説明

スクリーン及び投射システム

【課題】適度に拡散された状態の画像光により良好な状態の画像を表示でき、比較的簡易に作製可能であり、巻き取り等の収納性が高く、筆記・消去を行うことが容易なスクリーン及び当該スクリーンを用いた投射システムを提供すること。
【解決手段】本体部分1が拡散特性を示す拡散構造1cを内在させ、かつ、入射光PLに対応して光反射膜PPを傾けた状態としているため、画像光を適度に拡散された状態とすることができる。また、スクリーン10は、例えば本体部分1上に別途拡散層等の拡散作用を有する部材を取り付ける必要がなく、比較的簡易に作製可能であり、かつ、薄型化が比較的容易であるため巻き取り等の収納性が高いものにできる。さらに、本体部分1が拡散特性を内在させていることで、表側面1aによって本体部分1の表面を構成することができ、スクリーン10の表面において筆記・消去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方のプロジェクター等の画像投射装置からの投射光を反射して投影画像を映し出すスクリーン及び当該スクリーンを用いた投射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクター等からの投射光を反射することで投影画像を映し出す反射スクリーンとして、明るい室内において良質な画像を得るために、フレネル形状部材を有し、当該フレネル形状部材のフレネル面側に光を等方拡散させる光拡散剤や拡散性を付与する凹凸表面を付与するものが知られている(特許文献1参照)。また、別のスクリーンとして、所定範囲内の角度領域から入射した光を散乱又は拡散透過させ、かつ、所定範囲外の角度領域から入射した光を直進透過させる光制御機能を有する特殊な構造の高分子膜からなる光制御層を備えるものが知られている(特許文献2参照)。
【0003】
このほか、異方性拡散フィルムとして、光の透過度と拡散度との双方に優れた特性を有するものが知られている(特許文献3及び非特許文献1参照)。
【0004】
例えば、上記特許文献1のスクリーンでは、フレネル形状部材と拡散剤を含む透明樹脂層と、透明フィルムとを有する構造となっており、特許文献2のスクリーンでは、光透過層と拡散層とを有する構造となっている。これらの場合、スクリーンの構造が複雑となり作製コストがかかるだけでなく、スクリーンが厚くなりやすいため、巻き取り等の収納性が悪くなる可能性がある。また、特許文献1では、最表面となる透明フィルムに凹凸構造を設けることで拡散の効果を得るものとしているが、この場合、例えばスクリーンの表面においてマーカー等で筆記・消去を行うことが困難となりスクリーンを書き込み用のボードとして兼用することができない可能性がある。なお、特許文献3及び非特許文献1は、照明器具等に用いる異方性拡散フィルムについての技術を開示するものであり、投影画像を映し出すスクリーンへの応用を前提としていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−11345号公報
【特許文献2】特開2009−271263号公報
【特許文献3】特開2010−170076号公報
【非特許文献1】月刊Polyfile2010年7月号:LED用拡散シートの展開
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、適度に拡散された状態の画像光により良好な状態の画像を表示でき、比較的簡易に作製可能であり、巻き取り等の収納性が高く、筆記・消去を行うことが容易なスクリーン及び当該スクリーンを用いた投射システムを提供することを目的とする。
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るスクリーンは、(a1)画像投影における基準面に平行な方向のうち所定の異方性光拡散方向について他の方向よりも大きい拡散特性を示す拡散構造と、(a2)拡散構造に対して裏側の外形形状を形成し基準面に対して傾いた複数の傾斜面を含む凹凸形状部と、を有する(a)本体部分と、(b)凹凸形状部の表面上に複数の傾斜面の分布に応じて部分的に形成され、拡散構造の表側から入射して本体部分を経た入射光を反射する複数の光反射面を有する光反射部と、を備える。
【0008】
上記スクリーンでは、本体部分そのものが所望の拡散状態の画像光を形成するための拡散特性を示す拡散構造を内在させており、また、凹凸形状部の外形形状によって光反射部の複数の光反射面を入射光に対応して傾けた状態にすることで、適度に拡散された状態の画像光を適切な方向に反射して良好な状態の画像を表示させることができる。また、この場合、例えば本体部分に、別途拡散層等の拡散作用を有する部材を取り付ける必要がないため、本スクリーンは、比較的簡易に作製可能であり、かつ、薄型化が容易で巻き取り等の収納性が高いものとなる。さらに、本体部分が拡散特性を内部構造として有しているため、例えばスクリーン表面に拡散のための凹凸構造を設けるといった必要もない。従って、表面を平坦な構成とすることが可能であるため、スクリーン表面において筆記・消去を行う構成とすることが容易である。
【0009】
本発明の具体的な側面では、(a)凹凸形状部が、上記複数の傾斜面に相当する複数の第1面と、複数の第1面と異なる方向に傾いた複数の第2面とを有し、複数の第1面と複数の第2面とが交互に連ねて配列されることにより当該配列される方向について断面鋸歯状の面を有し、(b)光反射部が、各第1面上に各光反射面を有する。この場合、複数の第1面において入射光を所望の方向に反射させるとともに、複数の第2面において不要な光の成分を適切に処理することが可能となる。
【0010】
本発明の別の側面では、本体部分が、所定の異方性光拡散方向に対応して分散して配された所定形状の粒子を拡散構造として内部に有している。この場合、当該所定形状の粒子の分散等を所定の異方性光拡散方向に対応して適宜調整することで、所望の異方性拡散特性を有する本体部分にできる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、本体部分の裏側において、凹凸形状部上の外形面のうち少なくとも複数の光反射面間の露出部分を覆う光吸収膜をさらに備える。この場合、複数の光反射面間の露出部分に向かう不要な成分が観察者側に戻ることを抑制でき、コントラストの向上を図ることができる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、本体部分が、表側の最表面として基準面に平行な平坦面を有する。この場合、スクリーンの表面を凹凸のない平坦な状態にすることができるので、例えば、スクリーンの表面上においてマーカー等によって筆記・消去を行う構成としても、消去後スクリーンの表面上にマーカーのインク剤等が残留しにくくなる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、本体部分が、表側において付随的に設けられて最表面を形成する保護層をさらに備える。この場合、保護層によってスクリーンの表側を保護することができる。また、保護層に、例えば防眩性の材料を用いることで、光の不必要な反射を抑制できる。また、ホワイトボードのコーティング材を用いることで、スクリーン上でのマーカー等による書き込み及び消去をする場合に、マーカーの拭き取りをより行いやすい状態に保つことが可能となる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、本体部分が、シート状のフィルム部材である。この場合、本体部分の厚みが抑えられ、巻き取り等の収納性が高いものとなる。
【0015】
本発明のさらに別の側面では、所定の異方性光拡散方向が、本体部分の長手方向と一致する。この場合、スクリーンのうち、長手方向について、より広範囲に拡散させることができる。
【0016】
上記課題を解決するため、本発明に係る投射システムは、(a)上記いずれかに記載の
スクリーンと、(b)投影画像となる入射光をスクリーン上に向けて投射する画像投射装置と、を備える。この投射システムは、上記いずれかのスクリーンに画像投射装置からの入射光を、適度に拡散された状態の画像光として反射することにより、良好な状態の投影画像を映し出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係るスクリーン及び投射システムを示す図である。
【図2】スクリーンの正面図である。
【図3】スクリーンの動作の概要について説明するための図である。
【図4】スクリーンによる投射光の拡散について説明するための概念的な一部拡大図である。
【図5】(A)、(B)は、スクリーンによる外光の処理について説明するための一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るスクリーン及びスクリーンを含む投射システムについて説明する。
【0019】
〔A.投射システムの構造〕
図1に示すように、本実施形態の投射システム100は、スクリーン10と、プロジェクター50とを備える。
【0020】
プロジェクター50は、室内の床面側に固定された状態でスクリーン10に近接して設置されている。つまり、プロジェクター50による投射は、下側からの近接投射すなわち+Y方向に偏った−Z方向への極端な斜め投射となっている。
【0021】
スクリーン10は、図2に示すように、図中水平方向すなわちX方向を長手方向とし、垂直方向すなわちY方向を短手方向とする横長の長方形状を有する。スクリーン10は、その正面側すなわち略+Z側に設置されたプロジェクター50からの入射光PLを、折り返すことによって正面側すなわち略+Z側に反射光として射出させる反射型スクリーンである。より具体的に説明すると、図1に示すように、まず、スクリーン10の本体部分1は、表側すなわち+Z側の面として、表側面1aを有する。また、本体部分1は、裏側すなわち−Z側に、スクリーン10の裏側の外形形状を形成する凹凸形状部1bを有する。入射光PLは、スクリーン10ののうち本体部分1の表側面1aに向けて投射され、凹凸形状部1b上に設けた微細構造によって反射されることで、略+Z側にいる観察者EYに投影画像が提供される。つまり、表側面1aは、XY面に平行な主面であり、プロジェクター50から斜め上方に射出される入射光PLを画像投影するにあたっての基準面となっている。また、凹凸形状部1bは、本体部分1の裏側すなわち−Z側の面である凹凸形状面1bbを有し、凹凸形状面1bb上に入射光PLを反射させるための構造を有している。なお、表側面1aや凹凸形状部1bの形状等については、図3を用いて後述する。
【0022】
なお、図2に示すように、プロジェクター50からの入射光PLは、スクリーン10の主面である表側面1aの中央を通ってY方向に延びスクリーン10を対称に2分する中心線である中心軸LXを基準としてX方向について対称な状態で投射されている。また、スクリーン中心点Oは、表側面1a上の点であり、Y方向に延びる中心軸LXと、X方向に延びスクリーン10を対称に2分する軸MXとの交点である。また、図1に示すように、表側面1aの法線方向(Z方向)については、法線ZXにより示すものとし、入射光PLの入射角βは、法線ZXに対する角度で規定される。
【0023】
〔B.スクリーンの構造〕
以下、図2及び図3を参照して、スクリーン10の構造の詳細について説明する。まず、図2等に示すように、スクリーン10において、基板としての本体部分1は、横長の長方形状の外観を構成するシート状のフィルム部材である。また、既述のように、本体部分1は、表側にXY面に平行な表側面1aを有し、裏側に断面鋸歯状の凹凸形状部1bを有している。さらに、図3に示すように、本体部分1は、表側面1a上にこれを覆うように保護層20を付随させた状態で有している。
【0024】
また、スクリーン10は、本体部分1のほかに、光反射部PXと、光吸収膜BRとを備えている。光反射部PXは、本体部分1の裏面側すなわち凹凸形状部1b上に形成される微細構造であり、複数の光反射膜PPで構成されている。光吸収膜BRは、裏面の露出する凹凸形状部1b及び複数の光反射膜PPを裏側すなわち−Z側から覆っている。
【0025】
ここで、本体部分1は、例えば粒子を分散させた構造を、拡散構造1cとして内部に有している。これにより、スクリーン10は、基準面である表側面1aに平行すなわちXY面に平行な方向のうち本体部分1の長手方向すなわちスクリーン10の長手方向と一致するX方向を異方性光拡散方向として、他の方向であるY方向よりも大きい拡散特性を示すものとなっている。つまり、本体部分1の内部構造である拡散構造1cは、異方性光拡散方向がX方向となるように分散して配された形状の粒子による屈折構造である。また、本体部分1において、当該粒子を用いた構造としていることにより、高い光線透過率と高い拡散性とを両立させることが可能となっている。拡散構造1cの屈折構造についてより具体的には、例えば上記非特許文献1に詳細が記載されたものの適用が可能である。具体的には、当該粒子の分布を適宜調整することで、(1)上記非特許文献1の図4に示される特定の立体角方向に強い異方拡散を示す異方性拡散タイプのものや、(2)図5に示される等方性拡散タイプと図4のタイプとの中間的な拡散作用を示す異方性拡散タイプのものによって、本体部分1の拡散構造1cを構成することが考えられる。また、上記非特許文献1の材料を使うことで、高い光線透過率と高い拡散性との両立が実現可能である。なお、本実施形態では、当該粒子を含む樹脂製の拡散構造1cによって本体部分1の内部全体が一体的に形成されている。
【0026】
また、本体部分1の裏側すなわち−Z側の面である凹凸形状部1bにおいて、凹凸形状面1bbは、基準面である表側面1aの向きよりも下方すなわち−Y方向にそれぞれ傾いている傾斜面を含む複数の第1面である複数の第1傾斜面S1と、表側面1aよりも上方すなわち+Y方向にそれぞれ傾いている面を含む複数の第2面である複数の第2傾斜面S2とで構成されている。より具体的には、各傾斜面S1,S2が交互に連ねて配列された状態となっている。このように1つの傾斜面S1と1つの傾斜面S2とによる繰り返しの単位が並ぶことにより、各傾斜面S1,S2の配列された方向すなわちスクリーン10の中心軸LXに沿った方向の断面について上端から下端までの全体において断面鋸歯状の面を凹凸形状面1bbとして有する凹凸形状部1bが形成されている。第1傾斜面S1の表側面1aに対する傾斜角度αは、光反射膜PPの傾きすなわち複数の光反射面PSの傾きを決定する。傾斜角度αは、入射光PLの入射角βに応じて適宜調整されている。これにより、スクリーン10に入射する入射光PLは、略+Z側の方向に折り返されるものとなっている。
【0027】
光反射部PXを構成する複数の光反射膜PPは、両傾斜面S1,S2のうち第1傾斜面S1の各面上にアルミ蒸着等が施されることによって形成されている。複数の光反射膜PPの+Z側の面は、光を反射する複数の光反射面PSを構成している。つまり、各光反射膜PPと、対応する各第1傾斜面S1とが協働して、入射光PLを折り返すための複数の光反射面PSの各面が形成されている。さらに、傾斜面S2及び光反射膜PPは、黒色塗料等である光吸収膜BRによって裏側即ち−Z側から覆われている。つまり、光吸収膜BRは、傾斜面S2及び光反射膜PP上すなわち−Z側の面全体に形成され、スクリーン10の裏面側全体を光吸収材で覆われた状態にするものである。これにより、複数の光反射面PS間の露出部分である各傾斜面S2上において、光吸収膜BRは、入射した光を吸収する光吸収部ASとして機能する。
【0028】
また、本体部分1において、表側すなわち+Z側の面である表側面1aは、保護層20で覆われている。つまり、保護層20は、表側面1a上すなわち+Z側に略一定の膜厚を有する薄い層として付随的に形成されることで、スクリーン10の主要部をなす本体部分1の表側を保護するとともに、スクリーン10の最表面でありXY面に平行な平坦面20aを形成している。なお、保護層20は必要に応じて施すものであり、保護層20が不要で省略される場合には、表側面1aが、スクリーン10の最表面となるが、この場合も、XY面に平行な平坦状態を保ったものとなる。
【0029】
以上のようなスクリーン10の作製方法については、種々のものが適用できるが、例えば、まず、拡散構造1cを形成可能な材料から転写型等を用いることによって表側面1a及び凹凸形状部1bを有したシート状の部材を本体部分1となるべきものとして成形する。次に、当該シート状の部材に対して斜方蒸着等により凹凸形状部1bの第1傾斜面S1に光反射膜PPとなるべき部分をアルミ等の原料によって成膜する。さらに、黒色塗料等を塗布することで光吸収膜BRを形成する。また、上記工程において、例えばシート状の部材の作製とともに表側面1a上に保護層20となるべき部分を適宜付随して設けることができる。以上により、所望の拡散及び反射特性を有するスクリーン10を作製することが考えられる。なお、保護層20の作製については、凹凸形状部1bを成形する前に表側面1aにロールコート等によって設けるものとしてもよく、シート状の部材の作製後に設けるものとしてもよい。
【0030】
以上のような構造を有することにより、スクリーン10は、下方すなわち−Y側から投射される入射光PLを反射して観察者EY側に向けて適宜拡散された状態の画像光として折り返すことができるものとなっている。また、スクリーン10は、天井側からの外光OL1や外部から室内に入り込む外光OL2の成分を観察者EY側に向かわせないようにこれらの成分の処理を可能にしている。
【0031】
〔C.スクリーンによる入射光の拡散及び反射の動作〕
以下、図4を用いてスクリーン10による入射光PLの拡散及び反射の動作についてより詳細に説明する。なお、図中において概念的に示すように、入射光PLを反射して得られる反射光RLは、X方向及びY双方に拡がる範囲CRを有するものとなっている。図では、主としてY方向について拡散されているかのように描いているが、実際には上述したように、本体部分1の拡散特性から、反射光RLは、主としてX方向について広く拡散され、Y方向については、比較的狭い範囲で拡散される。
【0032】
まず、スクリーン10の中心軸LX上の位置において、法線ZXに対して−Y側から特定の入射角βで入射する入射光PLは、スクリーン10の本体部分1のうち保護層20を通過し、さらに、表側面1a側から内部に入射する。本体部分1に入射した入射光PLは、本体部分1の内部部分である拡散構造1cを通過する際に多少拡散される。拡散構造1cを通過し本体部分1の凹凸形状部1b側に達した入射光PLは、多少拡散された状態で光反射膜PPの光反射面PSで反射される。光反射面PSでの反射によって、入射光PLは、本体部分1内で折り返され、角度が変えられた反射光RLとなる。折り返された反射光RLは、拡散構造1cを再び通過することでさらに異方性のある状態で拡散されて、スクリーン10からの画像光としてX方向に比較的広く、Y方向に比較的狭く拡散された適度な拡散状態となって、+Z側にいる観察者EYに向けて射出される。
【0033】
〔D.スクリーンによる外光の処理の動作〕
以下、図5(A)及び5(B)を用いて、スクリーン10による外光OL1,OL2の処理の動作について説明する。なお、図5(A)は、外光OL1の処理の様子を示し、図5(B)は、外光OL2の処理の様子を示すものである。
【0034】
上記のようなスクリーン10に対する投射において、例えば、図5(A)に示すように、天井に配置された照明器具(不図示)等から入る光のように天井側から斜め下方にスクリーン10に向かう不要光である外光OL1や、図5(B)に示すように、窓(不図示)等から入る光のように横方向すなわちZ方向からスクリーン10に向かう不要光である外光OL2が存在する。仮に、このような不要光である外光OL1,OL2がスクリーン10で反射されるとすると、観察者EY側に向かう成分が発生し、投影画像のコントラストが下がってしまう。
【0035】
これに対して、図5(A)及び5(B)に示すように、本スクリーン10では、外光OL1,OL2の成分を適切に処理することが可能になっている。具体的に説明すると、まず、外光OL1,OL2のうち、本体部分1の第2傾斜面S2側すなわち光吸収部ASに向かう成分については、光吸収部ASによって吸収されることで、観察者EY側に向かわないものとすることができる。また、外光OL1,OL2のうち、本体部分1の第1傾斜面S1側すなわち光反射面PSに向かう成分については、第1傾斜面S1が、表側面1aよりも下方すなわち−Y方向にそれぞれ傾いている。これにより、光反射面PSでの反射によって、外光OL1,OL2は、下方側へ向けて射出される。つまり、スクリーン10は、各光反射面PSにおいて、外光OL1,OL2の成分の大半を観察者EY側に向かわないように処理することができる。
【0036】
以上のように、本実施形態に係るスクリーン10では、本体部分1が拡散構造1cによって構成されているので、本体部分1そのものが所望の拡散状態の画像光を形成するための拡散特性を有している。また、スクリーン10では、入射光PLに対応して光反射膜PPが傾けられている。これらにより、スクリーン10は、適度に拡散された状態の画像光を良好な状態で表示できる。また、本スクリーン10では、拡散構造1cによってこのような拡散特性を本体部分1中の内部構造として有しているため、例えば本体部分1上に拡散層等の拡散作用を有する部材を別途取り付けるといった必要がない。また、本体部分1は、シート状の部材で構成されている。従って、比較的簡易に作製可能であり、かつ、比較的容易に薄型化できるため巻き取り等の収納性が高いものとすることができる。さらに、本体部分1が拡散特性を内在していることで、例えばスクリーン表面に拡散のための凹凸構造を設けるといった必要がなく、XY面に平行な表側面1aそのものやこれを保護する保護層20によってスクリーン10の最表面を構成することで、当該最表面を凹凸のないものにすることができる。従って、スクリーン10の表面をマーカー等によって筆記・消去を行う構成としても、筆記後に表面にマーカーのインク剤等が残留しないように拭き取ることが容易になる。また、スクリーン10は、光吸収部ASを有すること等により、不要光である外光OL1,OL2を適切に処理可能なものとなっており、高コントラスな投影画像を映し出すことができる。
【0037】
〔その他〕
以上各実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0038】
まず、上記実施形態では、光反射膜PPがアルミ蒸着等により光を反射する鏡面である光反射面PSが形成されているものとしているが、光反射膜PPの表面が光を拡散させるための凹凸構造を有するものであってもよい。
【0039】
また、光吸収膜BRが本体部分1の裏面側全体を覆うものとしているが、光吸収膜BRは、少なくとも複数の光反射面PS間の露出部分である第2傾斜面S2を覆っていれば光吸収部ASとして機能するため、必ずしも全体を覆うものである必要はない。さらに、光吸収膜BRを有さず、第2傾斜面S2において不要光を透過させて処理する構造とすることも考えられる。
【0040】
また、保護層20の材料として、防眩性の材料を用いることで、表面側を保護するとともに光の不必要な反射を抑制できるようにするものとしてもよい。また、保護層20の材料として、ホワイトボードのコーティング材を用いることで、表面側を保護するとともにスクリーン10上でのマーカー等による書き込み及び消去をする場合に面上のマーカー等で付着したインク剤をより拭き取りやすい状態に保つことが可能となる。なお、保護層20を形成する方法については、例えばフィルム状の部材を貼る方法や、基材である拡散構造1cにコーティング処理を施す方法等が考えられる。保護層20として用いるものについて、防眩性のあるものとして、例えば、AR、AGフィルムを適用することが考えられる。また、ホワイトボードのコーティング材として、例えば、ポリエステルなどの素材にハードコートやフッ素コートを施したものを適用することが考えられる。
【0041】
また、光反射部PXにおいて、複数の光反射面PSを構成する光反射膜PPは、第1傾斜面S1の各面の全面に形成されているが、これに限らず、複数の第1傾斜面S1の分布に応じて部分的に形成されることで、必要な入射光PLを適切に反射できるようになっていれば、必ずしも各傾斜面S1の全面が光反射面PSになっていなくてもよい。
【0042】
また、本体部分1は、拡散構造1cとして内部に粒子を分散させる構造を有することで、異方性光拡散の特性を示すものとなっているが、本体部分1の拡散構造1cの構造について、上記の他にも種々のものが適用可能であり、例えば特殊な高分子膜と透明プラスチック材料とを複合化することで構成され、内部に当該高分子膜と透明プラスチック材料とによる回折格子状の特異的な規則構造を有するものとしてもよい。この場合、本体部分1は、光の入射する角度によって光の透過状態を拡散透過させるものとするか直進透過させるものとするかをドラスティックに変化させるという入射角選択性のある光学特性を有するものとなる。
【0043】
また、上記実施形態の場合、凹凸形状部1bは、複数の第1傾斜面S1と複数の第2傾斜面S2とを、交互に連なった状態で配列して当該配列される方向について断面鋸歯状の凹凸形状面1bbを有するものとしており、中心軸LX上においては、中心軸LXに沿ったY方向を配列方向としているが、第1傾斜面S1と第2傾斜面S2との配列については、種々のものが考えられる。一例としては、スクリーン10の全体において配列方向をY方向とするものとしてもよい。すなわち、各傾斜面S1,S2がX方向について真っ直ぐに延びており、両傾斜面S1,S2がY方向について交互に配列されるものとしてもよい。この場合、スクリーン10のどこにおいても凹凸形状面1bbがY方向の断面について断面鋸歯状となる。しかし、これに限らず、例えば第1傾斜面S1と第2傾斜面S2とが円弧状に配列されるものとしてもよい。より具体的には、複数の傾斜面S1,S2が、同心円弧状に隙間なく配列されてフレネル状の形状を有していてもよい。この場合、傾斜面S1,S2がフレネル形状を入射光PLの光源に対応して形成することによって、プロジェクター50から斜め上方に射出される入射光PLを、正面側すなわち略+Z側にいる観察者EYにより確実に折り返すことができる。特に、近接投射において入射光PLの入射角βが大きくなり、入射位置によって入射状態が大きくなる場合に、角度条件が厳しくなるスクリーン10の周辺側において有効である。なお、この場合、同心円の中心から各円を横切る断面について断面鋸歯状となる。また、例えば同心円弧を変形した楕円状の曲線に沿って平行に配列されるものであってもよい。また、上記のような輪帯状のフレネル形状以外にも、例えば各傾斜面S1,S2の要素となるブロック状の傾斜部分を同心円弧状の曲線に沿って並べる構成としてもよい。
【0044】
また、上記実施形態の場合、近接投射の場合について説明しているが、近接投射でない画像投影においても、上記スクリーン10を適用することが可能である。
【0045】
なお、詳しい説明を省略するが、プロジェクター50を室内の天井側に設置して上方からの近接投射とする構成とすることも可能である。
【0046】
また、上記実施形態では、入射光PLを正面側あるいは略正面側に観察者がいることを想定しているため、折り返すべき方向についても正面側あるいは略正面側としているが、観察者が正面側以外の位置にいる場合には、これに応じて入射光PLを折り返す方向を適宜変更できる。
【0047】
また、以上で説明した変形例を組み合わせることも可能である。すなわち、例えば本体部分1の拡散構造1cとして入射角選択性のある光学特性を有するものを適用し、光反射部PXを第1傾斜面S1の全面ではなく必要な部分にのみアルミ蒸着により形成し、光吸収膜BRを−Z側の面全体に形成し、保護層20にホワイトボードのコーティング材を用いる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…スクリーン、 1…本体部分、 1a…表側面(基準面)、 1b…凹凸形状部、 1bb…凹凸形状面、 1c…拡散構造、 S1…第1傾斜面(第1面)、 S2…第2傾斜面(第2面)、 20…保護層、 20a…平坦面、 PX…光反射部、 PP…光反射膜、 PS…光反射面、 BR…光吸収膜、 AS…光吸収部、 50…プロジェクター、 100…投射システム、 OL1,OL2…外光、 PL…入射光、 LX…中心軸、 α…傾斜角度、 β…入射角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像投影における基準面に平行な方向のうち所定の異方性光拡散方向について他の方向よりも大きい拡散特性を示す拡散構造と、前記拡散構造に対して裏側の外形形状を形成し前記基準面に対して傾いた複数の傾斜面を含む凹凸形状部と、を有する本体部分と、
前記凹凸形状部の表面上に前記複数の傾斜面の分布に応じて部分的に形成され、前記拡散構造の表側から入射して前記本体部分を経た入射光を反射する複数の光反射面を有する光反射部と、
を備えるスクリーン。
【請求項2】
前記凹凸形状部は、前記複数の傾斜面に相当する複数の第1面と、前記複数の第1面と異なる方向に傾いた複数の第2面とを有し、前記複数の第1面と前記複数の第2面とが交互に連ねて配列されることにより当該配列される方向について断面鋸歯状の面を有し、
前記光反射部は、各第1面上に各光反射面を有する、請求項1に記載のスクリーン。
【請求項3】
前記本体部分は、前記所定の異方性光拡散方向に対応して分散して配された所定形状の粒子を前記拡散構造として内部に有している、請求項1及び請求項2のいずれか一項に記載のスクリーン。
【請求項4】
前記本体部分の裏側において、前記凹凸形状部上の外形面のうち少なくとも前記複数の光反射面間の露出部分を覆う光吸収膜をさらに備える、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のスクリーン。
【請求項5】
前記本体部分は、表側の最表面として前記基準面に平行な平坦面を有する、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のスクリーン。
【請求項6】
前記本体部分は、表側において付随的に設けられて最表面を形成する保護層をさらに備える、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のスクリーン。
【請求項7】
前記本体部分は、シート状のフィルム部材である、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のスクリーン。
【請求項8】
前記所定の異方性光拡散方向は、前記本体部分の長手方向と一致する、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のスクリーン。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のスクリーンと、
投影画像となる入射光を前記スクリーン上に向けて投射する画像投射装置と、
を備える投射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−252132(P2012−252132A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124203(P2011−124203)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】