説明

スケール析出防止方法及び熱交換器

【解決課題】水の加熱温度が60℃以上となる熱交換器の水流路の壁面にスケールが析出するのを防止することができるスケール析出防止方法、及びそのスケール防止方法を実施するための熱交換器を提供すること。
【解決手段】冷媒と水との熱交換により水を加熱するための冷媒が流通する冷媒流路と、該冷媒により加熱される水が流通する水流路とを有する熱交換器を、水流路の熱交換部出口の水温が60℃以上となる条件で運転するときに、該水流路にマイクロバブルを導入することを特徴とするスケール析出防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ式給湯器など、二酸化炭素冷媒、R410A、R407C等の冷媒、特に、二酸化炭素冷媒と水との間で熱交換を行う熱交換器において、水流路にスケールが析出するのを防止するためのスケール析出防止方法及びそれを実施するための熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高温の冷媒(熱交換媒体)と水との間で熱交換を行い、冷媒により水の加熱を行う熱交換器があり、近年、その冷媒として二酸化炭素冷媒を用いる熱交換器が注目を受けている。
【0003】
このような熱交換器を長期にわたって使用すると、水中に含まれるカルシウム等の成分が、水流路内にスケールとして析出して、水流路の内壁に付着する。そして、スケールの析出量(付着厚さ)が増大すると、最終的には、水流路を閉塞してしまうという危険性がある。
【0004】
このスケール析出の問題は、水温が60℃以上になると起こり易くなる。特に、水温が80℃以上となる二酸化炭素冷媒を用いる熱交換器では、スケールの析出の問題が顕著になる。
【0005】
そこで、カルシウム等のスケールの析出を防止することを課題とした熱交換器の開発が行われている。例えば、特開2006−145056号公報(特許文献1)では、水流路の流出側の流路断面積を流入側の流路断面積より拡大し、水流路の流入側の内面に突起を設けること、特開2006−162165号公報(特許文献2)では、水流路の流出側の流路断面積を流入側の流路断面積より拡大し、水流路の流入側に乱流促進手段を内包させること、特開2006−266514号公報(特許文献3)には、水流路壁面近傍を可動する可動手段を挿入すること、特開2006−317069号公報(特許文献4)には、水流路の壁面を振動させるための振動モーター等の振動発生手段を設置すること、特開2007−263469号公報(特許文献5)には、水流路管に磁束密度が3000ガウス以上の磁場発生手段を設置することなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−145056号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−162165号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2006−266514号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2006−317069号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2007−263469号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜5に提案されている手段では、ある程度スケールの析出防止効果はあるものの、その効果は不十分であり、更なるスケールの析出防止効果の向上が求められている。
【0008】
従って、本発明は、水の加熱温度が60℃以上となる熱交換器の水流路の壁面にスケールが析出するのを防止することができるスケール析出防止方法、及びそのスケール析出防止方法を実施するための熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、熱交換器の水流路に、マイクロバブルを導入することにより、水流路にスケールが析出するのを効果的に防止することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明(1)は、冷媒と水との熱交換により水を加熱するための冷媒が流通する冷媒流路と、該冷媒により加熱される水が流通する水流路とを有する熱交換器を、該水流路の熱交換部出口の水温が60℃以上となる条件で運転するときに、該水流路にマイクロバブルを導入することを特徴とするスケール析出防止方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、冷媒と水との熱交換により水を加熱するための冷媒が流通する冷媒流路と、
該冷媒により加熱される水が流通する水流路と、
該水流路にマイクロバブルを導入するためのマイクロバブル発生装置と、
を有することを特徴とする熱交換器を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水の加熱温度が60℃以上となる熱交換器の水流路の壁面にスケールが析出するのを防止することができるスケール析出防止方法、及びそのスケール析出防止方法を実施するための熱交換器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の熱交換器の模式的な側面図である。
【図2】図1に示す熱交換器の平面図である。
【図3】図1に示す熱交換器の水流路の熱交換部出口近傍の外管を切り開いた拡大図である。
【図4】図3中の外管及び内管を水の流通方向に対して垂直な面で切ったときの断面図である。
【図5】一定の運転条件で熱交換器を連続運転した時のスケールの析出量の経時変化を示す模式的なグラフである。
【図6】中心管の周りに側管を巻き回してなる熱交換部の模式的な斜視図である。
【図7】中心管の管側壁に側管を埋め込んでなる熱交換部を水の流通方向に対して垂直な面で切ったときの模式的な断面図である。
【図8】実施例1〜3及び比較例1で用いた試験装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のスケール析出防止方法及び本発明の熱交換器について、図1〜図4を参照して説明する。図1は、本発明の熱交換器の模式的な側面図であり、図2は、図1に示す熱交換器の平面図であり、図3は、図1に示す熱交換器の水流路の熱交換部出口近傍の外管を切り開いた拡大図であり、図4は、図3中の外管及び内管を水の流通方向に対して垂直な面で切ったときの断面図である。
【0015】
熱交換器20は、螺旋状に巻き回されている外管1と、該外管1の管内に設置されている内管2と、マイクロバブルを発生させるためのマイクロバブル発生装置8とを有する。該外管1の両端には、管内に水11を流入するための水流入管7及び管内から該水11を流出するための水流出管6が取り付けられている。そして、該マイクロバブル発生装置8は、該水流入管7に取り付けられている。該内管2の両端には、管内に冷媒12を流入するための冷媒流入管9及び管内から冷媒12を流出するための冷媒流出管10が取り付けられている。
【0016】
該熱交換器20では、該外管1と該内管2との隙間が、水流路13となり、該内管2の管内が、冷媒流路14となる。そして、該熱交換器20では、該水流入管7から該水11を流入させ該水流出管6から該水11を流出させて、該水流路13に該水11を流通させつつ、該冷媒流入管9から該冷媒12を流入させ該冷媒流出管10から該冷媒12を流出させて、該冷媒流路14に該冷媒12を流通させることにより、該冷媒12と該水11との間で熱交換が行われ、該水11は該冷媒12により加熱される。
【0017】
このとき、該外管1と該内管2との二重管になっている部分で、熱交換が起こるので、この熱交換が起こる部分を、熱交換部と呼ぶ。該熱交換器20では、該水流入管7から該外管1への入口から、該外管1から該水流出管6への出口までが、該熱交換部に相当する。そして、該熱交換器20において、該水11が該水流入管7から該外管1に入る入口、すなわち、該水11が該熱交換部に流入する入口を、水流路の熱交換部入口(図示せず)と呼び、また、該水11が該外管1から該水流出管6に出る出口、すなわち、該水11が該熱交換部から流出する出口を、水流路の熱交換部出口4(図3参照)と呼ぶ。また、該冷媒12が該冷媒流入管9から該内管2に入る入口、すなわち、該冷媒12が該熱交換部に流入する入口を、冷媒流路の熱交換部入口15(図3参照)と呼び、また、該冷媒12が該内管2から該冷媒流出管10に出る出口、すなわち、該冷媒12が該熱交換部から流出する出口を、冷媒流路の熱交換部出口(図示せず)と呼ぶ。
【0018】
そして、該水11の該水流路の熱交換部出口4の水温が60℃以上となる条件で、該熱交換器20を運転する。そのとき、該マイクロバブル発生装置8で処理した該水11を、該水流入管7より、該外管1に流入することで、該水流路13に、該マイクロバブル発生装置8により発生させたマイクロバブルを導入する。
【0019】
すなわち、本発明のスケール析出防止方法は、冷媒と水との熱交換により水を加熱するための冷媒が流通する冷媒流路と、該冷媒により加熱される水が流通する水流路とを有する熱交換器を、該水流路の熱交換部出口の水温が60℃以上となる条件で運転するときに、該水流路にマイクロバブルを導入することを特徴とするスケール析出防止方法である。
【0020】
また、本発明の熱交換器は、冷媒と水との熱交換により水を加熱するための冷媒が流通する冷媒流路と、
該冷媒により加熱される水が流通する水流路と、
該水流路にマイクロバブルを導入するためのマイクロバブル発生装置と、
を有する熱交換器である。
【0021】
本発明のスケール析出防止方法に係る該冷媒としては、熱交換器の冷媒として用いられるものであれば、特に制限されず、二酸化炭素を主成分とする冷媒、R410A、R407C等が挙げられる。該二酸化炭素を主成分とする冷媒は、二酸化炭素単独か、あるいは、冷凍機油を0〜15質量%含有する二酸化炭素冷媒である。そして、該二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる熱交換器では、水流路の熱交換部出口の水温が高いので、本発明のスケール析出防止方法は、該冷媒として、該二酸化炭素を主成分とする冷媒を用いる場合に、特に優れたスケールの析出防止効果を発揮する。
【0022】
本発明のスケール析出防止方法に係る水としては、淡水、例えば、水道水、井戸水、工業用水、河川水、伏流水、湧水、中水等が挙げられる。
【0023】
本発明のスケール析出防止方法に係る該水流路及び該冷媒流路の形態は、特に制限されず、該冷媒と水との間で熱交換が行える形態であればよい。該水流路及び該冷媒流路により形成される該熱交換部の形態例としては、例えば、図1〜図4に示すような外管と該外管の管内に設置されている内管との二重管からなる熱交換部、図6に示すような中心管の周りに側管を巻き回してなる熱交換部、図7に示すように中心管の管側壁に側管を埋め込んでなる熱交換部などが挙げられる。なお、図6は、中心管の周りに側管を巻き回してなる熱交換部の模式的な斜視図であり、図7は、中心管の管側壁に側管を埋め込んでなる熱交換部を水の流通方向に対して垂直な面で切ったときの模式的な断面図である。また、本発明のスケール析出防止方法に係る該熱交換器は、該冷媒と水との熱交換により水を加熱するための該冷媒が流通する該冷媒流路と、該冷媒により加熱される水が流通する該水流路とを有する熱交換器であるが、その形態は、特に制限されず、該冷媒と水との間で熱交換が行える形態であればよい。また、該熱交換器が、二重管からなる熱交換部を有する場合、漏洩検知機構を有することができる。
【0024】
本発明のスケール析出防止方法では、該冷媒流路の熱交換部入口での該冷媒の温度、該冷媒の流入量、該水流路の熱交換部入口での水の温度、及び水の流入量等を適宜調節することにより、該水流路の熱交換部出口の水温が60℃以上となる条件で、該熱交換器を運転する。そして、本発明のスケール析出防止方法では、該熱交換器の運転中に、該水流路に該マイクロバブルを導入する。
【0025】
該水流路の熱交換部出口の水温が60℃以上となると、該水流路の壁面に、カルシウム等のスケールが析出し易くなる。例えば、図1〜図4に示す該熱交換器20では、該外管1の内壁及び該内管2の外壁に、カルシウム等のスケールが析出する。
【0026】
水中では、気泡は、その径が小さいほど、内圧が高くなるので、スケールと衝突した時に、高い衝撃エネルギーをスケールに与えることができる。また、気泡の内圧が高くなるほど、容易に合一し難くなり、壁面での乱流促進機能が高くなる。そのため、本発明のスケール析出防止方法では、該マイクロバブルが、該水流路の内壁に析出したスケールに衝突してはじける時の衝撃力及び高い乱流促進機能により、スケールを剥離することができる。
【0027】
また、水中では、気泡は、その径が小さいほど、表面電荷が均一となり、そのゼータ電位はマイナスに帯電しているとされるので、陽イオンを吸着し易い。そのため、本発明のスケール析出防止方法では、カルシウムイオン等の陽イオンが、該マイクロバブルの表面に吸着されて、該水流路外に排出され易くなるので、スケールが析出し難くなる。また、剥離されたスケールも、該マイクロバブルの表面に吸着されて、該水流路外に排出され易くなる。
【0028】
該水流路に導入されるマイクロバブルは、上記のような機能を有する微細な気泡の集合体である。そして、上記のような機能を発揮し易くなる点、つまり、スケールの析出防止効果が高まる点で、該水流路に導入されるマイクロバブルは、1〜500μmの径の気泡を含んでいることが好ましく、1〜500μmの径の気泡の数が、全気泡の数の50%以上であることが特に好ましく、1〜500μmの径の気泡の数が、全気泡の数の80%以上であることが更に好ましい。なお、該水流路に導入されるマイクロバブルは、径が1〜500μmの範囲をはずれる気泡を含んでいてもよい。
【0029】
該水流路の水の流速、言い換えると、該マイクロバブルの移動速度は、特に制限されないが、好ましくは0.05〜3m/秒、特に好ましくは0.1〜2m/秒である。該水流路の水の流速が、上記範囲にあることにより、該マイクロバブルによる衝撃力を発生させ易くなる。
【0030】
該水流路に導入されるマイクロバブルの発生方法であるが、一般にマイクロバブル発生装置と呼ばれる装置により、該マイクロバブルを発生させることができる。該マイクロバブル発生装置としては、特に制限されないが、例えば、特開2008−86986号公報に記載されているような加圧溶解方式のマイクロバブル発生装置や、特許第4019154号公報に記載されているような旋回流方式のマイクロバブル発生装置や、特開2008−86868号公報に記載されているようなエゼクタ方式のマイクロバブル発生装置などが挙げられる。
【0031】
該水流路では、該水流路の熱交換部入口から該水流路の熱交換部出口に向かって、水温が高くなっていくため、該水流路の熱交換部出口に近いほど、スケールが析出し易く、該水流路の熱交換部入口に近いほど、水温が低いのでスケールが析出し難い。そのため、該熱交換器の運転条件によっては、該水流路の熱交換部入口に近い方では、スケールが析出しない箇所やスケールが析出しても問題とならない量である箇所もある。そこで、本発明のスケール析出防止方法では、該熱交換器の運転条件等により、該水流路へのマイクロバブルの導入位置を、適宜選択することができる。例えば、スケールの析出が該水流路の熱交換部出口近傍の壁面で集中して起こるような場合は、該水流路の熱交換部出口近傍の該水流路から、該マイクロバブルを導入することができる。また、該水流路の熱交換部入口に近い箇所は水温が低いため、該マイクロバブルの合一が起こり難いので、例えば、該水流路の熱交換部入口から該マイクロバブルを導入することができ、この場合は、該熱交換部の水流路の壁面全体に、該マイクロバブルを衝突させることができるので、該熱交換部の水流路の壁面全体のスケールの析出を防ぐことができる。
【0032】
該水流路の熱交換部出口又はその近傍に達したマイクロバブルは、1〜500μmの径の気泡を含んでいることが好ましく、1〜500μmの径の気泡の数が、全気泡の数の50%以上であることが特に好ましく、1〜500μmの径の気泡の数が、全気泡の数の80%以上であることが更に好ましい。
【0033】
なお、本発明において、該水流路に導入されるマイクロバブルの径、及び該水流路の熱交換部出口又はその近傍に達したマイクロバブルの径は、例えば、図1に示す該熱交換器20において、該水流入管7又は該水流出管6の一部を、透明管にして、この部分で、水中のマイクロバブルの径を画像解析することにより求められる。
また、透明材質でできた箱形の容器を用意し、該容器に水を張り、そこに、水流路に導入するときと同じ条件でマイクロバブル発生装置でマイクロバブルを導入し、画像解析してマイクロバブルの径を測定することにより、該水流路に導入されるマイクロバブルの径を測定することもできる。
また、透明材質でできた箱形の容器を用意して、該容器で、該水流路から流出する水を受け、その水を画像解析してマイクロバブルの径を測定することにより、該水流路の熱交換部出口又はその近傍に達したマイクロバブルの径を測定することもできる。
【0034】
該水流路へのマイクロバブルの導入量は、該水流路を流通する水の流量に対する、該水流路に導入される該マイクロバブルの流量(導入される気体量であり、これが全気泡量に該当する。)の体積割合((マイクロバブルの流量(L/分)/水の流量(L/分))×100)で、5〜40%が好ましく、10〜30%が特に好ましい。マイクロバブルの流量の体積割合が小さ過ぎると、スケール析出防止に有効な気泡径のマイクルバブルの数が少なくなり過ぎることがあり、また、一方、マイクロバブルの流量の体積割合が大き過ぎると、熱交換性能を低下せる要因となり易い。
【0035】
該水流路への該マイクロバブルの導入は、連続であってもよいし、あるいは、間欠的であってもよい。
【0036】
該水流路の壁面へのスケールの析出は、時間の経過と共に、一定の速度で析出量が増加していくという挙動を示すのではなく、ある時期になると、急激に増加するという挙動を示す。図5を参照して、該水流路の壁面へのスケールの析出の挙動を説明する。図5は、一定の運転条件で熱交換器を連続運転した時のスケールの析出量の経時変化を示す模式的なグラフである。図5に示すように、運転を開始してa時間経過した時点では、ほとんどスケールは発生していない。その後、b時間が経過するまでは、徐々にスケールの析出量が増えていく。そして、b時間が経過した後からc時間までの間に急激にスケールの析出量が増え、c時間経過以降は、e時間、更にそれ以上の時間が経過しても、スケールの析出量の増加はあまりなくなる。
【0037】
該水流路への該マイクロバブルの導入を連続で行う場合は、微細な状態のスケールを常に剥離できるので、スケールの析出防止効果が高い。
【0038】
また、b時間経過後にスケールが急激に析出するので、b時間経過する前、例えば、d時間経過時に、該マイクロバブルを一定時間該水流路に導入して、それまでに析出したスケールを剥離すれば、急激なスケールの析出による水流路の閉塞を防ぐことができる。よって、d時間経過時に該マイクロバブルを一定時間導入し、その後d時間経過した時点で、また該マイクロバブルを一定時間導入するというように、一定間隔毎に間欠的に該マイクロバブルを導入することもできる。熱交換器の運転条件が一定しているような場合は、スケールが除去された状態から急激なスケールの析出が起こり始めるまでの経時時間は、毎回ほぼ同じになるので、d時間経過毎に、該マイクロバブルの導入を行うというように、運転時間で該マイクロバブルの導入時期を管理することができる。
【0039】
また、熱交換器の運転条件が一定していない場合でも、急激なスケールの析出が起こり始めるときのスケールの析出量、例えば、図5では、b時間経過時点でのスケール析出量xを、水の流入量及び水温等から把握できる場合は、熱交換器の運転条件から、急激なスケールの析出が起こり始めるときのスケールの析出量を推測して、その析出量に達する前に、該マイクロバブルの導入を一定時間行うというように、熱交換器の運転条件からスケールの析出量を推測して、不定期間隔毎に間欠的に該マイクロバブルを導入するという管理も行える。
【0040】
本発明の熱交換器に係る該水流路、該冷媒、該溶媒流路、及び該マイクロバブル発生装置は、本発明のスケール析出防止方法に係る該水流路、該冷媒、該溶媒流路及び該マイクロバブル発生装置と同様である。
【0041】
そして、本発明の熱交換器は、該マイクロバブル発生装置により発生させたマイクロバブルを水流路に導入することができるので、スケールの析出量が多くなるような条件で、つまり、該水流路の熱交換部出口の水温が60℃以上、特に、80℃以上となる運転条件で運転される場合に、特に、優れたスケールの析出防止効果を発揮する。
【実施例】
【0042】
(実施例1〜3及び比較例1)
下記のような試験装置にて、マイクロバブル導入の効果を確認した。
<試験装置の構成>
図8に示す試験装置であり、試験装置40は、循環ポンプ21と、試験部22と、調合タンク23と、循環配管24と、マイクロバブル発生装置26と、からなり、調合タンク23には、給水管28と、排水管29が付設されている。試験部22は、スケール確認用の銅管25と、その周囲を覆うように取り付けられた加熱用のヒーター50から構成されている。スケール確認用の銅管25内には、循環ポンプ21及び循環配管24により、調合タンク23内の循環水27が循環流通される。また、スケール確認用の銅管25内には、マイクロバブル発生装置26により、マイクロバブルが導入される。なお、説明の都合上、循環配管24を1本の直線で示した。また、試験部22は断面図である。
【0043】
<試験条件>
(1)循環水27
調合タンク23内で下記水質の試験水を調整し、これを循環ポンプ21で循環させ、循環水27とした。水質は、給水管28より、調合タンク23内に一定水質の水を適宜補給し、これに水酸化カルシウムと炭酸ガスを添加することによって、pH7〜8、カルシウム硬度100〜200CaCOmg/Lに調整した。補給水としては、名古屋市の上水(水道水)を用いた。また、循環水27を、調合タンク23内で水温25℃で一定に保ち、流量1L/分で循環させた。なお、循環水27の流通方向を、図8中の矢印33で示した。
【0044】
(2)試験部22
加熱用のヒーター50で覆ったスケール確認用の銅管25を、水循環サイクル中に組み込み、試験部22とした。図8に示すように、ヒーターを2分割して設置し、スケール確認用の銅管25の全長のほぼ中央部(図8中、符号B)における循環水27の温度が60℃、試験部22の出口側(図8中、符号C)における循環水27の温度が90℃でほぼ一定に保たれるように、ヒーター50での加熱を調整した。
【0045】
(3)スケール確認用の銅管25
・スケール確認用の銅管25:外径15.88mm、内径14.46mm、肉厚0.71mm、内外面とも平滑な管、材質はりん脱酸銅
・試験部22のヒーターで覆われている部分のスケール確認用の銅管25の長さ(図8中、符号30から符号31までの長さ):4m
・スケール確認用の銅管25内での循環水27の平均流速:0.1m/秒
【0046】
(4)マイクロバブル発生装置26
エゼクタ方式のマイクロバブル発生装置を、試験部22の入口側のスケール確認用の銅管25に取り付け、下記の条件でマイクロバブルを導入した。
・マイクロバブル導入条件1(実施例1):
マイクロバブルを循環水27の循環開始時から連続的に導入
マイクロバブルの流量(導入する気体量であり、これが全気泡量に該当する。)は0.2L/分、循環水の流量に対する体積割合で20%((マイクロバブルの流量(L/分)/循環水の流量(L/分))×100)
全気泡中の径が1〜500μmのマイクロバブルの気泡数が全気泡数の85%
なお、マイクロバブルの流量は、導入する気体量であり、これが全気泡量に該当する。また、循環水の流量に対する体積割合(%)は、「(マイクロバブルの流量(L/分)/循環水の流量(L/分))×100」である(以下、同様)。
・マイクロバブル導入条件2(実施例2):
マイクロバブルを循環水27の循環開始時から連続的に導入
マイクロバブルの流量は、0.2L/分、循環水の流量に対する体積割合で20%
全気泡中の径が1〜500μmのマイクロバブルの気泡数が全気泡数の50%
・マイクロバブル導入条件3(実施例3):
循環水27の循環開始後、6時間マイクロバブルを導入せずに通水後、6時間マイクロバブルを導入した。その後、6時間マイクロバブルの導入を停止(インターバル)し、次いで、6時間マイクロバブルを導入するという操作を繰り返し行った。
マイクロバブルの流量は、0.2L/分、循環水の流量に対する体積割合で20%
全気泡中の径が1〜500μmのマイクロバブルの気泡数が全気泡数の85%
・マイクロバブル導入条件4(比較例1):
マイクロバブルの導入を行わない。
【0047】
なお、マイクロバブルの径及び数の割合であるが、あらかじめ、銅管25の試験部22への入口近傍(図8中、符号D)に、銅管25と同じ内径のポリカーボネート製の透明な管を取り付け、画像解析により、マイクロバブルの径及び数の割合を事前調査した。
【0048】
<試験結果>
24時間試験を行った後、スケール確認用の銅管25を取り出し、A位置(銅管25の試験部22の入口側)、B位置(銅管25の全長のほぼ中央部)及びC位置(銅管25の試験部22の出口側)でのスケール析出の有無を確認した。
(実施例1)
A位置、B位置及びC位置の全て、スケール析出は見られなかった。
(実施例2)
A位置及びB位置で、スケールの析出は見られなかった。C位置では、若干のスケールの析出が見られたものの、管内面表面積の5%以下程度の軽度のスケール析出であり、通常の定期的なオーバーホールで容易に除去可能な量であり、問題のないレベルであった。
(実施例3)
A位置、B位置及びC位置の全て、スケール析出は見られなかった。
(比較例1)
A位置では、スケール析出は見られなかった。B位置及びC位置では、スケールの析出が見られた。特に、C位置では、管内面全体がスケールで覆われていた。
【0049】
(実施例4及び比較例2)
図4に示す断面形状の二重管式熱交換器で、図1〜図3に示すような形態の装置を作製にした。
<二重管>
・外管:外径19.0mm、内径17.0mm、肉厚1.0mm、りん脱酸銅
・内管:外径6.0mm、内径5.0mm、肉厚0.5mm、りん脱酸銅
・熱交換部の長さ:4500mm
【0050】
<試験条件>
2本の各内管内のそれぞれにCO冷媒を流通させ、外管と内管との間隙の流路に水温25℃の低温水を、1L/分の流量で、対向流で流通させ、熱交換させた。外管と内管との間隙の流路を流通する水の熱交換部出口での温度は90℃であった。
このとき、外管と内管との間隙の流路へ、熱交換部入口側より、下記条件でマイクロバブルを導入した。
・マイクロバブル導入条件1(実施例4):
マイクロバブルを水の流通開始時から連続的に導入
マイクロバブルの流量は、1L/分、水の流量に対する体積割合で20%
・マイクロバブル導入条件4(比較例2):
マイクロバブルの導入を行わない。
【0051】
<試験結果>
1週間の通水試験を行った後、熱交換部の出口側の外管と内管の間隙を観察した。
(実施例4)
スケールの析出は見られなかった。
(比較例2)
水流路の管壁のほぼ全面にスケールの析出が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、熱交換器のスケールの析出を有効に防止することができるので、熱交換器の寿命又はオーバーホールまでの時間を長くすることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 外管
2 内管
4 水流路の熱交換部出口
6 水流出管
7 水流入管
8 マイクロバブル発生装置
9 冷媒流入管
10 冷媒流出管
11 水
12 冷媒
13 水流路
14 冷媒流路
15 冷媒流路の熱交換部入口
20 熱交換器
21 循環ポンプ
22 試験部
23 調合タンク
24 循環配管
25 スケール確認用の銅管
26 マイクロバブル発生装置
27 循環水
28 給水管
29 排水管
40 試験装置
50 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒と水との熱交換により水を加熱するための冷媒が流通する冷媒流路と、該冷媒により加熱される水が流通する水流路とを有する熱交換器を、該水流路の熱交換部出口の水温が60℃以上となる条件で運転するときに、該水流路にマイクロバブルを導入することを特徴とするスケール析出防止方法。
【請求項2】
前記水流路に導入される前記マイクロバブルが、1〜500μmの径のマイクロバブルを含むことを特徴とする請求項1記載のスケール析出防止方法。
【請求項3】
前記マイクロバブルを、マイクロバブル発生装置より発生させることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のスケール析出防止方法。
【請求項4】
前記水流路の熱交換部出口又はその近傍に達したマイクロバブルの径が、1〜500μmであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のスケール析出防止方法。
【請求項5】
前記水流路の水の流速が、0.05〜3m/秒であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のスケール析出防止方法。
【請求項6】
前記冷媒が、二酸化炭素を主成分とする冷媒であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のスケール析出防止方法。
【請求項7】
冷媒と水との熱交換により水を加熱するための冷媒が流通する冷媒流路と、
該冷媒により加熱される水が流通する水流路と、
該水流路にマイクロバブルを導入するためのマイクロバブル発生装置と、
を有することを特徴とする熱交換器。
【請求項8】
前記冷媒が、二酸化炭素を主成分とする冷媒であることを特徴とする請求項7記載の熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−151436(P2010−151436A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267687(P2009−267687)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】