態によると、ロータ軸11の振動に対して錘19が軸方向に振動してその反力によりロータ軸11の振動エネルギーが消散する。すなわち、ロータ軸11の回転時の不釣り合い力(アンバランス力)を生じにくくしつつ、いわゆる動吸振器の制振作用によってロータ軸11の振動を直接的に低減できる。
【0073】
第5実施形態の変形例として、図11(a)に示したように、コイルばね32の代わりに環状の凸状板ばね35を用いてもよい。また、環状の減衰体33の代わりに粘度の高いグリスなどの粘性体34をエンド部材10とモータ側端面7aとの間の空間に封入してもよい。粘性体34としては、粘度の高いグリスの他に、シリコンオイルなどが挙げられる。1000cSt〜10000cSt程度の粘度の粘性体34が好ましい。
【0074】
また、図11(b)に示したように、コイルばね32および減衰体33の代わりに、エンド部材10と錘19との間、および錘19とモータ側端面7aとの間に環状の粘弾性体36を配置して、この粘弾性体36で軸方向に錘19を支持してもよい。粘弾性体36としては、損失係数0.2〜0.5程度の高減衰ゴム(例えば、ブチル系ゴム)を用いることが好ましい。なお、本変形例では、錘19の両側に複数の粘弾性体36を配置しているが、錘19の両側にそれぞれ1つずつ粘弾性体36を配置してもよい。
【0075】
さらには、図示を省略するが、図9(b)に示した錘27のように、錘19、減衰体33、および粘性体34を、孔のない形態のものとして、ボルト9を省略してもよい。
【0076】
さらには、例えば、図10に示した構造において、錘19の両側のうちの片側のみに、コイルばね32および減衰体33を配置してもよい(図11においても同様)。コイルばね32および減衰体33が配置されていない側では、錘19とエンド部材10(または、モータ軸7の軸端)とが衝突することによって振動エネルギーが消散する。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【符号の説明】
【0078】
1:スクリュ圧縮機
2:スクリュ本体部
3:スクリュ軸
5:回転子
6:固定子
7:モータ軸
8:錘
9:ボルト(棒状被摺動部材)
10:エンド部材
11:ロータ軸
12:スクリュケーシング
13:モータケーシング
30:モータ部(モータ)
41:スクリュロータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュロータと、
前記スクリュロータを収容するスクリュケーシングと、
前記スクリュロータに対して一体構造にされるとともにスクリュロータ側で片持ち支持されたモータ軸と、
前記モータ軸を回転させるモータと、
周囲の部材と衝突する態様又は相互に衝突する態様で前記モータ軸と略同軸に配置された板状の錘を少なくとも具備してなる制振機構部と、
を備え、
前記制振機構部の固有振動数が、前記スクリュロータと前記モータ軸とで構成されるロータ軸が共振する振動数に合わせられていることを特徴とする、スクリュ圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載のスクリュ圧縮機において、
前記制振機構部の固有振動数と、前記ロータ軸の固有振動数とが一致させられていることを特徴とする、スクリュ圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスクリュ圧縮機において、
前記制振機構部は、前記モータ軸と同軸に設けられた当該モータ軸の軸径よりも小さい軸径の棒状被摺動部材をさらに備え、
環状の前記錘が前記棒状被摺動部材に緩挿されており、
環状の前記錘および前記棒状被摺動部材のうちの少なくともいずれか一方の固有振動数が、前記ロータ軸が共振する振動数に合わせられていることを特徴とする、スクリュ圧縮機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のスクリュ圧縮機において、
前記錘の周縁部は、当該周縁部の内側部分よりも弾性が大きいばね部とされており、
前記錘の固有振動数が、前記ロータ軸が共振する振動数に合わせられていることを特徴とする、スクリュ圧縮機。
【請求項5】
請求項4に記載のスクリュ圧縮機において、
前記周縁部に当該周縁部の周方向に沿って複数の孔が設けられることで、前記周縁部が前記ばね部とされていることを特徴とする、スクリュ圧縮機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のスクリュ圧縮機において、
前記モータは、
前記モータ軸の外周に固定された回転子と、
前記回転子の外側に配置された固定子と、
前記回転子および前記固定子を収容するモータケーシングと、
を有し、
前記モータ軸のモータ側端面は、前記回転子のモータ側端面よりもスクリュロータ側に位置させられ、
前記モータ軸と同軸で前記回転子のモータ側端面に固定されたエンド部材を備え、
前記モータ軸のモータ側端面と前記エンド部材との間の空間に前記錘が収容されていることを特徴とする、スクリュ圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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