説明

スケール防止剤濃度測定方法および装置

【課題】自動化が容易で簡便な分析手法を用いて、有効なスケール防止剤の濃度を測定することが可能な測定方法および測定装置を提供する。
【解決手段】試料溶液中に含まれるスケール防止剤濃度を金属イオン電極を用いて測定することを特徴とするスケール防止剤濃度測定方法、および測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水、ボイラー水、汚泥処理水、し尿処理水、膜分離処理水、製造プロセス水等の工業用水系にて用いられるスケール防止剤の濃度測定方法および測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷却水、ボイラー水等の工業用水系ではスケール防止のためにスケール防止剤が注入されているが、その濃度は蒸発、飛散、排出等により増減する。スケール防止剤濃度が不足するとスケールが発生するという問題が生じる。一方、スケール防止剤を過剰に注入するとゲル化現象が発生する。また、スケール防止剤コストが嵩むという問題もある。したがって、スケール防止剤の濃度は適切な範囲に制御する必要がある。従来より水中に含まれるスケール防止剤濃度の測定方法として以下のような方法が用いられてきた。
【0003】
特許文献1には、スケール防止剤を含む薬剤にトレーサー物質としてリチウムの水溶性塩を一定量添加し、そのリチウム濃度を測定することでスケール防止剤を含む薬剤の濃度を算出する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、スケール防止剤に蛍光物質等を結合して標識化し、これをモニターする方法が開示されている。
【0005】
スケール防止剤の一種であるカルボン酸基含有水溶性ポリマーを測定する方法としては、例えば、特許文献3に開示されるように、鉄−チオシアネート比色法により定量する方法が用いられている。
【特許文献1】特開昭51−111388号公報
【特許文献2】特開平7−109587号公報
【特許文献3】特開平11−337491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の方法はスケール防止剤濃度とトレーサー物質のリチウム濃度の濃度比が変化しないことが前提であり、スケール防止剤を使用する水系においてリチウム濃度とスケール防止剤濃度が一致することを別途検証しなければならないという問題があった。また、薬剤にトレーサー物質を添加するためコストが嵩むという問題もあった。
【0007】
上記特許文献2に記載の方法では、標識化したスケール防止剤を合成する必要があり、コストが嵩むという問題があった。
【0008】
上記特許文献3に記載の方法では、試料溶液中に含まれるカルボン酸基含有水溶性ポリマーを吸着剤ゲルを用いた吸着−脱離操作により、試料溶液から分離する必要があり、操作が煩雑で自動化が困難であるという問題があった。
【0009】
また上記3つのいずれの方法とも、スケール防止機能を失った、即ち、無効なスケール防止剤も含めた総濃度を算出することになり、スケール防止機能を有する、即ち、有効なスケール防止剤の濃度を把握することができないという欠点があった。
【0010】
そこで本発明の課題は、自動化が容易で簡便な分析手法を用いて、有効なスケール防止剤の濃度を測定することが可能な測定方法および測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るスケール防止剤濃度測定方法は、試料溶液中に含まれるスケール防止剤濃度を金属イオン電極を用いて測定することを特徴とする方法からなる。
【0012】
このスケール防止剤濃度測定方法においては、予め試料溶液にプローブ金属イオンを添加することが好ましい。すなわち、試料溶液にカルシウムイオン等のスケール成分と競争するプローブ金属イオンを加え、スケール防止剤−カルシウムイオン等のスケール成分−プローブ金属イオンの三成分の間に化学平衡を成立させ、その時のプローブ金属イオン濃度を金属イオン電極を用いて測定することにより、有効なスケール防止剤濃度を測定することを特徴とするものである。このとき、予め試料溶液を所定のpHに調整することもできるし、試料溶液のpHを測定してそのpHに対応する既知の検量線と対照することもできる。
【0013】
また、本発明に係るスケール防止剤濃度測定装置は、金属イオン電極と、該金属イオン電極が生じる応答電位を測定する測定部と、応答電位の測定値からスケール防止剤濃度に換算する演算部とを有することを特徴とする装置からなる。
【0014】
このスケール防止剤濃度測定装置においては、試料溶液にプローブ金属イオンを加える添加部を有することが好ましい。また、試料溶液のpHを調整するpH調整部を有する構成、試料溶液のpHを測定するpH測定部を有する構成のいずれも採用できる。
【0015】
このようなスケール防止剤濃度測定方法および装置においては、上記の添加するプローブ金属イオンとしては、例えば、Cuイオン、Agイオン、Pbイオン、Cdイオンのいずれかを用いることが好ましい。
【0016】
また、上記金属イオン電極としては、例えば、Cuイオン選択性電極、Agイオン選択性電極、Pbイオン選択性電極、Cdイオン選択性電極のいずれかからなる金属イオン選択性電極と参照電極との組合せからなることが好ましい。
【0017】
さらに、この金属イオン選択性電極としては、硫化物系難溶性塩固体膜型であることが好ましい。金属イオン選択性電極にはガラス膜型、固体膜型、液膜型、隔膜型等があるが、本発明では特に金属硫化物と硫化銀の混合物を感応膜として用いた硫化物系難溶性塩固体膜型の金属イオン選択性電極を好適に用いることができる。
【0018】
また、本発明は、試料溶液中に含まれるスケール防止剤濃度を、予め試料溶液を所定のpHに調整した上でプローブ金属イオンおよびプローブ陰イオンを添加し、陰イオン電極を用いて該プローブ陰イオン濃度を測定することにより求めることを特徴とするスケール防止剤濃度測定方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、試料溶液のpHを調整するpH調整部と、試料溶液にプローブ金属イオンおよびプローブ陰イオンを加える添加部と、陰イオン電極と、陰イオン電極が生じる応答電位を測定する測定部と、応答電位の測定値からスケール防止剤濃度に換算する演算部とを有することを特徴とするスケール防止剤濃度測定装置を提供する。
【0020】
すなわち、試料溶液にカルシウムイオン等のスケール成分と競争するプローブ金属イオンと、プローブ金属イオンと反応するプローブ陰イオンを加え、スケール防止剤−カルシウムイオン等のスケール成分−プローブ金属イオン−プローブ陰イオンの四成分の間に化学平衡を成立させ、その時のプローブ陰イオン濃度を陰イオン電極を用いて測定することにより、有効なスケール防止剤濃度を測定することを特徴とするものである。
【0021】
上記スケール防止剤濃度測定方法および装置においては、添加するプローブ金属イオンが2価および/または3価の金属イオンであり、添加するプローブ陰イオンがフッ化物イオン、塩化物イオン、硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、チオシアン酸イオンのいずれかであることが好ましい。
【0022】
また、陰イオン電極がフッ化物イオン選択性電極、塩化物イオン選択性電極、硫化物イオン選択性電極、ヨウ化物イオン選択性電極、臭化物イオン選択性電極、チオシアン酸イオン選択性電極のいずれかと参照電極との組合せからなることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明は、試料溶液中に含まれるスケール防止剤濃度を、予め試料溶液を所定のpHに調整した上でプローブ金属イオンとしてFe2+イオンおよびFe3+イオンを加え、酸化還元電極を用いFe2+イオンとFe3+イオンの濃度比を測定することにより求めることを特徴とするスケール防止剤濃度測定方法を提供する。
【0024】
また、本発明は、試料溶液のpHを調整するpH調整部と、試料溶液にFe2+イオンおよびFe3+イオンを加える添加部と、酸化還元電極と、酸化還元電極が生じる応答電位を測定する測定部と、応答電位の測定値からスケール防止剤濃度に換算する演算部とを有することを特徴とするスケール防止剤濃度測定装置を提供する。
【0025】
すなわち、試料溶液にカルシウム等スケール成分と競争するプローブ金属イオンとしてFe2+イオンおよびFe3+イオンを加え、スケール防止剤−カルシウムイオン等のスケール成分−Fe2+イオン−Fe3+イオンの四成分の間に化学平衡を成立させ、その時のFe2+イオンとFe3+イオンの濃度比を酸化還元電極を用いて測定することにより、有効なスケール防止剤の濃度を測定することを特徴とするものである。
【0026】
上記スケール防止剤濃度測定方法および装置においては、酸化還元電極としては白金電極であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るスケール防止剤濃度測定方法および装置によれば、冷却水、ボイラー水等の工業用水系中に含まれる有効なスケール防止剤濃度を簡便かつ正確に測定することができ、その結果、スケール防止剤濃度を最適濃度に制御することが容易になる。そして本発明は、イオン電極測定法という簡便な分析手法を用いているので、有効なスケール防止剤濃度を簡便かつ正確に測定することができるとともに、自動化も容易に達成することができ、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明におけるスケールとは、水中に溶解または懸濁している物質が金属表面に析出する現象であり、冷却水、ボイラー水等の多くの工業用水系において、熱交換面、配管、壁面等に付着し、熱交換率低下、装置の破損、ポンプ差圧上昇等の障害を引き起こす。したがってスケール障害を未然に防止することは産業上極めて重要であり、その手段として水中にスケール防止剤を添加する方法が広く行われている。
【0029】
本発明におけるスケール防止剤とは、水中のCa2+イオンやMg2+イオンをキレート化し遊離のCa2+イオンやMg2+イオン濃度を低く保つために用いられるキレート剤、あるいは、スレスホールド処理で用いられるポリリン酸、ホスホン酸、カルボン酸系高分子電解質(一般に低分子量ポリマーと呼ばれる)等のことをいう。低分子量ポリマーを構成するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基およびこれらと共重合可能な、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルアルコールなどがある。
【0030】
スケール防止剤の効果には、析出抑制効果、付着防止効果、分散効果があるが、これらの機能発現にはスケール防止剤がキレート作用を有することが必須であると考えられている。
【0031】
次に、イオン電極測定法の測定原理を図1を用いて説明する。イオン電極測定法では、イオン選択性電極1と参照電極2の組合せからなる一対の電極が用いられる。本明細書ではこの一対の電極を総称してイオン電極と呼ぶ。イオン選択性電極には特定のイオンに対し選択的に応答する感応膜があり、この感応膜が試料溶液中の該特定イオンに接すると、その濃度に応じた膜電位を生じる。試料溶液中に浸漬させた参照電極2をイオン選択性電極1の対極として直流電位差計10に接続し、両電極間の電位差を測定することにより膜電位が測定される。このとき直流電位差計10により測定される相対電位を応答電位という。なお、図1における20は試料溶液、30は測定セル、31は攪拌機を、それぞれ示している。
【0032】
応答電位Eと試料溶液中のイオン濃度Cの間には一般に式1(数1)の関係が成立する。この式はネルンスト式と呼ばれる。
【0033】
【数1】

【0034】
式1において、E0 は25℃での標準電極電位、Rは気体定数、Tは絶対温度、Zは測定対象イオンの電荷数、Fはファラデー定数、Logは常用対数である。式1中の〔2.303RT/(ZF)〕をネルンスト定数と呼び、イオン濃度が10倍変化した場合のこの定数値を理論応答勾配又はネルンスト勾配という。例えば1価イオンの25℃でのネルンスト勾配理論値は約59mVとなる。イオン電極測定法については、例えばJIS K−0122(イオン電極測定方法通則)に詳しく記載されている。このイオン電極測定法によれば、イオン濃度を簡便かつ迅速に測定することが可能である。
【0035】
イオン選択性電極1としては、上述した通り、イオンに対し選択的に応答する感応部があり、この感応部が試料溶液中のイオンと接すると、その濃度に応じた膜電位を生じるものをいう。本発明では特に、プローブ金属イオンを測定するイオン選択性電極としてはCuイオン選択性電極、Agイオン選択性電極、Pbイオン選択性電極、Cdイオン選択性電極が、また、プローブ陰イオンを測定するイオン選択性電極としてはフッ化物イオン選択性電極、塩化物イオン選択性電極、硫化物イオン選択性電極、ヨウ化物イオン選択性電極、臭化物イオン選択性電極、チオシアン酸イオン選択性電極が好適に用いられる。
【0036】
参照電極2としては基準電位を発生するものであればよく、例えば銀/塩化銀電極が好適に用いられる。
【0037】
直流電位差計10は高入力インピーダンスの回路であればよく、特に低ノイズの回路が好ましい。
【0038】
本発明の装置構成例を図2に示す。スケール防止剤を含む冷却水、ボイラー水等の試料溶液20は試料溶液送液ポンプ32により測定セル33へ送液される。測定セル33は、図2ではフローセル型を図示したが、容器型でも構わない。また、試料溶液を送液するラインを設けず、金属イオン選択性電極4、参照電極2、pH電極3を直接、冷却水、ボイラー水等の系中に浸漬させても構わない。
【0039】
金属イオン選択性電極4および参照電極2による応答電位は直流電位差測定回路を含む測定部11で測定され、その測定値は演算部12に送られる。また、pH電極3およびpH測定部13により測定された試料溶液のpH測定値も演算部12に送られる。演算部12では、予め測定された検量線に従いスケール防止剤濃度を算出する。測定されたスケール防止剤濃度は表示部16に表示する他、記録部15にて随時記録することが好ましい。またさらには、制御部14によりスケール防止剤注入ポンプ34を制御することにより、冷却水、ボイラー水等の系内に含まれる有効なスケール防止剤濃度が減少した時に、自動的に添加することが好ましい。
【0040】
金属イオン選択性電極4としてはCuイオン選択性電極、Agイオン選択性電極、Pbイオン選択性電極、Cdイオン選択性電極を好適に用いることができる。
【0041】
演算部12としては、応答電位およびpH測定値をスケール防止剤濃度へ変換する機能を有するものであればよく、特にマイクロコンピューターの利用が好ましい。
【0042】
試料溶液20のpHがほぼ一定であることが既知の場合は、例えば、予め所定の既知のpHに調整されている場合には、pH電極3およびpH測定部13を省略することができる。
【0043】
本発明による測定手順の一例を図3に示す。スケール防止剤を含む冷却水、ボイラー水等の試料溶液の一部を採取し所定のpHに調整する。この時、pH調整には酸および/またはアルカリを用いる方法、緩衝剤を用いる方法等、公知の手法を適用すればよい。さらにプローブ金属イオンを所定量添加する。プローブ金属イオンとしてはCuイオン、Agイオン、Pbイオン、Cdイオンを好適に用いることができる。pH調整とプローブ金属イオン添加は同時に行っても、逆順に行っても構わない。またpH調整を行わず、プローブ金属イオン添加のみを行う方法も可能である。この場合、試料溶液のpHが未知の時はpH電極によるpH測定を行えばよい。試料溶液に金属イオン選択性電極および参照電極を浸漬させ、その応答電位を直流電位差計を用い測定する。金属イオン選択性電極としてはCuイオン選択性電極、Agイオン選択性電極、Pbイオン選択性電極、Cdイオン選択性電極が好適に用いられる。さらに上記の金属イオン選択性電極は、前述の如く、硫化物系難溶性塩固体膜型であることが好ましい。測定された応答電位より予め測定された検量線を用い有効なスケール防止剤濃度を算出する。
【0044】
図3の測定手順を実現する装置の一例を図4に示す。スケール防止剤を含む冷却水、ボイラー水等の試料溶液20は試料溶液送液ポンプ32により採取され、緩衝剤およびプローブ金属イオン混合溶液タンク21からの緩衝剤およびプローブ金属イオン混合溶液が、緩衝剤およびプローブ金属イオン混合溶液送液ポンプ35により一定量添加された後、測定セル33に送り込まれる。このように、pH調整に用いる緩衝剤とプローブ金属イオン溶液を予め混合しておいても構わない。その他の構成は図2に示した構成に準じる。
【0045】
本発明による測定手順の別の一例を図5に示す。スケール防止剤を含む冷却水、ボイラー水等の試料溶液の一部を採取し所定のpHに調整する。この時、pH調整には酸および/またはアルカリを用いる方法、緩衝剤を用いる方法等、公知の手法を適用すればよい。さらにプローブ金属イオンおよびプローブ陰イオンを所定量添加する。プローブ金属イオンとしては2価および3価の金属イオンを用いることができ、プローブ陰イオンとしてはプローブ金属イオンと反応するフッ化物イオン、塩化物イオン、硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、チオシアン酸イオンを好適に用いることができる。pH調整とプローブ金属イオンおよびプローブ陰イオン添加は同時に行っても、また、逆順に行っても構わない。試料溶液に陰イオン選択性電極および参照電極を浸漬させ、その応答電位を直流電位差計を用い測定する。陰イオン選択性電極としてはフッ化物イオン選択性電極、塩化物イオン選択性電極、硫化物イオン選択性電極、ヨウ化物イオン選択性電極、臭化物イオン選択性電極、チオシアン酸イオン選択性電極が好適に用いられる。測定された応答電位より予め測定された検量線を用い有効なスケール防止剤濃度を算出する。
【実施例】
【0046】
以下、実施例にて本発明をより具体的に説明する。
実施例1
以下のような手順でスケール防止剤の一種であるポリアクリル酸濃度の測定を行った。装置:
・Cuイオン選択性電極:東亜ディーケーケー株式会社製、型番7144L(硫化物系難溶性塩固体膜型)
・参照電極:東亜ディーケーケー株式会社製、型番HS−205C
・直流電位差計:東亜ディーケーケー株式会社製、型番IM−55G
・攪拌機:スターラー
測定手順:
(1)所定量のポリアクリル酸を含む試料溶液に緩衝剤(MOPS〔3−モルホリノプロパンスルホン酸〕)を加えpH7.0に調整。
(2)プローブ金属イオンとしてCuイオンを10-5Mとなるように添加。
(3)Cuイオン電極を浸漬させ応答電位を測定。
【0047】
比較例1
測定手順:
(1)所定量のリン酸または炭酸を含む試料溶液に緩衝剤(MOPS)を加えpH7.0に調整。
(2)プローブ金属イオンとしてCuイオンを10-5Mとなるように添加。
(3)Cuイオン電極を浸漬させ応答電位を測定。
【0048】
実施例1および比較例1の結果を図6に示す。横軸はポリアクリル酸、リン酸、炭酸濃度の常用対数値、縦軸は応答電位を示す。図6から明らかな通り、Cuイオン電極はポリアクリル酸濃度に対し応答を示しており、本法はポリアクリル酸濃度測定方法として有効である。例えばポリアクリル酸濃度を10mg/dm3 (10-3.9mol/dm3 )付近に制御する場合、この近傍ではおよそ50mV/decadeの応答電位勾配があることから、応答電位を±10mVに制御すればポリアクリル酸濃度は±30%の濃度範囲で一定に保つことが可能となる。
【0049】
実施例2
以下のような手順でスケール防止剤の一種であるポリアクリル酸濃度の測定を行った。測定手順:
(1)ポリアクリル酸を10mg/dm3 (10-3.9mol/dm3 )含む試料溶液に緩衝剤(MOPS)を加えpH7.0に調整。
(2)プローブ金属イオンとしてCuイオンを10-5Mとなるように添加。
(3)Cuイオン電極を浸漬させCaイオンを所定ずつ添加しながら応答電位を測定。
【0050】
比較例2
測定手順:
(1)ポリアクリル酸を含まない試料溶液に緩衝剤(MOPS)を加えpH7.0に調整。
(2)プローブ金属イオンとしてCuイオンを10-5Mとなるように添加。
(3)Cuイオン電極を浸漬させCaイオンを所定ずつ添加しながら応答電位を測定。
【0051】
測定結果を図7に示す。横軸は添加したCaイオン濃度の常用対数値、縦軸は応答電位を示す。図7から明らかな通り、試料溶液中にCaイオンを加えてポリアクリル酸と反応させると、Caイオン濃度の増加と共に応答電位が高くなり、有効なポリアクリル酸の濃度が下がる様子が適切にモニターされている。ポリアクリル酸が共存しない場合はCaイオン濃度に応答しない。この結果より、本発明による方法は有効なスケール防止剤濃度を測定する方法であることは明らかである。
【0052】
実施例3
以下のような手順でスケール防止剤の一種であるポリアクリル酸濃度の測定を行った。測定手順:
(1)ポリアクリル酸を所定量含む試料溶液に緩衝剤を加えpH6.0〜8.0に調整。(2)プローブ金属イオンとしてCuイオンを10-5Mとなるように添加。
(3)Cuイオン電極を浸漬させ応答電位を測定。
【0053】
測定結果を図8に示す。横軸は添加したCaイオン濃度の常用対数値、縦軸は応答電位を示す。このように様々なpH値で予め検量線を採取しておくことにより、試料溶液のpH調整を行うことなく、pH測定を行うだけでスケール防止剤濃度を測定できることは明らかである。
【0054】
実施例4
以下のような手順でスケール防止剤の一種であるポリアクリル酸濃度の測定を行った。測定手順:
(1)ポリアクリル酸を所定量含む試料溶液に緩衝剤(MOPS)を加えpH7.0に調整。
(2)Cuイオン電極を浸漬させCaイオンを所定ずつ添加しながら応答電位を測定。
【0055】
測定結果を図9に示す。横軸は添加したCaイオン濃度の常用対数値、縦軸は応答電位を示す。図9から明らかな通り、試料溶液中にプローブ金属イオンを添加しない場合にも、Caイオン濃度の増加と共に応答電位が高くなり、有効なポリアクリル酸の濃度が下がる様子が適切にモニターされている。この結果より、本発明による方法は有効なスケール防止剤濃度を測定する方法であることは明らかである。
【0056】
プローブ金属イオンを添加しない場合でもスケール防止剤濃度が測定できる理由として、硫化物系難溶性塩固体膜型の金属イオン電極では、感応膜表面において、
Ag2S(固体)+M2+⇔2Ag+ +MS(固体)
という平衡反応が成立しており(Mは金属イオン)、試料溶液中に金属イオンが存在しない場合でも、金属イオンが感応膜から溶出する。プローブ金属イオンを添加しない場合でもスケール防止剤濃度が測定できるのは、この金属イオン電極の感応部表面から溶出する金属イオンがプローブ金属イオンの役割を果たしているためであると考えられる。
【0057】
本発明による測定手法の別の一例を示す。測定手順は図3に示したものと同じである。スケール防止剤を含む冷却水、ボイラー水等の試料溶液の一部を採取し所定のpHに調整する。この時、pH調整には酸および/またはアルカリを用いる方法、緩衝剤を用いる方法等、公知の手法を適用すればよい。さらにプローブ金属イオンとしてFe2+イオンおよびFe3+イオンを所定量添加する。pH調整とプローブ金属イオン添加は同時に行っても、逆順に行っても構わない。試料溶液に酸化還元電極を浸漬させ、その応答電位を直流電位差計を用い測定する。酸化還元電極としては、白金電極が好適に用いられる。測定された応答電位より、予め測定された検量線を用い、スケール防止剤濃度を算出する。
【0058】
実施例5
以下のような手順でスケール防止剤の一種であるポリアクリル酸濃度の測定を行った。装置:
・酸化還元電極:白金ワイヤー電極(自作)
・参照電極:東亜ディーケーケー株式会社製、型番HS−205C
・直流電位差計:東亜ディーケーケー株式会社製、型番IM−55G
・攪拌機:スターラー
測定手順:
(1)ポリアクリル酸を所定量含む試料溶液を塩酸または水酸化ナトリウム溶液を用い所定のpHに調整。
(2)プローブ金属イオンとしてFe2+イオンおよびFe3+イオンをそれぞれ5×10-6Mとなるように添加(全Feイオン濃度は10-5M)。
(3)白金電極(ワイヤー)および参照電極を浸漬させ応答電位を測定。
【0059】
実施例5の結果を図10に示す。横軸はポリアクリル酸濃度の常用対数値、縦軸は応答電位を示す。図10から明らかな通り、酸化還元電極はポリアクリル酸濃度に対し応答を示しており、本方法も、ポリアクリル酸濃度測定方法として有効である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、スケール防止剤を使用するあらゆる系に適用でき、とくに、冷却水、ボイラー水、汚泥処理水、し尿処理水、膜分離処理水、製造プロセス水等の工業用水系にて用いられるスケール防止剤の濃度測定に用いて好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】イオン電極測定法の測定原理を示す説明図である。
【図2】本発明の装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の測定手順の一例を示すフロー図である。
【図4】本発明の装置の別の例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の測定手順の別の例を示すフロー図である。
【図6】実施例1および比較例1の結果を示す特性図である。
【図7】実施例2および比較例2の結果を示す特性図である。
【図8】実施例3の結果を示す特性図である。
【図9】実施例4の結果を示す特性図である。
【図10】実施例5の結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0062】
1 イオン選択性電極
2 参照電極
3 pH電極
4 金属イオン選択性電極
10 直流電位差計
11 測定部
12 演算部
13 pH測定部
14 制御部
15 記録部
16 表示部
20 試料溶液
21 緩衝剤およびプローブ金属イオン混合溶液タンク
30 測定セル
31 攪拌機
32 試料溶液送液ポンプ
33 測定セル
34 スケール防止剤注入ポンプ
35 緩衝剤およびプローブ金属イオン混合溶液注入ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中に含まれるスケール防止剤濃度を金属イオン電極を用いて測定することを特徴とするスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項2】
予め試料溶液にプローブ金属イオンを添加することを特徴とする、請求項1に記載のスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項3】
予め試料溶液を所定のpHに調整することを特徴とする、請求項1または2に記載のスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項4】
試料溶液のpHを測定することを特徴とする、請求項1または2に記載のスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項5】
添加するプローブ金属イオンがCuイオン、Agイオン、Pbイオン、Cdイオンのいずれかであることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載のスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項6】
金属イオン電極がCuイオン選択性電極、Agイオン選択性電極、Pbイオン選択性電極、Cdイオン選択性電極のいずれかからなる金属イオン選択性電極と参照電極との組合せからなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項7】
金属イオン選択性電極が硫化物系難溶性塩固体膜型であることを特徴とする、請求項6に記載のスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項8】
金属イオン電極と、該金属イオン電極が生じる応答電位を測定する測定部と、応答電位の測定値からスケール防止剤濃度に換算する演算部とを有することを特徴とするスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項9】
試料溶液にプローブ金属イオンを加える添加部を有することを特徴とする、請求項8に記載のスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項10】
試料溶液のpHを調整するpH調整部を有することを特徴とする、請求項8または9に記載のスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項11】
試料溶液のpHを測定するpH測定部を有することを特徴とする、請求項8または9に記載のスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項12】
添加するプローブ金属イオンがCuイオン、Agイオン、Pbイオン、Cdイオンのいずれかであることを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに記載のスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項13】
金属イオン電極がCuイオン選択性電極、Agイオン選択性電極、Pbイオン選択性電極、Cdイオン選択性電極のいずれかからなる金属イオン選択性電極と参照電極との組合せからなることを特徴とする、請求項8〜12のいずれかに記載のスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項14】
金属イオン選択性電極が硫化物系難溶性塩固体膜型であることを特徴とする、請求項13に記載のスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項15】
試料溶液中に含まれるスケール防止剤濃度を、予め試料溶液を所定のpHに調整した上でプローブ金属イオンおよびプローブ陰イオンを添加し、陰イオン電極を用いて該プローブ陰イオン濃度を測定することにより求めることを特徴とするスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項16】
プローブ金属イオンが2価および/または3価の金属イオンであり、プローブ陰イオンがフッ化物イオン、塩化物イオン、硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、チオシアン酸イオンのいずれかであることを特徴とする、請求項15に記載のスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項17】
陰イオン電極がフッ化物イオン選択性電極、塩化物イオン選択性電極、硫化物イオン選択性電極、ヨウ化物イオン選択性電極、臭化物イオン選択性電極、チオシアン酸イオン選択性電極のいずれかと参照電極との組合せからなることを特徴とする、請求項15または16に記載のスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項18】
試料溶液のpHを調整するpH調整部と、試料溶液にプローブ金属イオンおよびプローブ陰イオンを加える添加部と、陰イオン電極と、陰イオン電極が生じる応答電位を測定する測定部と、応答電位の測定値からスケール防止剤濃度に換算する演算部とを有することを特徴とするスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項19】
添加するプローブ金属イオンが2価および/または3価の金属イオンであり、添加するプローブ陰イオンがフッ化物イオン、塩化物イオン、硫化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、チオシアン酸イオンのいずれかであることを特徴とする、請求項18に記載のスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項20】
陰イオン電極がフッ化物イオン選択性電極、塩化物イオン選択性電極、硫化物イオン選択性電極、ヨウ化物イオン選択性電極、臭化物イオン選択性電極、チオシアン酸イオン選択性電極のいずれかと参照電極との組合せからなることを特徴とする、請求項18または19に記載のスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項21】
試料溶液中に含まれるスケール防止剤濃度を、予め試料溶液を所定のpHに調整した上でプローブ金属イオンとしてFe2+イオンおよびFe3+イオンを加え、酸化還元電極を用いFe2+イオンとFe3+イオンの濃度比を測定することにより求めることを特徴とするスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項22】
酸化還元電極が白金電極であることを特徴とする、請求項21に記載のスケール防止剤濃度測定方法。
【請求項23】
試料溶液のpHを調整するpH調整部と、試料溶液にFe2+イオンおよびFe3+イオンを加える添加部と、酸化還元電極と、酸化還元電極が生じる応答電位を測定する測定部と、応答電位の測定値からスケール防止剤濃度に換算する演算部とを有することを特徴とするスケール防止剤濃度測定装置。
【請求項24】
酸化還元電極が白金電極であることを特徴とする、請求項23に記載のスケール防止剤濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−215014(P2006−215014A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211167(P2005−211167)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)